「今のって、手塚の風林火山じゃないのか!?」
エリカが光國の技を使い驚くレオ。
光國の技は難しいものが多く、エリカが見せたそれは最早、真似と呼べるレベルでは無かった。
どういうことか驚いていると、エリカから湯気と言うか目に見えるレベルのオーラが溢れ出る。
「柴田さん!」
「この状態でも見えます!」
その光景を見て、ザワつくが第一高校の面々はこれと似たものを知っている。
ヨシヒコは柴田に確認を取ると、眼鏡をつけた状態でも見えると言う柴田。
「エリカ…君も使える様になったのか…百錬自得の極みを…」
エリカから溢れ出るオーラは百錬自得の極みとそっくりだった。
百錬自得の極みはCADを介さずに使える古式魔法の一種で、発動条件がかなり難しい…魔法師ではなくスポーツ選手としての才能が大きく関わる魔法なのだが
「待て、幹比古…様子がおかしくないか?」
達也はただ一人、気付いた。
光國の百錬自得の極みと似てはいるものの、一ヶ所にオーラは集まっておらずただただ放出されており、なにも言わないまま、ひたすらに試合をプレイしていた。
「エリカちゃんが五人!?」
「アレって、アイツ等の技じゃねえか!?」
謙夜や光國の技を使ってだ。
「ど、どうなっているの?」
「…」
急にプレイスタイルが変わり、困惑をする愛梨。
常人ならばなにも出来ないがその状態でも打ち返すのは流石と言うべきだが、徐々に徐々に押されていく。
「…そうか、無我の境地か!」
「レオ、なにか知っているのか?」
「前にオジイから聞いたんだよ。
テニスにも魔法があるなら、登山にも魔法が無いかって…流石に登山は無いって言われたから直ぐに諦めて、テニスの魔法を聞いたんだが、それをするには無我の境地に入っていないとダメなんだ。
無我の境地に入った人は、頭で考えて動くのではなく身体が実際に体験した記憶などを含め無意識に反応して最善の手を打つ…だから、様々なプレイスタイルを再現する事が出来るって」
「オジイ…いったい、なんなんだオジイは」
オジイの謎はさておき、不規則なプレイスタイルに精神での反応が追いつかない愛梨。
詰める事の出来なかったエリカとの差が徐々に徐々に縮まっていき、遂には抜かれてしまう。
「いける、これならエリカちゃんが!」
「クラウド・ボールの新人戦は男子女子両方とも第一高校のもんだ!!」
これならば勝てると喜ぶ美月とレオ。
しかし、達也やヨシヒコは余り良い顔をしない。
普段のエリカとはかけ離れており、体には物凄く負荷が掛かってしまっており、ボロが出ないか心配をしている。
「…え、ちょ、待て!?」
体を激しく回転させるエリカ。
「あ、アカン…アカンぞぉおおおお!!それはワシの佰八色よりも危険や!!光國はん、なんちゅうもんを教えとるんや!!」
「うそだろ!?」
エリカの動きがなにか分かるのか大きく叫ぶ吟。
吟の真の力を知っている達也を除く二科生達は大きく慌てるがもう遅い。
射出された七個目のボール目掛けてエリカは大きく飛んだ。
「っ!?」
これでもかと言うぐらいに遠心力などを加えてスマッシュを決めたエリカ。
技名がダサいとかそんなのは関係無い。これはまずい、これは危険だと愛梨の本能は言っており、愛梨の精神は迎え撃つではなく、避けることを選択しボールを避けた。
するとボールは壁に激突して樹脂の箱を貫き地面にぶつかって破裂すると同時に樹脂の箱、全体に亀裂が入った。
「なんて、威力なの…!」
七個目のボールが木っ端微塵になった事に驚きを隠せない愛梨。
もしアレを真正面から受けてしまったのならば返せなかったと心で敗けを認めてしまうのだが
「愛梨、まだ終わっていないわ!!」
「逆転出来るぞぉ!!」
愛梨の友人である四十九院と十七夜が励ます。
まだ逆転のチャンスはあると、点差は開いたが戻せると。
愛梨はその言葉を聞いて諦めるかと立ち直ってボールを打ったのだが
「しまいや…」
コートの内部に光國が入ってきて、愛梨の打った球をキャッチした。
「なにをしているんですか!?」
「だから、おしまいや…千葉」
コートに急に入ってきた事に驚く愛梨だが、光國は気にせずにエリカの方に振り向く。
すると、担架を持った二人の運営委員がやって来てエリカの側に近寄るとエリカはラケットを落とす。
「………っ、いったぁああああ!?」
ラケットを拾おうとするエリカだったが、上手く拾えず、力強く無理矢理ラケットを握ると叫び声をあげた。
それを聞いた運営委員と光國は顔を合わせて頷いた。
「…千葉…いや、エリカ…腕の骨が折れとる…全く、派手な技ばっか使うからや。この分やと、足の筋繊維もズタズタちゃうんか?」
魔法である程度の誤魔化しは効くものの、エリカの身体能力や技術じゃ再現できないものを無理矢理再現しており、体にはかなりの負荷があり、最後の超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐が折れる決め手となってしまった。
「第一高校の千葉エリカ選手、負傷により試合続行不可能と見なします!
