魔法科らは逃げれない。   作:アルピ交通事務局

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羽ばたく野獣

「…行くの?」

 

ミラージ・バット新人戦も終えて、七日目の競技は全て終わった。

光國は衣服等の荷物を整理しており、部屋へとやって来たリーナは光國の服にNo.1のバッジを見て気付く。U-17の日本代表として、出場するべく此処から出ていくのを。

光國は九島の手によって魔法科高校に入学させられ、大学の進路も決められていたが、もう思い通りには、言いなりにはならないと覚悟を決めた。

 

「オレはオレなりに頑張ってみることにした…ただまぁ、今までなにもしてなかったからな、三年先の稽古になるよ」

 

「三年先の稽古って…それ相撲じゃない。そこまでしないといけないの?」

 

「そろそろ、未来は分岐点に差し掛かるからな…遊んでられないよ」

 

「分岐点って、どういうこと?」

 

「歴史の転換点。

百年戦争とかローマ帝国とか産業革命と同じ、世界が大きく変わる時が間もなくやって来る。

22世紀に入るべく、今の世の中が大きく変わる出来事が…ブランシュもこの大会を利用して裏でコソコソとしている連中も、その序章に過ぎない」

 

「ちょっと待って!」

 

大きく変わる出来事が起きると語る光國。

確かにここ数年で大きな事件が多くて世の中は荒れ放題で、荒れるに荒れている。

この時代を制した者こそ、コレから先の22世紀を勝ち組として生きることが出来る。

そう言われれば分かるのだが

 

「まだ、コレから先も事件が起きるの?」

 

テロリスト、違法賭博に続く第三の事件が起こると言うことだ。

学校がテロリストに襲われるよりも大きな事件が起きると言う事実に顔を青くするリーナ。

どうにかする方法は無いのか聞いてみるが、そんなものは何処にもないと光國は言う。

今のリーナは光國と物件を探した際に、紹介された物件の大半が事故物件だと言われた時と同じぐらいの心境だった。

 

「だから、大きな分岐点になる。

リーナ、覚えているか?オレが、死のうとした日の事を」

 

「覚えているけど…」

 

昔を思い出すリーナ。

自分のはじめてのキスを捧げた時の事を。あの時と比べて、光國も自分も大きく成長した。

あの時の出会いは自信にとって大きな転換点だったと言える。ただの人と関わることにより、見えない世界が見えるようになり、自身の価値観等が大きく変わった。

常識とは18最までに身に付けた偏見だが、その中でも魔法師の常識は大きく偏見的であり、あのままだったら変な使命感やプライドが出来ていたかもしれない。

まぁ、今も絶賛変な使命感はあるし、光國の助けにならなかった事は悔しいのだが。

 

「あの日、あの時…お前は話を一切聞こうとしなかった。

今後、リーナが生きてく上で役立つ情報を教えようとしたんだが…覚えていないか?」

 

「…覚えているけど…光國が居るから、聞かないわよ」

 

あの日、あの時、置き土産を残そうとしたがリーナは聞かなかった。

重要な事を伝えようとしていたのを覚えているが、リーナにとっては印象が薄かった。

 

「だって、そんな事を知らなくても私は幸せだもの」

 

満面の笑みを見せるリーナ。

これからすることを考えると、光國の心は痛くて仕方なかった。

 

「あの時、オレは分岐点の鍵を教えようとした」

 

「鍵?」

 

「ニコラ・テスラとかフランシス・ドレイクみたいな、キーマンだ。

世の中を動かすためにはそう言った存在が必要で、オレはそれが誰なのかを知っている…が、もう教える必要は無くなった」

 

鍵の正体は言うまでもない、司波達也だ。

リーナは形はなんであれ達也の味方であり続ければ、裏切らなければリーナは幸福になれる…筈だと思っていたのだが、少しだけ考え方が変わった。

このままじゃダメなんじゃないかと光國は考えている。

 

「…リーナ」

 

「なにかしら?」

 

「リーナは魔法師じゃなくても、問題無く生きれるか?」

 

「…どうしたのよ、急に?」

 

「これ以上、魔法師と深く関わって良いのかなってな…魔法師と結婚して、魔法師の力を持たない子供が生まれたら大変だなと」

 

キマイラが居るので、魔法が使える光國。

もしキマイラが居なければ、普通の人である彼はもし誰かと一緒になって、力を持たなかったらと考えるが、リーナは呆れる。

むしろ持っていない方がリーナからしたら、嬉しい事だ。今のこんな世の中じゃ、魔法師は戦う以外はなにも出来ないのだから。

 

「ああ、そうだ…ビーストは絶版だ」

 

「え?」

 

