艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──その頃、シルシウム島のテモアカナ隊。
天龍、加古、長良は川の中に潜み襲い来る雑兵を一刀両断と切り捨てながら、シルシウム島に設置されたアンチマナ波動砲を破壊するため島の最奥を目指していた。
ユリウスたちと通信を取りながらも、凡その設置ポイントに目を付けつつそこへ
「…っ! 見えたよ、アレじゃない?」
長良が空を指差すと、そこには天を突き破らんとする巨大な砲塔が見えた。見ると砲身内部に穢れ玉が設置され、砲の先には黒いエネルギーが黒光となり収束していた。
「間違いねぇ、ちと遠そうだがアタシたちならこっから一気に飛べばそれで済む話だぜ! なぁっ!!」
加古はそう言って天龍を見やると、当の天龍は今しがた掛かってきたと思われる「映写型通信機」の通信に応じていた。加古からは背を向けている状態なので誰と話しているのか分からなかった。
「ではそれで行こう。あぁ…ではな?」
「おいおい、どうしたんだぁ?」
「…何でもない、通信は今しがた終了した」
「どうしたの? ユリウスからまた連絡?」
「そうではないが、心配は要らない。訳は後で話す」
「…? まぁいいけど」
天龍の通信相手が誰か分からないが、それを追求する時間が無いので疑問を呑んだ加古と長良。
どうあれ波動砲のコアである穢れ玉さえ破壊すれば、天龍たちの任務は終わる。ユリウスとの通信で教えられたことを思い起こしながら、
「…っ! 危ない!?」
長良が叫ぶと同時に、四方八方から砲撃と弾幕が飛び交う。
「っぶねぇな!?」
「フン、矢張りそう簡単に通してくれんか」
天龍が周囲を一瞥すると、そこにはイ級を始めとした雑兵深海棲艦が所狭しと海中から顔を出しては天龍たちの隙を伺っていた。迂闊に飛び上がるとハチの巣にされるのは目に見えていた。
「さあて、どうする?」
「長良、風で奴らの砲撃の軌道を逸らしてくれないか? その後機を見て俺と加古がアレを破壊する」
「うん、それしかなさそう。でも…こんなのはどう?」
天龍は長良に敵の攻撃を防いでほしいと頼むが、もっと良い案があると彼女は二人に自身の考えを話した。それを聞いた二人は…確かにそれが出来るならとニヤリと笑った。
「成る程、それで行こう」
「分かった、じゃあやってみるからその隙に行ってみて!」
「あぁ、頼むぜ長良!」
加古が期待の言葉を掛けると長良も笑って頷いた、そして──息を整えつつ身体の緊張をほぐすと…天龍たちの周りを駆けだした。
「はああああっ!」
走るごとに加速していく長良の周りには、空気の流れが見え始めていた。そして…残像しか目に映らなくなった時、徐々に厚い雲のような気体を纏った空気の渦が出来上がる。サイクロンが天龍たちの周りを渦巻いていると、深海群もそのあまりにもな規模の大きさにたじろいでいる様子だった。
「…っ、意外と竜巻内部にも風が吹き荒れているようだな」
「我慢しろ、んじゃ…さっさと行くぜ!」
加古はすぐにでも飛び立つ準備が出来ているようで、彼女の足には既に電気が迸っているのが見えた。天龍もそれに続く形で膝を曲げて脚に力を込めた。
「さーん、にーぃ、いー…ちっ!」
「ゼロだ!」
二人はそれぞれカウントを済ませると、解き放たれたように竜巻の気流に乗りつつ空へ飛んだ。
そこから一直線に波動砲に設置された穢れ玉の元へ近づくと、先頭に躍り出た天龍は二振りの剣を、続く加古は電気を流した右拳を構える。
「これで…!」
「おわりだああっ!」
目の前の邪気の籠った玉を打ち壊さんと、二人はそれぞれ破壊の槌を降ろさんとしていた。
──しかし…!
