艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 お待たせして申し訳ありません、現在クロギリ編最終話まで一気に書き進めている状況です。年内には完結したい! とはいえどうなるか分かりませんので年を越す可能性もあります。

 何れにせよクロギリ編の終わりは近いです、はい。

 …問題はその次がどうなるか、ですね?

 今回長めになっております、ご注意を。



おそらく己の正義と価値観を過信すると、悪になる

 僕らはドラウニーアと決着を付けるため、南木鎮守府屋上──ゼロ号砲の前で対峙した。

 曇天が覆い尽くす空間の下、巨大機械装置に取り付けられた零鉱石の緑光が僕らを不気味に照らす。今まで姿すら拝むことが出来なかった、一連の事件の黒幕「ドラウニーア」。遂にここまで追い詰めたぞ…っ!

 ドラウニーアは上半身を(さら)け出し己の変わり果てた「肌」をまざまざと見せつけている、その首には赤い宝石のような「海魔石」を下げた首飾りをしている。肌の左側半分は死んだような蒼白色になって、よく見ると額には「角」のような突起が見えた。…コイツはもう怪物の世界に片足を突っ込んでいると言っても過言ではなかった。

 その横には…相変わらず虚ろな眼でこちらを呆と見つめる港湾棲姫の姿が。ということはシルシウム島には「レ級」を置いて囮にしたのか…最後になるかもしれない場面でレ級を連れてこなかったのは、少し意外だった。

 

『◼️ ◼️ ◼️ ◼️ ◼️ーーーッ!!』

 

 下からは深海棲艦の獣の叫び声みたいな慟哭が響く。シルシウム島や他の島にも敵が強襲しているというけど、この南木鎮守府にも敵が押し寄せて攻撃を加えているだろう。建物がいつ崩れるか分からない…それまで如何にかして目の前まで追い詰めたアイツを何とかしないと…!

 

「タクト…どうする?」

 

 金剛が言葉短かに尋ねてくる、それはドラウニーアを()()()()()()を聞いているのだろう。

 ヤツはこの世界を壊して新たな世界を創り上げる「ゼロ号計画」の首謀者、それまでに犠牲にした者はそれこそ数知れないだろう。許すことは出来ない…本当は今すぐにでも攻勢に転じたい──でも。

 

「ごめん皆、少しの間だけアイツと話をさせてくれないかな?」

「っ!?」

 

 僕の提案に案の定金剛以下三人は、口を閉ざしつつも驚愕の表情といった具合だった、今更ヤツと話すことなんてないのは理解しているけど…だからこそ「理解」しなくちゃいけないのではないか、そう思い至った。

 ゼロ号計画自体の目的──滅びのループをリセットし、楽園を再創造すること──は分かっていても、ドラウニーアが何故その結論に至ったのか…そう、動機だ。動機が解らなかった。アイツが人や艦娘を憎んでいるとしても、それだけで世界ごとどうにかしよう。となるだろうか?

 この海域での出来事を通じて、人の行動の裏には──どんなに非道な行いでも──それ相応の理由があると分かった。もしも…アイツにもどうしても避けられなかった「訳」があったのだとしたら、何故こんな馬鹿げたことをやらかしたのか、知っておく必要があると感じたから。

 甘いよね? 僕自身もそう思うけど──ドラウニーアと初めて対峙した時に感じた「哀しさ」が妙に引っ掛かっていて、それを理解しておきたいと願う自分が居た。ヤツが何か仕掛けてくることは確実だけど、ユリウスさんの言うことを借りると「戦力差はこっちが有利」なのだろう。少しの猶予はある筈だ…そう頭の中で自身の行動の整理をしていると、金剛は少し呆れた口調で答えた。

 

「やっぱりね、タクトなら言うとは思ってた。アイツがどうして世界再創造なんてするのか、それを知らないままにはしないだろうなって」

「…そうね、タクトはそういう理由を聞いておかないと納得しないことは知ってるし、私も気になるところだと思うけど…本当に良いのね?」

 

 翔鶴の問いかけに、僕は迷わず頷いた。

 

