艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
拓人たちは、要塞の町を破壊し尽くさんとする機獣の一体、怪鳥「セイレーン」をなんとかするため立ち上がる。
「とはいえ…どうしようか?」
密集する家々の屋根に上った拓人は、天高く滑空する怪鳥を捉える。
「…どう天龍? 届きそう?」
「うむ…ああは言ったが途中で避けられるやもしれん。確実に仕留めなくては」
「とすれば、アイツが油断している隙に一気にやる、か」
「砲撃で気を引きつけられたら良いのですが…?」
早霜は独りごちながら空を見上げた、しかして砲撃を当てようにも射程外だった。かの怪鳥を撃ち落とすことは現時点では不可能。
…と思いきや、ふと拓人は天龍の艤装を見やると。
「…? 天龍、そういえばその艤装のそれ…高角砲じゃない? それで当てられないかな?」
高角砲並びに高射砲は、海面の軍艦が空中の敵機を迎撃するために造られた、対空攻撃を求めるこの状況にはうってつけの武装だ。
…が、期待の眼で見る拓人に対し、天龍はとある事実を伝えた。
「む? そうか…しかし残念な事がある」
「え、なに?」
「俺は様々な武装を装備し、それらを駆使し戦った…だが…」
「だが?」
「…この艤装の砲撃は碌に使ったことがない、カイニ? になる前からそうだった」
「……つまり」
「ああ、
「…えぇ、傭兵としてどうなの?」
「す、すまん…銃の射撃は得意なのだが、如何せん砲撃は勝手が違うようでな、俺のモノは何故か威力もさほど高くもなかったから、斬った方が早いと思ってな」
「…なんか、納得してる自分がいる」
天龍の意外な弱点を知った拓人、この事態を収束させるためにはどうするか…拓人は改めて怪鳥の機械で出来た体の隅々を見渡す。
「たしか望月は「基本的な能力は元になった動物と一緒」って言ってたな?」
かつて戦った狼がモデルである「機獣スキュラ」は、その種特有のスピードと狩りの執念により、拓人たちを大いに戦慄させた。
であれば…今度はそれを利用する番だ、そう考える。
「…よし、尻尾には攻撃が当たりそう」
拓人が見つめる先には、怪鳥の長く垂れ下がった「尾羽」が。
鳥は尻尾が「舵取り」の役目をしており、それによりバランスが保たれている。アレを一本でも抜くことが出来れば…バランスを保てなくなり降下するはず、だが翼がある以上体勢を立て直す可能性がある…それでも「近づいてくる」だけで十分なのだが。
「まず僕らが尻尾を切って、降下をするはずだからそこへ砲撃を撃ち込む、そこから天龍が跳躍して、コアを取り除く。…と、こんなとこかな?」
セイレーンの首元には、球体型の核(コア)が見えた。もしスキュラと同じ理屈なら、コアを取り除くことが出来ればこちらに勝機を見出せる。しかし、と綾波は警戒を呼びかけた。
「司令官、セイレーンがスキュラと同等の能力を持っている可能性、90%以上。警戒を厳とするべきかと」
「そうだね…さて、どうするかな?」
「まずはあの尾羽をどうやって切り落とすか、ですね」
早霜の提言に頷く一同、その一点を解消出来れば話は早く転ぶのだが…?
「俺が行ってもいいが、次の攻撃を警戒される恐れがある」
「そうだね天龍、特に君はトドメを担ってもらいたいから、可能な限り動かない方が良いと思う」
「むぅ…ではどうする、タクト?」
「んー…あ、じゃあ僕がセイレーンの近くまで跳んで、その位置から尾羽に砲撃、というのは?」
「…タクトさん、話を聞いていましたか? 用心する必要があるのです、指揮官である貴方にそんな無謀なことさせられません」
「で、でも早霜。一本尾っぽを抜くだけだよ? 大丈夫だよ、多分」
拓人が頼りなさげに回答すると、早霜が中指と親指を構えて…拓人の額にデコピン。
「あたっ!?」
「憶測に基づく行動は禁止、いいですね?」
早霜なりの配慮に、拓人は従わざるを得なかった。
「…はぁ」
「…分かりました、私がなんとかします」
そう言いながら一行の前に立つ綾波、徐に斧を持ち上げると?
「はっ!」
投げた。豪快なスイングのスピードとパワーにより、高速回転しながら軌跡を描く巨大なブーメランと化した綾波の戦斧。
──ザシュッ!
