艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──南木鎮守府屋上。
絶望を表したような厚い曇り空の下、緑に光る巨大零鉱石の照らす中、拓人たちは世界滅亡の首謀者ドラウニーアと対峙する。
最優先となるゼロ号砲破壊の前に立ちはだかるドラウニーア、拓人たちは最初にドラウニーアを行動不能にすべく連携しながら戦闘を開始する。
しかし…完全な深海棲艦と化したことにより、拓人たちより二回り大きな身体と成ったドラウニーアは、深海細胞を完全に受け入れることにより人間の範疇を越えて、まるで化け物な容姿と能力を手に入れた。その反則的な強さの片鱗は戦いの中で見られた。
「うおおっ!」
拓人が右腕に装着した「変形腕輪」を片手剣に変えると、そのままドラウニーアに斬りかかった。
拓人は今まで人を傷つけることは無かったが、この外道を倒すためならその程度の「覚悟」は乗り越えてみせる。そう胸内で意気込むとドラウニーアの肉体右肩から右胸にかけて袈裟斬りをお見舞いする。
それでも矢張り傷は浅いモノだったが、ドラウニーアの胸部に大きな切り傷を付けることに成功、このまま少しでもダメージを…そう思っていた矢先に、拓人の考えが甘く浅はかであると思い知らされる。
『ヌゥッ!』
ドラウニーアが少し力んだ様子を見せて、身体中の筋肉を揺らしていると──拓人の付けた胸の傷か、みるみる内に塞がっていった。
「っく、やっぱり小手先じゃ駄目か!」
『当タリ前ダアアァッ、コノボディハ深海棲艦ノ脅威的ナ回復能力ガ備ワッテイルッ、貴様ノ付ケタ掠リ傷程度直グニ塞ガルワァッ!』
「っ! 傷を付けるのが駄目なら──」
「──疲れが出るまで叩き続ける!」
ドラウニーアの能力を前に尚も諦めない拓人に続き、金剛は勇ましく叫びながらドラウニーアに接近すると、両手拳から高速のラッシュを繰り出しその身体に叩き込んだ。
「おりゃああっ!」
『フハハァッ、小癪コシャクゥッ!』
ドラウニーアは丸太のように巨大な腕を振り回すと、金剛を薙ぎ払い後方へ飛ばす。金剛は空中で体勢を整えつつ艤装を召喚、着地した後に砲撃の準備をする。
「合わせよう、金剛!」
「っ! うん、いっくよぉー、ファイヤァアアッ!!」
拓人は金剛の横で、既に腕輪を剣から「ランチャー砲」に変えていた。金剛はそれを見ると拓人の砲撃に合わせ自身も砲火を放った。
──ズドォンッ!
二人の砲撃は広範囲に及ぶ爆炎を生み出す、その衝撃は確実にドラウニーアの身体を貫き焼き尽くした。だが──
『ソノ程度デト…言ッタ筈ダゾオォ…ッ!』
硝煙の晴れた先には、ドラウニーアの焼け爛れた肌が驚異的な速度で回復していく姿があった。威力の増した攻撃でも駄目だというのか…拓人は苦い顔でドラウニーアを睨む。このままではゼロ号砲発射まで耐えられてしまう…!
──そんな中、拓人はドラウニーアの背後へ駆け寄る一つの影を見た。
物音がする後方を振り向くドラウニーアが見たのは、こちらに向かって真っ直ぐ駆け抜ける「野分」の姿だった。野分は艤装を召喚すると二連装砲でドラウニーアの身体へ向け砲撃を放った。
──ズドォンッ!
『ヌゥッ!? 何ヲシテイルゥ、迎撃シロオォッ!』
砲撃を受けるドラウニーアの激昂に反応して、それまで翔鶴との航空戦を繰り広げていた港湾棲姫は、航空隊の一部を野分撃滅に配した。
『ケケケーッ!!』
「…っ! しまった!?」
翔鶴は野分の方に向かう敵機が見えるも、敵艦載機本隊とのドッグファイトに足を取られ救援隊を出せないでいた。そうこうしている内に港湾棲姫の深海艦載機は、野分に向け機銃掃射と絨毯爆撃を敢行した。
──ズドォオンッ!
