艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

134 / 146
 皆お休み中だろうけど、先々行きたいから投稿するよ。ゆっくり見ていってね!


そして、希望の鶴翼捥れし時──②

「ふぅ…ふぅ…っ、やっと辿り着いた…!」

 

 翔鶴と深海金剛が激突する一方、拓人は両肩で担いだ望月と野分を天龍たちの居る場所まで運ぶことに成功する。

 

「大事ないか、タクト?」

「大丈夫、ありがとう天龍。さて…あとはフタリの目が覚めるのを待つだけだね?」

「はい、司令官…お疲れでしょうから望月さんを私が担ぎましょう」

「いやいや君の方が大変なんだから、綾波はそのまま周囲を警戒していてね」

「むぅ…身体の方は…いえ、まだ少々重いですが」

「ほらぁ、やっぱり。だから大人しくして…」

 

 拓人たちが思い遣りを受け渡し合っていると、拓人に担がれた野分の目が薄ら開いた。どうやら目が覚めた様子だった。

 

『──…っ、こ…コマンダン、申し訳…ありませ…っ』

「野分! 良かった…目が覚めたんだね?」

『はい。しかし…身体に、力が入らず。思うように動かすことが…っ』

「無理ないよ、身体に罅が出るほどなんだから。今の君は深海の姫のようなモノだから、それだけ大きいダメージを受けたってことだよ」

『ダメージ…(そう言えばボクは望月さんからあの「薬」を受け取って…何事もなく終わるとは思っていませんでしたが、この程度の傷で済んだのは…僥倖と言えるのか?)』

 

 野分は望月の深海化活性薬を飲んだことで「暴走」又は「轟沈」する危険性があり、それは野分自身は承知の上で服用していた…が、幸か不幸か身体の不調で終わった。胸の内で安堵しながら野分は痛みを感じる頬を手で触れ撫でた。

 そんな野分に思うことがある様子の天龍が、徐に彼女に話しかけた。

 

「身体の調子はどうだ、野分?」

『天龍さん…はい、まだ力が戻りませんが少しすれば或いは』

「そうか。(…望月から何か飲まされたか?)」

『…っ! (分かりますか?)』

 

 天龍は拓人に聞こえないよう耳元で囁きながら野分に問いかける、野分も声を潜めて答える。その間の会話を拓人は「何か話しているようだが、大事なことなら聞かないようにしよう」と素知らぬ顔をして耳に入れないようにした。

 

「(あぁ、多くは聞かんがもうお前は下手に動かない方が良い。その顔の傷から察するに深海化の能力も含め、身体機能が低下しているのだろう。であれば耐久性が脆くなっているかもしれん、激しく動けば()()()()()()可能性も否定出来ん)」

『(っ、それは…恐ろしいですね;)』

「(薬の与える身体への影響とは洒落にならんものだ、一時的にあの深海金剛と渡り合う力を手にしたほどの代物なら、猶のこと代償を考えておくべきだ。とにかく安静に…な)」

『(はい…ご助言感謝します、天龍さん)』

 

 天龍と野分の会話が区切られたタイミングで、どうしても耳に「下手に動くな」とか「安静に」と聞こえて来るので、拓人は思わず声をかける。

 

「…何か、安静にとか聞こえたけど?」

「心配するな、あれだけの戦いだったのだからあまり無理はするなよと言っただけだ…なぁ?」

『はい…』

「え、本当に大丈夫なの野分?」

『だ、大丈夫です! …っあ、も、もう支えて頂かなくとも!』

「そ、そう? …キツかったら言ってね?」

 

 拓人に心配はかけまいと野分は空元気を見せつつ、拓人の肩から離れて立って見せる。が…かなり足元がふらついているようで、ふらっと後方に倒れそうになる。

 

「あ、危ない!?」

「──っと。安静にと言っただろう」

『す、すみません。もう少ししたら安定すると思います』

「分かった、それまでは俺が支えてやる。翔鶴のおかげで立つぐらいなら問題なくなったから、その方が拓人も楽だろう?」

「う、うん。ありがとう…(天龍…)」

 

