艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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鬼神、終点の海に降り立つ

 ──鎮守府連合医療エリア、モニター室

 

「──現在ステルス・モニタリングでタクト君たちの行方を追っています、モニターとオペレーターを御用意しますのでご確認下さい」

「うむ、御苦労」

 

 連合職員と何やら段取りを話し合うシゲオ、話し終えた職員がその場を離れると今度はマユミがシゲオに話しかけてきた。

 

「シゲさんおつかれ~。モニター用意してくれるって?」

「マユミちゃんか…うむ、タクトたちがどのように戦っておるか此処で判断出来た方が良いじゃろう、そう思うてな?」

「そっか! それにしてもモニタールームに特別治療室だなんて…何というか、豪勢だねぇ?」

「フフン、ワシもこの場まで出ておいて出し惜しみなどせん。使えるモノは全部使ってやるわい! これもお主らの助けとなれば幸いじゃて!」

 

 現在シゲオたちが居るのは、医療エリアの空きスペースを間借りして急遽造られた「モニタールーム」だ。どうやらタクトたちの行動を注意深く見て取れるように、専用の部屋にモニター等を手配してくれたようだ。エリの居た病室で治療中の施術者たちの集中を削がない出来うる限りの配慮だろう。

 そんなエリとユリウスたちも現在「特別治療室」へ移動している、ユリウスたちが病室でエリの治療中にシゲオから特別治療室への移送を促され、それを受け入れ実行した次第だ。

 因みにモニタールームと特別治療室は隣同士で、境となる壁は防音仕様となっている。このモニタールームは本来治療中の患者の関係者の待合室であるようだ。シゲオはそこに目を付けた訳だが、あまりの至れり尽くせりぶりにマユミは拓人と対峙したシゲオの険しい顔つきが忘れられないため、申し訳ないと言うか内心複雑な心境であった。

 シゲオは拓人との対決を経て積極的に協力するようになった、連合の医療エリアで眠るエリの治療をカイトと共に許可を出し、更にはより設備の整った特別治療室への移送許可も届けてくれたようだ。拓人との戦いで何を感じ取ったのかは計り知れないが、彼の最大限の心遣いに対し、マユミは敢えていつものように御礼を言った。

 

「ありがと! 流石シゲさんは頼りになるね!」

「カッカッカ! 褒めるなほめるな、マユミちゃんこそ先ほどから食事の用意やら雑務やらを率先してやってくれておる、頼もしいぞ?」

「そんな! 私だけ休んでるわけにはいかないし…皆を応援したり食事の用意をしたりしか出来ないけど、もっと他にやれることがないかなってこの場でお手伝いさせてもらってるだけだよ。ちょっとは力添え出来る場面があると思ってさ…そう無いとは思うけど、あはは;」

「そう一人で気負うこともなかろう、お主はようやっとるとここに居る皆も解っておる筈じゃ。ワシや君にしか出来んこともある、何事も役割を果たすことが大事なのじゃよ。なぁユリウス?」

 

 マユミとの会話の中でシゲオは腕に着けた映写型通信機に映ったユリウスに対し声を掛ける、壁が防音なので互いの連絡手段として使用しているようだ。

 話を振られたユリウスだが、エリに取り付けられた機器モニターのチェックに忙しいため振り向かないが「えぇ」と一言零して肯定を表した。あまりに素っ気ないのでマサムネがフォローに入った。

 

『すまないネヴェイビー! ぼくとユリウスは今口を挟む猶予も無くってネ、良ければ二人で歓談してもらえないカイ?』

「おぉ、すまんのぉ。じゃがあまり根を詰めるなよ? 焦る気持ちがあるのは解るがの」

「…ふぅ、分かっています。わかっているから…お前こそこっちに集中しろマサムネ、金剛の精神データを元通り修復するには欠けた箇所を見なければならん、どうあっても人が居る」

『オット! それは失礼したヨ! それじゃヴェイビーたちごゆっくり!』

 

 ユリウスに叱責されたマサムネは直ぐさま持ち場に戻ると、ユリウスの隣のモニターを見始めた。

 仕方がないというか、お互いに聞きたいことがある様子で歓談改め情報交換するマユミとシゲオ。最初はシゲオから繰り出した。

 