「…っ」
「野分! …っ!?」
拓人は野分の肌を確りと撃ち抜いた凶弾を目の当たりにし、更に爆弾の雨が野分の衣装とその下の柔肌をも焼いた場面も目撃してしまう。
痛々しい焼け焦げた肌と血が野分に浮かび上がる、凄惨な光景に思わず息を呑む拓人と金剛。それを見て醜く歪み嗤うドラウニーア…野分への大ダメージは必至、と思われたが──
「──うああっ!」
野分は痛みを感じさせない瞬発力で再び走り出す、彼女の焼け落ちた服の隙間から見せる肌の傷は、徐々に治って来ているのが見て取れた。
「そうか、野分も深海化し始めているから傷の治りも普通の艦娘より早いんだ!」
『何ッ!? クソガッ!』
ドラウニーアは悔し紛れに短い罵倒を吐くと、邪魔モノを撥ね退けるため自ら野分の前に躍り出る。その様相は正に「上先の見えない断崖絶壁」であった。
「っく!」
足を止めた野分がドラウニーアを睨む、ドラウニーアもまた野分に憤慨の貌を見せるも…程なくして思い出したように言葉を投げた。
『貴様…アノ時ノがらくたダッタカ、百門要塞デ俺ヲ追イ詰メタト意気ガッテイタヤツ。深海細胞ヲ埋メ込ンデヤッタ筈ダガ…アレカラ随分時間ガ経過シテイルダロウニ、深海化ガ未ダソノ程度トハ…少シバカリ驚イタゾ?』
「お生憎様でした、貴方の寄越した深海細胞でボクも深海化一歩手前になってしまったようですが、それでもボクの精神を汚すことは叶わなかったようですね?」
野分はニヤリと笑ってドラウニーアの「詰めの甘さ」を遠回しに指摘する、しかしドラウニーアは肥大化した大きな口を不気味に歪めた。
『ハッ、雑兵風情ガホザクナ。弱味ヲ突イテ瞬キモセズニ倒レタ貴様デハ、俺ハ止メラレン! 半端ナ深海化デハドウニモナランゾ!!』
「そうやって時間まで駄弁を続けますか? 残念ですが貴方のやろうとしていることはお見通しですよ」
『貴様ァ…ッ!』
「騙しだましその場を先延ばしにしたところで…我々の勝利は揺るがない!」
野分は言い終えるや否やその場で跳躍すると、ドラウニーアへ自らの得物である細剣を構えた。
『──馬鹿メッ!』
しかしドラウニーアは比較的落ち着いた様子で顔の前に腕を交差させる──すると、野分の細剣から繰り出された突きは、剣の切っ先からドラウニーアの右前腕に食い込み取り出せなくなっていた。どうやら筋肉で剣が挟み込まれたようだ。
「なっ!?」
『フハッ、俺ノヤロウトシテイルコトガオ見通シダトォ? コレヲ見テモソンナ大口ヲ…叩ケルカアァッ!!』
ドラウニーアは右腕をそのまま思い切り振り抜くと、剣ごと野分を飛ばした。大きく吹き飛ばされた野分はそのまま地に叩き付けられた。
「かは…っ!?」
「野分っ!!」
衝撃が野分を駆け巡る、拓人は野分の安否への不安を叫ぶも幸い軽傷ではあるようだ。
だがこれでハッキリとしたことは、今のドラウニーアに中途半端な実力で挑んでも倒せない。そんな絶対的な事実だった、改二クラスの実力者が居れば話は別だが、金剛も翔鶴も野分も改止まりで実力も平均より上以上程度、怪物クラスのドラウニーアを倒すにはどうしても時間を掛けなければならなかったが、そんな時間を使うぐらいならゼロ号砲破壊に向かった方がまだ有意義だった。
『フハハッ、ソゥラドウシタァッ! 早クシナイト…世界ガ壊レテシマウゾオォ!!』
両腕を広げて吠え猛るドラウニーア、ゼロ号砲を前に最大の障害として立ち塞がる宿敵。
世界を賭けた戦い、負ければゼロ号砲が発射され世界の何処かに甚大な爪痕が遺される。拓人たちはそれを阻止するため不死身と化したドラウニーアに立ち向かう。
──しかし、戦況は刻一刻と差し迫っていく。
