魔法科らは逃げれない。   作:アルピ交通事務局

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巻いてくよりも、尺を埋める方が難しい

リーナを医務室に残し、人気の無いところにやって来た光國と響子。

幸いと言えば良いのか、お兄様は負けた深雪を励ましており絶対には現れず、他の面々もリーナの元へ向かったり、男子の決勝戦を見たりと大忙し。

 

「どういうつもりなの…ビーストドライバーをリーナに貸して」

 

「借りたいって言ったから貸した」

 

「そんな理由で…どうしたの、光國君?

今までの君なら、そんな事は絶対に許さないのに…白い魔法使いに出会ってからおかしくなっていない?」

 

「おかしいか…」

 

自分と同じ転生者がいたことにより、少しだけ救われた気分になっている。

それと同時に今まで抑えていたものが、我慢していた物が光國はゆっくりと解放されていた。

だから、色々と分からなくなって来ていた。

 

「オレは、見つかってない」

 

「…なにがなの?」

 

「魔法師になりたくないけど、なったけど何も見つかってないんや。

仕方無いって受け入れて、今まではリーナと一緒に歩んでいたけども…なんも見つからん。

…響子、さんはなにをすれば良いと思いますか?オレ、これからどうすれば良いかなにも見えない…見えてた筈なのに…」

 

どうすれば良いのかが分からない。

ポケットから1と書かれているバッジを取り出して、無言で見つめてから強く握った。

 

「それは?」

 

「昔取った杵柄…U-17の代表召集を受けているんですよ…今年は、日本で開催です」

 

「なら、行かないと…それぐらいなら、閣下も」

 

「それだとダメなんだ!」

 

日本で開催するならば、九島烈はそれぐらいならと許してくれる。

しかし、光國にとってはそれぐらいならと言う問題ではない。今後を大きく変える問題だ。

 

「やれやれ、何時まで踞っているつもりだ?」

 

「っ、白い魔法使い!?」

 

「ワイズマンと呼んでくれ」

 

そんな彼を見限る事無く白い魔法使いとして仁王は現れた。

日本語を喋っている事に驚きながらも、身構える響子だが白い魔法使いの目には写っていない。

 

『シャラップ、ナウ!』

 

「少し黙っておけ…」

 

「!…!?」

 

喋っているのに声が出ない響子。

因みにだが、未使用音声ながらも白い魔法使いドライバーにはシャラップと言う音声は入っている。

 

「なんの様だ?」

 

「会うのはコレで最後だ…だから、一つだけ聞いておきたい事がある」

 

懐からミラージュマグナムを取り出した白い魔法使い。

武器としてはそこそこ使えるが、それでもあることをどうしても聞いておかなければならない。

その為ならば失っても良いと覚悟の上で疑問をぶつける。

 

「何故お前は絶望をしていない?」

 

仁王はかつて絶望をした。

自分を失った事により絶望をし、それを一人で乗り越えた。

誰かの笑顔とか希望になるとかそう言ったありがたい感じのものは無い。生きるしかないと自力で乗り越えた。そして魔法を手に入れた。

同じとは言わないが似たような立ち位置にいる光國。自身よりも知恵のある彼はどうして絶望をしないかを、ファントムを産み出していないのが気になった。気持ちの切り替えが上手かったのか、それともそんな事を考えていないのか、気になっていた。

 

「絶望しているに決まっているだろう。

今頃オレはお前より…お前の様な胡散臭い魔法使いよりも上の人間だったんだぞ?」

 

危うく白い魔法使いの正体を言いかけるが誤魔化した光國。

絶望に関しては既にしている。魔法師じゃないと落ち込んだが、直ぐに立ち直り二度目の人生を謳歌しようとして、明確に見える優秀な結果を残したのに無駄になり輝かしい三年間が無くなってしまった。楽しい日々があったが、それでも自分の大事な物が奪われた事には変わり無い

 

「…はぁ、そう言うことか」

 

光國が絶望をしていない理由に気付いた仁王は呆れた。

自分に呆れた。光國が動くのに必要な物がなんなのか気付いた、そしてもう動くのに必要な準備は済んでいる、九校戦に手塚光國を連れて来た時点で既に仕込みは出来ていた。

 