リーナと語ることはもうないと、光國はその言葉を最後に部屋を追い出す。

そして何時でも出ていける荷造りを終えて、7日目の夜を終えて8日目に入る。

 

「…で、なんでまだ行かないの?」

 

8日目になったのだが、まだ普通にいた光國。

関西方面に行くことが出来るバスは普通にあるのに、光國は呑気に朝食を取っていた。

 

「最後の仕上げと言うか、一個だけ気になる事がある…バタフライエフェクト」

 

「…まぁ、確かに私と光國が居たから…大分変わったわね」

 

一つの小さな異変や亀裂がやがて大きく変化を起こす。

森崎の優勝と言う本来無いことが起きても、準優勝と優勝は大差変わらない。

リーナと言う存在は雫が本来入る枠を使っているので、特に問題はないのだが光國は別である。本来存在しない存在であり尚且つ、その存在が既に無かったエキシビションを産み出した。

 

「…なんかもう一個あるはずだ…この九校戦、裏でコソコソとしている連中がいる。

そいつらがなんらかのアクションを仕掛けてくる…いや、既に仕掛けているんだが……」

 

光國は今すぐにでも向かいたいのだが、向かうに向かえない。

仮面ライダービーストを絶版にする為には、九島に絶版したと見せ付けなければならない。

その方法は時が来ればやって来るらしいが、何時かを教えてくれない。仁王も代表なので、チンタラしていられない。

どうしたものかと考えるのだが、特になにも浮かばずにただただ時は流れていく。

本来の道筋通りに勝ち進んでいくお兄様達。クリプリスも見せつけるかの様に勝利をして、決勝戦は第一高校と第三高校がすることになった。

 

「西城…レオ、ナイスファイトだ」

 

「おう…って、今レオって」

 

「悪いな、今の今まで下の名前で呼ばなくて…オレにも色々と事情があったんだ」

 

第一高校と第三高校が戦う前に三位決定戦等をしている間、アップやイメトレをしているレオの元にやって来た光國。

スポドリを渡すのだが、その最に名字ではなく名前呼びをしたのでレオは驚く。

前に一度だけ、森崎との試合の時に名前を呼んだのだがアレ以降、なにもなく普通に名字呼びで何度言っても、名前で呼ばず諦めた。

 

「そうか…なんだか、改めてはじめましてだな」

 

「お前とオレやと、色々とタイプちゃうからな」

 

光國の雰囲気が変わったと言うよりは抑えていたものを解放した状態で、改めてはじめましてな関係のレオと光國。

光國は最初から仲良くなるつもりが無かったので、特に絡みは無いのだが二人は犬猿の関係などではなく良好だ。

 

「…一つ聞きたいんやけど…お前、勝つつもりか?」

 

「おいおい、なに言ってるんだよ?

お前、散々出れただけでも光栄とか無しで一位以外は意味は無いとか言ってただろう。

全部に納得はしていないけど、出れただけでも光栄とか言う考えはなし…本気で勝つに決まってんだろ」

 

「相手が十師族でもか?

クリプリス、色々と上からゆわれとるから…オレが元会長を倒したせいで…いや、ホンマにその辺についてはマジごめん」

 

まだギリギリ、九島だからと九島が確保しているからと許している光國。

本当は四葉で偽名ばっかり使っているお兄様。吉田家の神童(笑)の幹比古。

レオ自体のスペックは評価されるべき所で正しく評価されれば、とても良いものなのだがどうしてか名前負けをしてしまう。

 

「気にすんなって。

むしろ、物凄い名前を持ってる奴じゃなくても頑張れば勝てることが証明されたんだからさ。

お前が七草元会長を倒したなら、今度はオレが一条を、いや、三高を倒して一種目につき新人か、本戦のどれかに第一高校が優勝してるって記録を作ってやるよ」

 

地獄兄弟になりかけている光國には余りにも眩しすぎる笑顔を見せるレオ。

穢れた心が洗い流されていくのだが、直ぐに表情を変えていく。少しだけ浮かない顔だ。

レオは思い出している。光國が優勝した時の事を、魔法師じゃない友人に家族に褒められていたのを。レオの家族はレオ以外は非魔法師で、友人と呼べる友人は魔法師。

羨ましいとしか言えない。怯えない家族に、普通の友人と、今の周りに居る奴等が嫌どころか好きなのだが、それでも羨ましい。

 

「つまらん顔をすんな。

今の現状に不満あるんやったら、ぶち壊せば良い。躓いていたら、ずっと同じやで」

 

「…ああ、そうだな」

 

とりあえずは良いことを言って、気を晴らすと気持ちを切り替えたレオ。

本当ならば出れなかった彼が出れたのは、ある意味光國のお陰だと感謝しつつ少しだけ準備を手伝って貰うのだが

 