『──ゼロ号砲及びアンチマナ波動砲、発射まであと15分』
「っ! くそ、もう時間が無い!」
警告音声が囃し立てるようにタイムアップを知らせる、もうドラウニーアを戦闘不能にさせるのは現実的ではない。目の前の怪物を相手取りながらゼロ号砲破壊に人員を割く必要がある、拓人はどうすれば良いかと思考して妙案を探すも、次第に焦りを見せ始める。どうすればゼロ号砲を止められるのか──
先ず思いついたのは翔鶴をゼロ号砲破壊に向かわせる戦法、翔鶴の航空爆撃ならゼロ号砲を破壊するのは十分可能だが、現在彼女は港湾棲姫との制空権争いの真っ只中であり、仮に向かわせるとなれば港湾の邪魔が入るのは確実だった。せめて可能なら翔鶴にはドラウニーアの足止めをお願いしたいところだが、そんな余裕すらない状況なのは目に視えている。
次に一か八か野分を先行させる戦法、拓人と金剛でドラウニーアを抑え込んでいる間に野分にゼロ号砲の破壊工作をさせるものだ。砲身そのものは流石に無理があるが、明らかにエネルギー源である零鉱石に砲撃を撃ち込んで罅(ひび)を入れるなり、一太刀でも入れることが出来れば…そう思い至った拓人であったが、矢張り──忌々しいことだが──ドラウニーアの言う通り野分は一駆逐艦娘であり腕力も砲火力も、他の艦娘と比べ強いということはない。深海化しかけているとはいえ巨大な岩石である零鉱石を破壊しようとするのは、どんなに見積もっても時間が掛かり過ぎた。
ならば金剛ならばどうか? 先ほどの戦法で野分と金剛を入れ替える形で、彼女が零鉱石破壊に向かえば或いは勝機は見える、戦艦の火力と腕力なら零鉱石も砕け散るだろう。…だが──
「(金剛に何かあれば戦況が一気に覆る可能性がある、ドラウニーアがそこを突かない筈がない。彼女にはなるだけ後方で様子を見て貰いたい…でも、ぁあ、それでも歯痒いなぁ)」
戦力の見方として金剛を前に出さない拓人だが、一番の理由は彼にとって金剛が「誰よりも大切な存在」だからだろう。過去に最愛の人物を喪った彼はそんな甘さの残る考えを是とした、しかしながらそうも言っていられないことも事実であり、いざとなれば金剛を前に出す覚悟もしなければならない。拓人もここまで来て融通が効かない訳ではない。
それでも誰の犠牲も出さない方法を探したいと願う拓人、野分や金剛が先頭に立つという戦法も拓人の「合理的な一面」の出した結論であり、本当はあまりにも無茶な行動はさせたくなかった。
「(でも、今の僕にはこれで精一杯の考えだ。くそっ…僕こそ肝心な場面で何も出来なきゃ、ここに居る意味がない…どうすれば)」
拓人はこの現状を踏まえてどうやって牙城を崩すか、如何に負傷シ者を出さず敵の
「──っ、ダメだ。そんなことしたら…僕はアイツと同じになってしまう。他人を切り捨ててまで勝利を掴もうとした目の前の卑しい男にっ。そんなことをしてまで僕は、皆を喪うようなことなんてしたくない…っ!」
「タクト…」
絞り出すように苦悶の声を上げる拓人、拓人を見守る金剛も憂いを隠せず、不安の声色を漏らした。
ドラウニーアを倒しゼロ号砲を破壊するには、全力で挑まねばならない。それは理解しているが拓人の「誰にも犠牲になって欲しくない」という気持ちがそれを否定していた。司令塔を務めるものが感情に左右されてはならないと言うが、拓人は今正に優柔不断に苛まれた「気持ちを捨てきれない愚将」になりかけていた。
これまで拓人がここまで任務をやり遂げて来れたのは、偏に艦娘たちとの信頼を育んでいたから。しかしそれが今一番の戦いにおいて枷になっていることは確かだ、甘さを捨てきれない者に戦場は生き残れないのだと、現実が語気を強めて怒鳴りつけるように迫っていた。
