艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 皆さま、恒例の「あのBGM」のご用意を。
 …やっと、全員分終わりましたね。最初の天龍の頃から三年ぐらい経ってる……ぐえぇ。


迎え撃て、野を分ける風のように ②

 ゼロ号砲発射まで後五分を切った局面、敵の策略に嵌った野分は深海化を促進され、卑劣漢ドラウニーアの隷属になってしまう。

 野分に剣を胸に押し当てさせて、その場を動かないよう脅すドラウニーア、拓人たちは為す術もなくその場に止まることを余儀なくされた。

 このままゼロ号砲が撃たれてしまえば世界の危機に繋がる──そう確信した拓人は、悲惨な未来を回避するために「最後の手段」を行使する。

 

『──A・B・E. 使用しますか? YES/NO』

 

 A・B・E(アンチ・バタフライ・エフェクト)の承認画面。拓人は意を決した様子で指を「YES」ボタンに持って行こうとする。しかし…それに待ったを掛ける人物が居た。

 

『待ちたマエタクト君、君は何をしようとしているんダイ?』

 

 マサムネだった。意外な人物からの制止に拓人は思わず指を止めて、マサムネの方を見やった。

 

「マサムネさん、今僕がやろうとしていることは…分かりますよね?」

 

 拓人の前に映るIPは彼以外の人間や艦娘には──好感度最大値の艦娘等の例外を除いて──見えない筈だった、しかし擬似死により叡智を垣間見たドラウニーアによって、TW機関の研究員たちは特異点の能力について聞き及んでいる様子、マサムネもそれを理解して止めていることは確かだ。

 

『勿論知ってるサ、A・B・E とやらで時間をやり直そうって魂胆でショ? その覚悟を決めたような引き締まった顔を見れば、誰だって察するサ!』

「…なら尚更止めないで下さい、僕はこれを使って…野分を助けます。彼女を喪う訳には行かない!」

 

 拓人がそう意気込むと、マサムネは拓人が頭に血が昇っていることを見透かした上で、冷静になるよう促す。

 

『だから落ち着きたマエ。君がそれを何回使ったか知らないケド、悪いことは言わない止したマエ。そのシステムは有体に言えば諸刃の剣なのサ、全て使ってしまえば…それこそ何が起こるか分からないヨ』

 

 マサムネの言っていることは適当でなく「本当に不味い」状況に陥る可能性があるのだ。

 これまで拓人はA・B・E を「2回」行使していた、もしあと一回… A・B・E を使用してしまえば、拓人は──特異点としての権能を失う。

 拓人は言ってしまえば激戦の続く戦場で生き残れるほど強くもなく、今まで戦い抜いてこれたのは全て、特異点として「必ず生き残る展開、又は都合の良い展開を引き寄せる」ことが出来た故。しかしそれも無くなってしまう…幾ら金剛たちが居るにしろ、例えドラウニーアを止めたと仮定しても、戦場に終わりは無いのでそれらの戦いでこの先生き残れるのかは──「分からないが、ほぼ命はない」と見るのが普通だ。

 拓人もそれを解らない訳ではない、A・B・E を発動させようとYESボタンに伸ばす指先は、死への恐怖に震えていた。

 

「…貴方の仰りたいことは、僕がA・B・E のリスクを知っているのか…ですよね? 確かに僕は今まで2回使って来ました、IPの下の方にも残り一回だと書いています。これを全て使い果たせば…僕は特異点の異能を失うでしょう」

『そこまで分かっておきながら、何故発動させようとするのか理解出来ないネ? 彼女を捨て置いて世界を救うことを優先する選択肢だってある筈サ、それでもやるというのカイ…君は特異点で無くなることが怖くないのカイ?』

 

 マサムネの厳しい指摘に対し、拓人は震えを隠せない口で言葉を紡いだ。

 

「分かっていますっ、でも…ここで彼女と引き換えに世界を救っても意味がないんです、野分を犠牲にする選択なんて嫌なんです。僕は──もう誰一人として喪いたくないだけなんだ…っ!」

 

 拓人の覚悟を秘めた言葉の裏には、かつて彼が愛した「彼女」の儚げな微笑みが映る。

 そんな拓人を見てか、マサムネは肩を竦めると呆れ気味に言った。

 

