艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 大分難産でした…。


月陰り、風吹き散る── ②

 ──深海金剛戦、第三戦の幕が今上がろうとしていた…。

 細剣を構える野分、そして迎え討つ深海金剛。その様子を野分の後方からじっくり観察する望月。2対1のデスマッチで先手を打ったのは野分だった。

 

『お覚悟!』

『ハッハァ! ソウ簡単ニ不覚ハ取リマセェーン!!』

『…っはぁ!』

 

 深海金剛に剣を向けると同時に、剣身が淡く紅い光を帯び始める。野分は一気に距離を詰めながら紅い光剣を鋭く、素早く深海金剛に刺突する。が──当たらない、剣の軌道を読まれていたようで掠りもしない。

 

『遅イデスネェ!』

『っ、ならば…何度でも突き貫く!』

 

 野分は再び剣を構えると、疾風のような突速で「連続突き」をお見舞いする。無数の剣影が深海金剛を捉える。

 深海金剛は紙一重でそれすら避け続けるも──完全に躱し切れなかったのか、頬に光剣の傷が薄らと浮かび上がる、それは肉が焼けるような音と共に煙を出している。

 

『(オット、天龍ホドノ速サデナイト油断シテシマッタヨウデェス。シカシコレハ──高密度ノ熱エネルギー、触レタラ大火傷デース。マッ、深海細胞ガアル以上大シタ傷ニハナラナイデショウガ…念ノタメ)』

 

 深海金剛が野分から一歩半後ろへ飛び退くと、右腕を前に突き出し指を揃えた状態で意識を集中する。すると──直ぐに右腕を中心に「炎」と「電気」エネルギーが渦巻き始める。煌々と燃え上がる紅い炎と鈍い音を発しながら迸る蒼い稲妻は、やがて交わり混ざり…最終的に右腕に纏った稲光を放つ蒼炎に変わる。更にそこから形を整えると…剣を模(かたど)った鋭利なエネルギー体の武器に様変わりになる。腕に青色の剣身が出来上がった状態だ。

 

『コレハ「プラズマエネルギー」ヲ融合サセ、ソレヲ空間属性デ固定シタもの…斬リ合イハ得意デハアリマセンガ、同ジ戦術デ戦イ制シテコソ「勝負」トナル。サァ…行キマスヨ!』

『…っ!』

 

 腕の蒼い剣を構えると突撃して来る深海金剛、野分は自前の紅い光剣で深海金剛の蒼い光剣を受け止める。紅と蒼の剣が鍔迫り合いの形で交差する。火花が散る中野分は深海金剛の行動の意図を冷静に分析する。

 

『(成る程、もう五属性以外の属性を絡めた「複合使用」も可能なのか。望月さんの言う通り長期戦は此方が不利になるか。しかし──そんなことせずとも彼女は五行廻輪と深海細胞がある以上、素手でボクの剣を止めれば良いだけの話。それをしないのは──直感か、ボクらが「無策」で戦いを挑むとは考えていないなら、付かず離れずの距離を取りやすい「剣」で様子を窺おうということ)』

 

 野分がそう分析していると、深海金剛は剣を振り抜いて野分の剣を弾いては力任せに振り回す。野分は剣筋を見抜きながら躱し、致命傷に成りかねない攻撃を往なしては自身も素早く突きを繰り出してダメージを与えようと試みる。連続で突き出される高速の突き…深海金剛もまた野分と同じように、攻撃を防ぎながら時に斬撃を肌に受けながら前に無理やり進んでは力強い一撃を繰り出そうとする。野分も負けじとその必殺を華麗に躱しては距離を詰めるも──野分が至近距離に来ると同時に仰け反り、次に後ろに一歩、そこから後方へ跳びながら下がるという慎重さを見せる。

 

『(ユリウスさんたちの言う通りだ、綾波さんがあっさりやられたのも事前に天龍さんの「執念」を垣間見たから。慢心を抑えた結果があの「毒を用いた行動制限」なんだ、今回の戦いも…簡単に背を見せてはくれないだろう。それこそ綾波さんのように捨て身で行かなければ…っ!)』

