艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──???
目前に広がる暗く先の見えない闇、意識を取り戻した若者…拓人はゆっくりと重い瞼を開くと、薄らと光が差し込み…次第に霞んだ光景が晴れ始めた。
「…? あれ、ここは? 僕は一体何を…?」
自身が事前にしていた行動を思い出せずに居た拓人は、記憶を辿ろうと頭の中に注意を向けるが…映像が霞みがかって思い出せない、仕方が無いので辺りを見回していると…白を基準にした部屋に手摺りの着いた二台のベッドがある、その内一台のベッドに
「(──あぁ、これは。そういうことか)」
状況を理解した拓人は暫く辺りの光景を眺めていると、ふと横にあるもう一台のベッド…その上に眠っている一人の「少女」が目に入った。
「──…っ! 光凛っ!!」
──病室のベッドで眠っていた拓人は、思い人の名を叫びながら飛び上がる。そこに在ったのは──かつてこの部屋で志半ばで亡くなった少女「
拓人に名前を呼ばれた光凛は寝ぼけ眼と言った具合に薄らと目を開けて、眠気に顔を歪ませながらのっそりとベッドから上半身を起こすと、欠伸を一つ吐きながら挨拶を交わす。
「──ふわぁ~っ、おはよう拓人ぉ。どうしたの~大声出して?」
拓人は生前と何一つ変わらない彼女に内心安堵しながら、何故光凛がこの場に居るのか
「(そうか──
そう結論付けると、拓人はこれからどういう会話をしていこうかと胸を躍らせる。ここまで
「(何から話そう? 光凛が居なくなってから今までのことを話そうか…いや、そんな「辛い現実」を思い起こさせるようなことはしたくない。もっと楽しい話をしよう!
例えば…今まで見ていた「長い夢」の話を、そこでは僕は異世界を救うために呼ばれた
大部分は未だ思い出せないが、何となく
「──ねぇ、拓人。いきなりだけど…
「──………へ?」
その言葉を平然と吐き出した光凛に、拓人は悍ましい光景を目にしているように顔が引き攣り上がり、脳は言葉の意味を理解することを拒否するように思考を停止した。
そんな拓人を余所に光凛(?)は淡々と話し続ける…楽しいのか、悲しいのか、怒っているのか、喜びも読めない、何を考えているのか全く分からない
「皆言うんだぁ、私が居ない方が授業がスムーズになるとか、家計も楽になるとか? 私も死ぬのはイヤだけど…皆のためなら、仕方がないよね?」
「………何を、言っているん、だ…?」
「うん、拓人だけは私を見捨てないでいてくれたから、そんな顔してくれるよね? でも…正直、私もう耐えられない。みぃんな私に酷い言葉をぶつけてくるし、視線も冷ややかだし、生きているだけで心が崩れそうになっちゃてるの。だから──さようなら!」
「──…っ! 待って、かり」
拓人が彼女を引き留めようとした、刹那──いつの間にか場面が切り替わっており、ベッドの上で顔を白い布で隠したまま亡くなっている光凛、そしてそんな光凛を救えなかった自称英雄の呆然自失とした立ち姿があった。
「光凛…なんで…!?」
束の間に感じた幸せが、一気に不幸の谷底へ突き落された気分だった。
トラウマの再演…拓人は胸に張り裂けそうな痛みと孤独感、罪悪感に襲われた。しかし…悪魔の宴は終わらない、拓人の背後から語り掛ける人物は、拓人を更なる淵に追い詰め一縷の希望すら奪おうとしていた…!
