艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

119 / 146
 戻りました、では参りましょう。
 またしても展開が急かも知れません、申し訳ありません。


憎悪の業火、愛の温もり

 拓人の過去をアカシックレコードを介して観たエリ、拓人は行動を起こす度に大切なモノを否定、もしくは喪失する運命を辿っていた。

 クロギリ海域の一件でそのトラウマが蘇り、拓人は今自分がどうすれば良いか分からない状況に陥り、苦しんでいた。そんな拓人を何とか助けられないかと考えを決めるエリ。

 だがどうやって拓人を助けるのか、それが課題だった。エリは動きたくとも現実では──死に等しい──深い眠りに就いている、拓人を救うどころの話ではない。

 

「どうすれば良いの…どうすればタクトを助けてあげられるの?」

 

 暖簾に腕押すような思考の反復を繰り返す、そんなエリを見つめていた観測者は…ため息を一つ吐くと見かねた様子で彼女に尋ねた、何故そこまで必死になる必要があるのかを。

 

「一つ勘違いしているかもしれないが、私が君にタクト君の過去を見せたのは、彼を救ってほしいからではないよ。彼の「隠れた本性」を見ても君は彼を「信じたい」と思えるかどうか確かめたくなった、のだが…その様子だと結果は同じのようだね?

 しかしだ、私個人としては君がそこまで身を削る必要は無いと思うがね? 拓人君のトラウマは一朝一夕で治るモノではない、仮に彼の傷を癒せるとしても、その道は困難を極めるだろう。君も…もうそれを解らないものではないだろう?」

「それは…」

「拓人君の現状は「過去の逃避行」と言うべきだろう、向き合うべき過去から自ら逃げ出しているのだから、彼は何処も成長出来ないし何も得ることが出来ない。

 全ての人の心には生来の良さを表す「表」と、過去の蓄積から成る「裏」の面がある。限りある生の中で表裏一体を成し遂げることで「人間」は完成するのだよ。それを成し得ない者を果たして「人」と呼んでいいものか?

 少々酷な言い方だがそれが真理というもの、何故なら…苦難を前にしようとも前に進む強靭な精神を持つ魂を世界は欲している、それこそが世界の望んだ人のあるべき姿だから」

「…っ」

「過去に縛り付けられる限り、彼が一歩を踏み出すことは無い、確実にだ。だから…私は敢えて君に「諦める」ことを推奨する、これは彼個人の問題だ。君が関わる必要のないことだ。君たちの任務は…もう終わったのだよ」

 

 残酷な真実を突き付けるように、観測者は厳格な、それでいて優しげな声色でエリを諭した。

 過去を振り返るべきは当人唯一人、その本人が向き合う気すら無い以上、誰が何をしようとも「無駄」。そんな現実という壁にぶち当たったエリは──

 

「──…ふふっ」

 

 微笑みを浮かべ、全てを見透かした瞳を向けた。

 

「何かおかしかったかい?」

「ううん、ただ…貴方がタクトを見捨てるような言い方するなんて…()()()()()()ちょっと下手だなぁって?」

 

 エリは観測者の意図を理解していた。その答えは…拓人を本気で救うつもりなのか、その想いを「発破をかけて」問い質そうとしていた。

 自身の算段を見破られ、驚いた観測者は思わず種を明かした。

 

「──…おっと、まさかこんなに早くバレてしまうとは」

「だって、さっきの貴方はタクトの良いところを沢山教えてくれたし。ずっとここで見守ってくれてたんだろうなぁー、って言わなくても分かるよ?」

「ははっ、仰るとおりだな。では…私の言わんとすることは分かるね?」

「うん、タクトを助けるには彼を心から支えたいと願う気持ち…"愛"が必要なんだよね? 私がそれを持っているかどうしても確かめたかった…だよね?」

「然様、そこまで理解してるなら話は早い。さて…君の答えを聞かせてもらおうか?」

 