「…時にマユミちゃん、名も無き鎮守府の残りの艦娘たちの様子は? タクトたちが出立する時「自分たちも出る」と言うことを聞かなんだろ」

 

 それは拓人たちがサイハテ海域へ出る少し前──舞風たちが自分たちも拓人たちと一緒に戦いたいと意見具申して来たことに端を発した、もちろんサイハテ海域は深海棲艦の巣窟という異名どおり、並みの艦娘では歯が立たないような強敵──()()()()()()が湧くように出てくると噂されており、事実先ほど深海金剛出現を映した「ST・MT(ステルス・モニタリング)システム」の映像内に、何体かの鬼・姫クラスの姿も確認された。

 そんな危険なところに連れて行けないと、今回は同行を見送られていた舞風たちだった。だが矢張り全員思うところがあるのか道中の梅雨払いだけでもと食い下がってきたのだ。拓人の説得で何とか収まった現場であったが…彼女たちが余計な動きでもすれば拓人たちに負担も掛かると、シゲオはこの中で一番彼女たちに近いマユミに近況を聞いている次第だ。

 

「大丈夫だと思う、皆心配そうな様子だったけど…私たちはタクトたちの帰る場所を守るのが先決だよって、私が言ったら皆頷いてたから。それに…足手まといだってことは皆が一番分かってると思うから」

「…そうか」

「うん。…っあ、あのね! 私も聞きたいことあって、深海金剛についてなんだけど…彼女が暴れ出したら危ないことは分かったけど、今彼女ってサイハテ海域に居るんだよね?」

 

 マユミの疑問に対しシゲオは確りと頷き返す。

 

「うむ、サイハテ海域の調査班によると彼女は封印が解かれてもその場所から1mたりとも動いていないそうじゃ。本当はST・MTシステムで姿を捉えておったが…封印が解けてすぐに映像が乱れてしまっての、おそらく深海金剛の封印に使われた魔力が大気中にまだ残っておるせいだろう、一部が打ち消されたことで形を保てなくなった魔力の残滓がジャミング波のようになった具合じゃ」

「えっ、それは大丈夫なの? 深海金剛を見逃してるんじゃ?」

「いや。存在自体はレーダーで確認しとるから問題は無いが、何かあっても遅いのでな。映像が途切れないよう調整して、ついでにタクトたちの行方を追いながら深海金剛との戦いを皆で見守ろうという寸法じゃ」

 

 どうやら今すぐ彼女が暴れ出す兆候は見えていないようだが、レーダーでの確認だけでは不備があると思い至りST・MTシステムの再調整を行い、現在サイハテ海域最奥へ向かうタクトたちの戦いを通して彼女の現状を映そうとしているようだが…マユミは少し釈然としない様子だった。

 

「うーん、ありがとって言った手前になるけど、タクトたちがサイハテ海域に行ってからもう数十分経つけど…そんな悠長に構えてて良いの? 直ぐに深海金剛を映して彼女の行動を監視した方が良いんじゃ?」

「ふふっ、心配か? じゃがお主が心配なのは「タクトたち」なのではないか?」

 

 ニヤリと笑い核心を突くシゲオに、マユミちゃんはギョッとした様子で驚きを隠せていなかった。

 

「・・・バレた? で、でも私が心配なだけだからそんな気を遣わなくても…;」

「カッカッカ! 何を言う。この作戦に理屈は必要ないのだろう? お前たちが散々ワシに言って聞かせたのだからなぁ? それにな…どんなに素早く動こうともレーダーに反応は出る筈じゃ、それが無いということは…彼女がその場に留まっているのは「理由」があるのだろうと思うのじゃ。昔から理由もなく行動に移すようなことはしなかったからのぉ「彼女」は。タクトたちにも既にその旨は伝えてある、彼女が居るであろう最奥の特徴もな。そう焦らずともそろそろ会敵する頃合いじゃろう」

 

 シゲオの冷静な判断…というより「彼女」へのある種の信頼は、マユミの焦りを打ち消すには十分だった。

 

「そっか、シゲさんがそこまで言うなら私ももう何も言わないよ。ありがとう…っあ、あともう一つあるんだけど!」

「何じゃ?」

 

