本当にさらば、手塚光國
九校戦の幕が引き、第一高校の優勝で終わった。
しかし、大半の人の激闘の夏が続く。部活動に所属している者は大会に。
今回情けない成績をだした者は修行を、学生らしく夏休みで遊ぶ者もいれば
「すまない、深雪…こんな席しか取れなかった…」
「いえ、気にしておりませんわ」
御仕事に勤しむ者も居る。
達也と深雪は四葉の金を使い、兵庫で行われるU-17にやって来た。
やって来たにはやって来たのだが、ギリギリだった為にホテルの予約が大変で、あの手この手のコネを使っても、最前線の席を買うことは出来なかった。
「それにしても、スゴい熱気で…観客席に居るのは全員、日本人ですね」
「開催国で、直ぐに完売だそうだ。
日本代表の主将が手塚だった事も話題となり、急遽地上波での全国放送も決まったらしい」
スタジアムで観戦している人達全員が日本人。
兵庫には神戸港があり、外人が比較的に多いのだが観戦している人達全員が日本人。
最前線の招待客の席に座っているリーナが浮いて見える。
『国別対抗のエキシビションマッチ!!
開催国、日本の試合は満員御礼!日本人で埋め尽くされており、今か今かと待ちわびています!!』
「このエキシビションはダブルスの1セットマッチ…あの越智月光と言う人は出てくる可能性が高いです。ダブルス専門のプレイヤーで昨年のダブルスの新人戦の新人王らしいです、お兄様」
「…深雪?」
日本人向けの日本語のパンフレットを開き、見る深雪。
ここに来たのは光國と会うのが目的であり、遊びに来たわけじゃない。しかし、深雪は楽しそうだ。
「申し訳ありません、お兄様。私達は友達と言う存在を作るに作れません。現に中学生からの友人と言うものはません。
お兄様と色々と過ごす事はあれども、こうしてお兄様と共に誰かを応援するのは…今年が最初で、同じ高校の選手ではなく一人の人としてなんて…この先あるかどうか…だから、とても楽しいんです」
ただの深雪として試合を見る。ただの深雪として応援する。
形はともあれ、こんなのははじめてだと今まで知らなかった世界を楽しむ深雪。
「そうだな…」
深雪が楽しいなら、それで良い。
今回は手荒な事をしに来たわけではないんだと、一先ずは試合を眺める。
ここまで来て、深雪が楽しみにしているんだから絶対に勝てと思い、日本代表のベンチを眺める。
「お~可愛い子がいっぱいだねぇ…あ、パンツ見えた。後、月さんの親父さんだ」
「清純、お前はまだ女遊びが止められないのか…あ、パンツ見えた」
「世界中の女性が俺の
日本代表のベンチにいる日本代表の面々。
清純は観客席に居る綺麗な女を探していると、越智の父親を発見するが興味は無さげ…
「ふむ、全てのリミッターをはずすか…あ、パンツ見えた」
と思いきや意外とノリノリの越智。
パワーリストとパワーアンクルを外そうとするのだが、清純に止められる。
「なんの真似だ?」
「俺たちは今回は出番無しみたい」
清純は監督を指差した。
「開催国の試合だけあって満員御礼じゃ!
