艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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悪は「悪意」有るまま果てるのか? ①

──シルシウム島、アンチマナ波動砲付近。

 

 レ級と激しい攻防を繰り広げる天龍たち、その戦いは今終幕を迎えようとしていた。

 

『ッギァ!!』

 

 レ級は空中に複数の回し刃を展開させ、天龍たちに向けて解き放つと同時に得物の黒鎌を構え突進する。

 

「っぬん!」

 

 天龍は二刀で鎌の斬撃を受け止めようとする。刀をバツの字にして防御の姿勢を取る天龍にレ級の黒鎌が振り下ろされる、鉄がぶつかる音が響くと二隻は鍔迫り合いの格好となる。

 

『ギャギィェアッ!』

「…っ!」

 

 天龍は気配を感じ上方向を一瞥する。するとレ級の仕掛けた回し刃が天龍を切り裂かんと、空中で旋回し天龍に次々と降り注ごうとしていた。一対一の勝負であれば隙を突かれただろう、しかし──

 

「──おらぁっ!」

 

 加古が鍔迫り合いで動けない天龍の前に飛び出すと、彼女の身体が放電し集まって来る回し刃を一網打尽にした。

 

『ギャッ!!』

 

 ならばとレ級は尾っぽの深海艤装の口を開け、天龍に零距離砲撃を喰らわせようと砲口を向けた。

 

「──天龍、避けて!」

「っ、了解!」

『ギィエッ!?』

 

 長良の声が届いた瞬間──天龍は瞬く間にその場から離脱していた、何もない空間に放り出されたレ級の真横遠方には、既に攻撃態勢を整えた長良が居た。

 

「これで──どう!?」

 

 長良は右脚を後ろに大きく振り上げると、足に集中させた気流を蹴り飛ばした。

 気流は長良の脚から放たれると圧縮され、そのまま全てを両断する「飛刃」となりレ級に迫っていた。レ級はこれに気づくと「空間転移」を用いて飛刃の直線上から離れ避けようと試みた。だが──

 

 ──ピシッ

 

『…グ、ギィッ!?』

 

 レ級の頬に深海棲艦の身体崩壊を知らせる「ひび割れ」が見えた。次にレ級は急激な力の「衰え」を感じる、全身に内包するものが根こそぎ無くなるような喪失感、身体の力が入らなくなり頭の中が朧気になると、水面に着水しつつ体勢をふらつかせた。そして──

 

 

 ──ザシュッ!

 

 

『グィッ!?』

 

 あまりに急な肉体の過労症状に苛まれ、転移が間に合わずレ級は尾っぽの深海艤装を「切断」される。これで攻撃手段の一つを潰されたレ級。

 

『ギ……ギキィ…ッ』

 

 レ級は次第に朦朧とする意識を保つようにフラフラと立ったまま額を手で押さえていたが……──

 

『──ギ、グガァッ!?』

 

 次の瞬間、レ級は口から血ヘドを吐くと痛みに歪んだ表情で海面に膝を付けた、同時にレ級の周りに発せられた黒い稲妻は徐々に弱まると、そのまま掻き消えてしまった。

 

「明らかに弱っているな…デメリットが見えたか」

「あぁ、穢れの魔力水だとかの効力が切れかかってんだ。もうアイツはまともに戦えないぜ! トドメ差しちまいな綾波!」

 

 加古がそう言って綾波にあと一撃叩き込むよう指示を投げるも──綾波は「疑問に曇ったような顔」でレ級を見ていた。

 

「綾波、どうした?」

 

 天龍が再度声を掛けるも、綾波はその場から動こうとはせずレ級に声を上げて尋ねた。

 

「深海戦艦レ級! 教えて下さい…貴女は一体「何モノ」ですか? 貴女は…()()()()?」

「何…?」

「何言い出すんだよ綾波!? 今はそれどころじゃねぇだろ!」

 

 加古の尤もな言い分に対し、綾波は頭を抱えるように額に手を置くとその悩ましい胸中を語る。

 

「理解しています、私も彼女を倒すと覚悟は定めたつもりでした。ですが…この「懐かしい」ような気持ちは何なのか、先ほどから大きくなるこの感情が何なのか分からない以上…()()()()()()()()()()()()()…っ!」

