艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 今回説明回となります。
 書いてて気付きましたが結構なフラグ回収しているので、頭が回らないよう注意しながら見て頂ければと。


あの戦いの真相

 カイトたちに緊急招集された拓人たちは、鎮守府連合総帥の正体が、トモシビ海域の百門要塞の住人の一人「シゲオ」であることを明かされる。

 

「さて。初めての娘らも居るからの、改めて自己紹介じゃ。…ワシの名はシゲオ、現鎮守府連合総帥を務めておる。タクトや天龍の嬢ちゃんとは百門要塞で既に出会っとるな?」

「あぁ…だが分からないことがある。何故お前はあの場に居て、俺たちに正体を明かさなかった」

 

 細かい疑問が尽きない天龍はそれを尋ねるも、シゲオは単純な理由を話すに留まった。

 

「何故お主らに近づいたかはこれから話す、そして正体を明かせなんだ理由は…まぁ言わずともじゃろう?」

「ドラウニーア…か?」

 

 天龍の回答に、シゲオは満足げに頷くと、補足を付け加えた。

 

「ヤツは得体の知れん能力で自らの思うがままに「運命」とやらを弄(もてあそ)んだ、その力がワシの命にまで届けば、連合の指揮系統に関わる。…最悪ワシさえ葬ればヤツが何をせずとも、連合は自滅していく危険もあった。故においそれと姿を見せるワケにもいかなんだ」

「成る程な? 何か話が早すぎるとは思ったが…トモシビ海域から俺たちの素性を理解した上で、接触していたと?」

「そういうことじゃ。それに…昔からな、市井(しせい)に紛れて各海域の異常を見張るのが好きなんじゃよ?」

「ほぉ、そんなこと総帥が態々することでもないと思うが?」

「いやいや。総帥と言うてもなーんもやることが無いからのぉ、ワシは老いぼれたからと踏ん反り返って高みの見物など、つまらんことはしとうない。

 じゃがそれはそれ…理由がどうあれ今まで正体が明かせなかったこと、本当に申し訳ない。彼奴も死んだと聞いた今なら、表立って姿も見せれるわい!」

 

 どうやら身分を示さなかったのは、ドラウニーアに命を狙われる危険性を考慮してのことだったらしい。それでもシゲオは天龍に向けて誠意ある謝罪として頭を下げた。

 だが天龍は渋々納得した表情で、何か知らないが「まだ隠している事柄ががあるのではないか?」と己の勘を働かせていた。先程から感じるシゲオの「妙な違和感」も、それを強調させていた。

 とはいえカイトが言うに今は緊急の時、そんな考えを隅に追いやると、先ずは話を先に進ませようと天龍は黙ってシゲオの話に耳を傾けた。

 

「おっと、話が逸れたな? …皆は今ワシがこの場に出て来た要因を知りたいことじゃろう、それは…現在とある海域での異常事態に関連しておる、とはいえこれは()()()()()()()()()()()ことなのだがな?」

「総帥…良いのですね?」

 

 カイトが真剣な眼差しでシゲオを見つめるも、シゲオはニカッと笑うと断言する。

 

「良いよい! 時が来たというだけよ…この子たちには真相を知る権利がある」

「真相だと? シゲオ…いや総帥、お前は何を知っているんだ?」

 

 天龍の言葉に、シゲオはフッ…とそれまでの陽気な表情とは違う「悲しみを湛えた顔」になると、種明かしのように口を開いた。これまで必要以上に語られなかった…あの戦いの真実を。

 

「先ず語らなければならないのは、あの「海魔大戦」の真相じゃ。長くなってしまうがこの話をしなければ「何故、そうなったのか」が理解し辛いと思う…ここまで戦ってくれた君たちには、知っておいてほしい」

「…タクト?」

 

 天龍は拓人の方に顔を向け意思を催促する、拓人は静かな笑みを天龍に見せて「了承」の意を示した。それを見てシゲオも深く頷く。

 

「では話していこう。時にお主ら…あの戦いの顛末について、どこまで知っておる?」

 

 シゲオの疑問には拓人が答えた、スッと天龍たちの前に進み出ると、自分の知っている情報を伝えた。

 