 一つの疑問が晴れた直後のマユミのもう一つの問いかけに、シゲオは悠然と答える姿勢を見せた。

 

「あのね…シゲさんって「預言書」持ってるってホント?」

「ぉお、これか?」

 

 問われたシゲオは懐から「紙の束」を出して見せる、それは未来の出来事を記した預言書である。シゲオはこれで拓人たちの行動の軌跡とそれによる世界の変化を知った。

 

「それにはタクトが特異点だったり、世界がどんな風になるのかとかも書いてるんだよね?」

「うむ、それがどうした?」

「いやぁ…それを見てこれから起こることを理解しておけば、タクトたちに有利になるんじゃないかなぁ〜って? ちょっとズルいとは思うけどさ…えへへ」

 

 マユミは少し恥ずかしそうに頭に右手を添えながら答えた、確かに今までも拓人の「メタ知識」や妖精さんの予見により先の展開を見ることが出来た。もしこの現状でほんの一場面でもどうなるか分かれば…勝機を手繰り寄せられるやもしれない。

 マユミの提案にシゲオは──黙って首を横に振った。

 

「残念ながら…この先を見通すことは叶わんぞ」

「それは、どうして? そこに全部書いてるんだよね? これからのことが」

「うーむ、見せた方が早いじゃろ。どれ……特異点、ドラウニーア………っお、これじゃ。世界の終わりについて」

 

 シゲオは題名を言うと、一枚の紙をマユミに見せてきた。そこに書かれていたのは──

 

「──"世界を救いし英雄は人の欲の泥に塗れ、破壊の権化たる「鬼神」に生まれ変わり再び姿を見せる。

 鬼神顕現せし時、世界の終わり。全てを懸けてこれを阻止せよ、これが出来なければ…"。………ん、もう一枚ある?」

 

 マユミに指摘されシゲオは、紙の後ろに隠したもう一枚を前に持ってきて見せた。薄汚れたそれは──

 

「──白紙?」

 

「そうじゃ、これは海魔大戦の終結間際にイソロクさんが書いたとされている。全てを見通したようなあの方が「書き忘れ」をするとは思えん、これにも意味があるとワシは思うておる」

「…もしかしてさ、深海金剛を倒せなかったらホントに世界が終わって、()()()()()()()()()からどうなるか分からない…ってこと!?」

 

 マユミの回答に、シゲオは深く頷いて返した。

 

「あぁ、これだけでも深海金剛が世界破滅の切っ掛けとなるのは明白じゃった、だから確実に彼女を鎮圧する必要があるとワシは考えたのじゃ。尤も…犠牲を出さずに世界を救う、と言った戯けた大馬鹿者に今は後を託した形になるのだがな」

「……その、何というか。私たちは加賀さんたちを犠牲にしたくなくって、だからってシゲさんの考えを否定したつもりじゃ…;」

 

 シゲオのやり方は確かに「解かれた封印を再試行する」という極端なものだったかもしれないが、預言書に書かれていることが事実ならそういう考え方に陥るのも無理は無い。だがまさか裏でそんなことがあったとは露知らず、結果的に世界を何としても救おうとした彼の考えを拒絶してしまったと反省の色を見せるマユミだった。が当のシゲオはそこまで憤りはないと説明を加える。

 

「いんや、これはワシ自身の考えでもある。今まではそれを否定しておったから良い機会と納得しておるよ? これからはもう少し己を鑑みようと思う、ワシも…長年の盟友であり彼女が愛した艦娘たちを、見捨てるような真似などしとうないわい」

「シゲさん…っ!」

 

 シゲオの本心を垣間見たマユミは感極まるも、話の中で荷物を運んでいた職員が後方から声を掛けた。

 

「──ST・MTシステム、起動準備完了。直ぐモニターに映像出します!」

 

「…!」

 

 連合職員が部屋の隅に用意したST・MTシステムモニターを、マユミちゃんは気になる様子でソワソワしながら一瞥していた。

 

「…行きなさい、そのために用意したのだからの」

「うん、シゲさん…色々ありがとね!」

 

 マユミはお礼を言ってシゲオから離れると、ST・MTシステムモニターから映し出される光景を今かいまかと待っている。

 マユミの後ろでは、様子を見守るシゲオが懐の預言書と一緒にクリップで挟んだ、それとは別の内容が記された手紙に目を通していた。

 