『Kieeeーーーッ!?』
綾波の捨て身の攻撃は、目の前の空を通過するセイレーンの尾羽を、見事に切り落とす。羽根は鉄製であるためか、そのままズンと重い着地音を出して地面にめり込む。
「おお…」
「…ん? 斧戻ってこない?」
「はい、今頃はどこかに突き刺さっているかと」
しらっとしているが、実はとんでもないことになっているのではないか? とんだ劣化ブーメランだ、拓人はそう考えるが敢えて突っ込まない。
そうこうしていると、セイレーンの態勢が崩れ始めた。…徐々に降下している。
『Kieeeーーーッ!!』
だがやはり一筋縄ではいかない。
降下すると同時に、こちらに向けてくちばしを開けたかと思いきや、そこから覗く無数の砲塔から「砲撃」をかまそうとするセイレーン。
「まぁそうなりますよねー」
「予想の範囲内です。こちらも砲撃で牽制しながら、敵の油断を誘いましょう」
早霜の言下、拓人たちは砲戦の用意をする。
「天龍はいつでもいけるように準備してて?」
「了解だ」
「この距離なら、砲撃も届きますね」
「よかったね綾波」
「……」
綾波の無言は、普段なら何を考えているか分からないが…今は「ちょっと怒ってるな」ということが分かる。皮肉もほどほどにしないと、と拓人は思った。
気を取り直し、拓人たちは砲を空の敵に向けて構える。
「人生で一度でいいから叫びたかったセリフ、いくよ……ってぇーーーっ!!」
拓人の号令の下、要塞都市の命運を掛けた一戦が幕を開けた。
『Kieeeーーーッ!!』
「うおおおっ!」
拓人たちとセイレーンの砲撃戦、セイレーンは距離を保ちながら仕掛けてくるが、絶妙なタイミングで屋根を駆け、砲撃を避けながら撃ち返す。
火花散り鉄火乱れるこの戦いは、少しは艦これっぽいかな? とひっそりと胸の内で考える拓人。
因みに今拓人が持っているのは携帯型の砲塔、つまり艦娘と同じ(もちろん駆逐艦用)のもの。
これは望月が急ごしらえで作り手渡したもの。忙しいからこれしか作れなかったが、次はもっとスゲェの作るからよ…と彼女はどこか楽しそうに言っていた。
『Kieeeーーーッ!!』
業を煮やしたか、遂に距離を縮めようとするセイレーン。
空を滑空しながらゆっくりと間を詰める…同時に天龍の金眼がギラリと光る。
「──今だ!」
拓人の一声と共に駆け出し、すぐさま跳躍する天龍。
「よし、そのまま…」
「っ! 司令官!!」
叫ぶ綾波、瞬間…拓人は突き飛ばされ、元いた地点では「爆破される」綾波が。
「綾波!?」
流れ弾が綾波を襲う。綾波自慢の鎧がボロボロに砕けてしまう、大破状態に陥り、力なく膝をつく綾波。
「そ、そんな…綾波っ!」
「だ、大丈夫…問題…あ、りませ…ん!」
「綾波…」
拓人は大破された綾波を見て思い出していた。
…忘れていた、ここは戦場。決してゲームの世界ではない、善も悪もない…やらなければ殺られる「獣の世界」に足を踏み入れていたのだ…!
「…っ! 天龍!!」
拓人は天高く跳躍する天龍に向かい叫ぶ、何も言わない天龍だが、拓人の目に見えないその顔は闘志に燃えていた。
『Kieeeーーーッ!!』
耳を劈く怪鳥の鳴き声、空気の振動が肌に直に響く距離まで近づけた…天龍は手にした一対の得物で敵の急所を切り裂かんとする。
「終わりだ…!」
──ズバッ!
「…!」
刹那、斬撃は確りと切り裂いた…”天龍の身体”を。
「な…に…っ!?」
まさかの展開に誰もが息を呑む。その見えない斬撃は確かに存在する、その正体は…セイレーンの胴体に渦巻く「真空の刃」だった。
見ると、胴体に生える羽の裏部分からうっすらと空気が流れており、それらが移動する巨大な怪鳥の胴体を駆け巡ることにより圧縮、摩擦され、本体を守る「空気の斬撃」と化していた。
「…っ! これしきで……!?」
流れ出る血を抑えながら、近くの屋根に飛び移り体制を立て直す天龍だったが、その一手を見誤る。
『Kieeeーーーッ!!』
セイレーンはその巨大な羽を広げると…大きく動かす、その気流の波はもはや立っていられないほど。
「うおぉ!?」
強風に煽られ空中に投げ出される天龍、だが…彼女が戦慄したのはそれではない。
「…なっ!?」
拓人は驚愕する、天龍の目前に広がる「いくつもの光の玉」…それは要塞都市を穴だらけにした「圧縮エネルギー式破壊弾」…!