「世界に海魔という脅威が現れて…突然蹂躙を始めた。それによる破滅を防ぐためにこの世界の人々は、イソロク様と艦娘たちの力を借りて、海魔に対抗しようとした」

「そうじゃ。それが始まりじゃ…最後の方はどうなったかは覚えておるか?」

「はい、海魔の数を徐々に減らしていった人類は…確か海魔の大元へ「選ばれし艦娘」たちを送って、その大元を倒したと」

「その際に姐さんの前の「金剛」が犠牲になったってヤツかい?」

 

 望月の言葉に、正にと頷くシゲオ。

 

「そう、それが「表向きの」海魔大戦の史実というもの。じゃが…本来はまるきり違うものだ、としたら?」

 

 シゲオの真実を仄めかす言明に、その場に居たモノたちは耳を疑った。

 

「どういう意味ですか?」

「つまり…海魔大戦は人類と艦娘の()()()()()()()()、ということじゃ。良い言い方をして「辛勝」といったとこか? あの時下手を打てば、海魔の勢いを止められず人類は「滅んでいた」かもしれんのぉ?」

「…っ!?」

 

 歴史の裏──人類が海魔に敗けていた可能性──を垣間見た一同は、絶句して場を鎮まり返させた。

 

「…たまげたねぇ。そりゃマジなのかい? アタシは大戦後に生まれた艦娘だからよ、そこのとこ分からねぇんだわ」

 

 沈黙を破った望月の言及に、その他の艦娘たちは一様に「困惑」した様子だったが…先ずは綾波が、次に野分、翔鶴、最後に天龍とそれぞれ順に当時の状況を話していく。

 

「私は海魔大戦当時から騎士団の一員として参加していましたが、確かに一時期は劣勢を強いられていました。それでも「勝利」という結果の出た後では、一時の連敗が続いたと説明も出来ますし、戦況の詳細などは下の我らには知る由はありません。本当に…艦隊の指揮を任された一部のニンゲンや艦娘にしか分からなかったでしょう」

『ボクは大戦の終結間際に建造された身で、加えて敵の掃討…露払いが主だった任務でしたので。本当のところは存じませんでした』

「私は大戦が終わる直前に建造されて、部隊に配備される前に戦いが終わってしまったから、よく知らないわ。私が造られた以前から居た適合体は海魔との決戦に駆り出されたという話だけど、適合体の居た部隊は敵側に優先的に狙われて壊滅したみたいだから、詳しい話も分からなかったの」

「俺は大戦初期から居たが、恥ずかしい話当時はどうにも性能も素行もなっていなくてな? 重要な任務の殆どに就かせては貰えず、そのまま終戦を迎えた」

 

 それぞれの立場を聞いた拓人は、話をカイトや加賀に振る。かつて彼らは拓人に対し海魔大戦の歴史を語っていたが、人類側が敗戦濃厚だった、だなどという話は初耳だった。

 

「カイトさん…シゲオさんの言ったことは?」

「…あぁ、事実だ。済まないね…騙すような形になったが、この話は今の世界の根幹に関わる。おいそれと話すことは、君に大戦の顛末を語ったあの時には出来なかったんだ」

「ですが、貴方に嘘を吐いたことは事実です。ごめんなさいね?」

「それは良いんです、そちらにも事情があるのは分かり切っていますし。…それで、どうして敗北寸前であったことを隠していたんですか?」

 

 拓人がシゲオに尋ねると、シゲオはやや苦い顔をして縛られたように口を閉ざす。しかし…少しの間が置くと、重い口を開き語り始めた。

 

「その前にワシの昔語りをさせてくれ。ワシは…海魔大戦当時、それぞれの海域の亡国を含めた主要国家群から成り立つ対海魔海上連合国軍…通称「提督連盟」の幹部だった。

 まだ10代半ばの青臭い子どもじゃったが、頭の回転の早さを買われてな? 当時連合司令長官であった異世界の雄「イソロク」の補佐を務めながら、ワシ自身も艦娘の艦隊を指揮する立場にあった」

 

 シゲオは懐かしそうに遠い地平を見つめるように目を細めるも、直ぐに顔を引き締め直すと話を続ける。

 

「嵐の中を突っ切るような強い向かい風、暗い雲に覆われた空、何より船を揺るがす荒波が支配していた時代じゃった。海魔たちがそれだけ世界の環境に影響を与えていた…ということじゃな?