『──シゲオ君、これを見ているということは私はもうこの世界には居ないだろう。これはこの世界の未来を記した「預言書」のようなものだ、これを君に預ける。

 そして願わくばこれを基に未来に現れる「次代の特異点」の手助けをしてあげてほしい、彼が現れる頃には君は老いていることだろうがその間に心にもう少し「余裕」を持っておくことをお勧めしよう、君は真面目で思ったことが直ぐ顔に出るからね……ふふっ、私の後継者に笑われぬようしっかりするんだよ?

 …シゲオ君、彼は本当に面白い子だ。君が彼に会った時どんな顔をするのかそれを見れないのは残念だが、きっとこの世界に新たな「風」を運んでくれることだろう。私は彼や君たちがどんな風に世界を変えるのか、天に還り見守っているよ。

 これからの君と世界に幸福があらんことを── イソロク・ヤマモト』

 

「(…元帥閣下、"私"も驚きました。あの子は今の柵(しがらみ)に囚われない強い意志の持ち主です、少々芯がぶれる時もありますが…それを差し引いても確かに彼ならば、或いは…)」

 

 シゲオは目を細めては草葉の陰から見ているであろうお方を懐かしんでいると、マユミちゃんが声を掛けた。

 

「シゲさんやっぱり気になるの? ね! 良かったら一緒に見ない? …っあ、やっぱり難しいよね。深海金剛を見ることになるし…ごめん」

 

 マユミがシゲオの深海金剛に対する複雑な心境を察知するも、シゲオは朗らかに笑って見せた。

 

「いやいや、若いモノが年寄りにいらん世話掛けるものでない。彼女がどのように変わってしまったか、この眼(まなこ)に焼き付ける準備は疾うに出来ているわい」

「そっか、なら……」

「すみません、お話し中ですがモニターに映像写します。……っ!? こ、これは……!!?」

「うぇ、どうしま……っ! こ、これって…」

「(来たか…)」

 

 連合職員の驚きを皮切りに、モニターを見た者たちに戦慄が走る。そこに映し出されたのは──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──サイハテ海域、最奥付近。

 

 僕たちは深海金剛の居る最奥エリアを目指して、只管赤い海面を掻き分けて進んでいた。

 とはいえ楽に到達出来る筈もなく、道中に出てくる深海棲艦の大群を相手取りながらになる。しかもその大半は──

 

『──GRRRRURAAAAAーーーッ!!』

 

 ──ズンッ!!

 

「綾波、お願い!」

「了承!」

 

 2メートルはあろう灰色の巨体を持つ怪物から放たれた「砲撃」、僕らに向けられた必殺の一撃を綾波の「重力操作」で狙いを逸らす。綾波の周りに貼られた球状の透明の膜に敵の砲撃が重なった時、砲弾は滑るように膜をなぞるとそのまま僕らの後方彼方へ飛んで爆発した。

 その様子を怪物の隣で観ている黒いワンピースを纏った女性は、苦々しい表情で僕たちを睨みつけている。戦艦棲姫の砲撃だ、生で見ると迫力がエライことになってる。前の僕なら気絶してたかも? 実は今も怖いんだけど…だからって、引いてやるもんか!

 

『…フフッ!』

 

 戦艦棲姫を振り切ると今度は空母棲姫の深海艦載機が飛んできた、港湾棲姫のケタケタ嗤ってるヤツと同じだ…でも!

 

「翔鶴!」

「分かったわ!」

 

 翔鶴はふわりと水面から離れては宙に浮き上がる、彼女の背中には青い翼のような炎のエネルギーが放出されている。後ろを振り向き様に構えると背中の青い炎と同じエネルギーが「弓」と「矢」を創り出す、それから矢を直ぐに離して射出、青い炎の矢は高速で敵艦載機に向かうと艦載機に様変わりする、炎がそのまま戦闘機に形変わって敵艦載機をすり抜けると、敵艦載機は抵抗する間もなく爆発四散した。

 空母棲姫が驚いている間に、翔鶴の艦載機は彼女の肌に弾丸を浴びせた。弾が着弾した瞬間何かが灼けるような音が海域に響き渡る。

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアア…ッ!?』

 

 空母棲姫が腕を抑えながら嬌声を上げて呻き始めた、どうやら翔鶴の艦載機の銃創からダメージを受け続けているようだ。

 翔鶴の創ったエネルギー「エーテル光子」は高次元のエネルギーで、触れたり近くをすれ違うだけでも桁違いの「熱」が全てを焼き尽くす。それは体内の細胞全てを、深海棲艦の「自己再生能力」をも上回るスピードで、エネルギーが体内で燃え尽きるまで続く。要は「対深海棲艦特効能力」といったとこかな? でも…?