『そこまで言うならもう止めはしないサ、しかし忠告はしたからネ? 何が起こってもぼくは責任を持てないヨヴェイビー!』

「ありがとうございますマサムネさん、でも──僕はやります!」

 

 拓人はマサムネが見せた誠意に感謝しながら、IPのYESボタンを押してA・B・E 発動に今度こそと意欲を示す。そうして指を伸ばしてボタンを押そうとする──

 

 

 ──だが、矢張りここからが問題だった。

 

 

「(…っ、やっぱり指が動かない)」

 

 どういうことか拓人がIPのボタンを押そうとする度、見えない何かに手を掴まれたように動かずそのまま押し戻されてしまうのだ。

 この現象は先日の南木鎮守府での戦いで、由良を救うためA・B・E を発動させようとした矢先、同じように見えない壁に阻まれてボタンが押せなかった時と同じ。何モノかが拓人が特異点としての役目を降りることを承諾していないようにも見える…だが、ここでまた「後悔の涙に濡れる」のは願い下げだった。

 

「(これがどんな意味を持っていたとしても、僕は……今度こそ守り切るって誓ったんだ。僕の…やり方で………っ!!)」

 

 拓人は「押せ」と何度も頭の中で念じながら、ボタンを押そうと試みるも──どんなに力を入れても指は固定されたかのように動きはしなかった。

 

 ──そして、その光景を誰も見ない筈はなく。

 

『──ヌゥッ! 特異点貴様ァ…何ヲシヨウトシテイルゥッ、動クナト言ッタハズダアァッ!!』

 

 ドラウニーアが拓人の行動に異変を勘付くと、怒号を上げながらも猛進し拓人を締め殺そうと動く…しかしそれは、上空から飛来するモノに止められる。

 

「はぁっ!」

『グオォッ!?』

 

 翔鶴は空中で身体を捻るとドラウニーアの顔面に回し蹴りを喰らわせた、もろに攻撃を受けて足を止めているドラウニーアの前に、立ち向かう翔鶴。

 

「タクト! 野分を助けようとしてくれてるのよね? なら早くやってあげて、その間の時間は私たちが稼ぐから!!」

 

 翔鶴の啖呵が響く中、その隣に駆け出し滑り込む金剛。

 

「大丈夫、何があっても私が貴方を守るから! だから──野分をお願い!!」

「翔鶴、金剛っ。………!」

 

 拓人は二人に背中を押される形で、再びIPに向き合うと凄んだ顔を作り、息を整え、そして…空中に止められた人差し指を力一杯押す。

 

「ぐ……くぅぅ………っ!!」

 

 押す、おす、只管押す。

 しかし、現実はそう変わらず──拓人の行動はまるで馬鹿の一つ覚えで、客観的に見てしまえば滑稽な姿をしていた。

 それでも一つの可能性を信じて、拓人たちはただそれを繰り返した。拓人は押せるかも分からないボタンを押し、翔鶴と金剛は拓人を守るため魔獣を堰き止めた。

 

『貴様アアアァッ!!』

「タクト…!」

「タクト……早くっ」

 

 ドラウニーアは砲撃、左腕での近接攻撃、全てを使い金剛と翔鶴のバリケードを突破しようと試みる。対する金剛たちも砲撃と艦載機爆撃で敵が拓人に近づくことを阻止するも、勢い凄まじく下手をすれば無理やり破られることは予測できた。

 

「っ、ぅぅおおおおおあああああっ!!」

 

 必死の叫びは「諦め切れない」という感情が爆発し、力へと変えようとする人の声。

 仲間を犠牲にすることも、ましてや世界を守るための戦いも、諦めることは出来ない。

 拓人は動け、動けと必死に念じながら特異点としての「運を引き寄せる力」で何とか状況打破出来ないかと考えた。どんな展開でも構わない…この不可解な現象を突破出来る展開を願った──

 

「(野分は必ず助ける、世界も救う。どちらかしか選んじゃいけないなんて誰が決めたんだ! …僕は特異点だろう、本当に現実を変えられるなら…変えてみせろよっ!!)」

『コ、マ………ダ…ッ!』

 

 乱暴な口調で拓人は自分の能力で運命を捻じ曲げて見せろと、全身全霊の力を込めながら強く願う。どうか──野分を助けて下さいと、純真な思いを込めて。

 

「動けええええええええええええええええええええっ!!」

 

『──…ふぅ、君には負けたヨヴェイビー』

 

