それと、警察官としての谷村が動きます。
桐生達が沖縄に帰ってしまった翌日、神室町のダニ、谷村正義はパトロールも兼ねて散歩していた。
今日はいつもの神室町ではなく、江戸川橋あたりにパトロールに来ている。
「.......いやまあ、非番なんだけどね。」
「あ、谷村さん!」
声を掛けてきたのは今井リサ。
「お、リサちゃん。どうしたのこんな所で。」
「アタシはちょっと買い物に来たんだ〜。谷村さんはどうしてここに?」
「今日は非番なんだけど、まあ気分転換がてら散歩にね。冴島さんがこのとおりにある肉屋のコロッケが美味しいって言ってたから。」
「ああ!そこははぐみのお肉屋さんだね!アタシ知ってるから、案内したげよか?」
「本当?じゃ、お願いしようかな。」
商店街とはいえ、どのお店もよく繁盛しているな。
まあ、歓楽街によくいる俺が言えた義理じゃないが。
「ん.......?羽沢珈琲店?」
羽沢ってどこかで聞いたような.......。
「あ、あそこの喫茶店はつぐみの親がやってる店だね!」
「お、つぐみちゃんと目が合った。.......ってアレ?もうひとり知り合いが.......。」
ってかこっち来るぞおい。
「タニムラさん!!こんちには!!」
どわぉ!?イヴちゃん!?
「バイト中でしょ.......。出てきちゃダメだよ。」
「はっ、そうでした.......!」
「い、イヴちゃん急にどうしたの.......!?って谷村さん!それにリサ先輩も!?」
「やっほー☆、つぐみ!」
「どうも。」
「どうしたんですか?」
「アタシは買い物。谷村さんは冴島さんから紹介されたはぐみのとこに案内してるとこだよ。」
とりあえず立ち話もなんだったので、喫茶店に入ることに。
「つぐみ、どこ行ってたんだ......ってリサちゃん!久しぶりだね。」
つぐみの父親がマスターをしているようだ。
「お久しぶりです☆」
「おや、後ろのその方は?」
「ああ、初めまして。谷村正義です。まあ、この前のライブで役員をしてまして.......。」
「なるほど!つまりつぐみの友人か!いやぁ、つぐみも隅に置けないな!」
「え?お父さんどういうこと.......?」
「そりゃあ、こんな好青年を連れてくるなんてつぐみもなかなかやるじゃないか!」
「ふぇ!?ちちちちがうよおとうさーん!!」
好青年.......ね。勤務中に麻雀行く警察官が好青年.......ね。
「.......谷村さん、なんか後ろめたいことでもあるのかなー?」
「別にないよ。ないからそんな目で見ないでリサちゃん。」
――――――――――――――――――――――――
「イラッシャイマセ!!ご注文は何にしますか!?」
イヴちゃんが元気に注文を聞いてくる。
.......なんか寿司屋の雰囲気が凄いぞ。
「じゃあ俺は今日の珈琲ってやつにしようかな。」
「あ、じゃあアタシもそれで。」
「カシコマリマシタ!!テンチョーさん!今日のコーヒー2つ、お願いします!」
「りょーかい!」
しばらくするといい香りのするコーヒーが運ばれてきた。
珈琲店のコーヒーを飲むのってあまりないな.......。
喫茶アルプスくらいか。
「.......ん、美味いな。」
「やっぱりつぐみのコーヒーは美味しいや!そういや、モカがなんか言ってたな〜。『つぐみ』を感じるとかなんとか.......。」
「ほんとに何言ってんのあの子。」
すると、先客がいたようで、1人の高校生と見られる黒髪でポニーテールの少女が席から立ち、レジへと向かった。
―SUB STORY 『万引き犯』―
「ケーキひとつとコーヒー1杯で520円になります!」
「1000円からでいいですか?」
「はい、480円のお釣りになります!」
.......なんか様子が変だな。変にカバンを気にしている。
「谷村さんどうしたの?」
「しっ、静かに。.......あの娘、多分.......、『盗ってる』。」
「.......それホント.......!?」
「ああ。財布を外に出しているのに、カバンを執拗に気にしている。それに、周りをキョロキョロ見回していてかなり不自然だ。」
「.......さすが刑事だね。」
「まあね。」
会計を終え、つぐみちゃんが礼をする。
「ありがとうございました!またのご来店をお待ちしてます!」
会計を終え、立ち去ろうとした女子高生の腕を、谷村は掴む。
「はい止まって。カバンの中見せてもらっていいかい?」
「なっ、何.......!?あなた急に!!」
「た、谷村さん!?どうしたんですか!?」
「タニムラさん!?」
事情を知らないふたりは驚く。
「俺、警察だから。大人しくして。とりあえず、カバン見せてもらうだけでいいから。何も無かったらちゃんとお詫びするから。」
「.......い、嫌。なぜ見せなきゃならないの。」
「.......じゃあ、しゃあないか。つぐみちゃん、この人の前に豆は売れた?」
「いえ、今日はまだ売れてないですけど.......。」
「だとしたら変だな。棚からちょうど1箇所だけ豆の袋がなくなってんだよ。」
「!!」
少女の顔がわかりやすく青くなる。
すると店の奥から店長であるつぐみの父親が出てきた。
「.......カバン、見せてもらってもいいかい?」
「.......ごめんなさい。」
少女のカバンからコーヒー豆の袋が取り出される。
「.......どうしてこんなことしたのかな?」
谷村は優しく問いかける。
「.......。こうしなきゃ.......、また虐められるから。」
また虐められる?