 

「…翔鶴、それを僕らに向けないでね?」

「何? 大丈夫よ。私の弓の腕侮らないでね、撃ち損じはしないわ…多分」

「多分っ!? ゔぅ…;」

 

 僕が彼女の言葉に背中が冷たくなる気分になると、海中から何かが近づいて来る気配がする…ん!? あれ「魚雷」じゃない?! 艦これ的に言うと「右舷から魚雷接近中!」だよ!

 

「魚雷が近づいてきている! 皆気を付けて!!」

「そう焦んな大将、どうせ潜水艦も出るだろうってソナー装備してっからよアタシ」

『魚雷はボクが…ふんっ!!』

 

 望月が魚雷を撃った敵を探っている中、野分は剣を海面スレスレで思い切り振ると…風圧で右舷方向の波が打ち上がる、白波が立つと同時に敵が撃ったと思われる「魚雷」が宙に姿を現すも…野分の目にも止まらぬ剣捌きであっという間に微塵切りにされ、空中で爆破して散った。

 

「…ふぅん、あそこか? ほいっと」

 

 望月が手に持った「爆雷」らしき黒い物体を海に雑に投げ込む、すると黒爆雷は独りでに──まるで魚雷のように──目標に向かって海中を潜り進んで行った…そして。

 

 ──ズドオオオオォンッ!!

 

『──キェエアアアアアア…ッ!!?』

 

 右舷遠方で爆発音と水柱が確認される、同時に白い人影が宙に浮いて吹き飛ばされていた。あれは「潜水棲姫」みたいだね…望月の予測通りだ。

 

「ありがとう望月、野分も…本当にすごく強くなったね! …あ、ごめん。別に深海棲艦になって良かったって訳じゃ…;」

『ノンノン、気にしないで下さい! ボクの見た目は醜くなってしまいましたが、コマンダンや皆さんを御守り出来るならこの程度、どうということはありません!』

「ヒッ、そういうこった。大将はアタシらのことより前向いとけよ? ここにゃあ敵がわんさか居るんだ、アンタも索敵ぐらいしてもらうぜ?」

「りょ、了解! 拓人指揮官配置に戻りますっ!!」

「おーおー、頑張れがんばれ~」

 

 望月に毒づかれながらも、僕が前に集中していると…ん、前方に敵艦隊を発見。数は6隻、内訳は……っ!? なんじゃこりゃあっ!!?

 旗艦「軽巡棲姫」、随伴が「駆逐棲姫」「駆逐水鬼」「駆逐古鬼」「防空棲姫」「防空埋護姫」ぃっ!? はあぁ〜〜〜っ?!! おいおいオールボスクラスの水雷戦隊と来ましたか…本家のゲームでこれ来たら絶対荒れるな、うん。

 

「──邪魔だ!」

 

 天龍が怒号を上げながら高速を駆使して先頭に躍り出ると、鞘に収めた刀に手を掛けた。

 

 シャ…──ズバッ!!

 

『──ア"ア"ア"アアァーーーーーッ!!?』

 

 何かが擦れる音がしたかと思えば、眼前の敵オールボス水雷戦隊が一瞬で一太刀に斬り伏せられていた。まるで次元ごと斬り裂いたように空間に斬撃の太刀筋が浮かび上がり、直線上に居た敵を切り裂いた形だ、それでも怯んだだけで轟沈には至ってない。今の僕らには時間が無いから峰打ちってことで?

