艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 やぁ〜りまぁ〜したぁ〜。(帰還)
 随分お待たせしてしまい申し訳ございません、では続きと行きましょう。

 おっと、最初に言及しますと深海金剛の「全属性使用可能」の定義は──

 ──ポ○○ンの全タイプ技使用可能+α

 ・・・と、考えて頂けたら。ネタかって? いいえ大真面目です。

 ※またも急展開かもです、ご容赦を。


波は掻き消え── ②

 イノチ懸けの戦闘データ奪取戦、第二の戦いが始まった。

 最初から全力でぶつかり合う深海金剛と綾波、深海金剛は綾波の実力を認め奥の手である「時間の流れを止める」手段に出る、しかし──何故か時間は止まらず、深海金剛はフラフラと身体を揺らし始めた。

 その時…望月の声が通信から「好機の音」が響き渡ると、綾波は即座に一撃必殺の態勢に入った。

 深海金剛がフラつく身体で上空を見やると、宙を舞う綾波が巨大戦斧を構えて頭をかち割ろうとする光景を目にする。これを真面に受ければ身体が真っ二つとなり、そうなれば幾ら深海棲艦である深海金剛でも身体の再構築に多大な時間が掛かることは容易に想像出来る。

 

 大きな隙を見せた鬼神は遂に致命傷を負うか? 束の間の静止の後、綾波が振り上げた戦斧を勢いよく振り下ろす…が──

 

 ──ガギィンッ! ギャギャギャギャ…ッ!

 

「…っ!?」

 

 綾波は急転直下の状況に驚きを隠せなかった。

 

 結果として綾波の攻撃は通らなかったのだ。何と、深海金剛が掲げた片腕から「鱗」が見え始め、それが綾波の断撃を防いでいたのだ…っ!

 

『──”竜属性”ィ…ッ、所謂「変化魔法」ノ最高位ノ一種デス。時間停止ノ例モ出タノデ、出来レバ使イタクハアリマセンガ…竜ノ鱗ハ冷気以外ノドンナ力モ弾キ返ス、強靭ナ防御力ヲ誇ルノデス。コレデ…貴女ト対等ニ「殴リ合エマス」ネェ…?』

 

 深海金剛の驚きの発言に、対峙する綾波より先に信じられない様子を見せたのは、遠目から綾波の戦いを見守る拓人たちだった。

 

「何だって…竜属性!? 生物も属性に入るなんて、そんなの…っ」

「いや、竜は大昔に実在していたと言われる幻の古代種を、魔法や魔術で再現した代物だ。その存在は世界を形作ったとされる概念として扱われているからねえ、似たようなので随分前に滅んだワービーストを再現するために新たに作られた「獣属性」っつーものも存在するぐらいだ。元素や気候を操るだけが属性じゃねーってこった」

「…そうだね、何でもアリなのはもう分かりきったことだったんだし、このぐらいで驚いてちゃいけないよね」

「ヒッ! そういうこった。それよりこっからだぜ…アレが防がれる可能性は十分視えていたから、それが現実になったからにゃあ…向こうさんの勢いをどう崩すかが次の展開の鍵になるだろうぜ」

 

 望月は拓人を窘めつつ敵の次の動向を窺い、一手以上先の「策」を慎重に練っていた。この「いつ全滅してもおかしくない」状況で、多少の失敗だけで狼狽えることはイノチ取りであり、冷静に事実を見つめて次に活かすことが最も得策なのだ。

 望月の話の通り、竜属性とは竜の特性を魔法で再現しその身に宿すことが出来るもの、事実深海金剛の片腕を始め、身体のあらゆる場所から紫かかった鱗が見え、瞳も縦に亀裂が走ったような細長い瞳孔に変化している。

 綾波は異変を認めると戦斧を深海金剛から離し、そのまま距離を置く。斧の刃は望月の特注品のためか、目に見えた刃毀れは無かった。

 

「(全属性の有用性を余すことなく使っている、流石です…確かに物理攻撃において竜の鱗は最適解、どんなに攻撃を重くしようともあの鱗を断つのは難しい…ですが)」

 