「少しでもアイツの気持ちを知っておかないと、僕はアイツと同じに…人を知ろうとしないまま断じたアイツと変わらないと思ってね? もしアイツが何かやらかそうと動いていたら、その時は迷わず攻撃してね?」

「ウィ。了解しました、コマンダン…お気をつけて」

 

 野分が僕に注意を促すと、僕も黙ってその言葉を受け入れ頷いた。

 そうして先ず息を整えると、僕は数歩前に出てドラウニーアの声が聞こえやすい場所まで移動する。ドラウニーアはその行動を訝しみつつも黙って見ていた。僕は先に声を掛けて僕の意思を伝える。

 

「ドラウニーア、少し話をしないか?」

「…何のつもりダ?」

「こうしてお前と真正面から向き合うのは二回目か。ヒュドラの時はそっちが不意打ちして時間が出来なかったけど、もしお前が語る気があるなら……お前がどうしてこんなことを仕出かしたのか、それを教えてほしい」

「何……血迷ったカ?」

「そうじゃないさ、僕は都合よく正義を語れる大人みたいにはなれないからさ。お前が悪だからっていきなり斬り掛かりたくないし、色々なヒトたちの人生を狂わせたからこそお前がどうしてそんな風になったのか、それを知っておきたい。それでもお前が今更話すことがないって言うなら、このまま決着を付けるだけだ…!」

 

 僕がそう言った瞬間、周りの空気が張り詰め頬の肌がピリつく感覚があった。ここが「大事な場面」だと僕の「能力」以前に直感で解った。

 向こうの返答次第では急に襲い掛かってくることも有り得る──そう思っていた僕は身構えつつも、敵の動向を窺っていた。

 

「──決着、カ」

 

 ドラウニーアはそう零すと、いやに落ち着いた様子で辺りを見回して疑問を投げた。

 

「この南木鎮守府には零鉱石から発せられる黒霧が充満していたハズ、だが今は…まるで掻き消えたヨウニ視界が明るい、零鉱石も問題なく機能しているだろうニ。…お前の仕業カ、特異点?」

 

 ドラウニーアの問いかけに、僕は──警戒心を解かずに──あくまで理性的に応じた。

 

「いいや…望月やユリウスさんの造った「灼光弾改」の成果さ。それだけじゃない、ここに来るまで数多くの人たちの力を貸して貰った、お前の企みを止めるため、皆それぞれに出来ること、全力の行動をした。お前には理解出来ないだろうけど…これがお前が否定した人間の力だよ」

 

 僕はそう言って突き放すようにドラウニーアに「敗北」を聞かせた。対してヤツは──力なく笑ってみせた。

 

「フッ、ユリウス…まさかアイツにしてやられるトハ。そうは言えヤツも俺に次ぐ頭脳を有していたカラ、驚きはしないガ?」

「ユリウスさんはお前を止められなかったコトを後悔していたよ。お前もユリウスさんを認めていたなら、どうして彼の言葉に耳を貸さなかったんだ? だから──お前は負けたんだよ。全てに納得出来ず否定して…そうして何もかもを切り捨てたから、お前は孤独になった。孤独は団結に勝てはしないよ、絶対にね」

「ハッ、まさか貴様にそれを説かれるトハ。マァいい…確かに貴様の言う通りダ、争いしか能のナイ愚図どもと思ったガ…存外侮れんナ」

「…え?」

 

 意外にもあっさりと負けを認めたドラウニーア、ヤツは次に金剛の方を一瞥すると僕の言葉に肯定を表した。

 

「器の乙女、ユリウス、そしてマサムネも…俺ガ引き入れタ者たちハ皆お前に寝返った。それは"ニンゲン"であったモノたちがお前のようナ「信頼こそが最大の武器」だと抜かす、甘い理想論に触れたことデ"人間"としての感性を取り戻シタ、これに尽きるのだろうナ? そうしてお前ハ他者の力を合わせ困難を乗り越えて来タ、カ? …ックク、まさかこれ程の力となるトハ?」

「お前がそれを口にするのか、今まで他人を自分の目的のために切り捨てたお前が。そこまで理解しておいて…何でお前は変わらなかったんだ」

 

 僕はドラウニーアの心の込もっていない言葉を訝しんでいると、ヤツは曇天を見上げて呟いた。

 

