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モノリス・コードの新人戦・決勝戦前に西城レオンハルトが無頭龍の刺客と戦闘し、負傷した。幸いにも生死の怪我は無く、骨にヒビが入っているだけで数日すれば治るレベルで、次の日には本人はピンピンしており、問題ありません。
しかし、モノリス・コードは危険であり棄権をしなければならない状態で、既に新人戦の優勝は決まっていたのだが一条は何がなんでも勝たなければならず、他の選手の出場を要求。
下克上を成し遂げた、手塚光國が偶然にその場に居合わせており、自らが代理の代理として出場をすると発言。
元々は、自分と手塚光國が代理として出場する予定だったのだが本人は拒絶。
面倒だと逃げており、西城レオンハルトを負傷させた罪悪感で出場をしたが結果は映像の通り、手塚光國は西城レオンハルトどころか一条以上の力を発揮。
常に自身に優位なフィールドを作り、その場へと相手を引きずりこんで絶対に勝てる時しか勝負しないかと思われたが、そうでなく真っ向からの勝負も強い。
更には見た事の無い未知の魔法を使っており、なにもない筈の場所から槍や明らかにサイズが合わないサーベルを取り出すと言った様々な法則を無視した魔法を使用できると判明。
手塚光國は此方がなにかと疑っている事に気付かれており、西城レオンハルト、吉田幹比古、千葉エリカ、深雪、柴田美月、そして自分にのみ試合で見せた魔法等はなんだったのかを聞く権利と知る権利を、謂わば質問タイムを少しの間だけ作られた。
【悪いけれど、喋るつもりは無いわ】
しかし、肝心の手塚光國は既にこの場にはいない。
手塚光國はリーナが答えると言い、この場を去っていった。
残されたリーナの前に自分達が集まると、リーナはお面をつけて紙とペンで筆談をする。
「喋るつもりは無い、か…ミキ?」
「僕の名前は幹比古だ…大丈夫だよ、盗聴や盗撮、監視の目はない」
【それでもよ】
余程の重要事項だと空気を読んでくれるエリカと幹比古。
リーナはとにもかくにも周りには監視の目を気にしており、音の振動から声を調べられない様にベートーベンの運命を流した。
紙での筆談にお面をつけると言う厳重な迄にしているところを見ると、知っているが隠すことがあるのは確かで全てを語るつもりは無いのが分かる。
知識も実力も確かだが、ポンコツな部分が多い、リーナには最も良い方法と思われ、これも手塚光國の入れ知恵なんだと思う。
【魔法師と魔法師じゃない人の一番の違いは分かるかしら?】
「魔法が使えるか使えないかでしょ?」
魔法師と魔法師じゃない人の一番の違いは魔法を使えるか使えないかだ。
それはこの場に居る全員が、いや、小学生でも分かることなのだがエリカの答えは余りにも大雑把だ。
「エリカ、魔法師と魔法師じゃない人の一番の違いは魔法演算領域があるかないかよ」
エリカの大雑把な答えを訂正し正確に答える深雪。
御存知の通り、魔法演算領域は魔法師の精神の無意識の領域に存在している。
コレが無ければ状態の改変をすることが出来ない。魔法師と一般人の一番の違いはそれだ。
【…光國は人工的に作られた魔法師よ】
その事の確認と認識をした後に、リーナは衝撃の事実を告白する。
手塚光國は人工魔法師だと。その事を知ると椅子に座っていた深雪は立ち上がり
「それは、手塚さんが誰かの細胞から培養されたクローンかなにかと言う意味ですか?」
血走った目でリーナを見つめていた。
息が荒くなっており、今にでもリーナに飛び込みそうだった。
しかし、それだけの事がある。人工的に作ったと言うことはそれだけの事。
科学技術等を全面的に利用して遺伝子操作をし、凄まじい魔法師として生まれた存在の子孫かなにか…それが手塚光國だとあってくれと深雪は祈る。
しかし、リーナは首を横に振った。
【後天的に魔法演算領域を手に入れた魔法師】
「嘘をつかないで!!」
魔法演算領域は俺と言う例外を除けば、全員が先天的につまり生まれた時に宿すものだ。
四葉の精神干渉の技術の全てを持って後天的に宿すことがやっと出来るものの筈だが、九島は既に後天的に魔法演算領域を宿した人工魔法師を手に入れていた。
【幹比古、精霊を封印する魔法は存在しているかしら?