「くたばれぇ!!!」

 

乱入者がやって来た。

この九校戦には裏で無頭龍と言う犯罪シンジケートが賭けており、絶賛崖っぷちだった。負ければ死ぬ覚悟が出来てるの?的な感じだ。

モブ崎の優勝はまだよしとして、光國の優勝で凄い切羽詰まっており、更には一番点数が稼げるモノリス・コードに代理出場と来た。

本来の道筋ならば、別のところで騒ぎを起こそうとするのだがそうはしなかった。

クリプリスならば優勝できるだろうと思い、なにもしなかったのだが光國の優勝に加えて、光國がエキシビションで愛梨と真由美を倒した。

更にはモノリス・コードで代理出場の三人が圧倒してしまったので、これはもしかしたらと思い、出場できない様に足腰をガタガタにしに来た。

光國が参加したことにより、ちょっとだけ変わってしまった。

 

「手塚、下がってろ!」

 

敵だと判断をすると、即座に身構えて臨戦態勢に入るレオ。

光國は身体能力や頭の回転は早いのだが、戦いと言うものは向いていない。今まで、そう言った機会になれば蛸殴りになっていると前に出る。

 

「待て、レオ!お前、自身に向いているCADを持ってないだろう!相手は完全にフリーな状態で、お前は試合用のCAD!」

 

今のレオは道具が足りない。

相手は自己加速や自己加重を使い、身体能力を上げる無頭龍の工作員。

一瞬で間合いを詰め、蹴りをレオにくらわせる。

 

「捕まえたぜ!!」

 

蹴りをくらったものの、微動だにしないレオ。

足をガッチリと掴んでおり、動けないようにしている。

 

「オレに下がれとかカッコつけてる割にはオレ頼りやないか!!」

 

「なに言ってんだよ!美味しいところをお前は、何時も持ってくだろ!」

 

「教養の差が物をいう」

 

躊躇い無く金的に蹴りを入れる光國。

男は激痛に苦しみ、悶絶しようとするがレオは絶対に離そうとはしない。

 

「CAD何処だ?」

 

現代の魔法はとにもかくにもCADだ。

CADさえなければ、一般人となんら変わらない。光國は懐に手を入れて、探す。

 

拳銃(チャカ)出てきた…お~い、誰か来てくれ」

 

「それ使い方違う!!いや、ピストルの方でそう言うのをしてみたいって思ったことあるにあるんだけど!!」

 

男の懐にあった拳銃を取り出すと、空に向かって片手で撃つ光國。

完全に運動会のピストルのノリで撃っており、銃声が鳴り響く。

 

「やっべ、指紋ついた。

火薬の後とかもついたな…傘と手袋があったらな…」

 

コナンくんで見た犯行トリックを思い出しながらも拳銃を地面に置いた光國。

これってなんかの罪に問われるんじゃと考えていると、美月と紗耶香がやって来る。

 

「発砲音が聞こえたけど、なにかあったの!?」

 

「また、絶妙に微妙な二人が…誰か大人を呼んできてくれ!これはオレ達の専門外だ!」

 

「拳銃っ、柴田さん!」

 

「は、はい!」

 

拳銃を見ると直ぐに動き出した美月と紗耶香。

紗耶香が工作員の体を抑えるのを手伝い、CADを取り外して待ち、美月は大人を呼びにいった。流石にこれは自分達の管轄外だ。

エリカや達也がいれば、そこから勝手なことをしてしまうのだが、この面々なので馬鹿な事はせずに、軍事関係の人を呼び出して確保して連行。

それにて一件落着…に思えたのだが

 

「…コレが結果です」

 

レオの肋骨にヒビが入っていた。

蹴りを受け止めたのは良いのだが、痛みが続くとのことで念のためにとレントゲンを撮ったら、見事なまでにヒビが入っていた。

 

「魔法を使えば数日で治るレベルですが…」

 

今から試合に出るのは無理だと首を横に振る市原。

この状態ならば、まだ大丈夫だが今からするのはとても危険な魔法競技。

本来の道筋ならばレオはクリプリスに攻撃をくらう。そのダメージは二輪車に跳ねられた時ぐらいのもので、どうあがいてもレオの体に入ったヒビが悪化する。

 

「ま、待ってくれ、じゃなくて待ってください!オレは」

 

これ以上は出れないとドクターストップが掛かったレオ。

自分にチャンスがあるなら、ここしかないと。ここで活躍するんだと決めていたのに、こんな事があってたまるかと叫ぶ。

 

「…て言うか、大会中止にならんの?」

 