 天龍はそう言って微笑んだが、野分の肩を担ぐ彼女の腕は未だ小さく震えていることを、拓人は見逃さなかった。

 最早防衛手段は崩れ、深海金剛に虚を突かれれば全員致命傷も免れない。最終防衛ラインたる翔鶴が戦っている以上今すぐ危険が襲うことは無いだろうが、艦隊を守るために拓人自身が前に出ることを覚悟しなければならないだろう。

 

「(…うん、そうだよね。もう彼女たちだけに任せることは出来ない。僕が…今度は僕が、皆を守らないと…っ!)」

 

 拓人は傷ついた仲間たちを前に、静かに決意を新たにする──その時。

 

 ──ズドオォォォオンッ!!

 

「っ! 来た…!」

 

 空間に爆音が鳴り響く、それは翔鶴のエーテル光子艦載機群と深海金剛の属性魔力がぶつかり合う音であった…!

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──拓人たちが敵襲に備える中、翔鶴は深海金剛と対峙する。

 

 背中の蒼き光翼を羽ばたかせ、空中を飛び駆ける翔鶴。かと思えばくるりと振り返り弓を射る構えを取ると、蒼穹の光弓を形作る。狙いを澄ませ勢いよく放たれる光の矢、それらは幽玄な戦闘機群に形を変えると深海金剛に襲いかかった。

 

「行きなさい…翔鶴航空隊!」

 

『──ソレハ「のーさんきゅー」デェス! 貴女ハ先ホドノ戦イデ何モ学ンデマセェ〜ン!!』

 

 そう得意顔で嗤う深海金剛は、迫り来る翔鶴航空隊に対し両手を翳す。すると──深海金剛の目の前に風の壁が構築されていく。

 翔鶴航空隊から蒼光の弾丸が連続射出されるも、気圧の防壁はそれを寄せ付けず無効化していく…最初の艦隊戦でも見えた翔鶴のエーテル光子唯一の弱点であった。

 

『ハッハァッ! ソノ程度デハ私ハ倒セマセェン、力押シデハ何モ──…ッ!?』

 

 深海金剛が勝ち誇った顔で居るも、翔鶴が無策で挑んでいるということは無く…翔鶴航空隊の中から一機が飛び出すと、降下させた備え付けた魚雷を暴風のバリアに撃ち当てる。破裂した魚雷から極寒の魔導エネルギーがいて飛び出し吹雪(ふぶ)くと、風の壁と同時に、瞬間的に深海金剛の身体を凍らせた。深海金剛の渦巻く空気の壁が、冷気を運ぶ「送風装置」の役割と化したことで、翔鶴の冷気魔導弾の威力を自らの全身に送り込んだのだ…!

 

『グ…コレハ』

「風はあらゆるものを運ぶ、火であれば燃え盛る火災旋風、土であれば大地を削る竜巻、そして…氷であれば極低温を瞬間隅々まで。墓穴を掘ったわね…私も属性の使い分けが出来る以上、貴女の防御策の対策ぐらい簡単に出来るわ!」

 

 片や全属性、片や全エネルギーに変換。互いに似通った能力である以上使い手たちの「戦闘センス」が勝負を左右する。凍って身動きの取れない深海金剛は敵の想定以上の「柔軟な対応力」に、内心感心していた。

 

『──見事、オ互イ同ジ手ハ通ジナイトイウコトデスカ? ナラバ…』

 

 

 ──ゴオォッ!!

 

 

 全身から熱気が立ち込めたかと思うと、深海金剛は凍った身体の内側から身体を発火させ、張り付いた氷を蒸発させた。

 

『ココカラ根競ベトイウ話、貴女ガドンナ手ヲ使オウトモ私モ対応シテ見セマショウ。知識ヤ才能ダケデ私ヲ負カセルトハ思ワナイコトデェ~ス!』

「…っ!」

 

 火達磨になりながらも涼しい顔で翔鶴を挑発する深海金剛だが、彼女の言うとおりこの勝負は「どちらが折れるか」に集約される。

 

 翔鶴側は、扱える属性に限りはあるものの彼女にしか使えない生属性の極点魔法「エーテル光子」がある。

 