「綾波…」

「どういうことだよ、そりゃ…?」

 

 綾波の問いかけた内容に天龍と加古が要領を得ないでいると、一同が目にする前で──アンチマナ波動砲に動きがあった。

 

『── Start counting …10, 9, 8 …』

 

「っ! 皆急いで、波動砲が撃たれちゃう!?」

 

 長良が叫びなか視線を上に向けると、機械音声のカウントが進むたびに波動砲砲口に集まる黒色のエネルギー体が丸く圧縮され、砲口前に浮かぶ禍々しい黒光となっていく。カウントが終われば直ぐに発射されてしまうことは明白だった。

 

「くそっ!」

「ぁあもう言わんこっちゃない!」

 

 加古は言うが早いか波動砲へ電速で近づくと、両手で波動砲の鉄塔部分を掴みそのまま「放電」する。バチバチ唸る雷電は波動砲内部に確かな変化を齎した。

 

 ──バチチッ、ブウゥゥ…ッ。

 

『8、8、8、9、8、10……』

「よっしゃ、アタシの電気でコイツの回路をおかしくしてやったぜ。今のうちにやれ天龍! 穢れ玉を破壊すりゃあコイツも止まる筈だ!!」

 

 加古が時間を稼いでいる間に、天龍は波動砲の核である穢れ玉の破壊に努める。

 

「了解…っ!?」

 

『──ギィヤアァッ!!』

 

 天龍が瞬速で波動砲を対処しようと身を屈めた時──レ級はそれを見逃さなかった。

 

『ギィア!』

「ふ…っ!」

 

 得物の黒鎌を構えたレ級は、上空へ跳び上がり天龍へ攻撃を仕掛ける──下降ざまに繰り出す鎌の一閃、しかし天龍はそれを「片手」の刀で防いで弾き飛ばした。急激なパワーアップの代償か腕力も大幅に下がっていた。

 

「っ、もうやめろ! お前の身体はもう限界だ、それ以上身体を動かせば碌なシニ方をせんぞ!」

『…ッギ、グ、ガアァ…ッ』

 

 天龍の掛けた言葉を否定するように、レ級は顔を歪ませながらも身体中を蝕む痛みに耐え立ち、距離を取っては今にも形が崩れそうな黒鎌を握り締め臨戦態勢を解かなかった。

 あれだけ猛威を奮っていたレ級は今や満身創痍の状態、沈みかけの身体で黒鎌を構える。一体何が彼女を突き動かすのか…?

 

『ギイィガアァッ!!』

 

 死神は自らのシを前にしても、イノチを刈り取ることを止めはしない。レ級は震える両手で黒鎌を掲げて天龍に向かって行く、しかし──

 

 ──パキンッ!

 

『──…ッ!』

 

 何処かで…レ級の精神を支配していた狂気が「砕け散る」音が聞こえる、それは彼女もまた在り方を「洗脳」されていた証だろうか。

 

 

 精神を支配していた狂気が霧散した瞬間──レ級は何処からともなく聞こえる「声」に耳を傾けた。

 

 

『──大丈夫よ大臣さん、私が居るじゃない!』

 

 

 それは、彼女のココロが見せた在りし日の「走馬灯」であった。

 溌剌とした言葉で目前のフードの人物を元気づける、懐かしさが湧く光景に──レ級の狂気に満ちたココロは静まり代わりに哀しみが広がっていく。

 

『貴女は優しいですね、それでは──私の願いを……──』

 

 続いてフードの男が彼女に語りかける…それは或いは彼女の「始まり」を暗示していたのかもしれない。

 かつてその身を捧げようと決めた覚悟をいつもの朗らかな言葉で表した一場面。脳裏に浮かび上がった錆びついた記憶、彼女は己が深海に堕して以降記憶の全てが忘却されていたが、走馬灯によって奥底に眠った遠い記憶が蘇ったようだ。

 

『………ァ……ッ』

 

 自身を形作る失われたアイデンティティ、自らが口にした覚悟を思い出したレ級──その眼には記憶を思い出したことに喜んだか、はたまた悲しみを抱いたか…いつの間にか「涙」が流れ落ちて行った。

 

「…? 何だ?」

 

