「五度目にしてやっとか…」
昼食を終えた達也は、午後の実技の授業をしながら光國に言われた事を考えていた。
達也自身も、一科生と二科生の間にある溝は大きな問題と捉えており、一部は仕方ないとはいえ昨日の一件がまたあるかもしれない。そうなれば深雪に迷惑をかけてしまい、悲しませてしまう。
「達也さん、三度目から集中が乱れてましたよ?」
「やっぱ、昼の呼び出しが頭に」
「達也くんは、あんたみたいに単純じゃないんだからそんなわけ無いでしょ」
実技の内容は至極単純に、魔法を発動して求められた数値を出すことだ。
三度目で成功しかけたのだが、光國の言っていた事が気になっており五度目にして成功した達也。
その事を指摘されると気付かれたかと思うと同時にちょうど良いと聞いてみようと思った。
「レオ、エリカ、美月…2000年以降の学校にはどんな価値と意味があると思う?」
「2000年以降の学校ですか?」
「戻ってきた時に話しただろう、深雪が生徒会に、俺が風紀委員に推薦されたと。
渡辺委員長も、七草会長も一科生と二科生の溝をどうにかしたいと考えていて手塚も推薦されたんだが、その際にその質問をした後に出ていってな」
「手塚くんが達也くん達を試してるってこと?」
「恐らく、そうだろう」
納得のいく答えを出せば、手塚は風紀委員に入ってくれる可能性がある。
二科生である自分が風紀委員に入れば仕事は問題なくこなせるが、確実に浮いてしまうのがわかる。結果を残すのは良いが悪目立ちしてしまうと、家の人間が色々と言ってきて深雪に迷惑をかけてしまう。手塚が入ってくれれば、視線が分かれて悪目立ちする可能性が下がる。
「2000年以降、てことは旧世紀関係だろ?
オレ達も手塚も生きてないし…分かんねえな…手塚に直接聞いてみるか?」
「今、達也くん達が試されてるんだから答えを聞いてどうするのよ」
「だよなぁ…」
レオも考えてくれるが、答えらしい答えは出てこない。
直ぐ近くにいる手塚に答えを聞こうとするが、エリカに止められる。
「どうやら、悩んでいるようだな」
「手塚…」
噂をすればなんとやら、光國が話を聞いてやって来た。
「この質問に対する答えは、あるようでないも同然だ」
「どういう意味ですか?」
「人によっては答えが違うと言うことだ」
「え、それってズルくない?」
答えが複数あるならば、解答者の答えとは違うもう一つの答えを出題者が正解とすれば良い。
この後、生徒会や風紀委員に捕まり質問に解答されたとしても不正解だと言って別の答えを出せば逃げることは出来る。
光國が出題者となり、試されてると思った時点で実は負けが確定していた。
「ズルくはない。
オレの質問は理数系の問題の様に法則性やパターンに基づいた答えを求めているのではなく、言葉の問題だ。答えは複数あれども、それら全て成る程と一言納得させる答えには行き着く筈だ、具体的な言葉で納得させてもらいたいんだ…オレや達也を一科生と二科生の溝を埋めるためにどうにかするには、それぐらいの覚悟は必要だ」
「…どういう意味だ?」
「下手すれば全ての魔法科高校が日本所有の未開発の島に移される…いや、マジで闇が深いぞ、一科生と二科生の溝を学校単位のいじめともとれるのだから」
「確かに、闇が深いな…」
手塚の勧誘は難しく、この後、達也は生徒会に連れていかれるが光國は連れていかれなかった。
摩利が質問に対する答えを出せず、手塚の勧誘を失敗したが達也は実技では測れない実力を発揮して、少しずつ認められていった。しかしそれは生の達也を見ている者達だけにだった。
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「なにあの行列…」
新入生に入学して一番最初に来る風紀委員の大きな仕事、それは部活動勧誘期間。
この期間中だけ、制限されているCADや魔法が緩くなっており、風紀委員はそれを取り締まらなければならないが、そんなレベルじゃないだろうとリーナは固まった。
「旧世紀はああ言うのが当たり前だって、光國は言っていたけれど…」
世界の総人口が減って30億人ぐらいの魔法科高校の劣等生。
科学技術の進歩により満員電車の地獄なんてものは無く、体験したことのないリーナは目の前の光景を驚いた。
校舎を出て校門までの間に飛び交う魔法、拉致される生徒、暴れる風紀委員。
全ては部活動に誘うべく、頑張っている生徒達だが下手したら怪我をするレベルが多い。
中には危険性が高い魔法があり、下手に校舎から出ることは出なかった。
「ど、どうしよう雫…」
「これは、抜けられない…」
「貴女達も、同じ考えをしているのね」
校舎の中には入ってこない部活動勧誘に勤しむ部員達。