『──良いじゃあないか! キミはきみなりによぉく頑張ったと思うよ? まぁ~結果は見えていたけどねぇ、ヒーロー気取りが一丁前にそれをやっても程度は知れている!』
『──ギャハハハハ!! 当ったり前だろぉ! テメーは一生ガキの頃のまんまさ、俺サマとの殴り合いで無様に負けちまったんだからなぁ~~!?』
『──陰気クセーくせに調子に乗るからだよ、バーカ!』
『──舐め腐った態度ばっか取ってるからだぜ、テメーの身分ぐれー自覚しろっつーのw』
『──情けない…だから君は一生底辺なのだよ』
『──分かったかよ、これで…自分が「特別」なんかじゃないってことがよぉ! ハッハッハッハ! 現実見ろよ弱虫がぁ!!!』
今までに出逢った拓人にとって最悪の人々が、拓人の中に渦巻く「
それを聞いた拓人は…憎悪の表情に顔を歪ませながら、悪魔たちに立ち向かおうと後ろを振り返る──
「──ダメだよ」
──不意に拓人は腕を掴まれて動きを制止させられる、怒りを露わにしながらそれを阻止した人物の方を振り返ると…まるで鏡合わせしたような瓜二つの顔、しかしながら顔つきは今の自分とは似てもにつかない、何かを悟った澄んだ表情を湛えた
『──! …ア”、ァ”ア”ア”ア”…』
自身を正しく認識した瞬間──体は黒い炎に覆われ、先ほどまで言葉を発せていた喉は枯れ、焼き果てて怨嗟を唸ることしか出来なくなっていた…!
──パリィン!!
そして──
かつて観測者と対話を果たした夢の世界が崩壊するように、宙に罅が走ってはガラスの破片が飛び散るように、世界の欠片は光の泡となり消え、新たな空間──白く果ての無い虚ろな空間──が現れる。
拓人自身の精神を反映したような白の世界に、拓人と…もうヒトリの
「──これが、僕か。改めて見ると酷いなぁ…それだけ、僕が君を見ることから逃げ続けていたんだろうけど」
『ア”、ア”ァ”…!』
立ち尽くす人とヒト、拓人ともう一人の拓人は今邂逅を果たし、彼らはそれだけ口にすると以降無言で片割れを見つめていた。一人は慈愛の眼差しを向けた静かな波打つ海のような顔つきで、ヒトリは最早全身を覆い隠す憎悪の炎で顔色も窺えない、焦がし尽くされ荒れ果てた大地のような様子で。
「…ねぇ、君は今何を考えているの?」
暫くの時間が流れてから口火を切ったのは拓人であったが、もうヒトリの拓人は「ア”ァ”…」としか答えられない様子で、呻り声から先に言葉が出て来る気配は無かった。
仕方が無いので拓人は一人語る…今までの自身の行い、ここに至るまでに抱いた感情の全てを。
「──正義のヒーローになりたかった。テレビの中の彼らは自身が信じた道を突き進み、弱きを助け悪を挫く…そんな姿に惹かれた仲間たちはヒーローを称賛し、後に続いていく──カッコいいと思った! 自分にもなれるかもしれないって思っていたんだ。でも…僕だけじゃなかった、そこへ至りたいと願っていたのは」
正義への憧れ、羨望は理想に変わる。拓人はそんな子どもの頃に誰もが抱いたであろう「夢」を口にする、しかし──正義は己だけでなく、周りも持っていたのだと、話しながら何処か苦しそうにする。
「子供には自分なりの解釈をした「正しさ」があって、自分の方が正しいって思ったら相手を隅に追いやって、追いやられる方も抵抗するけど次第にどちらか負けていって、蚊帳の外に追い払われる。それがどんなに客観的事実として外から「いじめ」と言われても、子供たちにとっては他愛の無い「遊び」の延長線で、楽しめない方が悪いとか、言い返さない殴り返さない方が悪いって…そんな言い分があるからそれも悪じゃなく一種の正義になってしまったんだ。
何で僕がこんな目に、なんて虐めた子を恨んだよ。非道い言い草だもの…憧れを追い続けて行動してたらいきなりタコ殴りだから。僕はこんなことされる謂われは無い、ふざけんなってね? あれから何度喧嘩したことか…でも周りの大人たちからしたら「子どもだから仕方ない」とか「大人になったら反省するはず」だって言ってみて見ぬふりされて…子は宝ってよく言うけど、いじめっ子に何の罪もない言い方はやっぱりキツイよ。これでまかり通っちゃうのが「多数決」の怖いところだよね」
『──ア”、ア”ァ”…?』
拓人の言い分にもうヒトリの拓人が疑問が浮かんだような呻りを返す…何となく「結局何が言いたいんだ?」と察した拓人は、ゴメンと素直に謝ると結論を話す。
「あぁゴメン。いや、僕は単に
虐めを受けて、心が傷ついて、負けてたまるかって自分なりに戦って…喧嘩してみたけど。結果知らない間に周りや友だちさえ傷つけて、他人から怖がられて周囲から孤立する羽目になってさ。大人たちがそれを止めなかったのは傍目から「やり返してる方にも責任がある」って思われてたんだろうね? それが──僕にとっての「失敗」だった。
失敗すると…
でも──どれも極端なやり方だった、他人の考えと対立するでもなく、他人の考えに付き従うでもない。本当に必要だったのは「どうして彼らは僕を虐めたのか」その
拓人は己の過去を振り返りながら、度が過ぎた振る舞いの数々が自身に不幸を齎したのだと、そして何より大事なのは「相手や自分の
人はどうして他者を傷つけるのか、小学生の拓人はどうして彼らに虐められたのか? その価値観の向こう側にある自身や他者の「本音」に向き合うことが、拓人が導き出した「本当の正義」を見つけ出す方法だった…!