 

 深海金剛が事前に語って聞かせた「勝利への執念」が形となった結果、確実に勝てる方法を模索し始めている。野分と望月の実力差が自身に迫ろうが明らかに弱かろうが、虎視眈々と逆転を狙う自分たちを見越しての対抗策を打ち出している。

 思わず苦い顔で見つめる野分と、反対に不敵の笑みを浮かべる深海金剛。全てを見透かした笑みは野分から徐々に精神的余裕を奪っていく、果たしてこの用心深い鬼を騙して「策」を打ち込むことが出来るのだろうかと不安が胸の中を蝕んでいく。

 

「──ウェポンシフト「S-Kan」…っ!」

 

 野分の不安を取り除かんとするように、望月が右手に携えた「ブロック状の物体」に音声コードを吹き込む。すると独りでにブロックが極小のブロック体群に分離し、望月の身体と艤装に張り付くと…まるで粘土を上から練り込んで形を整えるように、その完成形が見て取れた。それは──駆逐艦の小柄な体には見合わない、巨大な砲塔が目を引く「51cm連装砲」を背に装着した、望月の姿だった。

 

「…おらっ!」

 

 ──ズドオォオンッ!

 

『…っ!』

 

 掛け声とともに大砲から爆炎と徹甲弾を放つ望月、轟く砲撃音と後ろから迫る風切り音に、野分は反射的に横に身体を傾けると、瞬間砲弾が野分の横をすり抜けながら真っ直ぐ深海金剛へと向かって行く。

 

『…フンッ』

 

 冷静に眼前に迫る砲弾に向けて右腕の蒼剣を振り抜く、深海金剛の顔面に着弾する前に望月が放った徹甲弾は真っ二つになる。半分になった砲弾は左右後方へ飛び散り、深海金剛の背中で二つの水柱を立てながら爆発した。

 

『…虚仮威(こけおど)シデスカ?』

『も、望月さん。ボクに当てようとしませんでした?!』

「ヒッ、なぁに言ってんだい。ビビッて剣筋鈍ってんじゃないかと思って、喝入れてやったのさ。愛の鞭ってやつだねぇ~?」

『それは幾ら何でも暴論では・・・;』

「まぁお前なら避けるとは思ったし、鬼神ヤローにも真面に当たるとは思ってねーよ?」

『フンッ、折角のッテ来タトイウノニ。興醒メ甚ダシイ、コレガ貴女ノさぽーとナラ寧ロ戦イノ邪魔。余計ナ茶々入レンジャネーヨ糞餓鬼』

「そう言うなって? それによ──()()()()()()()()()()()()()?」

 

『──…ッ!?』

 

 深海金剛は望月の言葉に、ハッとした表情で後ろを振り向くと──そこには既にゴーレム体となった──通常よりやや小さめの──ベベが「三体」、海下から水飛沫と共に飛び出した姿が見えた…っ!

 

「どうよ、さっきまでテメェの手錠してた個体とぶち込んだ徹甲弾、ご丁寧に半分にしてくれて二体、計三体のミニマムベベよ。どんなに粉にしようともアタシを沈ませない限り、何度も複製して襲いかかるぜ!」

 

 

「「「ゴアアァーーーッ!!」」」

 

 

『…小癪ッ!』

 

 望月の啖呵を号令とし同時に襲撃する三体のベベ、深海金剛は腕を振り下ろそうとする正面のベベの攻撃を、腕の蒼剣で受け止める。左右のベベの鉄拳が迫る中、右腕を払う要領で正面のベベを斬り捨てると、そのまま勢い付く形で右側に足を踏み出して背中から体当たり、右のベベを吹き飛ばすと迫る左のベベは右腕を突き上げて「串刺し」にする。左のベベは斬突跡から入った罅(ひび)が上下に走ると、ぱっくり割れてしまう。

 

「…ゴッ」

 

