「ほのか、大丈夫?」
「うん…」
控え室に森崎を残して、出たリーナ以外は顔色は優れない。
光國が勝つためならばと桐原の罪悪感を利用する戦法を見てしまい、ショックでほのかは気を失いかけた。
「…あそこまで、やるなんて…」
ほのかを心配する雫だが、雫も顔色は優れない。
この作戦を思い付いた光國に引いている。
「やる時はやる、やらない時はやらないのが光國よ。
今の光國は本気の光國で…勝利の為には冷徹になれるし徹底している…敵にも自分にも厳しいわよ…ああいった事への耐性をつけるために、わざわざ自分で鶏を殺して捌いて余すところなく食べたわよ…」
光國の事を教えながら歩くリーナ達。
すると、達也達を引き連れた市原がやってくる。
「…おや、中条さんは?」
「すみませ~ん!遅れました!」
本来ならば一科生を引き連れなければならないあずさが居ない事に疑問を持つ市原。
すると、後ろから手を振って何度かジャンプをしながらあずさが此方に向かってきた。
「なにかありましたか?」
「桐原くんが気を失いました。」
「大丈夫なのですか?」
「…大きな怪我で意識を失ったのではなく、精神的なショックで気を失いました…今は安らかに眠っています」
肉体的なダメージで意識を失ったのではなく、精神的なダメージで意識を失った。
そしてその精神的なダメージは精神干渉魔法などで出来たダメージではない、ただの罪悪感であり、桐原は今日はもう試合をすることが出来ない事を意味する。
「エイミィ、第五試合に出れる?」
「う、うん…いけるわ」
首がもげるかと思えるぐらいに縦に振って深雪に答えるエイミィ。
「では、入りましょう。
既に選手以外の一科生と二科生は入っていますので」
「広いとは思っていたけど、屋内のテニスコートもあるんですね…」
桐原の代わりにエイミィが入ったので、目的地こと屋内のテニスコートへと入る市原。
深雪達も後を追うようにテニスコートへと入ると
「「「「勝つのは森崎!!負けるの手塚!!勝つのは森崎!!!!」」」」
二科生を下に見ている一科生達が協力をしてコールの練習をしていた。
「ざっと見て200人ぐらいだな…もしかしたら手塚は自分を踏み絵にしたのか?」
「どういう事ですか、お兄様?」
「服部副会長はブルームとウィードの事を言っているのは、全体の3分の2だと言っていた。
全員が私服を着ているから分かりづらいが、コールをしているのは一科生の中でも選民意識が強い者達で自然と観客席もそれに分かれている…これを狙って、第四試合は生での観戦をしたのか…」
「これでもまだ変わった方です。
千葉さん達が互角以上に試合を繰り広げ壬生さんが試合に勝った事により、少しずつ意識が変わっていきました…」
果たしてこの人数が多いのか、少ないのかは達也にも市原にも分からない。
しかし変わっていった事は確かで、コールをしようとしない生徒達は自然とコールをしている生徒達と距離を置いていた。
「この中で手塚さんが試合を…」
ゴクリと息を飲み込んだほのか。
先程まではカメラが向けられていただけだが、この試合は視線を向けられている。
それに加えて200人超の森崎コールで圧倒的なまでに手塚にアウェイな場だった。
「おい、手塚を応援しろよ!!」
同じ事を感じたレオは応援をしない二科生に活を入れにいった。
「応援って、言っても相手はあの森崎だろ?」
壬生の名や剣の腕はそれなりに有名だ。
エリカの千葉は有名だ。
吉田の名前もそれなりに有名だ。
同じぐらいとは言わないが森崎の名前もそれなりに有名だ。
では、手塚はどうだと?なにか新しい理論や魔法を作り上げたわけでもなく、リーナの側にいるだけでなにかこれといったのを見ていない。
「全員、席に座ってください。
間もなく、バ会長からのルール説明等が入ります」
「ねぇ、リンちゃん、やっぱりバ会長って」
「七草、説明をしろ」
バ会長については誰も触れようとしない。しちゃあいけない。
十文字にルールの説明をしろと言われたので、ルールの説明をする。