「…次に会う時は、どうなんかな…」

 

仁王はミラージュマグナムを光國に託すと背を向けるとテレポートで消えた。

 

「光國君…彼の正体を知っているの?」

 

そして仁王が居なくなった事により、喋れるようになった響子は仁王との関係性を聞いた。

互いが互いを知っているかの様な会話をしており、既に仁王と繋がっていると感じる。

もし、繋がっているのならば正体を教えて欲しい。誰かの手に渡る前に保護をしなければならない。

 

「知っているが、保護なんてしない方が良い……戦略級魔法師や特殊部隊を引き連れても、いや、多分、魔法師である限りは勝てない…コレから先を生き抜く為には保護なんてされない方がしない方が互いに得になりますよ」

 

全くと言って戦っていないが、光國は分かっている。

変身をする前に殺す以外は仁王を倒す術はない事が。様々な魔法を巧みに扱い、最悪の場合は時間を巻き戻す事もできて、戦士のベルトすらも持っているチートっぷり。

勝つためには何処かにいるかもしれないコウモリ擬きが持つ闇の鎧辺りを使わなければならない。魔法使いでは神には届かない。

 

「さて、オレの仕事は終わりだな」

 

白い魔法使いは暫くは会わない。

数分後、トイレで仁王と遭遇して気まずくなるがなにも言わずに時が過ぎる。

原作通りモノリス・コードで森崎が悪魔化をする前にやられてしまい

 

「俺達になにか御用で?」

 

達也と一緒に三巨頭に呼び出された。

そうなる予感はしていたのだが、呼び出されてしまった。

 

「森崎くん達が」

 

「だが、断る!」

 

集まったのを確認をすると口を開いた真由美。

なにを言うのかが分かっている、予想通りだと光國は先手を打った。

 

「…まだ、なにも話していないでしょう」

 

「舐めるなよ、元会長、会頭、風紀委員長。

森崎とモノリス・コードと聞けば大体は予想出来る…代理で出場しろと言うんやろう?パスや、パス」

 

森崎達本来のモノリス・コード出場者が相手の不正により出れなくなった。

出れなくなった事は仕方無いのだが、全種目優勝を狙う第一高校はそうは行かない。

代理を光國と達也ともう一人と考えているのだが、光國も出る気は最初から無い。達也も呼び出された理由が分かれば、出るつもりは無いと断るつもりだ。

 

「待て、手塚」

 

「選ばれた義務とかそんなのは知らん…でなければ、オレはさっさと謙夜達とU-17の会場に向かっている…と言うよりは、モノリス・コードのルールが悪すぎる。放つ魔法は不得意だ…」

 

言葉による説得をしようとしてくる十文字にも先手を打つ。

仮に心に訴えかける説得をしても、心を閉ざす事が出来る光國には通用はしない。

光國の説得は無理かと達也に視線が向くのだが、達也も出るつもりは無い。その事を伝えようとするのだが

 

『第一高校、七草真由美、第一高校、七草真由美、第一高校、手塚光國、第一高校、手塚光國、第三高校、一色愛梨、第三高校、一色愛梨、至急九校戦運営本部まで御越しください。

繰り返します、第一高校、七草真由美、第一高校、手塚光國、第三高校、一色愛梨、至急九校戦運営本部まで御越しください』

 

「…オレはこれで」

 

突然の呼び出しをくらった。

こんな呼び出しは原作にはなかったが、使える物は使わせて頂く。

呼び出しを理由に出ていった光國と真由美。達也も便乗して出ようとするが、出れず、出場しろと迫られていた。

 

「本当に、出るつもりは無いの?」

 

「…逆に聞くが、オレがマトモに戦っている光景を見たことありますか?」

 

「…無いわね…」

 

何だかんだと目立っているには目立っている光國。

しかし、まともに殴りあう感じの事はやっていない。

テニヌやクラウド・ボールと言った常に自分の得意な物と関連するもので戦っており、戦闘らしい戦闘は見た覚えはない。と言うか、剣術部にボコボコにされていただけだ。

 