「勿論僕にも原因があるけど、向こうにもそうなってしまった理由があると思うんだ。僕がいじめっ子たちの暴力に対抗してしまったように、彼らも僕を更に殴っては抑えつけて…それぞれがそうなった「背景」がある、それを分かっておくだけでも気持ちは随分軽くなるよ?
お互いに自分の中の理想のために戦い合ったけど、内にある核心を「理解」しようとは…自分の悪い面や相手の行動に隠された想いに向き合うことをしなかった。
拓人は相手を理解することが重要であると説く中、もうヒトリの拓人はそれを黙って聞いていた。すると──もうヒトリの拓人に異変が見られた。
──シューーー…!
何と、みるみるうちにもうヒトリの拓人の黒い炎が小さくなっていく。まだ頭や肩など一部分に種火が残されているが、そこには憎悪によって紅い眼となった鬼の形相の拓人が自分を睨み険しい表情を浮かべる姿があった。
『──まどろっこしいぞ、貴様は取って付けた理由で語るから話が長くなる。本当を言え…貴様の真意を』
先ほどまで喉が潰れたような掠れて言葉にならない声であったのに対し、今は怒りに震えるように滑舌よく憎しみの言葉を紡いでいる。闇の拓人がいよいよその胸中を表の拓人に聞かせ意思を押し付けようとしていた。
──此処に二人の拓人による自己問答が始まる…議題は「自分を傷つけた者どもを許せるか?」である。
『貴様を害した
要はお前は
「それはやり過ぎだよ、彼らも僕がここまで下手な受け取り方をするとは思ってない筈だ! 僕らが見方を変えていれば彼らも…!」
『歩み寄った、そう言いたいのか?
光凛は
「──思い出すのは君の方だ、せっかく「皆」が教えてくれたのに…無視しちゃだめだよ?」
もうヒトリの拓人の粛然としながら矢継ぎ早に放たれる他者を顧みない傲岸不遜な物言いに、拓人はこれまでの時間と経験──特に異世界で得た答え──を思い返すよう冷静に指摘する。
口を閉じるも何処か忌々し気な闇の拓人に対し、拓人は改めて何故そう思ったのか──相手を理解しようとする姿勢が大事なのか──経緯を話す。
「思い出したんだよ。光凛は自分自身が窮地に立たされても笑顔を絶やさなかったことを! 光凛は自分が病魔に取り憑かれたことを誰のせいにもしていなかった! 僕に看取られながら旅立ったあの日も──ありがとうって言ったんだ! それはきっと僕に「悲しい想いに浸ってほしくない」って彼女が僕の気持ちを汲んでくれたから! ずっと笑ってほしかったから言ってくれたんだ!!
僕の心が弱かったせいで…彼女の想いを汲み取るのに随分時間が掛かったけど、今なら言える。光凛こそが僕の目標だったんだ! そう思えたのは…きっと僕が愛した艦娘たちのおかげだと思う。
天龍は相棒への執着を、綾波は自身に課した罪を、望月は姉妹との未来への不安を、翔鶴は雁字搦めになった過去を、野分は自分の信念の欠点を、そして…エリは戦争に対する怒りを! それぞれ乗り越え受け入れた! 彼女たちはあの時の光凛のように自分に対する「答え」を取っていたんだ! なら僕も…越えて行かなくっちゃ、彼女たちに申し訳が立たない!!」
『貴様ァ…ッ!』
「確かに人には自分にも認知出来ない「悪意」がある、生まれとか環境とか、性分とか色々理由も在るけど! エリたちがそうであったように…今まで僕らを蔑ろにした人たちにも、それぞれの事情があったのかもしれないんじゃないかって、思い直したんだ!!
