艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
全ての元凶ドラウニーアは、まるで最期の足掻きと言わんばかりに高らかに嗤って見せる。ヤツが不遜な態度を取ることは即ちまだ「一波乱」があるということ…誰もが固唾を呑む中、ドラウニーアが発した第一声は──
『ハアァ…ナル程、貴様ラノ完全勝利カ。理解シテイタ、コウナル未来ハ。ダガ…変エナケレバ、ナラナカッタ』
敗北の認知と、自身の野望が潰えたことへの後悔だった。
あれだけ打ちのめされたというのに、まだ
「これで解っただろ、お前はもう終わったんだ。全部お前の思い通りだなんて…有り得ないんだよ、でもそれこそが人生において「意味ある要素」に成り得るんだ。自分の間違いを認めて正さないと…求めたものなんて一生手に入らないよ」
拓人の価値観の詰まった一言、それは拓人自身も過ちを犯したことを理解し、再び立ち上がったからこその重みがあった。
誰しもがその言葉を聞き、そして沈黙を以て肯定した。だが──矢張りこの男、認めるどころかただでは転ばない。
『フン、貴様ハ矢張リ”悪徳”ヨ。コレカラ貴様ラガドウナルノカ分カラズ、間違イヲ正スダト? ヨク言エタモノダナァ?』
「何…?」
ドラウニーアの思わせぶりな態度に、不快に顔を歪める拓人だったが──ふと、ある疑念を抱く。
ドラウニーアが何故世界滅亡を願ったのか、それは先ほどの問答で「この世界が欺瞞に満ちた世界で、自分はそれを元通りにしようとした」という動機が返って来た。だが──
ドラウニーアは問答の最後に「艦娘を希望などと言っていると、計り知れない絶望を視ることになる」と言っていたが、拓人は絶対理解…アカシック・リーディングの能力によって、物事の理解力を高めるだけでなく「言葉の真偽」も理解出来るようになっている。例外もあるがその最後の言葉は「真」であることが解っていた。
ドラウニーアは、
「ドラウニーア…お前は何を観たというんだ、アカシックレコードで…僕の知らない何を知った?」
拓人の低く鋭い声から発せられた疑問に対し、ドラウニーアは──
『──未来ダ。俺ハコノ先ノ展開ヲ観テイル、全テ断片的ナ”ビジョン”デハアルガナ…特異点、貴様ガ南木鎮守府デ俺ト雌雄ヲ決スルコトモ、俺ガ敗北スルコトモ既ニ観テイタ。勿論ソノ先ノ未来モ』
「っ、未来…だって?」
『ソウダ、俺ハコノ先ドウアレ「死ヌ」ダロウ。ソレガ自決カ連合ノ裁キナノカハ判ランガナ? ソシテ
ドラウニーアが放った口上は驚愕的だった、何とドラウニーアが死んだ後何者かが今度こそ世界を破壊しようと動き出すと言うのだ。
「…っな!?」
「ホワッツ!?」
「何ですってっ!!?」
『どういう意味ですか…それが真実だとしても、ドラウニーアが居なくなった後に一体誰が…!?』
拓人、金剛、翔鶴、野分がドラウニーアの語る内容にそれぞれ驚きを露わにする。
偽言のようにも聞こえるが、こと自身がアカシックレコードから垣間見た事柄に関しては偽りなく話して来たドラウニーア、今回も「真」であることは拓人の能力で明らかであった。
であれば、平穏を掴もうとしている世界に宣戦布告するモノとは…と、拓人たちが混乱する最中ドラウニーアは更に思わせぶりに「真の黒幕」について示唆した。
『ナァ特異点、貴様ハ俺ヲ止メルタメニ今マデ奔走シタ。シカシソレハ
──まさか。
全身に人知れず悪寒が走る拓人、それでも恐怖に崩れそうになる顔を引き締めると、問答に応じる。
「…そんなのお前に関係ないだろ?」