「それは道理であロウ、俺は…自分を「唯一無二の存在」だと自負してイル。勉学も、頭脳も、身体能力も、人並み以上に出来ると信じてイタ。事実俺の能力は凡ゆる秀才のソレヲ上回ってイタ──運命でスラ俺の思いのママだ、俺が望めば世界は俺にいつでも陽を照らしてくレル。そう信じてイル、俺が群れる必要が何処にアル? そんなことハ非力な弱者が身を寄せ合うための感情論ニ過ぎナイ」

 

 ドラウニーアはこの期に及んで根拠のない自信と理論を披露していた。矢張りこれだけのことを仕出かしただけあって、反省など微塵も無いようだ。

 僕は心底呆れながらも、ドラウニーアの言葉に口を挟んだ。

 

「そういうのは「自惚れ」って言うんだ。お前は自分には特別な何かがあると錯覚しているかも知れない、でも──それは昔から誰しもにある驕りだと思う。特別になりたいと夢見る気持ちは…現実によって打ちのめされる、それでも夢を打ち砕かれた後に見えるモノが自分が求めた本当の「特別」に繋がると思うんだ。お前のように…自分の非を認めようとしない下らない願いは、絶対に叶うことはない!」

 

 僕は自分なりの正論でヤツの鼻柱を折ろうとした、しかし…幾ら僕が言葉を紡いでも、アイツの答えは変わらなかった。

 

「下らないカ、それは凡俗の言い分だゾ特異点。人が特別とやらになれないノハ怠惰である他者が足を引っ張るからダ、欲を貪る”ニンゲン”が人間を堕落させる最大の害悪ダ」

「…っ!?」

 

 ドラウニーアは自身の考えを述べる、がそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは誰しもが思い浮かべる「悪意」を説いていた。それでも度し難くはあるけど?

 僕がそう解釈していると、ドラウニーアは続けて「ニンゲンの成り立ち」の自論を説いた。

 

「神は凡ゆるモノに試練を与える、それを越えし勇者に栄光を与えるために。だが…大半は環境や出自を理由にその先にある「未来」を手放すのサ。苦しいカラ、辛いカラ、成り上がれないカラ、自分には何もないカラ、そんな資格はないカラ、周りの有象無象に理由をつける輩もいヨウ。だが…そこから這い上がる気力があれば、人はいつでも特別になれる。そこに…欲に堕したニンゲンが居なけレバ、ナ?」

「…どういう、ことだ?」

「分からないカ。そう…例えば正義を志す若者が居たとしヨウ、若者は統率力に優れてオリ、自身の率いるグループからの信頼も厚い。彼が居ればグループは安泰…何れは世界すら統率出来ヨウ。ダガ、ある日突然彼は「殺された」。表向きは事故による不本意なこととして処理さレル、しかし実際ハ──若者の才能を妬んだ「ニンゲン」による犯行ダッタ、としタラ?」

「っ、まさかそれは…お前の?」

「さあナ、悪いが話の途中に言葉を挟まないで貰いタイ。お前トノ決着はつけてヤルガ俺の話グライ聞け、望みドオリ俺の動機とやらを聞かせているのダガ?」

 

 何か引っ掛かる言い方だが、しかし…確かに聞いてきたのは僕の方だし、コイツが何故こんな大事を起こしたのか、それを知ってからでも遅くはない筈…そう思い僕はヤツの言葉に耳を傾けた。

 

「サテ…ニンゲンの犯行理由は様々だロウ、ただ目障りだったカラだトカ、グループのリーダーに成り代わりたかったカラだトカ、自分たちにトッテ「都合が悪いカラ」消しただトカ…。ソウ、大抵の人間はここで牙を折られるノダ、そこに自分が望んだ世界があったとシテ、思い半ばに死に果てるノダ。それは誰アロウ同族でありながら、それからは変質してしまった「ニンゲン」の所為デ! 若者はただ純粋に夢を追いかけ同志を率いていただけであるノニ」

 

 聞けばきくほどな「身勝手な言い分」だが、僕は辺りを警戒しながら黙って聞いていた。ドラウニーアは更に続ける。

 

