艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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希望の始まり、世界の終わり

 ──世界を賭けた戦いは、これで一旦の幕を閉じる。

 

 世界再創造を願う狂人から、異世界の勇者は今ある世界を守り抜いた。

 

 

 

 ────ただ、一つの「犠牲」を払って────

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──デイジー島、湖のほとり。

 

 翔鶴は十字架の建てられた三つの墓の前で、しゃがみ手を合わせ今は亡き人々の冥福を祈っていた。

 

「………」

 

「──ここに居たのですね、翔鶴?」

 

「っ! シスター」

 

 ふと声を掛けられた翔鶴が後ろを振り向くと、白と黄色の花を両手一杯に抱えたサラトガが佇んでいた。

 

「私もお供えして良いですか? 皆に花環を作ったんです」

「別に良いけど…何で私に聞くのよ?」

「いえ? この墓も貴女が建てられたものですし、所有者に聞くのが礼儀だと思いまして♪」

 

 言いながらサラトガは微笑んで肩を軽く上げた。嬉しそうに笑う彼女に、翔鶴もまた肩の力を抜いて笑った。

 

「…ふふっ、もう。だとしてもわざわざ私に許可を取らなくて良いわ、貴女やプリンツに酒匂なら瑞鶴たちも喜んでくれるだろうし。…どうぞ」

「ありがとうございます♪」

 

 翔鶴が墓前から退くと、サラトガは抱えていた花の輪っかを三つの墓の十字架に掛け添えていく。

 墓名は記されていないが、翔鶴やサラトガの脳裏にはこの海域の戦いで犠牲になった三人が思い浮かんでいた。それは彼女たちにとって大切な者たちの笑顔だった…。

 花を配り終えるとサラトガは、三つの墓の前でしゃがみ込み両手指を合わせて拝んだ。

 

「瑞鶴、由良、提督。全て終わりました…翔鶴たちが私たちの見た悪夢を、その元凶に幕を引いてくれました。安心して…眠っていて下さいね?」

 

 サラトガの言葉に、翔鶴は何処か誇らしい気持ちになり自然と微笑んだ。

 

 

 ──あの決戦より、数日が経とうとしていた。

 

 

 追い詰められたドラウニーアは拓人を道連れにしようと、穢れのエネルギーを放出した不意打ちを行った。しかし──それは未然に防がれた。

 拓人は無事である、そしてドラウニーアは未だ拓人に味方する運命を呪いながら…そのまま斃れ、二度と動くことはなかった。

 長き因縁に終止符は打たれた…皆がそれぞれに別れる傍ら翔鶴は、デイジー島にこの墓を建て一連の事件で犠牲になった瑞鶴たちを弔うことを決めた。

 

「黒い霧が無くなって、クロギリ海域も空が随分明るくなりましたね? もう…終わったのだとやっと実感出来ます」

「シスター…」

 

 サラトガの寂しさが込められた言葉に、翔鶴は寄り添うように彼女の隣で屈んだ。

 黒い霧の源であった「巨大零鉱石」は砕かれ、環境を変える程の異物が除去された結果、海域を覆っていた厚い雲は徐々に薄く広がりを見せ所々に晴れ間が覗いており、暖かな日差しが島々を照らし枯れた緑を蘇らせていた。

 あと半年もすれば人の住めるまでに回復すると見込まれた。全てを喪った”あの夜”からは考えられなかった平穏に、感慨深げに思いを馳せる翔鶴とサラトガ。少しの沈黙を経てサラトガは、今の心境を言葉で表していく。

 

「瑞鶴と提督が逝ってしまったあの日から、私は諦めていました。由良が私たちの前から姿を消したと思っていたら長門も南木鎮守府で戦い続けると言い出して、終いには私自身が翔鶴にも酷い傷を負わせてしまって…口では強がってましたが、矢張り不安が拭えなかったのです。輝いていたあの日が、バラバラに砕け散ってしまったようで。もう…戻れないのだろうと思っていました」