 右のベベが態勢を立て直して着水、そのまま拳を構えて臨戦態勢。野分も細剣を手前に突き出して敵の隙を窺う。望月は二ヤつきながら深海金剛を煽り倒す。

 

「テメェが言ったんだぜ? 相対的弱者の執念(ジャイアント・キリング)がこの世で尤も強ぇ理だってなぁ。ベベは倒したとこでちょいと時間が経てばまた復活する、アタシを倒そうとしても野分がそれを止める。一つずつの力ぁ弱いかもしれねぇが壁にはならぁ、()()()使()()()()ってな!」

『フン…ヨク回ル舌デェスネ? 束ニナッテ掛カッテモ私ガ貴女ガタヲ吹キ飛バスグライ造作ナイトハ思ワナイノデスカ?』

「そりゃあな? だが…アンタは今アタシらの力を警戒している。だから大技はそうそう使わねぇとアタシは踏んでる」

『…根拠ハ?』

「根拠ぉ? そうさね、単純な見方さ。アンタのファイトスタイルは姐さんと同じ「徒手空拳」だ、それを得意じゃねぇと言いながら態々リーチの長い片手剣で斬り合ってるということは…アタシらが繰り出す一手で形勢逆転されるのを恐れている、故に戦闘時にある程度距離が出来る剣で様子を見ておきたいし、っつーこたぁアンタとしてはいつでも対応出来るように、属性使用を最小限に抑えようとしている。アタシが同じ立場ならそうする…違うかい?」

 

 深海金剛の勝利への執念を見越して、それを逆手に取った心理攻撃。望月の読みが当たっていたのか深海金剛は苦い顔で彼女を睨む。

 深海金剛の思考を読み解いた望月は、そのまま言葉巧みに精神を揺さぶろうと深海金剛に話しかけ続ける。

 

「ヒッ、随分用心深いことだ。さしづめアンタは今、アタシらに出し抜かれて勝利を掻っ攫られないように眼を光らせてる、文字どおり「疑心暗鬼」状態ってとこか? ……もしくは、敗北がアンタにとって()()()()()()()()、と考えているかだ。

 どちらにしろ余計な心配は要らねぇぜ、アタシの盤上に立った時点で、アンタがこれからアタシらに倒されるんは確定だからな?」

 

『──…ッ!』

 

 望月の言葉遣いに、深海金剛は目をカッと見開いて「怒り」の様相を見せる。それは望月の言葉に「(のせ)られた」ことに間違いはなく、深海金剛は語尾に怒気を滲ませながら望月に問いかける。

 

『…ソレハ、貴女タチニ私ガ「負ケル」ト言ッテイルヨウニ聞コエマスガ?』

「そういう意味で言ったからねぇ? テメェが負けることが怖ぇ「臆病モノ」だってのは、自分でもう分かってんだろ。実力差があるんだったらさっさと攻めてくりゃあ良いのに、一手に慎重になり過ぎて失敗することに過敏になり過ぎだっつーの! そんなの全属性操るのも、力も頭も、才能ぜぇ~んぶ溝(どぶ)に投げ捨てているようなモンだぜ。

 失敗ありきじゃあなきゃ何事も進展しない、そんな及び腰なヤツにアタシらが負けるかってぇの! ヒヒッ! 馬鹿だねぇ…だから、海魔大戦で負け同然の封印なんて手段しか出来なかったんじゃね? テメェは最強でも何でもない、ただの「腰抜け」だ。どんなに手を尽くしたってよぉ…受け身のヤツが成功(しょうり)なんぞ取れねーんだよ!!」

 

『──ホザイタナ小童ァッ!』

 

 望月のあの手この手の扇情行為に、遂に怒り心頭に発した深海金剛は水面を蹴ると一瞬姿を消すと、次に望月の前に「瞬間移動」して見せた。そして迷いなく右腕を振り上げると蒼剣で斬り捨てに掛かる。

 

『コレデ、終ワリデス…ッ!』

「──いいや、やっぱりアンタだよ。終わったのはよぉ!」

 

 威勢の良い望月の掛け声はただの遠吠えではなく、懐からある物を取り出して深海金剛に突き出すと、それは彼女に向けて強烈な「光」を浴びせた…!

