暫く脱出機を目指して飛んでいた俺は、偶然にもシーラがミイデラゴミムシの能力を得たゴキブリを捕獲するシーンに遭遇した。
ここからシーラをあのガス噴射から守れる確率は、極めて低いだろう。しかし、ここで守って見せなければ俺がここにいる意味が無い。
やるしか、ない。
近くの岩場に着地し、持ち前の初速320km/hのスタートダッシュ。
勢いを付けて────落ちる!!!
脱出機が少しめり込む程の衝撃、続いて肌を焼くような衝撃。しかし俺の身体に痛覚は無い、これは錯覚だろう。
無表情のゴキブリが何を思っているかは分からないが、してやったり、だ。
横目で小町小吉、そして生存したシーラの2名を見て安堵する。
運命は変えられる。
いやまあ、戦闘要員でもない彼女が、この先訪れるであろう数の暴力から生きて帰れるかと言われればそれはどうなんだろうかとは思う。今ここで変わっただけで、それは余命がほんの数日伸びただけなのかもしれない。
残酷なことを言うようだが、彼女の存在が戦闘要員の足枷になるかもしれない。特にスタミナ消費の激しいアシダカグモのマルコスは、人を守りながら戦うことは難しいだろう。
それでも、生きていてほしい。
そりゃあ、あんなに死亡フラグ立ちまくりで今にも死にそうだったけれども、あんな出落ちは悲しいじゃないか。
何もしないよりはずっといい。
そう自分に言い聞かせ、これからの不安を取っ払うようにしていると、もがいているゴキブリの存在を思い出した。
こいつはここで殺す。
思い切り腕を踏みつけ、関節を逆に曲げて折る。
まあこれでいいだろう。
そろそろここを離れなければ、うっかり殺されてしまう可能性大だ。俺が向こうの立場でもそうするだろう。
というわけで俺は逃げる。
翅を広げ、シーラを一瞥してからその場を飛んで後にした。
暫く火星をさまよってみたが、人に何故か会えないので適当な岩に座り込んで、これからの方針について考えてみることにした。
勿論、人間を救うというのは変わらない。
しかし、どう動いてどう手助けするかが問題になる。
下手に動けば賢いボスゴキブリは気付くだろうし、そうなれば俺は人間とゴキブリの両勢力に命を狙われるだろう。
つまり、目立ってはいけない。
ということは、カイコをモリモリ食べて力士型になるのも、今の時点でモザイクオーガン手術を施すことも、あまり得策ではないだろう。後半になってくるとテッポウウオ型のゴキブリとか結構いた気がするけれど、それでもまあ目立つだろう。見た目だけで考慮すると先程成敗したミイデラゴミムシ型のゴキブリや、ロシア班と戦闘しているであろうメダカハネカクシ型のゴキブリなんかは結構わかりにくい感じだとは思う。ただ、それは視覚的な問題であって他の方法で判断できるならそれはほぼ意味をなさない。
まあ、色々グダグダと考えてはみたが、結局今はまだこのままの状態で暗躍するのが一番だろう。
それと、助けたことによってその後の話が大きくブレる可能性のある人物。一番は、ドイツのアドルフ・ラインハルトだろう。彼が死に、イヴと混ざることで切り抜けられた窮地も存在するだろうし、とても難しい判断だろう。まさか俺がずっとついて回って守るわけにもいかない。ボスゴキブリの一匹がアドルフに埋め込まれた爆弾で死んだことも事実。
少なくともあのシーンは、軽い気持ちで介入してはならないことは確かだ。
ただ、個人的にはとても助けたい。強欲だと言われるかもしれないが、あんなもの見せられたらそりゃあ助けたいとも思うだろう。地球に帰っても不倫のこととか、問題はまだあるだろうが……生きていることが一番大切なんじゃないか。
きっと今の俺はすごい顔をしているだろう。アドルフの体内の爆弾に気付いた時のボスゴキブリ並にすごい顔をしている自信がある。
でも、正直俺に黙って見ていることは出来ない。
俺だけがこの火星での戦争の結末を知っている。俺だけが闇に潜む悪意を知っている。ここで黙っていては男……いや、ゴキブリがすたる。
気合を入れ直すように両頬をバチンと叩き、こっそり人間を手助けするべく俺は再度立ち上がった。
*
暫く時が経ち、ドイツ班。
雨が降る中走行していた脱出機は、突如として飛び込んできたゴキブリが操る第四班の脱出機に追突し、そのまま窪んだ地形の中へ落とされる。
ここはマズいと判断し、すぐさま上に戻ろうとハンドルを握る────しかし、車輪を撃ち抜かれる。
辺りを見渡すと、これでもかと言うほどにゴキブリが蠢いていた。
アドルフは上からこちらを見下ろす、通常よりガタイのいいゴキブリを一瞥し、戦闘員でありMARSランキング上位でもあるイザベラに1つの仕事を任せた。
「やることは一つだイザベラ。四班の脱出機を奪え、あの無灯火運転のデブからな」
「ウス」
「向こうのどう見ても300匹近くいるのは、オレが相手しよう」
そう言ってアドルフは薬を使い、ゴキブリの群れに電気を纏い、一人突っ込んだ。
数多く存在する昆虫の中でも最強の一角として知られる虫がいる。
インドネシア原産コロギス上科超大型昆虫
『リオック』
肉食であり、その脚力は非常に強力。
気性は非常に獰猛である。
そのリオックのM.O.手術を施されたイザベラは、強く踏み込み、一瞬にして飛び上がった。
相対するは力士型テラフォーマー。
ゴキブリはじっとして動かない。焦らない。
瞬間、イザベラの脚が相手を千切り殺さんとばかりに唸る。
────本来なら、イザベラはここで死ぬ。
最強の昆虫の力を得て油断していたのか、気性の荒さ故に何も考えずただ突っ込んでしまったからなのかはわからないが、彼女はここで、呆気なく死ぬ運命であった。
……が、この星にはイレギュラーがいる。
彼は知っていた。情報とは何にも勝る力である。
しかしそれ故に彼は歴史を変えることを恐れ、迷い、立ち止まっていた。
しかし、迷いは既に捨て去った。
力士型テラフォーマーが腕を振り上げたその瞬間、黒い影が過ぎる。
その影が過ぎた時、力士型テラフォーマーの腕はそこには無かった。
ゴキブリには痛みが存在しない。だから、すぐには気付かない、気付けない。
イザベラの脚が、ゴキブリの首を捉えた。
感想欄がテラフォーマーだらけでビビった。
精密機械の操作も出来るんだし二次創作読んでいてもおかしくないな!