「…酷い悪夢のような夜だったもの、そう思っても仕方がないわ」

「えぇ、本当に酷かった。つい最近までその渦中に居たモノとしては未だに信じられない部分もある程です」

「私も。でも…終わったのよね、何もかも」

 

 翔鶴も自分に言い聞かせるように呟くと、サラトガも同意を込めて頷いた。

 

「はい、終わったんです。…本当に、ありがとう翔鶴」

「良してよ、私はお礼を言われることは何もしていない。当たり前のことをやっただけよ?」

「えぇ。そうなんでしょうけど…貴女はあんなに泣いていたから覚えてないかも知れませんが、私が貴女を…その、叩(はた)いてしまった後に、長門は取り返しのつかないことをしてしまった私に、ある約束をしてくれたのです」

「それって?」

 

 サラトガの語るあの夜の小話、翔鶴が疑問で詳細を振ると程なく静かに話し出す。

 

「その時私はとても興奮していました、狂ったように怒りを表す貴女を止めたいと思い私もおかしくなってしまったようですね? 荒い息をして震える肩に手を置いて…いつものように静かに話したんです」

 

 

『──ありがとう、彼女を止めてくれて。君に辛い想いをさせてしまったが…約束する、この鎮守府の騒動が収まった暁には、私は真実を語り君たちの仲を再び取り持って見せる。それまで私は決して沈みはしない。全ての責任は私にある、贖罪は必ず果たす。だから彼女…翔鶴のことは許してやってほしい』

 

 

「…長門がそんなことを」

「はい、私もその時何があったのか知り得なかったので、その言葉を聞いて直感で理解しました。長門が真実を知っていることと、彼女が…約束を守ることはないのだと」

 

 長門は翔鶴の理性を揺らした責任を大いに感じ、その代償は自らのイノチを差し出してでも払おうとしていたことは最早周知の事実。サラトガは表向きは生き抜くと言っていた長門の「嘘」を見抜いていたのだ。

 

「たしかシスターと長門は昔同じ部隊だったのよね?」

「はい。だからこそ彼女が大きな責任を抱えていることも感じ取ってました。…今だからこそ言えますが秘密裏の作戦の中心に居ながら、犠牲者が多数出てしまったことに後悔していたんだと思われます。それでも…例え贖罪のためとはいえ自分のイノチを投げ出すことは、私はしてほしくなかったのです」

「……そう」

「だから──タクトさんたちのおかげで戻って来た長門が全てを語ったあの時、貴女は彼女を許してくれた。貴女に一発もらった長門の顔は…本当に嬉しそうで、あの区切りが無ければ彼女はまだあの夜に苛まれていたでしょう。だから…それを含めてのお礼です、本当にありがとう…彼女を許してくれて」

 

 サラトガは穏やかな笑みを浮かべて、隣に屈み座る翔鶴に対して頭を下げて感謝を述べた。翔鶴は「まるでタニンでは無い」彼女の言動行動に、少し可笑しくなり笑顔が零れた。

 

「…っふふ! シスターは長門が大切みたいね? そんなに気にしていたなんて思わなかった」

「っえ、い、いえ! そんな深い意味はなくてですね?」

「はいはい、そういうことにしておくわ」

「もうっ、翔鶴! むぅ──…っふ、うふふ!」

「あはは!」

 

 顔を赤くして否定するサラトガと、その真意を見透かして笑う翔鶴。そんな──まるで昔のような──当たり前のやり取りが出来たことに嬉しさが隠せない二人は、遂に笑いが込み上げては止まらなくなった。

 

「…っふぅ! 可笑しかった。さぁて…全部終わったとなると、翔鶴ともこれでお別れですか。なら私も今一度身の振り方を考えるべきですね? おそらく各鎮守府を回ることになるでしょうが、酒匂やプリンツを受け入れてもらえるかしら?」

 

 サラトガがこれからのことをポツリと話すと、翔鶴は意を決した様子で声を掛ける。

 