セイレーンは、羽翼の間から放出したエネルギー弾を、そのまま翼で巻き起こした風に乗せることにより、前方広範囲に至る凶悪な爆撃の嵐へと変化させた。
「天龍ーーっ!!」
閃光が弾ける瞬間、拓人は天龍の名を叫ぶも…爆音により掻き消されてしまった……。
・・・・・
──拓人たちがセイレーンと激闘を繰り広げている頃…。
「ひいぃ、そ、空に化け物がぁ!?」
「な、なんでこんなことに…私たちが何したっていうのよぉ!」
「うわあぁ、な、なにがどうなってんだぁ~~!?」
翔鶴たちは途切れなく悲鳴をあげ続ける住民たちに避難を呼びかける。
「落ち着きなさい! 今すぐ外まで誘導するから、こっちに来なさい!」
「しょーちゃん、それじゃ誰も集まらないと思うよ?」
「皆さん、我々は貴方がたの味方です! 安全な場所まで移動しますので、どうか我々を信じていただけないでしょうか?」
翔鶴、舞風、野分の三人は住人に呼びかけてみるも、皆揃いもそろって悪辣に口遊む。
「その装備は…お、お前たち艦娘なんだろ! だ、誰がお前らの手なんか!」
「誰のせいでこんなところにいると思ってるのよ! 戦争なんて勝手にやってりゃいいじゃないの、もう私たちを巻き込もうとしないで!」
「神父様の言うとおりだった、お前らは厄災しか呼ばねぇ! 今さら正義漢ぶってんじゃねぇよ!!」
「…っ! 何ですって…私たちだって好きでお前たちなんか…!」
「っ!? しょ、しょーちゃん落ち着いて!」
臨戦態勢を取り艤装を装着したままだったので、艦娘だとバレてしまい罵倒雑言を浴びせられた三人。
あまりの横暴な物言いに翔鶴の怒りが頂点を迎えていたが、舞風と「後ろの二人組」に冷静な判断をするよう促される。
「ストーップ! 翔鶴ちゃん落ち着いて、皆気が立ってるだけだからさ!」
「耳長ちゃん、気持ちはすごく分かるけど、ここは私たちに任せてくれる?」
「…っ! マユミさん、コバヤシさんも」
振り返る翔鶴の背には、艦娘に批判的な意見が多いこの要塞の住人の中で、唯一の艦娘の味方と言える二人組…マユミとコバヤシが、住人たちの正気を戻そうとする。
「皆! 今私たちの仲間が要塞のために、あの化け物に立ち向かってくれてる! 艦娘だとか人間だとか、今はそんなこと言ってる場合じゃないよ!!」
「騙していたみたいで、ごめんなさいね? でもね、やっぱり神父は悪者だったみたいね? 詳しくは分からないけど、拓人ちゃんたちが、この要塞の地下に神隠しにあった人たちの亡骸を見つけたって。それをやったのは…おそらくアイツよ」
「マユミちゃん、コバヤシさんまで…」
住人たちはマユミたちの言葉に耳を傾けて、その意味を理解する…しかし。
「だ、騙されるか! 大体、神父様がやったっていう明確な証拠はあるのかよ!」
「そ、それは…」
「…うぅ、そういえば聞いてなかった…」
「私たちもその情報は耳にしていないわ」
「ほら見ろ! やっぱり俺たちを騙そうとしていたんだ!」
「神父様の言うとおり、私たちは滅びを受け入れるべきだったのよ! どんなに抗っても私たちが終わっているのは変わらないもの!!」
「そ、そうだ! お前らに振り回されるぐらいなら…ここで滅ぶしかねぇ!」
まるで焚きつけられたように、住人たちの恨み節は止まらない。もはや誰にも、この憎しみの暴走を止められるものはいなかった…。
「っ! コイツら…」
「マドモアゼルショーカク、落ち着いて下さい!?」
「あぁーもう! どうすりゃいいのさぁ!?」
「そんな…」
「……っ」
誰もが諦めの境地であった、これほどまでに肥大した憎悪を、誰が止められようか…?