使えるとかそう言うのは関係無い。存在しているか、していないかを答えて】
「リーナ、嘘をつかないで!!
後天的に魔法演算領域を宿すなんて事をしたら、人の無意識の領域は圧迫されるわ!!正直に、手塚さんは調整体かなにかなのでしょ!!」
「落ち着くんだ、深雪!!」
ありえない。
そんな事はありえないと深雪は強く否定した。
魔法演算領域とはなにか、この魔法師大国でもある日本ですら完全に分かっていない。
魔法の軍事利用色が大きいUSNAですら、分かっていない。無論、四葉もだ。
「な、なぁ…どういう事なんだ?」
【魔法師の才能を持っていないのに魔法師になった】
「無理だろう、そんなの…」
【幹比古、精霊を封印する事が出来る魔法は存在しているの?】
「精霊の様な独立情報体を封印する魔法か…存在しているかどうかと聞かれれば、確かに存在はしているが…」
話題をそらす、と言うよりは真相に辿り着く様に導くリーナ。
最後に出ていった獣は精霊の一種と考えさせられ、そして精霊魔法の使い手の吉田幹比古に精霊の封印が可能かどうかと聞いた。
そこから考えられることは、ただ一つだった。
「…手塚に精霊を封印したのか?」
コクりと縦に頷いたリーナ。
手塚光國は俺とは異なる方法で、魔法師へとなった。
その事が分かると、深雪はやっと落ち着き倒れた椅子を戻して座る。
「え、でも…精霊魔法は自分じゃなく精霊が事象改変する魔法で…その場合は一つの魔法しか出来なくて、実技授業でCADを使えないんじゃ…」
精霊魔法と原理が同じならば、一部の現代魔法は使えないはず。
美月はその事に気付くが手塚光國は発動速度こそが不安定なものの、ちゃんと魔法は使えていた。その事について指摘されたリーナは
【ゾロアスターのアジ・ダハーカ】
とだけ答えた。
「アジ・ダハーカ…アレがアジ・ダハーカと言うのか?」
「達也、そのアジ・ダハーカってなんだ?」
「アジ・ダハーカ、ペルシアの神話やゾロアスター教に出てくる邪悪な怪物だ。
その容姿は蛇とドラゴンを掛け合わせたもので、三頭三口六目の怪物で…火の神と戦ったとされるが…」
アジ・ダハーカがなんなのか、それを知っているのは俺だけで分からないレオに答えるか一瞬だけ迷った。しかし、インターネットで調べようと思えば調べれるので黙る必要は無いかと教えた。
「千の魔法を使うことが出来ると言う…千種類もの魔法を使うとなれば、魔法演算領域があると考えられる…」
手塚光國の秘密。
それは魔法演算領域を宿した精霊の様な存在を肉体に封印。
精神に直接埋め込むのではなく、肉体に封印する事により精神を圧迫されず、封印する際に肉体を乗っ取られない様に様々な術を施しており、ベルトがその術をはじめ色々と施しているCAD、いや、
手塚光國は魔法を発動する過程の何処かでキマイラと交代し、キマイラに魔法を使うのに必要な事を全てしてもらっていた。
「ベルトが封印の鍵で、それを壊してキマイラが何処かに行ったって…手塚はもう…」
【ただの人に戻った…そう、本当にただの人に戻った…】
レオの質問に答えるとお面から涙を流すリーナ。
大きな力にはそれ相応の代価があり、キマイラを宿した物は常に命を喰らわなければならない。想子を食べなければならず、油断をすれば死ぬ。その危険から解放されただけでなく、魔法師ですら無くなったことに心の底から喜んだ。
「…九島は何処まで知っている?」
ベルトの細かな事は後に別の報告書をお送り致します。
手塚光國と言う男が、人工的魔法演算領域を宿し、そして捨てたことが判明し、それを九島が何処まで知っているのかを確認。