犯罪シンジケートが裏でコソコソしている、違法賭博をしているのはまだギリギリセーフだ。

気付かなければ大丈夫と言う意味でのセーフだったのだが、今回は違う。遂に尻尾を現しただけでなく、被害者も出てしまった。

そもそもの話で、大会自体を無かったことにするべくこんなことをしているのだから、大会が無くなるんじゃないのかと考えるのだが

 

「なりません…ここで中止にすれば、日本の魔法師は屈した事になると考えます」

 

何に対してと市原に聞きたいのだが、聞くほど馬鹿じゃない光國。

実際のところ、大会運営本部とか偉いさん達は気付いているのだが秘匿にしている。

バラせば魔法師達が犯罪者を引き込んだんだと騒ぐし、日本の魔法師は犯罪者に怯える奴等だと思われる可能性がある。騒ぎを大きくしたくはない。

 

「けどまぁ、出るに出れんぞ…」

 

「大丈夫だって、肋が折れてるんじゃなくてヒビだから、さ…」

 

まだ戦えると言うが、無理なものは無理だ。

レオ自身、肋骨にヒビが入っているのを知ると感じてしまう。今の状態では足手まといにしかならないと。

 

「…」

 

「ど、どうだった?」

 

第一高校のミーティングルームに向かうと、既に着替えていたヨシヒコ。

光國は無理だと首を横に振る。ダメかとヨシヒコは諦めるのだが光國は舌打ちをする。

 

「…軽く事件があったんやぞ…試合どうのこうのじゃないやろ」

 

「…すまない…」

 

「レオは出れないか……これは仕方あるまい。

とにかく、大会運営本部に俺達が出向いて、レオの出場が出来ない事を報告に行こう」

 

内心だが、ホッとしている達也。

レオには本当に悪いのだが、よくやったと思っている。

工作員の確保にも成功して、クリプリスと戦う場を無くしたのだから。

別の意味で悪目立ちをしてしまうが、一番目立つのはレオで、戦う機会を無くしただけになる。事情を知ればきっと誰も攻めないだろうし、準優勝の時点で充分すぎる功績だ。

流石に今回ばかりはあのくそ不味いドリンクを光國も用意していないし、と大会運営本部に向かい、レオが怪我をしてしまい出れなくなったと報告する。

 

「待ってくれ!!」

 

そして第三高校の優勝が決まり、その事を第三高校のモノリス・コード出場者を呼び出して報告するとクリプリスが抗議をした。

 

「俺はこんな優勝は望んでいない!!」

 

「クリプリス、その言い方だとお前が裏でレオを倒してこいって命令したことになるぞ」

 

「…俺はこんな勝ち方は嫌だ!

十師族の一条の跡取りとして、一条将輝として圧倒的な力で勝利しなければならない!」

 

上から絶対に勝ちやがれと釘を刺されているクリプリス。

勝ってやると意気込んでいたのだが、蓋を開ければこの様であり納得はいかない。

十師族達も、この結果を見ればなんとも言えないだろう。偶然に起きた事故で仕方無いとはいえ、受け入れれるほどクリプリスは大人ではなかった。

 

「将輝、落ち着くんだ」

 

「ジョージ、落ち着けるか!

さっきのさっきまで、俺達は勝つつもりでいたのに…そうだ、他に代理を!

この試合だけで構わない、もう一度、西城レオンハルトに代わる代理の選手を!!俺は構わない!!このモノリス・コードで新人戦は最後だから、二回でた奴でも構わない!」

 

勝って最終日に深雪とダンスを踊るんだと下心を交えた死亡フラグを建てているクリプリス。

このままでは終わらない、終わりたくはないと他の代理の参加を承認する。誰でも勝てる、勝つつもりでいる。

 

「…そういうことか…」

 

光國は運命は既に動き出している意味が分かった。

 

「一条、悪いがレオの代理になれる選手はいない。

今年度の第一高校一年の成績優秀者の上位は深雪を始めとする女子で、男子のトップクラスとなれば怪我をして出れなくなった森崎で、森崎とレオでは強さの方向が大きく異なっている」

 

だから、出来ないんだと断る達也。

 

「達也、森崎は工夫で成績上位に食い込んでいるだけだ…総合五位の十三束って奴は確か…近接専門で、時間が無いから別の戦法は無理だ……と言うか、今年の一年の男子の一科生、パッとしないな…」

 

「手塚?」

 

「一つだけ、一つだけ、モノリス・コードを続行する方法がある…CADの審査が通るかどうかは分からないが…オレならばレオの代理とは言わないが、それと同じぐらいの働きはする…」

 

モノリス・コード決勝戦だけに出場する。

そうすることが、仮面ライダービーストの絶版への第一歩だった。


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