何事も出だしは肝心、ここで良い感じにスタートを切るべく…罪滅ぼしして、日の丸背負って白丸をとって帰ってこい、クソガキども!!」
「
「全く、相変わらずの無茶しか言わんな、この髭は…さぁ、油断せずに行くぞ、仁王!!」
「へーへー……さぁ、油断せずに行くぞ手塚…あ、パンツ見えた」
一部を除く馬鹿どもが観客のパンツを見て興奮を抑えてる中、コートに入る仁王と光國。
光國はラケットを右手に、仁王はラケットを左手に持ってそっくりな動きをする。
『日本代表はNo.1とNo.2の最強コンビだぁあああああ!!』
「手塚がダブルスか…」
ネット前に立つ光國を見て意外そうだと思う達也。
兄妹協力出来る競技だと深雪を勧誘し、芋づる式でやって来た達也。
身体能力は優れているものの、テニスに関しては素人であり、光國が一から十まで教えており、シングルスプレイヤーだと思わせるようなプレイをよくしており、リーナとダブルスをするときもリーナの顔を立てるべく、自らが攻めるテニスをしていなかった。
「どうも個性的な選手が多く、ダブルスに不向きな選手が多いようです。
日本のウィークポイントがあるとするならば、それはダブルスで誰が埋めるかが鍵になると書いています」
「成る程、オールラウンダーな手塚ならばどんな相手でもペアを組めるな…ペアの仁王はどんな選手だ?」
「それが…イマイチ分からないんです」
パンフレットを見て首を傾げる深雪。
いったいどういう事だと達也は、パンフレットの日本代表のプロフィールとパラメーターを見る。
【Genius10 No.1。テニス界の
スピード 6 パワー 6 スタミナ 7 メンタル 8 テクニック 9】
プロフィールが更新されている光國。
クリムゾン・プリンスをクリプリスとか馬鹿にしていた割には、光國も大概である。
しかし、雫が前に見たときと同じ様に1から5までの5段階評価の筈なのに5すらないと言うのはどうなのだろうか?と考えていると、次のページを開く。
【Genius10 No.2
スピード ? パワー ? スタミナ ? メンタル ? テクニック 9,5】
次のページには仁王の事が載っているのだが、パラメーターの部分が圧倒的なまでに謎だ。
昨年の全日本のシングルスの王者なのは分かるのだが、プレイスタイルについて細かく記載されていない。
どういう事だと困惑をする二人、そうこうしている内に試合がはじまり仁王のサーブから始まる。
「仁王、今日はこの試合だけだ…出し惜しみをするな!」
「手塚、お前こそ腕が落ちてないだろうな…ぷりっ!」
ボールをトスし、仁王が振りかぶったその時だった。
深雪、達也…そしてリーナは魔法を掛けられたわけでもないのに見ているものが変わった。
偽物はどんなに優れていても
何処までいっても偽物であり、本物に成り代わる事はない。打ち勝つ事は出来ても、本物の代わりにはならない。
「…嘘…」
仁王がサーブを打ったのに、光國がサーブを打った様に見えた。
そしてそのサーブは弾むことなく手前へと転がる…零式サーブだった。
過去にリーナがやり方を教えて、やってみたのは良いが余りにも肘に負担をかける技で、技術的にも難しい技を仁王は成し遂げた。
「ふぅ…87%と言ったところか…全く、ギリギリになって新しい技を生み出しおってからに」
「流石のお前も、アレは真似できないようだな…さぁ、油断せずに行くぞ!!」
エキシビションマッチ、仁王と光國の転生者コンビは凄まじいテニスをした。
返すことの出来ない零式サーブと入れることの出来ない手塚ファントムのみを使って、15分以内で試合を終わらせた。
「完全復活、って感じね」
「ああ…この調子でスポンサーを掴みとってみせる。後、レートも上げんと」
試合が終わり、リーナと二人きりになる光國。
数日前が嘘の様に思えるほど楽しんでいるのだが、リーナは少しだけどうしたものかと考えている。
光國がこうして日の目を浴びる舞台で活躍することは喜ばしく、それでも自分の事を忘れずに接してくれるのは良いことなのだが光國は魔法師では無い。
キマイラが出ていき、完全に普通の人に戻っている光國。
魔法を使わずに、素の状態で十八家はおろか十師族に勝ってしまった事はかなり重要な事なのだが、それとは別に問題がある。光國の知識だ。
結局なんだったのかが分からない九島烈を殺す魔法やファントムの生み出し方をはじめとして、様々な知識をキマイラから授かっており、独自でなにかを調べている。
「…ねぇ、光國…」
「あるで」
その事について聞こうとするのだが、待ってましたと言わんばかりに即答する光國。
まだまだ隠している事が多かった様でどうしたものかと考える。その知識を何処かに提供して保護を受ける…なんて事は出来ない。
十師族の異常さをリーナは理解している。真由美や十文字の様に人格が優れてはいても、何処かでズレている。そのズレている部分が厄介すぎる。
洗脳教育で尚且つ周りがそれをよしとしている部分で、何処かでナニか奴等を追い詰める事をしないとこれから先がヤバい。
「リーナはなにがしたい?」
「?」
そんな事を考えているのをお見通しな光國。
優しく微笑み、リーナの今後を聞いた。
「なにも、魔法師だけが全てじゃない。
リーナは美少女で…うん、オレみたいなのと居なくても、ちょ、足を踏まんといて、マジでお願い」
「私、光國のそこは嫌いよ?
