魔法科らは逃げれない。   作:アルピ交通事務局

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絶対防御ラインと書いて女子トイレと読む

「…ふぁ~あ…寝てるわね…」

 

魔法科第一高校三日目の朝、リーナは目覚ましを止めて体を起こすと隣に光國が寝ていた。

一緒に寝ているから隣に居るのは当たり前のことなのだが、朝は朝食を作ったりランニングをしたりと居ないのが大抵だが、今日は珍しく寝ていた。

 

「流石に昨日は疲れたし、当然ね…どうなるのかしら…」

 

魔法科高校が成果主義だと言うのを知っており、一科生と二科生が差別されてると思う程の授業の差があったりするのも知っていた。

その中で差別的な態度をとったりする者も出てくるのは当然とは思っていたが、あそこまで堂々として、魔法をぶっぱなそうとするとは思っていなかった。

昨日の出来事を思い出して、因縁をつけられるんじゃないかと、更に大きな事件に発展するんじゃないかと心配をする。

 

「なにか、なにか無いかしら…決め手がかけるから、まだ…」

 

光國が日本に帰国した際に九島烈に頼んで追い掛けるようにやって来たリーナ。

実はUSNAの軍人をやめておらず、日本の魔法師の細かな調査とデメリットの無い人工魔法師製造法の入手、原型(アーキタイプ)である手塚光國へのハニートラップを名目に日本におり、光國を連れて実家に帰省した時には何時も軍に寄っており、私より強いと思う奴はかかってきなさい!と他の軍人を挑発して全戦全勝し、それなりどころか物凄い地位を持っている。

物凄い地位を持っているリーナの目標は一つ、九島からどうにかして光國を奪い幸せになることだ。

どうにかして大きな、九島どころか十師族も黙らせる事ができる手柄を上げなければならないが、特にこれといった事が無い。平和とは軍人にとって一番の迷惑なものだった。

 

「…あ、やば!」

 

目覚ましが止まってから数分がたち、自力で目覚めた光國。

時計を確認すると、寝過ぎてしまったと慌てて体を起こして、コンロのグリルに鮭とたらこを入れた後に洗面台に向かう

 

「すまん、寝過ごした。」

 

「学生にとっては普通だし、学校が近いから別に問題ないわよ」

 

なんならもっと寝ていても大丈夫である。

光國は洗顔を終えると、馴れた手付きで弁当と朝食を用意する。

その間にカーテンをして着替えるリーナは、眠そうな顔で大きなあくびをする。

 

「光國、髪」

 

「ええ加減自分で出来るようにならんとあかんってこの前、言ったばっかやないか」

 

「だって、光國の方が早いじゃない…ダメ?」

 

「……わーったわ」

 

凄い間があったが、ツインテールにしてくれる光國。

アレが食べたいと言えば食べたいものを作ってくれるし、髪の毛を整えてくれる。

本当は自分が光國を甘やかさないといけないのだが、光國は助けてとは滅多には言わない。

やる時はとことんやるが、やらないときは全くやらないのが彼の流儀らしく、諦める時はスパッと諦めるが、諦めないときは粘り強い。もっと甘えてほしいのが本音だ。後、女子力が欲しい。

 

「…ヤバいな、学校いきたくなくなってきた…」

 

制服を手に取った光國はジッと見た後に、目頭を抑える。

昨日の出来事を思い出しているのだが、それに加えて今後の事を考える。

 

「なんかやってっかな…」

 

やけくそで第一高校を選んだ事は後悔しないが、今後の事を考えると何れは胃潰瘍になるかもしれない、と言うか、原作云々の問題じゃない。

原作でも一科生、二科生問題は有耶無耶に近い形で終わっている。

お兄様Tueeeeすることにより問答無用で黙らせているが、それはお兄様が居る間のみ発揮する効果で、お兄様知らない世代には通用しない可能性がある。

一つだけどうにかする方法があるにはあるのだが、それは余りにも無謀であり人付き合いの苦手な光國には出来ないことだ。

学校に行くのが嫌になる光國は気分を変えるべく、テレビをつけるのだが

 

『「入学おめでとう、リーナ、光國くん」』

 

「キモいからチャンネル変えるか」

 

九島烈が映っていたので、適当にリモコンを操作する光國

 

『「17歳以下が集う世界大会、U-17が日本で」』

 

『「チャンネルを変えないでくれ」』

 

「朝っぱらから会いたないわ…なんの様やねん、クソジジイ」

 

適当に操作するも、クソジジイが画面から消えない。

最終的にはワイプに納まったのだが、余り見たくない。朝のニュースが一切入ってこない。

 

『「普通に君達への入学祝いだ」』

 

「よし、金寄越せ」

 

『「君はすぐにそれだね」』

 

「当たり前やろ、世の中は基本的に金やで?」

 

