艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──色崎 拓人。
普通の青年として暮らしていた彼は、ある日運命の悪戯で交通事故により亡くなってしまう。
が、これまた何かに導かれるように「転生」を果たす。その転移先は…彼が心から望んだ「異世界」であった。
臆病、人見知り、どこかネガティブだが、天性の明るさと浅く広いボキャブラリーから来る不思議なトークに、誰しもが好感…はたまたある種の親近感を抱いたことだろう。
…だが、これらはあくまで彼の「一面」に過ぎない。
これから語ることは、今まで節々で見られた彼の「過去」に纏わる物語だ。
先ずは色崎 拓人、彼を一言で表すとすれば…──
──
・・・・・
──???
「……ここは?」
光に包まれたエリが目を開けると、そこには見慣れない空間が広がっていた。
フローリングの上にカーペットが敷かれ、ベッドやタンスなどの家具の置かれた部屋、その隅にはおもちゃ箱、漫画の収納された本棚、床に散見される怪獣やロボットのフィギュア、そして壁に貼られた謎の仮面戦士の描かれたポスターなど、部屋の持ち主の嗜好が窺えるアイテムがあった。
中でも一際目立ったのは、部屋の入り口から右の壁に置かれた、大きなブラウン管テレビ。チカチカと光っては激しい爆音と勇ましい声が聞こえる。
さっきまで居た幻想世界とは真逆と言って良い平凡な部屋の風景、不可思議な事態にキョロキョロと辺りを見回すエリに、隣の観測者が説明する。
「ここはアカシックレコードに記録された拓人君の記憶を元に構築された世界、早い話今の状況は、彼の過去の記憶を五感で追体験している状態だね?」
「そ、そうなんだ。凄い…神さまとは聞いていたけど、こんなことまで出来るなんて」
「はは、彼の魂がアカシックレコードに繋がれていなければ出来ない芸当だがね。ほら…お目当ての人物が目の前に居るよ?」
「えっ?」
エリが前方に目を凝らすと、テレビの前に居座り中の映像を見つめる小さな影が見えた。
『いくぞ! 武器合体…キャノンウェポン、フルバースト!!』
『ぐあ"あ"あああ!? おのれ…レンジャー共おおおっ!!』
テレビの中では五人のカラフルな衣装の戦士たちが、不気味な怪人を倒すため各々の武器を繋ぎ合わせ、巨大なキャノン砲を形作るとそれを撃ち尽くした。怪人はキャノン砲の威力に斃れると、瞬時に轟音と爆炎が画面を埋め尽くした。
『正義は勝つ!!』
五人の戦士がそれぞれポーズを取る、その様子をテレビ前で目をキラキラ輝かせながら見ている"少年"が居た。
「──か、カッコいい!!」
「っ! もしかして…あれ「タクト」?! わぁ可愛い〜! 童顔だとは思ってたけど、昔から変わらない感じだったんだぁ!」
エリの目に映ったのは、テレビの前で戦士たちの大活躍に心を躍らせる、小学生時代の拓人だった。その顔つきはエリが目にした青年拓人と変わらない、愛らしいものだった。
「よっしゃあ! 僕もいつかヒーローみたいに、悪いヤツらをやっつけるぞ! 皆を守れる正義のヒーローになるんだ!