「だがナ、俺はニンゲンが欲に堕ちること自体は「仕方のないこと」であると理解してイル。何故ナラその欲に塗れたニンゲンもまた、かつては夢を追いかける「若者」であったカラ。殺された若者もともすれば畜生以下のニンゲンに成り下がった可能性もあるノダ。お前の言うことが正しいなら「現実に打ち拉がれた」カラ、さもなくとも権力やら財源などの魅力を前に獣と堕したカラ。何方にせよ…これが「ニンゲン」の生まれる構図なノダ」

「…自分を含めた「ニンゲン」が、どうあっても艦娘を欲望のままに使い続ける。それが世界を破壊する元凶だから──お前はそれを滅ぼそうと考えた。そういう理屈か?」

 

 僕は身勝手理論の結論としての答えを先出しする、それは会議でも明らかになったゼロ号計画の本懐──人、深海棲艦、艦娘の無限ループを止めること──が頭にあったから、それがヤツの「人類や艦娘を滅ぼす理由」として十分だと感じたからだ。

 だが──ヤツはそれに対してニヤリと嗤うと「違う」と断じた。

 

「人は生まれ落ちた時から「ニンゲン」になるヨウ定められてイル、呱々の声を上げる瞬間にその赤ん坊に「生きたい」という欲望がなければ、その時点で死んでいる筈だからナ。生きるという原初の欲望がある限り、人は無くならない。俺とてそれを否定するつもりは無イ、その欲望の先に争いがあったとしてもナ」

「何…っ、じゃあどうしてお前は人を、艦娘を憎んでいるんだ! この世界を破滅に導いて…何がしたいんだ!?」

 

 どうやらヤツはただ人を憎んでいる訳ではないようだ、では一体目的は何なのか? 僕は能書きばかり口にするヤツに苛立ちを隠せず、乱暴な物言いでヤツが本当に言いたいことが何なのか問い詰める。

 

 すると──ヤツは右手人差し指を上に向けて、自身の目的を告げた。

 

「──神だ。俺は神を許しはしナイ、人が獣になる構図を描いたのは神に他ならナイ。であるが故に…「ヤツ」の過ちがこの世界を変えたノダ、自身の欲望を満たすためかそれは解らないガ…ヤツは確実に図面に何かを「書き加えた」。その結果生まれたのがお前タチ、特異点と艦娘なノダ!」

「……何を、言ってるんだ?」

 

「つまり、この世界は神にヨッテ理を書き換えられた「虚妄に満ちた世界」なノダ。俺は確かに観タ…あの空間デ、ある邪神の手が差し伸べられた途端、世界は変わり果ててしマッタ。艦娘とイウ異質な存在の住マウ世界ニッ!」

 

「…っ!?」

「愚かなる神の賽が、俺たちの世界に破滅への使者を齎した。そこのガラクタたちが! 俺たちニンゲンの性質に付け込み、戦い合う中でニンゲンの欲望を、闇を、自らに纏わせて「深海棲艦」という化け物とナリ、何れかニンゲンに反旗を翻す。神の造りし欠陥品がやがて全てのニンゲンを滅ぼすだロウ」

 

 コイツの言いたいこととしては── ヤツとは誰かは分からないけど「神さま」であることに違いはないだろう。つまり神さまの内一柱がこの世界を魔法世界から艦娘世界に「意図的に変えた」…そう言いたいようだ。

 

「無論それに対抗策が無いこともないガ、仮に深海棲艦を手懐けたとシテ、深海ドモを兵器とした戦争に発展スル、それだけの話ダ。但しその先ニハ──今度こそ「人類の破滅」が待ってイル」

「そんな…そんなこと!」

「誰も、誰にも! その不確定要素を覆すことは出来ナイ、全ては神の、その掌で踊るニンゲンたちの誤ちだったノダ。ならば…俺は全てを元に戻ス、偽りの世界を無へ帰した後に…変えらレタ理を修復スル。これぞゼロ号計画の真意、過去の楽園以上の多幸世界を実現すべく、俺が世界を導くノダ!」

 

 ヤツはそう言って、例の如く──自身の才能をひけらかすように── 高笑いをする。正直僕には何を言っているのかさっぱりだ、いや部分的には理解出来るが…()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな心境だ。話の内容的に陰謀論めいているから特にそう感じた。

 法螺話…ではないよな。ヤツはアカシックレコードを介してある程度の事柄を予見している、つまり──神さまの中に本来の世界からかけ離れた「パラレルワールド」を造り出したモノが居て、ヤツはそれを元に戻そうとした…そういうことだよね?

