艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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愛を識る者は、愛に狂う者を救うのか?

 拓人たちはかつての海魔大戦の真相…金剛が何故この世界から消えてしまったのか、その説明を受ける。

 サイハテ海域に海魔の大元と共に封印されていた、最強の艦娘金剛。彼女は永き封印が解かれた後に「深海棲艦」となった。

 もしも彼女がその力を持って世界に牙を剥けば、一体何が起こるか想像も尽かない。それを危惧した連合幹部カイトは、拓人率いる艦娘たちに深海化金剛の排除を命じた。

 

 ──だが、海魔大戦の一部始終を説明し終えた途端、連合総帥であるシゲオは拓人たちを武装した職員と加賀以外の選ばれし艦娘に包囲させた。その理由は…自分が金剛を始末する、そのために拓人たちに余計なことをしてほしくないというものだった。

 

 連合職員に拳銃を突き付けられ、窮地に陥った拓人たち…かに思われたが?

 

「…翔鶴、綾波。こいつらをどう見る?」

「多分貴女と同じ考えよ、天龍? 彼ら…()()()()()()()()()

「はい、寧ろ怯えているようにも見えます」

 

 天龍に問われた翔鶴と綾波が回答する。

 銃を握る職員の手元をよく見ると、震えて照準が定まっていない様子が見えた。更には職員の一人が「当り前だろ…」と零す小さな声も聞こえた。

 艦娘は兵器と呼ばれるだけあり恐ろしい力を持ち、それに加えて天龍たちは幾つもの死線を掻い潜り続けて、今や選ばれし艦娘と同等かそれ以上の圧倒的存在となっている。そんな相手に銃を向けて()()()()()と思う人間は居ない。職員たちは総帥の命令に従っているだけで、本心では逃げ出したい気持ちを抑えることが出来ないのだろう。

 

「シゲオ、理由を聞かせろ。話次第では職員たちに手出しはしない、お前もこの程度の小手先で俺たちを止められると考えてはいないだろう?」

「…お主たちの背後に、他の選ばれし艦娘が居ると言ってもか?」

「……本気で襲って来るつもりなら、後ろの殺気を気付くぐらい造作もない。だが…俺たちの背後には()()()()()()、これが答えだ。それでもやるというなら抵抗させてもらうが…その場合この連合本部がどうなるか、何も解らんわけではあるまい?」

 

 天龍の脅しとも取れる低く鋭い発声、それと共に射貫くような視線を向けられると…シゲオは苦笑いしてそれを受け入れた。

 

「カッ、ちぃとも動じないとは。流石ここまで来ただけはあるのぉ…分かった」

 

 シゲオは右手を上げ拳銃を降ろすように職員たちに命じた、職員たちは緊張の糸が切れたように銃口を下にした。

 冷や汗を流す彼らを見たシゲオは、そのまま彼らに扉の外へ出て待機するよう命じた。職員たちが出て行くと、執務室内は拓人たち、シゲオとカイト、そして選ばれし艦娘たちが残された状態になった。

 

「すまんな、お前たちにあの程度何ともないとは分かっておったが、ワシにも譲れんものがあるのでな」

「先ほど言っていた金剛の始末…か?」

「つーか関係ないけどよぉ、よく見てみたらその紙束…預言書ってやつか? カイトが前に言ってた「イソロクが預言書を渡した友人」て…」

 

 望月がシゲオの預言書を見て零した言葉は…海魔大戦終結時にイソロクが消息を絶つ前、親しい友人に渡したとされる預言書という名のメモ書き。その詳細は語られなかったが…その親しい友人こそ、目の前のシゲオであった。との解釈である。

 望月の指摘を受け、シゲオはそれを肯定しつつ、自身の内情を含めた詳しい話をしていく。

 

「左様、これはワシがイソロクさんから譲り受けたものじゃ。ここにはあの七十年前の大戦からその後の展開…未来が描かれているのじゃ。

 深海棲艦という脅威、それと同時に出現するドラウニーア一派、タクト率いる君たち艦娘の存在、そして…この世界の「滅びの未来」も余ますことなく書かれておる。だからこそワシはドラウニーアの野望を阻止するために、君たちを遠くから見守りドラウニーアを倒せるよう導いたのじゃよ?」

「成る程、それが俺たちに近づいた理由か。それは分かった…だが、何故先ほどあんな強行手段に及んだ? カイトは俺たちに深海金剛を倒せと命じたが、それはお前も同じはずだろう?」

 

 天龍の疑問に、シゲオは──深い哀愁を漂わせながら答えた。

 

