艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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行く手を阻む敵は、倒すしか手立てはない

 僕はドラウニーアに対し、僕自身の甘さを捨てる覚悟を込めた口上を言い表した。

 とは言え命を奪うほどの覚悟でなくただ「止める」だから、まだ甘さが残っているかな? だとしても…もう迷うことはない、この男をここで逃せばまた同じことの繰り返しだ。絶対にここで──止めなくちゃいけない!

 

「…フ、フハハッ! 上出来ダ! それでコソ俺の宿敵ヨ!! それほどの覚悟あるナラバ、俺も容赦はしナイッ!」

 

 そう不敵に嗤いながら、ドラウニーアは懐から何かの液体の入った注射器を取り出し、素早く自身の首筋に射した。

 

「ぐうぅぅ……グオオオオォォォォッ!!!

 

「っ!?」

 

 液体の無くなった注射器を放り投げ、苦しげに唸ると次の瞬間に雄叫びを上げるドラウニーア。見るとヤツの左側の青白い肌が全身へ急速に広がっていっている。あの液体は「深海細胞入りの培養液」か…!

 

「おおおおおおおおおおオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 肌が完全に真白く成り果てると、額の角が天高く伸び上がり、目の色が赤い瞳となっていき、身体が膨れ上がると同時に口の顎と歯牙も肥大化していく。

 筋肉がはち切れんばかりに巨大になり、その胸中央に身に着けていた海魔石が埋め込まれる。赤い光が胸から広がると同時に両肩から「三対の砲塔」らしきものが伸びて来た。言ってしまえば「戦艦棲姫の艤装」のような出で立ちだった。

 

『…ハアァ……ッ!』

「っ、その姿は…! 本当に深海棲艦みたいだ、人間じゃ深海棲艦にはなれないんじゃなかったのか!?」

『俺ハ誰ヨリモ優レテイル。通常ノニンゲンデハ耐エラレナイ深海細胞ノ増殖モ、俺ナラバ制御ハ可能…出来レバコノヨウナ姿ニハ成リタクナカッタガ、ドンナコトヲシテデモ貴様ダケハッ、コノ世界カラ消シテクレル!』

 

 本当に出鱈目なヤツだな、今更だけど。それにしても声までよく響くようになってしまって…もう完全に「化け物」になってしまったんだな、身も心も。

 

『サアァ特異点、決着ヲツケヨウジャナイカァ。残リ30分ノ間ニ…貴様ラハキサマラノ世界ヲ守ルコトガ出来ルカナァ?』

『…ッ!』

 

 変異したドラウニーアと、沈黙していた港湾棲姫が戦闘態勢を整えて構える。

 しかし不味い状況になった、今のドラウニーアは明らかに今までとは違う、完全な深海棲艦と化したヤツがどれほどの力があるのか判らない。制限時間内にアイツを倒しきれるかどうか…僕は一抹の不安が宿るも、ここから逃げ出すという選択はもう存在しない。やるしかないんだ…っ!

 

「望む所だ、皆…用意は良い?」

「もちろん!」

「ウィ、この手で勝利を刻みましょう!」

「行きましょう…そして皆で”朝焼け”を見ましょうっ!」

 

 僕らはそれぞれの意志を確認して頷くと、ドラウニーアたちと正面から向き合い──激突する!

 

「うおおおおっ!!」

『俺ガ…世界ヲ変エルノダアアアアアッ!!』

 

 最終決戦の火蓋が切られ、今──それぞれの掲げる正義がぶつかる。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──同時刻、シルシウム島周辺海域。

 

『キヒャハハハハハ!』

 

 シルシウム島に設置された「アンチマナ波動砲」を巡って、深海戦艦レ級と戦いを繰り広げる天龍たち。彼女たちはカイトを介した拓人たちからの通信で、ドラウニーアの謀略を知らされる。

