魔法科らは逃げれない。   作:天道無心ビームサーべ流
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稲妻には避雷針

「え、エキシビションマッチ!?」

 

大会運営本部から帰って来た光國からとんでもない事が語られ驚くリーナ。

テレビの放送時間の尺を埋めるべく、優勝者同士のクラウド・ボールを行うと。

 

「…手塚くんを潰しに来ていますね?」

 

九校戦で一番地味な競技と言っても良いクラウド・ボール。

優勝者同士の対決ならば他にも出来る競技があるのに、わざわざそれを選んだ。

女子の優勝者同士の対決とかがやろうと思えば出来るのに、わざわざ選んだのは光國を潰すためだと考える市原。

 

「だろうな…だが、それがどうしたんですか?」

 

光國は特に気にせずに靴紐を整えていく。

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍ですよ…」

 

どの業界でも勝たなければ意味はない。負ければそこで終わりだ。

その事を語る光國だが、心なしか楽しそうに見える。

 

「…光國、楽しそうね?」

 

「まぁ、ただ見物しているよりはましだからな…自分の試合以降はなにも無かったりするのは、案外キツい」

 

柔軟運動をする光國から、楽しいと言う感情を読み取ったリーナ。

今の光國は体を動かすことが楽しいから、楽しいと思っているのではない。

光國はクラウド・ボールが出来ることを喜んでいる…本当にしたい事の代わりで妥協して喜んでいる。

 

「…結局、行かないのですか?」

 

「なにがですか?」

 

控え室で準備を終え、光國と共に会場へと向かいながら市原は聞いた。

ずっと、光國を待っている友達の事を。

 

「U-17ですよ」

 

「ああ…出たいかどうかと言われれば出たいですよ。

ですが、出れば余計な未練が出来てしまいます…さっき、元会長が言ってましたよ、魔法師は一般人じゃないって。あの馬鹿元会長の事ですから、自分達は選ばれた存在ではなく、強い力を持った人の義務とかそんな感じで言ったんだと思いますが…オレも市原先輩も一般人じゃないんすよ」

 

「っ!」

 

真由美はノブレスオブリージュの精神で、強い力を持つ者は力を持つ代わりに果たさないといけない義務があると、強い力を持つ魔法師は一般人じゃないと考えているのだろう。

それならば、必要の無い強い力を持っている者は、中途半端な力を持っている者はどうなるのか?少なくとも、彼女のまわりにはそう言った者はいない。彼女のまわりにはいるものは全員が全員、望んでこの業界にいるかもしくはそれが当たり前の者だ

真由美自身には特に悪意は無いのだろう。ただ、そういう風に教育されて、そう言う風に思う環境があったから、そんな考えを持ってしまっただけだが…

 

「そう、ですか…」

 

目の前に真由美が出会ったことの無い異なるタイプの人が居るので、市原は強く拳を握る。

上に立っている存在は十師族は余りにも力を持ちすぎた。政府に使い捨てにされない為とは言え、力を求めるあまり変な方向に進んでいる。

 

「どうにかしないと…」

 

些細な疑問から光國についた市原。

真由美の様に選民主義でもなんでもない人格者ですらこの様な事に危機感を感じた。

今はなにもすることは出来ないが、何時かはと強く誓って会場へと出る。

 

「完全に消化試合扱いだな…」

 

第一試合と第二試合を同時進行をすれば尺埋めの意味はない。

本戦の優勝者同士で戦っているのだが、真由美が圧倒していた。十師族と一般の魔法師は違うと教えるかの様に圧倒している。

今までの対戦相手と違い、ポイントを奪うことが出来ているがそれでも格が違うのが分かり、見ている観客達も消化試合を見ている感覚だった。

 

「お見事です、元会長。司波くんが居なくても、大して変わりませんでしたね」

 

「それはどういう意味かしら?」

 

「そのままです…」

 

「リンちゃん…変わったわね」

 

「はい、変わりました…お陰で色々と見ることが出来ました。それでは」

 

ペコリと一礼をして光國の後を追いかける市原。

背にも目にも迷いはない。今の彼女は十師族に反逆しようと手を伸ばされると、簡単に彼の手を握る。

 

「ミラージ・バットの本戦があるようだが、問題ないのか?」

 

「ミラージ・バットは明後日です…敵同士、お喋りはしません」

 

準備をしている間、愛梨を心配する光國だが敵意を向けている愛梨。

光國が試合に全くと言って集中をしていない事に苛立っており、塩を送るような真似をしているので少々気が荒くなっている。

 