校舎内部に入ると問答無用でしょっぴかれてしまう事になっており、校舎は絶対防衛ラインでどうするか悩んでいると同じクラスで深雪には声をかける凸凹体型の二人組の女子がどうやって帰るか真剣に考えていた。
「えっと、アンジェリーナさん?」
「リーナで良いわ…確か、シズクとほのかだったわね?」
「うん」「は、はい!」
「…どうやってアレを抜ける?」
二日目の出来事を水に流して、魔法師の軍団を指差すリーナ。
既に此方に気付いている部活動があり、獣の様に目を光らせギラつかせる。
アレを他人に攻撃しない系も含めた魔法を使わずにに切り抜けるのは達也でも至難の技で、リーナはそれに加えてテニス部に向かわなければならない。
「ほのかが軽い閃光魔法を使って」
「入学して二日目の事を忘れたの?今度は退学の可能性があるわ」
「…そうですよね、私ったらまた…」
一応、あのあと反省文を書かされてかなり説教されたほのか。
少しだけ雫の意見がありかなと思った自分を攻めてしまう。
「皆、伏せて、少しでも気付かれると面倒よ!こう言う風に、ほのか、胸がキツいかもしれないけど我慢して!私もかなりきついけど我慢するから!」
「なんで、私には言わないの?」
「…光國が居てくれれば…」
「あの人、ですか…」
「ねぇ、ほのか、どうして目線を合わせてくれないの?」
たわわなほのかと、原作よりも成長し美月レベルのたわわになっているリーナには苦しい姿勢を取っているが、雫はそんなに苦しくなく、二人の顔を見ようとするが視線を合わせない。
凹の幼児体型の雫には苦じゃなかった。
「…なにやってるの、貴女達?」
「あ、エリカ!
気をつけて、あの人混みに飲まれたら一貫の終わり…長期戦は免れないわ!」
隠れてやり過ごすか悩んでいると、エリカかがやって来て変な目で見てくる。
実際、変なことをやっているのでそう見られて当然だろう。
「なに言ってるのよ…あ、手塚くんを連れてきたわよ…手塚くん!」
「…」
渋い顔をして出てきた光國はほのかと雫を見る。
二日目の出来事はかなり大きく、苦手意識を互いに持っており、どうしようとなる。
「北山雫、雫って呼んで」
「み、光井ほのかです!ほのかで構いません!」
「手塚だ…」
「よし、じゃあ行きましょうか!」
自己紹介をしたものの、気まずい空気が流れるがエリカが壊す。
さばさばとした性格だがこういう時には役に立っており、校舎を出ようとする。
「待て、彼処を一人で切り抜けるつもりか?」
「一人じゃないわよ…私達の盾になってね、お・ね・が・い」
容姿の良いエリカは甘い声で光國に頼む。
二科生、一科生と言わない人達から見れば引き受けてしまうこと間違い無しだが
「お前がいけ」
リーナが冷たい目でエリカを蹴り飛ばして校舎の外に追い出した。
「え、ちょっとリーナ!」
「光國、あんな安いハニートラップに引っ掛かっちゃダメよ」
「むしろあんな安いトラップに引っ掛かる奴が居るのか?」
「やっぱり、手塚さんとリーナって…」
「そう言う関係だよね…」
「ちょっと、どさくさに紛れて鍵を閉めないでよ!」
校舎のドアを閉めて、被害を防ぐ四人。
エリカは軍団の波に飲まれるが負けてたまるかと踏ん張り、香港映画顔負けの窓のガラスにへばりつく技術を見せる。
「手塚さんとリーナって、どういう感じに出会ったの?」
「ストレートに馴れ初めを聞いてくるとは、遠慮が無いな…二人とも気になるのか?」
「えっと…はい、気になります」
「まぁ、タツヤ達は兄妹と言えば通じるけど私達は違うから当然ね。
光國も私も性格的な部分で違うし、身分的なのもあるからね…実はね、私が悪質なナンパをされたのを助けてくれたのが出会いで、助けたと思ったら光國もナンパをしてきてね」
「事実をねじ曲げるな…いや、合ってるけども」
「お願いだから、助けて!!私が悪かったから、このドアを開けてください!」
「ちっ、仕方ないわね」
馴れ初めの邪魔をしてきたエリカに舌打ちをしつつも開けたリーナ。
エリカは汗だくだくで校舎内に戻ることに成功し、死ぬかと思ったと一息つく。
「千葉、どうだった?」
「エリカで良いって言ってるでしょ…死ぬかと思ったわ」
「二科生女子で一番ゴリなエリカでもダメだったか」
「誰がゴリよ…」
最早ツッコミを入れる気力さえ失せているエリカ。
これは達也を呼び出して盾にしていく作戦が一番だろうかと携帯を手に取るのだが、リーナがラケットを渡す。
「お前、森崎の時にも同じ事を要求してこなかったか?」
「魔法を使わずに切り抜けるには一番よ。
今日だけなら別の方法があるけれど、勧誘期間中に一度しか使えない方法だから…それにデモンストレーションにもなるわ」
