外伝・少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

21 / 28
あなたを傷つけたくなくて side碧沙

 ホテルから出たところで、戒斗は碧沙(体は咲)を下ろした。そして走り出した戒斗を、碧沙は自身の足で走って追った。

 ダンススクールのレッスンで基礎体力はついているとはいえ、大の男の走りに付いて行くのは、マラソン大会と100m走測定を同時にやっているような苦しさだった。

 

 戒斗が立ち止まったところで、碧沙は両膝に手を突いてぜいぜいと呼吸した。こんな季節なのに汗だくだ。

 

 酸欠と火照りで頭がぼうっとしていたせいだ。

 ポケットで鳴動したスマートホンを、碧沙は条件反射で取り出し、新着メッセージのアイコンをタッチした。

 画面が切り替わってようやく、このスマートホンが咲のものなのだと思い出した。

 

 

《カイトのレア映像Get!(≧∇≦)》

 

 

 ビートライダーズの全体SNSに、チームメイトのモン太のコメントと添付動画が上がっていた。

 

(駆紋さんはここにいるのに?)

 

 一拍ためらったが、碧沙は思い切って添付ファイルを開いた。

 画面に表示されたのは、確かに、赤と黒(トランプツートン)のチームユニフォームを着て、ハチャメチャにステップを踏む、戒斗だった。

 

 顔を上げる。戒斗はここにいる。では、この映像の中の「戒斗」は「誰」だ?

 

「あの、駆紋さん。これ……」

 

 碧沙はスマートホンを戒斗に差し出した。戒斗は画面を覗き込んだ。

 

「こいつだ。俺と入れ替わった奴。ここは……中心街のフリーステージか」

 

 戒斗が歩き出した。碧沙は慌てて戒斗を再び追った。

 

 戒斗の歩調は一定で、何度か小走りしないと置いて行かれそうだった。

 そうして初めて、貴虎や光実と歩く時はそのようなことがなかったことに気づいた。兄たちはコドモの碧沙に歩調を合わせてくれていたのだ。

 

 

 目的地のすり鉢型ステージに到着した。

 

 舞台の上ではしゃいでいる青年は、なるほど、戒斗の鏡写しのような容姿をしていた。それが女子のようにきゃいきゃいはしゃいでいるものだから、笑いを通り越してシュールである。

 隣の戒斗がどんな表情をしているかは、あえて見上げたくなかった碧沙である。

 

(あれがホンモノのシャプールさん)

 

 客席の階段を降りていく戒斗に、碧沙も続いた。

 

「おい。お前」

「ん? ――あ!」

「え? 戒斗が、二人!?」

 

 叫んだ舞が、絋汰が、ザックやペコを初めとするチームバロンのメンバーが驚きもあらわに、戒斗と、戒斗そっくりの青年を何度も見比べた。

 

「偽者だ。そいつは俺じゃない」

 

 戒斗は壇上に上がると、シャプールの首根っこを猫の仔のように掴み上げ、乱暴に引っ張って歩き出した。

 

 つい見送ってしまったヘキサに、モン太たちリトルスターマインの仲間が声をかけてきた。

 

「なあヘキサ、カイトとなんかあったのか?」

「えーと……いろいろ。うん、イロイロあった」

「……だれ?」

「あのそっくりさん? たぶんだけど、外国のちょっとしたとこのお坊ちゃま。少しフクザツめの事情があって――あ! 待ってください、駆紋さんっ」

 

 碧沙はチームメイトに「ごめんね」と言い残して戒斗たちを追いかけた。

 

 

 

 

 

 戒斗は最寄りの閉鎖工場地帯にシャプールを連れ込み、服を元通りに交換した。

 ちなみに碧沙は彼らが着替える間は外で待っていた。ここまで来たら顛末を見届けたい気がした。

 

 やがて戒斗とシャプールが廃工場の中から出て来た。

 

「やっぱりそのコートじゃないと駆紋さんって気がしませんね」

「――ふん」

 

 コートの裾を翻して背中を向けた戒斗に、シャプールが叫んだ。

 

「カイトみたいに! ……自由に生きてみたかったんだ」

 

 自由に。

 そのフレーズは呉島碧沙の深いところを大きく揺さぶった。

 

(わたしも、もともとダンススクールに通い始めたのは、貴兄さんの目の届かない世界に出てみたかったからだった)

 

 咲が、みんなが、自分を「ヘキサ」と呼ぶ。そう呼んでくれる時は、「呉島のお嬢様」でも「ユグドラシル・コーポレーション重役の娘」でもない、「ただのヘキサ」でいられた。その時間の何と解放感に満ちて、幸福だったことか。

 

「とぼけるな。自分の命が狙われているのが分かっていて俺と入れ替わったんだろう?」

「命? 僕の?」

 