「基本的なルールはテニスと変わりません。
6ゲームの3セットマッチで、先に2セットを取った方が勝利です。
審判は私達三人に加えて、男子女子のテニス部の部長と副部長にお願いしています。
ボールはラケットを使って打ち返さなければならず、魔法だけで打ち返すと相手のポイントになります」
「ラケットを使って打ち返すとなると…自身を強化するか、ボールの重さを増やすか、ボールを見えなくするか、ボールか自分かに限定されるな…」
中々にシビアなルールに加えて、二科生でも大物喰いが出来そうなルールだと達也は考える。
クラウド・ボールは圧縮空気を用いたシューターから射出された直径6cmの低反発ボールを、ラケットか魔法を使って制限時間内に相手コートへ落した回数を競う。
透明な箱にすっぽり覆われたコート内へ20秒ごとにボールが追加射出され、最終的には2名の選手が10個のボールを追いかけるがテニヌは違う。
一球の球にだけ集中することが出来て、魔法で直接打ち返せないので身体能力がものを言う競技だ。これならば万が一の事が起きて自分が出ても問題無いと考える。
「これだったら、エリカが出ても良かったんじゃないのか?」
テニス部に入ると言っていたエリカ。
この競技ならば体の動くを上げる系の魔法で十二分に力を発揮する事が出来る。
「手塚くんの方が向いているわ…私にあんな器用な真似は出来ないから」
「?」
しかしエリカは10球打ちをした光國を思い出す。
CADを使ったかどうかは不明だが、それでも10個のボールをほぼ同時に打つことはエリカは出来ない。ダッシュ波動球を打つことも出来ない。
「一科生、1-A、森崎駿!二科生 1-E、手塚光國!」
会頭の声と共にテニスのネット越しで向かい合う森崎と光國。
「ここで終わらせてやる…アンジェリーナさんの金魚の糞め」
「口を謹め!」
「少し黙っとけ…森崎、今どんな状況か分かっとるんか?」
摩利に怒られた森崎はただただ光國だけを見ていた。
光國は周りの光景が見えていないと周りの光景を見た方が良いと勧める。
「お前を倒すのに最高の場所だ」
森崎コールの中、相手が負ける。
そうすれば大抵の相手は心が砕けてしまうだろうが、光國はそこを見てほしかったんじゃない。少しずつ、少しずつ変わっていく生徒を見てほしかった。
「どうやら、お前はなにも見えていないようだ。
…分かっているのか?ハードルが極限まで上がっているのはお前の方だ」
光國に掛かる圧は森崎とは比較する事が出来ないものだ。
しかし、森崎が越えないといけないハードルは光國のハードルと天と地の差がある。
光國はギリギリのところで勝つだけで良いのだが、森崎は圧勝しなければならない。
「ウィードに負けるわけが無いだろう」
「森崎、いい加減に」
摩利が怒ろうとしたその時だった。
光國は手を出して摩利を制止して、森崎を見る。
「…試合中、それと試合に勝ったらオレをウィードと呼んでもいい」
「待て、なにを勝手な事を、ウィードとブルームは学校が禁止を」
「その辺は校長をゆすればどうにでもなる…どうだ?」
「負けた場合の条件があるんだろう?」
「もしお前が負けて、オレが勝ったらお前は来年のこの日までツルッツルッのピッカピカのテッカテカの…ハゲになってもらう」
「…その場合、お前が負けた時の方のペナルティが弱い」
「じゃあ、オレが負けた場合はお前と同じペナルティを受ける。引き分けだったら、バカ草会長の眉毛を永久脱毛で」
「いいだろう」
「よくないわよ、て言うか遂にストレートにバカって言ったわね!!今まで見逃したって言うのに、テニスの審判は悪口に厳しいのよ!!」
「落ち着いてください、ばか!」
「リンちゃん!?」
光國と森崎の間に真由美の意思を無視してペナルティが追加された。
「ところで、手塚くん…ラケットはどうしたんですか?」
「…」
明らかにサイズが合っていないAの横線の部分が赤い○になっているJAPANとかかれたジャージの中に上の胸の部分までが黄色、そこから下が緑色の竹を彷彿とさせるテニスウェアを着ている手塚だが、ラケットを持っていなかった。