 綾波が窮地に陥っているのは確かだが、これで多少は戦闘データの収集が捗っただろうと、内心手を撫で下ろす思いだった。だが…それ以上に。

 

「(彼女は私の攻撃を凡ゆる方法で防ぐと予想出来る。私がどんなに多種多様に攻め込んだとしても、彼女は凌ぎ切るだろうと言い切れる。それが──怖い。沈むことに恐怖は無い、彼のために少しでも貢献出来ない自分が口惜しいんだ。このまま…力に押し潰されて何も出来ずに沈むのは、嫌だ。もっと…もっと力を引き出してやる!)」

 

 綾波は拓人のためと、悲壮の決意を以て自らの闘志を無理矢理引き上げる。そして…顔を強く引き締めて「般若」のような形相を作ると、巨大戦斧を掲げて、いざと鬼神に挑みかかる。

 

「ぉおおおっ!」

『来ナサイ。貴女ノ全テヲ出シタ「足掻キ」ヲ…私ニ見セテミナサァイ!!』

 

 余裕を崩さない深海金剛に、綾波は鬼気迫る表情で睨みつけながら刃の回転する戦斧を叩きつける。が──肘を曲げて片腕を出す深海金剛の一見単純過ぎる防御法でも、矢張り腕に生え揃った竜の鱗に阻まれ致命傷を与えることは叶わない。

 

「うああああぁっ!!」

 

 雄叫びを上げ兎に角手数で攻めようと、何度もなんども戦斧を叩きつけても目に見える傷が付かない。回転刃が深海金剛の腕に生えた竜鱗を削るだけで、ギャリギャリという不快音が空間に虚しく響くだけだった。

 

『ハッハァーッ! 蚊ニ刺サレタヨウナモノデェースッ!!』

「ならば…っ!」

 

 綾波は攻め手を変えようと、深海金剛に押し付ける戦斧を勢いよく離す。綾波の後方に力強く着水する戦斧の勢いは、綾波の身体を羅針盤の針の如く一回転させる。空中宙返りの格好の綾波は反動を付けたまま片足に深海金剛の腕を引っ掛けて防御を崩す。

 

『ッ!?』

 

 猪突猛進の攻勢からの搦手に驚きを隠せず、反応が遅れた深海金剛の一瞬の隙を突く形で、綾波は即座に着水し体勢を立て直すと──深海金剛の懐に向かい戦斧を宛行い、そのまま刃を回転させる。

 

 ──ギャギャギャギャッ、ギィー……ッ!

 

 深海金剛の正面腹部に容赦なく押し付ける、回転刃は盛大に火花を飛び散らせ不快な切断音を響かせながら、斬撃を絶え間なく竜の鱗に傷を斬り刻もうと激しく回り続ける。しかし…深海金剛の不敵の笑みを閉ざすことは叶わない。

 

「……っ!!」

『ソウ来マシタカ、デスガ…無駄デスネエェ!!』

 

 深海金剛は意に介す様子を見せず、腕を交差させた状態で回転刃の流れに割って入ると、止まった刃の乗った両腕を勢いよく引き抜く。クロスを描いた腕の力で回転戦斧は弾き出されてしまうと、綾波は反動で仰け反り隙を見せる。

 

「(しま…っ!?)」

『取ッタ…ッ!』

 

 一瞬の隙を逃すほど甘くない深海金剛、綾波の懐に瞬時に飛び込むと竜の鱗で覆われた右手の爪で綾波の胴体を引き裂こうと構える。

 

『ハアァッ!!』

「…っ!」

 

 竜の爪が今まさに胴を切り裂く直前、綾波は片足を海面に着けると直ぐさま能力を発動、重力の抵抗を無くした上で身体後方に重心を掛けて海面の片足で跳ぶ、片足でも力強い跳躍は裂爪の軌道から瞬時に外れる。

 

『──甘イ!』

 

 だが攻撃は止まない。綾波が射程距離外に出る前に、深海金剛は踏み込みながら左手の竜爪で素早く綾波の脇を引き裂く。

 

 ──ザシュッ

 

「…ッ!」

「綾波っ!」

 