 観測者の催促に、エリはゆっくりと深呼吸する。息を肺一杯に吸って、長く静かに吐いた。そして…間を置いて答えを口にした。

 

「──愛してる。はっきり言ってしまったけど、正直この気持ちが本物かどうかは、まだ分からないわ。でも…彼は私がどんなに変わっても私を「信じてくれた」。金剛として…同時にエリとしても、だから…」

「だから彼を信じ、その道行きを手助けしたい…か。だが彼がその愛に報いるとは限らないよ? 特に今の彼は不安定だからね、それでも…良いんだね?」

 

 その問いかけはエリにとっては「愚問」だった、観測者が疑問を投げて直ぐに彼女は答えた。

 

「それでも構わないわ。私はね…私がそうしてあげたいから助けるんだ、タクトがそうしたように…私も自分の気持ちに報いたいの」

「…そうか。ではどうするつもりだね? 先ほども言ったが彼を立ち直らせるのは容易ではないよ?」

「確かにそうかもね、でも…誰にだって上手くいかない時も、理不尽な出来事を被る時ぐらいあるよ。だからこそやり遂げた時、逆境を乗り越えた時に嬉しさが溢れて、何倍にも見返りが来るんだ。タクトは不幸が重なり過ぎてその先を心の底から信じられないだけ。

 でも…絶対に有る筈なんだ、加賀たちを犠牲にしたくないっていう彼の「優しさ」が。だってタクトが私たちの世界を良くしようと動いたのは、特異点だからじゃない。彼は…()()()()()()()()()()()()を持っている。だから今まで頑張って来れたし、私や周りの皆も救って来た。

 それを思い出させて正しく導くことが出来れば…彼は必ず戻って来る、私は…()()()()()()

 

 自らの「想い」を語り終えた後、観測者を見つめるエリの真っ直ぐな瞳には、拓人を信じ抜く覚悟と拓人への「一途な愛」を感じることが出来た。それを見届けた観測者は…光の中で不敵にほくそ笑んだ。

 

「成る程、ならば私から言うことは何も無い。ただ一つ指摘させてほしい、君の愛と覚悟が本物か…()()()()()()()()()()()?」

「えっ、どういう…」

 

 今しがた拓人への気持ちを語ったというのに、これ以上何をしようというのか?

 観測者の放った一言の意味が理解出来ず、聞き返すエリは頭を巡らせてはその意図を探っていた。

 

 

 ──そんなエリの思考を遮るように、事態は急転する。

 

 

 ──ゴオォッ!!

 

「っ!? 何、火が……い、痛い…っ、ぁあああああっ!?」

 

 何と、エリの身体が突然「発火」し始めたのだ。それだけでも奇妙だが目に見えた異常をエリは感じ取っていた。

 先ず炎の色が「漆黒」に染まっていた、地獄の業火のような悍ましさを感じるそれは、今も彼女の身体を蝕んでいた。

 更にその炎に熱さは無く代わりに「痛み」があった、全身を裂くような痛みと、心臓を刺されたような精神の痛みだ。痛みはやがて…エリの頭の中に「ある人物の記憶」を覗かせた。

 

 

『── 何だそれ?! おかしいんじゃねぇのぉ!?』

 

『── ねえ、約束して…? いつか、いつか必ず、二人で……』

 

『── よく頑張ったよ君は、だから自分を責めてはいけないよ』

 

『──話しかけないでくれる? アンタと居ると陰気が移るから』

 

『──舐めた態度取ってんじゃねぇぞ、オラァッ!!』

 

『──また喧嘩したのか、君は本当に問題児だな…なんだその顔は、文句でもあるのか!?』

 

『──自分のこと"特別"だとか勘違いしてんじゃねぇよ、アァッ!? アホくさ…っ』

 

 

「…っ、これは…まさか」

 