金にがめついのではなく、金の価値を知っているから言える一言である。

九島烈は自身に対する態度だけは一向に変わらない事を呆れるが、これはこれでありなのと真面目にすれば場の空気を読むことは出来るのでなにも言わない。

 

『「改めて、祝わせてもらおう。入学、おめでとう、リーナ」』

 

「ありがとうございます、閣下。」

 

『「それにしても…美人の家庭教師をつけても二科生か…二科生か…」』

 

魔法科高校の入試方法では、確かな成績を測れないのを知っている。

光國も成績を測れない魔法師に部類されるのだが、それでも二科生はと顔を渋る。

筆記をもう少し頑張っていれば一科生だったのだ。

 

「二科生の方がむしろエエわ。

と言うか一科生、二科生以前の問題があるんやけども、その辺の問題は耳にしとるん?」

 

『「シャカに説法と言うのを知っているかい?」』

 

知ってはいるが、無駄なこと。

九島烈は確かな観察眼を持っており、名前で贔屓目に見たりは早々に無い。正当な評価をくだしてくれる…が、あくまでもそれは九島烈の話だ。

正当な評価をくだしてくれる人格者はいるにはいるのだが、そう言うのに限って上の地位に居るために底辺と触れあう機会が無かったりする。

結局のところは選挙演説や国会で会議してる偉い人が言うように国民一人一人が頑張って意識改革しないとダメなやつである。

 

『「ある意味、一科生と二科生に分かれた事はよかったのかもしれない。

豊かな人生経験は、人を大きく成長させる…善か悪かはともかくだ。期待しているよ」』

 

『「日本代表の主将は、まだ開かせないとのことです」』

 

ワイプが無くなると、ニュースの音声が流れるが耳に入らないリーナ。

最後に九島烈が言っていた事が頭から離れない。

 

「どうしろって言うのよ…」

 

「リーナは九校戦で成績を叩き出せばええやろうに…はぁ…」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…」

 

「おはようございます、手塚さん、リーナ」

 

何事もなかったかの様にはじまる魔法科高校の朝。

光國はいい意味でも悪い意味でも目立ってしまい、近寄りがたいオーラを出していた。

リーナは特にそんなのを気にしておらず、一緒に歩いていると司波御一行と出会い深雪が挨拶をする。

 

「ああ、おはよう…」

 

「おはよう、ミユキ…」

 

挨拶を返した光國だが、凄くめんどそうだった。

昨日、あんな事が起きたのにフランクに話し掛けてくる深雪達。嬉しいが気まずい。

ペコリと一礼をしてから歩く速度を上げていく光國とリーナ、司波御一行は昨日あんなことあったしこのままじゃダメだとは思うが、今これ以上声をかけるのはどうかと思い声はかけない。

 

「光國く~ん、達也く~ん」

 

七草真由美を除いてだ。

爽やかな笑みで手を振り、光國と達也を呼んでおりエリカ達二科生が固まった…のだが

 

「え、ちょっと待って!」

 

光國は普通に無視をした、リーナも七草には関わりたくないと無視をする。

もうめんどくさいわ!と二手に分かれる、と言うか教室の方向が違うので分かれないといけない。

 

「話を、聞いて!

じゃなくて、生徒会、室でのランチ、を!」

 

真由美はリーナの方にいかず光國を追い掛けるのだが全くといって追いつけない。

 

「ちょ、滅茶苦茶早いわよ!」

 

「魔法、じゃないな!昨日、あんな事を言ってたし、陸上選手かよ!?」

 

「…」

 

「マ、マッテクダサイ…うっ…」

 

教室を既に通りすぎているのだが、それでも逃げる光國と追い掛ける真由美。

司波御一行の中で唯一一科生の深雪は単独でリーナを追い掛ける、二科生一行は光國達を追い掛けるのだが、追いつけない。

運動神経抜群でもなく鍛えていない美月は教室前で止まったが、普段から体を鍛えているレオ、エリカ、達也は光國を追い掛ける真由美との距離を徐々に徐々に縮めるが光國との距離は開いていた。

 

「実戦向けと言っていたが、成る程、確かにそうだな…」

 

既に教室を通りすぎているのと、光國は最終的に教室に帰らないといけないことが分からない達也ではない。

しかしリーナが光國も実戦向けと言っており、全力で逃げたのを見てこれはちょうどいいと追い掛けるのだがリーナが言うだけの事はあった。

達也達は魔法は使わずに本気で走っているのだが追いつかない。勿論、真由美もだ。

 

「階段二段どころか三段飛ばしに降りはジャンプって、達也くん、レオ、ごめん!」

 

ただ走るだけでなく上の階や下の階に移動して逃げるのだが、エリカが最初に根を上げた。

ただ早いだけでなく、強靭な足腰も持っているのがよく分かる。

 

「山岳部志望でよかったっぜ…」

 