チェンジレンジャー! 怪人よ覚悟しろぉ! バキッボコォッ! 今だ、武器合体! キャノンウェポン、フルバースト!! ブシャーー!! 正義は勝つ! ハッハッハッ!!」
幼い拓人は興奮冷めやらぬ様子で、自分もヒーローになりきって敵怪人を倒すシミュレーションをし始める。想像の中では誰もが最強のヒーロー…子どもの頃に一度はやったであろうごっこ遊びを、拓人は部屋中を飛び跳ねながら夢中になってやっていた。
「あはは、可愛い。タクトにもこんな頃があったんだ?」
「拓人君は昔から笑顔の絶えない子だった、生まれた頃は体が弱かったようだが、健やかに育ったようだね? 彼は今でこそ大人しい性格だが、幼少期はあんな風に正義のヒーローに憧れる、快活な少年だったのだよ」
「ひーろー? …タクトが良く口にしてた「トクサツひーろー」と関係あるのかな?」
「そうだね、子ども騙しと言われればそれまでだが…あの戦いが終わった後の幼き時代には、誰もが見ていたものだ。善きを助け悪しきを挫く、これらを作った者たちはそんな大善の行える大人になって欲しかったのだろう」
「そっか。…タクトってどこか子供っぽくて純粋なところがあるけど、子供の時の気持ちを忘れてなかったのかも」
「そうだろうとも。彼は盲目的とも言えるほどに、正義の味方に憧れた。それは彼の学校生活にも表れていた」
「えっ、どういう……っ!?」
エリが観測者の言葉の意味に疑問を呈しようとした瞬間──辺りが一瞬明るくなると、場面は拓人の部屋から小学校の教室へと移った。
白い壁と床の木目のタイル、目の前には巨大な黒板と、規則正しく並べられた数十の机がある。窓から朝の陽ざしが差す平和で静かな空間がそこにあった。
最初は誰も居なかった教室だったが、ポツリぽつりと黒い人影が見え始め、次第にそれは小さく可愛らしい小学生たちに姿を変えた。和気藹々と喋る子供たちの声は喧噪となり、静まり返っていた教室を一気に賑やかにしていく。
エリは面食らいつつも状況を把握すると、興味深げに辺りを見回した。
「ここってタクトの学校? この子たちタクトのクラスメイトかな? 可愛いなぁ、私の学校もこんな感じだったなぁ」
「フフ、いつ見ても子どもたちが飛び跳ねる姿は癒されるな。さて…そろそろかな?」
観測者がそう予見すると、エリたちの目の前で子ども同士の喧嘩が始まろうとしていた。
「何だよお前!」
「お前こそ何なんだよ!?」
「なんだとおぉ~~っ!!?」
二人の一触即発の雰囲気、教室の子どもたちが何が始まるのかと息を呑んでは視線を送った。そんな時…一人の別の子供が二人の間に割って入った。
「まぁまぁ。喧嘩は良くないよ?」
「んだよ拓人、お前には関係ないだろ?!」
「そうだよ、ガイヤは引っ込んでろよ!!」
「そんなこと言わずにさぁ、”ミミズに流そう”って言うじゃない。皆も怖がってるし」
「何だよ! ………ん? それ「水に流そう」じゃね?」
「ぷっ、だっっっせぇ!! 間違えてやんの!」
「あ、ちょ、今の無し、ナシだから!!」
「バーカ! もう忘れないもんねー! …っはは、俺ら何で怒ってたんだっけ?」
「知らね! あほくせーからもうやめようぜ?」
「そ、そうそう。それで良いんだよ…へへっ」
拓人は見事二人の仲裁を果たすと、教室から「おぉ…!」という感嘆の声が聞こえてくる。
「凄いね! 過程はともかくとして…小っちゃい頃から皆を纏めようとしてたんだ」
「そう、彼は理想のヒーローになるために、揉め事が起こってはああして仲裁に入ることが多かった。ヒーローに憧れている分正義感も人並み以上だった」
「あはっ、まるで私たちを纏めようとしてるタクトを見てるみたい。この頃から指揮官の才能はあった…のかな?」
「フフッ、そうだね。彼は自分を受け入れてくれる友に笑顔になって欲しかった、だから率先して問題解決に取り組んでいたし、それで幾ら馬鹿にされても笑っていたのだと思うよ? そういう意味では、人を受け入れ纏め上げる「器」があったのだろう。
私はね…だから彼を「才気溢れる若者」と呼んだのだよ?」
「…え?」
エリは観測者の告げた言葉の意味が分からなかった。観測者は光の向こうでほくそ笑むと、解説を続ける。
「彼は事あるごとに矢面に立ち、その内何をしなくても目立つ存在になった。彼の個性的な感性が周りに受け入れ始めていたのだろう。このまま順当に行けば彼の才能は開花する筈だった…だが」