「っ!」
「なっ!?」
二人の目の前に「現れた」ものは、それ以上の悪意を秘めた嗤いを浮かべていた…。
・・・・・
──時が巻き戻り、シルシウム島外にて。
世界の命運を賭けた戦い、その最中に白銀の鎧騎士は死神と対峙する──
「はぁっ!」
『キッヒヒヒヒッ!!』
綾波は望月特製の巨大斧で、レ級は黒鎌でそれぞれの首を狙って打ち合っていた。
鈍い金属音と鉄のぶつかった後のキィン…と聞こえる反響音が次々と作られていく。斧と鎌が打ち合う度に火花が飛び散り、戦いの苛烈さを更に彩るように咲いては散ってを繰り返した。
「はっ!」
綾波が距離を取り斧に「能力」を込めると、斧の刃部分が回転し宙に浮く。それを振りかぶり一気に振り抜くと斧はブーメランのように弧の軌道を描いて、レ級の方へ回り斬りこんだ。
『キッヒャア!』
レ級に斧の回し刃が直撃しそうになった瞬間──レ級の姿が消えたと同時に斧の回し刃が誰も居ない場所を斬って海水を巻き上げていた。レ級はそれを遠くから嗤いながら見ていた。
飛ばした斧の刃はくるくると回りながら綾波の方へ向かって行くと、何もない柄部分に収まる。綾波は元に戻った巨大斧を構え直すと疑問を零した。
「何でしょう…あの突然消えたり現れたりする能力は、嫌な予感がします。望月さんはどう思いですか? ……? 望月さん?」
望月に返答を求めるも、綾波が声を掛けても反応がない。彼女が後ろを振り向くとどうやら望月は誰かと通信している最中のようだった。
「あぁ…だから………ってとこかな? んじゃそれで…あぁ、んじゃな」
今しがた通信が終わった様子、望月は綾波に向き直ると改めて要件を窺った。
「はいよ、どうした?」
「望月さん、今誰とお話を?」
「んー? まぁその内分かるさね」
「…?」
「はは、そう怪訝な顔すんな? んなことよりレ級が迫って来てんぞ」
「っ!」
望月の言葉に目を見開くと、綾波は即座に巨大斧を構えて振り向き様に斧で不意打ちを行おうとする死神を薙ぎ払った。
『──キッヒヒィ!』
レ級の胴体を確りと捉えた綾波だったが、そこに手答えがなく空を切っているのが解った。目を凝らすとさっきまで直ぐ後ろに気配があったレ級は、大分離れた場所へ飛んでいた…明らかにおかしい。
「望月さん、アレはどういった原理か分かりますか?」
綾波の言葉に望月は、眼鏡の位置を直しながら答えた。
「そうさなぁ、原理といやぁアンタらと同じだと思うぜ? 今はどんな感じかって試してんじゃねぇかね?」
「それはどういう意味ですか?」
何か知っているのか、望月は嫌に勿体ぶった言い方でニヤつくだけだった。
「まっ、心配すんな! 話する時間もないしこっちも対策してるからよぉ、アンタは適当にヤツの相手してくれりゃ良い」
「……ふぅ、論じるつもりはありません。了承しました」
望月のいつもの癖だと思って、綾波はそれ以上追及しなかった。そしてレ級へ鋭い視線を送ると、得物を構えて望み通り相手取る。
先ずは綾波が跳躍しながら勢いづいたまま斧を振り上げ、レ級を一刀両断しようとする。
レ級もまた黒鎌を構えて綾波の攻撃を迎え撃つ、振り下ろされた巨大斧の一撃と打ち上げるように弧を描く黒鎌がぶつかる。一際大きく激しい音が響いた。
宙に飛んだ綾波だったが僅かに浮き上がる感覚を感じる、矢張りレ級は限界を越えたことで剛腕を手に入れた様子。それでも綾波は怯まず着水した後直ぐに攻勢に転じる、綾波の身体より一回りは大きい巨大斧を軽々と振り回して、レ級にこれでもかと斧の斬撃連舞をお見舞いする。
レ級もその──下手すると自身が断裂して即死する──比類なき攻撃を一撃ずつ、どんなに瞬速だろうと確実に捌き切る。攻撃を防御する…一見単純なものだが、それは常人には決して捉えられない程の怒涛の応酬である。理解出来るのは肌に伝わる”衝撃”のみ、正に次元の違う戦いであった。