 拓人の全てを投げ出してでも仲間を助けようとする、その意志を感じたマサムネは右手を翳すと、拓人のIPと似たような淡く光る画面を喚び出した。

 

「っ、マサムネさん何を?」

『超科学というのはネ、ありとあらゆる事象の「否定」から来ているのサ。古代から伝わる魔法や神秘、理不尽な現象を否定してはそれを科学の計算式として取り込んで来たんだヨ。TW機関はそうやって超科学を育んで来たと聞くカラ、この超科学において基礎的なプログラムが使えると思ってネ』

 

 マサムネは空中に浮かぶ画面の中を操作しながら、超科学の定義について話していく。そして…画面から操作していた指を離すと、衝撃の言葉を放った。

 

『ヨォシ、完了っと。タクト君? 今から君の指に「凡ゆる事象を無効化」するプログラムを付与するヨ!』

「…っ!? そんなこと可能なんですか?!」

 

 拓人の驚愕の表情に対して、マサムネは特に変わらない笑顔で肯定する。

 

『そうトモ、しかし簡単そうに見えるケド事象の否定というのは後々の未来に少なからず影響を与えるノサ。気軽にやって良いものでもないけど…まぁ、どうせ時間が巻き戻るカラどうにでもなるかと思ってネ? それに君の必死になってる顔を見てたら無下には出来ないと考えたシ、何よりドラウニーアの思い通りにするのも癪だからネ。力を貸すヨヴェイビー!』

 

 マサムネの相変わらずな理論的で、何処か愉快な話に…拓人は思わず笑いが溢れていた。

 

「ははっ、勝手ですね? でも…ありがとうございます!」

『どういたしまシテ! さぁ準備はいいカイ? 事象の無効化は数秒間だけ、その間に早くしたマエ。心配しなくても無効化するのは君の邪魔をする透明なバリアーに一回だけだカラ、A・B・E は問題なく行使出来る筈サヴェイビー!』

「分かりました。──お願いします!」

 

『りょ〜カイっ! カウント開始、3・2・1……行くよヴェイビイィッ!!』

 

 マサムネは高らかに叫ぶと、勢いよく光る画面をタップ。すると──拓人の指に電気らしきエネルギーが迸ると、壁を感じていた指先が…ふわりと軽くなった。

 

 

 

 

 

 ──"駄目えええぇっ!!"

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 IPのYESボタンを押した瞬間──拓人の頭に"聞き覚えのある声"が響く。

 

 しかし──次の瞬間には拓人の視界は白く塗り潰され、頭の中の声も遠く木霊すると「ダレか」の声の記憶も彼方へ消えていく。

 

 拓人は己の運命を引き換えに…野分の悲惨な現在を変えるため、その分岐点まで逆行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

・・・

 

 

・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──拓人たちがゼロ号砲破壊を目前とする中、拘束を無理やり破ったドラウニーアは、ニヤけた嗤いを浮かべながら背中を踏みつけた港湾に声を掛ける。

 

『何ダ貴様ァ、痛イノカ? 苦シイノカァ? 助カリタイノカアァ? フン、ナラバ──望ミ通リニシテヤルッ!』

 

 ──パキンッ!!

 

 嫌みたらしく言葉を投げた直後、何を思ったかドラウニーアは港湾棲姫の意志が込められた魔鉱石を──強く押し込みそのまま踏み砕いた。

 

『おぉっと不味いヨ、適切な処置をせずあんな風に乱暴に砕いたら──彼女のココロに深刻なダメージが出来るヨヴェイビー!』

 

 

「──っ!?」

 

 

 ──意識が遠のくような感覚に陥る拓人であったが…程なくハッキリとした自覚を持つ。

 

 ──時間が、戻った。

 

 そう思ったが早いか拓人は素早く立ち上がれるように、痛みに悲鳴が上がる身体を無理やり起こしながらクラウチングスタートのような姿勢を取ると、そのまま機を窺う。マサムネは何も言わないが急に雰囲気が変わったような拓人を不思議そうに見つめていた。

 

『──ァ………ァ、ァアア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?』

 

 そうこうしている間に場面は進んでいく、港湾棲姫の何処か虚ろだった眼にハイライトが戻った瞬間──恐怖が押し寄せて来たような、驚愕と絶望に歪んだ顔で嬌声を上げた。

 