他人の印象を曲解しただけの場合もある、正しい認知が出来なかったり、そういう「違う世界」に居る人たちはそもそも価値観が違って居たりするだろうし、僕の
『──それを容赦しろと? 日和るな! 弱かろうが間違っていようが
「──そう、君の言うとおりでもある! 悪意を全て許してたら世界は滅ぶ、大切な人も…守れない!」
『…ッ!?』
拓人の想いを否定してやろうと正論を発するもうヒトリの拓人、憎悪と怨嗟が混じる
「だからって悲しみや怒り、憎しみをありありと出してるヤツに、協調したり理解しようとする人は何処にも居ない! どころか負の雰囲気は他人に伝播してその人たちを不幸に陥れるだけだ、僕らを傷つけた人たちに感情をぶつけたって、似たような人たちの不運を願ったって、僕らの喪ったモノが戻って来るわけじゃないんだ!!」
『…ッ、それがどうした! 我らの存在を認めぬモノどもに、掛ける情など一欠片もない! これは
「
僕はもう──そんなことしたくない!! 皆を傷つけたくないし醜い自分から逃げたくない! 酷い態度だった僕にそれでも付いて来てくれた人たちを、守っていきたい! 彼らの心を照らす太陽でありたい! あの時の光凛のように──弱さを受け入れた上で笑えるような自分でありたいっ!!」
『貴様は──完全に腑抜けたかッ! この臆病者がああああッ!!』
──ゴオォッ!!
拓人の思いの丈を発した全力の叫び、その魂の慟哭に慄いたのか…闇の拓人は心を揺がせながらドス黒い憎しみの炎を放った!
「っ!? ぅ…ぐあああああああっ!!?」
『苦しめ! そして存在を抹消しろ!! お前に成り代わって…世界に俺の憎悪を知らしめてやる!! ハァーーーーーッハッハッハッハァッ!!!』
黒い炎は拓人の身体を包み込み、彼が体験した今までの心の痛みを全身に走らせる。
ナイフで刺されたように痛む心臓、腹の底から湧き上がる怒り、電撃のように駆け抜ける神経の悲鳴、絶望が視界を曇らせては脳が思考を停止する。やがて──耐え切れずに自死に至る。それが黒炎の呪い…拓人が痛みに苦悶の叫びを上げる中、闇拓人はそれを見て天高く嗤う。闇が己の全てを喰らおうと襲い来る絶体絶命の
──だが拓人は、矢張り諦めなかった!
「──…っ、痛いなぁ…苦しいよホントに、でも…これがかつての僕が抱いていた「痛み」、狭い世界で自分が否定されたと泣き叫んでいた、情けない僕。あの頃から…正直変われている自信は無い。でも…
僕は弱い! 僕は賢くない! 僕は他人にも自分にも認められたい!! 我儘だろうと常識ナシだろうと関係ない、ダレかの
──カッ!!
『──何…ッ!?』
どんなに間違っていようとも、何かが足りなくとも人は生きて良いし、恥じる必要も無い。拓人は今までの旅から得た「答え」を高らかに叫び、そうしてそれは──拓人の身体から「光」を生んだ。
自己愛を昇華させ「自信」とする内側から溢れ出る輝きと、元から有る人への「思い遣り」の灯りが合わさり、色崎拓人という個をより強固なものへと押し上げる。それは長い航海と仲間たちの絆が生んだ眩い星の光彩──夜明けを告げる「明けの明星」の煌めきである…!
星の光は拓人の胸から徐々に大きく広がっていき、黒炎を掻き消していく…やがて全身に白く黄金色に輝くオーラを纏う拓人を垣間見て、闇拓人は驚きたじろいだ。
『馬鹿な…この、光は……
「確かに、僕は憎しみと絶望に駆られていた。表ではどんなに笑っていても醜い自分を振り払えていなかった。でも──醜くたって良い、そんな僕を好きで居てくれる人たちが居る! 僕は彼らの「愛」に、この命を懸けて応えていきたい!!