「…はぁ、つまらない顔…いや、それはオレも同じなのか?」

 

「…何度も何度もそれを言いますが、つまらないとはどういう意味ですか?」

 

「ナンパ対決の際にクリプリスに言っただろう…オレ達は都合の良いときだけ大人扱いとガキ扱いされる最悪な年頃だが、大人の勝手な理由に巻き込まれていてどうする?負けてるぞ、お前は」

 

「私が、負けている…」

 

いったいなにに対して自分は負けているのか分からない愛梨。

光國はそんな愛梨を見て、観客席に居る筈のリーナを探す。

 

「あ…リーナ!!」

 

「なに、光國!!」

 

「ちょっと、渡しておきたいものがある!」

 

「え…え…え!?」

 

コレから試合が始まると言うのに、直前になって渡しておきたいものがある。

それはつまり、古来から男と女の契りを結ぶアレを渡したいと言う事なのだろうと考える

 

「ま、待って、光國。

確かに婚姻届にサインはしてもらっているけど、そっちはまだ早いわ!

それに、私はそう言うのよりも貴方と過ごす時間の方が大事だから…まぁ、色々と堪能したし、そう言うのもありっちゃありだけど…」

 

顔を真っ赤にしてモジモジとするリーナ。

今まさに死亡フラグを光國と一緒に築き上げている自覚は一切無い。

そして、光國はそんな物を用意はしていない。

 

「お前はなにを言っているんだ、そう言うのはもっと場を読んで渡す」

 

普段から変な事ばかりしている奴が言う台詞ではないが、誰もツッコミを入れない。

結構マジな空気を出しており、何時も腕に巻いている包帯に触れる。

 

「リーナ、アレってなんなの?」

 

魔法科高校の制服は長袖で、ノースリーブなんてありえない。

それ故に部活動の活動ぐらいでしか見せない光國の薄着なのだが、エリカが知る限りは光國は常に腕に包帯を巻いていた。

怪我をしているのかと思いきや、零式サーブや手塚ファントムと言った、常日頃から鍛えているリーナやエリカが腕もげそうなぐらいに高度な技術を使いこなしている。

魔法式を刺青の様に入れているのかと思いきや、帰りには銭湯に向かっている。

 

「さぁ…気付けば、包帯を巻いていたから」

 

リーナも包帯を巻いている理由を知らない。

包帯を巻き出したのは、徳川の埋蔵金を堀り当てた後で中身を見せてと言っても見せてくれない。無理矢理包帯を取っても、カメレオウィザードリングの魔法で常時透明化している。

 

「オレが渡すのは、ヘソクリだ」

 

包帯を外す光國…包帯を巻いていた腕には黄金のガントレットが装備されていた。

 

「徳川の埋蔵金をベースに、競艇で現金を増やして作り上げた…ここぞと言う時のヘソクリだ!大穴が当たったら凄かった!」

 

ガントレットを外した光國はリーナに向かってガントレットを投げる。

鉄の以上の重さを持つ純金のガントレットはかなり重い物だが、軽々しく投げる。

 

「重っ!?」

 

ガントレットを受け取ったリーナだか、余りにも重かった。

投げられた事により重さが加わったのもあるのだが、ただ単純に重かった。

 

「あ、結構重いわね!?」

 

近くにいたエリカは純金のガントレットを手に持ち、重さに驚く。

光國の腕に巻かれていたのはガントレットはかなりの大きさで、そこそこ分厚くて一つで数キロの重さがあった。

 

「ふぅ、軽いな…いや、違うな。違和感しか感じないな…三年間もつけてたんだからな、当然か」

 

「あの、手塚くん…森崎くんの時もそれを?」

 

「はい…つけていましたよ。

悪魔化した森崎をどうにかするを第一に、第二に勝利だったので…お陰で滅多うちにされたが」

 

「…問題ないですね」

 

光國を全力で潰すべく、クラウド・ボールのエキシビションマッチが行われる。

流石の光國も真由美と愛梨が相手ならばと思っていたが、純金のガントレットを見て、光國が負けると言うのが想像できなくなった。

 

『これより、クラウド・ボール王者特別試合第二試合を行います!』

 

クラウド・ボール新人戦王者同士の対決が…はじまるのだが

 

「っ!」

 

光國は才気煥発の極みを発動していなかった。

五試合フルに使っても問題の無い、息一つ乱さなかった才気煥発の極みを発動せずに普通にボールを打った。

自分に対して、魔法を使わないとはどう言うことかと愛梨を苛立たせる。

 