観測者が一区切り入れると同時に、空間はまたも光に包まれる。そして視界が晴れ状況が確認出来るまで辺りが鮮明になると…エリは、目に映る異様な光景に驚愕した。
「っ!?」
何と──拓人は廊下で一人の男児と相対し、その周りを──まるで逃げられないようにするために──20人余りの男児生徒が囲っていたのだ。
「おい、お前拓人って言ったか? 最近オレさまを差し置いて良い気になってるみたいじゃねぇか、ふざけんなよ! 何サマのつもりだ!?」
どうやら拓人と同学年のガキ大将が、拓人の噂を聞きつけて喧嘩を仕掛けて来たようだ。
謂れのない恫喝に、拓人は竦み上がりながらも答えた。
「ぼ、僕は…ただ皆に笑ってほしくて。正義のヒーローに…なりたい、だけ、で…っ」
「……ぷっ!! あっはははははははははっ!!! 何だそれ?! おかしいんじゃねぇのぉ!? なぁ!」
「きゃはははははは!!」
ガキ大将が卑しい笑い声を上げながら話を振ると、周りの男児たちも下卑た笑いを張り上げた。
「じゃあオレさまを笑わせてみろよ! 簡単だぜ? お前を…ぶん殴れば済む話だからなぁ!!」
──バキッ
「…っ!?」
ガキ大将が拳で拓人を殴りつける、顔面の頬に一発喰らった拓人はよろよろと後ずさると、後ろの男児たちに無理やり立ち上がらされた。
「おいおい、この程度でよろめいてんじゃねーよ!」
「ははっ! ははっ! やっちまえボスー!!」
「まだまだこんなモンじゃないだろ~、頑張れよ
「…っ」
拓人はそれに対して、慣れないファイティングポーズを取りながら応戦しようとする。が…矢張り温厚な性格の拓人には、ガキ大将の攻撃を受け流すことは出来ず、サンドバッグ状態だった。
騒動を知った教師に見つかるまで、拓人の顔は腫れあがるまでボコボコにされていった。教師に怒鳴られて蜘蛛の巣を散らすように逃げ果せた悪餓鬼どもの居なくなった後、廊下に転がる拓人のボロボロの姿は、見るも悲惨だった。
「ひ……酷い…っ!」
エリの零した一言に、観測者は付け加える。残酷なほどに冷静な分析を。
「酷いと言うかね? 確かにこの側面だけ見ればそう思うかもしれないが。拓人君は関わらなくとも良い事柄に必要以上にかかわり続けた、それは…そういった「恨み」を買ってもおかしくはない。
押し出過ぎた正義は、一方には「善意」に見えようともう一方には「悪意」にしか見えないこともままある。それだけのことを彼は仕出かしたのだろう」
「そんな…タクトだけが悪いとでも言うの?! 暴力を振るった子が悪いんじゃないの!?」
「然様、だが相容れない考えというモノは存在するのだよ。言葉を交わそうとも交(まじ)わることを許さない者にとっては…暴力とは認められない相手を黙らせるには都合が良いんだ。
見方によっては、彼らにとって拓人君は
「…っ」
それが真理である、とは口が裂けても言えないが…エリは観測者の言わんとしている意味を理解してしまっている自分が居た。かつての自分も…金剛という「暴力」に縋り、世界を変えようとしたのだから。
「更に言わせてもらうと、私の生きた時代にはこんな風に互いに衝突し傷つけあうことは茶飯事だった。子供と言うのは純粋故に残酷だからね…だからこそそれを糧に七転八起して、成長しどんな境遇にも屈しない強い精神を手に入れることが出来るんだ。
彼もそうなる筈だった、だが…拓人君は才気溢れるからこそ「繊細」だった。一度振るわれた暴力が枷となり、彼から他者と向き合う気力を奪った。そこからは──」
また光が視界を覆う、場面は拓人の寝室に戻るも、そこに居たのは…ベッドで仰向けになり動かない、かつての天真爛漫ぶりが消え失せた拓人だった。何もない天井を見つめては大きく重いため息を吐くその姿に、エリは胸を締め付けられていた。
「彼はああして部屋から出ることは無かった、この先どんな態度で臨めば良いのか分からなかったのだから当然だろうが。また同じことをして「否定」されては堪らないのだろう、そもそも彼は
「こんなの…辛い、辛すぎるよ。やり過ぎたのかもしれない、けど…タクトはただ皆のために……っ!」
エリがそう拓人のために、一筋の涙を流していると…傍らのベッドで横になっている拓人がポツリ…と心境を零した。
「……僕は、皆から嫌われてたんだ。だからあの時も誰も助けに来てくれなかったんだ、皆のためにって頑張ってたのが…いつの間にか嫌いになるようなことをしちゃってたんだ。