 対して深海金剛は、エーテル光子こそ扱えないが全ての属性が使用可能。

 

 翔鶴としては深海金剛の隙を突いて、エーテル光子を彼女の身体に撃ち込めばそれだけで勝機がある。勿論あちらに「五行廻輪」という奥の手がある以上油断は出来ない…が、魔法の才覚のある翔鶴には()()()()()()()()()()()()()()

 

「(問題は彼女がそんな隙を与えてくれるかということ、それをするためには繊細な技術も必要。現時点では不可能かもしれないわね。仕方ない…とにかく撃ち込むのよ、相手が攻撃に対応している一瞬の隙を狙う…!)」

 

 翔鶴はそう結論付けると背中の翼を羽ばたかせて飛翔、蒼穹の弓矢から疾く発射、発艦していく艦載機航空隊、宙を縦横無尽に駆けながら素早く撃ち込んでいく。

 気づけば四方八方から蒼の艦載機が深海金剛に向けて突っ込んでいく…っ!

 

「さぁどうするの…?」

『決マッテイマァス。全テ──撃チ落トス!!』

 

 深海金剛は威勢よく言ってのけると、両手を広げて薄い黒紫のオーラを放ち始める。すると──彼女の周りの海面が細波立ち、次第に黒の瘴気が立ち込め始める。

 瘴気は煌々と不気味に炎上するや、深海金剛を囲む形で六つの火の玉が出来始めたと思うと、それらは「巨大な鬼のしゃれこうべ」のように変化した。黒炎を纏う六つの骸骨頭は圧倒的畏怖を齎す。

 

『全砲門、全方位全力対空射撃。海底ノ暗闇ニ…沈ミナサァイ!!』

 

『オオオオオォ………ッ!』

 

 

 

 ──ゴオォ…ズドオォオオンッ!!

 

 

 

 深海金剛の号令と共に、しゃれこうべたちは大きな口を勢いよく開くと、瘴気を溜めた闇のエネルギー弾を解き放つ。極大な隕石を模った闇の炎は艦載機群を捉えると、それぞれ爆発を起こし無数の翔鶴艦載機大隊を粉砕散乱していく。紅い空を覆う蒼炎の戦闘機群が消滅したことは、正に「絶望」を表していた。

 

「くっ…!?」

『ドウシマシタカアァ!? ソノ程度デハナイデショウ翔鶴! モット私ヲ楽シマセテ下サァイ!!』

 

 深海金剛の圧倒的な実力、隙を突けば勝てるかもしれないという翔鶴の考えは、甘さがあったと反省する。

 

「(駄目だ、出鱈目に撃ち込んでも向こうの無数の手数に押し返される。こんなことしたって絶対勝てない…どうすれば良いの?)」

 

 迫り来る鬼神にどう太刀打ちするか苦悩する翔鶴、果たして突破口はあるのか…兎に角冷静に敵の出来ることを予測していく。

 

 敵は「全属性」を操る怪物、属性は概念を魔法で再現するもの、その数は禁術を含めると「19種」となる。それらを考慮しながら対策を考えるのは困難…というより、ここまで種類が多いと不可能ではある。

 

「(魔法は想像力がモノを言う、使い手によって同じ属性でも如何様にも変化する。あの鬼は搦め手も平気で使って勝利をもぎ取っている、どんな手を使って来るか分からない。()()()()()()()()()()()()()()()()()…)──…ん?」

 

 ふと翔鶴の頭にはある可能性が浮上していた、それは先ほど野分が偶然引き起こした「対消滅」の場面想起に起因していた。

 であればそのあたりを踏まえた「対処法」を考えたいが、深海金剛は「隙は与えない」と」言わんばかりに闇炎に包まれた髑髏たちが口を開けて、今にも次弾発射しそうであった。

 

「考えている暇はない──兎に角やって見るしかない!」

 

 翔鶴は空を飛びながら敵に弓を向けると、第二次航空隊を発艦していく。先ほどより数こそ少ないが故の身軽な敏捷性で深海金剛との距離を縮めていくが、深海金剛は余裕の表情で闇の髑髏たちから対空砲撃を発射する。