光國が男と女の関係だけは、自信無いのは分かっているけれども、一対一の時は言わないでよ?」
「一対一じゃないから、言っているんだ」
「!」
光國が言ったことをどういった意味か理解出来ないほどリーナは馬鹿ではない。
リーナは直ぐ様、後ろを振り向くとそこには達也と深雪がいた。何故かいた。
永遠と繰り返すループの中、此処に来たと言う情報は一切なく、どう考えても光國を追ってやってきた事が分かる。
「…何時から気付いていた?」
「直感だ…知っちゃったか?」
コクりと頷く達也と深雪。
そうかそうかとなにかを考える
「…達也は知りたいだろうが、知ってどうするつもりなんだ?
少なくとも、あんなものは無くても良いとオレは思っている。オレがビーストじゃなければリーナやお前達と出会えなかったが…それでも、失った物の方が大きい」
「つまりお前は、まだなにか知っているんだな?」
僅かな会話だけではなにも出なかったので、カマをかける達也。
光國は首を縦にふった。達也の予想通り、光國はまだなにかを隠し持っていた。
「深雪、お前も事情を知ったのならば、アレをどうするつもりなんだ?
少なくとも、欲しくもない力を得る代わりに明日を知れない体になり、歩むべき道を崩されて別の道に無理矢理引き摺り回されるんだ…」
達也を攻めたところで、無意味な事を知っている。
達也を絶対としているとはいえ、深雪の情を攻めればある程度はどうにかなると攻めてみるが
「私はお兄様と同じ意見です」
この場では通用しなかった。
達也の意思を尊重すると意見を言わない深雪。仕方ないと光國は達也を見た。
「知ってどうするんだ?」
「…」
「黙りか…なにを差し出す?」
今の光國になにを言っても無駄であり、達也はなにも言わない。
代わりに光國は情報を得るための代価がなにかを聞いた。それを聞いた達也は光國もそれなりにピンチだと分かり、それを使って情報を聞き出す。
「リーナの身の安全を保証する」
「私の安全…相手が誰だか分かっていっているの?」
光國が居ないとなれば、リーナがどうなるか。
USNAに人工魔法師の情報を横流ししており、人工魔法師の情報はここ最近停滞している。
人工魔法師の光國が魔法師でなくなったので、USNAから近い内に帰還命令が来る可能性がある。
九島がリーナを日本に住ませる際に完全に日本に帰化させずしており、USNAに戻ろうと思えば戻れる面倒な立場で、九島からしても手放すには惜しい人材だ。
このまま普通に生きるだなんて、出来たもんじゃない。
「はい、ストップ」
その辺や保証内容について細かく話そうとしたが、光國が止める。
「これ以上は、駄目だ…数日、待ってくれないか?
少なくとも、今はそういう難しいことを考えたくない…だから、待ってくれ」
今ここで決めるわけにはいかないのと、大会に集中したい。
その本心を伝えると、二人は理解したと優勝目指して頑張れと激励の言葉を贈り、分かれた。
「…タツヤとミユキがどうにか出来ると思ってるの?」
「…魔法師の世界では名字とか名前偽装とか当たり前でコロコロと変えることは常識って知っているか?」
「え、まぁ…政府とかに何百人も魔法師のスパイとか居て、国も国で見逃してるから、出来るのは知っているけど…タツヤやミユキもそうなの?」
「クローバー」
「…うそ…」
「考えられるのはそれぐらいだ。
じゃないとクローバーの血筋が完全に途絶えてしまう。
血筋がどうのこうのと言うゴミみたいな業界で、一国を滅ぼす馬鹿野郎どもだぞ、偽名の一つや二つ、出来て当然…形だけの結婚かもしれんな」
達也と深雪が四葉だと言うことを教えつつも、時は過ぎる。
その間に達也は七草や一条、九島の人間が居ないかを探すが何処にも見当たらない。
上の方でてんやわんやなっているのは分かっている。だが、だがそれでも居ないのはおかしい。
「お兄様…優勝しましたね」
そして約束の時が、やって来た。
手塚光國が主将を勤める日本代表が、一度も負けることなく全試合をストレート勝ちと言うリングにかけろの日本Jr.の様な事を成し遂げた。
その事もあり、光國は時の人になろうとするのだがインタビューを全て断った。
まだまだ未熟で、プロ相手だと確実に負けるので三年先の稽古をしてもっと強くなりたいの一言だけだった。
「CMか、CMか~」
「清涼飲料水のCMとか面白そうじゃない?」
「手塚さん、なにをしているんです?」
ここで会おうとリーナを経由し、待ち合わせ場所を決め向かった達也と深雪。
光國とリーナが先にいたのだが緊張感なんて全く無かった。
「そこそこの名刺を貰ってな…何れはスポンサー契約をと」
「…それ、全部魔法師が、それもそれなりの名家が経営している会社だぞ?」
笑顔で名刺を見せてくる光國。
どれもこれも有名で大きな会社だが、どれもこれも魔法師が経営している会社だ。
他の勢力が顔を見せないと思ったら、こんな形で顔を表していたのかと、自分達も次に繋がる手を打つべきだったかと少しだけ達也は考える。
「それにしても、ミユキ、タツヤ、仕事が早いわね」
「なんのことですか?」
「なにって、他の家の事よ。
この会場に来ていたけど、早急に追い返したんでしょ?