 レ級の異変に気付いた天龍は訝しんで、戦闘の手を止めてその場で彼女の様子を窺う。ボロボロと落ちる涙は岩壁から噴き出た水流のようで、それを拭き取ろうともせず呆然と立ち尽くすレ級。

 

『ギ…ァ……ダイ、ジ、ン……サ…ッ』

 

「…っ! 今「大臣」と、彼女は…まさか……っ!」

「綾波…一体何が起こった? お前はアイツの異常について何か…」

 

 綾波はレ級について何かを察した様子で驚きを露わにしていた、天龍はそれを問い質そうとするも──事態は急変する。

 

『──Error! Error! Cancel counting and Open fire launched.』

 

「…はっ!? 何だって?! よく分かんねぇがヤバい感じか…?!」

 

 加古が押さえつけていた波動砲の発射カウントダウンが、異常を察知したのか強制発射に踏み切った模様。砲口に集中した黒光が更に凝縮され小さくなる、このまま行けば数秒と言わずに発射されるだろう。

 

「不味い!」

 

 天龍は危険を予測するとせめて発射の軌道を下にずらせないかと思い至り、また身を屈めて勢いつけて跳び立とうとしていた。

 

 ──しかし、天龍よりも早く波動砲に向かって跳んだ影があった。

 

『──…っ!』

 

「何、レ級!? 何をするつもりだ…!」

 

 天龍が驚きを隠せぬままレ級を追随しようとすると──綾波は天龍の背中に手を置いて待ったを掛けた。

 

「綾波…?」

「………」

 

 綾波はそのまま黙って上を見上げレ級の様子を見守っていた。

 レ級は残りの力を出し尽くすように、波動砲の鉄塔に足を付けると全速力で駆けあがる。そして…砲口より発射されようとする黒光に近づくと、再び飛び上がる。

 

『Fire…!』

 

『──ヤアァッ!!』

 

 レ級は黒鎌を生成すると両手で確りと握り掲げ、そのまま何もない空間に向かって振り下ろした。

 黒光が正に発射されたその先には──レ級が作り出した「空間の裂け目」があった。裂けた空間の先には真っ黒であり何も映っていないが、黒光はその場所に吸い込まれるように直線を描いて、何もない黒い空間へ消えて行った。

 

「あ、あれって…まさかとは思うけど」

「嘘だろ…?!」

 

 長良と加古はレ級の行動に、隠しきれない衝撃を受けた顔を見せる。あの何もない黒い空間が何処にあるか解らないが、遠目でも生命の気配は感じ取れない。そんな空間へ黒光を流していると見えなくもない状況。

 つまりレ級は──この瀬戸際に天龍たちを「助けた」…という不可思議な内容が目前で起こったのだ。

 

「──おい、お前ら無事か!」

 

 何が起こっているのか分からないその最中、望月は天龍たちと合流し天龍たちの観ている上空の光景を共有した。

 

「んだこりゃあ、レ級のヤロー何してんだ?! アレは…あの空間は何処に繋がってんだ、まるで何もない場所に…」

 

「──きっと、何もない空間へ穢れのエネルギーを逃がしているのです」

 

 望月が理解が及ばない様子で居ると、綾波がポツリと零すように呟く。

 

「綾波…?」

 

 天龍が綾波の言葉に訝しんでいると、波動砲の発射が収まる…そして。

 

 ──パキッ

 

 波動砲内部の穢れ玉に亀裂が入ると、そのまま砕け散った。全ての負のエネルギーが…射出し終わったのだ。

 レ級はそれを見届けると能力を解除、空間の亀裂は閉じられ空は何事もなかったような静寂に包まれた。

 

『──…ッカハ…!』

 

 同時に、レ級は口から血を吐くと同時に力を失ったように下落していく。

 

「…っ!」

 

 綾波はヒトリ駆け出す、力尽きる死神の落下地点で両腕を差し出すように広げると、そのまま抱き抱えた。

 

「何だぁ?」

「どうしたの綾波ちゃん? レ級が私たちを助けたってだけでも分からないのに…?」

「…行くぞ」

「あぁ…」

 

 加古と長良は狐に化かされたように茫然自失としていたが、天龍と望月は何かを察した様子でゆっくりと綾波に近づいていく。

 