『イイヤアル。オ前ハ初メコウ思ッテイタ筈ダ、艦娘トイウガラクタニ美少女ノ皮ヲ被ッタモノタチト、悠々自適ナ生活ガ出来レバソレデイイト。始メカラ俺ヲ止メヨウダナドト大層ナ正義ヲ掲ゲテイタワケデハアルマイ? ナラバ何故ココニ辿リ着イタ? 誰ニソウ誑カサレタァ?』
「…っ!」
図星を言い当てつつ煽るように嗤いを浮かべるドラウニーア、拓人は考えまいと思考を止めるも──その答えは拓人の能力によって強制的に頭の中へ浮かび上がった。
「──妖精、さん?」
「っ! 妖精って…いつも拓人の肩の上に居たあの娘? 確かこの世界の神さまだって言っていた」
金剛は拓人の零した言葉に対して意味合いを問うた。
妖精──この場には居ないが拓人がこの世界に転生──もとい召喚──されるきっかけとなったジン物、その正体は神さまの一柱であり、拓人にこの世界での「使命」を与えたモノでもある。
『アァソウダ、貴様ヲ特異点トシテ動カシタ張本人ダ。デハ…何故ソノ妖精トヤラハ貴様ヲ特異点トシテ選ンダト思ウ?』
「っ、それは…僕が艦娘のことをよく理解出来るからだって」
『ホウ? ソレハソウダロウ、何セ…コノ世界ノ理ガ書キ換ワッタ切ッ掛ケヲ作ッタノハ「貴様」ナノダカラ、ソレハ前ニモ話シタハズダロウ?』
確かにドラウニーアは百門要塞で対峙した際「拓人がこの世界に来たことによって艦娘の概念が生まれた」と話した、しかしそれはその後の妖精さんの釈明で「あくまで世界を作ったのは妖精さん自身」で、拓人は使命を果たしてもらいたいため彼女に呼ばれたのだと分かっていた。
また虚言で自分を謀ろうとしているのか、ドラウニーアの悪意を感知した拓人は苛立ちの限界を迎え、声を荒げてそれを否定した。
「…っ! いい加減にしろ! そうやってまた見透かした風に僕らを惑わそうとしてっ!! お前があの時言ったことは嘘なんだろ、妖精さんは艦娘を創り出したのは自分だって話してくれた、僕にお前を止めて世界を救ってほしいって言っていたんだっ!!」
『フハハハハッ! 矢張リ何モ聞カサレテイナイヨウダナァ? 掌デ転ガサレテイルノハ目ニ見エテイタガ、ダトスレドモナント「惨イ」コトカ!』
拓人の証言を嘲笑うドラウニーアは、高嗤いを上げながら研ぎ澄まされた爪を突き立てるように、拓人に対し真実を告げた。
『貴様ハ騙サレテイルゾ特異点、ヤツノ望ンデイルノハ俺ヲ排除シタ先ノ世界平和ナドデハナイ。ヤツハ自身ノ願イ──
「…っ!!?」
ドラウニーアの最大級の衝撃発言に、その場の者たちは酷く驚きを表し。拓人はそれに加えて頭が真っ白になる。
つまり要点を纏めると、ドラウニーアが居なくなろうと世界は何の道破壊される。それを行おうとしているモノこそ…拓人が妖精と慕うドラウニーアにとっての邪神なのだ。
妖精さんは拓人に世界を救わせることで彼女自身の「願い」を成就させようと画策している、今まで拓人は嵌められていたのだ。…という冒涜極まりない内容を言明した。
「何を言ってるんだ…出鱈目な嘘を吐くんじゃないっ! 妖精さんは僕をこの世界に使命があるから呼び寄せた、その上で駄目な男だった僕を陰から見守りながら成長させてくれた。妖精さんがこの世界を破滅に導こうとしているだなんて、そんなことあるものかっ。彼女を侮辱するなら…本気で許さないぞ!!」
拓人は妖精さんとの信頼を揺るがそうとするドラウニーアに対し激昂する、ドラウニーアはそんな拓人に尚も嘲笑を向けながらも話を続ける。
『嘘デハナイ、俺ガアノ要塞地下デ語ッタコトモ、コノ場デ最初ニ話シタコトモ、今口ニシタコトモ全テ事実ダ! ヤツニ何ヲ吹キ込マレタノカハ知ランガ、残念ナガラソレハ虚偽ダ。証拠トシテ…貴様ニハ俺ノ言葉ノ真偽ガ解ルハズダ、特異点…俺ハ"真"ノミ話シテイル、ソウダロウゥ?』
「…っ!?」