 我々は海魔を倒すためイソロクさんの知恵を借りながら何とか対抗しておった、じゃが…日にひに敗戦が続き、その度に犠牲になる人や艦娘が増えていった。

 いつ人類が滅んでもおかしくはない、だから…ワシはイソロクさんにある提案をした」

「それは…?」

 

「この世界の魔術、その中でも特に豪然たる術式…「特殊封印術式」を行使した海魔の大元の封じ込めじゃよ」

 

「っ! …成る程な、読めたぜコイツぁ」

 

 望月がシゲオの話を聞いて思い当たることがあったようだ、何のことだと天龍が問うと、望月はシゲオの代わりに回答した。

 

「特殊封印術式ってぇのは、術者と対象の周りを完全にこの世界から「切り離す」ことの出来る最高等魔術だ。切り離した空間は別次元の「無空間」へ転送され、術者のイノチが尽きるまで二度と元に戻ることはない。

 その間の切り取った空間には「封紋」っつうバカデケェ紋様が浮かび上がるんだが…海魔の親玉をソイツでこの世界から「追い出した」っつーワケか?」

「封印…対象が海魔の大元なのは分かるけど、その術を仕掛けた術者って…もしかして」

 

「──金剛」

 

 加賀はポツリ…と犠牲となった仲間の名前を零した。そして続けて当時の決戦の様子を話す。

 

「私たちは金剛を海魔の大元へ送り届けるために、あの暗雲立ち込める海を駆け抜けた。そして…山ほどに巨大な黒い泥の塊を見つけると、金剛は…手筈通りに術式を発動して…大元と共にこの世界から「消えた」わ」

「…っ!?」

 

 加賀の衝撃の言葉に、拓人や天龍たちは思わず唖然とする。

 

 真相とは──海魔大戦は人類の敗北一歩手前まで来ていた、その段階でシゲオやイソロクは海魔の大元に向けて「特殊封印術式」を用いて、強制的に世界から追いやった。文字通りのヒトリの犠牲…当時の選ばれし艦娘最強の()()()()()を代価として。

 

「つまり海魔の大元はまだ何処かで存在していて、この世界が平和を保たれているのは、前の金剛が今まで封印して抑え込んでくれていたから…ということか」

「うむ、金剛が眠るその場所はかつて海魔の大元が巣食っていた海、海魔大戦の中で最も激しく、同時に多くの人、艦娘の沈みし古戦場…その名も「サイハテ海域」じゃ。

 その場所は海魔の影響が今も色濃く残っており、マナの穢れも酷く充満しとる。深海棲艦の大量発生も確認されておるため、万人が立ち入ることは不可能なのじゃ」

 

 拓人の一言に相槌を入れつつ、シゲオは長年口にすることがなかったであろう「サイハテ海域」の詳細を語った。

 

「おっと、連合の指定している「渡航禁止海域」の一つじゃねえか? ほれ前に言ったろ、ボウレイ海域を突っ切った先にある危険区域さ」

 

 望月の言わんとしているのは、ボウレイ海域突入時に語られた何気ない一言だった。まさかあの海域の先に今も先代金剛が眠っているとは、流石に誰にも分からなかったが。

 

「サイハテ海域を渡航禁止にしたのは、勿論先ほど語ったとおりの、諸々の危険な事情によるものじゃが…ワシ個人としては、あのまま金剛を「眠らせてほしかった」ということもある。

 彼女はそれまでも人類存続のため、自身の類稀なる能力を発揮させては海魔たちの脅威からワシらを守ってくれおった。最期の出撃前も自身が犠牲となる前提の封印行使を、頷き一つで承諾してくれよってな、例え他人の意思に振り回されようと他者を優先する「自己犠牲精神」の持ち主じゃった。

 本当に…彼女が居なければ、世界はとっくに海魔に喰い尽くされておった」

「…成る程、だから必要以上に海魔大戦の真実を口外しなかったんですね? 世界を守った彼女を…ゆっくり眠らせてあげたかったんですね?」

 

