魔法科らは逃げれない。   作:天道無心ビームサーべ流
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ファントム・オブ・ザ・テニヌ

「大丈夫、手塚くん!」

 

悪魔化した森崎にボールをぶつけられて血を流し、膝をつく光國。

二セット目が終わると同時に壬生がやって来て肩を貸した。

 

「七草主審…ちょっと応急処置をするから、3セット目入るまでちょっと待てくれませんか?」

 

「棄権、しないの?」

 

「まさか…しませんよ」

 

悪魔状態の森崎相手に光國に勝ち目はないと感じる七草。

光國は壬生に連れられて、ベンチに座るとリーナが駆け寄る。

 

「…的確に急所を狙っているところもあれば、血が出るけども絶対に殺したりKO勝ち出来ない場所を…」

 

※ KO勝ちに関してはツッコミは禁止事項です。

 

「…」

 

光國の怪我の具合を見て、わざとぶつけた森崎に無言で怒りつつも頭に包帯を巻くリーナ。

本当ならば、今すぐに棄権させたいのだが光國はやめないだろうとなにも言わない。

 

「まさか悪魔化するとはな…」

 

「あの状態を知っているのかい!?」

 

「…ヨシヒコはどう見えたんだ?

オレがボコボコにされている間に、あの状態の森崎を観察は出来た筈だろう」

 

流石に森崎の悪魔化は予想外の事だった。

最後のポイントをカッコ良く決める予定だったが、急遽変更しなければならない程だ。

 

「森崎はおそらく、パラサイトになった…」

 

「出来ればパラサイトじゃなくて、ファントムと言ってくれや…」

 

「呼び方なんてどうでも良いわ…ミキ、パラサイトってなに?」

 

「正式名称はパラノーマル・パラサイト。

呼ばれ方は他にも色々とあるんだけど、魔法が一般化するから存在するかもと言われていた妖魔の一種で、人に寄生して人を遥かに超越した力を持って暴れたりする…んだけど…」

 

チラリと美月を見るヨシヒコ。

後は任せたと言う合図で、美月は理解すると口を開く。

 

「この辺には、そう言った存在は居ないんです…」

 

「どういう、ことなの?」

 

「壬生先輩…森崎くんはパラサイトに寄生されていないんです。

手塚さんのボールを直撃して飛ばされ十文字会頭に受け止められている時、そう言った存在がこの辺には居なくて、近付いてくる気配も無くて…赤くなる寸前にもそう言うったものが感じられなかったんです」

 

「じゃあ、パラサイトって言えないじゃない」

 

寄生するからパラサイトで、寄生しなければパラサイトでもなんでもない。

エリカのツッコミに対して壬生達は同感だと頷く。

 

「手塚…お前はなにか知っているのか?森崎のあの状態を」

 

では、あの森崎はなんだと達也は光國に聞いた

 

「…森崎はパラサイトに寄生されたんじゃなく、森崎自身がパラサイトに、悪魔になった」

 

「森崎自身って、そんな事がありえるのか!?」

 

「ありえる…と言うか過去に似たような事が起きているんだ」

 

レオは知っていないが、光國は知っている。

自身の中にいるファントムが、どうやって生まれるかを。

 

「紀州の…和歌山辺りに存在する安珍・清姫伝説で似たような事が起きている」

 

「安珍・清姫伝説…聞いたことがないな…」

 

「どちらかと言えばマイナーだからな…あのハゲなら知っとるかもしれんけどな。

和歌山辺りに住んでいたとある貴族は修行僧に家を宿代わりとして提供していて1000年以上前はよくあることで、ある時、貴族は何時も通り修行僧に宿を貸したのだが、貴族の一人娘の清姫がその時に宿を借りた修行僧こと安珍に一目惚れをした。

