艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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信じる者は救われるって、そもそも信じさせてくれない。

「──世界は今、悪意に満ちています…」

 

 百門要塞内に建てられた、まるで場違いな神聖で厳かな雰囲気を感じる巨大な建物。

 白を基調とした、入り口の真上に高々と架けられた十字架、門を開けると、鮮やかなステンドガラスと女神像が出迎える。

 礼拝堂の奥に立つのは、十字をあしらった祭服に身を包んだ…「神父」という言葉の似合う、慈愛の笑みを浮かべた男性。

 

「人は幸福であるべくして生まれました。事実世界はそうなるべく構築されていました」

 

「海魔とは即ち神が与えたもうた試練。我々に必要だったのは、神の意志に反する精神でなく、全てを受け入れる心の器でした。それを蔑ろにしたのは、かつて神の使いに歯向かった連合と、その手足となり現在(いま)も殺戮を繰り返す艦娘」

 

「艦娘は我々の生活、人生に甚大な被害を与え続けています、何故か! それは彼女たちがこの世界を滅ぼすため造られた悪魔の軍勢であるからに他なりません!!」

 

「神は怒りを表しておられます、その証こそ灰色の化身「深海棲艦」の出現、彼女たちは今や世界中に出没し「混沌」を振り撒いている…全ては! 七十年前のあの過ちより始まった!!」

 

「…であれば我々は過ちを正し、清き心を持って神に許しを乞うべきでしょう。そうすれば、神は慈悲により全てを愛するでしょう」

 

「迷える罪人たちよ、耐えましょう。そして空を仰ぎ神に祈りを捧げましょう…世界に久遠の平穏が訪れるように!」

 

 

──うぉおおお!!!

 

 

 そこはまるで、地獄に現れた天界の扉。

 

 しかしてその支配者は、神か悪魔か…?

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「神父?」

 

 僕らはこの要塞内の事情を聞く過程で、ある人物について知らされていた。

 

「ええ、いつだったかふらりと現れてね? 使われなくなった施設で教会を開いているの。…私から言わせれば邪教信者みたいなものだけど?」

「教会…教えを説いているんですよね? 一体どんな…?」

「…艦娘と連合は悪魔の使いで、今現在の酷な状況も全部艦娘たちのせいだって?」

「…っ!? そんなの無茶苦茶だ!!」

 

 僕の反応を予測していたのか、コバヤシさんは俯いてどこか申し訳なさそうだった。

 

「そうよね? 本当にそう思う。…でもね? 人ってそんなに強くないのよ? どんなに妄言だろうと、心の拠り所が必要な人は数多く居る。特に…この百門要塞にはね?」

「あ…」

 

 そう、百門要塞。ここは戦争孤児や難民たちが集まって暮らしている、心が傷ついている人だって…それこそ数え切れないだろう。

 

「家族を失った、友達を目の前で殺された、将来を誓い合った人を亡くした人もいるわ。…それがどういう意味か、解る?」

「………」

「戦争はね、誰も望んでいないの。欲に目が眩んだダレカが始めただけの話。でも…ダレが発端だとか、そんなものは関係ないの…一度始まった戦いは、ダレカが犠牲にならないと終わらないのよ? それこそ、規模が大きくなればなるほど、より大勢のダレカが犠牲になるの」

「…どうして?」

「さぁ、誰にも解らないから「傷つけ合う」んじゃないかしら?」

 

 絶望、今の僕の胸中にはその言葉が合っていた。

 

 戦争はいけないこと、絶対に繰り返してはいけない。そう思っていた…でも、それだけじゃ駄目だった。()()()()()()()()()

 当事者たちの言葉は、何よりもの説得力があった。綺麗事は存在しない、ヤルカヤラレルカ、ただそれだけ。

 そんなの、獣と同じじゃないか…! 僕らは……僕は…っ!

 

「もちろん、誰も悪くないわ。それがどういった理由であれ、経緯がある以上仕方のないこと。…私が許せないのは、傷ついた人たちに擦り寄って来る「誰も()らない悪意」よ?」

 

 コバヤシさんはあからさまに「神父」に対して疑惑の目を向けていた、理由を聞いてみると?