 遠くから見守る拓人たちは、悲鳴に似た驚きの声を上げる。

 綾波は深海金剛から距離を取りつつ脇の傷口を確認する、鎧を貫通して五本線の爪痕が脇に残り血が滴り落ちている。この局面でかすり傷でも付けてしまうのは痛手か? それでも武器を構えて深海金剛と対峙する。

 

 このままでは埒が開かない、相手の隙を窺いながら一瞬の弱みを突くしかない。綾波がそう持久戦を覚悟した──その時、身体に違和感を感じる。

 

「──…っ! 何……っ?」

 

 頭が痛み目の前が急速に霞んでいく、身体の力が抜けていき疲労が重く伸し掛かる。それらの感覚は数秒経つごとに瞬く間に肥大していく、そして──最終的に身体が燃えるような錯覚に支配される。

 

「身体が……熱い…っかは!?」

 

 身体に宿る「熱」を知覚した瞬間、()()()()()()()()()()()。それだけでも明らかな異常だが、更に脱力感と負傷部の痛みが増していくのを感じ、思わず膝を突く綾波。

 綾波の体調の急変は、戦いを見守っていた拓人たちの目にも飛び込んだ。体制の崩れた彼女を見た拓人たちは何事かとどよめく。

 

「な、何が起こったの!?」

「攻撃が掠っただけであの様子はおかしいぜ、何かされたとしか思えねぇが…この距離じゃあどうなってるか」

『…ッ! あ、あれは!!』

 

 拓人と望月が困惑する中、野分は何かに気づいた様子で綾波たちの方を見やった。

 

『コマンダン、ボクの眼から綾波さんの様子が見えました。どうやらボクは深海化による身体能力上昇の恩恵により「視力」も上がったようです』

「本当!? どうなったの?!」

 

 焦った様子で野分に現状を伝えてほしいと迫る拓人。

 野分が視た光景とは、まるで望遠鏡のようにズームアップされた一幕──屈した綾波の顔に黒い斑点が出来ている事と、彼女の前に立つ深海金剛の左手の竜爪から「明らかに有害な色をした液体」が海面に滴り落ちている場面であった。海に雫が着く度にジュッ…という異音と共に煙が上がっていた。

 

『綾波さんの体表に黒い斑点を確認、深海金剛の片手には禍々しい液体が見えます。あれはまさか──”毒”!?』

「…っ!?」

 

 毒…その一言に否応無しに更なる緊張が走る拓人たち、深海金剛はその言葉を受けてなのか悠々と語り始める。

 

『少シ戦イ理解シマシタ、貴女ハ戦士トシテ一流デス。此方ガ一瞬デモ隙ヲ見セレバ確実ニ致命傷ヲ付ケラレル、ソウ確信シタノデ…掠リ傷デモ戦力ヲ奪エルヨウ「細工」サセテイタダキマシタ』

「…っ、まさかそれは……毒、ですか…っ!」

『YE~~~S! 人類ニトッテ有害ナ物質モ世界ヲ構築スル概念足リエル、言ワバ「毒属性」デェ~ス! 頑強ナ艦娘ニモ効ク特別強イ毒ヲ用意シマシタヨ?

 コレデ万ガ一モ無クナリマシタ…貴方ガ何ヲ仕掛ケヨウトモ、ソノ身体デハ竜鱗ハ砕ケマセン、持久戦ニ持チ込メバ毒ガ回ッテ貴女ハ「じ・え~んど」! サァ…死ノ間際マデ抗ウカ、ソレトモ弱ッテ手元ヲ滑ラセテ致命傷ヲ負ウカ、貴女ハドチラデショウネェ~~~? アッハハハハ!!』

 

 勝ちを確信した故の下卑(げび)た笑い声を上げる深海金剛、綾波は彼女の笑いを跪いて聞くしか出来なかった。

 力を引き出すと言った手前──能力を披露させることは成功したが──呆気なく足を取られてしまう不甲斐ない自分に虚しささえ感じるも、まだ何か手があるはずだと逆転の策を思いつくため思考を巡らせる。でなければ…深海金剛の謀略によって無残に沈むだけだ。

 