「(殺意は込めているつもりですが…この連撃を往なしますか、司令官が深海棲艦は私たちの沈んだ姿だと仰っていましたが…であればこの戦闘センスは、さぞ歴戦の猛者であったのでしょう)」
綾波はレ級の強さが「一朝一夕のもの」ではないと見抜いていた、パワーアップはあくまで元から在る実力を限界以上に引き出したものであると。果たして何処の戦士だったのか…綾波が彼女の経歴に興味を抱いた瞬間──同時に違和感を覚えた。
「(──何でしょう、これは…彼女のことは、
綾波に疑問が生まれ、懐疑心は太刀筋を鈍らせた。
──その油断を、死神が見逃すはずはなかった。
『ギィイガヤアァアアッ!!』
レ級はコロし合いの途中、後方へ"突然"消えると右手を天空へ翳す、すると空中から無数の黒刃が現れその場で回転する回し刃と化した。綾波は考えに集中していたせいか、回し刃を生成する隙を与えてしまったのだ。
「しま…っ!?」
『ギィガッ!』
意表を突かれ驚く綾波に対し、レ級は尾っぽの深海艤装である蛇頭型砲で彼女を狙い撃った。牙を剥いた口がガバリと開かれると、既に口奥から火球が見えていた。
──ズドォンッ!
「…っ!?」
綾波は辛うじて能力で自身の周りの重力を軽くすると、後方へ飛び退いて火球の弾道から逸れた。綾波の後ろから爆発音と火が轟轟と燃える音が聞こえた。
しかしまだ終わりではない、レ級が挙げた手を下げる動作をすると共に空中に浮かぶ無数の回し刃が動き出す。彼方此方に飛び回る回し刃はそのまま勢いを付けて、綾波目掛けてその身体を切り刻まんとする。
「っ!」
迫り来る回し刃の数々に、綾波は巨大斧を構え振り回す。目で回し刃の軌道、耳で回し刃がどれだけ近づいているか、それらを測った上で素早く斧を振り回し刃を払った。
『ギキャハァッ!』
全て払い退けたと思うと同時に、レ級は斧を振り終えた綾波に出来た一瞬の隙を突いて、またしても遠方から綾波との至近距離へ突如として姿を見せ、今度こそイノチを奪わんと黒鎌を掲げた。綾波もそれに気づいてはいるものの、斧を振り下ろしたばかりでレ級への迎撃が間に合わないでいた。変わるがわる押し寄せる多種多様な攻撃に対応が遅れる。
絶体絶命か──しかしそれは綾波には知らない話であった。
「はぁっ!!」
綾波は気合いを込め喝を入れると、自身の周囲に「透明なバリアー」を張る。綾波の首を狙っていたレ級の黒鎌は軌道があらぬ方向へ曲がり、レ級もそれに引っ張られる形で綾波と距離を取らざらなくなった。
『ギ…ッ!?』
「終わりです、はああぁっ!!」
綾波が巨大斧を確りと握ると、その場で横向きに回転を始める。徐々に回転速度を増す綾波は己の得物に対し能力を使うと、斧の刃部分を回転させるギミックを使った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
回転に回転を重ね…綾波は渾身の力で斧をレ級に向けて振り下ろす、斧の刃は柄から離れると凄まじい回転速度のままレ級に猛進していく。堪らずレ級は避けようと能力を使い後方へ逃げ延びる…が。
『………ッ!』
レ級は目前の光景に驚愕する、何とかなり距離を取った筈の巨大斧の回転刃は早くも自身の近距離へ詰めていた。高速回転する斧刃は敵を猛追する鉄塊となったのだ。
「矢張り移動は直線上でしか無理なようですね、ならば早い話でしょう。貴女の移動した後に攻撃が届くよう
綾波はしたり顔だが、そんな単純明快な戦法は常人には無理なだけに、それをやってのける綾波にしか出来ない磨かれた戦闘センスだった。
──ズドオォオンッ!!
