ダイアゴン横丁。
魔法使いに必要なものは何でも揃うと言われており、魔法界随一の商店街である。
そこにハンニバルはいた。
ホグワーツからの手紙を受け取り、即入学を決めた。
彼の知識欲がそうさせたのである。
入学するにあたり必要なもののリストを埋めるのにはこの場所が一番良いと、マクゴナガルは言っていた。
手紙の返事にて、繊細に気を使いながら褒めつつ足りない情報を教えるよう頼んだところ、教師が1人助言に来た。それがマクゴナガルであった。とても礼儀正しく、知性を感じさせる人物である。
その人物が言うには、ここで買い物をするのが最も良い。
確かに様々な種類の店が立ち並び、活気がある。人の集まる所には店が立ち、良い店が増えれば人も増える。経済の質は悪くなさそうだと推測できる。
しかしハンニバルにはいささか下品すぎる。
「風情があると言えば聞こえはいいが、少々乱雑に過ぎるな」
ひとり言をつぶやきながらも、効率良く買い物を済ませていく。金は両親を脅すことで十二分に手に入れてあった。
(魔法というものに触れたことは無かったが、実に興味深い。私が元々いた世界とは根本的に法則が異なっていると言っていい。物理を超越している)
書店にて教科書を買うついでに、入門編の本をぱらぱらとめくっていく。
目から入力される文字と知識は"記憶の宮殿"に蓄積されていく。既にホグワーツ1年生で習う範囲については、もはや本を読む必要は無くなっている。
(このまま知識を吸収し続けるのもいいが、杖というものを持ったことが無ければ理解しにくい部分も多い。一度、オリバンダーの店を訪れるか)
そう思い杖屋へ向かう。
その歩く姿は洗練されており、とても10歳の少年とは思えない。憑依前の数十年の人生が、雰囲気として滲み出ていた。
入店すると老人が話しかけてきた。
「これはこれは、また不思議なお客様だ。杖が敬意を払っている。こんな反応をする相手がいるとは。
失礼、杖をお探しですかな?聞き手はどちらで?」
(杖が敬意を?比喩か、もしくは杖に意識が存在しているのか…)
「ホグワーツに入学することになりまして。どちらでも構いませんが、強いて言えば右利きです」
すると巻尺がひとりでに採寸してくる。
それも機械的な動きというより動物的な挙動が感じられ、まるで意思があるかのようだ。
「さて…こちらはいかがだろうか?桜の幹に、ペガサスのたてがみ。15センチ。洗練されており、優しさを持つ。」
ハンニバルが杖を受け取ると、杖を中心として風が吹きはじめる。それはだんだんと勢いを増していき、強風、暴風へと変わっていった。
「むぅ、よくないですな。杖がどうすればいいかわからなくなっておる。でしたら、こちらはいかがです?菩提樹の幹に、小鬼の頚椎。いっそ意志を持たない。」
最初の杖を取り上げると、別の杖を握らせる。
次の杖は握っても何も起こらない。試しに振れ、とオリバンダーが促すので振ると、杖の先にあった本がまっぷたつに切り裂かれた。奥の壁にも深々と切り込みが入っている。
「ほぉぉ。これは悪くはないのではないですかな?少々危険な組み合わせとも見えるが。いかがかな?」
しかし、ハンニバルの思考にあったのは別の杖の存在。
まだほとんど読めていないが、魔法界の本の知識からすれば、杖は魔法の限界を決めるもの。
この杖では思い描くような魔法使いにはなれない。
「いや、別の杖にしたい。とにかく魔力に耐えられる杖がいい。ありませんか?」
「もちろんありますとも。このオリバンダーの店で、杖について叶えられぬことなどありはせぬのですぞ。
では…これならどうです?魔界の名もなき樹木から削り出され、魔法使いの頚椎が埋め込まれたワケアリの一振り。これをお見せするのは久しぶりだが、おそらく無理でしょうな。」
「無理とは?」
「杖には魂がございます。持ち主と触れ合った瞬間から、杖と主人には関係が生まれる。そして杖は主人を選ぶのです。ふさわしい主人とめぐり合うのを待っている。
この杖はわがままで、どんな主人を待っているのか私にもわかりませぬ。しかしこれまで握った方は全員が選ばれませんでした。」
「なるほど。なら私も杖を理解しなければなりませんね。わがままをに理解を示すのも主人の務めだ。」
ハンニバルが杖を受け取ると、杖から不気味な、念波のような、意志のような、悪い雰囲気が伝わってくる。物理現象ではない、直接主人に作用する良くない何か。
だがその主人とは、ハンニバルであった。