「(どうすれば…司令官……団長──)」

 

 毒が完全に回り出したか、身体に酷い寒気を感じ意識が朦朧とし始めた。このままでは戦うどころではなく、そのままイノチが尽きる危険性があった。

 

 その時──綾波の脳裏には在りし日の団長の言葉が思い起こされた。

 

 

「──一番大事なことは「己の正義を貫く覚悟があるか」…よ。綾波、貴女の正義って何?」

 

 

「──…っ! そう…私は、皆を…守りたいっ、そして…司令官と共に、未来へ…生きたい!」

 

 自分が任務を失敗(しくじ)ったあの日、団長から問われた「己の正義」。そして──そのための「覚悟」、その想い。

 綾波は消えかかった胸の炎を再点火させる、それは弱き者たちを守る「騎士の矜持」と、拓人との交流から生まれた新たな正義「生存への渇望」であった。

 正義にしてはエゴがふんだんに練りこまれているが、それでもこれが…綾波という艦娘が今持つ正義の全てだった。

 

「(元より生き残るためには何をすることも躊躇いはない、ならば──)」

 

 人知れず決意を新たにした綾波はそのまま蹲り、首を差し出すように顔を真下に向けて微動だにしないまま沈黙を保っていた。傍から見れば「降参」しているように見えるが…?

 

『フゥン? 貴女ホドノ女傑ガ何モシナイノハ疑問デスネェ、企ミガアルノハ確実デスガ…下手ニ暴レラレテモ困リマスシ、ソノ一筋ノ希望トヤラヲ受ケタ上デ絶望ニ押シ潰スノモマタ一興! デハ…遠慮ナク!』

 

 深海金剛は綾波が隠し持つ作戦を看破した上で、強さへの絶対の自信から敢えて引っ掛かるように綾波に近づくと…徐に右手を上げて黒紫に染まる毒の液体を滴らせながら、綾波の身体を引き裂くため勢いよくそれを振り下ろそうとする──

 

「──…っ!」

 

 刹那、綾波は立ち上がりざまに深海金剛の懐に飛び込む。そして腹部に右手を押し当てる、その手の平に形作られたものは──重力で球状に空気を圧縮した「空気爆弾」であった。

 

『アハッ! 斬ルモ砕クモ出来ナイナラ「吹キ飛バス」! 成ル程…デスガソノ程度デ──…ッ!?』

 

 深海金剛が威力の知れたものを嘲笑っていると──綾波は球状を維持しつつ空気圧を緩め、球の規模を膨張させると()()()()()()()()()()()()()()()()()

 綾波は深海金剛が内側に入ったことを目視すると、即座に圧力を強め中から外に出られないよう固める。透明の膜に覆われ中の空気と共に閉じ込められ、身動きが取れなくなった深海金剛は──これから起こるであろう一連の流れを読み取り、思わず青ざめた。

 

『コレハ…マサカ、貴女ハ……ッ、クソ…ッ!?』

 

 焦った様子で膜を内側から、竜爪で引っ掻き続ける深海金剛。だが膜が破られる様子はない、元々空気を集めるため相応の圧力と重力負荷が掛けられているので、力を込めた一撃必殺の威力でなければ脱出は難しいのだろう。

 だが綾波はその力を込める時間も与えない、迅速に深海金剛を取り込んだ空気爆弾を──圧縮し始めた。

 

『ッグ、矢張リ──グ、ゥヴオ"オ"オオオッ!?』

「…貴女が、何事も慢心するヒトで良かった。こんなことで貴女がどうにかなるとは思いませんが、それでも…貴女の本気を引き出す切っ掛けにはなる筈です!」

 

 安堵と威勢の良い言葉で締めると、綾波は空間圧縮に更に力を入れた。徐々に圧縮空間内が縮んでいく、迫り来る透明の壁に攻撃を止めては、全力で押し返して脱出を図るも、刻一刻と増していく圧縮の強度に上手く力が入らない深海金剛。身体の立ち姿勢も堪らず崩れそうになるがしぶとく踏ん張っていた。

 拓人たちは先ほどから目まぐるしく変わる戦況に理解が追いつかないも、異様で危険な状況を何とか感じ取ることが出来た。

 