もはや暴走特急と化した斧刃は、海面に”着断”すると余剰威力が巨大な水柱を海に造り出し、身体に襲い来る衝撃に耐えられないレ級は態勢を崩し吹き飛んでしまう。
『ギィギャアアアアッ!!?』
水柱は天高く聳え立ったかと思うと、そのまま瓦解して雨粒のように海上に降り注いだ。
綾波が刃の無い斧の柄部分を上に掲げると…またも水飛沫を上げながら水面から飛び上がる鉄塊。斧刃はそのまま元の鞘に収まると、今度こそ油断はしないと言わんばかりに綾波は遠くに弾き飛ばされたレ級に得物を向けて警戒する。
「避けましたか、一筋縄でいかないことは解っていますが。もう油断はしません…貴女が何モノだろうと、私は貴女を倒します」
『グギィ…ッ!』
綾波は静かな闘志を燃やしながらレ級に対し宣戦布告し、レ級は体勢を整えるとギロリと睨みを利かせる。
勝利はどちらに齎されるのか、緊張が走る場面で──後方に異変が起きる。
「──あ? 何だぁ?」
望月は風が吹き荒ぶ音の聞こえる方へ振り返ると、シルシウム島から天高く立ち登る竜巻が見える。
「…なんだい、天龍のヤツらもう王手を掛けたみたいだねぇ? ヒヒッ、時間も10分ぐらいあるしこりゃあ楽勝かね」
望月の状況を端的に表した言葉、それは天龍たちがアンチマナ波動砲の破壊に今まさに乗り出しているという事実であった。
綾波も背後に広がる空気の渦を見る、遠目からでも分かるあの竜巻は長良の仕業だろう。おそらく天龍たちは雑兵を蹴散らし一気に波動砲の破壊に向かう筈…綾波もまた天龍たちなら大丈夫だと信じていたが、矢張り不安は拭えなかった模様で人知れず安堵していた。
対してレ級は憎しみと悔しさが混じった醜い貌で天を睨む。そして──次に何故か嗤って見せた。
『キッヒヒヒヒヒ!』
レ級は跳び上がりながら上空で黒鎌を振りかぶると、降下ざまに綾波に向け振り下ろす。
綾波は咄嗟に防御に移るも、またも違和感を覚える。レ級の鎌首が──間合いに入っていない、
「なっ!?」
次に綾波が見た光景は──レ級の描いた黒鎌の閃きが空間に浮かび、それが空がぱっくりと割れたように穴が開いている異様なもので、見ると穴の中に天龍たちを見下ろした姿があった。
「まさか…空間を行き来する能力を応用して、天龍さんたちに奇襲を?!」
綾波が酷く驚いていると、レ級は肯定するようにニンマリと口角を上げ邪悪を表す笑みを浮かべた。そして──レ級は目の前の穴に躊躇なく入っていく。
「天龍さんっ!」
綾波が駆け寄ろうとするも、空間に開いた穴はそのまま閉じられ開かれることはなかった。
「そ、そんな………っ!!」
綾波は咄嗟にシルシウム島方面へ向くと、そのまま走り出した。間に合うかは判らないが天龍たちのイノチを奪おうとするレ級を止めるために。
「…フ」
そんな一大事に望月は、何処か落ち着いた笑いを見せるのだった。
・・・・・
波動砲破壊に手を掛けようと攻撃態勢に入った天龍と加古、しかし彼女たちの真上から突然声が聞こえた。
『──キッヒヒヒィヤァアアアッ!!』
「っ!」
「なっ!? どっから出て来やがった?!」
天龍と加古が上を見上げると、そこには悪意の籠った嗤いを浮かべたレ級が、鎌を掲げて獲物の首を取ろうと狙っていた…!