そしてその日の夜に夜這いをかけたが、修行を終えた帰りには寄るからと言って、その場を凌いで次の日には清姫の家を出ていったのだが、安珍は帰ってくることはなかった。

帰ってくることはなかったのではなく、帰ってこない、つまり生きてるが家には来ない事にショックを受けた清姫は安珍を探しに家を出ていき野を越え、山越え、谷越えて、遂には安珍を見つけ出して、名前を呼んだが…人違いですと嘘をついた」

 

「最低ですね、その安珍と言うハゲ(坊主)は」

 

「深雪…問題はこの後だ」

 

胡散臭いハゲは胡散臭い坊主はダメな奴だと、知らぬ間に深雪の九重八雲への評価は下がっていった。

しかし、問題はそこではない。

 

「人違いですと嘘をつき、そこで清姫はハジけた。

怒りか、憎しみか、悲しみか、絶望か…どんな感情かはオレにも分からないし、多々異なる記録が多いんだが…清姫は邪悪な蛇になった…いや、炎を吐いているから龍の可能性があるな。

今の森崎は、ただの人から邪悪な蛇になった清姫と似たような状況にある…原因は言うまでもなく、オレだ」

 

光國は森崎を怒らせた、憎悪を抱かせた、絶望させた、負の感情は化け物を生む。

仮面ライダーウィザードに出てくる怪人ことファントムは魔力の高い人間が深い絶望に飲み込まれると自身の精神世界に生まれて、その絶望に諦めればファントムを生み出した人間が死に、そのファントムが現実に現れる。

違いはあれども、清姫やファントム、そして今の森崎は似ていた。

 

「終わったわ…光國…その…」

 

「ごめんな、リーナ…今度、デートしよう」

 

「手塚くん、死ににいくつもりですか!?」

 

森崎の状態を知ると試合に出ないでと言いたくて仕方なかったリーナ。

光國はなにを言いたいのかを理解したが、これは出なければいけないと前に進む。

そして着実に死亡フラグを建てにいく。市原は光國死すと感じてしまう。

 

「待ってください、手塚さんの推測通り森崎くんが妖魔になっているならもう対抗戦どころの話ではありません!!今の森崎くんは単純な足の早さやパワーは手塚さんやお兄様とは比較にならない程に上がっています!暴走する前に取り抑えなければ」

 

「深雪…手塚を止めるな」

 

「お兄様!?」

 

ファイナルセットへと向かおうとする光國を止める深雪だが、達也はやめるように言う。

悪魔化をしていた森崎を観察していた達也はあることに気付いていた。

 

「森崎は冷静を失っているだけで、理性は保っている。考える頭は残っている

悪魔化して以降も全くと言って反則行為をしていない、テニヌで手塚を叩きのめす殺意を抱いているだけで現に今こうして手塚の応急処置もすんなりと受け入れたのがその証拠だ」

 

今の森崎は、身体能力が大きく上がっているだけでなく魔法の力も大きく上がっている。

攻撃系の魔法を光國にぶつけることは容易い事だが、悪魔化以降そんな事を一切していない。

ボールをぶつけたりしているが、森崎は光國に対して魔法では一つの傷もつけていない。

 

「手塚…お前はそれを知るために、2セット目を落としたな?」

 

「なんのことだ?」

 

「お前なら知っているだろう風林火山の正体を」

 

「はぁ…森崎の観察をしていたんだ

途中から圧倒的なパワーやスピードに勝てなくなったが、それでも勝つことは出来た。

それでもしなかったのはあの状態の森崎がいったいなんなのかを知るため、もし何かの拍子で誰かに襲いかかったらおしまいだ」

 

行動力では勝てるかもしれないが、こういった細かな知恵や観察眼ではお兄様には勝てない。

光國はお手上げだとわざと落とした理由を語る。

 

「今の森崎は人と悪魔の境界線を立っている。オレがテニヌで勝てば、元に戻る…」

 

※ ツッコミは禁止です。

 

「森崎に試合で勝てば元に戻る。試合で負けても元に戻る…燃え尽きればいい」

 