「…! ったく、ワケ分かんねえ!」

「あっ、待って…!」

 

 それを見た加古と長良も見倣うと、テモアカナ隊がレ級を囲んで静かに見守るという、先ほどの敵対ぶりからは考えられないほどの沈痛な雰囲気であった。

 

『──ア、アヤナミ、チャン…?』

 

 先ほどの狂気に満ちた貌からは想像できないほど、今のレ級は疲弊しつつも確かな満足感に満たされた穏やかな顔になっていた。

 

「…やっぱり、貴女だったんだね?」

『ゴ、メン、ネ…?』

 

 綾波に抱かれたレ級は、許しを乞うように手を伸ばす。綾波は──レ級の手をそっと取っては握った。

 

「ううん、貴女が犯した罪は確かに重いけど…最後はそれを償おうとしたんだよね? …立派だったよ」

『…エ、ヘヘ。エネル、ギー…キット、ダイジョ、ブ。アノクウカン、ナニモ、ナイ。ダカラ…』

 

 静かに微笑み合う両者、レ級は己の力を使って「穢れのエネルギーを何もない空間」に飛ばしたと伝える。あの瞬間では穢れ玉そのものを壊しても発射されたエネルギーが止まるかは怪しかったので、レ級の咄嗟の判断としては最良だった。

 

 ──但し、それは彼女にとって「最後の力」であったことは言うまでもない。

 

『ハァ……ハァ…ッ』

「こりゃあもう駄目だぜ? もうすぐコイツは…」

 

 息苦しそうにするレ級を見て、望月は残酷な告知を敢えて冷淡に言い投げた。それを承知の上かレ級は最期のメッセージを綾波に託す。

 

『アヤナミチャ…ダイジン、サン、ヲ…ユル、シテ、アゲテ? アノ、ヒトハ…ズット、ヒトリ、ダッタカラ…ッ』

 

 レ級は己が「利用されていた」と理解しても、”大臣”と呼ぶ人物の行為を許してほしいと言って来た。

 

「大臣…あの男ですか。貴女の遺言となる言葉なら本当はそうしてあげたい、でも…ごめんなさい。あの男は全てを利用し続けた、己のために…貴女を含めたタシャを悪用し尽して来た。私は…それを許すことが、出来ないんです」

 

『ソッカ…ザンネン、ダ…ナ──』

 

 綾波の誠実かつ正義の込もった言葉に、レ級はどこか分かっていたような諦めを含んだ微笑みを浮かべると──そのまま眼を閉じて、遂に動かなくなってしまった…そして。

 

 ──バキ、バキィッ。

 

 レ級の頬に浮かび上がっていた亀裂が全身に広がると…レ級の肉体は「消失」し、ごく小さな欠片となると空にふわりと舞い上がる…その場には彼女の衣服である、黒いパーカーとマフラーが綾波の両手に収まっていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──シルシウム島に訪れる、一時の静寂…。

 

 あれだけの喧騒に包まれていた戦場は息を潜め、波動砲も全てが終わったように沈黙していた。歴戦の戦士たちが見守る中…狂気に取り憑かれた死神はその艦生に幕を引いていた、最期はまるで己の今までの罪を贖罪するかのように…世界の危機を救っていたのだ。

 

「終わったんだよね…?」

「あぁ…アイツの最期としては呆気ないもんだが、にしても油断ならなかったなぁ」

 

 長良と加古が半信半疑といった具合に言葉を零していた。辺りを見回しても穢れのエネルギーが消失したことで、それに群がる深海棲艦は何処かへと消えたので、誰が襲われるという危険も無くなっていた。

 ともあれこれで波動砲の一つを沈黙させることに成功した、誰も犠牲が出なかったのは一安心といったところか。皆が内心安堵する中望月は次の行動を呟く。

 

「さって、他の島の連中に連絡とってみるかねぇ。南木鎮守府以外のヤツらの安否確認して、何も問題なさそうなら大将たちにも連絡するかい」

「あぁ、俺も手伝おう。俺は舞風たちに連絡してみよう」

「うし、んじゃアタシはサラトガたちに連絡っと。そっちは頼んだぜ?」

 

