艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 皆さま随分とお待たせしてしまいました、不肖謎のKS、只今帰還いたしました…!

 …大げさ? いやぁ色々死線を越えた気分なので。

 本格的に再始動するのは、もう少し先になるかと思われますが…これから少しずつ投稿スピードを戻せたらと思います、どうぞよしなに。

 では早速…と言いたいのですが、ここで小ネタを一つ。少し長いので興味ない方はどうぞ本編ヘ。

 実は私には昔からやってる癖のようなものがありまして…それは気色悪いことに「自分の作品に妄想OPをつける」というもの。

 勿論それは小説を書くようになってからも変わらず、既存の作品のOPだろうがなんだろうが、私がこれだ! と思ったものは容赦なくそれを聞きながら構想(妄想)を膨らませながら書いている次第です。

 …で、このサイハテ海域編の妄想OPは、「Bi○H様の○○○reo ○○○ure」なのですが…もうお分かりでしょうが彼女たち、今年だか来年に解散するんですよねぇ…?
 そんなぁ~って感じで。車の運転中にラジオで偶々歌を聞かせてもらった時に「これだっっ!!」って電流が走ったのは今でも覚えています、なので誠に勝手ですが御礼を。ありがとうございました! にわか清掃員より。(で良いのかな?)

 他の海域編の妄想OPも、機会があれば話して行きましょうかねぇ? 全てのお話が終わった後にはなると思いますが?

 長くなってしまって申し訳ありません、それでは本編ヘ…どうぞ。


呑まれる心、支える信頼

 ──鎮守府連合総本部、医療エリア病室。

 

 様々な設備施設が設置されている連合総本部、その中でも特に重要視されているのは、傷ついた連合職員や艦娘を休ませる「医療エリア」である。

 医学優秀な医療スタッフの充実、病床総数も有に千を越え、リハビリ施設等のアフターケアも完備。どんなに深い傷であれ「治す(直す)」ことが可能、それは戦による負傷者の多い昨今の状況を反映した結果、そしてあの忌まわしき鎮守府崩壊事件(さんげき)からの反省故の発展、進化であった。

 この「絶対救命」を是とした医療エリアであるが、それでも治せないものがある、それこそが──"心"に纏わる病、又は症状。

 精神医学と呼ばれるものもあるが、異世界と言えど心や精神の治療技術は──表向きは──目に見える異常への対処が可能な程度、魂と言った表に出ない症状は治しようが無いのだ。

 医療エリアの一室にて寝台に伏せている少女──金剛が未だに目を閉じて寝たきりなのも、彼女が魂に見えない傷を負ったから。

 その証拠に自然治癒により目を覚ますことを願っての延命措置として、彼女の手首に点滴、ベッド隣のサイドモニターに心電図を映し出しては、彼女の容体を安定させかつ逐一様子を観察している。

 

 果たして金剛の覚醒は叶うのか──それは誰にも判らない。心の全てを解き明かせる者など、幾万の世界あろうと存在しないのだから。

 

「……」

 

 復活は絶望的な金剛、彼女が眠るベッド隣には丸椅子に腰掛けてはただ黙って見つめる男性…彼女にとっての想い人である「拓人」の姿があった。

 その顔は自身の不甲斐なさに怒るでもなく、悲しみに歪むでもなく、ただ虚無感に満ちている。金剛の永遠に覚めないような眠り顔を見続ける後ろ姿は、今にも何処かへ行ってしまいそうな「危うさ」があった。

 然もあらん、金剛が永遠の眠りとも言える状態に陥ったのも、全ては己の不甲斐なさが原因。全ての真実を知ったあの時から…崖から突き落とされたような不安に支配された拓人は、隙を見せたことで金剛に庇われる惨事を引き起こしてしまう。

 今の拓人はそれまで道標として辿って来た「胸の中で灯っていた火」が消えて暗闇の道に放り出された感覚だった、何処を歩いているのかも判らない…恐怖やら絶望やらが渦巻いて「呆然自失」となってしまっていた。

 

 ──途方に暮れる彼の背中に響く扉を叩く音、そして彼を尋ねる声が。

 

『──タクト、マユミだよ? 調子はどうかな?』

 

「………」

『…開けるね?』

 

 静かに開かれた扉の向こうから、栗色の髪をした少女が入って来る。

 マユミはトモシビ海域に在る百門要塞のレストランで働いているので、普段はそこの制服を着用しているが…今は病人の前というのもあり、茶系の服装で色を抑えている。ブラウスとロングスカートにブーツと、いつもの明るい彼女とは違う少し大人びた雰囲気だ。