足の早さや瞬発力ではエリカの方が上だったが、登り降りを繰り返した場合はレオが上だった。

二科生の中には自身の様に判定しにくい実力者が居ると思ったがレオとエリカはそれに部類されていた。

 

「このコーナーを曲がれば行き止まりよ!」

 

何故か興奮気味の真由美。

光國を追い詰めることが出来たと荒い鼻息をして、曲がり角を曲がる。

 

「光國くん、捕まえたわよって、待って!?」

 

「うぉっ!!」

 

「レオ!」

 

曲がり角を曲がった先は行き止まりで追い詰めたと思った矢先、真由美の横を走り抜いた。

行き止まりだから速度が落ちてきたと思った矢先、180度のターンをして先程までと同じ速度で走る。

真由美と達也も同じようにターンをして、追い掛けるのだがレオが足を挫いてしまう。

 

「達也、オレに構わずいけ!!」

 

「…ああ!!」

 

確実に今言う台詞じゃないのだが、光國が気になり追い掛ける達也。

徐々に徐々に生徒が増える中、光國は特に迷惑もかけず人と人の隙間を通り抜けていく。

 

「甘いわよ、人混みに隠れたとしても私にはマルチスコープがあるわ!」

 

「あ、七草会長に達也さん!おはようございます!」

 

人混みを抜けていく最善のルートを選び、最高速度を保ちつつ誰にもぶつからずに走り抜ける光國。昨日、閃光魔法を放とうとした凸体型の女の子こと光井ほのかは光國の存在を気付かない。

 

「ここね!上手く隠れたようだけど、お見通しよ!」

 

「…ここは…」

 

三年生の教室付近のトイレに駆け込んだのを視ていた真由美は笑みを浮かべる。

仮に追いかけていたのが摩利ならば見抜けなかったが、彼女は見抜いていた。光國がトイレの個室に隠れたのを。

 

「ふっふふふ…よくも逃げたわね…」

 

「待ってください、七草会長!」

 

「待たない!あそこまで露骨に逃げたのなら、とことん追い詰めないと七草の名に恥じるわ!」

 

果たして七草の名を背負って言うことなのかは誰にも分からないが、一歩、また一歩と光國が入っている二番目のトイレに足を運んでいくのだが

 

「ぬぅああ!?」

 

真由美は顔をトマトの様に真っ赤にさせ

 

「なんだ、先程から騒々し…」

 

「ふ~スッキリした…」

 

一つ目のトイレに入っていた部活動会頭の十文字克人がドアを開け、デコをぶつけてしまう。

それと同時に二つ目のトイレの水が流れる音が聞こえ、光國が出てくる。

 

「七草…なぜ、ここにいる!?」

 

「…ひくわ~、めっちゃ、ひくわ~…いや、ホンマにひくわ」

 

ゴリもとい克人は七草がここにいる事に驚く。

そりゃそうだ、ここはトイレはトイレで男子トイレの中なのだから。

光國は七草がここにいる事に驚く克人に気付かれぬ様にゆっくりと男子トイレを出る。

 

「風紀委員だ!先程から、誰かが走り回っていると…真由美…」

 

そして騒動を聞きつけた風紀委員長こと摩利がやって来たのだが、色々とベストだった。

おでこを真っ赤にして、天を仰ぐかの様に見ている真由美を見てしまった。直ぐ側には克人がいる。

 

「生徒会長が男子トイレか。

やっぱアレか、漏らしそうやったから使えるところを走り回ったけど無くて、仕方無く男子トイレを…あ、チャイムだ、達也、戻んで…じゃなくて、戻るぞ」

 

「七草会長が顔を真っ赤にしたが、なにをしたんだ?」

 

摩利は真由美が男子トイレにいる事を驚きつつも、野次馬達に教室に戻るように言うのでそれに乗じて教室に戻るのだが、真由美が顔を真っ赤にして固まった理由が気になった達也。

魔法を使う素振りを見せていないし、なにをしたかが知りたかった。

 

「ズボンを脱いで、個室内で股間を強調するかの様にブリッジをしただけだ…目が良いのを逆手にとった」

 

「成る程…」

 

全力で走り回り逃げて体力と気力、そして精神的余裕を奪う。

何時もは冷静な真由美ならば男子トイレに逃げ込んだ時点で、出てこいと言うだけで終わるが精神的余裕を奪われ、興奮していた真由美は何の躊躇いも無しに男子トイレに足を踏み入れた。

その時点で真由美の敗けなのだが、そこに追い討ちをかけるかの様に下半身丸出し股間強調ブリッジをして大きな隙を作った。

男子トイレの、しかも個室なので卑猥なものを見せた罪に問われる事はない。

トイレを覗き、更には入ってきた真由美がむしろ罪に問われる立場にある。

 

「生徒会長のスキャンダルゲットだ…達也も誘われる心配は無い…筈だ…」


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