 望月の確認に頷くと、天龍は手首の映写型通信機に顔を落とし他の隊へ連絡を試みた。

 …ふと横を見やると、レ級の衣服を抱きかかえたまま何かを反芻しているような綾波が居た。その姿があまりにも寂しそうなので思わず声を掛けた。

 

「綾波、どうした?」

「…いえ、少し昔のことを思い出していまして」

「レ級のことか?」

 

 天龍の言葉に肯定を込めて頷く綾波、話を聞く限り彼女とレ級には何らかの「ミッシング・リンク」があったことはハッキリとした事実のようだ、天龍は思案しながらも自らの記憶に基づいたレ級との戦いを振り返った。

 

「本当に、ヤツとは短い付き合いだったが長い間戦ったような感覚だからな。この数ヶ月間ハジマリ海域からこのクロギリまで、散々場を引っ掻き回したと思えば…ドラウニーアに海魔石で操られていたのだろうが、それを踏まえても最後のサイゴで俺たちを手助けするとは思えなかった」

 

 天龍の言葉に返答はせず、顔を俯けたまま綾波もまた過去を回想し始める。但し──それは彼女の「とある友人」についてだった。

 

「昔…私が騎士団に所属していた頃、団の中でも一二を争う実力の娘が居たんです。その娘は身の丈以上の大槍を扱って、素早い身のこなしで敵を寄せ付けない戦闘スタイルでした…陛下も彼女のことを甚く気に入っていて、陛下直々の御命を彼女が請け負うことも多かったのです」

「…仲が良かったのか?」

「はい、私も身の丈以上の斧を得物とするため助言を貰っている内に。しかし…城内でブースターという危険な装備を付けるか否かで団内で揉めて、彼女は装備に肯定を示したためそれ以来会っていませんでした」

「そうか…」

 

 綾波の会話から察せられた「悲しみ」を感じ取ると、天龍は黙ってそれを受け取り気持ちを共有していく。その上で綾波は自らに生まれた「違和感」を静かな語り口で話していく。

 

「良く笑う娘でした。それでいて世話好きで誰からも好かれてました、ですが…笑顔の系統は全く違うのに、レ級の嗤い顔を見る内に彼女のことを思い起こして…それは、その違和感はどうしても拭えなかった」

 

 最後の言葉尻から嗚咽のような悔しさが滲む声を絞り出した綾波、それを見た天龍は不器用ながらも綾波に語りかける。

 

「後悔したとしてももう遅い、俺たちにはオレたちの目的があり、レ級はその道を塞ぐ敵だった。そう思わなければやっていけんだろうし、それが一番の解釈だろう」

「ですが…っ!」

 

 綾波の尽きぬ悔恨に対し、天龍はぶっきらぼうな前置きから自身の気持ちを言葉に込めて表した。

 

「綾波、お前が言ったことだろう。アイツの最期は自らの過ちを正そうとした、お前の言う通り…立派だったよ。それは紛うことなき事実で、何モノも覆せはしない。誰が…何を言おうともな?」

「天龍さん…」

「騎士としての矜持とやらは生憎俺に持ち合わせはないが、それでも…自らの信じた道を思い出したアイツは、漸くそれを果たすことが出来た。例え今までそれが実を結ばなかったとしても、きっと報われたさ。…どんなに罪を重ねたとしても、最後に自分の為すべきことを果たせたなら…それが一番良い結果なのだから」

「……はい」

 

 天龍の静かな語りに綾波も納得して、綾波の懐に在るかつての「好敵手」の衣服を見つめて微笑んだ。

 悲しみに彩られた戦場を乗り越え、少女たちは再び前へと進み始める。その眼に映る先の景色に何が在るのかなど露知らず。

 綾波は後悔を作らないよう、少しの間だけ彼女との思い出を反芻する。それが過去を引きずる結果を生むとしても、彼女の決意を固めるには必要な工程だった。

 

 ──斯くして、死神との血戦を制した天龍たちは他の仲間たちと連絡を取る、まるでいつものように自然と、冷静に…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──南木鎮守府、屋上。

 