 そんな彼女は拓人の哀愁漂う背中を見ると、自身も哀しい気持ちとなったか眉間に皺を少し寄せた。そして拓人の隣に丸椅子を引いて座った。

 

「…エリちゃん、目が覚めないね?」

「………」

「大丈夫だよ…って気軽に言えたら良かったんだけど、ユリウスさんから話聞いてたらそう上手くいかないみたいでさ?」

「………」

 

 マユミの話にも拓人は黙(だんま)りを貫いた、というより「受け答えする余裕がない」というのが正しいか? それを踏まえてかマユミも何も言わずに話を続けた。

 

「今ユリウスさんがエリちゃんを治すために頑張ってくれてるけど、この植物状態から治すには「先代金剛」っていうエリちゃんじゃない元の金剛の…精神データ? っていうのが必要らしいの。それが有ればエリちゃんは目を覚ますってユリウスさんも言っていたけど」

 

 マユミの言葉から察するに、金剛を元に戻すには彼女の半身である「先代金剛」のココロを修復しなければならない。言うは易しだが疑問が残る課題だろう。

 

「…でもね、ユリウスさんが「どうやって金剛のデータを集めるかが課題だ」って言ってて。ドラウニーアがエリちゃんたちを先代金剛に仕立て上げようとしていた時に、エリちゃんが金剛に選ばれた…だよね? その時に先代金剛のデータを…「消去」しちゃったみたいで…海底研究所の研究データにも残ってないんだって」

 

 ドラウニーア、ユリウスの所属していたかつての裏組織「TW機関」は、陰で違法な研究、艦娘を使った非人道的な実験を繰り返した。それが連合に露見した後解体された機関だったが…研究員たちは事前に逃走しており、その後の足取りも分からなかった。

 しかしボウレイ海域の事件後に発覚した事実として、ボウレイ海域下の海底研究所にて「金剛を自分たちの最終兵器にするため」の器を探す実験をまたも繰り返していた。その際「エリを含めた数名の少女」が、人体実験という地獄の犠牲になり、ドラウニーアは器を見極めた後機関から持ち出した「金剛の精神データ」を用いて、現代に金剛を蘇らせようとしていた。

 しかし彼女たちの選別が終わり迷いなく実験に使ったデータを用済みとし、消去したのだという。あの男のことなので()()()()()()()()()()()()()節さえある。

 金剛のデータが無い以上、今すぐ金剛を復活させることが、事実上「不可能」であるという結果となってしまった。クロギリ海域に赴く前に開かれた会議でもユリウスは「金剛はこの世から居なくなった」と言及しており、新しく精神再現データを調達するのは難しいだろう。

 

「…っあ、そうは言っても出来ないってワケじゃないよ! 元のデータにすることは無理かもだけど…確かエリちゃんが戦っている時のデータがあるっていうから、それを代用出来ないか考えてくれてるんだってさ! その…データ化に時間が掛かっちゃうみたいだし、どうなるかも見当がつかないって…言ってるけど……」

 

 マユミは希望を掲示するも、その言葉には何処か自信がなかった。

 その後もマユミはポツポツとエリがどういう状況に陥るのかを話していく。データ代用が成功すればエリが生き延びれること、しかしリスクも膨大であること、失敗すれば今度こそ「息絶える」という危険があるということ。

 リスクとは、一度艦娘化したヒトの魂を無理に復元しようとすること自体「前代未聞」ということ。

 ただでさえ人の心、精神は繊細で不安定であるのに、艦娘として改造された金剛のココロには再現された先代金剛の人格とエリとしての人格の二つが共在している、そんな「触れただけで爆発するような」魂を完全修復でなく代用復元する…これだけ聞いてもエリが危険な状態であると理解するには十分である。

 仮にその施術が成功したとしても、エリの戦闘データだけでは元の「艦娘金剛」として成立するかは怪しかった。最低でも艦娘として戦えなくなる可能性…それだけならまだしも、精神に予想だにない拒絶反応が起こり得ることも考えると、最悪ココロが壊れ二度と目を覚まさないことも有り得た。

 

 ここで選択すべき行動は二つ、可能性を信じて代用復元を試すか、目覚めを信じて彼女を()()()()()()()()

 前者は失敗すればエリのイノチは無くなる、後者も事実上彼女の「死を受け入れる」ことになる…容易に選び取れない残酷なものだった。

 

「ユリウスさんは…全力は尽くすがもしもの事態も考えた方が良いって、リスクを冒すよりそのまま寝かせてあげるのも一つの「選択」だって言って。…酷いよね? でもそう言ってるユリウスさんも…苦しそうだった」