 エリの中に流れ来る記憶は、何者かの生涯の走馬灯のように、幼少頃からの回想を断片的に見せていた。

 何処かで見た場面や、見たことの無い記憶まで一瞬で認知していく不思議な感覚だった。雪崩れ来る感情の波に、エリの脳内は膨れ上がるとズキズキと痛みを訴えていた。

 その痛みこそ、"彼"が愛を喪って転落した人生を送っていたことを示唆していた。

 

 ──ザッ、ザッ、ザッ。

 

 エリが痛みに耐える最中、海岸奥の林から砂を踏みしめるような足音…そして、煌々と()()()()()()ような音が近づいて来ていた。

 

「──…来たか」

 

「…っ!」

 

 観測者の零した言葉で危険を察したエリは、観測者の見つめる方角へ目を向けると…そこに現れたのは──

 

 

 ──禍々しい黒色の炎、それが「人の形」を取ってこちらに歩いて来る。そんな静寂を破る光景だった。

 

 

 

『──…ア"、ア"ァ"…』

 

 

 

「っ! ……そんな、貴方なの? …()()()……っ?!」

 

 エリは驚きを隠せず思わず、しかしはっきりと言う…あの人型の黒炎が「拓人」なのだと。

 何故エリはあの黒炎を拓人と認識したのか? それはエリの脳内には今もまるで津波のような怒涛の勢いで、拓人の記憶とそこに宿る「感情」が押し寄せていたのだ。今も彼女の身に発火する黒色の炎が拓人の心の叫びそのものなのだと、エリは気づいていた。

 耳を疑う話だが、観測者はその回答に対し「正に」と頷いた。

 

「然様。アレは拓人君の負の側面…即ち()()()()()()()()と考えるのが自然だろう。おそらく我々がアカシックレコードから拓人君の過去を観た時、一時的に拓人君とこの魂の世界に出来上がった「繋がり」、それを追って来たのだろう。

 本来なら負の側面は心の深い場所に在り、余程の激情を抱かない限り発露することは無い。だが…拓人君の精神の歪みが拡大したことにより、存在を確立したのだろう。拓人君が異常な行為に及んだ原因は、彼の存在が大きいだろう。

 目的は定かではないが、仮に彼が過去に対し激しい嫌悪感を抱いていたとすれば──自らにとって触れられたくない過去を観た我々を、()()()()()()に襲来したのだろうな?」

「っ、アレが、タクト…っ、この炎から凄い憎悪を感じる、タクトは今まで……こんな「痛み」を抱えて生きていたの…っ!?」

 

 エリは黒炎で攻撃しているであろう、もう一人の拓人に向けて驚愕と哀れみの感情を向けると、頭の中に流れて来るその悲痛な声に耳を傾けた。

 

 

 

『──救えなかった、助けてあげたかった。でも僕には…何も出来なくて……っ!』

 

『お願い、僕を置いていかないで。君以外の皆…みんな……否定して、否定して、否定して、否定して否定して否定して否定して否定して否定して否定して否定して否定して否定して』

 

『もっと行動出来ていれば…僕が自分自身を信じられたら、変わっていたの? でも……誰も僕を認めてくれないんだ、そんな僕を…信じられるはずないよ』

 

『もう誰も信じられない…どうして……僕はただ、皆に認められたい、この「穴」を埋めたい、だけなのに………』

 

『──ソウ、ダ。ソウダソウダソウダソウソウソウソウソソソソ…っ!!』

 

『やつラダ、やつラサエ居ナケレバ…ボクヲ否定シタやつラサエ居ナケレバ……かりんハ………っ!』

 

『かりん、かりん、かりん…… かりんかりんかりんかりんかりんかりんかりんかりんかりんかりん、かっかか、かかかカカカカカカカカリンリンリンリン…っ!』

 

 

 

『ア"ア''ア"ア''ア"ア"ア''ア"ア''ア"ア"ア''ア"ア''ア"ア"ア''ア"ア''ア!!!!』

 