早い内に恩を売っておけば、断るに断れないからかもしれないけど…それでも助かったわ」
身に覚えの無いことに礼を言われる深雪。
彼女はこの数日間は夏休みの宿題の処理と試合観戦だけであり、他はなにもしていない。
お兄様が勝手にしたのかと達也を見るのだが、達也も反応はしない。
「先にリーナの保証内容についてお教え致します」
「いや、先に仮面ライダーについて話しておく…」
リーナの保証内容を説明しようとするが、手を出して先に語ろうとする光國。
語るだけ語ったのならば、殺す可能性があるかもしれないのに先に話すと言う事はそれだけ信じてくれている事だと二人は先に聞く。
「仮面ライダー?」
「よく映画とか漫画である着るだけで、物凄く強くなれるスーツ。
それと軍人が使っている特殊なスーツを掛け合わせた感じで、世に言うパワードスーツの一種だ…この時代は空想と思われていた魔法が当たり前になって半世紀ぐらい過ぎた時代…なんて思っているならば、今すぐにその考えは捨てておけ…その考えは大きく間違っているんだ」
今の時代を大きく否定する光國。
空想と思われていた魔法が当たり前の時代、それがこの時代だがそれは大きな間違いだ。
「空想と思われていた魔法が当たり前の時代だと吉田幹比古の存在を完全に否定する。
魔法自体は確かに存在していたが、人々は忘れていた…神権政治を捨てて、科学と言う努力すればどうにかなる技術の発展が一番の原因だ。魔法師の地位向上はこれから先、大事な事だがそもそもの話で科学と言う技術で代用できているんだから、そこに魔法を使うのはどうかと思う。兵器としてしか使われないがそれはそれで良いんじゃないかってっと、話がズレてしまったな」
稀にタメになったり良いことを言う光國。
実際問題、魔法兵器に成り代わる科学技術が作られれば魔法師は完全におしまいだ。
唯一無二の兵器として利用と言う価値すら失われる。本当にこう言った事を言おうと思えば言える男なのに、真面目にやらないのは残念な事だと達也は頭を一度リセットする。
「仮面ライダーは遥か昔に作られたパワードスーツだと思えば良い。
製造理由は様々あり、絶滅に使ったものもあれば妖怪を退治するために使ったのもある。
それを使いこなせるだけで、戦略級魔法師をも上回る力を手に入れる事が出来る。なにせ、戦略級魔法は現代魔法の極致とも言える場所で、仮面ライダーはある意味、古式魔法の極致だ。
賢い達也と深雪なら知っていると思うが、古式魔法は万能じゃないが威力や一芸だけならば現代魔法を遥かに凌駕する…仮面ライダーの中には戦略級魔法をくらっても無傷なものもあり、着るだけで一条の爆裂を無効化に出来てたりととんでもない代物…っと、この辺は知っているし、考察しているか」
頭を一度リセットし、改めて光國から教えられる仮面ライダー。
戦略級魔法をも無駄にし、一条の爆裂を無効化にするとんでもないものだと分かり、多少のリスクを犯してまでも手に入れなければならないと考える。
「…何処にあるのか知っているのか?」
「やはり、言わなければならないか…危険だぞ?」
使っていたからこそ分かる仮面ライダーの凶悪さ。
達也が強いのは知っているが、仮面ライダーの中には問答無用のものも存在しており、強いどうこうの話じゃないものもある。
しかしそれでも、四葉真夜をはじめとする自身と深雪にとって障害となりうる存在を倒すためには力が必要だ。圧倒的なまでの力を簡単に手に入るのならば、手に入れなければならない。
達也は恐れることなく教えてくれと要求する。
