艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
展開早めです、ご注意を。
望月と野分のツーマンセルで挑む深海金剛戦は、望月の策が功を奏した結果深海金剛は「全属性使用封印」に陥り、ある程度の弱体化に成功。望月野分はその隙を突き一気呵成に攻撃を叩き込む。一見望月野分が優勢と思われた矢先──敵は思いもよらない方法で盤上を覆した。
「──っ! あれは…まさか穢れなのか!?」
拓人は望月たちから後方で事の経過を注視警戒していたものの、突然深海金剛からマナの穢れが広がっていくのを確認する。どうやら穢れを自ら生み出したようだが…アレも属性の一つなのだろうか、直感的にそうだと感じた拓人はだからこそ背筋が冷える思いだった。
五属性、時と空間、竜、毒と来てこの世界における「死の象徴」まで操ってしまうとは…何度驚き慄けばいいのかと、拓人は彼女の規格外の強さにすっかり辟易してしまっていた。
望月たちが一時畳み掛けるように攻撃を浴びせていたが、この様子だと深海金剛は形勢逆転の一手を打った模様だ。穢れに耐性の無い望月は今頃「死に体」になっていることだろう、不味い…加勢しに行くべきか? そう思案していると、拓人の後ろで天龍と綾波の治療に当たっていた翔鶴から声が掛かった。
「タクト…望月たちが心配なんでしょうけど、行ってはダメよ。まだ決着はついてないわ…野分がまだ健在な以上、あとは彼女に任せましょう。焦りは禁物、今は動いてはいけないわ」
野分は深海化を果たしている以上、穢れは寧ろ力の強化に繋がる。力の増した彼女が深海金剛を打破してくれることを祈るしかない、翔鶴はそう突きつけるように焦る拓人を嗜める。
だが──拓人は翔鶴の言葉に肩を震わせては、受け入れつつも率直な言葉を紡ぐ。
「…分かっていたんだ、こうなることは。覚悟してなかったわけじゃない、でも…やっ、ぱり。キツいね……仲間が死にそうな場面を、何度も見なくちゃならないっていうのは」
翔鶴には拓人の背中しか見えていないが、彼が泣きそうな苦い顔をしていることは何を言われなくとも理解出来た。胸に刃物を刺されたように、翔鶴のココロはズキリと痛んだ。
「タクト…」
「でも…此処で行ってしまったらさ、望月と野分の覚悟に泥を塗るんだよね。君の言うとおりだ、解りきったことだよ。それでも……君たちを僕の「エゴ」に巻き込んでしまったことを、どうしても悔やんでしまうんだ。今更って話なんだけどさ? だから…自分の弱さが恨めしくってさ。自分が君たちを守れるぐらい強かったら…って……僕はっ」
拓人の怒りと悲しみに揺れる唇から、自らの力量不足を嘆く言葉が紡がれていく。エリや加賀たちを諦められないからと足掻くと宣ったのに、最悪の現状を変えられない自分に対する嘆きと無力感が感じ取れた。押し寄せる絶望にどうしようもなく潰されかけている、拓人の心はまたしても挫けそうになっていた。
「…っ」
「──翔鶴、もう大丈夫だ。オレたちよりタクトを」
「お願いします、翔鶴さん…」
「っ! フタリとも…ありがとう」
翔鶴は治療を施していた天龍と綾波から、拓人に寄り添ってほしいと請われる。フタリの意見を尊重して翔鶴は治療を中断すると──拓人に歩み寄りながら彼の背中から両腕を回して抱きしめる。拓人は驚きと同時に頭を背後に向ける、そこには慈愛の表情を浮かべた翔鶴が拓人に微笑いかけていた。
「翔鶴…?」
「大丈夫よ、タクト。私たちは巻き込まれたなんて決して思っていない、自分たちの意思で此処に居るの。命令とか世界の危機だとか、仕方ないからとかじゃない。私たちが──
「…ありがとう。でも、これは僕の我儘なのは確かだから。それに…僕って、喪うことが怖いからさ、見てられないからさ、本当はどう言われても助けたいんだけど…それが覚悟を決めた君たちを蔑ろにする行為だってことを、漸く分かり始めたから。でも…まだそれを正当化する勇気もないんだ、こんな半端な指揮官で、ゴメン」
「ううん、そう思ってくれるだけで嬉しい。だからこそ…私たちを信じて? 貴方は今まで色んな試練を乗り越えて来た、それは決して特異点だからじゃない、貴方が貴方の道を走り、信じた仲間たちと支え合って、結果を出して来たから。だから私たちも貴方を信じられるし、例え失敗してイノチを喪おうとも、後悔は無いの。そんな私たちと…今までの貴方を、信じてあげて? 今度も必ず乗り越えられるって。
