艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──我輩は、かつてわが祖国の軍において幹部を名乗っていた。
当時、わが祖国において「貧富の極差」が問題視されていた。原因は…貴族、特に王族による不正な税徴収。
勿論我輩も気づいていた。だが…我輩はそれを正す立場では無かった。陛下にも何か訳があり、一見愚行にも見える税徴収を行ったのかも知れぬと、どこかで信じておった。
…しかし、民は虐げられた怒りにより暴徒と化し、レジスタンスとなり国に反旗を翻した。
国と暴徒の血で血を洗う戦い…今思えば、何をしなくとも祖国は崩壊しておっただろう、それほどまでに過激で人が憎悪に燃えていた。
そんな折、レジスタンスに対抗するため国に雇われた艦娘…それが独眼龍だった。
彼奴は多額の契約金により我が祖国を守る尖兵として戦線に参列した。…傭兵である故、周囲からの信頼は無きに等しかったが?
しかし…契約を遵守する姿は、律義にも見え冷酷にも見えた。彼奴は我々の要求に見事応えた、そして信頼を勝ち取った。
「また依頼があれば呼ぶが良い、相応の額で良ければ応えよう」
そう言って彼奴は我々の前から姿を消した、だがまさか…あのような形で再び合間見えるとは、この時の我輩には予想だにもせなんだ。
…そして彼奴との契約期限が切れた頃、我が軍は優勢に立っており、レジスタンスとの抗争も終盤に差し掛かっていた、誰にもこの結果を覆すことは出来ない。そう誰もが確信していた…しかし。
「うおおおぉぉぉ!!!」
数か月の時が過ぎたある日。レジスタンスが急激に勢いを付け出し、遂に城内に攻め入ったのだ。
「一人も逃すな! 俺たちを縛り付ける邪悪を根絶やしにしろ! 殺せ、殺せええええ!!」
城内ではレジスタンスによる粛清が断行された、次々と斃れ逝く同胞たち、最早崩壊は避けられぬ、時間の問題だった。
我輩は陛下の身を案じ、陛下の元へ赴くと…。
「…っ!?」
暗がりの玉座の間には、独眼龍と…地に伏した陛下が……っ!
「………」
「独眼龍!? 貴様…何故陛下を…!」
「…コイツは自ら命を絶った、俺のような化け物にやられるぐらいなら自決を選ぶ…と」
「…! なぜ我らを裏切った、何故陛下をここまで追い込む必要があったのか!!」
…我輩の言葉に、彼奴は我輩に目も向けず、ポツリと独り言を呟くように言ったのだ。
「…新しい雇い主の命令だ、恨むなら恨むといい」
…奴はこの土壇場で、新たな雇い主に鞍替えしたと宣ったのだ。
おそらくレジスタンスであろう、この前ヤツ自身も言っておったしな? …レジスタンス共の火が付いたような勢いも、全ては彼奴が原因…彼奴が寝返った、たったそれだけで我々は敗北したのだ。
・・・・・
その時我輩は悟ったのだ。艦娘は…ただの兵器でなく戦いの種を振り撒く冷酷な怪物であるということを…平和を乱す"混沌"そのものであると。
…いや、確かに祖国にも落ち度はあっただろう、寧ろ因果応報だろう。我輩にそれを言う資格がないことも重々承知している。だが…救えたやもしれない命を無闇矢鱈に断罪し、戦況を悪化させたのも事実。彼奴は…ただ命じられるままに戦況を引っ掻き回していったのだ。
我輩にはそれが恐ろしい。彼奴にとって大事なのは金でもない、ましてや信頼でもない。…「戦場」より長く戦えるかどうかが重要だったのだ。
小僧、彼奴は危険だ。傭兵の立場を利用し、戦場でちっぽけな我々を翻弄する…奴こそが「悪魔」そのものだ。
ヤツに背中を見せるな。
でなければ、お主も大切なモノを奪われ”取り返しのつかない事態”が訪れるぞ…──
・・・・・
──日が傾き、夜が来る。
僕はマーミヤンへと戻ると、自室にてヤマザキさんの話を反芻していた。
「…天龍が、そんなことを」
僕は彼女の過去を垣間見た。そのつもりだったんだけど…あれは龍田を喪ったことが、彼女の人生の分岐点のようなものだったから。…僕は彼女の、概要しか知ることしかできない。
だから…ヤマザキさんの言っていた通り、それは「天龍の別側面」なんだろう。龍田を喪ったことで、天龍は心に空いた穴を塞ぐように戦い続けた。それは彼女の罪であり…罰。