人は恥ずかしくなったり怒ったりすれば顔を真っ赤にする。

怒りや羞恥心による激しいストレスでアドレナリン等の成分の分泌量が増えて血管内の血液の移動速度が上がったり、心拍数が上がったり、血圧が上がったり、血管自体が膨張したりするからだ。

今の森崎は怒りで堪忍袋の緒が切れるどころか堪忍袋自体が破裂し、怒りで色々なリミッターが解除されており、身体が真っ赤になるほど血液は素早く循環をしていた。

真っ赤になった森崎には、棄権せず補欠の達也に交代もせずに光國が最後まで勝負してスッキリさせるか【あやしいおくすり】のどちらかが特効薬だ。

 

「棄権や達也に交代をすれば、なにをするか分からない…」

 

尚、襲ってきた場合は仮面ライダービーストに変身をすれば終わる。

単純に変身する機会が無いだけで、彼は仮面ライダービーストだ。仮面ライダービーストならば怪人デビール・モブザーキを倒して魔力を食うことが出来るが、しない。

変身すれば、悪魔化した森崎よりも上になるのだがルール上反則なのでしない。

更に言えば緊急時以外は勝手に変身をするなと九島烈に釘を刺されており、変身するだけでも尋常じゃない程の想子を使う為、油断すればリーナから貰っている想子が直ぐに底をつく。

 

「話は聞こえていた…なにかあれば、直ぐに止めに入るから思う存分にいけ」

 

「言われなくても、分かっとるわ…」

 

コートへと向かい、摩利から右手でボールを貰う光國。

ラケットを左手で握ると、ボールを地面に叩きつけて弾ませる。

 

「左、だと…」

 

「オレは両利きだ…使えたらかっこいいなと一時のテンションに身を任せて覚えた」

 

「手を抜いていたのか…何処までもふざけて!」

 

両利きだと知った事により更に怒りが増す森崎。

光國がボールをトスするとラケットを構えて、動き出した。

 

「何時までも調子に乗るっ、なぁ!?」

 

「今のお前のスピードは短距離走の陸上選手以上だ、パワーはウェイトリフター以上だ、ボディバランスはサーカスのピエロ並みだ…ならば、打ち返す事の出来ないサーブを打てば良いだけだ!」

 

「15-0!」

 

構えもタイミングも全てベストだった森崎。

打ち返すべく、ラケットを振ろうとしたのだがテニスボールは弾むことなくネットに向かって転がっていった。

 

「これがオレの伝家の宝刀の真打…世界を制した最強の零式サーブだ!!」

 

「手塚ぁああああああああ!!」

 

「ゲーム手塚!1-0!!」

 

四連続の零式サーブの前に、なすすべがない森崎。

 

「よっしゃあ!これなら手塚の勝ちで」

 

「なに言ってるの、サーブは交互に打つのよ…サーブだけじゃシーソーゲームに」

 

「エリカ、心配は無用だ。

レオの言うとおりこの試合はオレの勝ちだ!」

 

森崎のサーブになり、新幹線の最高速度並みのサーブを打つ森崎。

光國は森崎の呼吸や、サーブの位置から何処にボールが飛んでくるかを予想し打ち返すとセンターマークへと立った。

 

「手塚、ダメだ!手塚ゾーンは引き寄せることが出来る技だ!そこから打ち返しても、森崎に返されるだけだ」

 

「ああ…確かにお前の言うとおりだレオ。

ボールを引き寄せるだけのこの技では、打ち返しても森崎に直ぐに打ち返されて抜かれて反応できない」

 

手塚ゾーンでは森崎を倒すことは出来ない。

防御の技で攻める技ではないとレオは言い、光國は認めた。この技では勝てないと。

 

「打ち返しても意味が無いならば、打ち返さなければ良いだけだ」

 

「アウト!!15-0!!」

 

センターマークに立った光國目掛けてボールを打ち返した森崎。

ボールは真正面を大きくそれて、シングルスのサイドラインとダブルスのサイドラインの間にボールが入った。

 

「ボールを引き寄せるんじゃなくて、ボールを追い出した…」

 