「そのことなんだけど…シスター、良かったら私たちのところへ来ない? 拓人も貴女たちを心配していたみたいだし」

「えっ!? 宜しいんですか? でも…翔鶴は?」

「だから、私のことは良いから。貴女たちを路頭に迷わせたらそれこそ提督に顔向け出来ないわ、それに…あの時の提督もそう言ってたし」

 

 翔鶴は言葉尻を小さく呟きながら、擬似的に蘇った南木提督とのやり取りを思い出す。勿論あの「口づけ」のことも。

 あまりに小さな声なのでサラトガは「はい?」と聞き返すも、翔鶴は顔を赤くしながら何でもないと言って、それ以上伝えなかった。

 

「──では…お願い出来ますか? タクトさんたちなら酒匂たちもきっと喜んでくれるでしょう、ありがとうございます翔鶴!」

「良いのよ、それと…もしそっちの気が乗ればなんだけど、晴れた日があれば皆で外に出てお茶会とかしない? ほら、今まで積もった話もあるでしょうし…ね?」

 

 少し気恥ずかしそうに話す翔鶴だったが、その言葉にサラトガは明るい光のような満面の笑みを浮かべた。

 

「良いですね、是非お願いします! ティーパーティー…楽しみですね?」

「っ! ……えぇ…本当に、楽しみ」

 

 サラトガの了承の返事を聞いて、翔鶴は安堵を感じては微笑んだ。綾波たちがそうしたような砂浜のお茶会、翔鶴とサラトガはこれからの近い未来で必ずやろうと約束を交わすのだった。

 かつての彼女たちの心情を表すように、暗く淀み閉ざされた「クロギリ海域」と改名された海はまた”朝焼け”を取り戻したのだ。翔鶴やサラトガを悩ませたあの夜の惨劇から始まった絶望も、幕を引いた。大きな溝で隔たれたフタリの距離は、あの頃のように…否、それ以上の絆で結ばれて、二度と離れることはないだろう。

 行く先の見えない闇は、希望を見い出した鶴の羽ばたきで霧散した。闇が晴れた青空の下で…苦難を乗り越えた二人は笑い合うのだった。

 

 ──しかしここで、不意に表情を暗く落とすサラトガは「ある懸念」を翔鶴に尋ねた。

 

「あの…翔鶴、”金剛”はその後いかがでしょうか?」

 

 サラトガの発した言葉を耳にした時──翔鶴は一瞬目を見開き、直ぐに哀しい表情を作るとその疑問に答えた。

 

「金剛は──」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──鎮守府連合本部、幹部執務室。

 

 カイトはクロギリ海域での作戦の全容、及びその結果を秘書艦の加賀から聞いていた。

 

「クロギリ海域にて一連の事件の黒幕である「ドラウニーア」を発見、彼は南木鎮守府跡地にて協力者一名と共に世界滅亡を目的とした巨大エネルギー収束砲「ゼロ号砲」の製作に着手、完成させましたが…タクト君と彼の協力者の尽力により計画は破綻、ドラウニーアはそのまま逃走しシルシウム島に逃げ込みました」

「それが第一次クロギリ海戦、ってとこかな? 続けて」

「はい。連合はタクト君と共にドラウニーア捕縛に乗り出しますが…ドラウニーアはシルシウム島から南木鎮守府へと舞い戻り、ゼロ号砲破壊に務めていたタクト君たちと対峙、ゼロ号砲と他三島のアンチマナ波動砲の自動発射時間までタクト君たちを足止めしていました。タクト君たちはドラウニーアと、他三島では振り分けられたそれぞれの部隊がドラウニーアの刺客である深海棲艦と接敵、これを撃破しました」

「三島の部隊に死傷者は?」

 

 カイトが短く尋ねると、加賀は無言で首を横に振った。

 

「軽傷者は複数隻居ることが確認されました。シルシウム島のテモアカナ隊は激戦だったようですが何れも致命傷ではありませんので、そこまで警戒するものではないかと。シルシウム島のレ級はともかく他二島の敵部隊に姫級は見受けられなかったようですので」