「そっちが、その気ならば此方も最初から飛ばしていくわ!」

 

怒った愛梨は最初から本気で行く。

精神で認識した物を、神経ネットワーク等を介さずに肉体を動かす稲妻(エクレール)を発動するのだが

 

「動かざること、山の如し」

 

「!」

 

打ち返したボールが地面につく前に光國の手元に引き寄せられていく。

風林火山の山、手塚ゾーンを発動して稲妻が落ちる場所を限定して打ち返す。

 

「鉄壁のディフェンスを誇る風林火山の山をお前に破ることが出来るか?」

 

「破ること…これはテニスじゃなくて、クラウド・ボールよ!」

 

最もな事を愛梨は言うと、天井にボールをぶつける。

これにより、ポイントが愛梨に入るのだが一瞬だけ気が緩んでしまい

 

「え…」

 

気付けばボールは愛梨の横を通りぬけていた。

 

「…手塚ゾーンを破らない方向で来たか」

 

手塚ゾーンのタネは本家の手塚ゾーンと一緒だ。

そして破る方法は本当に簡単な事で、手塚ファントムが出来ないクラウド・ボールでは最も効果的な物なのだが、愛梨はそれに気づかずに真っ向から抜くのを止めた。

 

「そちらがそのつもりなら、此方も行かせて貰う」

 

愛梨は直ぐにボールを拾い、打った。

それと同時に二個目のボールが射出され、愛梨はボールを打ち返しに行くと光國もそのボールを打ち返し、所定位置につく。

 

「どうした、オレがなにをしているか気になるのか?」

 

自分の横を普通に抜き去った光國のボール。

認識阻害系の魔法を使っているのかが気になるのだが、考えている暇はない。

手塚ゾーンを破る方法を考える愛梨。あの位置からは動けない、いや、動けないならと精神で動きを命じる。

 

「これなら!」

 

「ボールの速度を変えてきたか」

 

愛梨は打ち返したボールの速度を変えた。

手塚ゾーンで光國の手元にボールは引き寄せられてしまうのならば、それを利用する。

打ち返したボールの速度を変えることにより、最終的に光國の手元に同時に来るようにするのだが

 

「悪いな、オレは十球同時に打てる」

 

光國には意味が無かった。

ボールを同時に二球別方向に打ち返したが、愛梨は直ぐに打ち返す。

 

「そろそろ行くぞ」

 

白熱するが、光國の有利に進む試合。

愛梨は天井にボールをぶつける事を考えるのだが、それをやればまた真横を抜かれるかもしれないとラリーを続けるのだがポイントが中々に動かない。

 

「!」

 

そして三個目のボールが射出され、光國が動いた。

いや、違う。光國は動いていない。仕掛けはしたが動いておらず、愛梨は一個目と二個目のボールは打ち返すことが出来たが三つ目のボールに関しては無反応だった。

 

「稲妻の正体は、精神で肉体を動かすこと。

感じたものを考えて肉体を動かすのではなく、感じたものをそのままに体を動かしている…なら、感じさせなければ良い…大きすぎる弱点がある魔法だ」

 

考えるんじゃない、感じるんだ。

それを文字通り成し遂げるのがこの稲妻なのだが、弱点は普通にあった。

使うには知覚した情報が必要であり、それがなければ動くことが出来ない…感じることが出来なければ良い。

 

「透け透けだぞ、お前の弱点は」

 

「なんで…」

 

稲妻は知覚した情報を脳や神経ネットワークを介さず直接精神で認識する魔法と、動きを精神から直接肉体に命じる魔法の二つで成り立っている。

何処からでも知覚する事の出来る魔法は組み込まれておらず、ちゃんと死角は存在していた。

 

「ただただ、お前が気付かない死角を見つけただけだ」

 

「!?」

 

死角は分からないから、死角だ。

本人ですら分からない死角を見抜き、的確に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「氷の世界」

 

 

 

 

 

 

 

クラウド・ボール新人戦女子の部、愛梨は対戦相手を圧倒していた。

実際に戦ったものは、あんなの反則だと言った。まともに勝負が出来たのはエリカだったが、稲妻を破ることは出来ず無我の境地等の技術で戦っていた

 

「そこで諦めていて良いのか?」

 

「!」

 

敗北を頭に浮かべた愛梨だったが、光國の言葉により直ぐに頭から消した。

自分のコート内にあるボールを全て集めて打ち出すのだが、光國の縮地により全て拾われる。

 