『ハハハッ、ドウダ久々ニ感情ヲ取リ戻シタ気分ハ? オ前ハコレデ御役御免トイウコトダ…尤モ、理性ノ箍ガ壊レタダロウカラモウマトモナ意思表示ハ出来ンダロウガナアァ? ハァーッハッハァ!!』

『アアアアアアアッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

「っく、何をして……止めて下さい!!」

「…っ」

 

 泣き叫ぶ港湾棲姫を見て居た堪れなくなり、制止を求める野分…拓人は沸騰するように湧いて出て来る怒りを抑え冷静に状況を見ていた。

 ドラウニーアは野分の声には耳を貸さず、今度は港湾棲姫の額に生える一角に手を伸ばす。

 

『ハンッ、五月蝿イゾ。折角解放シテヤッタトイウニ…モット喜ンデ見セ…ロッ!!』

 

 ──バキッ

 

『ギャァア"ア"ア"アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──』

 

 悪態を吐くドラウニーアは左手で港湾棲姫の角を折って見せる、激痛に悶え更なる絶叫を上げる港湾棲姫を見て──野分のココロに深く淀んだ負の感情が生まれていた。

 

「…ッ、止めろ………止めろぉおおオオオッ!!!」

 

「(──今だ!)」

 

 野分の怒声が響き渡った瞬間──拓人は立てた足先に力を入れると一気に地を蹴り上げ、その反動を利用しつつ前のめりの走り方で一直線に駆ける。鈍い痛みが全身に押し寄せるも全力で腕や脚を振り切り走り抜ける。

 徐々に高速で移動する拓人に、マサムネは面白いことになったと喜んだ表情となり、少し離れた位置から拓人を見ていた金剛と上空から一部始終を観察していた翔鶴は、拓人の大胆な行動に驚いた顔をしていた。

 

「ぐっ、ぐおおあああっ!」

『ヨォシ、ソウダ怒ッテ見セロオォ。サァ…イマ──…ッナ!!?』

 

 野分の顔が深海の肌に浸食されたことを見計らい、ドラウニーアは野分に自身の胸に取り込んだ海魔石の赤い光を浴びせようとする。その計画が上手く行ったと恍惚に浸る眼は…死角から電光石火の如く近づく拓人に気づかなかった…!

 拓人はその勢いのまま間合いを詰めドラウニーアの真下に潜り込むと、右拳を限界まで握り締め一気に振り上げるとアッパーカットをお見舞いする。野分のことに目が言っていたドラウニーアはそれに気づかず、拓人が拳を振り上げた瞬間に勘づくとギョッとした表情を浮かべる。

 

「いい加減にしろ…このクソ野郎ッ!!」

 

 ──ガッ、バキッ!!

 

 拓人の怒りを込めた鉄拳がドラウニーアの胸の海魔石を捉えると、紅い魔石は脆いガラス細工のように細かい罅が入ると、拓人の拳の打撃により「砕け散った」。

 砕けた拍子に紅い瘴気のようなものがそこから霧散していく、全てが終わった頃ドラウニーアの胸には、罅が入り黒ずんだ石がそこに在るだけだった。

 

 紅い光が無くなった海魔石──その効力は完全に失われドラウニーアは深海棲艦を()()()()()()()()()()()()()

 

『ナニィ…マサカッ!?』

「ぐ、うう”ウ”ゥ”…ッ!?』

「っ! 野分!!」

 

 驚くドラウニーアを余所に、拓人は次に深海の狂気に呑まれようとしている野分に走り近づくと──そのまま抱きつき押し倒した。

 

「…っえ!?」

「な、何が起こっているの…?」

『ン~正に青天の霹靂だネェ!』

 

 周囲が拓人の行動に狼狽している最中、拓人は背中から倒れた野分を見下ろすと、彼女の顔を真っ直ぐ見つめていた。野分も拓人を見返そうとするも目の焦点が合わずに目線が四方八方に泳いでいた。

 

『コ、マ…ンダ、ン。駄目…今ノボクニ近ヅイタラ、貴方ヲ傷ツケテ……ッ』

「野分…大丈夫だよ、君ならそんな風になっても「ココロ」まで醜くなったりしない。前にも言ったけど…僕は君を「信じる」よ」

 

『──…ッ!』

 