「そうか…その気になれば姫級も操れただろうに、港湾棲姫以外姫を連れ立たないなんてアイツも用心深いことだよ」

 

 カイトの理解したような含みのある言葉に、加賀は平静な返しをする。

 

「確かに姫級も海魔石で操れる模様ですが、イロハ級と違い完全に操り切るには対象の「憎しみが強く、かつ脆弱な精神」でなければ難しいようです。土壇場での裏切りを恐れた彼は容易に姫級を使役出来なかった…そのような思考ですかね?」

「だろうね、港湾棲姫も海魔石でなく魔鉱石のコアで意識を奪っていただけみたいだし。でもまぁ大方予想通りだったわけか。…うん、ここまでは想定内だね。さて…問題の「第二次クロギリ海戦」の南木鎮守府での戦いは?」

 

 カイトのその言葉を聞いて一呼吸置くと、加賀は淡々と顛末を話した。

 

「南木鎮守府屋上での戦いで、タクト君は全身打撲の重傷を負いましたが、医者の見立てでは一週間で治るようです。本来なら数か月は掛かりますが、タクト君の身体は彼曰く「艦娘と同程度の能力」を保有しているとのこと。身体の打たれ強さも我々と同じと考えていいでしょう」

「つくづく規格外だよねぇ彼は、そうは見えないけど…他は?」

「はい、翔鶴は戦いの最中に「覚醒」した模様です。翔鶴カイニ…彼女の能力は、我々の時代では少々危険なものかと」

「ふぅむ。上層部の方々が何やら騒ぎそうだが…それは後で対策しておこう」

「お願いします。次に野分ですが…どうやら「深海化」を果たしたようです、それも理性を保ったまま」

「ほぉ、それは野分君は()()()()()()()()()深海化した…ということかい?」

 

 カイトの解釈に、同意を込めて加賀は頷いた。

 

「成る程、だとすれば彼女もカイニ相当の能力を得たと見て良いね? それでも世間体もあるからねぇ。深海化した艦娘なんて公に晒すことも出来ないし…ふぅっ、まぁそれも後で考えようか。でだ…僕が聞きたいのは残り二つの「伝達事項」だよ、加賀さん?」

「承知しています、ドラウニーアと…金剛のことですね?」

 

 その言葉に対しカイトは黙って頷いて肯定する、加賀は続けて結果を話していく。

 

「結論から申し上げますと、タクト君たちはゼロ号砲の破壊に成功しました。しかし…追い詰められたドラウニーアが体内で零鉱石から直接吸収した「穢れ」のエネルギーを溜めこみ、圧縮されたそれをタクト君に向けて発射したようです」

「計画が失敗したから、タクト君だけでも消そうとしたみたいだね。末恐ろしい執念だね本当に…その攻撃から金剛が庇ったんだね?」

「えぇ。金剛は穢れのエネルギーに呑まれ瀕死の重傷を負いました、ですが流石は金剛と言ったところですね。肉体こそ焦がし尽くされていましたが五体満足の状態で、現在も数日間の治療で驚異的な回復を見せているようです。それでも…」

「金剛は目を覚まさないんだね?」

 

 カイトの全てが分かり切った回答に、加賀は一つ頷くと懐から資料を取り出し、そのまま説明を続けた。

 

「ユリウスから受け取った診断書があります、それによると…今の金剛は「エリ」と呼ばれる少女の心と彼女にとっては先代に当たる「鬼神金剛の精神」が融合している状態で、それが穢れの「負の精神エネルギー」を全身に受けたことで、鬼神金剛の精神の一部が「抉り取られた」模様です」

「つまり、今の金剛にとって半身とも呼べる艦娘としての金剛の精神が消えたことで、金剛のココロに甚大なダメージが付いてそれが今の「植物状態」に繋がっていると。…ふぅぅっ」

「………はぁっ」

 

