艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

18 / 134
 説明回なので(このお話にしては)長めになっております、ご注意を。

 …〇良提督かな?


特異点なんて嘘だい(投げやり)

 僕が驚きながら叫ぶと、加賀さんたちは目を見張りながら僕を見やった。

 

「タクト君、彼と知り合いなの?」

「えっ? いや…」

 

 僕は言われてもう一度彼の顔を覗く。うーむ、ちょっと大人に成長した感じだけど、海斗君の面影がある。

 

「ははは、そちらの世界に僕が居たみたいだね? その様子だとただの知り合いではなさそうだ…友人かな?」

「っ!? 分かるんですか?!」

「観察眼はあるつもりだからね? しかし…はは、君の友人なんて光栄の至りだ「特異点」殿?」

 

 異世界の海斗君が僕を特異点と呼んだ。向こうは僕を知っているようだ? でもそんなことより、この人の声…。

 

「CV森川だ…!」

「タクトさん、さっきから声の妖精に敏感ですねぇ〜?」

「ふ、コエブタは褒め言葉だ!」ドヤァ

「よくわかんねーけど、いつも楽しそうだな大将」

「君にもこのすばらしきネタ世界を教えてあげるよ、もっちー」

「んー嫌な予感しかしないのに、何故か惹かれる自分がいる…」

 

 もっちーも、こっちの世界に興味津々、是非もないネ!

 僕らが会話していると、異世界海斗君も嬉しそうにしている。

 

「ははは、望月も特異点殿を気に入ってくれたみたいだね?」

「まぁね? 変に気ぃ使わないでいいから、楽だわ〜」

「そうか…何よりだ」

 

 彼は慈愛に満ちた微笑と温かな目で彼女を見つめた。なんだろう、僕らが思い浮かぶテンプレートな「顔も才能も完璧提督」のお手本、って感じ?

 

「あの、貴方は一体…?」

「ん? …あぁ、これは失礼。僕は鎮守府連合本部勤務、連合親衛隊指揮官兼連合幹部の「カイト」だ。君にはカイト君と呼んでほしいな?」

 

 やはり親衛隊直属の上司、肩書きも凄まじく長い。彼は気軽に呼んでほしいって言ってるけど…。

 

「はい…カイト……さん?」

 

 無理、ムリムリ!? そんな、そこまで僕と天と地の差がある人を気軽になんて呼べないよ!!?

 

「はは、まぁしょうがない。さて…彼女たちと一緒ということは、僕の指示がバレた…そういうことかな?」

「……はい」

「そうか。すまないね? 君があの特異点かどうかを見極める必要があったんだ、望月に非はない。よければこれからも仲良くしてほしい」

「それは勿論です」

「…お人好しだねぇ大将?」

「望月には色々助けられたし、スパイって言っても関係ないよ?」

「そうかい? ひひっ…あんがと?」

 

 望月は照れ隠しか、皮肉笑いを浮かべる。

 

「お詫びと言ってはなんだけど、僕の知ってることなら、なんでも教えよう。知らないことは答えられないけどね?」

 

 カイトさんは冗談交じりに温和な表情を見せてくれた。知りたいこと…妖精さんが暗にここに連れてきたのは、多分このため…。

 

「…特異点って、何ですか?」

「…矢張り気になるようだね?」

「はい。加賀さんは僕をドリフターって言ってましたけど、特異点とどう違うのですか?」

 

 カイトさんは頰を指で掻きながら思案する。

 

「うん、この二つの呼び方は似ているけど、明確に違う部分があるんだ」

「というと?」

「まず漂流者。これはこの世界に流れ着いた異界の者の総称だ、人や艦娘、獣や魑魅魍魎、人間以外の存在も漂流者だ」

「では、特異点とは?」

「…特異点とは、簡単に言うと「世界のルールから外れた存在」…この世界に秩序、又は混沌を呼び寄せる者。まぁこれだけ聞いても厄介なヤツだってことは分かるね?」

 

 そう言うカイトさんだけど、やっぱり釈然としない。だって…

 

「どうして僕が特異点だと?」

 

 僕の言葉に、カイトさんは真剣な表情になる。

 

「それを語るには、海魔大戦の全容を話すべきだろう。しかし…この事は今の世界の成り立ち、特にイソロク殿にまつわる重要事項だ。教えるのは構わないが、あまり口外はしないでほしい…いいね?」

 

 僕は重く頷いた、するとカイトさんはニコッと柔らかく爽やかな笑顔を見せる。

 

「うん、よろしい。さて…どう言ったものか?」

 

 今度は頭を掻いて二の言葉を考えるカイトさん。

 

「海魔大戦は、突如現れた海の上の脅威"海魔"と、異世界の勇士イソロク殿と艦娘たちが激突した海上戦争…ここまではいいね?」

「…はい」

「うん、端的に言ってしまえば、そのイソロク殿こそが「特異点」だったんだ」

「…!?」

 

 あまりの衝撃に僕は声も上げられずただ呆然と目を見開いた。まさか…イソロク様が特異点!?