 拓人はいつものように心安い笑顔で野分を見つめる、その瞳には確りと信頼の光が宿っていた。

 拓人の真心を込めた言葉が、憤怒のマグマに燃える野分のココロを優しく溶かしていく。

 野分はあの夜の日に語った拓人の思い遣りの心を反芻すると…次第に落ち着きを取り戻していく。

 

『コマンダン…ボクハ…?』

「っ! ……良かったぁ、本当に…!」

 

 完全に正気を取り戻した野分の困惑した表情を見て、拓人はホッと温かな溜息を吐いた。

 

 

『──特異点ンンッ!!』

 

 

 団欒も束の間──拓人たちの直ぐ後ろから、激昂した魔獣が両肩の三連砲塔を向けていた。

 

『貴様ァ、ソノ全テヲ見知ッタヨウナ動キ…最後ノA・B・E ヲ使ッタナァ? フハハハァ、ナラバモウ小細工ハ無シダ、特異点トシテノ能力ヲ喪ッタ貴様ナゾ赤子ノ手ヨリ軟弱ヨオォッ!!』

 

 全てを見聞きしたドラウニーアは、拓人が最後のA・B・E を使ったことも予期していたのか?

 何れにしろドラウニーアはそれを踏まえ、拓人を葬ろうと全てを破壊せんと殺意を込めた凶弾を射出した。

 

「タクト!?」

 

 翔鶴は拓人を守るために下降しようと身構える、しかし──彼女の眼に映ったのは、凡そ信じられない光景だった。

 

『コマンダン!』

 

 野分は覆い被さる拓人を払い退ける、そして──

 

『──うおおオオオッ!!』

 

「…野分!?」

 

 野分が拓人の前に悠然と立ち上がると、雄叫びを上げ怒りの形相で空を睨んだ。すると──野分を蝕む灰色の肌が急速に全身に広がろうとしていた。自ら深海化しようとする野分に拓人は慌てて制止する。

 

「っ! 野分駄目だ!! そんなことしたら君は」

『大丈夫、デす。コまんダンがイル限り…ボクは絶対ニ醜くなっタリしまセン。ダカら──ボクを信じて下さい!』

 

 拓人を振り返り苦しそうに顔を歪めながらも見つめる野分、彼女の眼には確りと「希望の光」が宿り、それはどんな暗闇でも一際輝き埋もれない。拓人は野分の覚悟の理解に及ぶと…口を閉ざし黙って頷いた。

 野分が全身から怒りを解放すると、肌が完全に白強めの灰色肌となり、眼は紅く閃き口は鋭く尖り、緑色の髪は白髪──毛先が少し赤みを帯びている──と化し、額の角も少し大きくなる。

 

『──はぁっ!』

 

 ──ズゴァッ!

 

 完全な深海化を果たした野分は、一喝して腕を前に伸ばすと自身の正面に「薄く白い光の膜」を張った。その見た目からは想像出来ないような強度のバリアーにドラウニーアの凶弾は悉く防がれた。

 

『何ッ、「深海障壁」ダト!? 馬鹿ナ…姫ニシカ扱エナイ深海ドモノ高等技術ヲ、雑兵ノオ前ニ扱エルハズハナイ!』

 

 度重なる衝撃の事実にまたも驚愕の心境を隠せないドラウニーア、しかし野分は──理性を保った凛々しい表情でドラウニーアに鋭く睨む。

 

『ボクは迷っていた、深海棲艦と成ったボクに美しいモノたちを守る資格があるのかと。ですが解ったのです、美は表面に現れるものが全てではないと。どんなに身体が醜くなろうとも…ココロは美しいままのモノも居る、ボクは…そんな埋もれた美を助けたい。例えこの身が深海に堕ちようとも、ボクは美しさが紡ぐ「愛」を守りたい。コマンダンがボクを信じてくれたように、ボクはボク自身の未来を信じます!』

 

 野分が自身の不屈の気概を言い表していると、それに呼応するように拓人の目の前に──IPが現れた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──好感度上昇値、規定値以上検知…。

 

 

 野分の「アンダーカルマ」が解放されました。

 

 

 …野分のプロフィールに、新たな情報が追記されます。

 

 

 裏の使命(アンダーカルマ):??? → 『深海の呼び声』

 

 

 ──その運命が示す道…「深淵」

 

 

 闇と光は表裏一体。どちらが善悪、どちらが正しいというものではない。

 

 背負うべき業は、彼女に己の真実の一片を見せるだろう…ならば「向き合え」。

 