「い、今はどういう状況!? ヤバいことは遠目でも分かるけど…綾波…っ!」

「コイツぁ──不味いぜ! おい翔鶴!! 降りて来てこっちに改二甲とかのバリアー張ってくれ! 緊急事態だ!!」

「っえ!? …っ、分かったわ!」

 

 望月は上空で警戒していた翔鶴に呼びかけ、改二甲のエネルギーフィールドを張らせる。どういうことかと拓人が尋ねると──望月は神妙な面持ちで答える。

 

「大将、残念だが綾波のヤロー──死ぬ気だ。アイツぁ重力で空気を限界まで圧縮させることで「大規模な爆発」を起こそうとしていやがる、側で圧縮操作する自分も巻き込まれることも、恐らく承知の上で、だ…っ」

「っ! まさか……っ綾波! 馬鹿な真似は止めてくれ!! 僕のために生き残るって約束しただろうっ!!」

 

 拓人は通信で綾波に呼びかける、綾波は淡々と己の気持ちを綴り放つ。そこには確かな一筋の「希望」が感じられた。

 

『ご安心下さい司令官、空間を限界まで圧縮したことを確認した後、私の周りに「斥力膜」を張る算段です。それで爆破の威力は私の前から無くなる筈、司令官は翔鶴さんに頼んで障壁の中へ避難を。…大丈夫、貴方との誓約を破棄するつもりはありません、最後まで──足掻いてみせます』

「っ、無茶だ…君は今毒に侵されているんだろう? 毒に耐性のある艦娘の身体をふらつかせるんだ、影響がないわけ無い。今の君にそのタイミングを見極められるとは思えない、博打も良いところだっ! だから…綾波……っ!」

 

 拓人は綾波の覚悟を踏み躙るような言葉を敢えて投げかける、主が止めに入るのだから騎士としての彼女なら思い直すだろうと何処か期待していた。だが──綾波は緊迫した現状に似つかわしくない柔らかな声で拓人を諭した。

 

『司令官…最期まで私をヒトとして見て下さるのですね? 本当に嬉しい限りです、そんなお優しい貴方を守るためなら、このイノチを賭けることも惜しくありません』

「そんな、最期だなんて言わないで…何か、なにかまだ方法が!」

『毒に侵されたこの身体では、もう十二分に動くことも儘なりません。その上で彼女に致命的なダメージを与えて生き残るためには、私には…こうするしか思い浮かびませんでした。朽ちた橋を渡る愚行を取った私の力不足を…お許しください…っぐ』

「綾波!」

 

 綾波の呻き声は今正に毒が彼女の身体を巡っている証拠、分かりきったその事実は拓人を更に焦らせた。満身創痍になりつつある綾波を、拓人はただ見ていることしか出来ないと歯痒い気持ちが胸に鈍い痛みを走らせた。

 

 ──だが、同時に拓人も冷静に状況を俯瞰して考え始めていた。

 

 深海金剛の底知れぬ実力を引き出さなければ、エリは復活出来ない。改二は並ぶモノの居ない能力を開花させた状態、その改二艦たる綾波がここまでしなければ深海金剛を追い詰めることは叶わないのだ、綾波のイノチを諦めることは出来ないが…捨て身だが彼女自身も生還を投げ出していない以上、自分が自棄になって彼女の──おそらく自分のための──油断必死の作戦を否とするのは、彼女の決断を否定することと同義である。

 

 胸の痛みを抑えながら、拓人は──綾波のために非情な宣告を伝える。

 

「──………~っ、分かった。だらしないけど僕には君を信じることしか出来ない、君に任せるよ。でも──必ず、帰って来てね? 君は僕の「守護騎士(ナイト)」なんだから!」

『っ! …うふっ、その言葉は誉ではあれ、少し気取られてますね?』

「こういう時何て言っていいか分からないし、というかいきなりだから頭も回ってないし、へ、変なこと言ってたらゴメンね!」

『いいえ、勇気を頂きました。ありがとうございます司令官…必ず戻ります!』

 