 

「この世界にはマナの恩恵により、神秘の技法が数多くあった…その中には「神託」という習わしがあった。まぁ予言ってことかな? 海魔打倒を狙う我々は、当時の神託者の方からその方法を教えてもらった。神の言葉に耳を傾けて、預言として人々に伝えていた彼らから、当時の我々はこう聞いたんだ」

 

 ──災いの火の粉を振り払うべく、天より御使いが遣わされるだろう…とね?

 

「………」

「その言葉どおりに、我々の目の前にイソロク殿が現れたんだ。ボロボロの身体だったけどね? 今にも死にそうなほどだったようだ」

 

 もしかして、史実で死にかけた直後に異世界転生したってこと? 妖精さん?

 

「うーん…なんとも言えませんねぇ?」

「妖精さんでも分からないの?」

「はい…だからこそここに連れて来たワケですが! (開き直り)」

「いやいや、神様としてどうなの?」

 

 僕らが小声で話し合っていると、構わずカイトさんが特異点について語る。

 

「イソロク殿は傷が癒えると、我々と共に海魔を打倒することを誓ってくれた。それからイソロク殿の指揮で海魔の弱点を探るべく動いた我々は、ある法則を発見する」

「それって?」

「攻撃無効の有無の確認。魔法や自然の力ではアレらに傷一つつかなかったが、武器による物理攻撃はなんとか傷をつけることが可能だった。それでも致命傷にはならなかったけどね?」

 

 絶望的な話にも、カイトさんはニッと口角を上げて笑う、まるでなにかを誇るように。

 

「しかしここから彼は凄かった。物理が通るなら遠距離からの射撃も有効だと気づいた彼は、武装船を仕立て上げ海魔に対抗するように呼びかけた。しかし…弓は未だしも、銃や大砲は当時でも限られた国にしかなく、気軽に所持できるものではなかった。それどころか魔法が主流だったこの世界は、その戦いに慣れていなかった」

「魔法がそんな足枷になるなんて…」

「そう、何にでもデメリットはあるってことさ? …しかしそれでも、彼は我々に対しこう言った…」

 

 ──ならば、造ろう。海の上の戦士を…!

 

「っ!? じゃあ艦娘たちは」

「慌てないで? …そう、イソロク殿は後の「艦娘」たちの雛型を作る計画を立てた、だがそれを造るというのは僕らの世界にとっても簡単な話ではなかった。元々存在する人間を戦士にする、なんて魔法に頼りきりだった軟弱化した人類に出来るはずがなく「一から造る」にしても人体錬成は禁忌の一種として数えられているし、何より諸々の人権事情があった。だから…イソロク殿は視点を変えた」

 

 カイトさんはそう言うと、僕の肩の上に乗っている妖精さんを指した。

 

「え…妖精さんが何か?」

「君が妖精と呼ぶ魔法生物、そして艦娘…分類としては同じなんだよ」

 

 それって…艦娘が魔法生物だってこと!?

 

「艦娘は、体内に大気中のマナを蓄える「艦鉱石」と呼ばれる特殊な石が組み込まれている…これはイソロク殿が前世の世界で共に戦った盟友の魂を引き寄せるもの、召喚石と同じものだと考えてもらって良い」

「その…艦鉱石がこの世界の艦娘たちの命ということ?」

「そう。元から人じゃない存在には禁忌も何もないと、当時の人類は結論付けた。勿論僕はそうは思わないけど、それだけ切羽詰まっていたと考えるべきかな?」

 

 そこまでしないと勝てないなんて…当時がどれだけ魔法ありきだったのか、はたまた海魔がそれだけ脅威だったのか?

 

「艦鉱石、そして魔法…錬金術を基にした人体錬成。それを使って我々は人型水上兵器「艦娘」を作り上げた」

「そんな…艦娘たちはただの兵器じゃ」

「そうだね? でも僕はこういう役職に就いている以上、彼女たちを贔屓目に見るような発言は出来ないんだ…それは分かってほしい」

「………はい」

「よし。艦娘を造った我々連合は、イソロク殿の指揮の下に海魔討伐に乗り出した。そこからは、正に"快進撃"だったと聞いてるね?」

 

 艦娘の建造、海魔の討伐、世界の在り方まで変えてしまった…イソロク様は本当に「救世主」になっていたんだ…。

 

「海魔はその勢力を徐々に減らし、そうして形成が逆転した時には、もう奴らの親玉しか残っていなかった。イソロク殿はその隙を突き、彼の直属の部下である六人の艦娘…”選ばれし艦娘”に対し海魔の根源の抹消を命じた」

「加賀さんと…金剛も?」

「そうだね? …何故金剛が君の前に現れたのかは謎だが、彼女がどうなったのかは分かるね?」

 

 …海魔との戦いの果てに、金剛と呼ばれた人物は…海の底に姿を消した、つまり…。

 

