またいつもの夢だ
私はそう自分に言い聞かせて心を切り替える
ここがどこかなんてことはわかっている
どうしてこんなに苦しいのかも
子供の頃は無邪気だった
自分の一族の存続だけを思って働くアリ達を私は何度も踏み潰した
時にはその種族のいる穴に水を流しこんだりもした
子供の頃は無邪気だったんだ
違う
『無知』と言い換えるべきだろう
行っている行為が邪なことであるのに無邪気という表現は矛盾が生じてしまう
子供はその行為が邪であることを『知らない』から苦しまないのだ
今の私は?
私は罪に苦しみ、必死にもがく
布が打たれる音が夜の女性寮の裏から微かに聞こえてくる
女性寮では定番となったものだ
それというのも104期生が訓練生として入寮してからの話、というよりもアニ=レオンハートが入寮して以来だ
大半の人は彼女が訓練の復讐として毎晩行っているのだと思っているが実際は違う
彼女が故郷で父親に習っていた武術の足技を磨いているのだ
実のところ、キース教官はその訓練に気付いている
しかし、訓練生の自主的な活動を邪魔しては士気に関わると考え最低限干渉をしないようにしているのだ
「ふぅ・・・」
一通りの技の流れを終え、足に響く痛みがないかを確認する
問題ない、痛みはおろか、腫れているところもない
そんな風にかがんで足の調子を確認していると、ひとつの影が自分の視界に入った
影で見えるシルエットでは筋肉はあまり見て取れない、スラリとした影だ
「痛めたのか?」
この時間帯、他の訓練生ならばここまで自分と行動を共にする奴なんていないだろう
この、エレン=イェーガーを除いては
「いや、少しいつもより調子が出なかったからもしかしてとおもったんだけど、ただの訓練疲れだったみたいだよ」
アニは足首をぐりぐりと回すと、姿勢を正してエレンに向き直った
「(エレンはどうにも小さくなっていたときのことはあんまり覚えてないみたいだけど・・・)」
『一緒に寝た』という事実だけを認識してみるととても恥ずかしくなってくる
「(あーだめだめ、意識したら変な感じがしちゃう)」
アニは極力表情に出さないようにしているのだが、何度も夜に一緒に訓練しているからだろうか
エレンはアニの表情をジッと見つめると眉を狭めて心配そうに声をかけた
「アニ、なんか訓練に集中できてないのか?」
「!」
言い当てられ、思わず言葉が詰まってしまうアニ
「(ごまかそうにもややこしいわね・・・あんまりこういうごまかし方は好きじゃないけど、するしかないか)」
アニは物憂げな表情を浮かべ、少し照れたような動作を踏まえながら弁解を計る
「その・・・今日はさ」
エレンはエレンで心配なのか1歩アニへと近づく、足を前に出した時にアニの体がビクッと反応していたのに少し可愛さを覚えながらも元の距離感へと戻った
「お、女の子の日なんだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙
「あ、お、俺なんも気にしないで、その」
エレンがしどろもどろとしている
それもそうだろう、あまりエレンはアニの事を女性として見ていなかったのだ
しかしここにきて女性ということを再確認した
それもあって、今自分は深夜に女性と一緒にいるということを脳内で理解し、少し恥ずかしさがこみ上げてきているのだ
「べ、別にいいよ、私が自分で来たんだし」
アニは休もうと思えば休めた、なのでエレンが何かを気負うことはないのだ
「そうか?そうか・・・まぁ、無理はすんなよ?明日の訓練でお前と組めなくなったら寂しいからな」
「は、は?」
「じゃあ、俺はそろそろ寮に戻るわ」
エレンが小走りで女性寮から離れていく
アニは先ほどの言葉の意味が知りたい、しかしもう夜も遅く肌寒くなってきている
「(あいつ・・・無理はするなって言ってたし)」
アニは口元に笑みを作ると自分の肩を抱いた
「(なんだか、久しぶりにあたしの心配をしてくれるやつを見た気がするよ)」
誰かに抱かれているわけではない
だけど、胸の奥が温かいもので満たされた気がした
アニは女子寮へと歩を進めた
二人の距離が
少し縮まった
本編新作です
さて、エレンとアニのお話は少し悲しくもあります
人によっては自分が考えている二人の話の終わり方を好きではないという方もいると思いますが、最後まで見守っていただけるとありがたいです
それでは、つづきます