どんなに頭を悩ませても、どんなにそれだけはと否定しても、結局「それしかない」と思ってしまう。一体どうすれば…拓人は今この時選択を迫られているが、そこへ至るための理由が出来ずどうしても足踏みしてしまう。
後15分──焦りは思考の妨げとなり、司令塔である拓人は判断を間違えないように慎重になっていた。このまま何も出来ないのか──そう心の隅で考えてしまうと、余計に冷静では居られなかった。
──正に望みが消え失せようとしているその時、大きく声を張り、かつ凛とした激励の言葉が木霊する。
「──諦めないで、タクト!」
その声にハッとした拓人、振り向くとそこには輝くような勇ましい顔つきの翔鶴が居た。相対する港湾棲姫と向き合いながら、彼女は横顔からチラリと拓人を一瞥すると、宣言するように高らかに謳った。
「貴方なら大丈夫、この状況を打破出来るって信じてる! だって…貴方はそう言って私たちを元気付けてきたじゃない、逆境を乗り越えて来たじゃない。今回もきっとそう…貴方に抜け出せない壁は無いわ!」
「翔鶴…無理だよ、僕は君たちを犠牲にしてまで戦いに勝ちたくないよ…っ!」
「犠牲になんてならない、貴方が言ったんでしょう? 「僕は皆を信じてる」って! 私にも貴方を信じさせて、貴方のためなら…どんなことでもやり遂げてみせる!」
「っ!」
翔鶴はハッキリとした口調で言ってみせた。
今まで怒りと憎しみに駆られ不安定だった翔鶴、その道行きは険しく荒れた坂道であり、彼女は幾度も怒り、泣き、諦観し始めていた。
それでも拓人は彼女の明るい未来を信じ、彼女を時に説き伏し時に支えて、特にここクロギリ海域に来てからは荒波の連続であったが、最終的にここ南木鎮守府にて過去の真相を暴き、遂に翔鶴は彼女自身の辛い過去を乗り越えた。
だからこその発破であった、どんなに傷ついても構わない…ここまで寄り添ってくれた拓人なら信じられると、憎しみから解き放たれた翔鶴が信頼を口にした。これはどんな言葉よりも大きな意味を持つものだった。
拓人はその言葉に驚きと喜びが同時に湧き上がる感覚があった、しかし今は戦いの最中であることを思い出すと首を振って表情を作り直す。唇をキュッと引き締めると翔鶴に覚悟を問いかける。
「じゃあ約束して、絶対に無茶しないこと。僕が焦って無茶を言い始めたら指摘してでも止めること。それと…これしかないと感じても、絶対に生きることを諦めないこと!」
「えぇ勿論、貴方のほうこそ私たちより先に死んだら許さないから!」
拓人の提言に翔鶴は望むところと強気に返した。それを見た金剛と野分も表情を緩めつつ言葉を投げた。
「大丈夫だよ、タクトは私たちで守って見せるから!」
「ウィ! ボクはコマンダンを守る剣となります、何があろうと障害を除いて見せましょう!」
拓人の元に艦娘たちの頼もしい言葉が届く、そして心に一つの「理解」が築かれる──片方だけが信じるでなく、双方が信じあうことが出来れば…胸に熱く燃える「信頼」の絆が生まれる、それは恐怖や不安を吹き飛ばす「原動力」となり得るのだと。
知っていた筈だった、しかし教えられたのだ。翔鶴は成長を遂げ得たココロの強さで──仲間たちの周りの暗闇を照らす「希望」となったのだ。
「(ぁあ、そうか──迷っている暇は無い。僕はいつも通り…僕に出来ること、彼女たちを「信じる」ことを続けるしかないんだ。迷うな…迷ったら彼女たちの覚悟に泥を塗ることになる!)」
拓人はそう思い直すと、遠慮無しにこの場を凌ぐ策を考える。翔鶴たちの信頼に応えるために…!