「手塚ゾーンを守る技とするならば、これは攻める技…手塚ファントムだ…」

 

「ゲーム手塚、2-0!!」

 

絶対に返せない零式サーブによりサービスゲームを奪い、手塚ファントムで打ち返して、森崎の球を無理矢理アウトにする。

 

「…リーナ」

 

「なに?」

 

「手塚は、あんな事をしていて大丈夫なのか…」

 

最強のテニスを見せつけるのだが達也はふと疑問を持った。

光國は手塚ファントムや零式サーブといった神業を披露する…魔法を一切使わずにだ。

 

「手塚ゾーンは引き寄せる回転を、手塚ファントムは追い出す回転をくわえている。

一見、対となる回転を全く同じようにかけているように見えるが実際のところは違う…手塚ファントムの手塚ゾーン以上の不自然なまでの回転をかけていて、腕にかなりの負担が…零式サーブはそれ以上に負担がかかるんじゃないのか…」

 

「ゲーム手塚!4-0!」

 

魔法を物理で再現しているならば、それ相応に身体に負荷がかかる。

そんなものを連発して問題ないのか気になった。

 

「ぐっ!!」

 

達也の疑問は直ぐに解決した。

4ゲームを奪ったところで、光國はラケットを手放してしまった。

 

「手が、滑って、もうたわ…」

 

「…やはり腕に、負担が…」

 

左腕の肘が真っ赤になっており、光國は息切れを起こしていた。

 

「リーナ、手塚の風林火山でまだ見せていない技はあるか?」

 

「葵吹雪とか白龍とか、色々とあるけど…それがどうかしたの?」

 

「今までで、一度でも手塚ファントムや零式サーブを連発した事はあったか?」

 

「……ないわ!

やり方だけ教えてくれた事があるけど…腕がもげるぐらい痛くて、ここぞと言う時しか使えないって…」

 

「…手塚ファントムと零式サーブは腕に負担がかかる。

高いスペックと豊富な技で攻めて、手塚ファントムと零式サーブはここぞと言う時に、勝負の分かれ目や流れを決める時に使う技で連発する技でもなんでもない…このままだと腕が」

 

「40-0!」

 

「はぁ…はぁはぁ…後、5球だ…」

 

後、1ポイントで5ゲーム目を奪えることが出来るところまで追い詰めた光國。

これが最後の零式サーブだと、ボールをトスして、サーブを打ったのだが

 

「ただのサーブだ…」

 

ボールは戻ることなく、普通のサーブで零式サーブだと思った森崎は反応すらしなかった。

 

「ゲーム手塚!5-0!チェンジコー、手塚くん!?」

 

「あか、んな…完全に腕が鈍っとるわ…」

 

真由美のコールが終わる寸前、光國は膝をついて左腕の肘をおさえる。

光國の左腕の肘は赤色を通り越して、紫色に進化してうっ血していた。

 

「ちょっち、休憩させて貰うわ…誰かに保冷剤かなんか持っとらんか?」

 

地面を這い、ベンチに寄ってくる光國。

立ち上がろうとはせず、ベンチに乗っている飲み物を右手で取って横向きにして飲む。

 

「ここまでか…七草!」

 

「十文字くん…ええ、そうね…摩利」

 

そんな光國を見て、決心をする十文字。

なにかを言わなくても真由美は察して、摩利も察して理解した。

 

「…第四試合!テニヌ、手塚光國くんの負傷により勝者」

 

真由美は立ち上がり、席から降りて試合終了の宣言をしようとした。

 

「勝手な真似をすんなや!!」

 

森崎の名前を言おうとした瞬間、光國は立ち上がりボールを真由美に向かって打つ。

しかし真由美は避けようとせず光國を見つめる。

 

「それ以上、腕に負担をかけてみなさい…日常で左腕を使うことも儘ならなくなるわ。」

 