側から見ても冷酷残忍な所業、それは傭兵としては当然にも思えるけど…。
「…はぁ、トイレにでも行くか」
遣る瀬無い思いだが、今は胸にしまっておこう。僕は気分を変えるためにトイレに急ぐ。…と、その道中で。
「…あれ、金剛と…天龍?」
月明かりに照らされた廊下で、二人が向かい合っていた。僕は曲がり角の壁に隠れるように…その様子を窺う。
「…ふふ、こうして二人きりで話すのは初めてデスね?」
「そうだな? …それで、用件は何だ?」
「決まっていマース。…テンリューはテートクのことをどう思っていマスk」
「ああ、好きだぞ」
「(ぶふぁっ!?)」
物陰から見ていた僕は、天龍のストレートな好意に思わず吹き出しそうになる。金剛も虚を突かれた様子で続けた。
「え、は、恥ずかしいとかないデスか?」
「事実だからな」
「…うー、じゃあどういうところが好きデース?」
問われた天龍は、息を整えながら考えると、そのままの気持ちを口にする。
「先ずはいざという時に頼りになるところだな? アイツは平時こそあのような軟弱ぶりだが、ピンチになると爆発的に能力を発揮するというとこか」
「う…」
「更に少し意地らしく、からかい甲斐がある。特に柔らかなほっぺを抓る時の顔と喋りは、やったものにしか分からない癒しがある」
「うぅ…」
「また、初対面の時もまるで俺たちを最初から知っているような大らかな態度。それが他のニンゲンにはない魅力であり、心を許せる拠り所になっている…と、こんなところか?」
「むうぅ〜ワタシよりテンリューの方が、テートクに詳しいなんて…!」
「お前は大胆不敵に見えて、その実奥手な面があるからな。もっと積極的になってもいいぐらいだ」
「…! ワタシのことも見ていてくれたの?」
「まぁ、な。安心しろ、俺もそこまで野暮ではない。この好意は正直な気持ちだが、お前からタクトを取るような真似はしない」
あぁ、これって主人公が偶々ヒロインたちの会話を耳にして、彼女たちの気持ちや自分の気持ちを再認識するイベント? 憧れはあるけど、まさか自分にこういう時が来るとは…前の僕だったら、飛び跳ねて喜んでたんだろうなぁ?
「…ふふん♪ それを聞いて安心しマシタ! これからも仲の良いワタシたちでいましょうネー?」
「逞しいなお前は…俺はお前の、そういったあっけらかんな態度も好ましいぞ」
「えへへ、じゃお休みなサーイ!」
「あぁ…」
金剛が背を向けて歩こうとすると、天龍が呼び止めた。
「金剛」
「ん? どーしまシタ?」
「…いや、作戦を失敗(しくじ)るなよ?」
「アハッ、テンリューこそ!」
笑顔で応えると鼻歌を歌いながら、嬉しそうに歩いていく金剛、彼女の背中を微笑ましく思いながら、僕もその場を後にした。
「………」
──金剛…俺は……。
天龍….彼女の心内(こころうち)を、この時の僕らは理解出来ていなかった。
彼女の虚穴は未だ塞がっていない。…しかし時は残酷に、その時を迎える…。
・・・・・
──作戦決行当日。
僕らは真夜中の月明かりの下、難なく神父と信者を見つけた。
遠目からだけど、祭服に身を包んだ男…アレが神父だろう、いやでも暗がりだし、建物が影になった道を意図的に歩いてるから、まだ顔とかはぼやけてるけど(ここまで徹底してるとはね…)
そして隣をフラフラと歩いている男性、あの人…この前の昼間にザキさんと言い合いになっていた人?
「…さぁ、行くぞ」
望月は小声で囁きながら、行動を促した。
僕らは建物の隙間に隠れながら、距離を保ちつつ神父たちの後を追う…尾行開始。
メンバーは僕、金剛、天龍、望月、綾波…と早霜。
野分と翔鶴、舞風は別働隊で動いている。もし黒幕がロボットを差し向け、本体がその隙に逃げ出さないとも限らないからね? …と、尾行びこうっと。
そろり、そろりと音を立てないように注意深く足を運びながら神父たちを追跡する。影になっているから、一瞬見失いそうになるけど、今の所何とか付いて…ん?
「…あれ!?」
僕がまた見失っただけかと思ったら…い、いない!?