「とは言ってもな、オレはあくまで存在を知っているだけで所在を知らない」
「それならば知っている人を紹介…と言っても無駄だろうな」
「…」
遠回しにベルトについて気付いている事を伝える達也。
もう無理かと諦めるかのようなため息を光國は大きく吐いた。
「ギブアップ、ギブアップだ…絶対に約束守れよ」
これ以上は隠すことが出来ないと観念した光國。
「リーナの事を頼んだぞ…深雪」
「私、ですか?」
「達也は強いが、強いだけだし…異性だと分からない気持ちもあるだろう…それに達也はなにかと深雪に対しても隠し事をしているだろ?」
達也ではなく、深雪へ託す。
隠し事をしているのは御互い様だが、それならばと深雪にリーナを託す。
「…分かりました、リーナの事はお任せください」
「ああ…じゃあ、教えるがオレに協力をしてい…危ない!!」
リーナを託すと白い魔法使いについて教えようとするのだが、光國は気付く。
自身の背後に魔方陣が出現していることに。直ぐにリーナの手を握り、そこから吹雪が吹き荒れて周りを凍らせる。
「光國、アレって!!」
「なんのつもりだ…ワイズマン!!」
魔方陣を見たことがある二人は、魔方陣がなにか気付く。
この魔方陣は白い魔法使いのものだと叫ぶとなにもないところから急に出現する白い魔法使い。
「いきなり現れただと…」
超高速で動いて、出現するのではなく本当になにもないところからいきなり現れた事に驚く達也。しかし、直ぐに戦闘体勢に入る。
相手は未知の敵で、特殊な鎧を纏っているが俺には無駄だ。
そんな慢心が達也の中にはあった。
達也はいや、主人公と言う存在は常に後手に回るものだ。
事件が起きる前に解決するのでなく、事件が起きてから解決し、悪人が悪いことをしてから退治している。だから、逆はない。
頭の良い熱血主人公じゃない達也は、事前の情報をしっかりと頭に叩き込んで対策する。敵対すれば相手は死に、味方はずっと味方で裏切らない。だから、無かった。司波達也対策をされたことを。
『スパーク、ナウ!』
「っ、ぐぅうぁあ!?」
達也は情報体次元と呼ばれる物の情報が記録されていたりする場所を読み取る精霊の眼を持っている。
ありとあらゆる情報を読み取る事が出来る先天性のもので、弱点があるならばただ一つ。物凄く眩しい光を、情報体次元に干渉するレベルの光を放てば良い。
未知なる相手に、しかも素顔が見えず、尚且つリスクが無いんだから使ってしまう。
「お兄様!?」
「やれやれ、割とあっさりと倒せるものだ。
自身の情報が知られるのはマイナスだが、知られていても尚勝利しなければならない」
ムスカ大佐程とは言わないが、膝をついて眼を閉じる達也。
深雪は直ぐにCADを取り出して、魔法を発動しようとするのだが手を蹴り上げられて落としてしまう。
「甘いな」
すかさずハーメルケインをCADに突き刺した。
これでもう司波深雪は魔法を使えない。
「ちょ、ちょっと!!」
「なんの用…いや、違うな。
お前達は知らなくても良いことを知ろうとした…面倒な芽早めに詰まなければ…安心しろ、二時間あれば元に戻る」
「?」
ハーメルケインを構える白い魔法使い。
刃を向けるのはリーナでも深雪でも、膝をついて動けない達也でもない。
「さらばだ、
「誰が、死ぬか!!」
刺して来ようと攻める白い魔法使いを寸でのところで避ける光國。
「貴方、なんのつもり!?」
「ふん、知れたことを。
古の魔法使いは私の計画には不要な存在、
「原型って、オレはもう魔法師じゃない!!