 

 

 それは、自らの「核」を見喪い暴走する、哀れな愚者の叫び声だった。

 光凛の死後、拓人は埋まらない心の「穴」に苦しんだ。最大の理解者を失った彼に待ち受けていたのは、それでも荒ぶる世間という人波だった。

 ある時は態度を、ある時は外見を、ある時は些細な失敗を、終(しま)いには存在そのものを、拓人の一挙手一投足を観ては、名も識らない悪意がそれを全否定する。それは拓人という人物はある意味で「常識」に囚われない性格で、世間はそんな彼を認めようとしなかった故に起きた弊害であった。

 彼を肯定する者はもう何処にも居ない、だから彼は自らを傷つける者たちから身を守るため、何もせずただ()()()()()()()()()

 周りの人間たちにとっての理想的な、自らを否定しながらも周りに合わせ傅く、そんな「普通」に。それは偏に拓人が()()()()()()()()()()()()()()()から。

 だが…この長い時間に積み重なった火種から成る黒炎から分かることは、拓人は普通に成りきれずそれ故に「否定」は止まなかった、という残酷な現実だった。

 そんな現実からそれでも目を背け続けた結果、拓人は内に「憎悪」を宿しそれは邪悪を象(かたど)った漆黒の焔と成ったのだ。

 

「君は今彼を信じると言った。だが彼はそれを許してはいないようだよ、そう言った甘い言葉に何度も謀られたからこそ拓人君に負の側面が生まれたのだから。

 先ほど言ったと思うが、これは君の愛と覚悟が本物か試す「試練」だ。もう一人の拓人君を受け止める度量があるか……君の存在を懸けて、証明し給え」

 

『ア"、ア"ア''…… ア"ア''ア"ア''ア"ア''ッ!!』

 

 観測者の冷淡な言葉が終わると同時に、黒炎が燃え盛る腕を振り上げる。炎は勢いを増して煌々と燃え上がり、エリを焼き尽くさんとしていた。

 

「っ、ああああああああっ!?」

 

 エリに次々と痛みが押し寄せた。

 心臓が斬りつけられたような鋭い痛み、全身が強張るような恐怖の痛み、全てを諦めてしまいたくなるような絶望の痛み。

 筆舌し難い心の「痛み」が、一気に駆け抜けてはエリから生きる気力を奪っていく。生への渇望が死への願望に塗り変わっていく。

 

「(ぁあ……押し潰されそう…っ、この意識を…魂を…存在を、終わらせたい。苦しい……苦しい…よ………っ!!)」

 

 拓人の苦しみをそのまま体験しているエリ、彼女の精神は迫り来る拓人の過去に押し潰されようとしていた、このままでは精神が擦り切れて廃人になってしまう恐れがあった。

 今のエリは分かりやすく例えると「魂だけの存在」だ、精神力がそのまま彼女に生前の形を与えているにすぎない。そこから精神の底が尽きてしまえば、一体どうなるのか? 何にせよ碌なことにはならないのは確かである、エリは今絶対絶命の窮地に立たされていた。

 

「(タ、クト……っ!)」

 

 そんな自らの立場を垣間見ず、エリは痛みに耐えながらも、一歩いっぽ負の拓人との距離を詰めていく。

 

「辛かった、んだね。苦しかった、んだね? カリンちゃんを喪った穴を…必死に埋めようとしてた、だけなんだね……?」

 

 ──ギュッ。

 

『ァ…──』

 

 エリは負の拓人に近づき終えると、次に憎悪に燃え盛る彼の身体を、優しく抱擁した。

 瓦礫に潰されるような重い痛み、エリは──この痛みに「既視感」を覚えていた。

 

「私も…貴方と同じ。戦争っていう「他人の事情」に振り回されて、全てを喪った…そう思っていた、だから世界に復讐しようって今まで裏で力を蓄えていた。もし……貴方に出会えて無かったなら、私はその力を世界を滅ぼすために何の遠慮もなく奮っていたと思う」