「──単純な話だ、誰にも渡したくないのだ。ワシは…()()()()()()()()、愛するからこそワシの手で楽にしてやりたいのだ。

 彼女が過去の戦いの残渣(かす)となり暴走を始めようとする今、それを掃除するは同じ時代を生きたワシと…彼女たち、選ばれし艦娘たちの役目だと思うておる。誰にもこの役目を明け渡すつもりはない、先ほど非礼を働いて図々しいことは百も承知、だが頼む…ここは引いてくれんか?」

「…仮に俺たちがこの戦いに関与しないとして、お前たちは金剛をどう対処するつもりだ? まさか…お前自身が戦うなどと、冗談でも言うつもりではあるまい?」

 

 天龍の疑問に、シゲオは口を震わせながら答える。

 

「それが出来ればどれだけ良かったか…じゃがワシも脆弱な人間よ、そんなこと出来る訳がない。それでも…彼女たち「選ばれし艦娘」が居れば話は別だ」

「どういうことだ…?」

「っ! まさかじいさん、アンタ加賀たち使って…()()()()()()()()()()()()()つもりか!?」

「…っ!?」

 

 望月の解答に室内に衝撃が走る中、シゲオはそれを肯定してゆっくりと頷いた。

 

「特殊封印術式は、新たな世界…異空間を作りその中へ対象を封じ込める魔術。そのため世界を形作る属性…火、水、土、風、電気。この五つが必要不可欠、それらを同時に用いることで術式が完成し、次元に作られし「無空間」へ封ずることが出来る。

 ここに居る選ばれし艦娘たちは、それぞれの属性を操ることが可能。彼女たちを封印の要とし金剛を封ずることが出来れば…」

「おいおい、それじゃ根本的な解決にゃあならねぇぞ? 第一よぉ…それをしちまえば加賀たちは」

 

 望月が言いかける口を遮り、シゲオは残酷な真実を告げた。

 

「うむ、封印の要として金剛と共に、永久に無空間へ閉じ込められる。じゃが…ここに居る艦娘たちが束になったとしても()()()()()()()、それは断言できる。悪いことは言わん、無謀なことはやめておけ。これが現状の最良手段というものじゃ」

 

 シゲオの言っていることは確信を持ったもので、嘘偽りという揺らぎは一切見られなかった。それだけ金剛という存在が脅威であることの証明だった。その点に関しては誰も意を唱えるモノは居なかった。

 だが、ここで待ったを掛ける人物が居る。──カイトだった。

 

「総帥…貴方の仰りたいことは理解できます、ですが…他に方法は無いのですか? 加賀さんを…長門たちを…何とも出来ないものですかっ!?」

 

 カイトはいつもの彼からは思い浮かばない、藁にも縋るような焦りのある顔つきを見せる、そんなカイトに対してもシゲオは変わらず冷淡だった。

 

「カイト…矢張りお主はまだ甘いな? 前にも言ったと思うが彼女たちは「兵器」だ、彼女たちは我々人類を守るために存在する。彼女たちが助かる道、などと夢現なことを抜かすな? だからワシはお主には何も言わずこの計画を実行しようとしておるのだ」

「っ…加賀さん、君はそれで良いの? 君もそんな計画聞かされたのは初めてだろう、こんな…いきなり犠牲になってほしいだなんてっ!」

「…ごめんなさいカイト提督、私もこの計画自体は初耳だけど…それが金剛を止める唯一の手段、確実な方法だと言うなら…私は、艦娘としてそれを行動に移すまでです」

 

 加賀の覚悟を秘めた一言、それは彼女はそうなることを常日頃から意識しているということを示唆していた。

 それは他のモノも同じようで、後ろに控えていた加古たちもそれぞれ決意を込めて言葉を投げた。

 

「いんだよカイト、アタシたちは元からこういう緊急事態のために居んだ。それに今更文句はつけねぇさ? それに…アタシら居なくても天龍たちが居りゃ、世界はこの先も何とかなるだろ?」

「そうだよね、私たちが居なくても…望月たちになら任せていられる。それに…金剛が、昔の仲間が悪さをするって聞いたら、止めてあげたいじゃない? それが少しでも平和に繋がるなら…それで充分だよ?」

「うん、僕なんかが居なくても、綾波たちがいる限りもう世界は大丈夫だ。だから…悲しまないで? こうなることは…必然だったろうから」

「一度は捨てたイノチが世界秩序のために使われるのだ、私にとっては本望だ。翔鶴、そして野分。あのドラウニーアを倒した君たちなら、後を任せられる。

 それとカイト…帰ってきて早々にこんなことになってしまい、申し訳ない。私たちのために泣いてくれるな…君たちの未来を守るために散ることが出来るなら、それは私たちにとっての誉れだ」