 執務室の中でフタリのため息が響く、金剛は果たして「無事なのか」それは現時点では判らないが、勝ちが視えていた戦いでこれだけの被害が出るとは思わなかった分、頭の痛い話にはなる。

 

「こんな時にする話ではないかもだけど、金剛は戦力としても十分だからね…連合としても彼女の回復は優先事項になるだろう。それで金剛は今何処に?」

「この本部内の病棟の一室に隔離しています、そこには眠ったままの金剛と…傍らにタクト君の姿もあったと。酷く思い詰めた表情だったようです」

 

 加賀さんの言い表した言葉は、カイトの心に曇りを齎した。

 

「…そうか、タクト君は転生とやらをした時から彼女と一緒に居たと聞く。辛かったんだろう…誰よりも長い時間を過ごしたパートナーが、自分の目の前で身代わりになったのだから」

「そう…でしょうね」

 

 金剛は死の迫る拓人に代わって穢れのエネルギーで冥府の淵を彷徨っている、これから彼女はどうなってしまうのか。下手を打てば一生目を覚まさない可能性もある。

 そんな南木鎮守府での一部始終の経緯が見えつつある中、カイトは最後の質問をぶつけた。

 

「加賀さん…()()()()()()()()()()()()? まさかまた逃げられたんじゃないよね、絶命したとは聞いたけどはっきりしたことはまだ僕の元に報告は上がっていないが?」

 

 カイトの疑問に対し、加賀さんは俯いて表情を暗くしつつ重い口調で伝える。

 

「ドラウニーアは…タクト君たちが言うに、確かに死んだようです。しかし…度重なる激戦に耐えられなくなったのか、その後建物が大きく揺れると…南木鎮守府はそのまま崩れ去りました。タクト君たちは脱出に成功したようですが、ドラウニーアの遺体はその崩壊に巻き込まれる形で……消息は不明、だそうです」

「………そう、か」

 

 ここに来て不穏な要素が出てきたが、それでもドラウニーアは息絶えたことに間違いないようだ。それだけでも十分な戦果ではあるだろう。

 

「分かった。先ずはドラウニーアの遺体捜索かな? 手早く見つかると良いけどね。ぁあ加賀さん、金剛のことは任せてもいいかい?」

「了解です。とはいえその件はユリウスが診てくれているので、私は彼らのサポートを」

「それでいいよ、それじゃあ──」

 

 カイトが報告の区切りをしようと言葉を締めるも、扉から聞こえるノック音に中断された。

 

『カイト提督! 急ぎお耳に入れてほしいことがっ』

 

 扉の外に居るであろう連合の職員は、何処か落ち着きのない様子でカイトへの面会を願った。

 

「開いているよ、入りなさい」

『はっ、失礼します…!』

 

 忙しない様子の職員がドアを開けて入室し直ぐに締めると、カイトの元へ小走りで近づき手にした資料を見せつつ小声で潜めて伝えるべき内容をつたえる。

 カイトはその言葉を聞いた瞬間──目を見開いて驚愕の表情を浮かべると、程なくして青ざめていた。

 

「…本当なんだね?」

「はい。では矢張り…っ!」

「あぁ、不味い事態になったようだ」

 

 カイトと職員は「この世の終わり」のような緊張の面持ちであった、加賀は遠目からそれらを静観しているが、彼女も──いつも冷静なカイトの慌てぶりに──瞬時に事の深刻さを理解した。

 

「報告ありがとう、直ぐに詳細を纏めてほしい。これからの緊急会合で資料が必要になるだろうから」

「了解しました!」

 

 指示を出したカイトに敬礼を送ると、職員はそのまま執務室を後にする。直ぐにカイトに近づいた加賀は何事かを問うた。

 

「何があったのですか?」

「…全く冗談じゃないよ、まさか…ここまでするとは思わなかった。ドラウニーアめ…死んでも僕らを追い込みたいようだね…っ」

 

 美麗の顔が焦燥に崩れている、カイトの本気の焦りを見た加賀は思わず息を呑んだ。そして──カイトの次の言葉に、更なる衝撃が走る。

 

「加賀さん、タクト君たちを呼んで来て。それから出来れば「あの御方」も…どうやら()()()()()()()()()()()()()()()()ようだ…っ!」

「…っな!!?」

 

 カイトの口から飛び出した情報は、沈着冷静であるはずの加賀の顔さえ崩して見せた。驚き狼狽を隠せないフタリは、急いでそれぞれの次の行動へ移るのだった…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──???