 

『ソノ烏合ノ衆デ何ガ出来ルノデス? サァ…闇ノ炎デ火達磨トナリ、堕チナサァ~イ!』

 

 深海金剛が嗤い、勝利を確信する──その時、翔鶴の右眼から蒼炎が燃え広がると、その手前に「青みがかった丸い鏡」のようなレンズが映し出される。レンズの色は一瞬で「半分が黒色、もう半分が赤色」に変色する。

 

「──属性解析(サーチ・ロード)、闇と火。なら…冷気魔導弾、発射!」

 

 翔鶴は航空隊の一部隊に、闇炎弾に向けて冷気魔導弾を放つよう命ずる。冷気魔導弾は確りと闇炎弾に命中し、魔導弾の中から極寒の吹雪が吹き荒ぶと…黒い炎と蒼光の超低温がぶつかり合う、すると──

 

 

 ──ギュォオオッ!!

 

 

 黒炎と蒼冷の間から白い光が発すると拮抗する二つの力を飲み込んでいく…やがて、光が収まると何事もなかったように静寂の空間が広がっていた…!

 

『ッ!? コレハ…対消滅?!』

「そうよ、貴女の複合属性…マイナスの「闇」とプラスの「炎」を、私のプラスの「生(せい)」とマイナスの「氷」で相殺したの。ぶっつけ本番だったけど…どうやら上手く行ったみたいね?」

 

 何と翔鶴は、あの一瞬で敵の使用属性分析を瞬時に行い、それに対応する形で対となる属性を衝突させ「対消滅」を発生させた。対消滅の強大なエネルギーの影響を受けない遠距離からの攻撃、そして魔法属性の知識に長けた翔鶴だからこそ為せる荒業であった。

 

『ホウ…ホゥ! ソウ来マシタカ、貴女ノ魔法ヘノ知識ハ中々侮レナイヨウデェス』

「褒め言葉として受け取るわ。それでも中々隙は出来ないでしょうけど…ねっ!」

 

 翔鶴は航空隊を発艦させつつ、敵の的にならぬよう飛び回る。深海金剛はそれを見て髑髏砲を翔鶴に向けて照準を合わせ、魔砲弾を連続射出する。その色合いは──緑に光る不気味な大火炎弾であった。それが暴風を纏って翔鶴に迫る。

 

『コレハドウデショウカ、何ノ属性カ理解出来マスカァ?』

「ふぅん。──属性解析(サーチ・ロード)、火、風、それに「死属性」? 三属性を複合させるなんてね、まぁ…どうとでもなるけど!」

『(ッ! 速イ…コノ極短時間ノ属性解析、マサカトハ思イマシタガココマデトハ。幾ラえるふデモ…フム、シカシ、マァ)──コチラモ何トデモシテミセマァース!!』

 

 空を駆け巡る翔鶴は、深海金剛が放った魔砲弾に使われた属性を瞬時に解析し、それに対応する──雷、氷、生──属性をぶつけるため、魔導冷気弾、魔導電気弾を搭載した魔導航空隊を発艦させ、敵の放った全ての砲弾に魔導弾を投下する。

 

 ──ギュォオ、ギュォオオッ、ゴギュォオオオッ!!

 

 敵のプラスの火、マイナスの風、マイナスの死に対し、マイナスの氷、プラスの雷、プラスの生をぶつけていく。魔導弾が着弾した瞬間の彼方此方の空中に乱発される白光(びゃっこう)が、紅く仄暗い海域を強烈に照らしていく…!