「………」

「私…もう、どうしたら良いのか分からなくって。ねぇタクト…こんな大変な時だけど聞いても良いかな? エリちゃんをこのままにするのか、助けたいのか。…貴方ならどうする?」

 

 友人に近づく死を目の当たりにしショックを隠せないマユミは、懇願するように隣で意気消沈する拓人の顔を見て尋ねた。

 

 金剛復活を諦めエリとして永遠の眠りに就かせてあげるべきか、それとも死ぬ可能性があろうとも金剛復活を願うか。どちらにしろ…金剛並びにエリの生還は「絶望的」であった。

 

 …無慈悲な話ではあるが、マユミも何処かで「高を括っていた」のかもしれない。拓人であれば…自分の知る拓人であれば、絶対に金剛を、愛する仲間を諦めたりはしない。「絶対に見捨てない」といういつもの強い意志のある一言が聞ければ、それだけでマユミにも希望が持てたのだ。

 

 

 ──だが、彼女が耳にしたのは…全てに行き詰った男の「嘆き」だった。

 

 

「──そんなの、僕が知る訳ないだろ」

 

「…えっ?」

 

 マユミはあまりにも期待した言葉とは程遠い暴言に、素っ頓狂な声を出してしまった。

 拓人の怒り、悲しみ、憎悪…全ての負の感情を乗せたような鋭く低い声色を目の当たりにし、マユミは思わず次の言葉を出さずに固まってしまう。そんなことはお構いなしに、拓人は自身の現状をぶちまけた。

 

「こっちだって聞きたいぐらいだよ、金剛は僕を庇ってこうなったけど「誰も助けてほしい」なんて言ってないんだから。僕はさ…()()()()()()()()()んだよ? 厳密には違うかもだけど…もう僕にこの状況をどうにかするだけの力は残っていない、そんな僕に何を期待するの?」

「…ぁっ、ごめん。そんなつもりじゃ」

「大体さ。ドラウニーアの言うことによれば…僕はいつかこの世界を「滅ぼす」かもしれないんだってさ? それもそう言われたらそうだよね、僕は何も知らずに妖精さんの言葉だけを信じてここまで来てたんだ。ドラウニーアを倒して世界を守ることが僕の使命なんだって、そうすれば全部上手く行くって! 信じていたんだ…。

 だけど何? ドラウニーアこそ世界をどうにか救おうと動いていて? 本当に悪いのは世界消滅を企んでいた妖精さんだって? 妖精さんにとって邪魔モノだったアイツを消すために、僕は良いように利用されていた「木偶人形」なんだってさ…今まで守るために戦っていたのに、いつの間にか「逆に壊す手伝い」をしてたって! 世界を壊す手伝いを?! ははは! 笑っちゃうよねぇ!!」

 

 堰を切ったように感情のまま喋り出す拓人、その表情は笑っているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、まるで分からない深く暗いものだった。

 マユミは知らない内に「地雷」を踏んだことを自覚し、何とか拓人を落ち着かせようとする。

 

「…ごめん。私も詳しい話は聞いていなかったから、嫌な気分にさせちゃったよね? でも…私はそんなの気にしすぎだと思うよ、だって…ドラウニーアが言ったことなんでしょう? 世界を滅亡させようとしたヒトの言うことなんて…!」

 

「マユミちゃん…ドラウニーアの言っていたことは無茶苦茶だったけど、世界をどうにかして「救いたい」って気持ちは確かにあったんだよ。それにアイツは…僕よりも「先」を視ていた、僕と似た能力で…これから起こることを予見していた。それに対してアイツは()()()()()()()()、僕にはそれが理解出来た…一歩踏み間違えてたら、僕だってそうならない保証は無かったから。アイツが「道を間違えた僕」だってムカつくほどに解ってしまうから。

 現に僕は…ボウレイ海域の一件から妖精さんの姿を見ていない。彼女がどうして未だに隠れているのかは謎だけど…後ろめたいことが無ければ今頃、拓人さ〜んってどこからともなく暢気な声が聞こえて来ると思うんだ。でも…()()()()()()、まるで最初から居なかったように!

