艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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憎まれっ子世にはばかる…嫌な世の中。

 ──野分は、自他共に認める「ナルシシスト」だ。

 

 それでいて周囲の美徳も尊敬しており、彼女の助長しすぎる言葉の羅列は、その深い愛を示しているため…かもしれない。

 

 逆に醜いモノ、即ち「悪逆」には酷い嫌悪感を抱いているが、それを暴力的に吐き出すことはなく、"常に平等に客観的に"醜美を見極めている。そこに艦娘としての使命を絡めながら、彼女は今日まで美徳を助け醜きを正している。「美助醜正(びじょしゅうせい、彼女の造語)」こそが彼女のモットーである。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 路地裏、野分は逃げ遅れた住人がいないか一人で捜索をしていた。

 そして、路地裏を隈なく探して確認し、一区切りついて戻ろうとした所、ある人物を発見したので声をかける。

 

「こんなところで何をしていらっしゃるのです…神父殿?」

 

 野分が神父と呼ぶ男。細身の司祭服に面長な顔、細目と眉は吊り上がっている。ニヤリと笑えば如何にも怪しげな男…今まで拓人たちがマークしていた人物が、目の前にいる。

 

「…っ」

 

 結論から言うと、この要塞においてある種「殺人鬼まがい」のことを仕出かし、多くの罪なき命を「自らの目的のため」手にかけた…その黒幕こそ「神父」である。

 だが、野分は疑ってはいるものの神父を「犯人」と断定出来ずにいた、それは地下下水道奥で黒幕を追い詰めた拓人たちでさえ「ロボットが身代わりになり、黒幕の顔は見ていない」と通信で情報共有していたことにある。

 この状況こそ神父が画策したモノ、今まで彼が連合から逃れている要因の一つ。自身の身を徹底的に隠蔽し、いざという時にしらを切り通す。捕まえられるものか、と内心でほくそ笑む神父。

 

「…おぉ、貴女こそこのようなところで。ここは危険です、空に神の使いが現れました。私は一人の人間としてこの要塞と共に滅ぶことに決めました、ですが…貴女に生きる意志があるなら、ここから先に来てはいけません」

 

 いけしゃあしゃあと説き伏せるように言ってのける神父、野分は(内心訝しみながら)艦娘として避難勧告をする。

 

「落ち着いてください。ボクは野分、艦娘の一人です。あの怪物はもう我々の仲間が倒したと聞いています。貴方の言い分は理解できますが、信頼する住民のためと思い、こちらへついて来てもらえますか?」

「艦娘…そうですか、貴女が」

 

 神父はどこか納得したような顔を()()()()()。そして優しい声色を作りながら嘯く。

 

「私は教徒たちを導くにあたり、貴女がたの行いを誹謗しておりました。それは私の罪でもあり罰でもあることは承知しております。教えを説くものとして貴女がたを認めることは決してありませんが…それでも、貴女がたが戦う道しか知らなかったと考えると…時々胸が破裂する思いになります」

「…お心遣いありがとうございます。ですが、我々はそのために生まれたと、皆納得しておりますので」

「そうですか…願わくば、その道がヴァルハラへ続くことを、願い奉る(アーメン)

 

 右手で十字を切り、そのまま顔の前で両手を握り、頭を垂れながら祈るしぐさをする。敬虔な神の使徒であることを見せる神父。

 野分は(あくまで勘だが)やはり神父から「醜い」臭いがする…彼女なりの「悪意を感じ取る」の表現なのだが、ともあれまるで善良にふるまう彼に対し、本当に尋問するのは「美しくない」やり方である。

 

「神父殿、もし貴方が我々を憎いと仰るのなら、どうかその教えを後の世に伝えていってくれませんか? ヤマザキさんは艦娘の危険性を伝えていきたいと願っている、貴方なら…その願いを叶えられると思うのです」

 

 …だから。

 

「おお、あのヤマザキ殿が。…ふむ、崩落も収まったようです。これもまた”天命を果たせ”と我らが神が、私に仰っていらっしゃるようです」

 

 非常に醜いやり方ではあるが。

 