つーか、話が違うぞ!ビーストのウィザードリングを提供する代わりに、九島烈を魔法師として殺す約束の筈だ!!」
「その約束は今もこうして守っている…お前を殺すなと言う話は何処にもない!!」
『チェイン、ナウ!!』
「っ!」
攻撃する手立てがなく避ける光國。
痺れを切らしたのか、指輪を変えて魔法を発動すると鎖が空中から出現し
「リーナ!!」
リーナが縛られた。
白い魔法使いは避ける光國から縛られたリーナへと切り替えて、胸を貫こうとするのだが
「させるか!!」
光國が盾になり、腹を貫かせて槍を握った。
「シャビリェデェショフォエファションデュオンムフィムファン、デェグロンボリャシュロミョショディバリャ…」
「…ラモールエスポワール…」
「ミツ、ク、ニ…」
よく分からない言語で会話をしているが、そんな事はどうだってよかった。
光國はどうあがいても致命傷であり、例え生還できたとしてもテニスが出来ない可能性がある大怪我だった。
「っ、お兄様!!」
その怪我をどうにかすることが出来る人物は、直ぐ側にいる。
眼を閉じて苦しい顔をしているものの、立ち上がる達也だが動きはぎこちない。
「眼が万能過ぎて、知らず知らずの内に眼を主体にした戦闘スタイルになっている…第二の刃は用意しておくものだ」
「リーナ……」
達也に呆れている白い魔法使いはなにもしない。
まるで遺言を残す時を与えるかの様になにもせず、その隙を逃さず光國は最後の力を振り絞り、小さな声で遺言を残した。
「さらばだ、
終わったと槍を引き抜いた白い魔法使いは光國の首を切断する。
「…あ…あ…」
目の前で光國が殺されたことにより、頭の中で走馬灯の様なものが流れるリーナ。
走馬灯の様なものの内容は光國との思い出。辛かったこと、楽しかったこと、悲しかったこと、怒ったこと…喧嘩らしい喧嘩はしなかったけどとにもかくにも光國との思い出が走馬灯の様に浮かび、ゆっくりと壊れる…筈だった
「絶望にはまだ早い」
『スリープ、ナウ!』
ゆっくりと壊れる前に、意識を眠らされた。
完全に眠ってしまい、絶望の感情を失いファントムを生み出す事は無かった。
「そんな…」
「手塚…手塚!!」
光國の頭と胴体が分かれるのを目にし、気配と声が聞こえなくなったのを感じる司波兄妹。
「深雪、なにがあった?」
「手塚さんが…」
『エクスプロージョン、ナウ!!』
「手塚光國は、此処で死んだ…さらばだ」
光國の胴体に巨大な魔方陣が出現すると、爆発した。
光國の胴体は塵となってしまい、頭の部分はコロコロと転がっていき、達也の足元に向かった。
『テレポート、ナウ!』
それを見ると消えた白い魔法使い。
完全に消えるとリーナを縛っていた鎖は消えた。
「…!」
足元に落ちているものを拾う達也。
直ぐに光國の頭部だと分かると、深雪が居る方向を見る。
「もう、無理です…」
首と胴体を切り分けられた時点で光國は死んでしまった。
死ぬ寸前のものならば、どうにか出来たが完全に死んでしまえばなにも出来ない。
「…」
視力が回復し、死亡確認をしたのだが色々と腑に落ちない点が多い達也。
精霊の眼が危険だと感じているのならば、眼を潰せば良いのに暫くすれば視力が回復する程度のダメージしか与えなかった。
知りすぎたから光國を殺そうとするならば、自分達も同罪の筈なのに殺そうとしなかった。
最初から光國だけを殺すべく、動いていた。恐らく、九島等の追手は全て奴が消したのだが、何故そんな手間を掛けた?
その答えを達也は持っていなかった。少なくとも、手塚光國は完全に死んだ。
頭の部分は紛れもない本物であり、手塚光國は死んでいる。脳の部分を解析しても、ただの良い筋肉の持ち主だったとしか出ない。
「…お兄様、リーナの事ですが」
「…分かっている。
少しとは言え、俺達は手塚から情報を貰ったんだ…リーナの身の安全を、必ずや守り通す…手塚が最後まで守ろうとした者を…」
腑に落ちない点があれども、光國は死んでしまった。
これだけは変わりの無い事実であり、光國を追ってきた一条、一色、七草、九島、そして四葉にのみその事を伝えた。