 このまま──後30分もすればアンチマナ波動砲から穢れが凝縮されたエネルギーが射出される。そう聞かされた天龍たちは急ぎレ級の撃破に挑むが…矢張り上手くはいかない。

 黒い稲妻を帯びたレ級が得物の黒鎌を振り翳すと、周囲に大量のチャクラムのような黒色の丸刃が生成されそのまま回転する。回し刃は四方八方に飛び散り弧を描くと、天龍たちに向かって斬り掛かった。

 天龍たちはそれを踏まえてそれぞれ回避行動を取る、天龍と綾波はそれぞれ二刀と戦斧で打ち合い回し刃の軌道をずらす、加古は電気、長良は風を身体を纏って回し刃をそれぞれ防御する。望月もベベを盾に「変形」させ回し刃の猛攻を防いだ。

 

『キヒャッハァ!!』

「っ、ぉお!」

 

 レ級がまたも黒鎌を振り翳す、その一瞬の隙を見て刀を交差に構えた天龍は、自慢のスピードでレ級の懐に飛び込んで敵の首元に二刀の刃を勢いよくバツの字に振った。

 

『キッヒィ!』

 

 しかし──レ級の素早い身のこなしは天龍の斬撃をひらりと躱すと、尾っぽに付けられた深海艤装から火球砲撃を繰り出す。

 天龍はそれを一瞥するや、素早く身を引いて凶弾を躱す。しかしレ級がまたも回し刃を造り始めていたので、距離を取って守りに入る。

 先ほどからこの調子が続いていた、天龍の新技「瞬速抜刀」も刀を鞘に入れる合間がなければならないが、間髪入れず猛攻を仕掛けるレ級は一秒の隙も許してはくれない様子だ。それに加えてレ級は元から戦闘センスが抜きん出ていることは今までの戦いで分かり切っている、それを含めて穢れの魔力水で戦闘能力が強化されたことを考えると、下手な攻撃を彼女に当てることは不可能に近かった。

 正に進退窮まる…とはいえ戦力はこちらが優勢であるため隙を突けばどうにでもなる。それでも──今の所油断を見せる様子もなく、更に制限時間がある以上体力勝負に持ち込むことも出来ない。

 このままでは、アンチマナ波動砲から穢れが放たれてしまう。その緊張が艦娘たちから余裕を削いでいた。

 

「…っ」

 

 この状況に焦りを見せる長良は、右手薬指に着けられた「指輪」に目を移す。その指輪には何やら小さく文字が掘られていたが、それを険しい顔つきで徐に外そうとすると──加古から怒号が飛んでくる。

 

「っ! やめろ長良! それを外すな!!」

「…っ、でもこのままじゃ…!」

「忘れたのか、お前と加賀はその指輪を絶対に外すんじゃねぇって「あの人」に言われただろう!」

「だけど…皆が頑張っているのに、このまま拮抗が続けば全部無駄になっちゃう、それだけは!」

 

 長良は目の前を遮る絶望により焦燥感に駆られ、冷静に判断出来ずにいるようだった。それを見た加古は素早く長良の傍へ寄ると、長良の肩にそっと手を置いた。

 

「大丈夫だ、タクトたちを信じようぜ。今までだって何とかなったんだ、アイツらなら絶対何とかするさ。今のアタシらはアイツらが焦らねぇように見守りながらドンと構えてりゃあ良い」

「加古…」

「お前が焦る気持ちも分かるけどよ、お前が無理に介入したとしてそれでお前が「犠牲」になるのはタクトたちも望んでねぇ筈だ。それにな…今この瞬間の時代を切り開くのはおそらくタクトたちだ、アタシらは…その先の「未来」にアイツらの手が届くように力を貸せば良い。天龍たちに任せてみようぜ!」

 

 加古はそう言って肩に置いた手とは反対の手で「サムズアップ」する。いつもと変わらない笑顔に長良は安堵の表情を浮かべた。

 

「…そうだよね、ごめん加古。私ちょっと熱くなってたみたい」

「まぁアタシらも長い付き合いだから、長良が責任背負いすぎることは解ってるよ!」

「アハハ。その分加古は普段から怠け過ぎだけどね?」

「ひでぇ、否定出来ないけどな?」

 