杖が主人を理解できるのであればと、宮殿から圧倒的に残虐な思い出たちを引き出していく。脳内を駆け巡る、ハンニバルの本質を杖に見せていく。
この"良くない"杖であれば、私の芸術や食欲にも理解を示してくれるだろう。
その読みは正しかったのか。
謎の現象は収まり、かわりに赤黒く美しいオーロラのようなものが空中へと漂い出した。
「まさか…この杖が…
それよりもこの反応は…
お主、杖をどう用いるつもりじゃ?」
オリバンダーから見て異様なものだったのか、態度を変えて問い詰めてくる。
「もちろん、学業です。より大きな可能性を持った杖となら、大きな成績を収められる。」
「悪には使わんと?」
「もちろんです。私は無礼な人間には嫌悪感を覚えます。そういう人になりたくはない。」
納得したのかしていないのか、オリバンダーは値段を告げた。ハンニバルは支払いを済ませ、来た時の優雅さを保ちながら出ていく。
「杖は悪ではない…だがあの赤黒さは…まるで血の色。それをあそこまで美しいオーロラへと…。あの組み合わせには危険を感じる。願わくば、道を踏み外さんことを…」
この時のハンニバルはとても気分が良かった。
自分が数年にわたり使う杖が、同じ世界観を植え付けられる相手だった。その才能のある杖。
証拠に、とても鮮やかな血の芸術を見せてくれた。
オリバンダーを引かせてしまったようだが、特に何もできはしない。
これから自分が積み上げていくであろう、魔法を使った料理や芸術のことを思うとわずかに口角が上がっていた。
(さて…あとはペットか)
最後にペット屋へと足を運んだハンニバルは、黒いフクロウを買い店を出た。
ペットにこだわりは無い。上品そうなのを選んだ結果、この黒いフクロウとなっただけ。
(これで準備は全て終わった。今日はもう少し時間がある。書店の本を消化しに行くべきか。)
書店に到着する。
そしてまだ読んでいない本をめくり、次々に宮殿に保管していく。
「ねぇ…あなた何の本を探しているの?」
本を消化していく。宮殿に取り込み、噛み砕き知識を知恵へと変えていく。
「ねぇ。ねぇったら!本を読んでる時に話しかけて悪いとは思うけど、そんな早さでめくっても読めてるとは言えないと思うから、別にいいわよね。それで、そんなにいろんな本をめくってどうしたの?何かの記述を探してるの?あ、私この辺の本ならひと通り読んだから助けになれるかもしれない!」
隣にいた栗毛の少女に呼びかけられ、振り向けばまくしたてられた。
読書の邪魔をするどころか、自分の理解で私の行動を図るとは。
(無礼な態度だ。しかし、制服から見てホグワーツ。それもこの性格であれば、私が恩を売っておけばどこかで使えるかもしれないな)
「いや、読んでいるんだ。私はこの早さでも記憶することができる。ホグワーツ入学前に、少しでも予習しておきたくてね。」
「この早さで記憶できるの!?なによそれ…
入学前ってことは私と同じ学年ね。せいぜいお互い頑張りましょう。」
驚きを隠せないのか。少し妬みのような感情も垣間見えた。知識面をプライドとしているのだろうか?
「君も新入生なのか。この辺の本はひと通りと言ったね。本や知識について語り合えそうな同級生の友達が出来そうで嬉しいよ。僕の名前はハンニバルだ。」
「うーん、そうね。私はハーマイオニー・グレンジャーよ。本屋で会ったのも何かの縁かもしれないし、仲良くしてもいいわ。じゃあ、この本について質問していい?その早さで読んで、頭に入ってるなんて信じられないわ」
「もちろん、いいよ」
ハーマイオニーが質問し、ハンニバルが答えていく。
ハンニバルはハーマイオニー以上に、その本のことを記憶できていた。理解についてもそうだ。
質問に対する回答は全て正しく、解説も完璧だった。
「信じてもらえたかい?」
「ええ!あなたすごいわね!天才っているんだわ。」
「いや、僕のは技術だ。君ほど勤勉な人なら習得できるかもしれないが、教えようか?」
「いいの?というか、教えられるものなの?もしそうなら教えてほしいわ、だってまだまだ知識が足りないもの。もっと勉強したいわ。」
ハンニバルがハーマイオニーの先生となる、簡易的な構図がここに構築された。
2人は雑談の後、日が落ちる頃に別れた。また入学した時に会おうと。組み分けが同じならいいと話しながら。
(組み分けか…彼女はグリフィンドールだろう。レイブンクローというよりは、真っ直ぐな性格をしている。
私は…どの寮を選ぶのだろうか?)