『ア……ア"ァ………?』

「でもね──間違いだったんだ、()()()()()()()()()()()()()。私たちの大切なモノは…今も心の中(ここ)に在る、目には見えないけど、感じることは出来る。それを信じれたら…きっと私たちは前に進める、そう教えてくれたのは……貴方だよ、タクト?」

 

 エリは抱き付いた腕に力を込めて更に黒炎と密着する、全てを灰塵にしようと尚も燃え上がる黒い炎を纏っても、エリの気持ちは変わらず穏やかな笑顔を絶やさなかった。

 

『ア"…ア"ア"ア"……』

「ねぇ…貴方に大切な人は居た? 心から感謝を伝えた人は居た? この人と一緒に居たい、離れたくないって思えた人は居た? 憎しみを向けた人は、本当に貴方を傷つけようとした? 愛しているからこそ…しっかりしてほしいって言ってくれる人も居たんじゃないかな?」

『──…ッ!?』

「思い出してみて? 信じることを恐れないで? 誰も信じられないなんて、悲しいこと言わないで? 信じることが大事だって言われて救われたヒトが…ここに居るんだから』

『…………──』

 

 柔らかな声で優しく語り掛けるエリ、彼女の声が届いたのか…黒炎の魂に刻まれた「光」が蘇る。

 

 

 

 

 ──大丈夫。私はいつも貴方と一緒。貴方の思い出の中で、いつも貴方を見守っているよ?

 

 

 …拓人。

 

 

 ──ありがとう。

 

 

 

 

 

『…………か、りん……』

 

 今際の際に発せられた、彼女の最後の言葉…彼に前を向いてほしいと小さく呟いた希望の言葉。

 ()()()()()()()()、その瞬間…拓人の憎悪の炎は勢いを弱め徐々に鎮めていく…終には黒炎は完全に掻き消えると、辺りは元の静かな波の音が聞こえ始めた。

 

「ふぅ…」

 

 ──パチ、パチ、パチ。

 

 九死に一生を得たエリが次に目にしたのは、両手を横に拍手する観測者の姿だった。

 

「見事だ。彼の溜まった負の感情の浄化を感じた、これで拓人君の頭も冷えるだろう」

「…それは良かったけど、酷いよ? 全然止めてくれないんだから、あのまま焼かれてたら…私灰になってたんじゃない?」

「ははっ、それは想像にお任せしよう。何…君なら確実に彼を救えると見込んでの行動だよ、不快に思ったなら謝罪しよう」

 

 エリの当たり前の考えに、観測者は虚に白く光る影の中で苦笑いを浮かべている様子で、直ぐに訂正を入れる。エリもあの状況をそこまで咎めるつもりもないのでそれを受け入れた。

 エリの心からの言葉を受け取り、黒い炎は消滅していった。それが何を意味するのか、果たして本当に浄化されたのか解らないが、いずれにしろエリに出来ることはもう残されておらず、拓人が自身の力で窮地を脱することを願うしかない。

 

「君もあの黒炎を耐えたとはいえ相応に精神を摩耗しているはずだ、ここで事態が動くまで休息を取ると良い」

「ありがとう、そうさせてもらおうかな?」

 

 休息を促す観測者に対して、エリは素直に砂浜に腰掛ける。彼が悲しみを乗り越えられるように、想いを馳せる。

 

「…タクト、貴方なら大丈夫だよ。私は貴方を…信じるからね!」

 

 拓人への信頼を口にすると、エリは海面に映る現世の様子を再び観測者と共に観守る。

 

 ──そこには、夜を示す暗闇が映し出された。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──名も無き鎮守府、拓人自室。

 

 時間は深夜を回った頃か、ベッドから身を起こして横の窓から見える朧月を眺める。さっきは雨が降っていたけど、どうやら止んだようだ。薄い雲の間に白く光る綺麗な満月が見えた。