 拓人のいつもの調子のような言葉に、暖かな気持ちがこみ上げ思わず微笑む綾波。彼女は自分が守るべき対象を再認識してから、通話を終えて鬼神に向き合った。

 

「──はあああぁっ!!」

 

 綾波は強く念じながら空気を圧縮し続ける、深海金剛の剛力で空気の壁が押されそうになれば、すかさず新たな空気を圧縮しそれを重ね掛ける。圧縮された空気の内側は次第に光熱に満ちていく。

 

『グギギギィ……ッ!?』

 

 内側で反抗し続ける深海金剛は、自身の身体に違和感を感じて視線を下にやる。すると──彼女の身体を覆う竜鱗はボコボコと沸点を超えた液体のように泡立っていき、醜い様相となり始めていた。次の瞬間には体表面から焼け広がる煙と刺すような痛みに悶える深海金剛。

 

『グア”ア”ア”アアアアアァッ!!? ヤ、灼ケル…私ノォ……身体、ガア”ア”ア”ァッ!?』

「どうやら、熱に耐性のある竜鱗でも圧縮熱には耐えられないようですね。どの道圧し潰すつもりでしたが…さぁ、どうされます? 空気は無理やり圧縮すると高熱を帯びると聞きます、限界まで圧し込んだ熱は…果たして貴女に耐えられますか…っ?!」

 

 赤く腫れた深海金剛に、綾波は容赦の無い一言を放つ。だが彼女も弱った身体を歯を食いしばりながら立ち上がらせている、勝負の予測は五分か、綾波が有利か? しかして深海金剛の隠された能力を考えるとそう悠長に構えられない。

 

『グゥオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

「お"お"おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 圧し潰す綾波、耐える深海金剛。しかし圧縮された空気の中で深海金剛は着実にダメージを受けていく、印を結んで「五行廻輪」でダメージを無効化させる暇も無い、深海細胞の回復も間に合わないほどに強烈な火傷を負っていく。このまま行けば深海金剛であれ沈む可能性も有り得る。

 

 果たして何方に勝利は傾くか、戦場に緊迫が走る中──その時が訪れる。

 

 何百と重ねられ、内の様子が伺えないまでの白光に包まれた球は内側の空間ごと徐々に縮まって行き、遂に目に見えなくなるほどとなった。そして──

 

「っ! ──」

 

 

 

 ──ズドオオオオ・・・・・ォォ・・・・・ッ!!

 

 

 

 形を保てなくなった空気爆弾は、解除された瞬間急速に拡がる、円形の熱エネルギーはサイハテ海域を包み込むように押し進み、世界は──熱く白い光の領域に飲み込まれていった…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 静寂の訪れた紅い空、その眼下には──水底まで見える巨大な穴が視えた。

 

『──うわぁっ!? う、海に大穴が?! だ、大丈夫なの? というか綾波ちゃんは…っ!?』

『落ち着きなさいマユミちゃん。穴はその内波に飲まれるじゃろうが、しかし…何と強大な威力じゃ。おかげで「空間遮断壁」とやらもぶっ壊れたようじゃぞ、マサムネよ?』

『おや。本当だネヴェイビー! 遮断壁自体は片手間で出来るから暫し待ちたマエ。おっと…ユリウス、今のデータ収集率はどんな感じダイ?』

『あぁ…あまり喜ぶ状況でもないが、それでも良い感じだ。収集率が「50%」を超えた…綾波君は、立派に務めを果たした。本当に…有難いことだ…っ』

 

 鎮守府連合医療エリアで慌ただしく動く人々の声が、通信機から木霊する。拓人たちは…翔鶴のエネルギーフィールドで難を逃れたものの、静かに波打つ海面に綾波の姿が見えないことを認めると…心には彼女を護れなかった悔しさよりも、またも喪ってしまったことへの後悔と押し寄せるような虚しさが溢れて来る。

 

「綾波…っ」

「タクト…綾波はお前のために戦い抜いた、結果は残念だがその思いは…誰にも否定されるべきではない、そうだろう?」

 

 拓人の腕の中に抱かれた天龍は、涙を流す子供を優しく諭すような声色で彼女の思いを受け入れるように言い聞かせる。例えそれが自分たちが目指した「理想」と対極にあるものだとしても…。