拓人はまるで嘘を吐いているようなドラウニーアの言葉の意味を理解する、分かりたくなくとも彼の能力で頭は解ってしまった。その言葉こそ…嘘偽りない「
「──そ、そんな…っ!」
嘘だと言ってほしかった。
なまじ理解力ある能力を持ったため、自分が信じていようといまいとそこにある真実を燻り出す。そんな「予想外の出来事」の真偽まで見極めてしまうのだから…拓人はどうしようもない裏切りを受け、急にハンマーで頭を強く叩かれたような衝撃と、精神的な痛みを味わっていた。
絶望感に苛まれようとしている拓人に、ドラウニーアは更なる真実を告げた。
『俺ニ言エルコトハ「二ツ」アル、一ツハ特異点…貴様ハドウアレ最後ニ妖精トイウ邪神ニ協力シ、世界破滅ノ切ッ掛ケヲ創リ出スダロウ。俺ハ確カニ観タ…貴様ト邪神ガ全テヲ終エタ後ニ特異点ノ権能ノ一ツ…「終幕特典」トヤラデ「破滅ノ使者」ヲ呼ビ出シ、世界ヲ消ソウトスル"ビジョン"ヲナァ!!』
妖精さんだけでなく自分までもが何れ世界を破滅に導こうと動く…そんな今までやって来たことと真逆の行動を自分たちが取るなど、到底信じられなかったが…先ほどから衝撃の連続で、頭には入っても拓人にはどう返すことも出来なかった。
『ソシテモウ一ツ。ソノ「破滅ノ使者」トハ、天ヲ突クホドノ遥カニ巨大ナ灰色ノ化ケ物ダッタ。幾ツモノ生物ヲ張リ付ケタ、ソレデイテ機械ノヨウナ見タ目ダッタ。コレハ…何処カデ聞イタコトガナイカァ、エェッ!? 特異点ン!!』
破滅の使者と呼ばれる、神か悪魔か分からない化け物…果たしてそれは、拓人には類似する存在に心当たりがあった。
「──
ポツリ、と零した拓人の回答に…ドラウニーアは口角を三日月のように上げ悪どく嗤うと、それを肯定した。
『ソオオォダッ、貴様ラガコノ世界ノ理ヲ変エタコトデ生マレタ深海棲艦。ソレハ最終的ニ海魔ヲ大キク凌グ「大悪魔」トナル、断片的ナビジョンデハアルガ…俺ハソレラカラ貴様ラガ終幕特典デ破滅ノ使者…巨大深海棲艦ヲ生ミ出シ、ソレヲ従エテ世界ヲ蹂躙スルト踏ンデイル。ヤツガ貴様ヲコノ世界ヘ喚ンダノハ、深海棲艦トイウ「兵器、怪獣」ノ概念ノアル貴様ヲ焚キツケ、世界破壊ニ加担サセルタメ、ソウトシカ考エラレン!』
「…っ」
「タクト…」
拓人はぐうの音も出ない様子で黙って俯いて項垂れる他無かった、金剛もそんな拓人を見て彼に対する慈悲を求める眼差しを向けるしか出来なかった。
ドラウニーアの語る残酷な真実に、拓人は自身のアイデンティティである「信心」を激しく揺さぶられていた。
折角救った世界を、深海棲艦を模した化け物によって破壊しようとする。果たしてそれは真実なのか? その答えに対して理解を得ようと強く念じても、拓人は「アカシック・リーディング」による理解を得ることが出来なかった。
確かなことは、百門要塞の事件後の見解の場で妖精さんが言っていた「使命があるからこの世界へ召喚した」という筋道は、拓人を利用するために吐いた「作り話」なのだと、そんな「悪意」とも取れる冷酷なものだった。
自分の目的のために敢えてこうなるよう嘯いて仕組み、その上で特異点だと
世界滅亡を願うことが本当であるならそれを行う彼女の真意も、拓人をどう思ってるのかも、何も分からなかった。理解不可能は更なる疑問を呼び、頭の中で疑念は膨らみ続け、それは遂に腹の中で蠢く泥のような暗く淀んだ「暗鬼」となった。
「──嘘だ、そんなこと。それが本当のことだって言うなら…妖精さんや僕は目の前の外道と同じことをするかもしれない、ということ? 有り得ない…妖精さんは、僕は……何のために…っ!?」
絶句、激震、猜疑心に支配された心は、百門要塞で見せたような「闇」を十全に貌に湛える。
声を震わせ絶望感を漂わせる拓人の呟いた言葉に対し、ドラウニーアは徹底的に反論する。