 拓人の全てを賭けた行動によって、世界中の人々へ危難が向かおうとしていた運命は大きく変わっていた。

 ドラウニーアの海魔石が砕かれ、野分は深海化の呪縛を乗り越え、ゼロ号砲も無事「停止」にまで追い込んだ。一連の激闘が終わり、気がつけば辺りは静まり返っていた。

 拓人が目を凝らし前に視線を送ると…そこには細々と砕かれた緑に光る石の断片と、動力源を失い沈黙し只の鉄塔と化したゼロ号砲が鎮座していた。

 

「や、やった…!」

「っ! …良かったぁ、間に合って本当に良かった!」

 

 拓人と金剛は緊急事態を退けた喜びを表し、翔鶴も上空から物言わぬ鉄塔となったゼロ号砲を見下ろし、安堵の表情を浮かべていた。

 

「これで全てが終わったのね、長かった…漸く瑞鶴や提督に餞(はなむけ)が出来るわ」

『ウィ、おめでとうございます皆さん。実に美しい戦いぶりに感服しました、ボクも…皆さんのお役に立てれたなら幸いです』

 

 翔鶴の次に野分が感嘆の意を示した、深海化を果たしたことで肌は白寄りの灰色になり、髪は白く毛先が赤く染め上がっていた。が、その理性的かつ冗長的な話し方と穏やかな瞳によって、彼女が脅威ではないことが如実に現れていた。

 そんな野分が両腕に抱えているのは…傷だらけで自身のシンボルであった一角を無惨に折られた港湾棲姫だった、彼女は一回り小さい野分の細い腕の中で、疲れ切った様子で全身を預けていた。

 

「野分、その娘は大丈夫そう?」

『はい、先ほどのドラウニーアの攻撃が堪えたのか完全に気を失っています。ですが…この角から彼女の感情は確かに感じてます、途切れとぎれですが柔らかな感情が。ですから…コマンダン、恐れながら彼女の処遇は』

 

 どこか困惑気味に返答を求める野分は、港湾がこれからどうなるのか気掛かりな様子。拓人としても港湾自体に悪い印象を持っているわけでもないので、にこやかに微笑んで回答する。

 

「安心して、彼女は暫くウチの鎮守府に匿おうと思う。連合の人たちにも連絡しないとだからどうなるか分からないけど…でも、僕は野分が彼女を看護してくれるなら、君に全部任せられるよ?」

『っ! はい! ありがとうございますコマンダン、貴方のご英断に感謝を!』

 

 拓人の言葉に華やかな笑顔を見せる野分、心底嬉しそうに笑う彼女は喜悦の極みに至っていた。

 

 ──ピピピ、ピピピ。

 

 そんな中、拓人の映写型通信機に連絡が入る。見るとどうやら望月からの通伝のようだ、拓人はダイヤルを合わせ望月のホログラムを呼び出し連絡を取り合う。

 

『よぉ大将、その様子だと派手にやられたみてぇだな?』

「そういう望月はそんなでもないね? 天龍たちは大丈夫そう?」

『あぁ、綾波はちょいと傷があるがそれ以外はどうってことなさそうだ。他のヤツらも掠り傷程度ってカンジ、アタシも一応頑張ったんだぜ? まぁサポートだがな』

 

 望月が皮肉めいた言葉を零していると、その横から天龍の顔が映り込み付け加える。

 

『タクト、寧ろ望月こそが今回のMVPだ。彼女が居なければ俺たちもどうなって居たか解らない、褒めてやってくれ、何だったら褒め倒してやれ』

『お、おいっ』

『そうだぜぇ、今回の望月はマジで頼りになったわ。カイトの采配に感謝だな!』

『うんうん、それとタクトのヒトを見る眼もね!』

『はい、望月さんの活躍は我々を十二分に活かして下さいました。改めて御礼申し上げます』

 

 ホログラムの外から加古、長良、綾波の順で声が聞こえてくる。それを聞いて拓人も鼻高々といった具合に望月に微笑みかけた。

 

「ふぅ~ん、なるほど! 頑張ったみたいだねぇもっちー、偉いえらい、いよっ大統領! アンタこそ大将! 艦隊の真のエース! 勝利の女神!!」

『や、やめろよぉ。何だい皆してさ…ぁあ! ホントに止めてくれ、褒め慣れてないんだ蕁麻疹が出らぁ!』

 

 望月は照れくさそうに拓人たちからそっぽ向いてバツが悪そうに頭を掻いていた。程なく崩した表情を引き締めると伝達事項を拓人に伝える。

 