『フンッ、何ヲシヨウト…無駄ナノダアァッ!!』
そんなモノは幼稚だと嘲笑うように、ドラウニーアは拓人に向かって両肩に生えた砲塔からエネルギー弾を放つ。しかし…それは金剛の艤装、三連装砲からの連続射出による砲撃に掻き消され相殺される。
「言った筈だよ、タクトは…私たちが守るって!」
『ッ、クソガァッ』
対峙する二人を横目に、拓人は「先ずはドラウニーアを止めること」を優先し、即興の指示で状況を少しづつ整えていく。
「翔鶴、冷気魔導弾でアイツの足を止めて!」
「了解!」
拓人の号令に翔鶴が矢筒の冷気魔導矢に手を伸ばそうとすると、それを予期してか港湾棲姫から深海艦載機が発艦、阻止しようとする。
「野分、対空防御だ! 港湾の艦載機を撃ち落とせ!」
「ウィ!」
言われた野分は空中に展開する敵艦載機群へ対空砲火を撃ち上げる、それでも仕留め切れておらず尚も接近する深海艦載機を見るや、暗い水底から水上へ浮き上がるように空にふわりと舞い上がると、光を纏った細剣で迫る深海艦載機を斬り刻む。賽の目に成り果てた深海艦載機から断末魔が轟く。
『ケゲーーーッ!?』
『グッ! コノ役立タズガアァッ!!』
苛立つドラウニーアは巨体を素早く動かし特攻を仕掛ける、巨大な掌が拓人の身体を捻り潰さんと開くと、それをさせまいと金剛が立ち塞がり渾身のストレートを、魔獣となったドラウニーアの腹部に一発殴り入れた。
『グゴォッ!?』
「うおおおおおおおっ!!」
そのまま拳を前に突き出す要領でドラウニーアを押し戻す、白く染まった巨体が空中に放り出されるとそのまま背後のゼロ号砲の砲台に叩き付けられる。
『グオォッ!?』
「行け、翔鶴!」
「えぇ! 魔導航空隊…発艦!」
翔鶴が必殺の一矢を番えて撃つ、矢は航空機隊と変わり上昇…ドラウニーアの上空から降下爆撃を行う。爆弾が破裂した瞬間辺りには霜が漂い、気づけばドラウニーアはゼロ号砲の砲台に縛り付けられるように氷漬けにされていた。
『ヌヴゥッ!?』
「今だ、零鉱石に向かって一斉攻撃だ!!」
拓人の攻撃司令、それが風に乗って空間に響いた──その一瞬、誰しもが得物を構えてゼロ号砲の零鉱石に向けていた。
拓人は腕輪から変形したキャノン砲、金剛は三連装砲、野分は細剣と艤装の二連装砲、翔鶴も第二次航空攻撃隊をいつでも発艦できるよう弓と矢を構えた。
「撃てええぇーーーーっ!!」
拓人の喉が張り裂けんばかりの轟く号令、トリガーが引かれると──各々の遠距離攻撃手段で、緑に光る巨大岩石を破壊すべくそのエネルギー、砲弾、艦載機群が一点に集中し撃ち抜かれようとしていた。
これぞ王手か──そう思われた矢先、ドラウニーアは禍々しい閃光を走らせながら言い放った。
『
何と、ドラウニーアの胸に
次の瞬間──何モノかの影が零鉱石へ集まる拓人たちの攻撃を全身で受け止める。激しい爆発音と豪炎が空に発せられた…その硝煙の後から浮かび上がったのは──港湾棲姫だった。
『…ゥ…ッ!』
上手く着地出来ず身体を打ちつける港湾棲姫、激しい攻撃の影響かノースリーブワンピースは今にも破れそうなボロボロに焼け傷み、全身の柔肌に大きな火傷が散見された。致命傷とまではいかないが如何に姫級と言えど傷の完治には時間が掛かりそうだった。
『…ッ……ァ………』
虫の息の港湾棲姫は立ち上がるのも難しいようで、痛みに震える身体では顔を起こすだけで限界であった。港湾棲姫の痛ましい姿に、拓人は何処か歯痒い気持ちになる。
「(ごめん、本当は助けてあげたいけど…!)」
拓人は自身の心を鬼にして、港湾棲姫へ駆け寄りたいとする甘さを制した。
ともあれ、これで敵の勢力が落ちることは確か。港湾棲姫が復活する前にゼロ号砲を破壊しなければ──各々がそう思いつつ再び武器を構えた時…空気が震えた。
『オオオオオオオオオオオオオオオォ…ッ!!』
──パキッ!