 

「オンナの…"カン"よっ! (くわっ)」

「…証拠がないって?」

「明確な証拠はね? でも…あの神父が住民たちの心の傷を利用して、艦娘たちを煽っているのは事実だし、アイツが姿を現してから、艦娘がおかしくなったり神隠しの被害者が出たりしたの」

「…!」

「おかしいと思うでしょ? でも…証拠もないのもあるけど、この街のほとんどの人は、あの神父が自分たちを救ってくれたって、言って聞かないのよ」

「誰も神父を疑っていない、ってことか」

「…なるほど、その神父とやらの身の回り、調べる必要がありそうだ」

 

 天龍がそう提案すると、コバヤシさんたちは顔を輝かせ嬉しそうにした。

 

「ホントに!? ありがとう! 私たちも調べたかったんだけど、多勢に無勢っていうか、下手に動けなかったから!」

 

 マユミちゃんがそう言うと、コバヤシさんも続いた。

 

「そうね? 改めて貴方たちの力を貸して貰えないかしら?」

「もちろんです! 艦娘たちの誤解を解かなきゃ!」

 

 そう言って、コバヤシさんが伸ばした手を握る僕。同盟は正式に成立した。

 

「…その前に、一つ聞かせてほしい」

 

 天龍がコバヤシさんたちに向き合いながら、ある質問をする。

 

「タクトはこう言っているが、俺は神父の言い分にも一理あると思う、言い訳はしない。…だのに、何故俺たちに加担する? そちらもメリットばかりでは無いだろう?」

 

 天龍の言葉に、コバヤシさんは少し考える風に頭を傾げ、こう回答する。

 

「私たちは、貴女たちが兵器なんて思えないから」

 

「…それだけか?」

「えぇ、だって…貴女たちにもあるのでしょう? 心の傷」

「っ! …何故そう思う?」

「顔に書いてあるわよ? 辛い、苦しいってね? …私たちと同じよ? 心があり、悩みがあり、辛い過去を乗り越えようとしている。…そんな貴女たちを兵器なんて、とても思えない」

 

 コバヤシさんの次に、マユミちゃんも気持ちを表した。

 

「私もね? 辛かった過去があるの。誰だって…人間だったらそのくらいあるよ。それを人より強い力があるからって、線を引いて差別して…そんなことばっかりやってたら、戦いなんて一生終わらないよ。だから…どうか、貴女たちを信じさせてほしいの?」

 

 二人の言葉に、天龍は思案顔になりながらも…。

 

「…分かった、よろしく頼む」

 

 彼女は、それ以上何も言わなかった。

 

「…それにしても、どうして艦娘たちが暴れ出したのかしら?」

 

 コバヤシさんはさっそく例の議題に入る。僕らも考える…と、僕はある事柄を思い浮かべた。

 

「あらタクトちゃん、何か思い当たることが?」

「実は…」

 

 僕らはコバヤシさんたちに、ここに来るまでに「謎の男に襲われた」ことを伝えた。

 

「そんなことが…」

「はい、その男は深海棲艦を従えていました、どころか艦娘さえおかしくしてみせたんです」

「っ! コバヤシさん!」

「ええマユミちゃん、どうやら当たりみたいね?」

「…よぉ大将、その時の様子とか、もちっと詳しく教えらんねぇかい?」

 

 えらく前のめりな望月に、僕はもう少し詳しく説明する。

 

「つまりその「赤い石」の光を見た瞬間、耳長がおかしくなっちまったって?」

「うん、だよね?」

「…知りません」

 

 そっぽを向く翔鶴、まぁ立場が同じだったら僕も思い出したくないし?

 

「…ふーむ」

「眼鏡ちゃん、どうしたの?」

 

 コバヤシさんに問われると、望月はその知識を披露する。

 

「そりゃ「海魔石」かもな?」

「海魔石…?」

「あぁ、艦鉱石がマナを蓄える魔法の石だってのは知ってるだろ? 海魔石は…「欲望」を蓄えるのさ?」

「!?」

「つっても、原理は同じなんだがな? 艦鉱石と海魔石の元になる「元素を吸収する石」があるんだが…それらを加工して造られるんが、二つの魔法石ってわけ?」

「海魔石って、どういう石なの?」

「ん〜…昔は怒りとか、悲しみとか? そういう負の感情的なものを石に封印する術があったんだよ? それが後に「海魔石」って呼ばれるようになっていったんだよ」

「それはなんとなく分かるけど…」

「大将には難しいかもだけんどな…あれに魔力を注ぐと、拒絶反応っつうか蓄えた元素が暴走しちまうんだよ」

「っ! どういうこと!?」

「慌てなさんな。…例えば艦鉱石に直接魔力を注ぐと高密度の魔障光を放つ、蓄えたマナが過剰に反応しちまってんだな? その光は吐き気だとか眩暈だとか人体に悪影響を及ぶすんだ。元気の源でも取りすぎは毒、ってよくある話さ?」

「そっか…じゃあ海魔石に魔力を注ぐと?」

「そ、感情のエネルギーが暴走しちまうってワケ。元々ニンゲン様がこさえたものだからよっぽど高密度じゃねえとそこまで悪影響はねえ。…その対象が「ニンゲン」だったら、な?」

「艦娘は…違うってこと?」

「あぁ、アタシらの中身は100%マナだからな、マナと欲望は対極に位置するといっていい。欲望の思念波はアタシらをどうにかさせるにゃ十分すぎる」

「…じゃあ、あの時翔鶴が暴走したのって」

「海魔石の魔障光にやられたんだろう。まぁ…「暴走自体は稀なモン」のはずなんだがな…?」

 