どんなに根拠が無くても、道半ばで倒れたとしても…貴方が立ち上がり続ける限り、私たちも諦めない。だから…最期まで見届けて、愛する貴方のために戦う──私たちを」
翔鶴はそう拓人に訴えかける、今までの拓人とそんな拓人を信じて来た自分たちを信じろ。彼女の真っ直ぐで透き通るような想いを確りと受け止めると、拓人は翔鶴に微笑み返して頷いた。
「…分かった。まだ自分が信じられない部分もあるけど、君たちの言葉を…僕は信じ抜いて見せる!」
「その意気よ。…さぁ、望月と野分の戦いから目を背けないようにね。動けなくなった彼女たちを、せめて息のあるうちに助けられるように」
「うん!」
翔鶴と拓人は話を終えると、望月と野分の勇姿を刻み付けるように遠目に居る彼女たちを眼を逸らさずに見つめ続ける。
──一方、野分は目前の鬼神とどう渡り合うか考えあぐねていた。
『(確かに望月さんの作戦は成功した、ですが…果たして彼女の隠し玉はこれだけなのか、その一点がボクには恐ろしい。望月さんを行動不能に追い込んだように、ボクに対しても何を仕掛けて来るか…戦闘を仕掛けてまだ間もない、大技を繰り出した訳でもない。なら「戦闘データ」もそこまで多く集まっているか怪しい、ボクまでやられてしまえば後は翔鶴さんに頼らざるを得ない。ボクの失態がコマンダンや仲間たちの今後に響くと思うと…ここで、迂闊に動くわけには……っ!)』
深海化した野分、そして現在全属性を封じられている深海金剛の実力差は「互角か、それでもやや深海金剛が上か」といったところだろう。野分はそれを理解した上で「更なる
そんな焦燥感の高まった渋い顔を見せる野分と、対照的に涼しい顔で嗤う深海金剛の睨み合い。一触即発の場面を──正に虫の息の望月は、自分を顧みず拮抗した状況を整理しながらどうするか只管悩む。
「(野分が仕掛けねぇのは敵の奥の手を危険視してるから、あのクソ鬼にアタシの与り知らない「属性」がまだある可能性は十二分にある。だがこのまま手を拱くことも危険、今この状況で敵に先手を打たれでもしたら、それこそもう打つ手がねぇ。だが状況を打破する
望月は対策として「もしもの事態」を想定した計画を作成済みだった、だが──白衣の内側に手を入れ、懐にしまった「アイテム」に触れながら、望月は苦悩する。
「(本当にヤバくなった時の最終手段として、一応作ったんだが…時間がなかったからとはいえ、この方法しか思い浮かばなかった。コイツぁマジで「倫理」ってヤツに反する行為。策の要になるのは「野分」だから、当然野分にも相応の負担を掛けることになる。良いのか…下手したら野分は…そこまでして戦闘データを)──…っぐ! はぁ…はぁ…っ!!」
自問自答しながら頭を高速で働かせようとすると、脳に亀裂が走るような痛みが走る。望月や野分たちの周りに漂う穢れの瘴気が、望月から生気をどんどん奪い取っていく。
このまま倒れ伏して何もしなければ自分は動けなくなってしまう、そんな大きな隙を鬼神が見逃す筈はない。下手を打てば「死ぬ」、再起不能となり五体満足で居られないだろう。
「っへ、アタシもここまでかぁ。済まねぇ大将、皆……アタシには、あの化け物を倒せる力は……っ」
望月はどんなに頭で必勝の策を思いつこうとも、仲間を見捨ててまで勝利を掴むという冷酷な判断を下すことは叶わない、どころか彼女のココロは既に折れ、自身の命運尽きた現実を受け入れ始めていた。
絶体絶命──そんな望月の脳裏には諦観かはたまた身体の限界か、激流のように流れていく「記憶」の波が押し寄せて来る。
「(…走馬灯か、懐かしいねぇ)」
望月はもう半ば諦めたか頭の中の記憶に想いを馳せていた。
そこには拓人は勿論、金剛、天龍、綾波、翔鶴、野分、そして選ばれし艦娘の面々、カイトと…今まで出会った人々との交流の場面が思い浮かぶ。そして──最後に反芻したのは、昔日の懐かしき「
『──もっちぃ~♪』
『──望月!』
『──…望月』
『──もっちぃさぁん』
「──…っ! …へっ、そうさな……アンタたちにまた逢う日まで、アタシはもう…立ち止まれねぇよな!」