「えぇ、きっとそうなのだと思います。さぁ、行きましょう」

「はい…(フッ、ガラクタが…)」

 

 

 ──”足をかけてみる”ことにした。

 

 

「ところで、結局()()()()()は何がしたかったのでしょう?」

「さぁ…()()()()がどこから現れたのか、私も……っ!?」

 

 野分の差し出した手を取ろうとしたその一瞬の出来事、全身から汗を噴き出す神父…いや、黒幕。

 

「…お待ちください、何故あの怪物の名前が「セイレーン」と知っておられるのですか? 今…確かに「知っている」ように聞こえましたが」

「(こ、このガラクタ…俺を…”嵌めやがった”…っ?!)」

「あの怪獣…あぁ、機獣というのですが。あれらの存在と名前を知っているのは「連合」とごく一部の艦娘のみ、ボクはマドモアゼルモッチーとコマンダンから聞いていたので、知っていたワケですが…神父殿、貴方は「どこから」その情報を?」

「…っ」

 

 苦虫を嚙み潰したように憎らし気な表情に変貌する神父、野分はその豹変ぶりを見て確信する。

 

「やはり貴方が…黒幕なのですね」

 

 …その言葉を皮切りに、和やかな雰囲気を保っていたその場の空気が一変する。

 

「──……」

 

 先ほどの微笑みを湛えた温和な表情は消え失せ、神父は「この世の誰よりも、お前たちを憎んでいる」と言わんばかりに怒りを滾らせた。

 

「貴様…」

「大人しくお縄を頂戴させてください。それが…信頼を寄せる住人たちへの、せめてもの礼儀…そう思われますが?」

 

 野分の言葉を受けた黒幕だが、まるで意に介さないような「嗤い」を浮かべる。

 

「フ、フフフ…いい気になるなよガラクタ?」

「……」

「とはいえ…ここまで追い詰められたのは、初めてかもしれないなぁ。それが…その相手がまさか特異点の「三下」の貴様だとはなぁ…?」

「いいえ、これは我々の…コマンダンや皆で掴んだもの、貴方は人として犯してはならないことを仕出かした。多くの犠牲を出したその罪を…償っていただきます」

「罪ぃ? …フハッ、馬鹿が。それは貴様らの「基準」の話だろう? 俺は…この世界に真の「楽園」を築いてみせる。お前たちの存在しない…あの遥か昔の世界よりも、無限に幸福を得られる世界構造を造る。そのためには…多くの犠牲が必要だ」

「世迷言を。そんなもの存在してはならないのです、人は劣悪な環境だからこそ…真に美しきモノたちに出会えるのです!」

 

 囁くように甘言を紡ぐ神父、野分はそれを己の信念ではねのける。

 

「…忌々しい、鬱陶しい、にくいニクイ憎たらしい! その光がどれだけの「意味なき死」を与えたと思う? 世界を守るだと? 貴様らは…世界を破滅に導いているのだと知れっ!!」

 

 神父の怨嗟の言葉に、野分はなおも不敵に笑う。

 

「…コマンダンが聞いたら「オマイウ」と言われるでしょうね? あぁ、これは「お前が言うな」という意味だそうで?」

「貴様…っ、俺を馬鹿にするな!!」

「その高慢な性質が、今回の敗因を生んだのです。身の程を知るべきは…貴方だ!」

 

 凛とした佇まいから、己の得物であるレイピアの切っ先を神父に向け、臨戦態勢に入る野分。

 路地裏では逃げ場もない、ここでなら確実に黒幕を捕らえられる。野分はそう考えた、事実そうだった…だが。

 

「…フ、俺は生身の人間だ。お前には抗えない…「今は」な」

「どういうことですか?」

「俺には目的がある。一つは艦娘をこの世から消し去ること、もう一つは…楽園に至るための「昇華」だ」

「何を…?」

「ノワツスキー!」

 

 その時、建物の角から飛び出してくるのは…「舞風」。

 

「っ! マイマドレーヌ、来てはいけない!」

 

 野分の制止に、一瞬の思考の間が空きその場に立ち尽くす。その隙を狙い…黒幕は懐から何かを取り出して、投げる。

 