 拓人の回答に、シゲオもしんみりした表情を浮かべながら頷いた。

 

「…待て。海魔大戦の真相とやらは理解した、だが…()()()()()()()()()()とは…まさか?!」

 

 一つの疑問、そしておそらく正しいその回答を思い浮かべた天龍は、驚天動地といった具合に声を上げた。

 

「嬢ちゃんの頭の中の答えで、おそらく当っとるぞ。その特殊封印術式が…()()()()のだ、どこぞの大馬鹿者のおかげでな!」

 

 シゲオの話に天龍たちはココロ当たりがあった──あの男の仕業だ。

 

「ドラウニーアが…しかし、何故その封印を破ることが出来たんだ? ドラウニーアはサイハテ海域に赴いて、封印に細工でも施したとでも?」

 

 天龍の疑問に、カイトは怒りを抑えるように唇を震わせながら答えた。

 

「…第二次クロギリ海戦の前、シルシウム島に立て篭もったドラウニーアは、奇策を用いて島から脱出を図り、南木鎮守府にてゼロ号砲破壊工作を遂行するタクト君たちの壁となり立ち塞がった。

 だがその道中…ヤツはアンチマナ波動砲に置き土産を残した。それは──ヤツが実験の過程で作成したであろう「零鉱石の欠片」だったんだ。更に調べて分かったことだが、波動砲の着弾座標がサイハテ海域に向けられていた。

 これらから現在の異常と照らし合わせ予測出来ることは一つだ、ヤツは零鉱石の魔力をサイハテ海域の封紋へ着弾させることで、封印を無効化してしまったんだ…っ!」

「っ!?」

 

 カイトの口から語られたことは、誰もが予想出来ないであろう意表を突いたものだった。

 ドラウニーアは過去に百門要塞地下で、自身の操るロボットに内蔵した「試作零鉱石」の黒い霧を用いて、同じく内臓されていた海魔石の力を増幅させた。その後ロボットは破壊されたが、慎重深い男なので同じような試作の零鉱石を所持していても、おかしくはない。

 

「クロギリ海域四島の内三島のアンチマナ波動砲には、機獣たちから奪った穢れ玉がセットされていた。だからこそ波動砲発射を阻止するための人員を三島に割いていたのだけど…まさか、人知れず残り一門の方に穢れ玉の代わりをセッティングしていたとは…あぁ、本当に、どこまでも愚かな男だよ…っ!」

「カイト提督、落ち着いて下さい。…気持ちは解りますがね、アンチマナ波動砲は穢れのエネルギーを収束して放つことの出来る兵器、穢れ玉だろうと零鉱石だろうとマナの穢れが内包されて居れば良いのですから。ですがまさか…あの土壇場でやられるとは。

 欠片では環境に変化を与えるほどの威力は無い、逆を言えばエネルギー反応をレーダーで捉えにくいと言えるのでしょう。レーダー観測班も一連の戦いの行方を追うことに必死で、気づくことが出来なかったと聞いております」

「じゃがそれこそがアレの狡猾な所以よ。穢れのエネルギーの本質はマナの「生」と対をなす「死」じゃ、草木を腐食させ海を枯れさせ、魔力ですら無効化させる。戦いの流れを見て自身の敗北を悟った彼奴は、乱戦に紛れてサイハテ海域の封印を無効化させることで、そこに封じられた脅威を解き放ち、世界を再び地獄に堕とそうという魂胆じゃろうて」

 

 カイト、加賀、シゲオの順にドラウニーアの行動の意図が触れられていく。全てを予見したドラウニーアだからこその予測不可能な行動に、それを追う人々は容易く振り回されていた。

 死しても拓人たちの前を妨害するドラウニーア、生きていれば「貴様らの勝つ未来など俺は認めん」とでも言い出しそうな、全てを否定する彼の感情が見え隠れしている。

 

 世界は今再び──悪意有る一人の男によって、破滅の危機に瀕していた。

 

「…カイトさん、現在のサイハテ海域の状況は? 海魔の大元が…この世界に戻って来たんですか?」

 

 拓人はカイトに核心を突く質問をする、海魔の大元の封印が解かれたのであるなら、再び世界に死と混沌を振り撒くため動き出すのではないか?