 それは…正直事実かは判らない、僕の能力でも──こんな時に限って──頭が霞がかったような感覚で判別が付かないけど、この状況で嘘を吐くのもおかしな話だし…本当のことだと思う。

 だからこそ、例えこの世界が自分にとって嘘に満ちていたとしても、その挙句世界を破滅に導こうと多くの人々を犠牲にした──どんな理由があれ、それだけは許されなかった。

 

「お前は…アカシックレコードで何を観たのか知らないけど、そんなことの為に他人を利用したのか? 百門要塞の住人たちも、金剛やユリウスさん、由良だって…お前に人生を滅茶苦茶にされた人たちは、お前さえ居なければ…辛くても幸せな余生を過ごせたはずだ、それを分かって言っているのか!?」

「タクト…」

「艦娘が世界を破滅に導く不確定要素だって? お前にとってはそうだろうな、でも…僕たちにとっては「希望」でもあるんだ! 戦う力の無い人たちを守るために、彼女たちは在るんだ。それだけは…絶対に否定させないっ!!」

 

 後ろで金剛たちが心配そうに経過を見守る中僕は怒り任せに怒鳴り、世界を貶めようとした狂人を睨みつけた。

 確かにヤツにもそれなりに「辛い過去」があったのだろう、言葉の端々から感じる悲哀がそれを物語っている。だからこそ…せめて同情出来る余地はないかって考えていたんだ。

 だがコイツは…ただ自分の価値観(みたもの)だけを信じ、他人の考えを受け入れなかった「愚者」だった。僕の中で…コイツはそんな「冷酷非道の輩」として確定していた。

 そんなことを知らずに、ドラウニーアは嗤って僕の話に「理解」を示した。

 

「アカシックレコード…あの神の領域のことダナ? 確かに俺はあの空間で様々な情報を得タ、だからこそ言えることハ…特異点、貴様はこのまま行けば、計り知れない絶望を視ることになるだロウ。艦娘トイウガラクタを希望などと言っている限りナ!」

「何…っ?」

「まぁ俺には関係ないガ。さて…そろそろ時間ダナ?」

 

 ドラウニーアはそう言うと背後のゼロ号砲を見上げていた──

 

 

 ──Alert! Alert! Alert!

 

 

 すると、けたたましい警告音が空間に響き渡る。

 僕らは何事かと驚き緊張を引き戻すと辺りを警戒する…しかし、警告音が次に発した言葉は、僕らの予想を上回るものだった。

 

『──ゼロ号砲及びアンチマナ波動砲、自動射出準備完了。エネルギー充填開始──残り30分』

 

「…なっ!?」

「何ですって!?」

 

 何とそれは、ゼロ号砲とアンチマナ波動砲──おそらく「穢れ注力装置」のこと──が、もうすぐ発射されようとしていることを知らせるものだった。その直後弱い振動が僕らの足元を駆け抜けると、ゼロ号砲に設置された零鉱石から淡い緑光が放たれ、砲塔にも同じような緑の輝きが収束していた。

 

「ククク…そういうことだ。予め…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものだったガ、よもや上手く作動するとハナ、貴様も甘いなぁ特異点?」

「っ! ゼロ号砲が自動的に発射されることを知った上で、僕との会話を利用してセット時間を稼いだというのか!?」

 

 まさか僕の無け無しの情まで利用されるとは…こうなることを予測していなかった訳ではないが、さっき言った同情出来る余地を探すあまり無意識に「和解出来るかもしれない」と都合よく解釈してしまったのだろう。だからその隙を突かれた形になった訳だが。

 とんだ勘違いだった…僕は自分の甘さにとことん嫌気が刺して悔しさを滲ませながらも言葉を投げると、ドラウニーアはそれを──哀しそうな顔で──僕らを見据えながら否定した。