 …っ、僕だって、どうしたら良いのか、もう分からなくなっちゃったんだ。だからあの時…ドラウニーアが僕を狙って決死の攻撃を仕掛けた時、僕はその運命に身を委ねようとした。そうすれば…最悪の事態は避けられるって、その時は……本当、に…そう、思ったん、だ………っ!」

 

「っ! タクト…!」

 

 全てを曝け出した後、拓人は悲しいのか、悔しいのか、訳も分からず瞳から滝のような涙を零し、膝に置いた両手で握り拳を作っては全身を震わせていた。

 拓人の計り知れない後悔や不安を観て、マユミは先ほどの自身の甘えた考えを恥じた。今の拓人は友人の不幸に苛まれる自分とは、全く別次元の「暗闇」に包まれ嘆いているのだから。

 

「僕の方こそ教えてよ。一体僕は…これからどうなるんだよ、全部無駄だったとでも言うのか? 世界を、艦娘を、身近な人たちを守るために()()()()()()()()()()()()()()()!? 一体どうすればこの苦しみが終わるんだよっ!? …教えてよ……教えて、くれよぉ…っ!!」

 

 拓人の悲痛な叫び、全てをやり切った後に見た「果てしない暗闇」を前に、行き場のない全身を蝕む恐れに悲憤慷慨(ひふんこうがい)する様を見て、マユミも同じく奈落の底へ突き落された気分となった。

 

「タクト…私は」

 

 マユミがそれでも二の言を捻り出そうとした時、彼らの背後から声を掛ける人物の影が。

 

「──タクト君、ここに居たのね?」

 

「っ! 加賀さん…タクトが」

 

 扉付近から姿を見せた加賀、マユミは彼女を一瞥すると助けを乞うように言葉を投げた。だが…。

 

「…そう、大変だとは思いますがこちらも急用ですので。カイト提督が貴方と艦娘たちに招集を掛けています、天龍たちには既に事は伝えてます、貴方も急ぎ彼の執務室へ」

「そ、そんな! タクトは今…!」

「…分かり、ました」

「っ!? タクト…!」

 

 加賀の非情な一言に言い返す気概もなく、拓人は言われるままふらふら立ち上がると、そのままカイトたちの居る執務室へ向かおうとする。

 

「待って、タクト! 今の貴方は!!」

「……もう、いいんだよ。今のは僕の…我儘だって解ってるから」

 

 マユミの制止に対し「要らぬお節介」と吐き捨てるように言うと、彼女に振り向くことなく拓人はカイトたちの下へ歩きだした。

 

「…どうして、加賀さん。貴女にだってタクトが変だってことぐらい」

 

 マユミの怒りが込み上げ震える言葉尻に対し、加賀も冷静に切り返す。

 

「確かにそうね。でもね…こちらもここまで緊急事態が続くことは想定していなかった、ドラウニーアが斃れた今なら少しは余裕が出来るとは思っていたけど…そうも言っていられない事情が出来たの。

 ここで彼にずっと金剛を看ていてというのは簡単よ、それでも…こんな未曽有の危機を解決出来るのは、彼らしか居ないわ。勿論彼らだけに任せるわけにはいかないけど。

 私は…どんな状況であれ、ヒトは信頼に応え続けなければならないと思う。それがどんなに損な役回りでも、そのヒトにしか出来ないのなら、代わりが居ないなら猶更よ」

「っ、何それ…そんなのタクトを良いように使っているとしか思えないよ!! エリちゃんに対する気持ちだって…まだ整理出来て居ないでしょうに…っ!」

 

 あまりに横暴で、しかし現実を捉えた一言にマユミは怒りを吐き散らかした。

 どちらも理性面からも感情面からも「正しい」ことを言っているが、結局迫りくる現実を何とかするために、人はどんな窮地に立たされようとも足を動かし、得物を握り締めた拳を振り上げねばならないのだ。

 

 ──それがきっと、生きるということの「負側面」なのだから。苦しみのない人生など「生きている」とは言えないのだから。

 

「…そう、貴女はタクト君の力になりたいのね? なら…貴女が何かをしてあげたら良いと思うわ、私には彼をどうすることも出来ないけど、貴女にはきっと出来るわ。それもまた…「信頼に応える」ことに違いないのだから」

「っ!」

 

 加賀の的を射た一言に、マユミはハッとした表情を浮かべると、自分が今まで冷静でないことに気づいた。

 

「…ごめんなさい、加賀さん。私…」

「良いのよ? こんな状況ですもの、誰だって焦りもするわ。…これからタクト君は更なる佳境に立たされるかも知れない、その時は…貴女が支えてあげてね?」

「…はいっ!」

 

 マユミの自身に向けた熱の込めた視線と、発した一言に入った「決意」を感じ取った加賀は、口角を少し上げて微笑むとそのまま拓人の後を追いかけた。

 

「……私に、出来ること」

 

 マユミはそう呟いては、焦燥に駆られた拓人に対し「自分にしか出来ないこと」を模索していく。

 

 その横で金剛は、静かな息を吐いては目覚めるかも解らない深い眠りに陥っていた…。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──鎮守府連合本部、幹部執務室。