第三高校の一色愛梨選手は既に第一高校の里美スバル選手に勝利をしております!よって!」
第三高校 一色愛梨
「後、もうちょいやったのになぁ…」
「っ!!!」
試合はエリカの優勢だった。
第一セットに関しても、上手くやっていた。スポットと言う盲点をついてきた。
しかし、腕が折れてしまっているのならば仕方ない…と愛梨は受け入れる事は出来なかった。
「こんな、優勝…」
どう考えても、エリカが優勝だと憤怒する愛梨。
しかし、どうすることも出来ない。優勝を譲ることは出来ない。
「…さっきまでは良い表情だったのに、また面白く無い顔をしているぞ?」
「っ…貴方がそれを言いますか?」
「…まぁ、言えた義理じゃないな。
取り敢えず、コートを変えたりするからさっさと出るんだ…勝ったもんが勝ちやぞ」
友人に励まされて挑んだ時の顔とは全く異なる愛梨の表情。
試合を見ている側の光國からすれば面白く無いとしか感じれなかった。
「エリカが腕一本を折ったんだ…此方もそれ相応の事をしないと」
樹脂の箱の入れ換えとコートの整備が終わると、次は男子の新人戦決勝。
第一試合、第二試合ぶっ続けで光國はしなければならないのだが特に気にしない光國。
愛梨でも見えるレベルのオーラを体から放出する。
「貴方も、それを…」
「一緒くたにされては困る…千葉のは序ノ口、まだ最初の段階だ」
「…百錬自得の極み…じゃないわね…」
百錬自得の極みを見たことがある紗耶香。
今の光國が使っている魔法が百錬自得の極みとは異なっており、一ヶ所に燃える様なオーラが集まっておらず、全身にオーラを纏い頭の所にキラキラと眩い光があるだけだった。
「無我の境地の三つの奥義の一つ…才気煥発の極みだ…」
名前だけを教えるとコートの中に入る光國。
対戦相手と向かい合い、ラケットを持っているのを確認すると目を閉じて
「89-18…と言ったところか」
なにかを宣言すると、第一セットがはじまった。
「いや、違うな108-13だな」
ラリーをはじめている最中、また別の数字を言う光國。
何時も通りのプレイで先程の女子の試合と比べれば派手さに大きく掛けるのだが
「それ以上は、ボールが入らんぞ」
対戦相手が13ポイントに達して以降、次のポイントが入らない。
光國のポイントだけ増えていき、13ポイント以降、1ポイントも増えず
「クラウド・ボールでも問題無いようだ」
108-13 WINNER 手塚光國
「さて次は…88-23か」
インターバルを一旦挟み、始まる第2セット。
光國は先程と同じく、試合がはじまると同時に数字を言う。
そして勝つ、その数字と同じスコアで、88-23で光國は勝利をした。
「まさか、未来が見えているのか…」
言った通りの点差で勝利をする光國。
まるで未来でも見えているかのように動いており、未来予知をしているのかと達也は考察をしていると
「そんなもんじゃないわよ」
「リーナ!?今の今まで何処に居たのですか!」
今まで姿を現さなかったリーナが現れた。
「アイス・ピラーズ・ブレイクの最終調整をしていたのよ。
ギリギリになって戦法とか色々と変えていたのよ…光國の才気煥発の極みは未来予知じゃないわよ…ふっ!」
「!」
リーナは達也に拳を振るった。
達也はそれを受け流し、拳をリーナの顔に当たらないギリギリのところで止める。
「リーナ、なにをしているの!?」
「大丈夫よ…私もタツヤも全く当てるつもりが無いのだから、でしょ?」
「ああ…」
リーナが達也を体術のみで、一撃で倒すのは不可能だ。
それと同時に達也もリーナを一撃で倒すのは不可能で、絶対に何回か殴っておかなければならない。次の手に続く一撃を入れて次の手に続く動きをしなければならないのだが、二人とも一切していない。
「私が右に動いたら、タツヤは左?右?
もし右動いたら、次は私が少し後退してタツヤは前進?距離を取って攻撃?」
「…なにが言いたい?」
「相手がこう動けば、自分はこう動く。
そしてどうすれば勝利できるか、戦略パターンを瞬時に読み取り、最短で最高の一手を生み出す究極の奥義…それが才気煥発の極みよ…因みに将棋だと240手先までが限界らしいわ」
「240手先だと…」
相手の動きを瞬時に読み取り理解をする魔法、才気煥発の極み
絶対予告からは逃れられるには光國と同等かもしくはそれ以上の力を持っていなければならない。しかし、対戦相手…いや、男子のクラウド・ボール出場者で光國よりも強い存在はいない。
「最後だ…122-0」
光國の絶対予告の運命から抜け出す事は誰も出来ず、光國は勝利した。
優勝者 第一高校 手塚光國
「さぁ、油断せずにいくぞお前達」