 

 ここは地獄、百鬼蠢く「最果て」の海。

 瘴気漂うその海は、空は血のように赤く染まり、水は濁り腐って鼻につく。そこは深海に堕ちしモノたちの白い黒い影が、彼方此方に見受けられた。

 

 

『◾️◾️◾️◾️◾️ーーーッ!!』

 

 

 地獄に響く獣のコエ、コエ、コエ。叫びは廻り輪唱する、何かが昂るように、何かに怯えるように。

 獣たちは囲み見やる、大きなオオきな円を描くように、海に描かれた「紋様」を。

 何かを封ずるようなそれは淡い光に包まれると──程なく掻き消えた。

 

 

 ──すると何と、空気が震え出すではないか。

 

 

 ゴゴゴ、ゴゴゴ、大きな揺れは世界を終わらせんと勢いよく。

 

 見ると獣たちの円中心から、泡も噴き始めた。

 

 ブググ、ブググ、煮え立つ気泡は世界の終わりを告げ知らす。

 

 ──瞬間、紋様のあった場所の下から「何か」が飛び出でた。

 

 空中で静止するその影は、見ると()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

 

 ──嗚呼、額に生え揃う二本角は、正に鬼のように雄々しく。

 

 

 ──嗚呼、漆黒に染め上げた巫女装束は、正に舞姫のように美しく。

 

 

 ──嗚呼、腰から伸びて空に踊る天衣(てんえ)は、正に天女のような荘厳だ。

 

 

 

 然りとて彼女が上げた顔、そこに映り込む表情に誰しもが悟るだろう。

 

 

 ──この荒々しく残忍性を秘めた笑みは、正しく「鬼神」であると…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──HEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEY!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『◾️◾️◾️◾️◾️ーーーッ!!』

 

 鬼神が高らかに吼え猛ると、周りの有象無象もまた吼える。

 

『………フッ!』

 

 眼下に広がる地獄を見た鬼神は──その様相に、ただ嗤うのだった。

 

 

 ──世界は終わる、粛正される。鬼神の荒ぶる御力(おんりき)にただ為す術無く──

 

 

 ──????編に続く。

 

 




 ※ここから先は補足事項やら作者の雑談となります、余韻を残したい人は一旦ここで切ることをオススメします。

 ・・・

 はい、もう分かり切っていると思いますが「もうちょっとだけ続くんじゃよ?」展開となりますー申し訳ございません!
 ルルブに記載されたこのお話の元になったサンプルシナリオでは、クロギリでの事件解決後にラスボス戦に突入する…と、そんな流れだったと思われますが。

 結論から言いますと…もう「二章分」あります、私の頭の中には。

 はい~創作物あるあるの「無駄に設定生やし過ぎた代償」でございますぅ、長いですよねぇ嫌ですよねぇ。本当に、いつも長たらしい話なのに観て下さっている皆様には、感謝申し上げます。それでも最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。
 次の海域は「オリジナル海域」での話となります、消去法というかどう見てもヒロインは「金剛」なのですが。彼女がこれからどうなるのか…気になるところですが今暫くお待ちください、そして遂に拓人クンの・・・おっと?
 皆さんきっと「これ終わるのか?」と思われてるでしょうが、私もここまで来て投げ出すことはありません。失踪でもしない限りは最後まで書き切る意欲ですので、完結までどうかよろしくお願いします!

 …後1~2年ぐらいかなぁ?

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