「ッフン!」

「マイマドレーヌッ!!」

 

 舞風を守るため、その身を挺して黒幕から庇う。しかし…悪意は確実に、野分に突き刺さった。

 

「っぐぅ!?」

「野分っ!?」

 

 野分の肩を見やる舞風、するとそこには…なにかの培養液が入った注射器が、ひとりでに動き中身を野分に注入していく。

 

「っやだ!? …っ!」

 

 舞風は無我夢中にその針を抜く。野分はぐったりした様子でその場に倒れ込む。

 

「野分、野分! やだ…しっかりして!」

「…っふ」

 

 神父はその様子を滑稽そうに眺めると、すぐに身を翻し逃亡…舞風はパニックになりその場で野分を呼び続けた。

 

 またしても逃げ果せた黒幕、勇ましく立ち向かった艦娘に「因子」を残して──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「ハァ…ハァ……ッ!」

 

 百門要塞の外、要塞を囲むように生える岩礁帯、その片隅で。

 

『…キヒ?』

 

 穢れ玉を手にしたレ級の視線の先…全速力で逃げ出し、遂に追っ手を振り切った黒幕の姿。

 膝と腕を地面につき、肩から息をする。…その顔には「憤り」が。

 

「…この俺が…あんなガラクタに…こんな恥をかかせられるとは……ッ、ぐぅおお…」

『キッヒ?』

 

 顔を覗きこみながら嗤うレ級、それは見方を変えれば「大丈夫?」と心配しているようだった。

 

「…ッ!」

 

 ゴズッ、と重い音が響いた。それはレ級を神父が立ち上がりざまに蹴り飛ばしたということ。

 

『ゲヒャ!?』

「なにを嗤っている? 貴様…俺を舐めてるのかっ!」

 

 更に追撃、倒れ伏すレ級に徐に近づくと、神父は彼女の小さな身体をひたすら蹴り続ける。

 

「ふざけるな、ふざけるなっ、クソガッ! 貴様の手際が悪いせいだ、貴様が全部悪い! オラっ、何とか言ってみろ、このクソガッ!!!」

『ギッ!? ギキャ…キッヒヒ』

 

 怒髪頂点、白目を剥きながら全開の怒りをぶつける神父、乱心に震えるその姿には、さきほどの優しげな雰囲気は完全に消えていた。

 レ級も痛みがないのか、それともまるで効いていないのか、ただただ嗤うだけだった。

 

「……っふぅ〜〜〜。まぁいい、穢れ玉はキチンと回収したようだなぁ? お前にしては上出来だ」

『キッヒヒ♪』

「よし立て。貴様には新たな任務をやる」

 

 やがて怒りを吐き尽くした神父は海魔石を取り出すと、紅く輝く石をレ級に向けて掲げながら命令する。

 

「貴様はこれから"ボウレイ海域"へと向かえ、そして「アイツ」に計画の進捗を確認してこい。このメッセージ入りのディスクを持ってな」

 

 神父はそう言いながら懐のディスクをレ級に手渡す。レ級はディスクを受け取ると自らの懐にしまう(その際にレ級が穢れ玉を神父に渡す)。

 

「いいな? 必ずやり遂げろ。逆らうモノはまとめて破壊しろ、いつものように…な?」

『キッヒ!』

 

 レ級は敬礼をして「了解」の意を示した。そして…そのまま背後の海に飛び込むと、水面を滑り何処へと姿を消した。

 

「…ふ」

 

 神父は手元の穢れ玉を一瞥し、虚空を見つめながら策を練る。

 

「金剛を利用した俺の計画も、少しばかりの変更をせざるを得ない、か。…まぁいい、どのみち計画が破綻したわけではない」

 

 ニヤリと嗤う神父には、必ずやり遂げるという意志がみられた。彼の「計画」とは…?

 

「さて…急がせるか。世界の幕を引くに相応しい「兵器」の完成を…!」

 

 黒幕は何故ここまで艦娘を、ひいては世界を憎むのか?

 

 

 ──全ては未だ「黒い霧」に包まれていた。

 

 




次回、トモシビ海域編完結。
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