ドラウニーアが全身全霊の力を出し絞る、咆哮は空間を歪ませ身体の奥底まで響き渡る。巨体の筋肉が躍ると──敵を縛り付けた氷が割れ、悪魔は拘束を破った。
「(っ、氷を力業で割るのは目に見えていたけど…予想より早いっ!)」
『特異点ンンンッ!!』
拓人が胸中で驚きを見せる中、ドラウニーアは拓人を絞め壊そうと猛追する。まるで大岩が加速しながら向かってくる様は凄まじい迫力があった。
万事休すの拓人だったが、拓人とドラウニーアの間に金剛と野分が立ち塞がった。二人は同時に飛び上がると金剛は拳を握り野分は細剣を構え、ドラウニーアに一太刀浴びせようとする。
「させないっ!」
「コマンダンは…ボクたちが守ります!」
『邪魔立テスルナアアアアァッ!!』
しかし奮戦虚しくドラウニーアは両巨腕を顔の前で交差させ、それを勢いよく振り抜く。巨腕の直撃を受けた金剛と野分はそれぞれ右端左端へ吹き飛ばされる。
「ぁああ”っ!?」
「ぐあぁっ!?」
「金剛! 野分!?」
『余所見ヲスルトハ、ソレガ命取リヨォッ!』
ドラウニーアは拓人へと手を伸ばすとその小さな体を大きな掌で握りしめる、拓人を片手で捕まえるとそのままもう片方の手を重ね、逃げられないようにガッチリと指を固めた。
「っ、しまった…!」
『ハハ、ハハハハハァッ! 捕エタゾ…次ハ貴様ノ華奢ナ身体ヲ壊シテヤル…ッ!』
高笑いを一つかますと拓人を握り締めた両手指に力を込めて、拓人の身体を粉々に砕こうとするドラウニーア。万力の如く徐々に体に奔る激痛に拓人は思わず喚き叫んだ。
「ぐ、あああああっ!?」
「タクト!」
「タ、タクト…!」
拓人の苦痛を込めた悲鳴に、翔鶴は叫び金剛も地に倒れ伏しながらも身体を起こそうとする。
だが刻一刻と迫るタイムリミット、拓人の身体の骨はミシミシと軋み心臓と共に潰されようとしている。そうでなくともゼロ号砲発射の刻限も間近であった。
『──ゼロ号砲及びアンチマナ波動砲、発射まであと10分』
『フハハッ、貴様サエ葬レバ艦娘ノ強化モ出来マイィ! コレデ終ワリダ…特異点ンンンッ!!』
「があああああああああああああああっ!!?」
「(タクト…またなの? また私は…何も守れないまま…っ!)」
ドラウニーアが手に力を込める度拓人の痛みが込められた叫声が轟く、希望を抱いて行動を起こした拓人たちの命運は、絶対的な力の前に暗い闇の淵へ追いやられようとしていた。
翔鶴は弓を構えるも、ドラウニーアの異常な回復力の前に自分の力では太刀打ちできないことは目に見えている。どうにもならないのか…険しい顔で壁を認知した翔鶴もまた絶望に屈しようとしていた──
──だが、そんな翔鶴の頭の中をある言葉が過ぎった。
『──立ち上がって、私のため…皆のために』
「…っ!」
在りし日の彼女の声で再生されるその言葉、翔鶴はそれを聞くと同時に胸の中で消えかけた灯が再び燃えていることを知覚する。
「…そう、あの時の私は…諦めたから。守れなかったからって生きることも後悔を繰り返さないということも諦めたから、何もかもが嫌になって痛みから目を逸らして見ない振りしてた──だから、もう諦めたくないっ!」
今度こそ仲間を…愛しいモノたちを守る。翔鶴はそう自身を奮い立たせると、弓を構え直し矢を番えた。
