艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
ボウレイ海域の霧が視界を遮る中、僕らは時雨の能力によって目的地を目指す。…と言っても、小島をしらみつぶしに調べてるだけなんだけどね?
まず海域入り口からさほど遠くない無人島で、僕らは怪しい人物がいないか探し回る…しかし。
「居ない…」
やっぱり最初からそう上手くはいかない。僕の横で望月が海域の地図を広げ、片手で持った油性ペンで「ばつ印」を書いた。
「この地図には乗ってない島だな。…時雨、あとどれぐらいだ?」
「うーん、海に浮かんだものは認識出来るけど、識別出来るのは大きさぐらいで、それ以上は分からない。岩礁の可能性もある」
「…数は?」
「百ぐらいかなぁ?」
「え〜…」
流石にそんなに探してたら、一生終わらないだろうし、ターゲットが逃げる可能性がある。
「仕方ない。とにかく地図上の島から調べるしかねぇ」
「それが賢明だろうね?」
まずは数をこなす、それが遠回りだけど近道。
僕らは海域の地図を頼りに、次の島へ目指した。
「こんなに霧が出てるのに、どうして地図が書けるんだろうね?」
「んー? 確か…元々から霧が出やすい海域だったんだが、こんなに濃い霧が出始めて、中々霧が晴れなくなったらしい」
「なんで?」
「その辺は、アタシにも分からん」
「分からんのか、このタワケが」
「うっせ。さっきも言ったが呪いだとか言われてるが、こればっかりは現地のヤツらに聞かねえとな? 島の探索がひと段落したら、聞いて回ってみるかい?」
「…見つからない前提なの?」
「逃しはしねぇけど、そう簡単に捕まるとは思ってないぜ? なぁに、こういう「理解の範疇外」から運良く見つかる、ってのはよくあることだぜ?」
「ふーん、望月って頭いい割にそういうものの考え方? はちょっと大らかだね」
「あぁ〜まぁアタシの場合は……」
…? 望月が急に黙った。どうしたんだろ?
「…望月?」
「っ! …ぁあ、なんでもねぇ。早く行こうぜ」
望月がはぐらかすように僕らを急かし、海岸へ向かっていく。僕らも後を追っていく…。
「…拓人さん、彼女をあのままにしていいでしょうか?」
妖精さんが藪から棒に言葉を投げた。それって聞かないとまずいってこと?
「……」
あぁ…そうか言ったらダメなんだね。んーでもなぁ…。
「言いたいことは分かるけど、望月のプライバシーもあるし、好感度上げるためでも…やっぱり聞きづらいよね?」
「…そうですか、まぁなんとかなるでしょう」
うわ、なんか聞き捨てならないなぁ。
…うん、せめて望月はよく見張ってよう。
・・・・・
研究員を捜しまわって、随分との間に霧の海を滑り、時雨の案内で地図上の小島は全て見て回った。でも…。
「見つからないね?」
「そうですねぇ」
「う〜…ジメジメして来まシタ。暑いし、髪のセットがふにゃってるし、なあぁーっ! 早く見つかりやがれ下サーイ!!」
「焦っても仕方ねえよ、姐さん」
「そうね、とりあえず今度は地図に載っていない島を捜しましょう」
翔鶴の提案に全員が肯定の意を込め大きく返事した。霧のせいでほとんど顔が見えなくてね…。
「…暑いね、天龍?」
僕は隣にいる天龍に呼びかける、流石に至近距離だから姿形ははっきり分かる。
「あぁ…」
「…あ、天龍その刀。新しいヤツにしたんだ?」
天龍の腰に差した二つの刀の一つを指す、龍田の槍のような「赤色」じゃなく、普通の刀に見えた。
「まぁな、流石にアレだけ派手に壊れたら、新調した方が早いだろ。 もう未練もないしな…」
「…ん。そっか」
「…ふぅ、それにしても……」
──バッ
「…暑い」
「っ!!?」
…今、見てしまった。
天龍って、改二になってからジャケット着てるじゃん? 基本的にそのまま肩まで羽織ってる状態なんだけど…。
は、初めて見た。彼女がジャケットを少し脱いで、肩部分を露わにしたのだが…下のシャツがまさかの「ノースリーブ」。うわぁ〜…エロすぎるよぉ、目に毒だよぉ、天龍の胸って爆乳クラスだから余計に…。
「…? どうした、目を隠して?」
「き、気にしないで。…(チラッ)」
両手で目を隠していた僕、指を広げて思わず確認するが…すぐに指を閉じていく。
「……ふむ」
暗い視界の中「バッ」とジャケットを着たような音がする。指を広げ確認。
「……(バッ)」
「っ!? ちょ…!」
天龍が意地悪く、僕が目を開けた瞬間に、またジャケットを脱いで肩部分を晒す。思わず指を閉じ防御態勢。
「…(ッバ)」
「…(チラッ)」
「…(バッ)」
「…っ! (サッ)」
上着の音、指を開く、脱ぐ、また閉じる。その繰り返し…「俺らなに見せられとんのじゃ」と思われた方、こんな静かな闘争でも僕は必死です。
「やめて! 童貞の心を弄ばないで!?」
「なんだ、たかが脇の肌が見えてるだけではないのか? (ニヤニヤ)」
「確信犯は犯罪ですよ!?」
「別にお前になら、俺の全てを晒け出してもいいがな」
「いやいやいや、っえマジで?」
「拓人さん、アウトです!」
いやそうは言っても妖精さん。DT卒業したいし、天龍ならいいかなーって?
