艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
「がぁああああ!!!」
白く歪んだ墓標が並び立つ冥界の闇の中、狂えし獣の咆哮が轟き響く。
それを迎え睨むは、同じく狂いし龍。しかしその瞳は闘争を湛えたまま、目前の標的を静かに見つめていた。
「任務…開始」
二振りの刀を携え、天龍はジリジリと金剛との間合いを測り始める。
「ぐるぁ!」
だが、金剛は御構いなしと言わんばかりに特攻する。天龍はそれを迎え討つ。
「…っ!」
先ず二刀をクロスさせ防御。それを弾いて腹部に蹴りを一発。
「がぁ!?」
思わず吹き飛ぶ金剛。それを天龍は追撃する。
「ふっ!」
身体を捻らせ、回転の威力を加えた右刀の斬撃、一直線に断つ「殺意」の一撃、しかし金剛も天性の闘争センスでこれを回避する。
「がぐぁ!!」
「大人しくしていろ…!」
今度は刀に気を纏わせ、それをバツ字型に斬り放つ天龍。
金剛、飛び斬撃を上空へ跳ぶことで回避。しかし。
「はぁっ!」
予期していたか、同じく飛び上がった天龍。飛翔から切り上げる斬撃をその身に受けた金剛。
「…っぐぁ!?」
幸いかすり傷程度、肩に少しの傷が出来たぐらい。
しかし天龍はすかさず回し蹴りを入れ、獣を地上へ落とす。
「…っぐ!」
「………」
地上に降りた天龍は、ダメージを与えた金剛ににじり寄る。
飽くまで天龍は「狩人」の感性によって動いていた、そこに「仲間だから」だとか「情が移った」とかの生易しい精神論は存在しない。
──殺るか殺られるか、ただそれだけだった。
「…がぁ!」
獰猛に咆哮をあげると、金剛はまたも猪突猛進、艤装を召喚し砲撃で弾幕を張りながら天龍に攻撃を仕掛ける。
「…っ!」
思わず防御の構えでその場で立ち尽くした天龍。業火の中から修羅金剛が顔を出し、獲物に向かい拳を振り下ろす。
「…っ!」
逆手に刀を構え攻撃を防御、受け流しながら片方の得物で切りつける、これは外れるも距離を取ることに成功する。
金剛、再び接近。次々と拳を叩き込むが、天龍も負けじと攻撃を防ぎつつも斬撃を繰り出す。
拳の連撃と斬撃の凄まじい応酬。右ストレートを左刀でいなし、右刀の斬撃を体の軸をずらして避ける。また攻撃、また防ぐ、また反撃、また躱す。…どちらかが倒れるまで、延々と繰り返す。
その闘争心に限りはなく…二匹の獣は決定打を決め込むまで、牙を相手に突き立てるのをやめない。
激情のままに拳を振るう金剛、冷徹に勝機を見出さんと切り抉る天龍…どちらが正義か、悪かなど彼女たちの間には…もはや成立しなかった。
「ぐるぁ!」
「っぐ!?」
天龍が遂に膝を突く。金剛はまるで暴れ馬のようにその拳を突き立てる、万事休すか…?
「…舐めるな」
「っ!?」
天龍は「得物をしまったもう一方の手」から何かを投げつける。…二つの重りを紐で結んだ「手製のボーラ」。
「ぁぐ?!」
片足に結びつき浮かせたそれは、体の重心を傾かせ、金剛を地に伏す状態にする。すかさず天龍は「テーザーガン」を取り出し、金剛に撃つ。
「がっ!? ががくぁ…っ!?」
放たれた電極から電流が迸り金剛の動きを止める。天龍は表情一つ変えずに、銃を懐にしまうと、刀に持ち替えそのまま…金剛の頭に翳す。
「…チェック」
狩りを制したのは天龍、見事に金剛の無力化に成功した。
『(…オカシイ)』
その一部始終を静観していた黒幕は、その結果に納得できないでいた。
何故なら、金剛に眠る圧倒的な潜在能力が「発現していない」からである。天龍に負けたのもそれが原因…どういうことだ、と内心焦りの色を見せる。
『ヤツノチカラハ…アルハズダ。ソウデナケレバ、アンナタワケタコト………ッ! マサカ…!?』
言葉で整理していくうちに、ある結論に辿り着く。それは…「力そのものの”拒絶”」。
『…ック! マサカ…コレデモセイギョデキナイトハ、ナントイウコトダ。コレハ…ケイカクヲモウイチド、ネリナオサナケレバ…!』