『簡潔にいくぜ? 三島に設置された波動砲は無事に破壊成功だ、シルシウム島のレ級も倒したし、こっちは全てしゅーりょーってことで! 舞風やサラたちとも連絡を取り合ったが何とかなったみたいだ』

「そっか、ありがとう望月。僕たちの方もゼロ号砲を止めることが出来たよ、翔鶴は戦いの中で改二に…っあ! それと野分がね、深海化を完全にコントロール出来るようになったんだ!」

『おぉそうかい? そりゃ何より・・・は?』

 

 互いの現状を報告し合うも、拓人のある意味衝撃の一言に望月は「鳩が豆鉄砲を食ったよう」な顔で静かに驚きを表した。

 

『…ちょっと待ちな、野分が深海棲艦になっちまったってか!?』

「あぁうん、驚くのも無理はないけど大丈夫そうだよ? 野分~!」

 

 拓人が野分に手で招き寄せる合図を送ると、野分は港湾を抱えながらゆっくりと近づき、すっかり肌の色合いが変わった顔を通信越しに見せる。望月はその様子をジッと見つめるも…暫くして深いため息を吐いた。

 

『はぁ~っ、いやいや…驚いたぜ。確かにその様子だとそこまで変わったことも無さげだな? 深海化は精神を蝕むデメリットが有ったはずだが』

「それには心当たりがあるよ、アイツとの戦いの中で野分の好感度が上がったんだけど、多分それの「精神耐性」が付くメリットが深海化のデメリットを打ち消した…と思うんだ」

『はぁ。妖精が言ってたヤツか、実際半信半疑だったが…それ見せられたら嫌でも信じるぜ? まぁともあれ良かったじゃねぇかよ野分!』

『ありがとうございます、マドモアゼルモッチー。これも皆さんと…コマンダンのおかげです、ボクはこれからも美しさを探求し、そしてそれを守っていくことを誓います!』

『そうかよ、んで…話は変わるが大将、ドラウニーアはどうなった? 死んだのか?』

「…っ!?」

 

 望月に問われ脅威を思い出した拓人は、血相を変えて直ぐさま辺りを見回す。しかし──

 

「──大丈夫だよタクト、ドラウニーアは私が抑えてるから!」

 

 見ると、前方で膝から崩れ落ち項垂れているドラウニーアの左腕を、金剛が背中に押さえつけている光景が見えた。この期に及んで何か起こるのではないかと冷や汗を掻いた拓人だが…とりあえず胸を撫でおろすことが出来た。

 

「あ、ありがとう金剛。…というわけみたい、ちょっと目を離しちゃってた…ごめん」

『おいおいしっかりしてくれよ? まぁ何事もなさそうでこっちも安心だぜ、一連の事件の黒幕を無事捕縛か。それじゃあ後はカイトたちへの報告かい? じゃ報告はアタシらがやっとくから、大将たちはヤツを見張ってろよ?』

「うん、ありがとう望月。それと皆も──お疲れ様!」

 

 拓人は心からの感謝の言葉を満面の笑みで伝えると、望月たちとの通信を切った。

 

「…ふぅっ、さて後は」

 

 拓人たちは南木鎮守府にて「ゼロ号砲の破壊」を見事完遂したことになるが、矢張り砲身自体が残っている限り油断は出来なかった。

 拓人はゼロ号砲に目を移し睨むと、次に翔鶴へ目線で合図を送る。翔鶴も空から拓人を見つめその意図を把握すると、一つ頷いてまたゼロ号砲に向けて弓を引いた。

 エネルギーの源の零鉱石を破壊したので、もう暴発の危険性もない。であれば憂いは完全に断つべき…そう思い至り拓人たちはゼロ号砲の完全破壊に挑んだ。

 

『──………ッ、ク……ククク…フハハハハハァッ!』

 

 しかし──拓人たちの行動を嘲笑うように、獣は再び牙を見せると高らかに嗤った。

 

「っ、ドラウニーア…!」

 

 拓人たちの視線は一気にドラウニーアへ集まった、この世界を破壊しようと最後まで足掻いた全ての事件の黒幕、果たして今度はどう動くのか?

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