「スゴい…スゴすぎるわよ…」

 

これもまた消化試合だと思っていた観客達は、盛り上がる。

稲妻の異名を持つ愛梨を圧倒する光國にエリカは驚くしかないのだが

 

「甘いわね、まだ光國は本気を出していないわよ」

 

まだまだ光國は手を抜いていた。

重りを外したことにより、スピードやパワーが全て上がっている。

 

「今の光國は佰八式波動球すら扱うことが出来るわ。

それを打つだけで、アイリはボールを打ち返すことが出来ず…当たりどころが悪ければ、腕は折れるわ」

 

貴女の様にねとリーナはエリカの折れている方の腕を見る。

威力はあるが腕に負担がかかる波動球、最後の最後まで取っておくつもりなのかと見守る。

 

「あの、手塚さんってどれだけ強いんですか?」

 

あの状態でもまだまだ手を抜いている光國。

森崎の時と言い、光國と言う男の実力に底がほのかには全く見えない。

 

「決まってるじゃない…世界一よ…」

 

光國の強さを聞かれれば、これしか答えはない。

優しさも強さも兼ね備えている、自分にとってはなによりも一番で世界一の男だ。

 

「…でも、それでもプロのテニスプレイヤーには…」

 

「…」

 

しかしそれでも、無理なことはある。

海外が主流のテニスのプロは、今の世の中だと魔法師はなれない。海外で働く系の魔法師は御国勤めの国家公務員ぐらい。

雫がその事を呟くと空気が物凄く重くなった。

 

「流石に、この数だと死角はつけないみたいね!」

 

そして第1セットは終盤を迎える。

八個目のボールが出てくるのだが、七個目のボールから死角をついた攻撃をしてこない光國。

愛梨は360度あらゆる方向への移動とボールが増えた事により、死角がつけないと感じるのだが

 

「そんなわけないだろう」

 

死角は普通にあった。

だが、わざと狙っていない。愛梨が天井を狙ったりするので、ポイントに大きな差は出来ないので勝負を決めるときまで停滞をさせていただけだ。

 

「氷の世界は死角をつく技だが、目を閉じれば、視覚系の魔法を使えば破ることは出来るし、死角自体が無い人間はいる。

オレの風林火山の山を作り上げている手塚ゾーンで無理矢理ボールの動きを変えるのも一つの手だ…だから、その先を見せてやる」

 

光國の元に引き寄せられていく八つのボール。

所定位置から光國は八方向へと打ち分けていくのだが

 

「跪け」

 

「誰が、跪きぃ!?」

 

一球目のボールはちゃんと打ち返したのだが、二球目に向かおうとした愛梨は転けた。

炎天下の中で行われるラリーで汗をかいて足を滑らせたのではない。愛梨が無理矢理な動きをした為に転けてしまった。

 

「お前は精神で肉体を動かしている。

本来必要な脳や神経ネットワークを通さずにやっている…だから、気付かない。

お前が打ち返すことが出来る一球は、わざと打った、打ち返せることが出来た一球で、残りはお前が打ち返すことが出来ない、頭では、いや、精神では理解することが出来ても関節や骨格が反応は対応することが出来ない絶対死角に打った…無理矢理肉体を動かしたお前は転けたんだ」

 

「……」

 

死角をつくだけでなく稲妻だからこそ気付かないものがあると完全に真正面から愛梨を打ち破った光國。

今まで僅差だったポイントが徐々に徐々に開き、光國は愛梨の死角と絶対死角を捉えて差をつけた。

 

「手塚…いや、アカンな。流石にこれは黒歴史やな…うん。

気付くことなく全てを凍てつかせる氷の世界…を抜けたその先には待ち構えし、絶対死角の氷の王国…」

 

九個目のボールが射出されるが、勝負はもう決まってしまった。

愛梨は必死になってボールを打ち返すが、一球だけしか打ち返せずに残り全ては絶対死角のボールで打ち返すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「氷帝王国(キングダム)、皇の前にひれ伏せ」

 

 

 

 

 

「そこは手塚王国(てづかおうこく)じゃないんかい…」

 

試合を楽しく見ている仁王は、一人だけツッコミを入れたが誰も意味は理解していない。

 

 

クラウド・ボール 特別試合 第二試合

 

 

第1セット

 

 

手塚光國 ○ 一色愛梨 ●

 

 

88-54

 

 

「さぁ、油断せずに掛かってこい」

 








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