「いや、あの壁の間だ」
天龍が指差す方向には、人一人が入れるぐらいの薄暗い路地裏。
「影になっているから、曲がった瞬間も見えづらいのだろう」
「…あの奥に何が?」
「あの奥は確か、行き止まりだったわよね?」
「うんうん、マンホールがあるくらいだよね?」
「なるほど…って!?」
僕は慌てて声のする方角を見やった。
「コバヤシさん、マユミちゃん! 何でここにいるの!?」
「アンタらは非常時のための連絡係で、マーミヤンに待機する手筈だろ?」
「安心して眼鏡ちゃん、私たちも引き際は心得ているわ」
「そうだよ! もうすぐ神隠しの謎が解けるかもって時に、ジッとしていられないよ!」
「…はぁ、仕方ないな? ねぇ、あの奥って本当に行き止まりなの? 隠し扉とかない?」
僕が問いかけるも、二人は首を傾げる。…しかし程なくコバヤシさんが、何か思い至ったようで。
「そういえば…マンホールの下は、古くなったからって廃棄された下水道があったわね?」
「っ! 下水道?」
「えぇ、私も詳しくは知らないけど? この要塞はかつての戦いの重要拠点地だった。そこには戦いに赴く軍人たちや、戦争で帰る場所を無くした難民たちが住んでいた…それこそ、一つの国のような様相だったと聞くわ」
「ほら、マーミヤンや他の住居も。しっかりとした石造りの家だし、水路や橋も見えるでしょ? あれは連合が「戦争が終わった後も使われるように」って思って造ったんだって?」
コバヤシさんとマユミちゃんが、この要塞について事細かに説明してくれた。なるほど…僕が思った以上に、この要塞は大きな施設であったようだ。
「でも、あれから何年も経って、次第に古くなって壊れたり、錆びついて使えなくなった建設設備が出始めたの。連合に無断で住居を貸して貰っている手前、今更厚かましく直して! なんて言えなくてね?」
「そうか、だからあそこの下水道も、そのまま放置することになったんだ」
「そういうことよ。でも…言われてみれば、確かにあそこなら隠れ家には打って付けね? あんまり思いつかないでしょうけど」
コバヤシさんはああ言ってるけど、僕はそう思わない。何故なら…!
「使われなくなった施設を根城にする、RPGの悪役のテンプレ行動だ!」
「…えぇ?」
「タクト…どうしたの?」
「あぁ気にすんな、大将は時々頭のネジが外れるからよ?」
「ひどいやもっちー…」
「うふふ、締まらないデスね?」
「あぁ、だがこの方が俺たちらしい…だろ?」
「ヒヒッ、そうさな?」
僕らは慣れたものか、いつものやんわりとした雰囲気に微笑む。綾波もうっすらと笑みを浮かべているみたいだ。
でも…その横で、眉をひそめる娘が。
「…タクトさん、本当に宜しいのですか?」
「早霜…?」
「私には、貴方のオーラを介して貴方自身の「運命」が見える、それでも漠然としていますが」
「どういう意味?」
早霜は言葉を選んでいるのか、それとも言っていいものか悩んでるのか、少しの沈黙の後に伏せていた眼をゆっくりと開け、静かに語り始めた。
「今日この先には、貴方がたの運命を揺るがす凶悪な「何か」が待っている…平たく言えば嫌な予感がする、そんな気がするのです」
「っ! それって、黒幕が待ち構えているってこと?」
「そこまでは存じません。ですが…もしも、このまま黒幕を暴くべく地下へ赴くと言うなら、日を変えるなりもう少し慎重に調べるなり、まだ出来ることがあるはず、今しかない、は早計かと」
早霜なりに僕らを心配してくれているのか。…確かにこのまま行って「実は神父は何の関係もありませんでした」なんてことになってもいけない。下水道に黒幕がいる保証は無し、彼女の言う通り「急いては事を…」と言うし。
…でも。
「僕も、この先に何かあるかも…とは思う、本当になんとなくだけど」
「私の言わんとしていることを、理解している…と?」
「うん…だからこそ、僕はこの先に行かなくちゃいけない、って考えてる」
「貴方の仲間を危険に晒すかも知れないのですよ?」
「それは見縊り(みくびり)過ぎデース、ハヤシー?」
金剛が皆を代表して、早霜に異を唱えた。
「テートクはワタシたちを信頼してくれていマス、信じてくれる人が居てくれる限り、ワタシたちはどんな困難も乗り越えて行けマス。ワタシは…ううん、ワタシ「たち」はテートクの信頼に応えていきタイ。今までも…そしてこれからも!」
「あぁ、そうだな。タクトは最近になって実力をつけ始めた、それでも俺たちの力は必要だろう」
「そーいうこった、言っちゃあなんだがバカばっかりなんでな? ま、アタシを含めてだけど」
「…司令官の御命のままに」
「金剛…皆」
僕の艦娘たちの固い意思表明を聞き届けると、早霜はまたも静かに笑う。
「…考えなし、ではないようですね。貴方がたにとって謀略を打ち砕く力は「絆」ただそれだけということ」
「早霜…」
「解りました。この早霜も力を尽くします。貴方がたの運命がどのような結末にたどり着くのか…貴方たちの傍で、確かめさせてくださいね?」
早霜も僕らの覚悟を汲んでくれたようだ。これで…心置きなく突入できる!
「タクトちゃん、頑張ってね!」
「タクト、こんなこと言える義理はないかもだけど。…お願い、要塞の皆を助けてあげて!」
「うん、分かった。ありがとう二人とも!」
こうして、僕らは地下下水道へ足を運ぶ。この先にどんな困難が待っているのか…そして。
「………」
──この先に、どんな"運命"が待っているのか…?