 己に闇を見せる者、仲間を傷つける者、醜悪なモノ…全てを輝きで照らし、守り抜くための「力」と変えろ。

 

 闇なき世界のため、人類の「美しさ」を護るために。例え底知れぬ闇が足元にやって来たとしても…麗しの君よ、笑顔を咲かせ、不敵に宣言せよ。

 

 

 

 ──”全ては愛のために”…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 拓人が野分のアンダーカルマを認知した時、彼女を形作る「感情」が流れ込んで来る。

 

「(これは…何て"純粋"なんだ……!)」

 

 今までの艦娘たちの想いは、大抵の場合負の感情に分類する──不安や恐怖が元故に揺れやすい──陰のある気持ちが多かった。しかし野分の場合…盲目的な「正義感」とそれを内心醜いと断ずる「ナルシズム」が混在し、バランス良く感情を制御していた。

 だからこそその魂は極限まで磨かれ、琥珀色に光放つ揺らめく炎を拓人の脳裏に想起させた。しかし純粋であり過ぎるため一度挫折してしまうと暗闇で陰りを見せることが理解出来た。

 

「(それでも、君はもう大丈夫なんだね野分。今の君は…すごく綺麗だ!)」

 

 システム的に言えば野分の好感度は現在「4」であると解る、好感度4以上の艦娘には「如何なる精神攻撃も通用しなくなる」という性質が追加される、つまりは深海化に伴うデメリット──狂気による暴走──を解消し力の限界まで引き出すことに成功した野分。

 それを除いても野分は──怪物となる自分を受け入れて──完全に深海化をコントロールしている、不安定な要素を孕んでいた野分の魂は新たに芽生えた「誓い」によって盤石と成りもう崩れることはないだろう。

 かつての由良のように、自らの堅固な理性によって力と狂気の制御に成功したのだ…!

 

『言った筈です、我々の勝利は揺るぎないものだと。貴方がどんな汚い手口を使おうと、ボクたちはそれを乗り越えて見せます! もう貴方の味方をする運命なんて…何もないんだ!』

『ッ、黙レ…ホザクナがらくたアアアァッ!!!』

 

 追い詰められた魔獣は吼え猛ると野分に向かい突進して来た、巨大な片腕を振り上げ野分に打ち込まんとする。

 

 ──しかし次に拓人たちが目にしたのは、ドラウニーアの巨腕を片手で受け止める野分だった…!

 

「おぉ!」

『ナ"…ッ!?』

『……フンッ』

 

 ──ブォンッ

 

 野分は素早くドラウニーアの左手首に両手を掛けると、華奢な手からは想像も出来ない剛力で、ドラウニーアを「背負い投げ」の要領で背中から放り投げると、そのまま地に叩きつけた。

 

『グゥオアアアッ!?』

 

 一瞬にして天地を返され動きを止められたドラウニーアは──獲物を狙う鷹の如く隙を伺っていた、上空を飛ぶ翔鶴を失念していた。

 

「はっ!」

 

 翔鶴は弓を構え矢を番えると、ドラウニーアに向けエーテル強化航空隊を差し向ける。航空隊から放たれる機銃掃射は、野分に掴まれたドラウニーアの左腕に無数の小さな穴を開け、穴は体内でドラウニーアの細胞を焼こうと広がりを見せる。

 

『ガアァッ!?』

『良い調子だヨヴェイビー! ドラウにはもう回復に回すだけの細胞は残っていナイ、分裂した矢先にそれ以上の数を燃やされてるからネ。彼にはもうどうすることも出来ないサ!』

 

 マサムネの推論に、ドラウニーアはその正当性を否定するように苦い顔で睨む。しかし疲れも傷も回復しないためか、野分に腕を掴まれたまま地に倒れて起き上がれない。ドラウニーアが弱体化しているのは明らかだ。

 完全な深海化により異常な回復力と怪力を手に入れたドラウニーアだったが、覚醒した翔鶴と野分によりそのどちらも封じられてしまった。逃げ場もなく崖に背を向けたようなドラウニーアは正に「進退両難」で、これ以上の打開は不可能であった。

 

『──ゼロ号砲及びアンチマナ波動砲、発射まであと1分』

 

 ドラウニーアの脅威が無くなった直後、もう一つの脅威が声を上げ時を知らせた。

 

「っ! 翔鶴!」

「えぇっ!」

 