「谷村さん、あの物陰に隠れてる子達.......。」
「ん?」
商店街の通りの方を見ると、ちょうど向かいの看板の裏に高校生が数人いる。どうやらこちらにケータイを向けているようだ。
「多分あの子たちが黒幕だね。」
「はぁ.......、面倒だな。」
谷村は財布から1万円を出し、つぐみの父親に渡す。
「どうやらこの子、訳ありっぽいからここは僕が奢ります。」
「.......確かに、訳アリのようですね。」
「.......あれ?店長知ってるんですか?」
「.......ごめんなさい、店長さん。」
「この子はうちの常連さんなんですよ。珈琲がとても大好きで、自分で豆を挽くくらいだし、豆の挽き方も僕が教えたくらいですから。」
「.......レミちゃん.......、そんなことになってたの?」
つぐみがレミという名の少女の元へ行き、話しかける。
「つぐみちゃん.......、ごめんね。私、虐められてて.......。この店から何か盗んでこないと、もっと酷い目に合わせるって言われて.......。」
「んー、良くないね。盗もうとした君も良くないけど.......。人に汚い事やらせて自分は笑ってるって言うのが気に入らないな。」
谷村の目付きが鋭くなる。
「谷村さん.......?どうするの?」
リサが谷村に聞く。
「直接話しをつけに行くよ。」
「ショーメントッパ!ですね!.......、わたし、レミさんにこんなことをさせたの、許せません.......!」
「.......私の友達を傷つけられて.......!!」
「レミちゃん、イヴちゃん、つぐみちゃん。ここは俺に任せといて。」
谷村は少女達の頭を撫で、笑っていた高校生たちの元へ行く。
「谷村さん!気をつけてね!心配ないと思うけど☆」
「まあね。皆も外出ないでね。」
リサからの忠告を受け、高校生たちの前へとたどり着く。
「ちょっといいか?」
「.......んだよオッサン。」
「あそこの店の商品を盗むようにあの子にけしかけたのは君たちかい?」
「.......んな事答える義理あるの?」
「まー大正解だけど!あははっ!」
「というかおニーサンイケメンだね!あたし達と遊ばない!?」
「ごめんね、平気で汚いことするアバズレとは遊ぶ気は無いから。」
「.......お前何俺の女バカにしてくれちゃってんの?」
「別にこの女だけじゃないし。お前らのこと全員バカにしてるから。」
「テメェ!!」
男子高校生は激高し、谷村に殴り掛かる。
が、谷村はそれを捌き、そのまま投げる。
受け身のとり方など知らない男子高校生は、衝撃を全身でモロに受ける。
「ぐぁっ.......!?」
「そんなパンチじゃ当たらないよ。というか、相手の身分はしっかり確認してから喧嘩は売ろうな?」
「な、何が言いてぇ.......。」
「.......俺、警察だから。被害者から君たちに虐められてるっていう通報を受けたんだよね。」
「.......は?」
「いやいやいやいや!!俺ら何もしてねーし!??」
「そうだよ!あたしたちは何もしてないっしょ!?勝手にあいつが万引きしただけだし!」
「.......?何を言ってるんだ?あの子は何もとってないから。」
「は!?いやいや、このカメラにバッチリ写ってるし!」
「だから会計の時に足りないことに気づいたから、店員の友人ってことで、俺もその店員と友人だから、その子に奢ってあげたの。万引きなんかしてないよ?」
「だけどよ!ここに証拠があんだぜ!?」
「.......なるほど?面白いね。店の外から、その子を決め打ちで撮ってたなんて、まるで撮ることを知っていたかのような行動だね。仮に取っていたとしても、君達がけしかけたんだから犯罪教唆になるね。君たちも罪に当たるよ。.......なんならイジメの手口だから、君たちだけが罪を被ることになるかもね。」
「な、なんであたしらが.......」
ごねている不良どもの元に、羽沢珈琲店の店長が来る。
その視線は白い。
「.......君達。君たちのしている事は、店側が訴えればそれは営業妨害だ。すぐに学校に連絡する準備もできている。」
「お、.......お願いします!!そ、それだけは!!す、すみませんでした!」
「なら、もう彼女をいじめたりしないことだ。自分たちの不良行動、楽しみたいだけに、この商店街の店を利用したことは、ゆるされることでは無い。.......それに謝るべきは相手は私ではない。レミちゃんにしっかりと謝りなさい。」
不良たちは不服そうながらもレミに謝った。