『キィエエエィヤアアアアアッ!!』
レ級が奇声を上げながら、先頭の天龍に向けて黒鎌を勢いよく振り下ろす。天龍たちの間近に移動したため、奇襲に気付かなかった天龍は避けることは叶わないようだ。
加古もまた同じで彼女が動こうとした時には、既に鎌首が天龍の首に刃を掛けていた──そして。
──ザシュッ
「天龍っ!?」
何と、加古の見たモノは天龍の首がレ級の黒鎌に「刈り取られる」という衝撃的なシーンだった。
レ級は己に芽生えた能力を戦いの中で自覚していき、天龍たちを見逃したのは彼女たちが波動砲へ近づくのを頃合いに、
謀略が身を結びしてやったりと嗤うレ級だった──が、次に違和感が湧く。
『……ギ?』
手応えが無い、そして目の前の首級を刈り取った死体が徐々に背景と同化するように薄く消えかかっていた…一体何が起こったのか。
「──
『……ッギ!!?』
レ級が上を見上げると、そこには──首を刈られた筈の天龍が一対の刀を交差に構えている姿。そのままクロスさせた二本の刀でバツの字を描き、死神を斬り捨てる。
『ギャ…ッ!?』
首を刈ろうと頃合いを探っていたレ級は、逆に意表を突かれる形で天龍の斬撃をまともに受けてしまう。小さく呻きながら下の林が広がる島に落とされる。
「逃さん!」
「っあ、待てよ!」
レ級を追う天龍とそれに追随する加古は島へと下降していく、二人が着水した場所には驚いた様子の長良と…その先で傷を負いながらも立ち上がるレ級の姿が。
『ギグィ…ッ!』
「二人とも大丈夫?! 何でレ級が…!?」
「アタシも分からねぇよ、いきなりレ級が現れたと思ったら天龍の首を刈って、かと思ったら不意を突いて天龍が…ってか天龍! 生きていやがったのか!?」
加古の酷く驚いた言葉に、天龍は不敵に笑いながらタネを明かす。
「あぁ、通信で密かに望月から聞いていたからな。"レ級の様子がおかしい、何か仕掛けて来るかもしれない"とな? ヤツが奇襲を仕掛けるとして真っ先に俺を狙うことは分かっていたから、望月が俺に「カウンターで仕返す」ことを提案してきたのだ」
「なっ!? あの通信望月のだったのか?! 何でアタシじゃなく天龍だって分かったんだ!!?」
天龍から明かされた秘密裏の作戦に、加古は再び疑問を呈する。確かに天龍を先に狙うことが分かるのは一見不自然だが、答えは通信機から聞こえる「策士」より聞かされた。
『ヒッ、そりゃ天龍が先頭に居たからだよ。レ級は少しでも波動砲に近づくヤツを始末してぇだろうから、先ず天龍には加古の前に出てくれるよう「心理的誘導」を頼んだ。アンタらが奇襲に気づいて回避しようとするとして、客観的によりスピードが速いのは稲妻を纏う加古だ。だからってのでもないが瞬速的移動をする天龍のが「狙いやすい」と考えると思ってねぇ? 空間を自在に移動出来る自分と能力も似通ってるから、不測の事態があっても対応しやすいと至る、と踏んだのさ』
「な、成る程。…よく分からないけど罠を仕掛けたレ級を更に出し抜いたっていうのは分かったよ」
「作戦を聞かされた時は俺も驚いたが…安心しろ長良、あの通り狡賢い餓鬼には確りと灸を据えてやった」
「何にしてもスゲェなアンタら! 特に望月、綾波の時と言いさっきから良い仕事するじゃねぇか!」
『そうかい? 異能使うアンタらに比べたら、このぐれぇ馬鹿でも思いつくぜ?』
事の顛末を聞いて納得した加古の賞賛に対し、望月は悪びれる様子もなく当然と言って除けた。それでもここまでスムーズな連携と展開を見せたのは、長い戦いの間に育まれた彼女たちの「絆」の賜物であると言っても過言ではないだろう。