 

「…いや、セットはしたがこれは「最後の手段」というヤツダ。ゼロ号砲はアンチマナ波動砲から発射された穢れのエネルギーがなければ、世界中の艦娘を停止スルことハ出来ナイ。俺は貴様らに穢れ玉を砕かれる「可能性」は観ていたガそれを覆すつもりで居たノサ、俺の目的はあくまで「艦娘の機能停止」だったのだカラ、それを何としてもやり遂げようと文字通り「どんなことをしてでも」変えるつもりだったノダ。結果的にどう足掻いても無駄であったガナ? そういう意味デハ俺は最初カラ貴様らに「敗けてイル」ノダ」

「何…?」

 

 ドラウニーアは一頻り語り終えると、両手を広げて今度こそ敗北を宣言した。

 

「特異点、そしてその部下のガラクタドモ。見事ダ…貴様ラは俺との「見えない戦い」を制シ、お前タチにとって最悪な未来を回避シタ。認めヨウ…俺の完全敗北ダ、だからコソ…俺は最期マデ悪あがきをするつもりダ、愚かなる邪神にヨッテ変えらレタこの世界ニ、一太刀でも傷を付けてヤル。貴様らモ…特異点、貴様は殊更生かしてはオケン、俺は貴様ヲ…我が命に代えても葬ッテみセル!!」

「…っ」

 

 計画が頓挫したのは目に見えていたけど、まさか…ここまで執念があるなんて。コイツにとって…世界滅亡は是が非でもやり通さなければならなかったことなのか、例え──どんな障害を壊してでも…!

 

「さぁ…計四ヶ所から穢れの同時射出ダ、本命はこのゼロ号砲、そして各島に置かれたアンチマナ波動砲四機、貴様らは…30分の間に全て停止することが出来るカナ? 出来なければその分世界中の海域からランダムに割り当てた着弾地点に「災厄」が降りかかるだけダ」

「…っ」

 

 ドラウニーアは淡々と現状を告げる、今までの嫌味な言い方でなく、何処か「覚悟めいた意思」が感じられた。

 しかし──どんな事情があれ、コイツはまたしても他者を犠牲にしようとしている。マナの穢れはそれだけで人体の毒になる、そのエネルギーが世界中にばら撒かれることになれば…それこそ「世界の終わり」と大差ないじゃないか…!

 

「っ!」

 

 僕はすかさず通信機で皆に呼びかけようと準備するも、それは耳元に届いた「風切り音」に止められる。

 

「タクトッ!」

 

 金剛が割り入ってくれたおかげで、港湾棲姫から発艦した深海航空爆撃を避けることが出来た。僕が元居た場所には、耳を劈く爆撃によって煌々と燃える残り火が見えた。

 

「おっト、無粋なことはスルナ。戦いは既に始まっているノダ、勝敗は貴様らに優勢なのだカラこのぐらいのハンデは受けてもらうゾ? フハッ、奴らが事の重大さに気づくのハ果たして何分後かナァ!」

 

 ドラウニーアは凛とした表情から一転し、いつもの挑発するようなニヤついた嗤いを浮かべた。その「してやったり」の上々顔に、僕は身体の底から怒りが湧いて来る。

 

「ふざけるな、お前は何処まで僕たちを弄べば気が済むんだ! …っくそ、どうすれば…!?」

 

 僕は頭の中で状況整理する、ゼロ号砲はともかくアンチマナ波動砲には…危険度は下がるかもだけどどっちみち「穢れ玉」がエネルギー源だから、阻止しなければどんな大きい被害になるか分からない。元々それらの装置は破壊するつもりだったけど…今はそれぞれの隊に深海棲艦が襲いかかっていて、更に後30分の猶予しかない。しかも他の隊の皆に通信をしている余裕も無い。

 どうする…それ以前に時間内にドラウニーアたちを退けられるのか? そんな僕の心配を他所に──いつの間にか通信が入っていた映写型通信機から、落ち着いた低く柔らかい声が響いた。

 

『──そういうことなら、話は簡単だね?』

 