「……その場合はリーナがやらないとダメじゃないのか?」
「私、あんな事は出来ないわよ」
「…はぁ、仕方ないな」
渋々ラケットを受け取った光國は眼鏡とマスクを外す。
「光井、北山、千葉、下がっていろ…」
「え、あ、うん…」
何時もと雰囲気が変わって、戸惑うエリカ。
なにをするんだと見守ると光國は袖口を捲りあげた。
「その腕は?」
「安心しろ、怪我でもなんでもない」
光國の両腕に巻かれている包帯を気になった雫。
怪我をしているのならば、今からやるなにかは無茶ではないかとなるが光國が否定した。
「油断せずにいくぞ、リーナ!」
「OK、いくわよ!」
クラウチングスタートの様なポーズを取り準備が完了するとボールを壁に向かって投げてCADをボールに向けるリーナ。
移動系の魔法を使い、光國に向かうように反射させる。
「え、まさか…」
リーナと光國がなにをするか分かったほのかは顔を青くする。
いやいやいや、そんなのは無理だよと今すぐに言いたかったが、言えぬ雰囲気で全員が今か今かと待ち望んでいる。
「ダッシュ波動球!!」
ボールが手元まで来ると全体重を乗せるかの様に一歩を踏み出しつつ渾身のフラットショットを打ち出した光國。
ボールは校舎を出て、部活動勧誘に勤しむ生徒達をはね除け、モーゼがエジプトから出ていく際に割った海の様な大きな道を作り上げた。
「この波動球、威力を段階分け出来る事が出来る技だ。
真の波動球はレベル1から108まで存在し、表と裏を合わせれば216式まで存在する。
故に教えてやろう、このダッシュ波動球のレベルは…たった1だ」
「なん、だと…」
あの威力でまだレベル1だった事に固まるエリカ
「オレはアグレッシブ・ベースライナーではない故にパワーには特化していないが…オレの波動球は参拾漆式まである」
「違いすぎる…」
圧倒的な力を感じとる雫
「いや、違うでしょ!!二人とも、目を覚まして!」
どうみても魔法かなにかを使ったとしか思えない威力だが、素で叩き出している光國。
ほのかが一応はツッコミを入れたがなにを言っているんだかと呆れる。
「いい、ほのか。
テニスの世界、しかも世界レベルになるとこれが常識なのよ。貴女が知らないだけで、否定するのはよくないことだわ。一度、Jr.テニスでも良いから世界大会を見た方が良いわ」
え、これ私が悪いの?となるが実際のところほのかが悪い。
「全員、走り抜けろ!!
奴等が体勢を立て直す前に突破をするんだ!」
当初の目的である校舎から学校に出るための校門への道は切り開いた。
ほのか達以外にも校舎から出ようとしなかった生徒はそれなりに居たようで、この気を逃すかと全員が校門への目掛けて走り出すが
「あれは、SSボード・バイアスロン部!」
魔法関係の部活動は強かった。
直ぐに体勢を立て直す事に成功し、その中でも移動に
「リーナ、ボールは後いくつある?」
「後、十球!バイアスロン部員達もちょうど10人よ!」
「なら、簡単だ!全部貸せ!」
あれに拉致されると面倒だと判断し、リーナからボールを貰う光國。
「十球って、打ち落とす前に捕まるわよ!」
ボールをぶつけて打ち落とす事を見抜いたエリカはバイアスロン部との距離を言う。
互いに走ってきているので、極僅かの間しかなく、倒せるのは一人だけだ。
「一人倒せる時間だけあれば充分だ!」
だが、光國にとってそれだけあればどうにかなった。
リーナから貰った十球をほぼ同時に打ち、一つ残らず此方に向かってきているバイアスロン部にぶつけて撃退することに成功した。
「あ、雫、見て!」
「校門前に、待ってたみたいだね」
バイアスロン部を倒したまではよかったが、校舎前ではなく校門前でスタンバる部活動勧誘に勤しむ生徒達。
「こうなったら一時的に別の場所に避難するのを優先だ!
リーナ、この辺でテニス部を除いて安全そうな場所は無いのか!」
「ええ、いきなりそんな事を言われても…」
「第2体育館があるわ!
あそこは武術系の部活動がデモンストレーションをしてて、やり過ぎない様に風紀委員が見張っているからここみたいな事にはなってないはずよ!」
「よし、そこね!」
今は一刻も争う状況だ。
エリカの情報を信じて、体育館を目指し方向を変えたのだがそれがまずかった
「きゃあ!?」
「ほのかぁ!?」
「北山、光井!」
方向転換により、隠れていたSSボード・バイアスロン部が雫とほのかを捕まえる事に成功した。
「お前達の犠牲は無駄にはしないぞ!!いくぞ!」
「え!」
光國達はほのかと雫を犠牲にし、闘技場へ向かって走っていった。
「…その、どんまい」
拐ったSSボード・バイアスロン部の先輩は、そんなほのかと雫を見て哀れんだ。