 

 加古、長良、時雨、長門の四隻(よにん)の言葉には、悲壮な決意が込められていた。

 それを肌で感じた天龍たちは、黙って頷くことしか出来なかった。兵器としての目的…平和を守るために使われることの嬉しさを、彼女たちも理解していたからだ。

 だが、それは艦娘間だけの話であり、人間にとってはヒトの形をしている彼女たちは同族(にんげん)と同義なのだ。それを簡単に受け入れることは出来ない、それは例え「そういうものだ」と頭では理解出来ている者であったとしても、また然りである。

 

「理解しろとは言わん、じゃが受け入れてもらうぞ。この世界はそうやって…艦娘を犠牲にして平和を保って来たのだから。絶対絶命の窮地を治めるには…避けようのない犠牲を()()()しか方法が無いのだ。

 ワシは誰に何を言われようと「世界秩序」を優先する、あの時も、今までも…そしてこれからも、それを変えるつもりは毛頭ない。それが…彼女を犠牲にしてしまったワシに出来る償いでもあるのだから」

 

 シゲオの信念の入った言葉、それはあの大戦時に犯した自らの「後悔」が見え隠れしているものだ、多くの犠牲を出さないため…戦争を、血の飛び交う争いを止めるため、またも後悔を繰り返そうというのか…?

 矛盾しているかもしれないが、シゲオの意思は何十年にも渡り積み上げられたものと想像出来る、容易に止めることは出来ない。それを()()()()()()()()カイトは、涙ぐみながらも悔し言葉を漏らすしかなかった。

 

「総帥…貴方という人は……っ!」

「…さて、ワシの話はこれで以上だが。どうする? …お前は犠牲など下らないと、そんな温い思想をぶつけるか…タクトよ」

 

 そう言って再び拓人を睨みつけてはその意思を問うシゲオ、天龍たちは拓人と一心同体のココロづもりなので、拓人の考え次第でその場の行動が変わる。

 執務室内の一同が口を噤んで拓人を静かに見つめては、彼の答えを黙って聞く姿勢を取る。

 

 ──幾ばくかの静寂が流れた、そんな時…微動だにせずシゲオを見つめていた彼の、口が動いた。

 

 

「──っふ、そうですか…分かりました」

 

 

「っ! タクト…っ!?」

 

 天龍が驚きを表すと同時に、周りからざわついた気配が感じ取れる。拓人はいつもの爽やかな笑顔を浮かべるも…そこには明らかな「違和感」があった。

 

「貴方の考えは分かりましたシゲオさん、ならもう僕たちの出る幕はないということですね? 良かった…カイトさんの指令も()()()()()()と、思案していたところだったんです」

「タクト…貴方…?」

 

 そんな拓人の異変に、翔鶴は既視感を感じていた。それはまるで──かつての自分自身、最愛の妹を亡くして自暴自棄になっていた自分を見ているようだった。

 いつものような穏やかな口調の拓人だが、そこには「温かさ」はなく、口に浮かべる笑顔も空洞となった精神で無理やり笑っていることが解る。心の込もっていない言葉はあまりにも空虚で、代わりに諦めにも似た感情を感知出来た。

 周囲のどよめきを余所に、拓人はカイトに向き直るとハッキリと断りを入れる。…それまでの自分を否定するような言葉を。

 

「すみませんカイトさん、でも今の僕に頼られてもどうしようもないかと? 僕にはもう…奇跡を呼ぶ力は残っていない、仮に皆で出撃したとしても…何も対策が無ければ、全員容易く「沈められる」でしょう。そんなことをしても無駄でしょ? だったら…加賀さんたちに封印に行ってもらった方が話が早い、そうでしょ?」

「っ! タクト君…君は、何を言っているんだい?」

「……おいっ!!」

 

 あまりの勝手な物言いに、天龍は拓人の胸倉を掴むと、何故そんな言い方が出来るのか問い詰める。

 

「どういうつもりだタクト…お前は、あれだけ一緒になって戦ったアイツらが犠牲になっても良いと言うつもりか? お前にとって加賀たちはその程度のモノだったとでもいうのか!?」

「…そうじゃないよ、加賀さんたちには出来れば犠牲になってほしくないさ。でも…先代金剛の強さを君も知らない訳じゃないでしょ? 僕たちがあれだけ苦労して倒した機獣を、たった一人で倒しちゃったんだよ。皆もそれを知っているから封印しよう、なんて言っているわけじゃない?