 現実を叩きつけられ、全員無事は果たせなくなってしまったが、綾波の犠牲によって深海金剛の戦闘データ収集は大きく進行した。エリは綾波を犠牲にしたことを怒るだろうがそれは「自分の未熟千万による責任」である、そのツケは必ず払うと…胸の中で確りと誓う拓人だった。

 

「ブルーになってるとこ悪いけどよぉ、深海金剛が今の爆発でも生きている可能性は高いぜ? 暫く周囲の様子を見るべきだぜ…次にどんな能力披露してくるか分からねーからよぉ?」

「…うん、そうだね。──……? ぁ……あれって!?」

 

 拓人が望月に言われ顔を上げて周囲を見回そうとした瞬間──海底の見えるまでに開いた大穴が巨大な渦潮となり元の海面に戻りつつあった場面の…遠く左方向に対し、波に揺られて力無く浮かぶ人影を発見する。それは──

 

「──綾波だ、綾波が…まだ生きてる!?」

「っは!? マジか?」

『──…確認しました。右半身に大火傷の痕があり完全に気を喪っている模様ですが、息があります。…生きています! 綾波さんがっ!!』

「やったわね!」

「おいおいマジかよ、やりやがったぜあのヤロー!」

 

 綾波はまさかの生還を果たしていた、あれだけの大爆発の中心に居たにも関わらず、鎧が砕けた半身の火傷程度で済んだということは無事斥力防壁の生成が間に合ったのだろう。

 不屈の守護騎士は鬼神との死闘からイノチ辛辛(からがら)帰還した、その事実は拓人たちに大きな希望を持たせることに十分であった。静かに吐息する彼女を遠目から胸を撫で下ろしながら見やる一同──

 

 ──すると、拓人の目には綾波の後方空間に浮かぶ「線」が見えた。空中に一筆走らせたような黒く細い線は…やがて丸みを帯びて完全な円形となると、その中から人影が飛び出した。

 

『──ハァッ、ハァ……ッ!』

 

『っ! コマンダン、深海金剛の生存確認しました!』

 

 野分の見張り報告に、拓人たちの視界は再び暗雲に包まれた。深海金剛の姿は肌の竜鱗が膨れ上がり、身体のところどころ焦げた焼け跡が散見された。拓人から見ても服もズタズタに焼け落ちたボロボロの状態だと分かる、ほぼ瀕死の身だと理解するも同時に綾波に向けられた「殺意」も遠くながら感じられる。

 生きていることは分かりきっていた、だが一番不味いのは気絶している綾波の前に、何処からともなく一瞬にして現れたことだ。

 

「どうやら異空間に逃げ込んでたようだぜ、ありゃあ「空間属性」ってヤツだが…まさか綾波の前に移動して来るとは、流石にタイミング悪いぜ」

「っくそ、助けないと!」

 

 拓人が咄嗟に行動しようと周りに働きかけるも、深海金剛は無言で片腕を振り上げ手の平を開き五本指に力を入れる。遠巻きに様子を見ていたことが仇となり、距離がある以上今すぐ彼女の下に馳せ参じることは難しかった。

 

「っ、綾波…無理なのかっ」

「──いんや、そうとも限らないぜ?」

 

 望月がそう皮肉めいた嗤い顔を浮かべ、指を鳴らす。

 パチンッ、という弾き音が聞こえたと一緒に綾波たちの周りから波が立ち水飛沫と共に無数の黒い物体が深海金剛を囲む。そして程なく四肢に貼り付いて「枷」の形と成りその場に固定して身動きを封じた。

 

「べべ! 完全にやられてなかったんだ!?」

「ヒッ。まぁやられた振りして様子伺ってた訳よ、正解だったな? じゃあ野分、後は頼むぜ!」

『心得ました!』

『…ッギ、グヴゥ……ッ!!』

 