「私は…もう逃げない。喪って後悔するぐらいなら、皆を守るためにどんな敵にも喰らい付いてやるっ、私が──皆の希望になるんだっ!!」
愛を知り、己の後悔を知り、それでもなお尽きない胸に宿る希望を知る。
「それ以上タクトに…私の愛したヒトに! 手を出すなあああぁっ!!」
鶴が魅せた勇猛果敢な精神が木霊した瞬間──その時が訪れる。
◇
──『好感度上昇値、最大値到達確認』
『…翔鶴の改二改装が可能になりました!』
◆
「(…来た!)」
絶対絶命の状況下で、煌めきが奔る一つの希望…拓人の目の前に表示されるIPの「翔鶴改二改装準備完了」の文字。
「うおおおおおっ!」
淡い光に包まれる翔鶴が放つ必殺の一矢、矢は炎を纏いやがて「鉄翼の鳥」へ姿を変えた。
魔導航空機隊が空へ舞い上がると、ドラウニーアの巨体に狙いを定め魔導爆弾を雨あられと降り注いだ。火炎魔導弾がドラウニーアの肌を焼き尽くす。
『グウオオオオオォッ!!』
しかし…例え炎を浴びようともドラウニーアはそれに微動だにせず拓人を離すまいと彼を掴んだ両手を固く閉ざしていた。このままでは改二改装も出来ず拓人の方にも飛び火してしまう。
──それでも、彼女たちは諦めようとしなかった。
「タクトを…離せええええぇっ!!」
「このおおおおっ!!」
金剛と野分は艤装砲塔から連続砲撃、左右からの挟撃のクロスファイアの続けざまの狙い撃ちをお見舞いする。
『グッ!? グオオアアアアアッ!!』
それでも離さないドラウニーア。苛烈なまでに繰り返される攻撃を物ともせず眼前に捕えた宿敵を、今度こそその命を奪ってやると全霊全力を己の両腕へ込める。
──だが、異変は目に見えた形で現れた。
『…グッ』
身体に蓄積された今迄のダメージがドラウニーアを確実に蝕み、それが疲労となり集中力を奪われたことで、両腕への力が緩もうとしていた。拓人たちの狙い通り
どんなに手を離すまいと力もうとも、手に、指に、腕に込められる力が上手く伝わらず、砲撃の衝撃に捕えた獲物をどんどん滑り落としそうになる。そして遂に──指に僅かな隙間が出来る。
『…ッ!? シマ…』
「おおおぉっ!」
拓人はその隙を見逃さなかった。痛みに動かなくなりかけていた身体を奮い起こし、全身に力を込めて締め上げられていた両腕を外へ出す、そのまま拓人を捕えているドラウニーアの手に叩き付けると、身体は拘束の緩んだ指から飛び上がり勢いそのままに宙に舞う、そして──
「──翔鶴、改二…改装っ!!」
拓人の眼前に光るIPのYESボタンを押して承認する。その瞬間、翔鶴から溢れ出た光が辺りを包み視界は白く塗り潰される。
──斯くして、希望は覚醒した。
・・・・・
──そっか、やっと歩き出せたんだ。
ちょっと心配してたけれど…貴女がそんな風に言えるヒトが出来て、本当に良かった。
もう、過去に縛られちゃ駄目だよ。これからは…貴女が守りたいヒトたちと一緒に、前だけ向いて行くんだよ?
頑張って──貴女は皆の「希望」になるんだから。
「(──懐かしい声がする、これはきっとあの空で見守っている「彼女」の声…だったら)」
「…うん、もう大丈夫。だから貴女は…これからも見守っててね?」
ありがとう…瑞鶴──