 二人はそう憎まれ口を叩き合いながら微笑み合う。

 長良の指輪が何を意味しているのか、現時点では分からないが…それを外すと何か良くないことが起こるのは確かなようだ。そんなことになるぐらいならと加古は天龍たちに全て任せ自分たちは支援に回ると言い切った。

 イノチを差し出さないという戦場においては大分甘い考えであったが、何よりそれは選ばれし艦娘として、後続の未来を見据えての行動だった。いざという時に頼りになるのが選ばれし艦娘だけではいけない、加古は胸中でそう結論付けていた。この先に…自分たちに()()()()()()()()()()以上、尚更だった。

 二人の会話に耳を攲ていた天龍は、少しだけ口元が綻ぶ。しかし時を移さず口角を下げると状況打破の糸口を探ろうと考えを巡らせようとした──しかし、彼女より先に行動に移ったモノが居た。

 

「っ! 綾波…!?」

 

 綾波は物理法則に反した瞬発力とそれに伴う猛スピードでレ級に迫る、片手は既に背中の大斧の柄を握っていた。

 

「はぁっ!」

『キッヒヒィア!』

 

 綾波が戦斧を勢いそのままに振り下ろすと、レ級もまた黒鎌を構えてそれを迎え撃つ。一瞬の鍔迫り合いの後レ級は綾波を後方へ弾き返す、強化されたレ級は改二の綾波の力にも引けを取らない腕力であった。

 レ級は距離を取った綾波に、空中の回し刃を矢継早に差し向ける。前方から怒涛の刃の追撃が迫る中、綾波は──

 

「──はっ!」

 

 右手を翳して自身の「能力」を発動、綾波を狩らんとする無数の回し刃が空気に押し固められると、綾波の右手を握る動作と同時に、空間ごと小さく潰されそのまま掻き消えていった。

 

「はぁ…ぐっ!?」

「綾波! おい、大丈夫か! 全くお前は隙あらば無茶をするな…!」

 

 天龍は態勢を崩した綾波に駆け寄ると彼女の無事を確認する、綾波に対し皮肉めいたことを言うも彼女は──苦悶の表情を浮かべながらも──静かに微笑むだけであった。

 先ほど体力勝負に持ち込めれば、とは言ったもののこちらも何のデメリットが無いわけではない。綾波という「諸刃の剣」が居る以上単純に根競べとも言えなかった、能力を使うたびに彼女の身体に異変があるのでは、逆にいつ隙を突かれてもおかしくはなかった。

 それでも、レ級の尋常じゃない力に対抗するためには綾波の「重力を操る」能力にも頼らざるを得なかった。それを踏まえるとこの戦況は短期決戦、かつそれぞれのメンバーの異変も顧みなければならず、果たしていつまで耐えられるのか…その中で戦況を覆す切っ掛けを作ることが出来るのか、それが課題だった。

 

 ──だが、その課題は「彼女」によって手早く解決されようとしていた。

 

「──ふぅん?」

 

 天龍と綾波のやり取りを見ていた望月は、徐に綾波に近づくと能力のデメリットに苦しむ彼女を観察する。

 

「望月、どうした?」

 

 天龍が問いかけるも望月は──ただニヤリと笑うだけだった。望月がこの悪魔が微笑んでいるような顔をする時は、大抵現状を変えるアイデアを思い付いた時に見せるものだった。それを知っていた天龍は黙って二人を見守る。

 

「綾波、調子はどんな具合だい?」

「…身体が、思うように動きません。まるで背中に…重しを乗せているような」

「ほぉ、成る程。なら…何とかなりそうだな?」

 

 望月はそう言いながら加古たちに向き直ると、声を張って頼み込む。

 

「加古、長良! 悪いが少しレ級の相手しとくれ!」

「ぁん? …仕方ないなぁ、行くぜ長良」

「う、うん!」

「悪いな、直ぐに済むからよぉ」

 