レミはもう二度と関わらないことを約束させ、不良たちはその場を去った。
「つぐみちゃん.......!店長さん.......!イヴちゃん.......、本当にごめんなさい.......!!私が、私が弱いばかりに.......。」
「ううん、いいんだよ、レミちゃん。それよりも正直に言ってくれてありがとう。最初、万引きしてた時は何事かと思ったけど。パパも、もう、いいよね?」
「ああ、もちろんだつぐみ。.......レミちゃん。また、うちをご贔屓にね!」
「.......!はい!.......お巡りさんも、ありがとうございました!つぐみちゃんの先輩さんも、ありがとうございます。」
「いやいや、アタシは偶然居合わせただけ!凄いのは谷村さんだよ!」
リサは何もしていないというふうに腕を振る。
「何言ってんの。リサちゃんがイジメグループを見つけたんじゃないか。お手柄だよ。」
「あは.......、そうなのかなぁ.......?」
照れくさそうにリサは頭をかく。
谷村は微笑みながら頭をポンポンと叩く。
「そうさ。.......ってあ、まだコロッケ売ってんのかな。」
「北沢さんのところならまだやってると思うよ。.......というより、そろそろ来るかもな。」
来る?不思議なことを言うなぁ、店長さんは。
.......そう思っていると店の扉が開く。
「こんにちは店長さーん!!」
元気いっぱいの挨拶が広がる。
「う、うおお.......、こ、こんにちははぐみちゃん。」
「あれ?谷村さんだ!こんにちは!.......っとそうそう。はい、店長さん!ご注文のコロッケ7個だよ!」
「ありがとうはぐみちゃん。これ、代金ね。.......これ、1個はぐみちゃんの分だから、食べていきな!」
「え!?いいの!?ありがとう!!」
元気よく笑顔でお礼を言う。
「テンチョーさん、そのコロッケはどうしたんですか?」
「さっき谷村さんが話をつけに行っているときに、つぐみから実はリサちゃんと谷村さんが北沢さんのところに行く途中だって聞いてね。お礼も兼ねて、注文しておいたんだ。」
「それはそれは!ありがとうございます。あ、お金、払いますね。」
「ああいやいや!これはお礼なんだから。さっき君がレミくんに奢ったように、ここは店長である私に奢らせてくれ。もちろん、みんなの分もあるぞ!合うかは知らないが、コーヒーを入れてみんなで食べよう!」
「テンチョーさん!イタダキマス!」
「お、お父さん本当に注文したんだね!」
「はぐみも貰えるなんて嬉しいなー!」
みんな各々で喜びの言葉を挙げる。
「さ、レミちゃんも食べよう。」
俺とリサちゃんはおどおどとしているレミちゃんに声をかける。
「い、いいんですか.......?」
「もちろん。そのコーヒー豆も俺が買ってあげたものだからね。.......また、君の淹れたコーヒーでも。」
「あ、その時はアタシも呼んでね☆さ、レミ!みんなでコロッケ食べよ!」
「.......!!!はい!!」
.......成り行きではあったが、事件を解決した。
あとコロッケはものすごい美味しかった。ま、たまに食べに来るのもいいだろう。それに、ここの珈琲店も。
れみちゃんはこれ以降、何事もなく普通に過ごしているようだ。
―帰り道―
「とはいえ、ホントにリサちゃんはお手柄だったよ。分かりやすかったとはいえ、すぐにいじめグループを見つけ出すなんて。」
「気は回る方だからねー。アタシ、助手としての才能あるかも!?」
「あはは、危険だよ?」
「ま、アタシもあまり危ないことはしたくないからね。けど、アタシもつぐみの友達を助けられて、良かったかな。さすが警察、さすが谷村さんだね。」
突然の褒め言葉に谷村は豆鉄砲を食らう。
この男も顔は褒められても、行動は褒められ慣れてない人種なのだ。
「.......急に言われると照れるな。」
「あはは!谷村さんもかー!.......ところで、なんで谷村さんは、つぐみのお父さんからお父さんから好青年と言われた時に目を逸らしたの?」
「.......。」
「.......また目逸らした。」
「.......トップシークレットだ。」
「なにそれー!」
To be continued...
何はともあれ、余計な犯罪を起こさずに、大元を叩けてよかったよ。いじめなんてもちろんダメだし、犯罪教唆なんかもっとダメだ。
.......好青年.......。屈託のない笑顔でその評価を投げられると来るものがある.......。
―CLEAR 『万引き犯』―