【…知らないわ。
ただ、ベルトは科学の電気による文明が築き上げられるよりも前の魔法が当たり前で魔法を使えるだけで高位の立場にいる神権政治とかが当たり前の紀元前に何処かの誰かが作った物。
戦争を仕掛けるか、それとも魔法師の地位向上か、十師族を越えた何になるかは私も知らないけれども、九島は人工的にキマイラを作り上げようとしたけど…成果は一つも無いし、表立ってなにもしてない…もう良いでしょ?】
これにて質問タイムを終えた。
リーナは紙をシュレッダーで切り刻み、会話の痕跡を無くすと俺達に部屋を出るように言った。
これ以上は語ることも聞くこともないと、俺達は出た。
「人工的に魔法師を作る、か…達也、世界中の人間が魔法師になったら今の世の中は変わると思うか?」
「…レオ?」
「オレ、両親も姉も魔法師じゃなくてさ…いや、ダメだって言うのは分かってんだ。
家族全員が魔法師なら、そう言った目を家族から向けられることはないし、周り全員が、世界中の人が魔法師なら魔法師冷遇の今の社会は変わるだろ?」
世界中の人間が魔法師になる、魔法師としての力を得る。
そうなれば、世界中の人間が魔法兵器になり今以上に危険なテロリストが増えるかもしれないのを分かっているが、その代わりに起きる変化をレオは想像してしまう。
しかしエリカに怒られて、直ぐに気を引き締め直し、今日の事は絶対に語らないと誓った。
「…ええ、本当よ…」
万が一と、藤林響子と面会し確認を取ったところリーナの話や人工魔法師は本当だと判明。
しかし、しかしどうにも腑に落ちない点が多い。気になることがあったので、モノリス・コードの試合を再確認するとそれが判明。
手塚光國は自らで破壊したベルトとは異なるベルトで変身をしていた。
藤林響子及びアンジェリーナ=クドウ=シールズは全てを語ってはいない。
まだ隠さなければならない多くの機密事項があるのだが、恐らく二人も理解出来ていない事だろう。
手塚光國が隠していることを詳しく調べる必要があり、それを調べるべく九校戦が終わり次第、手塚光國の元へと向かいます…ので、手塚光國が向かった先に向かいますので、余計な手は不要です……】
「人工魔法師…九島は別方向から着手していたなんて…七草よりも狸なこと」
前回と違い、真面目な報告書を見て四葉真夜は考える。
あの九島は別の方向から人工魔法師を着手していたが、素体を失った。
試合を見ていた真夜はベルトの変化に気付いていた。九島烈もそれには気付いているだろうと考える。
「遥か昔に作られた物ならば、それを継承している誰かが居る…」
仁王の影に気付く真夜。
手塚光國を捕まえるか、キマイラを探すか、光國に協力する第三者を割り出すか考える。
最も効率が良いのは手塚光國を捕まえる事だが、なにも知らないと言う可能性がある。
「まだ隠していることを吐かせるべく、九島は動く…一先ずは、泳がせましょう」
手塚光國が馬鹿な男ではない。
九島が動く事を想定しているのならば、ベルトを作った第三者に何らかの手を打って貰っている。
達也が向かうのならば、第三者と出会う可能性があると読み、そいつの情報が一番手に入れなければならないものだとなにもしない。
「…あら?」
優雅に紅茶を飲む真夜。
もうすぐ深雪のミラージ・バットが始まるなと頭に浮かべていると気付く。
【領収書 司波達也様 ホテル代 ¥878,000円】
「…」
【Ps 経費で落としてください。手は不要ですが金は必要です】
「…ホテル代を経費でって、何時の時代の議員よ!」
やっぱり最後は締まらなかった。