「…いいんですか? 金剛さんがいる手前にそんなこと言って」
その金剛さんがこっち見てるけど、アホ毛が「?」できょとんとしてるから、気づいてないと思う。
「でも…はぁ、そうだよね。己の欲望に身を委ねそうになったよ」
「分かればいいんですよ、分かれば」
「俺はいつでもいいぞ」
「駄目です天龍さん、あんまり拓人さんを甘やかさないで下さい!?」
「何の話デース?」
「いや、金剛は気にしなくても…?」
…話の途中で分かりづらいかもだけど、なんか今…急に背中がぞわぞわする。なんだろう…だんだん強く…?
「っ! タクト!!」
天龍は途端に叫ぶと、僕たちを押し出した。…瞬間。
──シュッ!
本当に音のない、空気の摩擦音だけが微かに聞こえた。僕の目前には、僕の居た場所を切り裂く、虚空に浮かぶ剣閃の跡…。
「な、なんだ!?」
「テートク!」
金剛は異常事態に気づき、僕を自分の背中に隠す。
誰だかは知らないが、明らかに僕を狙った攻撃…この霧を利用した不意打ち…!
辺りを見回す…って、霧が邪魔してなにも見えない!?
「敵だ! 各自戦闘態勢!」
天龍の号令、霧からどよめきが聞こえるも、すぐに武器を構える音が響いた。
「深海棲艦?」
「分からん! だが用心しろ。霧という視界のハンデがあるとは言え、ここまで至近距離に居て誰にも気づかれなかった、余程の手練れと見ていい…!」
天龍が悔しげに話していると、綾波が近づいて来た。
「司令官!」
「綾波、敵みたいだ。金剛と一緒に周囲を見張って!」
「了承!」
「頼むよ。…それにしても不意打ちするなんて、もしかして時雨の言っていたあの一団かな?」
「そうでしょうね? ただ…だとしてもここまで誰にも気づかれず、かつ攻撃も鮮やかとは、この霧を利用した見事な戦術でしょう」
「妖精さんはもう誰か分かってる感じ?」
「…拓人さん、意地悪ですね」
「あは、その様子だと大丈夫みたいだね」
「だからと言って油断しないでください? 命を狙われてるのですよ」
「ごめんごめん…;」
僕らが話していると、すぐそばで望月と時雨の会話が聞こえる。
「時雨、言っちゃ悪いがアンタが居ながらこの惨事はいけないんじゃないかい?」
「そうだね…ごめん、僕の責任だ」
「…って、冗談だよ。んで敵は?」
「…居たよ。距離を置いているみたいだ、Uターンしてる…完全に僕らを狙っているね?」
「ま、まさか…件の幽霊騎士では…!?」
「ええい、テメェは黙ってろ野分、余計にややこしくなる」
「徐々にスピードをつけて…こっちに向かってる!」
「…っち、こんな霧が出ていなかったら、艦載機で位置を把握出来たのに…!」
翔鶴の舌打ち、でも気持ちは分かる。ここまで強くなった艦隊でも身動きが取れないなんて…!
「…この鮮やかな襲撃は…まさか」
「綾波?」
「来るっ! …!? 気配が消えた…っ?!」
まさか…時雨の能力(レーダー)でも感知出来なくなった?! 一体…?
「──そこっ!」
綾波は自慢の大斧であらぬ方向を切りつけた、しかし鉄の響き合う音が聞こえる。「手応えがあった」…!?
『…っ! その声、お前は…!』
「喋った…!」
「…やはり、貴女なんですね」
『…そうか、だとしても関係ない。あのお方の仇…今こそ晴らす!』
そう言うと、謎の声の主が霧の中から、ゆっくりと姿を見せた。
「…っ! 鎧騎士?」
姿を現したのは、綾波と似たようなデザインの鎧を身につけた騎士(?)だった。顔は兜をしていて見えない。
「まさか…亡霊騎士?」
「(野分)ひいぃ〜っ!?」
「司令官、彼女は私の…」
『それ以上口を開けるな、お前は…あのお方の「仇」。だがせめて騎士として、正々堂々の勝負で決着をつけよう』
剣を構え威嚇する謎の鎧騎士。…状況が飲み込めないけど、どうやら綾波とこの鎧騎士は知己のようだ。でも…「仇」?