 望月の策によって抑え付けられた深海金剛、野分はこの機を逃すまいと全速で駆け出し綾波に近づく。少しして野分は普通の艦娘とは比べものにならない速度で綾波の下へ辿り着くことに成功する。だが望月の策で足止めしなければ綾波がどうなっていたか分からない、それだけに野分が綾波を背に負ぶさる姿を見て、拓人は緊張は続くも胸の痛みが軽くなる感覚を覚えた。

 

 ──野分が綾波を連れて拓人たちと合流すると、直ぐに翔鶴が綾波の容体を診るべく彼女の身体に手の平を翳した。

 

「──大丈夫よ、解毒すればイノチに別状は無いわ。ただ毒が回り切ってるから、それに削られた体力が戻るには回復させるにしても時間が掛かるわね」

 

「よ……良かったぁ、直ぐに治療をお願い出来る?」

「えぇ。任せておいて! 野分、綾波を借りるわ」

『ウィ』

 

 翔鶴は野分から綾波を譲り受けると、綾波の身体を支えながら手の平から青い光を発して向ける。綾波の解毒が始まり手持ち無沙汰の野分は深海金剛を見やる。

 

『グ、ヴヴゥ……ッ』

『あれだけのダメージを受けてまだ立ち上がるとは…艦娘を基準にしても並みを悠々と超えている、恐ろしい生命力です。深海化しただけではこうはならないでしょう』

「──よう野分、次はアタシかアンタの番だがよ。勝ち目はあるかい?」

 

 隣に近づく望月の言葉に、野分は黙って首を横に振る。改二艦の攻撃を立て続けに受けてもまるで意に介さない、正に鬼神の彼女に対して勝率は少ないと、口に出さなくとも雄弁に語った。

 

「ならここは手ぇ組もうぜ、アンタの力とアタシの頭脳でヤツに対抗してやるのさ。マサムネのヤローは単艦波状だの言っとるが、アタシらヒトリずつじゃあデータ収集もよぉ、天龍綾波に比べると「雀の涙」だろうさ?」

『…策があるのですか?』

「まぁな、んでもフタリの力合わせても勝利を掴むこたぁ叶わない。()()()()。それでもよぉ…次に繋ぐために死に物狂いに抗う、コイツぁそういう戦いだ…そうだろ?」

『…ウィ、そのとおりです。我々フタリの力ならば…鬼神に一矢報いることも出来ましょう、ボクはそう信じます。マドモアゼル…望月さん』

 

 互いを信頼し、鼓舞する。そうして気概に満ちた笑顔になると、共に鬼神の方へ向き直る。

 

「よっしゃ、んじゃあー作戦伝えるぜ、アンタはそれを実行してくれりゃあ良い。期待してるぜ?」

『ウィ! 必ず貴女の策を行使して、荒ぶる神の戦闘データを回収しますっ!』

 

 こうして次に深海金剛に対峙するは、天賦の策士望月と美醜一体の戦士野分。果たしてフタリは深海金剛からデータを取ることは出来るのか? それぞれの思いを胸に今──第三戦が行われようとしていた。

 




〇竜(ドラゴン)
 竜の定義とは、何モノよりも硬い鱗、鋭い鈎爪、強靭な生命力を持った怪物であり、冷気が弱点とされたがそれでも古代では「地上最強の生物」と謳われた存在であるとされる。人智を超えた能力を数多く持ち合わせたことで一部地域で「神格化」されたモノでもあった。
 この世界にも竜は存在していたようだが、三大異種族と同じく時代の流れに逆らえずその姿を消していた。地上に残った人間たちは過去の「異種生命体」たちの能力を、様々な手を使って現世に蘇らせようと画策しているようだが、今のところ艦娘に因子を植え付けた「異能体」しか成功例が見当たらないようだ。中には三大異種族と竜を包めた人と異種族の「混血(ハーフ)」も存在しているとか、まぁ眉唾物の伝承でしかなく私も会ったことはない。探せば何処かに…フフッ、流石に夢想が過ぎるか? だが結構だと思うよ、私も特異点という使命が無ければあの世界をゆっくり散策したかったものだが…ままならないものだな?
 さて、いよいよ折り返しだ。今度は望月と野分が挑むようだね、彼女たちが金剛にどう肉薄するか、一見の価値あり、かな?
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