「試合は手塚くんの負けかもしれない…だがここにいる一科生と二科生は手塚くん、君を見下さない。いや、手塚くんだけじゃない、試合に出た生徒全員をバカにはしないしこれから段々と二科生をそう言った目で見なくなる」

 

「お前はこんな所で終わるには惜しい男だ…」

 

下手すれば全国の魔法師全てを敵に回す事を行って、この対抗戦を巻き起こした。

三人が見なかった、知ろうとしなかっただけで魔法がそんなに凄くなくても一科生と戦える二科生が居ると証明をした。

第五試合まで持ち込めば、勝てる可能性があり、そうなるようにうまく調整をした。

真由美、摩利、十文字は光國がすさまじいと評価した。ここで、もう一科生と二科生の対抗戦どころの騒ぎじゃない第四試合で腕が使い物にならなくなるのは惜しいと止めに入るが

 

「こんな所で終わるやと……こんな所ちゃうわわオレはな、当の昔に終わっとるんや…」

 

光國は自身が今放てる最高の殺気を三人に向けて、数歩後退させて隙間を作り、その隙間を通ってコートに戻る。

 

「審判としての職務を放棄するんやったら、セルフや…こい、森崎」

 

肘をうっ血させ激痛が走り、立っているだけがやっとの筈の光國。

 

「うぉおおおおお!!」

 

「リーナ…どうして手塚さんは棄権をしないの?

確かに手塚さんが負けることは二科生の敗けで、二科生の敗けは心を入れ換えようとしている一科生や前を見て歩き出した二科生にとっては重要だけれど…それでもまだ次があるじゃない…」

 

もう充分に働いた。なのに、試合をやめない光國。

森崎を悪魔化させた責任感から試合をやめないのではないと深雪は思った。

いや、深雪だけではない。選手全員が、審判の三人がそう思った。

 

「森崎に対する悪魔化させた責任感はあるけど、そこまで大きくはない…光國は喜びと覚悟で戦っているのよ…」

 

「喜びと覚悟?」

 

「…光國は、ただの一般の家の人間よ。

経済的苦痛、貧乏って言う私には…いえ、私達には余りにも縁遠い世界の住人。

光國は貧しいからどうしたと、恵まれた肉体があるんだとテニスをはじめて油断をすれば痩せるほどに激しい練習を重ね、小学生の日本一になってプロに君なら確実にプロになれると誉められて…プロのテニスプレイヤーの道を閉ざされたのよ…」

 

魔法師は海外に簡単にはいけない。

あの手この手と色々な手段を用いてやっといける。こっそりと潜入している奴等もそれなりにいるが、正規の手段で海外に行くのは簡単ではない。

本当に遠慮の塊レベルの魔法力ならば、そこまで気にする必要はないが魔法科高校を卒業することが出来るレベルならば話は別である。

 

「欲しくもない力を手に入れて、魔法師にならないといけなくなった。

今まで必死になって努力をして世界一になったのに、欲しくもない力を手に入れてしまったから諦めて魔法科高校にいかないとダメになって…光國は死のうとしたわ…」

 

「手塚さんが自殺を!?」

 

「ええ…生きたくないって、生きることを嫌がっていたわ。

その時はなんとかどうにか出来たけど、魔法師になんてなりたくないって魔法師に対して偏見的な目を持っていて…って、昔は思っていたわ…けど、世間は魔法師達に厳しくて偏見的な目で見ていた。ある程度の力を持っている魔法師達はそんな偏見で厳しい世間と向き合おうとはしていないって思うことがあって…嫌がる光國の気持ちが分かったわ…」

 

「くっ、そ…」

 

「5-3だ!」

 

意地で打ち返すが、手塚ファントムが使えない光國。

自身と同じ見た目をしているあの男は、手塚国光は全国大会の決勝戦で何度も何度も手塚ファントムを連発していた。零式サーブを連発していた。

手塚国光の物真似をした男は何度も零式サーブを使った、何度も手塚ファントムを打ち続けた。

物真似をした男も手塚国光も零式サーブと手塚ファントムがちゃんと通じていたら6ゲームを奪い取れていた。しかし光國はそれが出来ない。

 