 僕が今まで何とかしようって頑張ったのはさ、そういう「絶対的な補正(ちから)」があったからだよ? でも…今の僕にはそれはない、出来ないんだよ? 僕は…ううん、君だって無駄死にしたくないじゃない? それが確実なら…それしかないというなら、そうしてもらうしかないよ」

「っ、違う! …俺はそんな話をしているんじゃっ」

「待って、天龍」

 

 天龍の肩を掴んで制止を掛ける翔鶴、だが激情を抑えきれない天龍は、何故止めると翔鶴に食い下がる。

 

「翔鶴…お前は何とも思わないのか? タクトは…俺たちが惚れた男は、こんな冷血漢ではない筈だろう!?」

「…そうね、でもそれは()()()()()()()()()。辛い現実に打ち拉がれ、自分を見失っていた…皆同じなのよ、タクトもそうなっているだけ。だから…信じてあげて? どうしようもない私たちを救ってくれたのは…タクトなんだから」

「それは……くっ!」

 

 翔鶴の冷静な諭しに、天龍はまだ怒りが見えるも乱暴に掴んだ胸倉を離した。

 拓人が何ともないといった表情をしながら、乱れた胸元を正していると…シゲオは再度問いかける。

 

「…本当に良いのだな?」

「はい、どうも御見苦しいところを。…僕は構いませんので、どうぞお好きなようにしてもらえたら?」

「そうか。…すまんな、だが君たちを完全に信用することは叶わない。念を入れて君たちを、君たちの鎮守府に「軟禁」させてもらおうと思う。サイハテ海域の詳細調査の終わる明朝に加賀たちを投入する手筈じゃから、それまでの間の不自由を許してほしい」

「はい、どうぞご自由に。貴方たちにとって特異点が計り知れないものだとは理解しています、何だったら…僕を捕まえて「処刑」してくれても? どうせこの世に未練もないですし、いつかこの世界を壊すために動くかも…?」

 

 拓人の慣れない挑発めいた発言、シゲオは眉を顰めるも冷めた態度を崩さない。

 

「それはワシの一存で決めることではない、君が世界を壊そうと犯行を起こさない限り連合が動くことはないだろう。それにな…世界を守った英雄を懐疑心で裁くことは、連合であれ出来るものではない。君のこれまでの尽力を考えれば当然のことじゃが? ……まぁよい」

 

 シゲオは呆れたようにも見える様子でため息を吐くと、外に待機させた職員たちを呼びだし、拓人たちを名も無き鎮守府へと連行していく。

 拓人たちが外へ出ていくと、執務室にはカイト、加賀と選ばれし艦娘たち、そしてシゲオが取り残される。

 

 あまりにも非情な現実、流石のカイトも歯痒さを隠し切れず、俯いては苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

 そんなカイトを、加賀を始めとした艦娘たちは黙って見つめることしか出来なかった。

 そして…シゲオは使命に燃える感情を讃えた顔で、執務室の窓ガラスから見える外を見つめていた。

 

 ──外は、皆の不安を表すような「曇天」が空に広がっていた…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──夢の狭間。

 

 そこは、夜闇を満点の星のカーテンが照らす幻想的な世界。

 

 全ての世界の、全ての魂の行き着く場所。生と死の狭間とも呼ばれる、生きとしいけるモノが見る「夢」そのもの。

 

 …そんな世界の海岸にて、海面に映る映像を観るモノたちが…()()

 

 一人は、全身を白い光で包み込んだ人物。全容は分からないが「世界の観測者」を名乗る者、それは低い声から察するに、どうやら男のようだった。

 

「それにしても驚いたよ。まさか君がこの世界に迷い込むとは、それだけ君が深い眠りの中に居る証拠なのだろうが。…さて、これが彼の現在だが、どうかな?」

 

 観測者が隣で映像を凝視する人物に、声を掛けた。それは…金色のカチューシャと、巫女服のような装いに身を包んだ女性──金剛、エリだった。

 

「………タクト」

 

 エリはクロギリ海域の戦いで拓人を庇い、瀕死の重傷を負うと共に意識を失う。そして気が付いた時には、見知らぬ砂浜の上で気絶していたという。

 この夢の狭間に至ってから、当ても無く彷徨ううちに光り輝く人影…観測者を見つける。

 観測者からこの狭間世界の概要と、自分の現状を聞いたエリだったが、自身が死の淵を歩いているという事実はあっさりと受け入れる。しかし自らが身を挺して庇った拓人は、果たして無事なのかと観測者に尋ねる。