皮肉と焦燥の混ざった笑い声が聞こえる。だが飽くまでも己の目的、その道に変更はない。…「艦娘を消す」という自身の野望を遂げるまでは。
「……っ! ぐっ…がぁあああああ!!」
金剛は倒れ伏した状態から、咆哮をあげる。すると…「身体が動いた」。
「…なにっ!?」
「がああああ!!!」
筋肉が膨張し、動けないはずの金剛。だが…それを感じさせない、立ち上がりざまに振るわれる拳のスピードとパワー。虚を突かれた天龍はそのまま腹部に衝撃を受けて吹き飛ぶ。
「がはっ!?」
死闘を制した後の渾身の一撃、まともに喰らったが…なんとか立ち上がる。
「なんてタフなんだ。…ふふっ、流石「幻の艦娘」…!」
噂には聞いていた、選ばれし艦娘にもう一人、滅多に人前には出なかった最強の艦娘がいる、と…あの時耳にした時は半信半疑であったが、矢張りその名に恥じない豪傑ぶりだ。…だが。
「だからこそ…
天龍はニヤリと口角を歪めると、一対の得物を構え、標的に向き直る。
「…待っていろ、今…そっちに行く」
彼女は…彼女自身の本懐を迎えようとしていた。…戦いの中で”死”を迎えた時、答えがある…そう信じて。
「俺を殺してみろ! 金剛ぉおおおおおおおおお!!」
跳躍、一気に距離を詰める。得物を振り上げ、斬撃を仕掛ける。
…だが…「防がれる」。
『…ッ!』
漆黒の鎧…黒幕は金剛の前に立つと、まるで守るように天龍の斬撃を弾き返す。
「…なっ!?」
『イイキニナルナ…ウスギタナイ「ガラクタ」メ…!』
忌々し気に呟くと、黒幕の腕部から光剣が迸る。
『ワルイガ、イマコイツヲハカイサセルワケニハイカン、イマイマシイガナ。…コイツニハマダ、リヨウカチガアル』
「なら…今度はお前が相手か?」
尚もニヤリと不敵な笑みを浮かべる天龍。黒幕は苛立ちを隠せないようだ。
『ハラタダシイ。キサマノソノヨユウ、イツマデツヅクカナ…?』
黒幕は怨嗟を撒くと、光剣を構えたままそのまま天龍に斬りかかる。
「っ!」
双刀を交差させて光剣の斬撃を防ぐ、しかし黒幕は出鱈目に光剣を振り回しその防御を崩そうとする。
『オオオオオオオオ!!』
「っ! こいつ…!」
負けじと天龍も双剣を切り放ち、その凶撃を弾くと、そのまま敵に向かい斬撃を繰り出す。
「らぁっ!」
『フン!』
光剣で片方の斬撃を止める、しかし天龍のもう片方の刀の斬撃が、黒幕の黒鎧を捉える。
「もらった…!」
『バカガ!』
黒幕がそう乱暴に言い放つと、もう片方の腕部から同じく光剣を出現させ、斬撃を防いで見せる。
「…っ!?」
『ソォラッ!』
光剣を放出した双腕を胸部ごと豪快に回転させる、ロボットならではの予測不可能な動きに、天龍の得物が弾かれ…一対の刀が地面に放りだされる。
「しまった…!?」
『フハハ! ブザマダナ! …オワリダッ!!』
ここぞとばかりに、ロボットは先ほどの要領で胸部を高速回転させ…二刀の光剣の乱舞をお見舞いする…!
「…!」
天龍には…もはや「防御」の手段がない…。
高速の斬撃をもろに受けた天龍は…
・・・・・
「……………ッ…」
地に倒れ伏した天龍、目は虚ろ、腹部は引き裂かれ見るに堪えない、息も絶え絶え、彼女の命運は風前の灯火であると、誰もが見ても理解出来よう。
「…ック」
もはやこれまで、と天龍は己の死期を悟り、誰ともいわずに「笑う」…これが、この絶望こそ、彼女の望んだ「答え」なのか…?
『…ナゼワラッテイル?』
そんな天龍を見下ろしながら、ロボットは不可解そうに尋ねた。だが…その回答は「彼女自身」も知らない。
「さぁ…何故だろうな?」
それでも朗らかに、掠れているがまるで希望を湛えた声に…黒幕は憤りを覚える。
『ソンナニシニタイノカ。ナラバ…ノゾミドオリニシテヤル』
「殺れよ…!」
黒幕は言われるまでもなく、天龍の頭上に殺意のこもる光剣を突き立てる。
「…ふ」
やっと終わる…その幸福にも似た感情は…。
『オワリダ…!』
──やめろっ!!
「…!」
声が空間に響いたと同時に、一つの影が飛び出し、黒鎧を後方へと突き飛ばした…!
