【ポケモン交換、できるかな?】
サナはハクダンシティを歩いていた。なぜ彼女一人だけなのかといえば、イクスとイグレックはジム戦に奔走しているし、ティエルノはダンスチームを、トロバはポケモン図鑑を完成させるためのポケモンを集めている。
しかし明確な目的もないサナは、こうカフェでのんびりするしかないのだ。
「どうしようかなあ……」
サナには明確な「これがしたい!」という気持ちがはっきり言って、なかった。
彼女にとってポケモンは友達なのだけれど、『旅の目的』がそれに合致するのかは、正直言い難い。
「ねえ、どう思う? ホルビー」
そう言ってサナは抱きかかえているホルビーを見る。ホルビーはその言葉にただ首を傾げるだけだった。
「もしもし、そこの君」
「は、ひゃい!?」
サナは急に話しかけられて、思わず声が裏返った。
そこに居たのは、スーツを着た男だった。手元にはモンスターボールがある。
「もしよければでいいんだが……君のホルビーと私のカモネギ、交換することはできないかね?」
交換。
それは、文字通りの意味だ。自分のポケモンを相手に渡す。その代わりとして、相手からもポケモンをもらう――これがポケモン交換だ。
それを行うということは、ホルビーを手放すということでもある。
それを考えると――彼女は一瞬躊躇ってしまった。
でも――サナは考える。
もしかしたら、彼女といるより、その人といたほうがホルビーにとってはいいのかもしれない――そうも思えてきたのだ。
「もし君が嫌ならば、それでもいいんだが……」
サナが長考していたので、男は慌ててそう言った。
だが、サナははっきりとこういった。
「いえ、交換、お願いします!」
◇◇◇
この時代において、交換は未だにシンプルなものである。図鑑所有者同士であるなら、図鑑を用いての交換も可能であるのだが、一般人同士ではそうも行かない。
だから、単純にモンスターボールを交換するだけ。それで『交換』が成立する。
「……はい、これで僕のカモネギは君のものだ。大切にするよ」
そう言って、男は手を振って立ち去っていった。
「これで……いいのかな」
そう言ってサナは交換してもらったモンスターボールを見る。ボールの中からカモネギが悲しそうな表情でサナの方を見ていた。
それを見て、サナは直ぐに笑顔を取り戻す。
「……悲しんでちゃ、ポケモンも悲しんじゃうね。だから、楽しく生きなくちゃ!」
そう。今は、
この新しい出会いに感謝しなくては――サナはそんなことを思いながら、カフェを後にするのだった。