 

『グァ!? 目潰シトハ…ドコマデモ、小馬鹿ニシテ…ッ!』

「探照灯だぜ、こういう使い方もあるってことさ! さぁて仕上げだ…野分!」

『ッ、何…!?』

 

 探照灯の熱光を直に当てられて、一時的に目を開けられない状態にされた深海金剛。望月の招く声に次は何をするのかと警戒していると──後方から波を搔き分ける音が聞こえ始める。野分が急速に深海金剛との距離を詰め始めたのだ?

 

『ッ、ウオオォッ!』

 

 深海金剛が立ち止まざるを得ない状況で背後に振り向き、右腕の蒼剣で迫る何モノかを、見えないながらも振り抜いて斬り捨てようとする。

 野分は鋭く冷たい眼で深海金剛を見据えると、太刀筋を完全に見切っては彼女の懐に入ると彼女の腹部に得物を突き刺す。その得物とはいつもの細剣でなく──何の変哲もない「短剣」であった。

 

 ──ザシュッ

 

『ガッ!?』

 

 まだ朧げな目を痛みで見開く深海金剛、彼女が見たのは自身の腹部に短剣を突き立てた野分の姿。そして…己の右腕の蒼剣がぐにゃりと形状変動を繰り返す光景だった。

 

『ック、剣ガ…形ヲ、保テナイ……ッ!?』

 

 深海金剛の右腕に作られた光剣は、程なくして光の粒子となって霧散した。これは望月たちの作戦が「成功した」ということだった。

 

「ヒッヒッヒ! おいおいどうしたよ、ご自慢の属性魔法が上手く使えねぇようだか、具合でも悪くなったかい?」

『…大体想像ハ出来マスガ答エテモライマス、望月…()()()()()()()()()()?』

 

 ギロリと望月を睨む深海金剛、野分は短剣を深海金剛から引き抜くと素早くその場から離脱し後方へ距離を取る。

 望月はその様子を見ては得意満面の笑顔で、深海金剛に高らかに宣った。

 

「何って、()()()()()に決まってんだろ? 服用したら身体の中の薬が魔力を吸収し続ける寸法よ、事前に短剣に塗り込んだそれを野分に渡しといて、アタシが隙を作っている内に腹にでも刺しとけっつったのよ。

 どうやって気を引いたものかって正直悩んだけどよ、アンタが勝利に貪欲なのは見え見えだったから、()()()()()()()()()()()()()ワケ。まさかここまで上手く行くとは想定外だったがな?」

 

 望月の言葉を受けて、深海金剛は右手を前に掲げて集中する。しかし──その手に魔力が宿ることは無かった。

 

『…フム、ドウヤラ本当ニ魔力ガ出セナクナッタヨウデスネェ? コレデハ属性魔法ガ出来マセン。成ル程シテヤラレマシタ、オ陰デ頭ハ冷エマシタガネ。マサカコレガ…貴女ノ「策」トイウコトデスカ?』

「そうだよ、テメェの強さの大部分は「属性」にある。んなら()()()()()()()()()()()アタシらでも渡り合えるってことよ! コイツがアタシなりの「計略」っつーことだぜ!」

 

 望月がそう言って皮肉な笑い顔を浮かべている中、野分は深海金剛と対峙する手前、望月との会話を反芻する。──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──望月はゴム手袋をした右手に取ったハンカチで、左手に持った短剣の身に何かを塗っている。どうやら魔力阻害薬のようだ。塗り終わると柄部分を野分に差し出した。

 

「そら、出来たぜ。アタシがアイツの注意を引くから、お前はそれを腹にでもぶっ刺してやんな。薬が効く時間は30分ぐらいだ、その間に攻め立ていけばアタシらでもデータを収集出来るはずだぜ」