 望月は小さく呟きながら翔鶴を見やったみたいだけど、彼女はぷいっとそっぽを向いて視線をそらした。…暴走? からの言葉がちょっと聞き取れなかったけど。

 

「どうしたの?」

「いや? …しかしおかしいねぇ? 海魔石は艦鉱石と一緒に、連合が取り扱いを禁じているはず」

「その話は俺も聞いたことがある。艦娘建造の撤廃と同時に、元になる魔鉱石の採掘場の廃止も決定したのだろう」

 

 天龍の言葉に頷く望月。

 

「あぁ、かつては見渡す限りっつうぐらいあった採掘場も、今じゃ全部廃鉱だろうな。だから…今入手するんは不可能のはず」

「いずれにしても、その海魔石が艦娘たちをおかしくしてる原因みたいねぇ?」

 

 コバヤシさんの見解に肯定の頷きを返す僕たち、確証はまだないけど、ここまで状況と情報が一致してるなら核心を突いているはず。

 

「…ふぅん? 面白いねえ」

 

 ニヤリと嗤う望月、見事なアー○ードスマイル。

 

「大将、アタシはしばらく海魔石について調べてみる。なんせ七十年以上前の代物だからな、アタシらの知らない何かがあるんかもしんねえ」

「うん、分かったよ。頼むね望月」

「ワタシたちも住民からの情報収集を続けまショー!」

「うむ、だがあまり出回るなよ? 住民たちの誤解も完全に解けたとは思えん。あくまで自然に聞き出すんだ」

「ウィ! 了解しました!」

「…了承」

 

 金剛、天龍、野分、綾波の順の発言だけど…綾波の声、久々に聞いた気がする;

 

「………」

「耳長ちゃんはどうするの?」

「私は別に…」

「あ! だったらさ、ウェイトレスの仕事手伝ってくれないかな? お昼になると結構きつめでさ~? お給料出すから、ね!」

「え、いえだから…」

「それは私としても助かります!」

「だよね伊良湖ちゃん! 耳長さんだったらスタイルいいし、美人だし、お客さんも喜ぶんだけどなぁ?」

「アタシもさぼれるからチョー歓迎!」

「さぼる前提ですか…」

「……ぅ…」

 

 狼狽した様子の翔鶴が、珍しく目配せして僕に意見を求めてくる。うん、可愛い。

 

「…いいんじゃないかな? ちょっとの間だけだと思うし?」

「…どうしてもやらなくては?」

「じゃあ、提督命令で」

「そんな笑顔で言わないでください…はぁ、分かりました」

「いやったぁ!」

「さぼれるー! 早速ねるー!」

「マイちゃんは待って! まだ厨房の掃除完璧じゃないでしょ!?」

「えー」

 

 わいわいと騒ぐ皆。あぁ…こういうの良いな、なんか…。

 

 

 

 ──約束して? いつかきっと、二人で…。

 

 

 

「彼女との時間を思い出すなぁ…」

 

 楽しそうな安らぎの空間を見つめながら、僕はあの時の…少し静かで、それでも楽しかったあの記憶を反芻していた…。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「………」

「何か言いたそうだな、カミサマ?」

「…天龍さん」

「何を思っているか知らんが、いい加減ヤツに真実でも伝えたらどうだ?」

「さぁ? 何を言っているやら~?」

「…ふん。俺はアイツを強くすると誓った、もしも…お前がアイツの道を塞ぐというなら…」

「怖い顔しないでください~? …そうですねぇ、私も拓人さんには強くなってほしいので、今は何も言うことはありません~」

「…そうか、ならば俺も言うことはない…ただ」

「はい~?」

「…いずれアイツ自身が、殻を破り真実を求める日が来るだろう。それが…お前が頑なに隠している「ナニカ」だとしも…俺はアイツの剣として、アイツが求める道を邪魔するモノを切り開く。…それが神だろうと変わらない、それを肝に銘じておけ」

 

 踵を返して去っていく天龍を、妖精さんは見送る。

 

「…うふ、大分距離が縮まったみたいですねぇ~? …あと少し、ですかねぇ」

 

 ──拓人さんが、自身の運命と向き合うその”時”は……。




○海魔石

海魔石は、海魔大戦が始まるずっと前に、怒りや憎しみといった負のエネルギーを封じ込める「魔封石」の一種でした〜。
海魔大戦が終結した後に、欲望の集合体とされた海魔のような不浄なる石として「海魔石」と名を改められました〜。
魔力を注ぐと、溜め込んだエネルギーが暴走し、赤い光を放ちます〜。それを見た艦娘たちは、体内のマナエネルギーを相殺されて、運が悪ければ憎しみに囚われてしまいます〜。(元々のエネルギー源なのか、ヒトには効果が薄いようですが?)
拓人さんを襲った謎の男が持っていた、とされますが…?
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