 観測者は海岸から見える海の方を指差す。すると瞬く間に彼女が眠ってからの拓人たちのやり取り、行動、その一部始終が水面に映し出される。

 エリは拓人が少しでも無事でいるなら、その姿を見られたならそれで構わなかった。…が、今しがた垣間見た映像はエリにとって、思い描いていた中で「最悪」と言って良い状況だった。

 拓人は自分を見失い、加賀たちは自分にとって先代の金剛を再び封じるため、イノチを差し出すと言っている場面。誰もそれらを変えることはなく、ただ無力感と後悔の連鎖がそこにあった。

 

「そんな……タクト…加賀…皆…っ! タクトがあんな風になってしまったのは…私が眠ってしまったせい…なの?」

 

 エリが後悔に明け暮れていると、観測者がやんわりとそれを否定する。

 

「君が苦しむことはない、こうなることは必然だったのだ。タクト君は特異点としての権能を失い自棄となり、シゲオ君は長年の愛に応えるため非情になっている。誰が悪いということもない」

「…そうかもしれない、でも……せめてタクトが元通りになってくれれば、絶対に諦めたりはしなかった。そうなったのが私のせいだと言うなら…私は」

 

 エリがそう観測者に自分の気持ちを吐露していくと、観測者は…どこか哀しい声色で、それに対し疑問をぶつける。

 

「元通り…果たしてそうだろうか? あれが彼の「本性」だという可能性も、見失ってはいけない」

「えっ? どういうこと…?」

「ふむ。君は彼の「過去」を見てもそう言えるのか、と聞きたいのだがね? 君の過去は彼らに既に打ち明けているが、彼がそうだとは限らないだろう? 君は…彼の何を知って「元通り」と言っているのかね?」

「っ、それは…」

 

 エリの問いかけに、観測者は彼女にとっての盲点を突くような言葉を紡いだ。確かに彼の言う通り、拓人の過去は、これまで身近にいたエリでさえ聞き及んではいないものだった。

 人が自己を構築するのは、それまでに暮らした環境、そして様々な経験に起因する。拓人が自分を隠さなくてはならないような環境に身を置いていたのなら、あの変貌ぶりも頷ける。ぐちゃぐちゃになってしまった理性が要因となり、本来の性格の一片が見えてしまっただけ。それだけなのだから。

 だがいきなり拓人の過去と問われても、本人が居ないこの場でどう答えたものか…そうエリが戸惑いの表情を浮かべていると、観測者は選択を迫るように問い続ける。

 

「信頼とは各々の「本心」を認め合ってこそだ、彼は他人に応え続けようと奮闘して来たが、本当の意味での信じあう間柄にはまだ至れて居ないのだよ。それは君たちも同じだ…であれば、君は彼の「過去」を知って、その上で彼を救いたいか、はたまた愚者と罵るかを決めるべきだと、私は思うのだが…どうだろうか? 君は彼の…タクト君の「本当」を知りたくはないかな?」

「っ! …出来るの?」

「あぁ。彼の魂は未だ集合意識(アカシックレコード)に繋がっている、それを辿れば…君に彼の過去を「観せる」ことが出来る」

 

 観測者の提案に、エリは自分の考えを纏めるため内省する。

 かつてのエリは、全ての戦いに関与する者、憎しみを拡げるモノたちを憎悪した。その気持ちは今でも心のどこかで燻っているだろう…しかし、そんな自分と向き合うきっかけをくれたのが、拓人だった。

 拓人に対する自分の気持ち…感謝と、それ故の愛情は本物。そして拓人が迷い傷ついているであろう今…それを何とかしてあげたい。

 救うなどと大それたことは言わない、ただ…彼をより深く知ることで、あの変貌ぶりの正体が分かるのなら…!

 

「それで何が変わるとは思えない、私はもう死んでいるも同然だし、出来ることはないのかもしれない。でも…先ずはタクトのことを知ってからどうするか考える、それでも遅くない筈。

 だから…お願い、私にタクトの過去を見せて。向き合いたいの…今の私に何が出来るか分からないけど、彼に何があったのか…知りたい!」

 

 エリの決意を秘めた一言に、観測者は光の内側でニヤリと笑うのだった。

 

「ではお見せしよう! 異世界を守り抜いた彼が、何を思い何に苦しんだのか…その”過去”を!!」

 

 観測者がそう宣言すると、辺りの輪郭が白くぼやけ始める。

 

 

 

 ──今、”道を切り拓いた人”の過去が語られる。

 

 

 

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