 そう言って望月が懐から取り出したのは注射器、その中には無職透明の液体の中で青く光る粒が見られる。

 

「っ! それは…?」

「コイツは野分に手渡した錠剤と同じく、艦鉱石を混ぜた拮抗薬液…平たく言やぁ「魔力水」さ。もしもの時のために作っておいたんだが…」

 

 説明しながら望月は綾波の首元を確認すると、そのまま注射器を刺して薬液を綾波に注入した。

 注射器の内容物は、青い光を放つ粒を残して全て綾波の体内へ入っていった。すると──

 

「──っ! 体が…!!」

 

 綾波は自身の変化に驚きを隠せなかった、何とあれだけ苦しかった身体の痛みが綺麗さっぱり「消え失せて」重りが外れたような身体の軽さを感じていたのだ。

 

「どういうことだ、望月?」

 

 天龍は望月に尋ねるも、それは何ということもない理由であった。

 

「要は綾波の身体に「過重力負荷」が掛かっていたのさ、自分の身体を軽くしたりした後に能力を解除したら、元の重力が身体にズシリと来たんだろうねぇ。能力を使う度に身体が悲鳴を上げていたのもそのためってワケ。だから…応急処置で済まねぇがマナの力で肉体の負荷を取り除いたのさ?」

「過重力負荷…そうか、重力を操る度に綾波自身にも肉体の負担があったのか」

「そういうこった、まっ! スゲェ能力に身体が付いてこれなかったんだろう。どんなに鍛えてもこればかりは慣れだろうからな、もう少し使い続けてりゃあそれも解消するだろうぜ」

「ありがとうございます望月さん、本当に…こんなに簡単に治せるのであれば、もっと早くに貴女を頼るべきでした」

「演習の時は能力を使わなかったからデメリットも目に入らなかったし、状況がこんなじゃあね? アタシもアンタを診てやれる暇がなかったからなぁ…ヒヒッ、でもこれで問題はねぇだろ?」

 

 望月がニヤリと嗤うと、綾波も態勢を立て直して力強く頷く。

 

「はい、これなら行けます。私の力を…憂いなく皆さんを守るために使えます!」

「その意気だぜ? つーわけで天龍よ、直ぐにでも波動砲だか射出装置だかを何とかせにゃならん以上、ここはお前と加古長良であの死神の傍を強行突破するのが得策だ。お前さんらの速さならそれも造作もねぇだろ?」

「お前と綾波だけでこの場を凌ぐというのか?」

 

 望月の提案として、望月と綾波でレ級を相手取っている間に、天龍たちで波動砲を破壊してくるというもの。だが──それは二人に、5人掛かりでも斃れない死神を任せるというもの。

 刻一刻と波動砲の発射が迫る以上その選択は正しい、それは天龍でも理解できるが──果たしてどうなるのか、一抹の不安が天龍の頭を過ぎる。

 

 それでも望月はいつものように不敵に笑い、綾波もまた自身に満ちた顔で天龍を見つめる。言葉を交わさなくとも…彼女たちの気持ちは天龍に届いていた。

 

「…分かった、無理はするな。絶対にな?」

「はい、天龍さん…お気をつけて」

「あぁ。矢張りお前は頼りになるな…望月?」

「ヒッ! 褒めても何も出さねーよ、アタシはそこまで甘っタレじゃないんでね?」

 

 望月はいつもの皮肉を叩くも、天龍の彼女に対する信頼感は揺るがない。綾波の能力問題というあれだけ悩んでいた事柄を早くも解消してしまったのだから、尚更である。

 彼女の頭の回転の速さと柔軟な考え、何より状況を転ずるほどのアイテムの作成、それらを統合した彼女の「天才的なアイデア」が無ければ、ここで手詰まりだった可能性もある。天龍はそれを身に沁みて理解して、望月の照れ隠しを黙って受け取り微笑むのだった。

 天龍たちの短いやり取りの横で、加古と長良も天龍の横へ並び立った。

 