望月は仲間たちに、そして最愛の姉妹たちに背中を押され、倫理に反そうとも「何が何でも生き抜く」と、改めて意を決すると懐から「薬瓶」を取り出し、野分の名を呼んでは振り返った彼女に向けてそれを投げた。
「野分…!」
『っ! 望月…わっ!?』
驚きつつも薬瓶をキャッチして見せた野分は、中に入っている錠剤の異様さに思わず目を見開く。それは──一粒ひとつぶが「黒い」薬剤だった。
『っ! 望月さん、これは…?!』
「それは、レ級が使った「黒い魔力水」をヒントに作った、深海棲艦の能力を一時的に引き上げる薬だ。穢れを配合したソイツは一粒だけで10分効果が持続する、それを使え。だが…」
『──
言い淀む望月に対し、野分はスラリと口にして補足を加える。顔を上げてギョッとする望月は、次に申し訳なさそうな苦笑いを浮かべる。
「…やっぱ分かっちまうか?」
『明らかに危険な見掛けなので。それでそのデメリットとは?』
「…暴走だ、レ級はそれの過剰摂取で自分の肉体を崩壊させた。それだけの莫大なエネルギーを、少量短時間とはいえ身体に与えたら…理性がなくなるか身体がどうにかなる危険性がある。それを一粒でも飲めばお前がどうなるか、分からねぇ」
『成る程…ですが望月さん、デメリットでもなければ確かな「力」とは言えないでしょう。それほどの力でなければここを突破出来ないのであれば…ボクは喜んで、この身を捧げましょう。そして…どのような形であれ、必ず戻って来ると約束しましょう!』
野分の深海に堕ちても変わらぬ煌めきを垣間見て、望月も力なく笑うとその意思を肯定した。
「あぁ…発破掛けといて動けねぇボンクラで申し訳ねぇが…アンタに負担を負わせることを承知で願いたい。頼む…野分。大将や姐さんのために、最後まで抗ってくれ…この先の「未来」つーヤツのためにっ!」
『──ウィ!』
望月のらしくない言葉に込められた「想い」に、野分は確かに受け取っては頷いては、険しい顔つきで深海金剛に向き直る。そして──手に持った薬瓶の蓋を開けて、錠剤を一つ取り出す。素早く薬瓶を懐にしまい…錠剤を口に含む。
『フン…何ヲシヨウトモ私ニハ届キマセンヨ!』
『貴女に勝つ為ではない、我々の未来に手を届かせるために、それをすることが出来るなら…っ!』
──カリッ
野分は覚悟の口上を口にした後、黒い錠剤を噛み砕いて飲み込む。すると──ふわりと水面に浮かぶ野分の身体に「熱(オーラ)」が帯びて周りが歪み始める、高熱が水面に触れると一瞬で沸点に達して泡立つ。全身に力が伝わり溢れる、野分から低く鋭い獣の唸り声が聞こえる。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…っ!!』
雄叫びを上げる野分の顔に、炎が迸るような黒い紋様が浮かび上がる。レ級と同じように異様な「変化」を遂げる野分。
加えて髪色にも変化が、毛先から薄ら見えていた「赤色」が徐々にじょじょに髪全体を塗りあげていく。頭の先まで完全な赤髪になると、今度は前髪の一部分が「水色」に変わった。総じて燃え盛る紅い炎と凍える冷気が混在するような髪色に成った。
『ホゥ…ホザイタダケアッテ中々ノ「力(パワー)」ノヨウデェス、ナラバ…期待シテモ宜シイノデ?』
『………ふぅ──』
深海金剛の問いかけに答えず、野分が息を整えては脱力したように構えを解く。腕を下ろした自然体となった野分だが、深海金剛は警戒を新たに出方を伺う。野分が先ほどまでと纏う雰囲気が変わったと直感して、どのような攻勢に移ろうとも対応してみせると身構えた。
野分はそれ以上何をするでもなく、時が止まったように身動き一つしないでいる──すると、一瞬で深海金剛の目前から消えた野分は、気づけば深海金剛の背後を取っていた。
深海金剛は野分の軌道を眼で追って、彼女の高速移動の原理を冷静に考え付いていた。
『(身体ニ纏ウ熱ノえねるぎーを足裏カラ一気ニ噴出スルコトデ「推進力」ヲ得マシタカ、天龍ニ比ベタラドウトイウコトモナイデスガ…コレガ彼女ノ全力デハナイカモシレマセン。サァ…モット「力」ヲ出シテ下サァイ、ソノ上デ…全力デ叩キ潰シテアゲマァス!)』
深海金剛の思考を読んでか知らずか、野分は細剣を構えては毎度の如く刺突する。だが──その威力は明らかな「異常」があった。
──ボジュッ!