 そうして光が収まっていくと、緑の火炎弾は綺麗さっぱり無くなっていた。翔鶴は悠然と空中を静止して深海金剛を睨む、深海金剛も不敵に嗤い顔を歪ませ翔鶴を鋭い眼光を向ける。

 

「(良し。これで敵の攻撃の対処法は問題ないわね? ただ…敵の手数が無数にあるのは変わらないから、何とか決め手が欲しいわね。今は拮抗したこの状態を保つ…でも時間は少ないでしょうから、隙を突くにしろ防戦で体力を消耗させるにしろ「裏を掻かれないように」気を付けないと…!)」

 

 翔鶴は敵の属性攻撃を無効化する方法を編み出したが、それは敵の攻勢を挫く切っ掛けに過ぎず、翔鶴自身に深海金剛をどうにかする方法はまだ手元にはない。一度の策が功を奏しただけで事態が好転するとは限らないのだ。寧ろこの劣勢を平然と覆す化け物が相手である以上、ここで畳みかけたい。翔鶴はあらゆる対策を早急に想定し始める。

 

「(遠距離で攻撃し続けるだけでは避けられかねない。何とか相手の近くに…いえ、弓の引き絞りを待ってくれるとは到底思えない。攻撃隊で牽制しつつ私自身が敵の懐に…でもそれは、私自身に「近距離の攻撃手段」があれば良いけど、空母にそんな戦法はないわ。蹴りを入れるぐらいなら出来るけどそれでは足りない、もっと強力な…一瞬で相手を仕留められるような攻撃が必要。

 魔導航空隊の攻撃は既に見切られているでしょうし、相手の不意を見て至近距離を捉えられれば…そして必殺の一発を与えることが出来れば──)」

 

 勿論それで深海金剛を倒せるとは思えない、ここまで天龍、綾波、望月、野分の決死の全力を全て受け切って尚、苦戦の様子は無い。未だ鬼神の実力の底は視えていない状況。

 だが…拓人たちは金剛(エリ)の復活に全てを賭けている、そのために深海金剛の戦闘データが必要で、全力で倒す気力を持たなければ絶対に倒せない。人類の命運も掛かっている以上その先の「滅び」も見据えてでもやるしかないのだ。

 上空を旋回し、敵の攻撃に対応しながら思考を巡らせる翔鶴に…やがて疲労の色が見える。

 

「(ふぅ…頭を捻るのは疲れる、望月の指示に従っていた方が楽よね。そんなこと言ってる場合じゃないのは分かっているのだけど)…さぁてどうしましょうか? この状況は」

 

 翔鶴は冷静に状況を俯瞰し、糸口を見つけようと再び頭を絞る。先ずは天龍から野分までの戦いの過程を考えてみる。

 

「(天龍は我武者羅に戦って、自分の限界を越えた。綾波は追い詰められてから、敵が油断している隙を突いた。望月は自分に有利な状況を作って、野分との連携で倒そうとした。野分もそれに応える形で戦い抜いた。

 …皆、自分なりの戦い方で深海金剛に一矢報いている。なら私は? 私なりの戦い方って──…っ!!)」

 

 仲間たちの戦いを反芻した翔鶴に…ふと、天啓とも言える「一手」が浮かぶ。

 

「…ふふっ、そうよね。下手に動いても駄目なら「シンプル」に…よね、私には…それしか出来ないから!」

 

 そう呟いて微笑むと、翔鶴は空中で上に一回りしてから勢いをつけて深海金剛へ突撃する。

 

「はあぁーーーっ!!」

『フンッ、属性相殺ノ爆心地ヘ自ラ乗リ込ムトハ。考エ尽キテ遮二無二特攻デスカ? 甘イデスネェ…対消滅ノ()()(せんこう)ニ飲マレナサァイ!!』

「…っ!!」

 

 翔鶴の一見無謀な行動に、深海金剛は謗りながら再び闇炎髑髏砲を形成し、真っ直ぐ突っ込んで来る翔鶴に向けて黒炎の凶砲弾を射出する。翔鶴はそれを見るとまたもくるりと旋回しながら、弓矢を構えて冷気魔導航空隊を飛ばす。そして──そのまま蒼光弓を仕舞うと再び下へ一気に滑空していく、その顔に恐れはなく代わりに口元が動いて()()()()()()()()()()()()

 

『何!? 何故突撃ヲ止メナイ? 本当ニ沈ムツモ──ッ!』

 

 翔鶴の異常行動に、深海金剛は──その真意に気付いて戦慄する。

 

『マサカ…ダトスレバ、不味イ!』

 

 深海金剛は焦りを隠せない顔つきで、横方向へ跳躍して急いてその場を離れようとする。

 深海金剛の「まさか」は的中する、上空で闇炎と蒼冷のぶつかり合いにより生じた、球状の白い滅光を放つ対消滅現象、それが…球の中心から「蒼光」が見えると白を飲み込んでいく。白を枠としたような巨大な蒼球が出来上がると、降下を始める。

 

 ──ゴオォッ!!

