「大分予定より遅れているわね」
九校戦が開催される富士演習場南東エリアにやって来た第一高校の面々。
リーナは時計を確認すると、当初の到着予定時間よりも大きく違うことをぼやく。
「オレとお前が居なくても、同じ事になっていた…市原先輩、怒らないでください、殺気を向けないでください」
「では、早く教えてください…」
「その前にチェックインよ」
仲間外れで怒っている市原に怯えながらもホテルに入る光國達。
「…ま、そんなもんか…」
既に他の魔法科高校の生徒達はチェックインを済ませていて、その辺をフラフラと遊んでいたり、自身が出る魔法競技に向けて調整をしていたりする。
そんな中で騒動を起こした第一高校が遅れてやってくると何様か、もしくは偉そうにと色々と不満を持ち視線を向ける。
と言っても、それは家が凄い大きい家の魔法師ではなく桐原みたいな家の生徒達だけで、遅刻した理由ことバスの事故を名字に数字がある生徒達は知っていた。
「あ、光國くん!」
「…ヨシヒコ達と…紗耶香先輩?」
「だから、幹比古だって言っているだろう!」
自身の部屋を探していると、何故かいる紗耶香。
ヨシヒコ達は色々とコネを使って来ているのは知っているが、紗耶香が居ることは知らなかった。と言うか、万が一として出るなと忠告をしている
「光國くんが出ているなら、試合を見に行かないとってちょっとコネを…それに、ただ試合に出るだけじゃないみたいだし」
「…とりあえず、チェックインをして良いですか?」
余計なことをし過ぎたのだろうかと光國はチェックインを済ませ、自身の部屋に入る。
『コネクト、GO!』
「…それ、便利ね…」
コネクトで服等の必要な物一式を取り出す光國。
紗耶香は羨ましそうな顔で見る。
「悪いが、オレ専用や…部屋まで来てもらって悪いけど、外で歩きながら話すで」
『グリフォン、GO!』
今度はプラ・モンスターグリフォンを起動させる光國。
探してこいと言うとグリフォンは部屋の窓から飛んでいった。
「あの、今のは?」
「ざっくりと分かりやすく言えば、使い魔…魔法で動かすロボット…的なの…」
「…さっきから、サラッと凄いことばかりし過ぎです!!」
初めて見たコネクトだけでも充分凄いのに、魔法で動くロボット。
しかも難しい事をせずに出来ている優れものと、光國がちょっとでも本来の魔法を使う度に驚かされてばかりの市原は限界が来た。
「だから、使用制限されとんねんぞ…ホンマに市原先輩みたいな人に捕まっとったらまだまし…あ、無理やな…とにかく、外でなんか摘まみながら…何処に誰が居るのかが分からん」
グリフォンが見えなくなると部屋を出て、九校戦開幕までまだまだあるから軽くぶらつくと言い、ホテルを出た光國達。
ぶらついている雫達と遭遇しない様に意識しながら歩き、光國は説明をする。
「タイム、リープですか…」
「ええ…信じなくても良いわよ…タイムリープの原因が分からないと、している奴をどうにかしないとまた時間を巻き戻されるかもしれない、そうなったら光國と私しか覚えていないから…」
九校戦に参加せずに夏休みを遊び続けていたら、発足式の日に戻った。
その事を教えるのだが、やはり信じて貰えないと落ち込むリーナ。
「いえ、信じます…信じさせてください」
嘘だと疑う気持ちはあるが、世間に見られると言う大きなリスクがあって出ないと言い続けた光國。
そんな光國がわざわざ九校戦に出ると言ったのだから、信じないわけにはいかない。
「どうしてタイムリープをしているかは分からないけど…九校戦に出ることで正しいの?