「彼女を犠牲にして、海魔との戦いは人類側の勝利に終わった。そして…同時にイソロク殿も、この世界から消えてしまった」

「? 死んだんじゃないのですか? 病気で?」

「そう言われているけど、実際は顛末までは分かっていないんだよ? 七十年前の出来事だし、当時の資料も残念ながら僕らの手元には無いんだ」

「そうですか…ん? でもそれじゃなんで」

「君が特異点か分かったか? それはね? …当時彼と親しかった友人の手元に「預言書」が手渡されていたからだよ?」

「預言書!?」

「まぁ、そこまで大それたことは書かれていない。…それは書というより、紙かな? そこにはこう記されていた」

 

 ──次代の脅威が現れし時、小さき従者を携えた才気溢れる若者が艦娘を従え降り立つ。それこそが「特異点」……。

 

「…小さき従者?」

「才気溢れる若者?」

 

 天龍と望月が言いながらこっちを見やった。いやいや僕が言ったわけじゃないからね? 文句はイソロク様に言ってよ!?

 

「そう、次世代を担う我々は過去を振り返ることはせずに、またしても愚かな欲望に溺れて、そして争いを繰り返した…だからまた振り出しに戻った」

「…深海棲艦?」

「ああ、海魔の再来と言われた彼女たちは、見た目が化物から人型の女性まで様々…しかも人型のモノは「艦娘」が関係しているんじゃないかとさえ言われる」

「…そうですか」

 

 言われた僕はどこか納得する。原作でも艦娘と深海棲艦の関係はまことしやかに囁かれている。

 

「とにかく、そうして現れた深海棲艦は文字通り次世代の脅威となった…そして計ったかのように「君」が現れた」

「…なるほど、特異点はこの世界の文明そのものを変えてしまうほどの影響力を持っている、だとしたら僕や妖精さんが警戒されてしまうのも無理はない、か」

「理解が早くて助かるよ? …君がどういった理由でこちらに流れ着いたにせよ、我々に対して敵意が無いならそれでいい」

「えっと、僕はただ提督として、艦娘と一緒に暮らしていければそれでいい、と? ははは…」

 

 それを聞いたカイトさんは、一瞬目を丸くし面食らうと、大笑いした。

 

「はは、ははははは!! そうか! 中々良い心がけじゃないか? 君は艦娘が好きみたいだね?」

「はいっ! もちろん! 大好きです!!」

 

 僕は素直な気持ちを彼にぶつける、気のせいか彼がむしろ警戒してるような顔つきで考えを巡らせている。

 

「(裏があるとは思えないな? この反応は…それにしても、人々から恐れられている艦娘を「大好き」とは……っふ)」

 

 カイトさんは目を細め皮肉笑いを浮かべた。ムッ! なんか馬鹿にされてる気がする。そんなことはお構いなしに彼は海魔大戦のその後を話す。

 

「イソロク殿が居なくなった後、僕らはイソロク殿から学んだ統率のノウハウを活かして、世界をより平和に導けるように努力していこうと「鎮守府連合」を結成した。その過程で艦娘を生成する「建造技術」を封印した…これ以上火種にならないようにね? 残った艦娘は鎮守府連合のエージェントとして働いて現在に至る…と」

 

 カイトさんはひとしきり語り終えたのか、ふぅ…と一息つく。

 

 まとめると、イソロク様はやっぱり僕らの世界の五十六様のようだ、この世界に呼ばれた彼は、あちらの世界のやり方で海魔と戦う、その過程で生まれたのが艦娘。海魔を倒したイソロク様は何処かへ姿を消し、友人に「未来に海魔みたいなヤツが現れるよ? んでそいつと一緒に俺とおんなじヤツ来るから、煮るなり焼くなり好きにしてねー? (要約)」…という書き置きを残した、と?

 …これだけ聞いても、イソロク様はもう人間やめてんじゃないかと?

 

「あの、僕は貴方たちに何をするつもりもありません。さっき言ったとおり僕も提督として戦います、だから…」

「その言葉が聞きたかった。…ありがとう、これで我々の疑念は解消された」

 

 そう朗らかに笑うカイトさんは、次に僕を指差した。

 

「…じゃあ、今度は君の番だ」

「…ふぁ!?」

 

 僕はその言葉の意味が分からず、ただ戸惑うばかりだった…。

 

 




〇特異点

特異点は、この世界のルールを受けない存在であり、この世界に秩序或いは混沌を齎す存在と言われています~。
世界そのものの危機が迫りし時降り立つと言われており、海魔大戦時にはイソロクさんが、深海棲艦出現時は拓人さんが呼ばれました~。
文字通り「世界を変える」程の影響力を持っており、世界の均衡を保つ鎮守府連合は、拓人さんがどういった人柄かを今まで観察していまいた~。
漂流者(ドリフター)の中でも特別な存在、と言う訳ですねぇ~?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。