 

 海面をめり込ませながら、神の如き美しさすら感じる巨大蒼球は降り立った。その中心に黒い人影が見える…翔鶴だ、そして彼女の頭に巻かれていたのは「朱色」の鉢巻きであった。

 

『クゥ…ッ、ソノ鉢巻キ、ソシテ防御壁ハ…先ホドノ防守形態デ()()()()()()()()()()…!』

「そうよ、()()()()()()()()。この姿を見た時点で貴女はもう終わりよ、対消滅のエネルギーの前では全てが跡形も無く消し飛ぶ、威力の伝達速度も桁違いよ。逃げ場なんて無いし、流石の貴女でも耐えられるかしら?」

 

 更なる喫驚の事実、翔鶴は対消滅のエネルギーを改二甲の能力「凡ゆるエネルギーを吸収、反射する」で全て収めてみせた。後は彼女が「反射(リフレクト)」と叫べば、対消滅のエネルギーは深海金剛を跡形も無く吹き飛ばすだろう。翔鶴にしか出来ない最大の攻撃が鬼神を捉えた…だが、苦い顔をする深海金剛は翔鶴に対し嫌味を含んだ悪意ある言葉の常套句を述べる。

 

『チッ、確カニソノトーリデスガ…フッ、良イノデスカ? 私ヲ消シタラ「エリ」ハドウナルカ…マダ戦闘でーたトヤラモ、全テ集マリキッテイナイノデショォウ?』

「──そんな脅しには屈しないわ。貴女をここで倒し損ねたら世界の危機に繋がる、そんなことを犯してまで彼女を優先したら、エリはきっと怒るから。それに元々貴女と全力でやらないと戦闘データは手に入らないの、これが──私の全力だという話よ!!

『ッ! 忌々シイ…アアアァァクソッタレガアアァッ!!』

 

 翔鶴の信念は揺さぶる悪意すら跳ね除けた。激昂する深海金剛を余所に、翔鶴は既に覚悟を済ませた顔つきで、周りの対消滅エネルギーを解き放たんと──高らかに叫んだ。

 

「これで終わりよ! 反射(リィフレェクット)オオオオオォォッ!

 

 

 ──カッ!!

 

 

 声大に発した宣告が紅い空に響く、瞬間──目が潰れそうなほどの強烈な光が走ると同時に、数千数万という光線が迸る。それらは確りと深海金剛を捉え…無数の白い光線は瞬く間に深海金剛の直前に到ると、鬼神へと次々に着弾していく。光線はやがて束となり、畏れある鬼神の身体を包み込んでいく。

 

『ヴォ”ォ”ォ”……──』

 

 閃光は膨大な波動となり、鬼神を白に覆い隠しながら海上を突き進んでいく。強大な力の余波は全てを呑み込み、やがて白光が消えて無くなっていくと同時に、静寂が訪れようとしていた…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 唸るような轟音と視界に広がる白光、それらは暫く拓人たちの聴覚と視覚を奪い、余剰威力の影響で突風が身動きをも封じている。まるで世界の終りのような有り様に、望月を両腕で抱く拓人は思わず片腕で顔を隠し竦みあがる。

 …そして、風が止み、視界も晴れ、音も徐々に静まっていく…全てが終わり治まったことを感じた拓人は、腕を降ろして周囲を確認する。

 

「…目の前にはまだ煙が広がっているか、ふぅ…翔鶴はどうなったんだ?」

 

 拓人は視認を遮る煙の向こう側の翔鶴を案じる、果たして彼女は無事なのか…深海金剛は倒されてしまったのか?