「三年間のプランクなんてのは言い訳か…」

 

東京の中学に転校して以降、テニスを遊んだりするだけで全国区や世界レベルの実力者と戦うことなかった為に出来たプランクが原因で埋められない差を言い訳にはしない。

自身の鍛練が甘かったと考える。

 

「光國は喜んでいるのよ。

テニスが出来ることを、自分の唯一の自慢を活かすことが出来るのを。

テニスを楽しむ心は忘れてしまったけれど、テニスが出来る喜びは世界中の誰よりも強い。

それと同時に背負っているのよ…レオにエリカにミズキにヨシヒコにミブを」

 

「私、達を…」

 

「対抗戦を言い出した自分が負けるのだけはダメだと思っている。

追い詰められて、自分が負ければ終わるこの状況でもし負ければ力を貸してくれた人達の魔法師としての人生はこれから先、石を投げられるだけになる。

だから、試合に負けるのも負傷を理由に棄権するのも絶対にあってはならないと勝たないといけないって勝利への執着心を出しているのよ…その為なら、二度と使えない可能性があっても覚悟を決めて光國は戦うわ」

 

「余計な、ことをいうな…」

 

ベンチに戻ってきた光國。

ドリンクを飲もうとするのだが、空になっており中身がなかった。

 

「手塚くん…」

 

「壬生先輩は自らを犠牲にしたんや…レオ達も、深雪やリーナと言う大きすぎる相手で無謀だと思われてる中で引かずに戦った…が負けたんや…もう、もう二度と使えない、使わない、日に当たることのないオレのテニスでお前達がどうにか出来るならば…いや、元より覚悟は出来ている…失敗すれば終わりなんやぞ…お前等の覚悟は、そんなもんやったか…」

 

ドリンクが無いと分かればコートに戻ろうとする光國。

 

「待って、手塚くん!」

 

「なんすか、壬生先輩…」

 

「…油断せずに、頑張ってね」

 

「…ええ」

 

壬生は最後まで見届ける事を決めた。

 

「……そのサーブ、消えるぞ」

 

コートに戻るとアンダーサーブを打つ光國。

打つ際にボールを回転させており、バウンドしてから森崎の手元で大きく外側にそれるが

 

「消えるサーブはない!!」

 

「ああ、消えることはない…」

 

森崎は難なく打ち返した。

この程度のサーブで抜けるほど、今の森崎は甘くはない。打ち返すと信じていた。

 

「まだ、右は終わっていない」

 

ラケットを左から右に持ち変えて、零式ドロップを使った。

 

「15-0だ…次だぁ!!」

 

再び左に持ちかえてアンダーサーブを打つ光國。

森崎は打ち返すと同時にネット際までやって来た。

 

「下がダメなら上だ!!」

 

「遅い!!」

 

ムーンボレーで打ち上げるが、最高到達点まで魔法を使わずに跳んでダンクスマッシュを決めるが

 

風の攻撃技(クリティカルウィンド) 葵吹雪!」

 

そのスマッシュをスマッシュで打ち返した。

 

「30-0!」

 

「高く飛んだり滞空時間を上げたりする魔法はあるが、直ぐに自分を落下させる術式は入れてなかったようだな…残り二回…ふん!」

 

森崎を倒すまで残り僅かなところまで追い詰める光國。

ここに来て、まだ衰えない200キロ越えのサーブを打つのだが

 

「ぐぅう!!」

 

森崎は打ち返すことをしてこなかった。

それどころか、痛みに苦しんでいるようで必死になって耐えている。

 

「まさか……」

 

森崎の精神よりも身体に限界が来た。

2セット目の悪魔化以降、常にトップギアの状態で試合をしていた森崎。

アドレナリンが切れ、血管が血流速度に耐えられなくなり、体中に激痛が走ると同時に皮膚の色が徐々に徐々に戻ってくる。

 