「…」
「もしかして忘れたの?こんな!大事な!試合の!時に!」
ここぞとばかりに攻める真由美。
今までの恨みだと強調して叫んでいると
「手塚さ~ん!」
トイレに行き、出すものを全て出していた美月とそれを支えていたヨシヒコがやって来た。
二人は選手専用の観客席には向かわず、手塚を見つけると大きく手を上げる。
「ラケット、届きましたよ!!」
「っ、来たか!」
美月の朗報を聞いて喜ぶ光國。
すると、美月とヨシヒコの後ろからアロハシャツを着たお爺さんがとぼとぼと歩いてくる。
「あの人って確か…」
「手塚が持っていた写真に写っていた人だな」
「オジイ、遅いで」
「なんか、色々と外で揉めてたよぉ…ラケット、大事に使ってねぇ…」
オジイから木製のラケットを受け取った光國。
軽く数回素振りをして、何度かグリップを握るとちょうど良い感じだったのか頷く。
「間に合ってよかった。
あのおじいさん、手塚のラケットを届けに来たのは良いけど迷子になってたから」
ヨシヒコ達も席へと座り、ホッと一息つく。
すると、オジイは一科生と二科生が座っている席の間に座った。
「……ここ、大丈夫?」
「えっと…大丈夫ですよ、おじいさん」
「…この人、どうやって学校に入ってきたんだろう?」
今更一人、二人増えても問題無いので万が一とほのかは深雪達を見るがなにも言ってこないので承諾。
光國達が散々騒ぎを大きくして、日夜スタンバっている各メディアの記者達。
今日が対抗戦だと言うのを知られてはいないが、それでも隠れている記者は居るには居るのだが、魔法科高校の警備システムがそれを通さない…のに、オジイはあっさりと入っている。
雫はそれが疑問だったのだが、オジイが悪い人でもなんでもないので直ぐに頭から消した。
「…さぁ、油断せずに行くぞ…」
眼鏡とマスクをベンチに置き、森崎の元へと戻った光國。
何時もと風貌が違うと感じて少しだけざわつくが、天井が開いて日差しが差し込むと直ぐに静まり返った。
「エイミィ…いえ、ミユキ、ほのか、シズク…第五試合の準備は出来ているわよね?」
「3セットマッチ!森崎トゥサーブ!!」
そうこうしている内に試合がはじまるのだが、席を立ったリーナ。
エイミィ達がまだ戦えるかどうかを心配していた。
「リーナ、私は余裕で戦えます。
ですが森崎くんは今試合をはじめたばかりでいきなりの」
「ミユキ…そこ、危ないわよ?」
「え?」
ゆっくりとゆっくりと席を離れていくリーナ。
どういう意味かと深雪が真正面を向くと、森崎が此方へと飛んできた。
「危ない!」
飛んできた森崎に達也は一番先に反応し、深雪を抱き抱えてリーナが居る場所へと避難する。
「お、おい…なにがあったんだ!?」
オジイの事が気になっており、試合を見ていなかったレオ。
どうして森崎が飛んできたのかが分からず、コートに立っている光國を見る。
「…森崎の家はボディーガードをしていると聞く。
どれだけのものかと波動球で試してみたが、まさか壱式波動球と同等のダッシュ波動球で飛んでしまうとは……七草主審…」
「え、あ…
真由美の判定と共に、飛んできた森崎のお腹からポロっと落ちるテニスボール。
森崎はただ単にお腹にボールがぶつかっただけで、ここまで吹き飛んだ。そう、それだけである。
「ミブは日本で二番目かもしれない、キリハラは関東で一番かもしれない。
だけどね…光國は世界一のテニスプレーヤーになった男なの…森崎だと勝てないわ」
「世界一って、本当だったの…」
ノロケ話だと思っていたが、本当だったことに驚く一科生と二科生。
気付けば森崎コールも止まっており、光國はとどめとばかりに手を合わせる。
「先に言っておく…このダッシュ波動球はレベル1で、九重寺での修行によりオレはレベル54の波動球、即ち伍拾肆式波動球まで打つことが出来るようになった…オレの波動球は伍拾肆式まであるぞ…」
光國は一瞬にして森崎を応援していた一科生を絶望へと叩き落とした。