 そんな拓人の不穏な予想を、カイトは首を横に振ることで「否定」した。

 

「……いや、海魔の大元がこの世界に現れたという反応はない。そう聞いているが…それよりも「厄介なこと」が起きていてね」

「厄介とは?」

 

 意外な回答にも冷静に聞き返す拓人、カイトは一息間を置くと、懐から紙束で纏められた資料を手に取り、そのままサイハテ海域で起こった出来事を話す。

 

「アンチマナ波動砲の着弾座標は、サイハテ海域の先代金剛が海魔を封印した場所…封紋が描かれた海上だった。そして…それは確かに着弾し封印は解かれた。だがそこから出てきたのは──」

 

 

 

 ──深海棲艦となった「金剛」だったんだ…っ!!

 

 

 

「…なっ!?」

 

 その場に居たモノたちはカイトの一言に、またも驚嘆し戦慄を覚える。

 天龍は焦りを隠せずにカイトに詰め寄る。

 

「確かなのか、カイト!?」

「あぁ、間違いない。サイハテ海域を見張っていた職員によると、封紋に異常が見られた直後にモニタリング・システムで確認していたら、偶然封印の場所から現れた人影を見たそうだ。

 それは深海棲艦の特徴である角や青白い肌、更にかつての彼女の衣装がそのまま擦り切れたようなボロボロの巫女服を纏っていたという。状況から見ても大元と一緒に封印されていた”彼女”としか思えない!」

「馬鹿な…何故そんなことが!? 艦娘が深海棲艦になるには人の憎悪を全身に浴びる必要があるはずだろう?!」

「いや、有り得ねぇ話じゃねぇ。マナの穢れは憎悪を含んだ人の負の感情に侵されたエネルギー、そして海魔はマナの穢れの塊と言っていいほどの負のエネルギーに満ちている、一緒に封印された金剛が海魔の大元に障って深海棲艦になっちまっても不思議じゃねぇ、そこんところ…どうなんだい加賀?」

 

 望月に話を振られると、加賀も顔を青ざめながら頷く。

 

「…カイト提督から話を聞いて、私も信じられなかった。ですが…確かに大元との戦いの時、封印術式を発動しようとした金剛に、遮ろうとするように海魔の触手が彼女の身体に纏わり付いていた。その時大元に直接触れたことで…細胞が憎悪に侵された、のかも知れない…っ。

 ですが、彼女は…諦めなかった、心配の眼を向ける、私たちに、大元が生み出した海魔の雑兵を、抑え込むようにと……最期まで………っ」

「加賀さん、もういい…もう良いんだっ」

 

 言葉に詰まる加賀を、カイトは彼女の肩を掴んで揺さぶる。加賀は口を手で覆い押し黙ると…程なく一筋の涙を流した。

 

「…悪い、意地悪なこと言っちまった」

「仕方ないさ、だが…望月の言う通りだ。海魔の大元がどうなったのかは分からないが、あの金剛が深海棲艦となったのは事実だ。これの意味するところは…海魔の大元の復活よりも「不味い事態」になったと言えることだろう。

 深海棲艦はそのほぼ全てに人類に対する敵意が確認されている。野分君の例もあるから一概には言えないだろうが、彼女に封印前のココロが残っているのかは…正直怪しい、封印の期間も長かったからね。良くて理性の欠片が辛うじて残っているかどうかだ。

 加えて彼女は海魔大戦時の艦娘の中で、最強と呼べる実力を持っていた。他の娘とは次元の違う大きな力があったんだ、万が一暴れ出せばそれこそ世界がどうなるか分からない…っ。

 それを踏まえて…君たちにお願いしたい。現在行われているサイハテ海域の詳細調査において、深海化金剛の「敵性」が確認された場合…君たちに深海化金剛の……()()()()()()()()()

 

 カイトから下された指令…それは深海に堕ちたであろう先代金剛の「駆逐」という、残酷なものであった。

 

「…っ! 矢張りそう来るか、だが良いのか? 先代金剛はお前たちにとって…」

「構わない、元々こうなることを予測出来なかった我々の責任でもあるんだ。君たちに頼らざるを得ない状況になり本当に申し訳ないが…様々な戦いを経て強くなった君たちは、今やどんな艦娘たちより「強い」。君たちと選ばれし艦娘の合同艦隊なら…深海化した金剛にも、勝てるかもしれない…!」