「…まだ、終わりじゃないぞモブ崎!」

 

ここで森崎の棄権負けは嫌だ。

零式サーブを打とうとするのだか、ただのサーブになってしまった。

 

「僕は森崎だぁあああ!!」

 

痛みを気力ではね除けた森崎。

ラケットを水平にして、ガットではなくグロメットの部分を使い打ち返し

 

「っ!?」

 

光國のラケットを弾いた。

 

「がぁっ!!」

 

それと同時に体中の力が抜けていく。

充血していた皮膚も目も元の色に戻り、激痛が更に増す…が

 

「手塚の、腕は…もう、おしまいだ」

 

左腕で持っているラケットを弾いた。

悪魔化しても弾くことの出来なかったラケットを弾くことが出来た。

ラケットを弾かれるだけでも腕にかなりの負荷がかかり、左腕がうっ血している光國には致命傷だった。

 

「やるやないか、森崎…暫くは左腕は使われへんわ…」

 

「く、そ…」

 

死にかけの左腕を使えなくなっても、ラケットを遠くに弾かれる威力を受けても尚、ボールに回転を加えており、打ち返した光國。

ゆっくりとゆっくりとボールは森崎のコートに向かい、ネットにぶつかるとネットの上に乗り、森崎のコートに落ちた。

 

「…会長、コールをお願いします」

 

「ええ…ゲームアンドマッチ!手塚、2-1! 6-0、5-7、6-3!」

 

市原の頼みを聞き入れ、試合終了の宣言をした。

 

 

 

第四試合 テニヌ

 

二科生 手塚光國 ○ 一科生 森崎駿 ●

 

 

 

「森崎…」

 

腕は痛むがなんとか体は動く光國は、森崎の側に立ち寄る。

森崎は意識が朦朧としており、暫くしたら気を失うと判断したので今しかないと言葉をかける。

 

悪魔(デビル)化を、使いこなせるようになってこい。

使いこなせないままならば諸刃の剣で、自らの身体を痛めるだけだ…だが、使いこなせるようになったら、お前はオレや達也…いや、クソハゲこと九重八雲も体術で圧倒出来るようになる…本当に使いこなせるようになったら今度はテニヌじゃない、殴りあう系統の競技で本気で戦ってやる…それまではお前と二度と勝負はせえへん」

 

「待ってろよ…次は絶対に、絶対に勝ってやる…」

 

森崎はゆっくりと目を閉じ、意識を失った。

それと同時に拍手が一科生と二科生から送られるのだが

 

「お前等、まだ試合は終わってへんねんから拍手喝采するなや!!」

 

これまだ第四試合であった。

終わりな感じの良い雰囲気になっているが、最後の団体戦が残っている。

 

「壬生先輩、たっぷりと休めましたよね?」

 

ベンチに戻った光國。

自分以外の出場選手の中で最も疲労している壬生を気にかける。

 

「私はもう、大丈夫だけど…」

 

「左腕は、暫くは使えません。

だけど右腕と足はまだ残っています…なによりも、壬生先輩やヨシヒコ達がいるんですよ…ちょっと休みますね」

 

もう無理だと選手の観覧席で寝る光國。

森崎が担架で運ばれていくのを見ていると、オジイが光國のラケットを持った。

 

「ガット、破れてる…もうちょい丁寧に扱いなさいよ…」

 

最後の森崎の一撃でラケットが弾かれた時にガットがきれいに破れている。

オジイに作って貰ったばかりだと言うのにと申し訳ない気持ちになる光國だが、ふと視界に入るオジイを見て疑問に思った

 

「オジイ、どうやって入ってきたん?」

 

美月とヨシヒコはトイレにいっていた。

その帰りに迷子のオジイに出会ったのだが、その時は既にオジイは中にいた。

厳重な様で全然厳重じゃないこの第一高校にどうやって入ってきたか気になった。

 

「…入れてぇもらったよ?」

 

「………あ、やべ、忘れてた……」








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