『ッ!? 何…ィッ!?』
野分の細剣に帯びた「熱気」は圧縮されたエネルギーとなり、向けられた深海金剛の片腕を「吹き飛ばした」。これほどの威力とは思わずか、深海金剛は吹き飛んだ腕を見て面喰らった顔を浮かべた。
『ック…(ココマデトハ…一旦距離ヲ)』
『逃がさない…ッフ!』
深海金剛が腕を再生させながらその場を飛び退いて、距離を取ろうと脚を動かそうとする。しかし──野分が素手を掲げると手の中から「冷気」が溢れ出し、その冷気を深海金剛に向けて放つ、冷気は海面を凍らせては走り、海面から生えたように伸びた「氷塊」が深海金剛の両脚を捉えて、そのまま身動きが取れないよう固定して捕縛する。
『ッ、(コノ氷ハマサカ)…ダガコノ程度──ウオオオォッ!!』
深海金剛は両脚に力を入れると、簡単に氷塊を砕いて見せる。深海棲艦としての力はまだ衰えていない。まだ足周りの氷塊は足枷のように纏わりついているが、戦闘に支障は無い様子だった。
──しかし、この一連の数秒の動作は、対峙する決死の鬼に大きな隙を与えていた。
『──甘い!』
野分は前へ飛び駆けると深海金剛の脚の氷塊に向けて、高熱を帯びた細剣で瞬速の突きをお見舞いする。片脚にクリーンヒットした突剣が氷塊とそれが包み込んだ深海金剛の脚を諸共砕いた、深海金剛は片脚を失いバランスが取れず思わず海面に倒れ込む。
『グァッ!? …ッ、マサカ……熱ソノモノヲ操ルコトデ、
『貴女にはまだ深海棲艦の「再生能力」がある、しかしながら…貴女の片脚の傷口にはまだ凍傷が残っている。幾ら深海棲艦であろうと傷口の治りに影響があるはず、暫くは片脚を喪ったままであれば、今の貴女は無防備の隙だらけ……ということになりますね?』
『…ッ』
このまま深海金剛に
──だが、それは出来ないのが拓人たちの選んだ「道のり」の険しい所以である。
『このまま貴女を沈めるのは容易い…だが、我々には大いなる目的がある。先ずは──貴女を助けましょう』
野分が細剣を深海金剛の負傷した片脚に向けて翳すと、凍傷部分に火が灯った。
火が凍傷を溶かし、少しして深海金剛の片脚が再生した。苦い顔をして立ち上がる深海金剛に対し、野分は凛とした表情を向ける。
『今のはボクの力の小手調べです、貴女がどう抗おうとボクはそれを一つずつ潰します。どうか全力を尽くして下さるよう…お願いします』
『チッ…マルデ勝チ誇ッテ、確カニ油断シ過ギマシタネ。ダガ…勝負ハマダコレカラデェース!!』
敵を生かしておくのは、戦闘データ取得のため。野分は深海金剛に向けて「死神の鎌」を突き付けていた。
野分の戦闘能力も大きく向上したことにより「確実に勝てる戦いでは無くなった」、それを踏まえて深海金剛は自らの目測を誤ったことを恥じ、改めて全力を以て壊し沈めることを定める。全ては
『──ハアァッ!!』
『──フンッ!!』
獣の咆哮が第二戦を告げる、深海金剛が拳を振り上げ突撃して来ると、野分はそれを迎え撃つように細剣を突く。
互いの攻撃を躱しては交差するフタリ、野分は素早く軽やかなターンを決めては高熱刺突を連続で繰り出す。深海金剛は可能な限りそれを──多少の傷を付けながらも──避けつつ殴りかかる。
完全に野分の優勢ではあるが敵の戦闘能力の高さが健在している以上、一発でも真面に受ければそこから形勢逆転されかねない。それを理解している野分はただ無心に迫り来る拳を往なしては攻撃を与え続ける、気づけば深海金剛の身体中に火傷のような斬り傷が出来上がっていく。しかして鬼神の眼光は未だ野分を捉えたままだ。
この戦いに野分たちの勝利は無い、完全な勝利はエリを復活させたうえで深海金剛を倒すことだからだ。それが事実上不可能であったとしても、例え──その先に「轟沈」が待っていたとしても、やるしかない…それが、それこそが野分の司令官たる拓人へ手向ける「愛」の証なのだから…!