光國くんとリーナだけがタイムリープをしているとは限らないし、こう言うのって相手が分からないとなにも始まらないわよね?」
九校戦に出ることが正解とは限らないと言う疑問をぶつけてくる紗耶香。
「いえ、これで合ってると思うわ。
何度も何度もタイムリープをしていく際に何度かニュースを見たけれど…この九校戦以上に凄い出来事は夏休みには無かったし…」
「とにかく、相手側がアクションを仕掛けてくれないとなにも始まらない。
ここから2、3回ほどループする覚悟は出来ている…また説明をしないといけないのか…まぁ、とにかく相手側がなにもしないならしないで普通に第一高校の代表として勝つ…とその前に遊ぶ」
頭の切り替えは大事だと光國は財布を取り出し、ご当地名物の料理の屋台が並んでいたり大手のチェーン店のアンテナショップ等がある通りを歩く。
「オレが全部出すので、頼んでください。
すみませ~ん…えっと、グランデバニラノンファットアドリストレットショットノンソースアドチョコレートチップエクストラパウダーエクストラホイップ抹茶クリームフラペチーノ…リーナは?」
「チョコレートクリームチップショットヘーゼルナッツシロップバニラシロップキャラメルソースチョコレートソースエクストラホイップエクストラチップを一つ」
「じゃあ、私は…ベンティバニラアドショットチョコレートソースアドチョコレートチップアドホイップマンゴーパッションフラペチーノで」
「……市原先輩?」
リーナと紗耶香は注文したが、まだ注文していない市原を気にする光國
「あの…その…アイスココアで…」
注文の仕方がイマイチ分かっていなかった市原はモジモジしながらアイスココアを注文した。
「「「(可愛い…)」」」
三人の気持ちは同調した。
それぐらいまでに市原は可愛かった。
そして、市原以外が一日に必要な摂取カロリーを一杯で摂取したことに気付かない。
「…ところで、大丈夫なの?
光國くんは親とか友達とかに見られたくないから出たくなかったんでしょ?
仮にタイムリープから抜け出す事は出来たとしても…その、御家族と」
魔法師の才能を持っている人や、魔法師を受け入れる普通の人、魔法大学の生徒に魔法科高校のOB、汚い大人…そして保護者である。
他の魔法科高校の生徒と大人が仲良くしているのを見て紗耶香は光國が恐れている事を聞いた。
「手塚くんの御家族は…魔法師が嫌いなんですか?」
「…少なくとも、魔法師は周りに居ないのが当たり前の環境やった。
オレや周りの奴等は魔法師がどうのこうの言う奴等じゃ無いけど…世間が避ける様に魔法師も避けている…ホンマに何処かで向き合わんと…ここに来ている魔法師じゃない人達は魔法師を受け入れる人達や…魔法師がどうのこうのよりも数年間家に帰らずの息子が危険な場所で危険なことをしている、そっちの方が問題や」
曖昧な答えで返す光國は何処か寂しく悲しそうな顔をしていた。
これ以上は掘り下げないでおこうと紗耶香は聞くのを止めた。
「正直な話で言えば、仮に来たとしても一緒に歩きたくない…父親と一緒に歩くのは恥ずかしいし」
思春期らしい恥ずかしさがあるんだと良いものを見れた紗耶香達。
この後は普通に飲食通りを回ったりして、楽しみ夕方になるとホテルに戻り代表選手一同はまだ変わっていない制服に着替える。
「第一高校…アレって二科生?」
一高から九高までの親睦を深める懇親会。
やはりと言うべきか、達也と光國とエリカは浮いてしまっていた。
「っふ…」
「何故、お前はドヤ顔で居られる?」
浮いてしまっている光國は疎外感を感じないが何故かドヤ顔のリーナ。
「もしかして、一科生に勝った二科生って」
「これをドヤれずにはいられないわ…」
「ところで、彼処にいるのって徳川の埋蔵金を引き当てたクドウ?」
「…」
光國が凄い奴と見られていることが嬉しいリーナだが、徳川の埋蔵金の事を言われると顔を真っ赤にする。
有名の度合いと顔と言う意味ではお前の方が遥かに上だと光國は笑う。
「やれやれ、そんなに私達が珍しいのかしら?」
ノンアルコールシャンパンが入ったグラスを片手にやってくるエリカ。
二科生が代表選手として出席していると言う視線が気になっている…だが、そこには嫌だと言う負の感情は無い。
「一高では達也やエリカが良いカンフル剤になっている。