『ありがとうございます。それにしても魔力阻害薬とは…良く思い付きましたね?』

「いやぁ、何かあった時のために薬草を煎じた「魔力回復薬」を常備してたんだ。ソイツをちょちょいと細工して()()()()()()()よう作り直したワケ、我ながら天才的な閃きだわ~」

『成る程、貴女らしい策ですね。しかし…宜しいのですか? ユリウスさんたちが先ほど「本気の状態」でないとデータ収集が出来ないと言われていましたが』

「いやそれで良い。必要なのは「深海金剛と殴り合って取れる戦闘データ」だ、あくまで属性使用はアレの強さを引き出すための「パーツ」に過ぎねぇ。確かに属性を使わない分天龍綾波のと突き合わせて数字が多少低くなるだろうが、贅沢言ってられねぇだろ。こんな状況でよぉ?」

 

 属性は魔力を注ぎ込まなければ発動出来ない、魔力を使うことが出来なくなるというのはつまり…深海金剛の強みの一つを「潰す」ことが出来るという事実。それでいて実力はそこまで落とすことはなく、データ収集にも問題は…多少パーセンテージが下がるだろうが、概ね障害は無いと望月は予想していた。そもそも自分たちは最低でも「5~10%」データを稼げば良いのだから、気が楽とも言い難いが堅実な方法で行く方が「確実」にデータを取れるかもしれない。

 

「全属性を省いた深海金剛との「純粋な力比べ」なら、アタシらにも分があるだろうぜ。特別な能力のあるカイニじゃねぇアタシらは、殴り合って数字収集するしかない。それでも化け物相手だから簡単にとはいかないだろうが、野分…深海化してるお前なら十分に相手出来る。賭けに変わりねーが…この策で出来うる限りデータ稼ごうぜ!」

『望月さん…ウィ! 必ず!!』

 

 望月はいつものダウナーな態度とは違い、目の奥に「熱い意志」の見える顔で野分を鼓舞する。野分もそれに応えては作戦の成功を取り交わしたのであった…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

『(あの即席の策をここまで大胆に行い、だけでなく見事深海金剛を出し抜くとは…矢張り貴女は美しいです、マドモアゼル・モッチー。その鮮やかな頭脳戦は、味方としてとても誇らしい…!)』

 

 野分は望月の駆け引きの妙技を垣間見て、絶望が蔓延する中とても晴れやかな気持ちが胸に広がるのを感じた。

 

「だから言ったろ、アタシの盤上に立った時点で詰んでるってな! とはいえアンタがこの程度の劣勢をどうとでも覆せることは十分汲んでるんからなぁ、こっから畳みかけるぜ…一気になぁ!」

 

 望月はそう言って右手に単装砲を呼び出し、腰回りに付けた大型主砲と共に深海金剛に向けて撃ち尽くす。耳を劈く爆撃の炎が舞い上がると複数の砲弾が深海金剛に迫るも、素手で砲弾を弾きながら避けるという荒業で望月の猛攻を防ぐ。

 

「野分!」

『ウィ!』

 

 野分は後方から再び深海金剛に迫ると、細剣を突き続けて深海金剛に少しでもダメージを与えようと強襲する。深海金剛は突きを回避するが全てを避け続けることは叶わないようで、先ほどより肌に傷が付いていることを体感で感じ取る野分、どうやら魔力で「身体の反射神経」を上げていたいたようだ。そういう属性があるのかは野分には分からなかったが、この目に見える「弱体化」は望月の策が見事に嵌まったことを如実に表していた。

 

「オラオラァっ!」

 

 ──ズドオォオンッ! ズドオォオンッ!!