──そんな野分に愛故の「焦り」があったか、何ミリにも満たないその隙を、鬼神は見逃さなかった。
『チョコマカト──動クナァッ!!』
──ズゴォッ
『──ッ、がはっ……!?』
健闘虚しく遂に、深海金剛の拳が野分に届く。鳩尾(みぞおち)に深く入った力強い拳が、野分の中の内臓物を吐き出させる。喉が灼けるような嫌な感覚を味わいながら、野分は歯を食い縛っては鋭く深海金剛を睨んで闘志を見せると、片手に溜めた冷気を深海金剛に向けて解き放つ。
『うあぁっ!』
『フン。…此方ノ番デェス』
だが予測していたのか、深海金剛は首を傾げるように動かしては華麗に躱す。次に両拳を握り締めるとそれを野分に全力で立て続けに殴り続けた。
『ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ…ヘエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイッ!!』
『ぐっ、うぅ…うぐぁっ?!』
一気に拳を叩き込まれた野分は、終わりの一撃でそのまま海面に背を着けてしまう。
予想していたとおり野分は深海金剛の攻撃に耐え切ることは出来なかった…体力を削り取られた重い身体を起こそうとする野分の目前に、怒髪天に達した鬼神の渾身を込めた拳が迫る。
『ココマデ虚仮ニシタ「罰」ヲ与エマス。…ゥオラアアアアッ!!』
『っ! (ここまでか…)』
能力を封じられ、代償を払って実力差を埋めた、だのにそれでも鬼神に勝てないのか。哀れ野分はこのままイノチ燃え尽きるまでやられ続けてしまうのか──
──ドゴォッ!!
──絶望の最中、野分を救ったのは上空から降り注いだ二つの「巨影」だった。
『ヌッ!? グオォ…ッ!』
深海金剛は巨影に吹き飛ばされるも態勢を整えては辺りを見回す、深海金剛の勝負に水を差した巨影の正体は──野分を守るように前方空中に並び立つ、巨大な一対の「拳」であった。
『あれは…まさか!』
そう言って野分が後方を振り返ると──そこには虫の息となり力なく海面に伏した「望月」が、右手を伸ばして巨大双拳を操る姿…残り少ない体力を振り絞っては野分へ加勢する様子が見えた。
『望月さん…ベベさんたちを巨大籠手に変えられたのか、ボクのために…っ!』
「(…へっ、そんな泣きそうな顔すんなよ。アンタにばっかり背負わせるのはアタシの目覚めが悪いだけさ? アンタだけに…任せはしねぇ、アタシのイノチぐれぇくれてやるさ。だから──やっちまえよ、野分!)」
望月の身体を震わせながら身を起こした後の「サムズアップ」、何を言わずとも雄弁に語る不敵な笑い顔、その姿に、野分は感極まった涙を流しては強く頷いた。全ては自分たちの叶わない望みを果たすために…っ!