『ヌゥ…ッ、キサマ!』
「…タ…クト…?」
天龍はその後ろ姿を見やる、そこには…自身が認めた男の姿が。
「…っ! やめろタクト…もういい、もういいんだ…! 俺はもう助からない、だから…!」
「嫌だ…!」
「っ!?」
「助からないってなんだよ、僕は”特異点”だ。運命なんて…僕が変えてやる!」
拓人はその瞳に希望を宿すと、眼前の敵を睨みながら天龍に回答をぶつけた。
「いい加減にしろ…!」
天龍はもはや怒鳴り声もままならないが、それでも己に湧き上がる怒りを、拓人にぶつける。
「逃げ出したヤツに救われるなど、俺のプライドが許さない。生き恥を晒すくらいなら、潔く死なせてくれ…!」
天龍の「死地に赴く兵士」のような言葉。それでも…拓人の言うことは変わらない。
「僕は…君に生きてほしい。生き恥だろうと、僕のわがままだろうと…もう誰も、失いたくない…!」
「タクト…!」
「天龍、君は狂ってなんかいない。君はただ…彼女のところに、行きたかっただけなんだよね?」
「…っ!」
「戦場で彼女を喪ったから、同じ戦場での死なら、彼女と同じところに行ける。…って、君の考えそうなことだよね?」
「…そこまで、分かっているなら、後生だ。俺を…龍田の…ところに…行かせて…くれっ! もう一人は…嫌だ…!」
「…そうしてあげたいのは山々だけど、でも…駄目だ。僕にはまだ、君が必要だ」
「なに…?」
拓人は柔らかな笑みを浮かべながら、天龍を優しく諭すように自身の言葉を紡ぐ。
「僕もさっきまでは、彼女の居ない世界を否定してた。でも…だから「取り返しのつかないこと」を仕出かした。きっと龍田だって、こんな結末は望まない」
「…何故、そう言える…?」
「当たり前だよ。君たちは互いにたがいの背中を預け合う「相棒」なんだ。天龍が死んだら…きっと龍田は「何のために私が死んだのよ」って怒ると思う。それは君にとっても望んでいないことじゃないの?」
「…だが…俺は……龍田を…自分の未熟さで、死なせてしまった。俺は…罪を背負った、ならば…裁かれなければ、なら…ない…!」
「裁く? そんなに裁いてほしいんだったら、僕が君を裁いてあげるよ。他ならぬ「この世界の君たち」を作った僕が」
「…何を…?」
ゆっくりと振り向きながら、拓人は慈しみの眼で天龍を見つめる。
「天龍…君は生きるんだ。龍田の分まで…僕が、この世界での戦いを終えるまで」
「…っ!」
微笑みながら、天龍を見やるその眼差しに、迷いはない。…天龍はその瞳に「かつての相棒」を思い浮かべる。
「タクト…俺は……」
『コザカシイゾ…トクイテン…!』
そんな二人のやり取りに割って入る黒幕、言うや否や秒速の跳躍で拓人との距離を詰め…不意の斬撃を繰り出す。
「っく!?」
「…! タクト…!」
寸でのところで避けるものの、黒幕は憎悪を燃え上がらせながら、拓人に殺人の刃を向ける。
『キサマノスキニハサセン、ワガヒガンハカナラズナシトゲル。ジャマヲ…スルナ!』
「…邪魔はお前だ」
『ナニ…!?』
胸に受けた傷を片手で押さえる拓人。切り裂かれた傷から血が滴り出ている。それでも…闘志を宿したその眼は、敵を捉えて離さない。
「艦娘のいない世界? 確かにそれは平和かもね。…
『キサマ…!』
「彼女たちは人間を…本当の意味で平和に導くために必要なんだ。僕は…これからの戦いでそれを証明する、証明しなくちゃいけない責任がある…!」
『…!』
「お前が艦娘をどう思おうと関係ない。艦娘は…確かな平和への意志を持っている。それを理解しないお前が作る世界なんて…僕は認めない。認めるわけが…ないだろっ!!」
『キサマァ…!!』
拓人の覚悟のこもった言葉に、黒幕は殺意を滾らせながらその意思を潰そうと近づく。
「やめ…ろ…」
「…! 天龍…?」
『トクイテン、キサマハドウアガイテモ…”オレ”ノユクミチヲハバムトイウノカ…! ナラバ…』
光剣を迸らせ、必殺の一閃が拓人を捉える。
『…シネェエエエエエ!!』
「っ!?」
「やめろぉおおおおおおお!!」
天を衝く龍の雄たけび。…瞬間、彼女の周りに「光」が…!?
『ナニィ…!?』
「…な、なんだ……これは…?」
あまりの唐突な出来事に、黒幕の攻撃の手が止まる。天龍本人も困惑している様子だった。…すると、拓人の目の前に「インフォメーション・ポップ」が。
──『好感度上昇値、最大値到達確認』
『…
「…は?」
思わず素っ頓狂な声が出る。拓人はその言葉の意味が理解できないでいた。
「え…改二って…天龍の? 好感度方式なの? っていうか実装されてたっけ…?」
理解が追いつかない中、IPが更に選択を迫る。
『改二改装しますか? …YES/NO ?』
「…マジですか」
拓人はその選択に、一瞬思考に間が空いてしまったが…彼の決断に、もはや迷いの二文字はない。
「…やってやる! うぉりゃあ! 改二実装!!」
『スキニサセントイッタダロウガァアア!!』
凶刃が迫る中、拓人はIPの「YES」ボタンを力強く押した…すると。
「…っ!?」
天龍の纏う光が更に輝きを増し、視界を白くしていく。…そして。
「…!?」
数秒の静寂の中、光の中から姿を現したのは…?
──To be continued …