 あの連合本部での会話の後、連合総帥のシゲオさんの命令で僕らは自分たちの鎮守府(きょてん)に戻り、加賀さんたちの封印が終わるまで待つことになった。ここに戻ってから何だか気分が悪くなっていたので、僕は自室で休むことにした。そこで頭が痛くなったから眠っていたんだけど…。

 

 ──さっき、夢を見ていた気がする。

 

 僕が何もかもが嫌になって泣き叫んでいると、目の前に金剛…いや、エリが現れた。彼女は泣いている僕を見ると微笑んで、そのまま近づくと優しく抱擁してくれた。

 そして和やかな声で僕に語り掛ける、大丈夫だとか信じているとかそんなことだったと思う。彼女の声に癒されたのか僕が涙を止めていると…エリの背後に僕の見知った影が見えた。

 

「光凛…」

 

 そう呟いて僕は目醒めた、夢にしては現実味があったけど、眠っているエリが僕を心配してくれているのかな? だからって光凛まで出て来るとは思わなかったけど。

 

「エリ…でも僕は……」

 

 何だか気持ちがスッキリした気分だけど、それでも自分の気持ちは変わらない。

 僕は──人が怖い、人を信じたい気持ちはあるけど、今までずっとその気持ちを裏切られて、打ち拉がれて来たのが僕だ。そんな僕を…行動すれば必ず失敗し、挫折し、それでも自分を信じたいと奮い立たせてはまた同じ過ちを繰り返す…そんな情けない自分を誰が信用出来るだろうか?

 他人も自分も、何もかもを信じられなくなっている。そんな僕が…世界を救うことが出来たのは、特異点としての能力があったから。でもそれももうない、僕にはもう何も出来ない。分かっている… けど何故だろう、さっきまで諦めていたはずなのに…頭が冷えたからか「助けたい」という──自分にとって偽善の──気持ちが僕の中で強く表れていた。

 

 助けたい? 加賀さんたちを?

 

 しかし拓人、色崎拓人よ、今更そんな気持ちになって何になる? 僕は結局…何も出来ない、皆を助けられるヒーローになんかなれない。また喪うことになる…自分の命だって危ういのかもしれないんだぞ?

 直感が無くても簡単に予測出来る…仮にこのまま加賀さんたちを助けに行っても、僕は為す術なく「死ぬ」という結果が待っていることは。

 僕はもう…特別なんかじゃない、物語の主役でもないただの「脇役」だ。そんな普通の僕が高望みするべきじゃない、いつものように…周りに従って厄災が過ぎるのを待てば良い、そうすればきっと上手く行く、その筈なんだ…っ!

 

 ──ガチャ。

 

 僕が自分に暗示をかけるような思考に耽っている…その時だった、薄暗い部屋に明かりが見えたのは。それは──マユミちゃんが僕の部屋のドアを開けていたからだった。

 

「マユミ、ちゃん…?」

「あっ、起きた? あのさ…起きたばかりだったらゴメンだけど、ちょっと付き合ってくれない? 貴方にどうしてもやってほしいことがあって!」

 

 そう言ったマユミちゃんの瞳の中には、力強い光が輝いていた。

 鎮守府の周りにはシゲオさんの部下が見張ってるはずだから、外には出れないよ? そう言うとマユミちゃんは「中で出来ることだから」とだけ伝えて、ベッドから身を起こした僕の手を掴んで無理やり外へと引っ張り出した。

 

 何だかよく分からないけど、元気で羨ましいなぁ…と内心呟く僕は、そのまま彼女と共に「ある場所」へ向かった。




 筆が遅い…シリアスとか鬱要素あるのはどうしても暗くなって修正してしまう、自分って凝り性ですな? 閲覧者の皆さまにも少しの間ご迷惑をおかけします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。