「良いんだな? 望月」

「ヒッ! アタシは脳筋じゃないからねぇ。何かありゃあ綾波の首根っこ引っ掴んで逃げるさね」

「頼みました望月さん、貴女になら背中を預けられます」

「そうかい? そんでもあんま期待してくれんなよって」

「話は纏まった? なら…行こうか?」

 

 長良の言葉に頷く天龍と加古は、それぞれ全力で走る体勢を作る。

 

「綾波がレ級の動きを止めた後、アタシが様子見て合図するから、それを聞いたら走れ!」

「了解した」

 

『キッヒァアアッ!!』

 

 天龍たちの話を知らずにか、レ級は黒鎌を構えると縦の方向へそれを降り始め、そのまま一気に高速回転すると片輪車の如く大きな円を描きながら天龍たちへ差し迫り、刃でその身を断たんとする。

 

「綾波!」

「了承」

 

 綾波が手を翳すと右手周りの空間が歪む、同時にレ級の周りも同じように歪み始める。レ級の動きが──止まった。

 

「今だ、走れ!」

 

 望月の号令が轟くと、天龍は純粋なスピードで、加古は稲妻を纏うことで空間を奔り、長良は風の風圧を利用したブースターでその場から一瞬でシルシウム島内を目指した。

 

『──ギ、ギイィ…!』

 

 レ級は重力に押さえつけられながらも、黒鎌を振るうことを止めなかった。そして──

 

『──ギ、ギィアッ!』

 

 気がつくとレ級は──いつの間にか──空間の歪みから脱しており、天龍たちには目もくれず再び黒鎌の縦回転斬りの高速回転で綾波たちを真っ二つにしようと猛進する。

 

「くっ!」

「おわっと!?」

 

 綾波は素早く望月を抱えると、そのまま重力を軽くした脚で横へ飛び避ける。レ級もそれを理解してか避けた瞬間に旋回し、綾波を捉えるとそれに追随して来る。

 

「ゴアァ!」

 

 綾波たちが駆け抜けたタイミングで、ベベは盾の形を保ったままレ級の進路を塞いだ。しかし──

 

『ギャアァッ!!』

 

 ──斬ッ

 

 分厚い壁と化したベベを物ともせず、レ級は一閃の元に障害物を斬り伏せた。瞬間力なく倒れるようにべべは海中に沈んだ。

 

「ちっ、やっぱ並大抵の強度じゃ足止めにもならねぇか? ベベも結構硬いんだがねぇ」

 

 望月はそう毒突く傍ら、綾波は天龍たちが向かったシルシウム島の方を見やった。

 もう姿も見えなくなっており、囮としては大成功と言って良い。しかし問題は…制限時間内に射出装置まで辿り着けるか、その一点だった。

 だがここからは天龍たちを信じるほかなかった、自分たちに出来ることはレ級を足止め、若しくは倒すしかない。

 

「望月さん、このまま逃げるだけでは埒が明きません、私が仕掛けてみます!」

「おいおい正気かよ。…って言いてぇとこだがそうも言ってらんねーな、レ級のヤローどんどんこっちに追いついて来やがってる。強化の賜物か執念深さが勝っているか、どちらにしろだな? …行ってきな、アタシがサポートしてやる」

 

 望月がそう言うと、綾波は「感謝します。」と短く礼を述べると一度立ち止まり望月を降ろす。そして──素早く向き直ると、レ級に向かって力強く跳んだ。

 

「うおおぉっ!」

『キヒッヒヒヒヒヒヒ!』

 

 綾波は背中の大斧を手に取り、それを思い切り振り被る、レ級は最早「黒い風のサイクロン」となってそれを迎え撃った。

 双方の全力を込めた一撃が、今ぶつかり合う──

 

 

 ──ガッ、パキッ!