『俺ト同ジダト? ハァッ、笑止!! 貴様ラノ望ミハ「虚無」ナノダロウ? 灰色ノ悪魔ニ蹂躙サレタ世界ハ誰モ居ナイ、何モカモガ滅セラレ後ニハ何モ残ラナイ、未来サエモナァ! 俺ト貴様ラヲ一緒ニスルナ…俺ハ邪神ノ理ヲ越エ新タナ真理ヲ創ル、新タナ未来ト楽園ガソコニアル! 全テヲ無ニ返ソウトスル貴様ラトハ何モカモ違ウノダ!!』
ドラウニーアの歪んだ信念を前にしても、拓人の心は既に折られ最早口を閉じるしか出来なかった。
最初はドラウニーアに「この世界は拓人が来たことによって変わってしまった」と現実を叩きつけられていたが、後に妖精さんにより是正され「この世界の理は自分が作った」と改められた。同時に諸悪の根源であるドラウニーアの計画を止めてほしいと懇願され、拓人もそれを受け入れた。
だが、心の何処か隅で、拓人はその一連の流れに──
しかし考えないようにしていた。それ自体が彼女への信頼に対する裏切りに当たるからと思ったからだが、今考えれば"信じる"という体のいい言葉でその場をやり過ごしていただけに過ぎなかった。
それでも、ここまで導いてくれた彼女を疑いたくなかった。彼女は自分を信じてこの世界の命運を託してくれたのだから、自分も彼女を信じよう…そう都合よく解釈して事の真相を追究しなかった。
変われたと思っていた…だが根本的な部分が変われていなかった。信頼の裏で拓人を利用しようとしたことに拓人自身感づいていながらも、彼女は世界を滅ぼそうとしているという「想像以上の裏切り」で、拓人の傷つき立ち上がった「心」に
──やっぱり妖精さんも、僕を信じていた訳じゃなかった。
──いや、何か理由がある筈だ。でなければこんな…。
まるで全てを奪われた拓人は、そんな風に妖精さんの背信行為を咎める傷心と、何かの間違いだと抗弁する信心が心の中で犇めき合い、おかげで脳はぐちゃぐちゃに掻き回されていた。何もかもが…
「僕が…いつか、近い将来世界を滅ぼすだって? 妖精さんと一緒に…しかも彼女が、世界破壊のため今まで暗躍していた…? そ、そんなこと……っ」
『否定シヨウトモ貴様ノ能力ハソウ言ッテオランダロウ? …諦メロ、貴様ガヤツニ言イクルメラレ更ナル罪ヲ重ネルノハ確実ダ。…フッ、ダカラ言ッタダロウ? コノママ行ケバ計リ知レナイ絶望ヲ視ルト、貴様ノ信念ナゾ所詮ハ邪神ニヨッテ形作ラレタ「紛イモノ」ヨ、ソンナがらくた同然ノものに…未来ナドアル筈ガナイダロウ!!』
ドラウニーアは扇動話術で拓人の精神を完全に壊そうと煽り立てるも、拓人にはその悪意ある言葉の数々が遠く響いているように感じていた。
果たしてこれだけショックを受けている自分が、如何にして彼女の思惑に力添えすることになるのか、現時点では分からなかったが…拓人にとっては絶大な信頼を寄せていた彼女が、真の黒幕として暗躍しているかもしれないという「答え」に、それだけで不安が押し寄せて来ていた。
それが妖精さんの考えであるのか実際定かではない、だが──どんなに否定しても拓人の「
拓人は逃れられない真実を前に──失意の淵に突き落とされ、それを呆然と受け入れる他なかった。
「──しっかりしてタクト! ドラウニーアは貴方を惑わそうとしているだけだよ!!」
「っ、金剛…!」
疑心暗鬼が脳を跋扈する中、金剛は必死に叫んで拓人に正常な判断を呼び戻そうする、金剛の心を通わせた言葉を受け、翔鶴と野分もそれに続いた。
「そうよ、アイツがこの場で正直に全てを白状するとは思えない。貴方を嘘で苦しませようとしているのよ、騙されちゃダメ!!」
『ウィ! コマンダンたちが世界を破壊するだなどと戯言に決まっています、ボクはコマンダンを信じています。だから…コマンダンも自分を、愛すべきヒトを信じてあげて下さい!!』