「ナニっ!?」

「っ! カイトさん!? 通信を開いていたんですか?」

 

 僕は通信機の映像は出さず、そのまま通信の向こうに居るであろうカイトさんに応じた。

 

『あぁ、君たちが第二段階に移行した時点でね? ドラウニーアの犯行理由という面白そうな話が聞こえたから声を掛けずそのまま話を盗み聞いた次第だ、しかし…君にとっては残念な結果になってしまうが、こうなれば「島内部に突入して、装置を壊す」しかないね?』

 

 本当に頼もしい人だ、この状況把握力と逆境を利用する強かさは、味方として「この人さえ居れば」と安心出来る。僕は感謝を込めつつカイトさんに皆への通信の仲介を頼み込む。

 

「…いえ、僕の甘さが招いた事態に配慮して頂きありがとうございます。その上で恥を忍んで頼みたいのですが、もしよろしければ…交戦中の皆にこのことを伝えてもらえたら?」

『ははっ、その心配はないよ。こういう事態になるだろうと思って、それぞれの部隊の通信も入れてある、皆にも内容が届いている筈だ。そうだろう?』

「えっ!?」

 

 カイトさんの更なるファインプレーに、僕は驚きを隠せずにいると通信から「声だけ」が聞こえる。この声は「舞風」かな?

 

『ウォシハマ隊りょーかい! これより敵艦隊と交戦を経て島内部へ突撃します! タクト…ノワツスキーも、心配しないでね!』

「マイマドレーヌ…!」

 

 野分が通信から聞こえる声に感無量となっていると、次はサラトガさんの声が響く。

 

『ササナプ隊了解です、これより島の攻略に入ります。翔鶴…貴女たちなら大丈夫です、必ず任務を遂行して下さいね? グッドラック!』

「っ! …えぇ、貴女にも期待しているわシスター!」

 

 翔鶴が凛とした顔で声を張ってサラさんに気持ちを伝える、次は…鳥海さんの声だ。

 

『チササフ隊は拠点防衛に徹します、敵の脅威が薄れ次第救援に向かいますので』

「鳥海さん、あまり無理はしないで下さい?」

『ありがとうございますタクトさん、しかし人手は多ければいい筈です。微力ながら我々も艦娘としての責務を果たします!』

 

 鳥海さん、気合い入ってるな。頼もしい限りだ…!

 最後に聴こえてくるのは──聞き慣れた低く鋭い声だ。

 

『こちらテモアカナ隊天龍、此方は状況が悪いので簡潔に報告する。現在戦艦レ級と交戦中、今のヤツの力はこれまでのそれとは比べものにならない。勝機は此方にあるが油断は出来ない、時間も惜しいのでヤツの様子を窺いつつ装置の破壊に努める。以上だ…タクト、金剛。其方は任せたぞ!』

『皆さん、ご武運を』

『コッチも適当に凌ぐからよぉ、大将と姐さんはバッチリゼロ号砲破壊しとくれよ!』

「天龍、アーヤ、モッチー。…うん、任せて!」

 

 天龍たちは大分苦戦しているようだ、無理もないけどね…それでも──

 

「ありがとう皆…気をつけてね!」

 

 僕は感謝を込めて言葉を投げ、そのまま通信を切る。

 

「…矢張り諦めないノカ、貴様らハ」

 

 ドラウニーアの何処か虚しそうな顔を見るも、僕は先程の外道の文言を思い出すと、自分の顔を引き締めた。

 

「ドラウニーア…僕が甘かった、お前にどんな悲しく辛い過去(バックグラウンド)があったとしても、世界をどうにかするだという「狂気」に取り憑かれた時点で、お前はもう「居てはいけない」んだ。多くの人を犠牲にして創り上げた世界なんて──そんなこと許されない、許してはいけないんだ…っ!」

「フンッ、許さないなら…どうするというのだ?」

 

 ヤツはそう言って僕に嗤いかける、僕の覚悟はもう決まった。どんなに言葉を重ねても…分かり合えないなら、分かり合うつもりがないなら──

 

「──お前を、止めてみせる」

 

 此処に、世界の命運を賭けた一戦が──幕を開けようとしていた。

 

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