──その時、彼女らの後ろから一喝する怒声が響く。
「貴様らぁ! 何を寝ぼけておるか!!」
「…っ!?」
そこに立っていたのは…艦娘たちを忌み嫌っていたはずの老人「ヤマザキ」だった。
「ザキさん…!?」
「何故今そのような確執を掘り下げる必要がある? 見ろ! あの化け物をっ! ここで止まってしまえば本当に死んでしまうぞ!」
「で、でもザキさん! アンタだって言ってたろ?! 艦娘が戦争を引き起こした張本人だって!!」
「そ、そうだ…もうこいつらに人生を狂わされるのは嫌なんだよ、俺たちは!!」
そうだ、そうだと火に油を注いだ勢いは止まらない、しかし…ヤマザキも一歩も引く姿勢を見せない、仁王立ちの姿勢で住民たちに問いかける。
「貴様ら、何か勘違いをしておるな」
「えっ?」
「確かに、ここまで戦争が伸びた要因、戦火を拡げたのは艦娘たちであろう。だが…そもそも戦争を仕掛けたのは誰だ。我々人間ではなかったか?」
「そ、それは…国同士が勝手にやっただけで、俺たちがやったわけじゃ」
「誰がやったか、なぞどうでもよい。人間という種族は時にとんでもない過ちを起こす、それこそ国一つを滅ぼすほどの、な? 人間である以上、立場が同じなら誰がやってもおかしくなかったのだ」
その言葉に、焚火に水をかけたように住人たちの勢いは沈静していく。
「じゃあどうすれば良かったんだ、ザキさん。俺たちは…俺たちの怒りはどこにぶつけりゃいいんだ」
「私は艦娘に親の居る家を破壊された、家族を殺されたの、そいつらのせいで!」
「俺は…妹を亡くした、戦争で、ヤツらの砲撃に巻き込まれて…!」
「ここにいるヤツらは、大切な人を亡くした。戦争で、艦娘のせいで。…もういいだろ、これ以上生きていても何も変わらない、俺たちが死んでも誰も悲しまない。ここで死んだら…家族や友人にまた会えるかもしれない」
再び行き場のない負の炎が灯る、それは失った者にしか分からない「悲しみ」。
「──本当にそれでよいのか?」
しわがれた声で老人は問いかける、神父のような優しく諭す説き方でなく、子供を叱る親のように…厳しく温かなもの。
「そこに貴様らの誇りはあるか、そこに貴様らの思い描く未来はあるか? 何もないなら…死んだところで無駄に悲しむ者が増えるだけだ」
「何だよそれ、誰が悲しむんだよ?」
「…「次代」だ」
「…!?」
「吾輩たちが生きて、戦争や艦娘たちの危険性を後世に伝えねば、同じ過ちが繰り返されるだけだ。お前たちが無責任に死ぬことで、次代の子供たちを悲しませる戦いが拡がっていくのだ」
「そんな…!」
赤ん坊を抱く母親らしき女性は、我が子を抱きしめながら恐れ戦いた。
「…俺たちには関係ない、ここで無駄に息絶えていく。もうそれで…」
「馬鹿者っ! 生き抜く事、それが戦争を終わらせる「唯一の方法」だと何故気づかない!!」
「…っ!」
住人の一人が発した言葉に、ヤマザキは喝を入れる。
「動かなければ、伝えなければ、吾輩たちと同じ悲しみを背負う若者が増えるだけだ。それでいいのか、貴様らは「次代が残酷になれば良い」とせせら嗤う外道だったか!!」
「ち、違う!? 俺たちは…もう一度会いたいだけで」
「会えるものか、吾輩たちが背負った使命を放棄したものなど、地獄の窯茹でが相応しいわ!」
「…っ!?」
「人間の最大の使命は「生きること」だ、誰にもそれを変えることは出来ない! 辛かろうが、苦しかろうが、吾輩たちは「前に進む」しか出来ないのだ。足を引きずってでも、這いつくばってでも、どんな手段を使ってでも、自らの生を全うせねばならん! 生きるのだ! 生きなければ何も変わらない!!」
「…!!」
老人は生きる意志を言葉に乗せ、その場にいる全ての人々に伝える…人間が元来持つ”誇り”…未来に託すべき平和への覚悟を。
「…ザキさん、アンタは…俺たちに生きろというのか。アイツらの分まで…
「そうだ。それこそが…吾輩たちの魂に刻まれた、誇り高き「使命」なのだ!」
「…っ、くっそー! やってやるよ! それでアイツらが報われるって言うんなら!!」
「私も…いつまでも艦娘のせいにして縮こまってたら、お父さんに怒られちゃう!」
「妹よ、もうちょっと待っててくれ。兄ちゃんやること出来たからさ…!」
あれだけ絶望に染まっていた住人たちが、みるみるうちに光を宿していく、生きる希望をその身に再点火する。
「おい艦娘! 早くここから出ようぜ、守ってくれんだろ!」
悪態をつきながらも、住人たちは翔鶴たちの誘導についてきてくれるようだ。
「…全く、ニンゲンはこれだから」
同じく悪言を吐く翔鶴だが、その顔はどこか穏やかで笑っているようにも見えた。