「タクト…もし貴方に何があっても、私たちが貴方を止めて見せる。だから…!」
金剛たちの愛情と魂の込もった言葉、しかし…一度陥った宵闇は晴れることは無く。拓人は不信に駆られた顔で定まらない視線を金剛たちに送ると、不安に凍える心境を呟いた。
「……分からない、分からないんだよ。前から引っ掛かる部分があった、でも彼女にも理由があるって…そう思ったからこそ考えないようにしていたんだ。もう…僕には何が真実なのか、分からない、よ。妖精さんは、何のために…僕を…っ?!」
「タクト…っ」
声を震わせ酷く狼狽した様子を見せる拓人。彼の信じていたものに大きなひび割れが入ったからこその動揺、拓人の心を覆った深い闇を視認した金剛もまた拓人に心配の眼を向けた。
『フンッ、脆弱ナ精神ヨナァ? ダカラ…貴様ハ「木偶ノ棒」ナノダ!』
その隙を待っていたと言わんばかりに、ドラウニーアは一連の流れから拘束が緩んでいた金剛を背中で押し除けると、そのまま跳躍し零鉱石の欠片が散らばる場所へ降り立った。
「しまった!?」
金剛が自身の痛恨のミスを叫ぶと、ドラウニーアは手近な緑色に光る石の欠片を見つける。そして──左手で掬い上げると口を大きく開け地面に落ちたそれを勢いよく含み、バリバリと鈍い咀嚼音を立てながら口内で細かく砕き飲み込んだ。
『──グウオオオオオアアアアアア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!』
すると──ドラウニーアの周りに緑色の炎が煌々と燃え上がった。
「っ! ドラウニーア…何をしようとしているの、止まりなさい!」
空中で監視していた翔鶴はドラウニーアの異変に、弓を構えて制止を掛けるも…それをマサムネに抑えられた。
『待ちたマエ! 今の彼を攻撃するべきではないヨヴェイビー!』
「マサムネ? 何を言っているの、早く止めないとアイツが何を仕出かすか…」
止めるマサムネに対して翔鶴は何故と疑問を投げる、マサムネは──こんな非常時にそぐわない──嬉々とした顔でそれを解説する。
『そもそも零鉱石は通称黒い霧と呼ばれる「マナの穢れ」を生成するモノ、そして深海棲艦並びその細胞ハ、穢れのエネルギーを吸収して個体能力の増強と細胞増殖を加速させる。しかしその増強増殖が十分であった場合取り込まれたエネルギーは、深海細胞によって管理される。身体機能強化や予備エネルギーを貯蓄するため細胞内に溜め込まれるノサ、だから…穢れを生成する零鉱石を直接取り込んだことによッテ、身体の許容量を越えて溜め込んだエネルギーが一気に限界を迎えるんだヨ、体内で臨界を迎えた穢れのエネルギーは繊細だカラ、少しの刺激で大爆発を起こす可能性がアル。下手に攻撃すればこの南木鎮守府周辺が跡形もなく吹き飛んでしまうヨ!』
「──っ! そんな……っ!?」
翔鶴は正に身を投げたドラウニーアの行為に、身を震わせ戦慄した。
つまりドラウニーアは零鉱石を取り込み、自らの体内に「大量の負エネルギー」を瞬時に溜め込んだことで「己の身を爆弾に変えた」のだと言う。
少々の衝撃でも爆発を起こす可能性がある。マサムネの結論に対し、ドラウニーアは「その通りだ」と嗤い顔の表情で肯定を示した。歯を見せる口の隙間から緑の妖しげな光が漏れ出しているのが解る、それに伴い肉体は喉元と胸にかけて更に膨れ上がり、周りに纏った炎も肥大化していく。
『不味いヨヴェイビー、ドラウニーアは「自爆」しようとしているかも知れないネ! もう逃げるナリ防御するナリするしか方法はナイヨ!?』
「っく、何とかしないと…今の私ならタクトたちを担いで飛ぶことは出来るけど、運び出す人数にも限りがあるしそれだといつ爆発するか…!」