 

 そんな思考の波の中、拓人が頭の端で考えていたのは──”勝ったかもしれない”という油断であった。

 

 なるべく考えたくなかった、だが…天龍から始まり綾波、望月野分と、段々と戦いは苛烈さを増していき、その都度彼女たちも進化していき鬼神と対峙していった。だが翔鶴の能力は深海金剛からして「最初から強敵として認められている」ほどの力で、それは今しがた最高点に到達した。先ほどの翔鶴改二甲のエネルギーカウンターは絶大に極まっており、これで決まらなければ敵は化け物以上の恐ろしいナニカだ。それ程までに一見だけで理解出来る圧倒的な「力」であった。

 事実、煙が晴れかけた先の視界には、海が割れ海底の土すら抉れている強大な力の爪痕が残されている光景が広がっていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、これほどの破壊力を目の当たりにして内心でも勝ちを考えないのは、人の感性が許さないだろう。それは艦娘たちも同様のようで、口々に翔鶴の「勝利」を半信気味に出していく。

 

「これは…仕留めたか!?」

「翔鶴さんの先ほどの攻撃で海面に大きな傷跡が出来上がっています、加えて攻撃の一瞬は正に「神速」の域でした。反撃の隙が皆無である以上深海金剛が能力を使い危機回避した可能性は限リなく低いでしょう。必殺と必中の事実の前では如何に深海金剛でも…!」

『ウィ、流石翔鶴さんです。エリさんのことは気掛かりですが…いえ、それでも』

 

「──うん、警戒はしておいた方が良い」

 

 全員でこみ上げる「期待」を一頻り口に出した後、矢張り「理性」が深海金剛への警戒を厳とせよと訴えかける。あの鬼神は何度死地に立たされようとも何事もなかったように起き上がり続けた、命取りに成りかねない不注意はするべきではない。拓人たちは周囲を警戒しつつ──生存している前提で──深海金剛の次の行動に緊張を走らせる。

 

 ──そんな中、拓人の腕の中で眠っていた望月の眼が、薄らと開こうとしていた。

 

「──…ん、んん…ここぁ…あの世…じゃなさそうだねぇ?」

「っ! 望月気が付いた? 調子はどう?」

 

 望月の声に気付いた拓人は、安堵した様子で容態を窺うも…本ニンはいつもの調子で自身の具合の悪さを表現する。

 

「…大将か? 調子は最悪だわねぇ、身体ぁダリーし頭も霧が掛かってるし」

「そっかそっか、取り合えず大丈夫そうで良かった。…今翔鶴が深海金剛と戦っているんだ、凄かったよ…上手く言えないけど、翔鶴のエネルギー生成と深海金剛の全属性行使がぶつかり合って、何だか真っ白なパワーボールがそこら中に出来上がっちゃって」

「んあぁ、深海金剛の攻撃に翔鶴が対応したってことか。要は対消滅で攻撃を相殺してったんだねぇ、無茶するよ全く…アイツらしいけどさ」

「そうかもね? でその対消滅? のエネルギーを翔鶴が、改二甲の能力で吸い取ってさ、深海金剛に向けて解き放ったんだ。翔鶴の機転の利きが上手く嚙み合った感じだね!」

「おぉ~ソイツぁすげぇや、あのカウンター形態をそんな風に…」

「うん、おかげで海に大穴が開いちゃったけど…でもこれで深海金剛にとどめは刺せたと思うんだ。じゃなきゃ本当に手は付けられないって話じゃない? まだ気は緩めないけどね。仮に本当に倒せたら、エリのことをもう一度考え直さないとだけど、それは戦闘データの回収具合次第だよね。上手い具合に全部回収出来てたら良いんだけど」

「ソイツぁ虫が良すぎるって話だ──…ん?」

 

 二人が翔鶴と深海金剛との戦いを纏めていると…望月が「待てよ?」と呟きながら何かを考え始めていた。

 

「望月、どうしたの?」

「…可能性は十分ある、だとしたら……っ! 大将ヤベェぞ、今すぐ翔鶴をこっちに呼び戻せ!!」

「えっ? …あぁそうか、念のために離れて様子を見た方が良いよね。五行廻輪で全回復されるかもだし、君は知らないかもだけどさっきも「闇の力」みたいな能力で復活してたから。だとしても今回はそんなこと出来る余裕は…」