『──ヤッテクレマスネ、最期マデ…場ヲ引ッ掻キ回サナイト気ガ済マナイカ、コノ死ニ損ナイガァッ!!』
深海金剛は罵倒を吐きながら、望月に向かって駆けるも前方を野分に遮られる。高熱細剣が深海金剛の拳を受け止める、剣身の高温が鬼神の握り閉じた指を焼き、弾けるような音を奏でる。
『やらせません、貴女は…ボクたちが倒します!!』
『ホザクナト言ッテイルッ!』
剣と拳の鍔迫り合いの中、鬼神目掛けて巨大拳が空中から襲い来る。大岩のような握り拳は深海金剛をピンボールのように弾き飛ばした。
『グゥッ!?』
空中に投げ出された深海金剛が態勢を立て直そうと身を藻掻いても、もう片手の拳がそれを阻止せんとまたも飛び出す。真上から圧し潰そうとするように拳骨を海面に叩きつける、真面に攻撃を受けた深海金剛はそのまま海中へ押し込められる。
『──厄介デスネ』
そう零しつつ、海中から水飛沫を上げて飛び出す深海金剛。海面に着水し攻勢に出ようとするも──突然態勢を崩し始める、いや…地震が起きたような「揺れ」によって、バランスが取れなくなっているのだ。
『ッ、不味イ…先ホドカラアチラノぺーすニ…ッ!!』
野分の更なる能力強化に加え、望月の決死の抵抗、その結晶たる巨大双拳のあまりの威力に、海面は揺らぎ上へ下へと変動し続ける。
これらは全て鬼神を「倒す」という一点の目的を果たすための執念…正に
『(コレガ…想イノ「力」トデモ言ウノカ? ……ソウ、ナノデスカ? ──
その時、深海金剛はふと思考に耽る。
必死に自分を捉えようとする彼女たちを見ていると、何故かこみ上げる感情があるからだ。この身体に燃え広がるのは、いつか自分も抱いていたような。
そして、彼女自身忘却してしまっている「マスター」のこと、それとまた別の「大切な人々」も…顔も思い出せない、在りし日の「自分」を形作った諸々が、全て消え失せてしまい、今や残っているのは「かつて世界のために戦った」事実と、敗北が死を意味するという「理由無き焦燥感」だけであった。
『私ハ──』
『──取ったっ!!』
深海金剛が思考に要した数秒の「隙」を突き、野分は鬼神の懐へ飛び込むと…片手で構えた高熱細剣を深海金剛の腹部へ「突き刺した」。
──ズンッ
『グァッ!? …ッ、コノォ……!!』
『これで…終わりです! はあぁっ!!』
野分が剣に力を込めると、剣身の熱気が燃え上がる。深海金剛の身体を貫いた細剣から熱気が溢れ出す…っ!
『ガアァッッ!!? ァ、熱イッ! …貴様ァ…何ヲ』
『熱を限界まで剣に集中させ、それを一気に放出します。これが…今のボクに出来る最大の攻撃です、貴女はこれを喰らっても立っているのでしょうが…それでも! ボクはこの「愛」に応えるために、全てを賭けて貴女にぶつかって見せる。例え…ボクがどうなろうともっ、身体が朽ちる限界まで、戦い抜いて見せるっ!!』
野分が覚悟を決意し吼えると、細剣の熱気は剣身を真っ赤に染め上げるほどに色が変わっていく。そして──同時に野分の頬に痛々しげな「亀裂」が走っているのが見える、身体が崩壊する寸前故に大技で勝負を着けようとしているようだ、「シ」を覚悟したモノとは…斯くも阿修羅の如く攻め入るものか。
不味い…そう直感的に感じた深海金剛は少しでもダメージを減らそうと、剣身を掴んでは自身の腹から引き抜こうとする。負けじと野分も両手で柄を抑えて全力で押し込む。
『ヴァアアアッ!!』
『オ”オ”オ”オオオオオオオオオオッ!!』
二隻の深海棲艦の咆哮が、緊迫感をより高めていく…互いに譲れないもののために、好機を掴むために抗い続ける。
──その決着は、誰も予想だにしない方へ向かって行く。
野分が
──カッ、ズオオォッ………!
何と、剣身が白い光に包まれたかと思えば、一気に膨れ上がっては熱線となり、深海金剛の内部に放たれ、重い音を立てて刺し貫いた。閃光が深海金剛を撃ち抜いたのだ。
『な…っ!?』
『ゴ…ヴガアアアァッ!!』
痛みに悶えながらも目を見開いて立ち尽くす深海金剛に、閃光は尚も鬼神の体内を撃ち貫く。
次第に辺りが白い光に満ちていく…果たして、この光が晴れたとき立っているのは…?
中途半端に終わりましたが、これで望月野分戦を一区切りとさせて下さい。
次は宿毛のイベント編終了後に。