全ての道はローマに通ずる宜しく、この道は魔法師に通ずると何らかの道を探しだした者もいれば諦めた奴もいて、全員が全員何処かスッキリしている」
「そうね…段々と評価されるようになってきたし、此処で良い成績を出せば他の人の希望になれるわ…私が最後の希望よ…なんちゃって」
希望好きだなと思いつつも、ウェイターから飲み物を貰う光國。
「希望なのは良いが、来年は勝て」
結局のところはまともに勝てたのは一人もいない。
光國は勝てたけど、色々とやっていたので勝てなかった。
壬生が使った策はもう二度と使えないし、余り使うのはよろしくない。
「お前も西城もヨシヒコも柴田も全員負けたんだ」
「っぐ…」
「森崎と剣術一位の男から勝ち星を奪えて、一年で上から数えて直ぐの成績の奴等と互角に渡り合えただけでもよしとする…訳にはいかんぞ」
浮かれるなと釘をさし、人気の無い壁際に立って静かにする光國。
リーナも側に寄る。自分と光國は一緒だと示すかの様に胸の谷間で腕を挟む。
「少しよろしいでしょうか?」
さっさと出てこいクソジジイと考えていると、第三高校の女子生徒が声をかけてきた。
「なにか用かしら?」
「貴女ではなく、そちらの方に」
「オレか?」
他の学校の生徒達はエリカや達也には一切声をかけていないので意外だと驚く光國。
女子生徒はリーナを見ずに、じっと光國を見てくる。
「貴方は一科生に勝った生徒でしょうか?」
「…え、聞いちゃうの?」
第三高校は名前を出したが、第一高校は試合結果のみを発表した。
成績の悪い二科生が奇跡の逆転勝ちと言う結果を彼女というか第一高校以外のこの懇親会に参加している生徒全員が気になっていた。
今まで居なかった二科生の代表選手と言うだけでも驚きで、我慢できなかった彼女は対抗戦に出たと見る光國に聞いた。
第三高校は二科生に位置する生徒達が調子に乗らない様に、対抗戦をした。
結果は大勝利、一切の慈悲無く全勝した。だが、第一高校は圧勝とかではなく互角以上だったと知れば、気になって気になって仕方ない。
「勝ったけど、なにか問題でもあるのか…えっと」
「一色愛梨よ、ほら、エクレール」
「あ~はいはい…クリプリスとかと同じクソダサ中二病的な二つ名がある一色愛梨か…どーも、テニスの王子様です…」
リーナから説明を受けるとほくそ笑みを浮かべる光國。
実際問題、ダサいと、二つ名がついているのはクソダサい(偏見)
「誰が…中二病と?」
静まる懇親会の会場。
愛梨は明らかに怒っており、光國を睨んで圧迫する。
「…そう呼び出した奴だ…っと、そろそろか」
「っ!」
全くといって自分を気にしない事で更に怒りが増していく愛梨。
一言ぐらいなんか言ってやろうとするのだが来賓者をはじめとする偉い人達からの割とどうでも良い祝辞が始まり、なにも言えなかった。
そして大体の偉い人達からの挨拶を終えると一番偉い人こと九島烈からの挨拶
「お前達、ちょっと身構えておけ」
「分かったわ」
「なんですか、急に」
「ええから、やれ」
となる筈。
ほくそ笑んでいた光國は真面目な顔をして臨戦態勢に入った。
するとどうだろうか、会場の電気は消えて九島烈が居る所にスポットライトがついた。
「誰!?」
スポットライトがついた所には九島烈は居なかった。
その場にはドレス姿の女性しか立っておらず、どういうことかと愛梨は驚く。
達也と真由美、そして精神干渉が効きにくかったり、視力強化とか見えないものが見えるようになる魔法とかが使える数名の生徒は気付いた。
九島烈はそこに居るのだが、居ないように誘導する魔法を使用している事に。
女性に集中している為に意識が九島烈には向かなかったりするのだが
「テロリスト、くたばれやぁああああ!!」
「ぐふぉあ!!」
光國は九島烈目掛けてライダーキックをした。
変身も魔法も一切使わずに渾身のライダーキックをくらわせた。
ライダーパンチ?…魔法使いはライダーパンチ使用禁止だ!!
「閣下!?」
「なんだクソジジイか…」
九島烈はちょっとしたお茶目な事をしようとした。
本当に悪意なんてなく、見抜ける奴がいたら面白いなと言う感覚でやった。
このバカとリーナが居ると言うのに油断をしていた。そして光國はクソジジイがサプライズをやるのを知っていた。
日頃の恨みを憎しみをぶつける唯一のチャンスだと全力で九島烈を蹴り飛ばした。
「おいこら、クソジジイ!!
こんな大事な場でアホなことしてんじゃねえぞ、近年危険なの増えてるんだぞ!!