 

 望月の主砲による援護射撃、もちろん射撃精度は低いのでそこかしこに水柱を立て続けている。

 しかしこれで良い、野分は一旦深海金剛から距離を取ると、望月はすぐさまフタリの間に砲弾を撃ち込んだ。水柱が目隠しとなって野分の姿を見えなくさせ、周囲を見渡すも水柱が邪魔をして視界を遮っている。望月と野分の連携が冴える見事な戦術だ。

 深海金剛は忌まわし気に目を凝らして周囲を警戒していると、背後に「殺気」を捉える。不味い…そう思ったのも束の間、後ろを振り返ると同時に野分の剣の一閃が光る、袈裟斬りの要領で斬り下げた細剣が、深海金剛の右の角と目と鼻の間を切り裂く。

 

『ヌ”ゥ…ッ!』

「まだ終わらねぇぜ! ミニマムベベ行け! 他の二機もいつまでも寝ぼけてんじゃねー! 起きて加勢しろ!!」

 

 

「「「ゴアアァーーーッ!!」」」

 

 

 望月の叱咤と号令に、ミニマムベベ一機は深海金剛との距離を詰め他海中に潜んでいた二機も海面上に飛び出し姿を見せる。三機は野分を起点として、深海金剛を囲むように円形に並び始める。四方を囲まれた深海金剛は顔を険しく引き締めて辺りを見回す、程なく後方の望月に目を向ける。

 

『ココマデトハ…驚キマシタヨ?』

「そうだろうよ、ぶっつけ本番だったが何とかテメェを追い詰められたぜ。魔力放出が出来ない以上「五行廻輪」とやらも使えねぇだろうし、これで「王手(チェックメイト)」…だ」

 

 望月は深海金剛に対し勝利目前であることを宣言する、大幅な弱体化に数の利、魔力を封じられたので「五行廻輪」も使えない、下手をすれば深海金剛を「討つ」ことも可能──勿論データ収集の理由から出来ないが──という状況にまで追い込むことが出来た。正に一巻の終わり(ゲームセット)手前だが…こんな状況でも深海金剛は嗤い、確信を持った言葉でそれを否定する。

 

 

『終ワリ? フ、フフ…フフフ! ソレハ──違イマスネェ! ココマデ「節穴」ダトハ、最早驚天動地デスヨ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?』

 

 

「っ!? 何ぃ…まだ嗤いやがるかよ、仮にそうだとしても今のアンタは無力だ、テメェの属性は魔力が出ねぇ以上無効化されてんだ! 対策があったにしろ直ぐに対応してやるさ、だからテメェはこれからアタシらのサンドバッグになる以外に道筋は無いんだぜ!!」

 

 望月はそう言って「はったり」だと、深海金剛の崩れない強気の姿勢に対し汚い口調で罵る。だが──深海金剛は尚も嗤い顔を湛えては「何故そうであるか」を順序立てて説明していく。

 

『先ズ、私ガ剣デリーチヲ長クシテ貴女タチノ動向ヲ窺ウトイウ「仮説」、半分ハ当タッテイマース。ダガ…ソレナラヨリリーチノ長イ「砲撃」デ応戦スレバ良イデショウ? ソレヲシナイノハ何故カ、考エマセンデシタカ?』

「っ! …()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その可能性もあるとは薄ら考えたさ、だがアンタの「勝利に貪欲で慎重な姿勢」、それに隠れた「慢シン」を突けば結果は同じだ。アンタの「全属性」を何とか出来りゃあ後はどうとでもなると踏んだ、だからそれには目を瞑った…修正する時間もないしよぉ。それにアンタにも、そんな小細工しなくても勝てるっつー余裕(すき)もあるかと思っていたが?」

『確カニ。私ニハ余裕モアリマシタネ、貴女タチガドンナ手ヲ使オウトモ対応出来ル自信ガアッタノデ、敢エテ剣トイウ選択ヲシテ、貴女タチノ行動ヲ誘発シテイタノデス。デスガ…ソレガ分カッテイナガラソレカラ目ヲ離シテイタノハ、目前ノ勝利ニ「焦リ」ガ出タ何ヨリノ証拠デェス!』

「っ、それが事実であれアンタの負けは…っ!」

 

 知らず知らずのうちに「目先の人参に釘付けになっていた」ことを叩きつけられた望月、苦い顔でそれを肯定する彼女に対し、深海金剛は望月の更なる「弱点」を指摘する。

 