 拓人は翔鶴に短く合図を送る、翔鶴は弓を構え直すと矢の狙いをゼロ号砲へ向けた。そして矢を番えたままマサムネに向けて問いかける。

 

「マサムネ、あの零鉱石を狙えば良いのよね!」

『そうだヨ! チャージ中に砲本体を壊したら集めたエネルギーが暴発するカラ、エネルギーの源を断つべきサ! そうすればチャージが自動で中断されて被害も無くなるヨヴェイビー!』

「了解っ!」

『グッ!? くそガアアアアアッ!!』

 

 マサムネのアドバイスを聞き入れた翔鶴に対し、ドラウニーアは野分の腕を振り解くと無理やり身体を起こす。そのまま跳躍し距離を取ると残された攻撃手段である両肩の三連装砲塔からエネルギー砲を繰り出そうと構える。

 

『させませんっ!』

「私だって!」

 

 砲撃が放たれようとする直前、野分は右肩を、金剛は左肩の砲塔へ向かうと…野分は砲塔を細剣で斬り刻み、金剛は砲塔を蹴り上げて砲身を拉げさせた。

 

 ──ボンッ!!

 

『グオオォッ!?』

 

 砲塔が壊れたことで暴発したエネルギーが小規模の爆発を起こす。攻撃手段である両腕と両肩の三連装砲塔、更に防御手段である回復能力まで奪われる。ドラウニーアは最早抵抗も許されない「丸裸」な状態だった。

 

『発射カウント開始、10、9、8、7…』

「強化魔導航空隊…発艦!」

 

 翔鶴は必殺の一矢を、世界を破壊せんと轟轟と唸るゼロ号砲へ発射する。

 蒼炎に包まれた矢はやがて青白く発光する航空機隊へ姿を変えると上空へ飛翔し、凶砲の力の源である「巨大零鉱石」へ魔導爆弾を落とす…煌びやかな光の粒は次第に燃え盛る火炎球へ変わる、そして紅い火球群は雨あられと零鉱石へ降り注いだ──

 

「間に合え…!」

「お願い、止まって…!」

 

 拓人と金剛は数秒に迫ったタイムリミットが止まるよう、必死に願いを捧げた。そんな彼らの声を掻き消すようにドラウニーアは…獣の断末魔のような雄叫びを上げた。

 

『ヴオオオォッ、ヤメロオオオオオォッ!!?』

 

『6、5、4、3、2────』

 

 

 

 ──ズドオオオオォンッ!!

 

 

 

 終わりのカウントダウンを塞き止めるべく炸裂する火の流星群は、着弾すると盛大な爆発音と共に悪魔の石を──粉砕した。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

・・・

 

 

・・

 

 ──未来が、変わったようだな?

 

 やぁ君たち、久々かな? 私は世界の観測者、道行きを見守るモノだ。…人は私のような立場を指し「神様」というが、なぁに只の管理職だよ。そこまでの権能はもう持ち合わせていないよ。

 

 さて…いよいよ拓人君がA.B.E を使用限界数の「三回」まで使ってしまったが、君たちの素朴な疑問としてはこれから拓人君はどうなるのか? 権能を失った彼は果たしてもう特異点でなくなってしまったのか? そう思っていることだろう。

 

 その答えは──「否」とさせてもらう。

 

 ぁあ勿論運命を手繰り寄せる力は没収させてもらう、約束だからね? だが特異点としてのその他の権能「改二改装」と「終幕特典」そして「アカシック・リーディング」等は現状はそのままだよ。尤も…彼はもう普通の人間程度の因果律誘導力しか持たないので、絶対的な展開を覆すことは出来ない。それこそ彼自身の「死」もな? どうなるかはまだ分からないが…フッ。

 

 さて…これで「彼女」がどう動くのか。果たしてそれでも生かそうとするのか…まぁ、そんなことで生者に介入すればそれこそ彼女も後が無い。

 彼女にとっては残念な結果だろうが、この展開自体は拓人君が望んだもの。誰に責められる所以も無し…仕方のない話なのだから。

 彼が特異点の異能を一つ無くしたことで、物語はどう動いていくのか? これからだよ諸君…この先を大いに楽しみ給え。

 

 ──それこそが、物語を見守る私と君たちの「使命」なのだから…!




 一旦ここまで区切ります、来週は最後まで行きます。
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