 天龍のこの技はトモシビ海域で見たものを昇華させたものだろう、あの時はロボットをバラバラにしていたが近づかないと技を当てられなかった。それが今は近づくことなく遠距離から敵を斬ることが可能になった。天龍の能力は「次元を越えたスピード」なんだけど、言ってしまえば綾波や翔鶴の能力より見劣りしてしまう自らの力を鍛錬と工夫でここまで強化してしまうことは、彼女のストイックな性格が齎した成果だろう。

 

「流石僕の相棒!」

「ふっ、油断するなよ? 俺たちは今敵地のど真ん中に居るのだからな」

 

 僕の褒め言葉に微笑みながら、天龍は周囲の見張りを厳とするように注意した。

 …道中がこれでもかと姫クラスが現れてる、本来なら戦慄するとこだけど、これは……ここまで彼女たちが強くなっているなんて想像つかなかった。いや、確かに感覚が麻痺していたけど…姫クラスをしても今の天龍たちを止められないなんて。

 考えてみればそうだ、今の彼女たちの能力及び実力はRPGにおける()()()()()()()()()()にある。望月は単純な戦闘力では計れない頭脳を持ち、野分は深海化で身体能力が大幅に強化、天龍と綾波も改二でボスクラスの能力を得たし、翔鶴なんて「ラスボスです」って言っても誰も疑わないチート能力を持っている。

 深海棲艦の巣窟なんて言うから、道中でダレかが沈むんじゃないかって心配してたけど……これは……()()()()()()()()()()()()()()()! 深海金剛にも劣らず、勝(まさ)っている可能性も否定出来ない。今の彼女たちなら…っ!

 

 

 ──そんな僕の淡い期待を打ち砕くように、それは来た。

 

 

「…っ! 皆っ、奥の方が見えた!」

 

 僕は艦隊にサイハテ海域の最奥が視認出来たと号令を掛ける、赤い水平線に黒い人影が見えて、その頭上にある赤い空に浮かぶ雲が渦を巻いているように漂っている。事前にシゲオさんから聞いたとおりの情報だ、だとしたらあの人影が…っ!

 水平線上の点だった人影は近づくにつれ徐々に大きくなると輪郭を示し、人物的特徴と周りの現状を露わにする。その光景に…僕らは息を呑んだ。

 

「──…っ!? な…何だ……アレ…?」

 

 一言でいえばそれは──死屍累々であった。

 

 一人の人物を中心に動かなくなった文字通りの「死体の山」が実に数百と視界一杯の海面に積み上げられている、その死体はどうやら全て「深海の鬼・姫クラス」のようだった。原作で艦娘たちが艦隊を組んでも一隻又は複数隻相手取るのもやっとの深海棲艦の中でも脅威の鬼・姫クラス。そんな並ぶモノの無い強ジャたちが…()()()()()()()()()()()()()()

 戦艦棲姫、空母棲姫、軽巡棲姫、先ほどのボス艦たちの別個体に加えて泊地棲姫、飛行場姫、水母棲姫、中間棲姫、それと…見たことのない姫クラスも居るな? 多くの艦娘たちを苦しめて来た過去の強敵たちが「一人の鬼」によって全イン叩き伏せられていた。

 これだけでも恐怖場面なのだが、鬼は近づいて来る僕たちの存在を認知すると──()()()()()()()()()()()()

 

『──ウェ~~ルカァ~~ムッ、ヨクゾココマデ…辿リ着キマシタ。運動ノ相手ガ居ナクナリ暇ヲ持テ余シテイタ所デェ~ス。貴女タチハ……少シハ頑丈ニ耐エテクレマスヨネェ? コンナ場所マデワザワザイラシタノダカラァ…ヒヒヒッ!』

 

 その鬼は…黒に染まった巫女服、腰に結び付けられひらひらと宙に舞う天衣(てんえ)、額の二本角に死んだような灰色の肌、そして…狂ったように嗤う張り付いた笑顔。だがその顔立ちはまさしく…僕らの知る「金剛その人」だった…!