どうせアレやろ、自分がテロリストなら固まってるお前達何時でも殺せた的な事を言うつもりかもしれんけど、テロ擬きはアカンやろ…予告なしの避難訓練は心臓に悪いんやぞ!!」
そして胸ぐらを掴み叫ぶ光國。
あの九島烈に対して、蹴りをくらわせただけでなくクソジジイ呼び叫ぶ。
その光景を見た魔法科高校生達は衝撃し、固まった。
「ふ、ふふ…確かにちょっとしたサプライズをしようとした。
しかし、残念だ…君以外はまともに動こうとすらしなかったのだから」
「クソジジイ、そう言う問題ちゃうで」
掴んでいる手を放すと壇上に戻る九島烈。
マイクを手に取り、ペコリと頭を下げた。
「他にもなにかして来ると思ったが、一人だけだったとは…戦場では命取りだ」
「戦場ではやろうが…TPOを忘れたのか、認知症クソジジイ」
「さて、知っての通り近年魔法師と一般人には溝が出来ている」
日頃の恨みを憎しみをぶつけてきたことが予想外だが、慌てない九島烈。
直ぐに脳を回転させて、光國への反撃手段を思い付く。
「これから先、魔法師はか弱い一般人に手を差し伸べなければならない…故に人間力が高くなければならない。
高貴な者は高貴な者同士で、下等な者は下等な者同士で交流をと言う考えをしているがそれは違う。
高い位置に立っていれば、分からなくなることが多い、その逆もだ…だからこそ、下の者との交流は必要だ。下の気持ちと言うものを知って上に立たなければ、本当の意味で一人前にはなれない。下の者も上を知り、上の苦労や努力を学んでほしい」
良いことを言っている様に見えるが実際のところはただの人を下に見ているクソジジイ。
しかし、此処にいる大半がエリートで、ただのエリートではない。名家のエリートばかりでお上の存在。世に言う勝ち組だ。
他の人のおめでたいなどと言う祝辞の挨拶とは違うのと、第一高校の一科生と二科生の対抗戦で二科生が勝利したと言う事実もあって、心に響く。
「そして、明日のレクリエーションだが…詳しいことは明日、彼が説明をする」
「え、ちょ」
言うまでもないが、そんなのを光國は考えていない。
自身の手元に置いているが、予想外の事をする
九島と言う存在が余りにも大きく、勝てないと見抜いているから首輪で繋ぐことは出来ているが、油断すると手を噛まれる。とにかく暴れる。
世界中の魔法師が畏怖し尊敬する自分を裏ではなく堂々とクソジジイと呼んで、研究に協力してるんだから金寄越せと堂々と言うのはあのバカだけである。
インターネットと言う誰にも止めることの出来ない諸刃の剣を使って、魔法科高校及び魔法師の意識改革をさせるなど、自身とは異なる視点で見ているためにちゃんと言うことを聞いてくれれば良いのだが、あのバカは言うことを聞かない。
同情をして監視役になったリーナも今ではあの状態、九島の名を持つ自慢の孫と関わらせなくて良かったと今日ほど思う日はない。確実に悪影響だ。
そして当人は知らないが、孫娘の方は完全に影響を受けていた。
「君達が将来考えなければならない事を深く考えさせ、乗り越えさせる事が出来る面白いレクリエーションだ」
口も悪く性格も悪く、学力も悪くはないけどなんとも言えず魔法力も悪くはないが何とも言えない光國。偏見的な目で社会を見ており、独自の価値観や思想を持っている。
物凄い天才は常に必要だが、物凄い馬鹿も時々必要だ。物凄い馬鹿は枠をはみ出したり壊したりして天才が出来ない事をする。
ああいうのは時折必要で、どうにかして動かせないかと1つ試す。
「このクソジジ…!」
全員が全員、九島烈と自分を見ているそんな中、真由美も達也も、九島烈の魔法を見抜いていた他の生徒は気付いていなかった。
光國もそんなに意識をしていなかったし、成果らしい成果は出ておらずまだかと思っていたが
『ギャオウ』
プラ・モンスター ブラックケルベロスが偶然目に入って、頭が一瞬だけ真っ白になった。
『…』
ブラックケルベロスと一瞬だけ目が合うと此方に来いと首を後ろに二回向けて、懇親会の会場を出ていった。
「…覚えとけよ、全力で嫌がらせしてやる」
「ちょっと、光國何処に行くの!」
「レクリエーションの仕込みだ…後で何名か手伝って貰うぞ!」
特になにも考えていないが、この場で懇親会の会場を抜け出すにはうってつけの理由だった。
全員が全員、光國が出ていくのを見ていたのだが誰一人追いかけようとしなかった。
「さて…どんな答えを見せてくれる?」
九島烈は光國に期待をしていた。