『ボクの深海障壁では、広範囲に及ぶ爆発の威力に耐えれるかどうか…っ、しかしこの状況では一か八かやるしか…っ』
自爆を敢行すると予測した翔鶴と野分は、その緊急対策に追われている。対してドラウニーアのまるで風船が中の空気で限界まで膨張したような姿に、マサムネは無駄だと分かりつつも語りかける。
『君は本当にそれでいいのカイドラウ? このまま行けば君の身体は爆発して無くなる、君の命も無くなるということだヨ?』
マサムネにしては少し物悲しいような表情でドラウニーアに是非を問うた、それに対してドラウニーアは──動かせない口に代わり胸中でほくそ笑む。
『(馬鹿メ、俺ガ単ニ爆発シテ終ワルモノカ。コレダケノ戦力ガアルノダ、例エ俺ガ自爆シテモ何ノ道貴様ラハ爆破ヲ凌グ方法ヲ見ツケルダロウ。ソンナコトハ予見ヲセズトモ容易ニ解ル! 無駄死ニハ御免ダ、ダカラ俺ハ…
そう判断するとドラウニーアは、遠くで下に俯いて微動だにしない「拓人」を一瞥する。
『(ククク、相当堪エタヨウダナ? ソレデイイ…コノママコノ口内ニ溜マッタえねるぎーヲ解放シテヤル、放心シテイル貴様ハ避ケヨウトハスマイ。コレガ俺ノ…"全身全霊ノ一撃"ダ! コレデ俺ガ終ワロウトモ…セメテ貴様モ道連レニシテヤル!!)』
『(──サラバダ、特異点ッ!!)』
──ゴオォッ!!
背を思い切り仰け反ったドラウニーアは、反動を付けながら前のめりの体勢を取ると、口を開いて体内の穢れエネルギーを存分に解き放った…!
体内で高圧縮されたエネルギーは燃える緑の炎のように揺らめき、かつ極太の光線を描いて真っ直ぐ拓人へと向かって行った。
『わぁ~お、そう来たカ! 予想が大きく外れてしまったヨ!?』
「っ! そんな、タクトッ!!」
『駄目、間に合わない…コマンダンッ!!』
ドラウニーアの行動の目的は自爆ではなく、エネルギーを限界まで高めた上でそれを拓人にぶつけることだった。
逃げることを優先していた翔鶴たちは対応が遅れ、拓人も急接近する翡翠色の炎に身動き一つ取ろうとはしなかった。
「(あぁ…もう、疲れた。まさかまだ世界滅亡の危機が迫っているなんて、しかもそのトリガーを妖精さんと僕が…だなんて。もう誰も信じられない…それでも……僕が死ねば終幕特典も使えなくなるだろうし…丁度A.B.Eも使い切ったから、僕はこの一撃で死ぬだろう。もう……それで終わらせてくれ)」
全てに絶望する拓人は、直ぐ其処まで迫った死の足音を前にしても動じることは無く、ただ理解不能による甚大な疲労感を終わらせようと、自ら死を願った。
死が訪れようとしても拓人が思い起こす記憶はない、というより頭の中は既に「妖精さんに裏切られた」ことでショートして脳の回路も焦がし尽くされた後なので、何も思い浮かぶことがないのだが。
目と鼻の先には拓人の命を奪うため緑の高圧エネルギーが襲い来る、このまま待っていれば後は確実に致命傷…若しくは「死」へと真っ直ぐ落ちていくだけ。拓人は目を瞑りその時を待とうとする。
──ドンッ!
不意に、拓人の肩に大きな衝撃がぶつかり身体がエネルギーの射程外へ突き飛ばされた。
驚きを隠せない拓人が、自分が元居た場所を見やると──そこには拓人の身代わりとなるように、穢れの圧縮エネルギーに呑まれようとしている…「金剛」の姿があった。
ゴォゴォと燃え盛る翡翠の炎に周りの雑音が掻き消される中、金剛は拓人に向けて口を動かして確かに伝えた。
──あ・り・が・と・う。
「こ…っ──」
──金剛おおぉーーーーーーーーーーーーーっ!!
拓人の悲痛な叫びさえ消されると…エネルギーの緑炎は無慈悲にも金剛を「焦がし尽くした」。