「…タクト君、皆……もしもの時は、どうか…彼女を「止めて」。お願い…っ!」

 

 希望に縋るようなカイトと目に涙を湛えた加賀からの懇願に、天龍はもう一度拓人の方を見遣る。

 いつもなら「任せて下さい!」と力強い一言を言い放つであろう拓人は──どこか虚しい顔でカイトたちを見つめていた。

 

「タクト…?」

 

 天龍が拓人の「違和感」に気づき始めたその時──事態は急変する。

 

「──いや、それには及ばんよ?」

 

 

 ──バンッ!

 

 

 シゲオの一言を合図に、後ろの扉から──今まで待機していたであろう──武装した数人の連合職員が拓人たちを取り囲み、銃を突きつけた。

 その人混みの後ろからは、何と選ばれし艦娘である加古、長良、時雨、長門の四人が顔を見せた。広い執務室があっという間に人の波によって狭くなってしまった。

 

「っな!? これは…何のおつもりですか、総帥!!」

 

 驚くカイトの叫びに対し、シゲオは懐に忍ばせた「とある紙束」を見せる。

 

「っ! まさかそれは…」

「預言書じゃよ、ワシもまたイソロクさんを通じて、()()()()()()()()()()()()?」

 

 預言書、と呼ばれるメモの束をこれ見よがしと見せるシゲオは、涼しい顔をしなからそれを読み解いていく。

 

「次代の脅威が現れし時、小さき従者を携えた才気溢れる若者が艦娘を従え降り立つ。それこそが「特異点」……。

 特異点とは、世に秩序又は混沌を齎すもの、中庸は為さずどちらかに極まるもの。本人の意思等に関係なくそれは実行される。その行き着く先…繁栄と、破滅も、また然り。

 特異点が何かを為そうとしたその時点で、世界は繁栄か破滅の選択を迫られる。どちらが選ばれるのかは…誰にも分からない」

 

 シゲオはひとしきり読み終えると、そのままタクトを睨みつける。

 

「ワシが海魔大戦の真相を語ったのは、何も金剛を止めてくれということではないのだ。君たちには…()()()()()()()()。金剛を始末するのは…このワシの「役目」なのだから」

 

 使命感に駆られたような言葉を吐くシゲオ、その瞳には老年故の「妄執」が宿っていた…。

 




○特殊封印術式

 魔術の中で大掛かりかつ一定の条件が揃い始めて発動出来る特殊術式、更にその中で封印魔術に類別されるものだ。
 発動条件は主に二つ、一つは封印対象と術者が対面する形でなければならない、二つ目は術者の魔力属性を「火・水・土・風・電気」の五つに同時に変換しなくてはならない。最高等魔術と呼ばれるに相応しい難易度だが、更に詠唱をする間は無防備となり、敵の反撃を受ける可能性がある弱点を抱えている。
 だが一たび発動すれば、術者と対象を点として円半径とし「周囲のもの全てを異空間に閉じ込める」という、規格外の能力を発揮する。
 作中で望月が「術者が死なない限り封印が解けることはない」と言ったが、術者は時間の流れや生死の概念の止まった次元へ対象と共に飛ばされるため、老衰や致命傷で死ぬことは無い。外部からの干渉が無い限り破られないということだ。
 だがここで予測外の事態が起きたようだ、どうやら海魔の穢れに障った金剛が「深海棲艦化」を果たしてしまったようだ。当時は艦娘が深海棲艦になるメカニズムが判明されていなかったから、この事態を招いてしまったようだね。
 それでも封印が解かれなければそのままだったのだが、そうもいかないようだ。正に彼の悪あがきの成果というもの。
 …私個人としては、そうなるのも納得しているよ。いつの時代も大仰(おおぎょう)な正義は反発を受ける、一人ひとりの胸に掲げる「些細な正義」がある限りね? 悪とは自らや大勢の正義を正当化するために作られたもの、だとしたら…この世には「悪など存在しない」のかもしれないね…?
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