『望月…確カニ貴女ノ知識ハ大シタものデス、私ノ攻略法ヲコノ短イ時間デ思イ付キ、ソレヲ実行スル大胆ナ行動力モアル。”口”ノ上手サモ中々ノもの…天才ト言ッテモ差支エナイ。

 ダガ、膨大過ギル知識ニ囚ワレテ「視野ノ広サ」ガ損ナワレテイルヨウデェス。貴女モ魔法ノ知識ガアルナラ分カル筈…魔法ニハ──禁術トイウモノガアルコトヲ!』

「──…っ!?」

 

 深海金剛が自信に満ちた嗤い顔で放つ言葉に、望月はハッとした表情を浮かべ…彼女の言わんとすることを理解してしまった。

 

『理解シタヨウデスネェ、流石ニ頭ノ回転ソノモノハアルヨウデス。デハ…コノ「敗北」カラ学ブコトデス、敵ハ決シテ──自ラノ「駒」ニナルものバカリデハナイト!!』

 

 深海金剛はそう言い終わると、両手を前に突き出して意識を集中する。同時に紅い「オーラ」を身体に纏い始める。

 

「…っ! くそ…!! ソイツを止めろ!!」

『望月さん…?』

「ゴアアァーーーッ!!」

 

 望月は慌ててミニマムベベたちに命令する、野分は驚いて望月の方を見て動きを止めるも、望月の言葉通りに深海金剛を抑え込もうと一気に間を詰め始めるミニマムベベたち。

 

『ハハ! 遅イデスネェ!! コレガ真ノ…チェックメイトデェース!!

 

 深海金剛の周りの紅いオーラに「黒色の靄」が混ざり始めると、赤黒いオーラを周囲に解き放つ。瞬く間に戦場を包み込むオーラに、ミニマムベベは突然動きを止めてはカタカタと身震いし始める。動かなくなったミニマムベベ三機はそのまま爆発四散した。

 

『…っ! これは、まさか…穢れ!?』

 

 野分は驚愕しながら深海金剛の赤黒いオーラの「既視感」を言い表した、それは生命の源である「マナ」が人の欲望で変質した瘴気「穢れ」であった。

 深海金剛が何らかの属性魔法で穢れを放出しているのは見て分かるが、望月の策で魔力が出せない状況の彼女に、何故属性が扱えるのか?

 

『種明カシデス。コノ穢レハ「死属性」ヲ用イテ創リマシタ、カツテノ海魔大戦ノ最中ニ形作ラレタコレハ、魔法デ「マナ」ソノモノヲ創ロウトシタ「生属性」ノ対、魔法デ穢レヲ創リ出ス正ニ「禁術」デス。ソノ危険性カラ魔術師ト提督タチニヨリ「禁忌」ニ指定サレ、今マデソノ存在ハ封印サレテイタ…私ハソレヲ再現シタノデス』

『っ、そんなの…結局魔力が無ければ作れないはず、どうやって…』

 

 野分の疑問の言葉に、深海金剛は更なる解答を重ねて嗤う。

 

『フッフ。残念デェスネ、死属性ハニンゲンノ負ノ感情ヲ糧ニ穢レヲ生ミ出ス。故ニ魔力ハ必要アリマセン、ナラバ…私ノ周リニハ「材料」ガタップリアルデハアリマセンカ?』

 

『っ! 成る程…この海域で沈んだ艦娘たちの「残留思念」か!!』

 

 そう、元々から穢れが蔓延していたこの「サイハテ海域」は、かつての大戦の戦場となったことから「負の残留思念」が無数に残っていた。現状は灼光弾改で穢れを無効化しているが、此処がかつての古戦場跡であるのに変わりはない。材料と創る術が有れば幾らでも複製可能なのだ。

 ──だが、勝利の兆しに嗤う深海金剛は、ふと何かに気づいた様子で辺りを見回す。

 