でも…しょうがないじゃないか。それさえ出来ればって思ってたんだ、僕はただ…皆に笑顔になってほしかった、仲良くなりたかっただけなのに。
そんな風に思われたって、もう…どうしたら良いのか、分からないよ…っ」
「っ! タクト…」
「心配ないよ、ここから彼は報われていく。彼の
「えっ?!」
驚きを隠せないエリを余所に、場面は更に進んでいく。
光が輝きを抑えた次に観たものは…清潔なベッドの上で身体を起こす拓人であった、服装はよくあるガウン一着、腕には点滴を付けているのかチューブが繋げられていた。
「ここって…病院?」
「そうだよ。あの騒動から不登校になった拓人君は、誰の目から見ても身体がやせ細ってしまった。一日三食を満足に出来なかったからだろうね? 精神も不安定となり荒れていた彼を見かねた両親が、近所の総合病院で診てもらった結果、数週間の入院が決まったそうだ。
…ここだけの話だが、医者は彼の両親に対し「何故こうなるまで放って置いた」と叱られたそうだ」
「当り前だよ!」
観測者の話にエリが怒りの感情を発露する、彼らの存在を知らない拓人は一人自分の状況に虚しさを覚えた。
「……はぁ」
またも深いため息を吐く拓人だったが…ここで相室となった隣のベッドに居た患者から、声が掛かった。
「──大丈夫?」
「…? 誰?」
拓人が声のする方を向くと、そこには…少し茶色みのある黒髪、それを長く伸ばした拓人と同い年のような「少女」が居た。
目元は隠されていてよく見えなかったが、覗き見ると見える透き通るような眼、小さな口元、そして筋の通った鼻といった端正な顔立ちの、まるで人形のような可愛らしい少女であった。
「あ、ごめん。凄く辛そうだったから声掛けちゃった」
「…別に、君には関係ないだろう?」
「そう? ねぇねぇ、ついでに聞きたいんだけど。君って…この病院に来たのって何日前?」
「ん、二日前…ぐらいだけど」
「そうなんだ! 私ね…好きなアニメ観てたんだけど、ずっと前から病院に居てあんまり見れてないんだ。君が知ってるならどんな展開になってるか、教えてもらおうと思って!」
「え? テレビならあるじゃんそこに、見ればいいでしょ」
拓人がそう言って自分と彼女のベッド奥に見えるテレビを指差す、しかし…彼女からは意外な答えが。
「あぁ、見れることにはみれるけど…その日に限ってながーい診察とか手術があって、しっかりと見ることが出来ないんだ」
「っ! ……ぁ、ごめん」
「ううん。で…そのアニメがね「魔女ッコふぁそらちゃん」って言うんだけど」
「っ!」
拓人はそのアニメの題名に心当たりがあった、それは拓人が好んで視聴していたレンジャードラマの前に放送されていたヒロインアニメだった。
しかし健全な男児が見るにはあまりにも女児向けな内容なので、時々、誰も居ない時に、一人で、こっそりと見ている時間があった。
「…知ってるけど、笑わないでよ? この前仲の良い友達の前でうっかり喋ったら、男が女の観るようなアニメ観てる~って馬鹿にされたんだから」
「本当!? やった! ダメモトで聞いてみたんだけど…私が言ったらだけど、観てたんだね?」
「ゔっ、そんなこと言うなら教えないよ!」
「嘘うそ! ぁあ嬉しいなぁ~、ホントにありがとう! えっと…」
「あっ、僕は色崎 拓人」
「拓人、ね? よろしく! 私は…"朝日奈 光凛(あさひな かりん)"だよ!」
「…カリン? 変な名前」
「そっちこそタクトじゃん。…っふふ! も〜う!」
「あははは!」
その娘があまりにも自然に笑うものだから、拓人も釣られて大笑いする。二人は初めて会いはしたが、お互いにシンパシーのようなものを感じたのかもしれない。だからこそ何の気兼ねも無い笑いを浮かべたのだ。
辛いことがあった後の拓人の満面の笑顔に、エリは思わず涙をもう一粒落とすのだった。
「良かった…タクトにも良いお友達が居てくれたんだ」
「そう、月並みだがこの出会いは
「それは、彼女にも辛い出来事があったってこと?」
「その通りだ、ここからは彼女…光凛君の境遇についてと、二人の行く末について語っていく。それこそが今の拓人君を象徴する決定的な出来事なのだから」
観測者がそう謳い文句を口にすると、光は空間を包み込み次の光景を映し出していく。
──幕が上がるのを待つ観客のように、エリは二人の主役たちを光に消える最後まで見つめるのだった…。