レ級はしてやられたことに気づくと、悔しさを込めて雄叫びを上げた。
『グギギィ……グギャアアアアアッ!!』
「さて──いよいよ大詰めだな?」
「あぁ、ともかく波動砲破壊にはレ級が邪魔だ。一気に片付けるに限るぜ!」
加古の言葉に頷く二人は、レ級に向き直ると戦闘態勢に入った。まるで苦虫を噛み潰したような険しい表情で憎々し気に睨むレ級、その背後からは──
「──天龍さん、ご無事ですか!?」
綾波が海上を滑り走りこの場へ駆けつけていた、天龍の五体満足な立ち姿に思わず心緩む綾波。
「良かった、何も無かったようですね?」
「心配を掛けたようだな、だが俺はこの通りだ。レ級を追い詰めるために俺と望月で一芝居打った次第だ」
「そうでしたか、何かしらあるとは思ってましたが…ふぅ、今後はもう少し分かりやすい形が望ましいですね」
天龍の説明に呆れたように呟いた綾波、天龍も「済まない」と苦笑いしながら謝罪する。望月も通信越しに一言謝る。
『悪いねぇ? でもよく言うじゃねぇか、敵を欺くには先ず味方からってな。お前さんの良いリアクションにはレ級も欺かれるって勘付かねぇだろうしな!』
「…本当に味方で良かったですよ、貴女が敵になったら限界まで追い詰められそうで?」
『ヒッ! 言うねぇ。まぁアタシも負けず嫌いってだけさね、目にはメを、歯にはハを、謀略にはボウリャクをってな! ヒヒヒッ!!』
「性格が悪いですね…しかし、それでも貴女が居なければここまで状況が好転することは無かったでしょう」
皮肉を交えながら釈明する望月に、綾波もまた皮肉を返しては望月の策に感謝を示すのだった。
ともあれレ級包囲網に綾波が加わる形となった、レ級は天龍につけられた斬り傷の痛みに顔を歪めながら焦りを隠せないか冷や汗を流した。
奇襲で首を取ろうと画策していたレ級だったが、逆に不意打ちされ手負いとなる。更に天龍、綾波、加古、長良…この世界に於いて現在の最高戦力に囲まれ、またパワーアップの代償として身体の崩壊の刻限も間近であろうことから、どちらにせよレ級は確実に「沈む、死ぬ覚悟」をしなければならなかった。
──レ級の現状は正に追い詰められた獣だった。
「もう逃げ場は無いぞ、お前の能力で逃げても構わないが…その場合俺たちは波動砲破壊を最優先するだけだ、尤もその方が俺たちにとっても都合の良い話だが?」
天龍はレ級を見据えながら、この場を逃げるかそれでも戦うかの選択を迫った。冷酷さを表した冷たい視線は戦場において甘えを律しなければいけないことを熟知した天龍だからこその顔だった。
『──ギィア…!』
それでも彼女の答えは決まっていた、黒鎌を天龍たちに向け構えるとそれまでの余裕がある嗤い顔でなく、静かな殺意に満ちた鋭い目つきと何モノも通さないという覚悟を湛えた顔つきになる。
「あくまで抗うか、ならば…俺たちも応えるぞ。お前のその覚悟に…!」
天龍たちもまた強い意志の見える顔になると、それぞれ戦闘態勢を取りレ級にじりじりと詰め寄った。
『……ッ』
レ級は己の身体の奥底から感じる"痛み"があったが、それでも殺気を弱めることはなかった──
「…?」
最早死にかけの体のレ級を見て、綾波は胸に抱いた粒ほどの違和感が次第に大きくなっていることを感じ取っていた…。
クロギリ編、残り数話です。
先に言いますとここから展開早めで、変なところで話が区切られていたりします。ご注意下さい。
…もう一つ先に。色々ごめん。