「違う! ()()()()()()()()()()()!!」

 

 望月の異様な反応と含みある発言に、思わず怪訝な顔で返してしまう拓人。望月は朧げな頭でも弾き出せた「絶対的な事実」を拓人に告げる。

 

「大将、属性っつーのは全部で「19種」あるんだが…その中に含まれず、んでもヤベー代物があるんだ。禁術なんて目じゃねぇ「幻」の属性がな。

 数多の魔術師、魔法使いがそれを再現しようと挑んだが、遂に形に出来なかった「実質再現不可能」の属性だ、だがあのヤローなら或いは…」

「そ、そんな属性があるの?! それって一体…?」

 

「ソイツはあらゆる属性の天敵だ、それが発現出来ちまったら…()()()()()()()()()()()()()()()()()、だから──…っ!?」

「──…! …嘘だ、()()()()()()()()()()()()。でも……どうやって?!」

 

 望月が話している途中…空間に悍ましい威圧感が走る。

 拓人たちが一斉に悍ましさを感じる方向へ目を向けると…煙が完全に晴れたそこには、割れた海の谷間から紫の闘気を放出しながらゆっくりと浮かび上がって来る鬼神の姿であった…!

 

「──そ、そんな。確かに対消滅エネルギーが直撃したはず、回避したならまだしも消し飛びもしないなんて…っ!」

 

 翔鶴が半ば「絶望」の表情で対峙する「()()()()()()()()()」を見つめる、対する深海金剛は…片腕を前に出し手を翳しながら指を広げると、不気味な笑みを浮かべて答える。

 

 

『フフッ。咄嗟ノ判断デシタガ間ニ合ッタヨウデェス、コレガ…噂ニ聞イタ伝説ノ属性。全テノ事象ヲ抹消スル──”無属性”

 

 

 それは、どうあっても現実は変えられないという「暗澹たる世界」が、拓人たちの目の前に突きつけられた瞬間であった…っ!

 




〇今回の不明点について
 ここで君たちに、翔鶴の行った「対消滅」のプラス・マイナスエネルギーの組み合わせについて、簡単に解説していこうと思うが、要点は以下のとおりになる。

1.プラスとマイナスの組み合わせは決まっている、それ以外をぶつけても対消滅は発動しない。(プラス:炎、マイナス:氷など)

2.複数の属性が組み合わさっている場合、それぞれに対応した属性をぶつける必要がある。

3.「生・死属性」と「光・闇属性」のみ、性質が似通っているため組み合わせが違っていても対消滅が発生する。(作中の「生に対する闇」と「死に対する光」)

 と、こうなっている。少し小難しかったかな? ふふっ、要するに算数の式に「例外」があったということだ。気になる者も居るだろうがどうかこれで納得してほしい。

 後は…そうだな、最後の無属性の下りだが、どうやら最高神どの(作者)から言及があるようだ。


 ※すいません、幻の属性とか言ってますが、クロギリ終盤のマサムネさんの使った「凡ゆる事象を無効化するプログラム」も似たようなもんじゃないかと、書いてて気づきました。あれも超科学でようやっと再現出来たという話で、魔法や魔術でやるのは「難易度が跳ね上がるぐらい難しい」…ということ、にして頂ければ;


 成る程、随分と自身過失な神だが聞いてのとおりだ。無属性についての詳しい解説は次回以降にさせてもらうが、言い換えれば「人類にはほぼ再現不可能だが、概念としては確かに存在している」ということだけ頭に入れてもらえれば良い。

 それにしてもこの佳境で大きな盤上返しが起こるとは、諸君も予想はしていなかった訳ではないだろうが…さて、戦えるモノが翔鶴君だけとなった今、彼女の敗北は果たして彼らにどのような結末を齎すのか…だがまぁまだ分からないよ、更なる強盗(がんどう)返しに期待しようじゃないか? 希望の「灯火」は…まだ消えては居ないよ? フッ…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。