「オレは最初から魔法業界は向いていないんです…善良なる一般人なんで」

 

「魔法師は一般人じゃないわ」

 

意見や考え方は異なっているが、大きな騒ぎにはならず本部までやって来た光國と真由美。

そこには既に愛梨と他の高校の生徒がいて、その生徒は男子のクラウド・ボールの本戦の優勝者だった。

 

「全員、来たか」

 

全員が揃った事により、沈黙を解いたのは何故かいる九島烈。

 

「閣下、この面々はいったい…」

 

「第一高校の負傷者が出た為にモノリス・コードの試合が続行不可能になった…」

 

集められた意味が分かっていない真由美。

九島烈は立体映像型の端末を使い、テレビでの九校戦の放送時間を見せる。

 

「知っての通りこの九校戦は国が動き、企業が動き、個人も動く、大きな行事だ。

故に莫大な迄の金が掛かっており、何処かの予定が崩れると大きな損害になってしまう…」

 

「もう、そう言うの面倒やから早く答えだけ言えよ…」

 

説明なんてしなくても大体は分かっている。

回りくどい事なんてせずに、ド直球の答えを言って欲しい光國。

イマイチ、なにをするのか分かっていない三人はなんの事か分かってはいない。

 

「モノリス・コードで第一高校が負傷し、出れなくなった。

第一高校はまだ他の高校と戦う予定があったが、負傷により出来なくなった。

代理で別の選手を出場させるにしても、今日中にはどうあがいても出れない…その為に余ってしまう…九校戦の尺が、生放送の為にどうやっても放送時間が余ってしまう」

 

大分汚い話をしているが、尺は余っているのは確かだった。

九校戦を生放送していて森崎達の負傷により尺は余ってしまっており、その辺をどうするかは原作では一切語られていなかった。

 

「そこで、クラウド・ボールの新人戦と本戦の優勝者が戦うのを急遽、企画した」

 

語られていない盲点をついてきた九島烈。

クラウド・ボールの優勝者同士の激突をするのにちょうど使えると考えた。

 

「何故、クラウド・ボールなのですか?」

 

「アイス・ピラーズ・ブレイクの優勝者である一条はモノリス・コードに出る為に出来ない、バトル・ボードとスピード・シューティングは設備の用意に時間がかかってしまう…それに、男女分けず共に参加出来る競技にはクラウド・ボールが一番だ」

 

愛梨の疑問を最もらしい答えで答えるが、光國は分かっていた。

魂胆が余りにも見えすぎていた。

 

「時間が余り無いのでリーグ形式ではなくトーナメント形式で行い、一位のみを決める。

第一試合が、男子女子の本戦優勝者同士の対決。第二試合が男子女子新人戦優勝者同士の対決、そして第三試合が勝ち進んだ新人王と本戦の王者との対決だ」

 

九島烈は調子に乗っている光國をどうにかする方法を考えた。

自身がどうこうしたところで、この男は従順にはならないし、余計な事をしないようにもならない。自身が大きすぎるから、ダメだと考えた。

手塚光國をどうにかするには手塚光國が最も得意とするもので、同世代の誰かが完膚なきまでに叩きのめすのが一番だとクラウド・ボールのエキシビションマッチを行う事にした。

十師族の七草真由美、師族候補十八家の一色愛梨、この二人を連続で相手しなければならず、確実に手塚光國の反抗心の息の根を止める事を確信していた。

 

「男子女子の新人戦王者同士の対決…」

 

そんな意図を知らない愛梨は対戦相手の光國をチラリと見る。

クラウド・ボールの女子の新人戦で優勝はしたものの、実力で勝ち取った優勝ではなかった。

本当の意味で優勝をするには、手塚光國を倒さなければいけない。七草を越えなければならない。

ミラージ・バットの本戦を控えている彼女はこれを好機と捉えた。不燃焼だった気持ちが再び燃え上がった。

 

「…相手にとって不足は無いな」

 

断る理由は無いし、逃げる様にここにやって来た。

エキシビションマッチがあるから出れないと言う理由にもなるので、光國は試合を受けた。

自身を全力で潰す配置になっているが、逆に此方が全力で潰してやろうと考えていた。


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