 

 

「っ!? 斧が…!」

 

 しかしここでアクシデントが起こる。綾波の戦斧とレ級の黒鎌が刃を重ねた瞬間、綾波の斧が耐えられずに「欠けてしまった」。斧の分厚い刃が黒鎌に抉り刈られて、無残にも割れていた。

 

『ギイィアッ!』

 

 隙を見せる綾波に畳み掛けるレ級、綾波の横を過ぎてから足を止めると、振り向き様に黒鎌で綾波の首めがけて薙ぎ払った。

 間一髪で斧で防御出来た綾波だったが、脆くなった斧はレ級の攻撃の拍子にひび割れが悪化し、遂に刃部分が完全に破壊されて無くなってしまう。

 

「っ!」

 

 綾波の得物が無くなった──その瞬間をレ級は見逃さなかった。

 レ級は黒鎌の刃先を向けると、綾波を頭から両断しようと鎌を大きく振りかぶる。

 

『キッヒィヒヒヒッ!!』

 

 避けようにも鎌の長い刃は確りと綾波を捉えている、どんなに早く動いたとしても間違いなくレ級の鎌刃が自身を引き裂くだろう、かと言って斧が砕かれた故に防御手段もない。こうなれば能力の行使──重力操作で相手の動きを止める──しかない。

 

「(騎士としては恥ずべき行為ですが…私は司令官に「生きろ」と言われた。その命令は──どんなことをしても、絶対に覆さない!)」

 

 騎士の矜持──強大な能力を一騎討ちに使うべきで無い──という己の「枷」を引き千切り、綾波はある程度距離を取り片手を翳すと「重力操作」にて空間に重圧を加えレ級を止める。まるで凍りついたようにピタリと動きを停止した、レ級の動きは確かに止まっていた──だが。

 

『ッギ…ガアアアッ!!』

 

「…っ!?」

 

 綾波と距離を開けて石像の如くピタリと動きを止めたレ級が──またしても瞬きの間に──距離を詰めて綾波の目の前に現れた。綾波の視界はレ級の嗤い顔で埋め尽くされた。

 

「何だぁ!? 一瞬で綾波の重力場から出て来やがった! …さっきから悪寒がするぜ、コイツぁまさか…っ!」

『ギイィャァアアアアッ!!』

 

 望月の何かに勘づいたような言葉を他所に、レ級は狂気を湛えた貌で綾波を睨み吼えると──空中でくるりと横に回転すると回し蹴りをお見舞いする。

 

「くっ!」

 

 綾波は両腕を交差させてレ級の攻撃を受ける、全身が鉄塊に打ち付けられたような衝撃が駆け巡ると、後方へ大きく吹き飛ばされた。

 何とか態勢を立て直し海上に踏み止まる綾波だったが、先ほどの能力行使で体力を削られたか肩で息をしていた。望月に回復して貰った身体も束の間もなくボロボロになっていた。しかしもし次の攻撃が当たればこんなものでは済まないだろう…だとしても避けることも、防御手段も、重力操作も効かない。正に死に物狂いで綾波のイノチを刈ろうとするレ級。

 

『…ギイィ、ギヤアァッ!!』

 

 レ級がニヤリと嗤い、真っ直ぐ跳躍しそのまま黒鎌を振りかぶると、今度こそ首を刈ろうと綾波を狙う。

 綾波はどうしたものかと頭を悩ませた。武器が壊れた以上素手のまま戦わざるを得ないが、それではレ級が有利である。決死の攻撃を仕掛け続けるレ級に隙は無いということもあり、このまま行けばこちらの首を掻かれることは確かだ。

 まだやれることはある筈、そう必死に頭を巡らせるも…打開策が浮かぶことは無かった。

 

「くそ…っ!」

 

 綾波が諦めかけていた──その時。

 

「綾波よぉ! 助けが欲しいかい?」

 

 綾波がハッとした表情をした後振り向いた方には、不敵な笑みを浮かべる望月が居た。

 自分一人だけではどうしようもない相手になりつつあるレ級であったが、今の彼女には盤上を覆す才将が居た。綾波は力強く頷き望月に対し信頼の目を向けると助けを請うた。

 

「お願いします、望月さん!」

 

「よっしゃ! ──ベベ! ウェポンシフト「A-nami」だ!!」

 