『(穢レノ広ガル範囲ガ異様ニ狭イ? …広ガロウトシテモ「何カ」ニ打チ消サレテイル、カ。コイツラガ此処ニ居ル時点デ「何ラカノ穢レ対策」ヲ施シテイルト考エルベキ、フン…タクトノトコロマデ届カナイ、一網打尽トハイキマセンカ。マァイイデス…標的ニ確実ニ届イテサエイレバ)』

 

 真相を推測して、深海金剛は目の前の野分の後方へ目を遣る。そこには…右手で頭を抱えて苦しそうに呻る望月の姿があった。

 

「…っくそ、油断…した……がっ!?」

 

 望月は体勢が崩れると海面に膝を着ける、どうやら穢れの瘴気を吸って身体に力が上手く伝わらなくなってしまったようだ。このままいけば望月の意識は消え目を覚まさなくなるだろう、野分は望月の容態変化に焦りを叫んだ。

 

『望月さん!? 大丈夫ですか!』

「…だい、じょうぶに見える、かい? っつ~…頭が霞む…全身がだりぃ」

『望月さん、あの「ガスマスク」は? クロギリ海域で使った黒い霧対策のマスクです、それを急いで着けて』

「残念だが持って来てねぇ、ガスマスクは特注で一回きりの使い捨てだからよぉ、急ぎだったから用意出来てねぇのよ。ちっ…奴さんの言う通り、知識だけのボンクラにゃあもしもの対策が出来なかったわ。ヒ…ッ」

『っ! …そ、そんな…っ!』

 

 最悪の事態に陥ってしまった、望月に穢れの毒を対策する術はなく、現状戦えるのは野分のみになってしまった…!

 

『ビンゴデスネェ! フタリガカリガ仇ニナリマシタカ? 軍師ガ策ヲ練リ将ガソレヲ実行スル、素晴ラシイばらんすデスガ…軍師ヲ動ケナクシテシマエバ、果タシテ将ニ逆転ノ術ヲ思イ付ケルデショウカネェ~~~?!』

『…っく、何の道逃走に意味は無い。今は…戦うしかない!』

 

 野分は細剣を構えて深海金剛と向き合う、だが表情には「望月を助けたい」と願う本心が苦渋に満ちた顔となり表れていた。

 

「…ぁあ、それでいい。アンタだけでも戦え野分、作戦自体は成功してんだ、自分の失敗(ケツ)は…自分で何とかするさ」

 

 望月は尽きようとする命運に抗うように、再び頭を働かせようとする。万策の軍師は死中求活を為せるのか…?

 




〇生・死属性
 この世界の生命の源であるマナを創造する「生属性」と、逆に生命を枯渇させる「死属性」。これらはかつて楽園と呼ばれた時代から研究されたものであり、生属性の人工的なマナ創造が自然発生のマナに悪影響を与え、人工マナが「穢れ」に変質したことで、意思のある穢れである「海魔」誕生のきっかけを与えてしまったことは想像に難くないだろう。
 だが、海魔大戦中も穢れのエネルギーに着目した者が、密かに穢れをコントロール出来ないかと実験を続けた結果、人間から穢れを生み出すという「死属性」を作ってしまった。当然穢れに耐性の無い人間は自らが作り上げた穢れに命を奪われる、その者はこれらを「未完成」の魔術だと言うが、どちらも世界を混沌に陥れる可能性のあるパワーを秘めている。よって提督連合の前身となる組織により禁術として封じられてしまった。
 深海金剛は海魔大戦中のこの事実を知っており、だからこそ禁術である死属性で穢れを生み出すことに成功した。望月もそういった術が存在することは知っていたが…まさか使用可能とは思いもよらなかったのだろう、だが深海棲艦である深海金剛にとっては穢れは力を高めてくれる手段の一つであり、自分と同族以外には毒に成り得る。それを理解していた故の一手であった、これが天龍たちのような改二艦なら、穢れに耐性がある以上また違った展開も有り得たが…やれやれ、敵の悪運の強さは流石としか言えないな。
 さぁ、ここからどうなっていくのか。私も楽しみに待たせてもらおう…フフフ。
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