 シャプールは本気で意味が分からないという顔をした。

 

「駆紋さん、待ってくださいっ。なにも今言わなくても」

「今言わないでいつ言うんだ。これはこいつの問題だ。それともお前は、何も知らせないままこいつを帰してみすみす死なせて構わないのか?」

 

 その時、黒い車が工場地帯に走り込んできた。

 車から降りて出たのは、黒服の男が二人と、例の執事。

 

「アルフレッド……っ」

「探しましたよ。お坊ちゃま」

 

 アルフレッドは笑顔だが目が笑っていない。

 

「お父上がお坊ちゃまの死をご所望です」

「お父様、が?」

 

 両の二の腕に悪寒が走った。

 親が、子の、死を望むという事態が、碧沙のキャパシティを超えていた。

 

 アルフレッドが一歩踏み出した時、碧沙は勇気を出してアルフレッドの腹に体当たりして、しがみついた。

 

「駆紋さん! シャプールさんを……!」

「邪魔をするな!!」

「い゛……っ」

 

 碧沙はアルフレッドに髪を掴まれて引き剥がされ、突き飛ばされた。

 

(どう、しよう。この体、咲のなのよ? 立ち上がって、今度こそ咲の体に傷でも残っちゃったら。そう思うだけでこわくて立てない……!)

 

 にぶい殴打の音がして、え、と碧沙は顔を上げた。

 

 戒斗が、片腕に碧沙(体は咲)の肩を抱いて、もう片方の手に持った戦極ドライバーの裏面で、踏みつけようとした足を防いでいた。

 

「駆紋、さん」

 

 戒斗はアルフレッドの足を弾き、逆に腹を蹴り飛ばした。

 さらに、襲ってきた黒服二人も、戒斗は一人でいなして撃沈させてしまった。

 

「あなたがお坊ちゃまを助けても、得にはならないと思いますが?」

「俺は貴様が気に入らない。それで充分だ!」

「――あくまで邪魔をするというのなら」

 

 アルフレッドが取り出したのは――ゲネシスドライバーと、炎の形をした果実を象ったエナジーロックシード。

 

(なん、で。だってそれ、そのロックシードは、咲の)

 

「許さんぞ!!」

《 ドラゴンフルーツエナジー 》

 

 アルフレッドは開錠したドラゴンフルーツのエナジーロックシードをドライバーにセットした。

 

「変身」

《 ソーダ  ドラゴンエナジーアームズ 》

 

 クラックが宙に開き、落ちてきたのは、炎の形をした果実の鎧。鎧がアルフレッドの頭に落ち、彼を装甲する。

 珊瑚色のマントを翻す黒いアーマードライダーは、ソニックアローで戒斗へ襲いかかった。

 

 戒斗はソニックアローを避けてから、戦極ドライバーを装着してバナナの錠前を解錠した。

 

「変身!」

《 カモン  バナナアームズ  Knight of Spear 》

 

 変身を完了したバロンは、再びソニックアローを振り被った黒いアーマードライダーと戦い始めた。

 

 碧沙は、ホテルから逃げるどさくさでも忘れず持ってきたランドセルから、戦極ドライバーと種々のロックシードを取り出した。

 

 ――先ほど捕まった時は迷ったが、おそらく今のヘキサならば咲の戦極ドライバーで変身できる。変身して――しかし()()()は、戦えない。純粋に闘争そのものがこわいということもある。だが、もっと何か、重要な。

 

(いつもわたしたちの分まで、インベスを、元は人間だったモノを殺してる咲に、これ以上“人間”を傷つけさせるなんて、いやよ)

 

 なら、これらは宝の持ち腐れか? ――NOだ。

 

「駆紋さん――使って!」

 

 碧沙は手持ちのロックシードの内、ドラゴンフルーツをバロンへ投げた。

 

 ――戦わないなら、この手に持てる力を、せめて今戦ってくれている戒斗へ託すくらいは。

 

 バロンは飛びずさりながらドラゴンフルーツの錠前をキャッチし、開錠してバックルに嵌め込んだ。

 

《 カモン  ドラゴンフルーツアームズ  Bomb Voyage 》

 

 かくてそこには、赤いライドウェアの上から赤いアームズを纏ったバロンがいた。

 

 ドラゴンフルーツアームズに換装したバロンは、すばやく、いつかのインベスゲームのように片手に3つのDFボムを出し、黒いアーマードライダーの足下に投げつけた。

 プチ手榴弾が爆ぜて白煙が上がった。

 

 碧沙は立ち上がり、シャプールの腕を両手で引っ張った。

 

「逃げましょうっ」

「う、うんっ」

『行くぞ! 急げ!』

「はい!」

 

 どうにか立ち上がったシャプールを、碧沙は全力で引っ張って、バロンに背中を守られながら走った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。