僕の周りに居てくれる愛する人々も、悪人も、他人のふりをする皆とも仲良く在りたい、そして…僕自身も受け入れて愛し続けたい! そうしてずっと笑って過ごしていたい!! これが僕の「
君もそうなんでしょ、もうヒトリの僕。長い旅から得た経験が僕らを変えようとしているんだ…いい加減認めてあげて? 自分の気持ちから逃げても…未来は変わらないんだ!」
正義を否定され愛する者を喪った少年は、他者への感謝と自分自身の自省を繰り返して成長し、遂に精神の極みへ至り「
『──嫌だ…イヤだっ!! 変わりたくない! もう傷つきたくない!! 失敗したくない!! 喪いたくない!!! 独りはもうイヤだ、苦しいのは…もう、嫌なんだっ! 怖い…怖いんだあぁ…っ!!』
先ほどの威圧的な態度が嘘のように消え失せ、傲慢の鎧を脱がされた闇は、唯々恐れ戦き、変化を強烈に否定し、体勢を崩して膝から地に伏すと腕を支えに顔を下に向けた。
嫌だ、いやだと駄々っ子のように震えて呟く自身の闇に対し、拓人はゆっくりと闇に近づくと膝を折り視点も近づける。そして優しく諭すように静かに語り始める。
「大丈夫、不安になることはないんだ。失敗して怖くなってもそれが普通のことだと思う、だって…
『…っ! 恐怖…?』
「うん。よく「愛の対義語は憎しみ」って言われるでしょう? でもいきなり憎しみが
『それは…』
「僕らは喪う恐怖に歪んでしまい、光凛を喪ったあの日あの時の自分の無力感を恨んだ。そうして光凛を喪った
でも──もう良いんだ、僕はもう光凛を喪ったあの時の自分を
『──っ!?』
「あの時の光景は僕らのトラウマだ、いきなり立ち直れなんて言わない。でも…僕らはもう贖罪の鎖に縛られる必要はない、ありのままの弱い自分を愛することが…光凛の望んでいることなんだと思う」
拓人がそれを語り終えると、もうヒトリの拓人は──いつの間にか涙に塗れた顔を上げて呆然自失を湛えると、今度は怨嗟でなく懺悔の言葉を吐く。
『──怖いんだ、また喪うんじゃないかって、また失敗するんじゃないかって。友だちに裏切られ、暴力を振るう者たちの影に怯え、遂には最愛の彼女まで…喪って、また同じことを繰り返していくのかと思うと…怖くって、立ち上がれないんだ…っ!』
憎悪の拓人から零れたその感情の根源──恐怖、それを聞き届けた拓人は崩れ倒れるもうヒトリの拓人の肩にそっと手を置くと、柔らかな声色で「解答」を促す。
「喪うことは失敗じゃない、例え喪っても──僕らの中にまだ残っている
そうして自分と向き合い続けながら、相手や周囲を頑張って幸せにしていけたら良いと思う。多分それが──
『──っ!! …ぁ”、ぁ”あ”! あ”あ”あ”!! …っ、光凛……光凛……っ!!』
拓人の掲示した「答え」に、憎悪の拓人は地に向けた顔から雫をポタポタと滴らせる。嗚咽に咽びながら涙の滝で負の感情を浄化させていく。
失敗を喪失と同化させ、それを狂気的に怯えた結果「特別に安心を求める自己愛」と「正義を他人を排斥する言い訳に使う欺瞞心」が拓人の中で育ってしまった。それは
それを悟った拓人、そして憎悪の拓人はそれぞれ立ち上がると…改めて自身の片割れを見つめ合う。今──彼らの中に渦巻く闇は晴れた…!
「──すっきりした?」
『──あぁ。ありがとう…もう一人の俺、俺はお前の「闇」の具現だ…それでも俺は、今の話で「希望」を見出せたよ! また挫けそうになってしまうかもだけど、それでも──』
「良いんだ。どんなに悟った人でも道に迷うことはある、でもそれが…僕らを彩る「物語」になるんだ! だから…迷ったって良い、進んでいこう…一緒に!」
『あぁ! ──』
そう言葉を交わし合う二人の拓人の間から「光」が差し込む、そう──晴れた暗闇から色が戻る時間がやって来たのだ。
──こうして拓人は戻っていく、自身を待つ仲間たちの元へ…闇に囚われていたもうヒトリの自分と、共に…!