 望月が叫ぶと、海中から破壊されたはずの「ベベ」の身体の欠片「可変可動鉱石(メタモルフォーゼ)」が飛び出し、宙に浮いて一箇所に集まっていく。徐々に形を覚えたそれは──綾波の大斧を一回り大きくしたような「巨大斧」へ変貌した。

 綾波が望月の意図を理解した瞬間──重力操作により身体を軽くしつつ後方へ飛び退くと、べべが変身したであろう巨大斧を手に取る。

 

『ギィギェアアアッ!』

 

 距離を取られる形となったレ級だったが、そんなことはお構い無しと言わんばかりにまたしても「いつの間にか」綾波との距離を瞬時に詰める。綾波の前に飛び込んだ死神は得物の黒鎌を一気に振り下ろした──が。

 

「──はあぁっ!」

『ギギィッ!!?』

 

 綾波が巨大斧を一振りすると、海面が風圧の影響で細波立ち同時にレ級に向かい強風が吹き荒れる。レ級は体勢が崩れ後ろに飛ばされるも、直ぐにくるりと身を捻ると海面に着水する。

 

『ギイィ…ッ!』

「へっ! ベベの新しい武器変化だぜ、本当は戦艦仕様なんだがどうせ姐さんは使わねぇだろうし、綾波専用に調整しておいたぜ!!」

「凄い…強度も威力も桁違いです、ありがとうございます望月さん!」

「まだまだこんなモンじゃねえよ? 綾波、斧の刃に「力」流し込んでみ?」

「え…っ?」

 

 一体どういうことか分からないが、望月に言われるまま重圧を斧の刃に掛ける。すると──

 

「っ! 斧が…!」

 

 巨大斧の刃部分が柄部分から切り離される、ゆっくりと宙に浮いたそれは──高速で回転し始めた…!

 

「どうよ、アタシの造ったギミックは。ソイツの刃には重圧に反発して動き出す浮遊動力が積んである、刃と柄の接合部分には電磁力が働いてるから、アンタが柄を握ってる限り効果は持続する。アンタにピッタリだろ?」

「…ふふっ、感謝します!」

 

 望月に微笑み感謝を述べた綾波は、回転する巨大斧を振り上げるとそのまま海面へ力一杯叩き付けた。

 斧は回転により生まれた余剰威力により、海上を割らんばかりに駆ける「衝撃波」となった。衝撃波は真っ直ぐレ級へ向かっている…レ級はそれに気づくと飛び上がって回避した。

 

『キィエアアッ!!』

「形勢は持ち直しましたが、矢張りまだ立ち向かって来るようですね。…迎撃します、望月さん援護をお願いします!」

「あいよ任せな、ここが踏ん張りどころさね!」

 

 レ級が水面へ着地すると、前方の綾波そして後方で彼女を支援する望月を交互に睨みつけた。

 

『グルル…ッ』

「貴女とはこれまで何度も刃を交わした仲、私としても不本意ですが…どうやらここで幕引きのようですね」

「終わらせりゃいいさ、レ級がどんなに足掻いても…アイツ自身はもうここで「沈む」だろうからなぁ」

 

 望月の言うところは、穢れの魔力水を用いたレ級の急激なパワーアップの代償として、身体が持たずに間もなく動かなくなるだろう、というもの。

 無論それだけの話ではない、天龍たちが波動砲を壊すその時まで、綾波と望月でレ級を足止めしなければならないのだ。油断すればこちらが刈られる状況で──どちらが倒れるのが先か、今後の明暗を決める一戦なのは間違いない。

 

 今までの因縁に決着を付けるため、綾波は巨大斧を振るうとレ級に向けて構える。

 

「──参ります」

 

『ギィイェガァアアアアアッ!!』

 

 綾波の静かに燃える闘志に応えるように──レ級もまた得物である黒鎌を構え吼えるのだった。

 

「…さて、一応対策を考えないとねぇ?」

 

 その裏で、艦隊きっての知将は次の策を練っていた…。

 

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