 

 カイトの招集に駆け付けた天龍、望月、綾波、野分、翔鶴、そして…拓人の名も無き鎮守府艦隊一同は、執務机前に立つカイトと加賀の前に対面する形で整列していた。

 

「…タクト、大丈夫か?」

 

 天龍の問いかけに、拓人は少し腫れぼったい目を向けると微笑んで「大丈夫」と答えた。

 

「少し疲れが取れなくてさ、でも…今は自分たちに出来ることをやらなくっちゃね?」

「……そうか」

 

 拓人の疲れを滲ませた声に、天龍は顔色こそ変えないが内心懸念が広がっていた。

 金剛のこともあるが最近は戦いの連続で、そんな戦場を拓人は一気に駆け抜けたのだ、肉体や精神が摩耗していても何らおかしくはない。

 それは周りの艦娘たちも同じく感じていた。彼女たちも拓人に対し何も出来ない自分たちを恥じてはいるが、この如何にも緊迫した状況で拓人だけを休ませろ、と言えるはずも無かった。

 カイトも拓人の様子がおかしいことは察知していたが、矢張り有り得ないことの連続に潜む「最悪の展開」を未然に防ぐためには、拓人たちの力を借りないわけにはいかなかった。

 胸中で拓人に「済まない…」と零すカイトは、努めて冷静な声色を作っては加賀さんに問いかけた。

 

「彼はまだ来ないのかい?」

「既に用事は伝えてありますので、もう間もなくかと」

「…なぁ、一体誰が来るってんだい? それだけじゃなく態々アタシらを呼び出すほどのことが起こっちまったのかい? ドラウニーアも死んだってのに?」

 

 二人の短いやり取りに、いつもの調子で疑問を詰める望月。あわよくば拓人だけでも休ませられるように口実を作ろう…そんな下心もあったが、そう上手くはいかなかった。

 

「実はとある海域に異常が見つかってね? 我々だけでは状況を説明し辛いので、訳を知っている御方にご足労願ったのさ」

「何だい、その御方ってのは?」

「それは──」

 

 カイトが説明していると、突然背後の扉が「バンッ!」と強く大きく開け放たれた。

 

 

「──悪いわるい、遅くなったかのぉ?」

 

 

 その飄々とした嗄れ声に、天龍は即座に振り向くと…そこにはまさかの「見知った顔」が。

 

「っな!? お、お前は……そんな馬鹿な?!」

「何だ天龍、この爺さんのこと知ってんのかい?」

 

 望月が示す方に居たのは、派手な色見のシャツを着た老人だった。

 

 

 ──そして何を隠そう、この人物こそがカイトたちの言う「御方」であったのだ…!

 

 

「紹介しよう。彼こそ鎮守府連合発起人の一人、現連合総帥であらせられる…「シゲオ」殿だ」

 

「よろしくなぁ! 百門要塞以来じゃのぉ、天龍の嬢ちゃんにタクトよ。相変わらずそうで何よりじゃ! カーッカッカッカ!!」

 

「…はぁっ!?」

 

 何と、トモシビ海域は百門要塞で、しがないカジノオーナー(自称)を務めていたシゲオこそ、連合を影から見守る謎の人物「総帥」その人だった。

 総帥…鎮守府連合の頂点に立つ、滅多に人前には現れない存在。そんな彼が一同の目の前にあっさりと姿を見せる、それだけでも天龍たちを仰天させるには十分だった。

 

「総帥…ホントに居たのか。ど、どうなってんだい…!?」

「シゲオが連合総帥…あのエロジジイがか?! う、嘘だろ…;」

「お久しぶりですシゲオさん、まさか貴方が総帥だったなんて驚きましたよ。アハハ…」

 

 望月と天龍の狼狽ぶりとは対照的に、拓人はあまり驚きを見せず何処か上(うわ)の空な反応だった。

 それを見てギラリと瞳を鋭く細めたシゲオは、拓人の顔をジッと観察する。拓人はそれに何をするでもなくただ微笑んで見ていた。

 

「…成る程、じゃが話を聞くだけ聞いておいてほしい。それだけ大事なことだと思ってもらって構わん」

「えぇ…分かっています」

 

 目を伏せるシゲオに拓人は肯定の意を見せた。すまんなと一言謝ると、そのままシゲオはカイトたちの隣に並び立つと本題に入った。

 

「役者は揃ったようじゃ、では話していこう。これから起こるであろうことと…それに纏わる「過去」をな?」

 

 先程の楽な表情から一転し、険しい顔つきになるとシゲオは「この先のこと」について話しを進めて行くのだった…。

 

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