 

「…っ!」

 

 まるで金縛りだった、僕は鬼の金剛の顔を覗き見た瞬間、磔(はりつけ)にされたように体が思うように動かなくなった…”恐怖”、本能が彼女を「畏れて居る」んだ。

 あれが深海金剛…まさかサイハテ海域中の鬼・姫クラスを全て下してしまうとは、甘く見ていたつもりはない…けど、悔しいけど彼女は圧倒的に次元が違う。今までの敵とは…絶対に比較にならない。戦闘に関してはからきしで弱かった僕でも、今までは立ち回り次第で上手く皆をサポート出来た…出来ていたと思いたい。しかしこれは……この拭いきれない冷や汗と戦慄は、戦う前から敗けることを容易に悟らせる。僕は今…「蛇に睨まれた蛙」だ…っ。

 

「…くっ」

「──大丈夫か、タクト?」

 

 僕が自身の恐怖に打ち拉がれていると、隣の天龍はいつもと変わらない厳しくも柔らかな声で僕を呼び掛けてくれた。

 

「怖いか? これが戦いというものだ、俺たちはいつも…自らが沈むかもしれないという恐怖と戦っている。殺意を持った艦娘やニンゲンたちに内心怯えているんだ、だが今は…何故だろうな、この場で沈んだとしても俺に、俺たちに「後悔はない」のかもしれないな。そう思わせてくれるのはおそらく…お前と共に道を進んでいるからだと、そう思いたい」

「天龍…っ!」

「お前は敗けるためにここに来たのではないだろう? ならば…その旨を堂々と言ってやれば良い、あの鬼神に対し…お前が何をしに来たのかを。俺たちは──お前の意志と共に在る」

 

 言われた僕は辺りを見回す、僕の方を見て微笑む天龍に、いつものようにニヒルに嗤う望月、穏やかな笑顔を浮かべる綾波、頼もしさを感じさせる堂々とした笑みを向ける野分、そして…真っ直ぐ僕を見つめては「大丈夫」と無言で問いかけ、不安を払い除けてくれる優し気な顔を見せる翔鶴。彼女たちは…どうなろうと最期まで僕を信じてくれるようだ。

 …ありがとう、心の中でそう呟くと僕は鬼の前に進み出る。そして…声を張り上げ簡明直截(かんめいちょくせつ)に要件を告げた。

 

「──大英雄金剛! この世界を自らの存在を賭して守り抜いた艦娘よ! 初めまして…僕は色崎 拓人。僕は…僕たちは貴女と…()()()()()()()()!!」

 

 …少しの静寂、波の音がざぁざぁと騒ぎ始めた頃──()()()()()()()()

 

 

 

 

 

『アッハッハッハハハハハッハハハハハハハハハハ!!!』

 

 

 

 

 

 鬼が笑った。

 

 腹を抱えた侮蔑の嗤いではなく、そう来なくては! そう喜びの頂点に達したような大笑いだった。

 

『…タクト? 可愛ラシイ名前デェス、シカシソノ眼ハ確リト…私ヲ見据エテマァス、マルデ本気デ私ニ勝ツツモリノヨウデェス!』

「つもりじゃない、勝ちます。僕たちには勝たなくてはいけない理由がある、勝つ気で行かないと…エリが元に戻らないから!」

『フゥン…?』

 

 ニヤリと嗤って目を細める深海金剛、そして何かを察したように理解を表す言葉を投げた。

 

『ドウヤラ…相応ノ時ガ流レタヨウデェス、貴女ガタハ私ヲ倒スコトデハナク、何カ別ノ目的ヲ果タソウトシテイルミタイデスネェ? ソレガ何カハ私ニハ理解出来マセンガ…ダカラトハイエ、ソウ簡単ニ勝利ヲクレテヤルツモリハネェデェス!

 良イデショウ。今ノ私ノ破壊衝動(ぜんりょく)…果タシテ貴方タチデ収メラレルカドウカ…試シテアゲマァス!!』

 

 そう言葉を終えると、鬼は静かに胸を張り両腕の拳を力強く握り締める。そして荘厳な威圧を放つと声を高らかに僕らを焚き付けんと吼え立てた。

 

『──Come on Rookies! 年季ノ違イヲ教エテアゲマショウッ!!』

 

 その言葉を合図に、僕らも戦闘態勢を取った。ここに…地獄の戦場の蓋が開いた!

 




 深海金剛邂逅シーンのおすすめBGM=魔王〇ディオに捧げる絶望のフーガ(〇イブ・アライブリメイク)

 ・・・てへぺろ(・ω<)
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