「…分かりました、貴女がそれを望むなら」
『私の望み? …違う、これは正当な「断罪」だ。あのお方の影を追い、自らの罪を認めようとしないお前。…許されない冒涜だ』
「…っ!」
『あのお方の安らぎのためにも、私は…お前を討つ!』
いうや否や、そのまま突撃し海上を一直線に駆ける鎧騎士、綾波も得物を構えて臨戦態勢。
でも駄目だ。どんなことがあっても艦娘同士で…仲間が戦うなんて。
「駄目だ、綾波!」
「っ! …了承」
『得物を下ろしたところでもう遅い、私の剣がお前を切り裂くということは…』
「いいえ、貴女も剣を下ろすのです」
「…っ!」
鎧騎士が攻撃を止める、立ち尽くしながらも身体ごと視点を動かしている。…誰かを探している? 十中八九あの「声の主」だろうけど。
「…っ、まさか…あの方も?」
「綾波、一体全体なにがどうなって…?」
僕がそう言い終える前に、事態は進展していく…。
「──Excuse me. 貴方がこの艦隊の指揮官かしら?」
「えっ、はい。……っ!!?」
声の方に振り向いた僕は、そのまま驚きを隠せないでいた。
そこに立っていたのは、霧の中でもよく分かる眩い金髪、イギリスの女王陛下を彷彿させるドレスローブをまとった麗人、実際に意識してか王冠等もしっかり身につけていた。
少しばかりの衝撃じゃなかった、そうだった…今まで日本艦ばかりだったから、そういう感じだと思ってたけど…そりゃ居るよね「海外艦」も…!?
「ウォースパイト!?」
「あら? 私はもう貴方に自己紹介したかしら? それとも…私のようなモノでも、世の中の人は知ってくれてるのかしら?」
くすり、と静かに笑うウォースパイト。まさかの展開だけどここで海外艦が出てくるなんて…!
「…お久しぶりです、姫様」
「ひ、姫さま!?」
「えぇ、壮健でなによりです綾波。まさか貴女がここに居るなんて…これも「彼女」が導いてくれたのかしら?」
「…それは、どういう?」
「姫様!」
向かい合っていた鎧騎士が、僕らとウォースパイトの間に割り込んでくる。
「姫様、あれほど待っていてくださいと…!」
「そういうわけにも参りません、貴女は彼女のことになると暴走しやすくなる、不用意に剣を振るうことは騎士としてあるまじき行為です」
「しかし…!」
「もうよろしいでしょう「不知火」。この方たちは彼女ではなかった、深海棲艦でもない、ましてやかつての同胞もいる。…これだけ言っても、貴女はまだ剣を振るうつもりですか?」
「…っく」
ウォースパイトに促され、鎧騎士は剣を鞘に収めて…兜を脱ぐ。
「…本当に、不知火だ」
僕がそう零すと、銀髪の少女不知火はこっちを睨みつけるように…うん、違うね睨んでるね確実に。
「…貴方は?」
「えっと、僕は色崎 拓人です…?」
「…ニンゲンが何故海の上に? 連合は遂に己を兵器にしたのか?」
「あぁ、僕は特異体質というか…あはは」
「…まぁ良い。先程は失礼しました、確かに「礼を欠いたいた」ことは謝ります。知っているようですが私は「不知火」と申します」
何か不服だけど的な、棘のある言い方が抜けない不知火。その視線は僕の後ろの綾波に刺さっていた。
「……」
「……」
「す、すごい険悪ムード…」
「リトルフェアリー、彼女たちは誰デース? テートクが頼りにしてる貴女なら分かるはずデース」
金剛に質問を投げられた妖精さんは口を開く。
「彼女たちはさる「一大国家の騎士団」をルーツに持つ、艦娘だけで構成された騎士団、その名も…」
──"天下のバラクーダ旅団"です!!
「……」
「……」
「ギャグ?」
「いえ、原作(rpgの方)再現です」
いやいやここで? この状況下で? いきなり言われても…バラクーダ? 未来少年かな?
「あの…私たちは正式名称よりも、艦娘騎士団と呼んでくだされば?」
「確かに私たちは遠出をすることが多かったですが。…何ですか旅団って、全く団長のセンスは…」
あっ、でも少し空気が和らいだ気がする。
向こうもそれを察してか、ウォースパイトが状況説明と謝罪をする。
「…さきほどは不知火が無礼を働き、申し訳ありません。この辺りは霧も深く、彼女も貴方がたを敵と誤認したようです」
「そうですか。僕らも時雨が居なかったらどうにもならない状況だったからね」
「そう言って頂けると嬉しいです。…ここで立ち話も何ですので、近くの小島で事情を説明させて下さい」
「分かりました。…皆、ウォースパイトさんの提案に従おう!」
僕の言葉に各々返事を返す。しかし一方では…?
「姫様、私は賛同しかねます。あの女がいる艦隊を簡単に信用してよろしいのかと」
「止めなさい不知火、その話は終わったはずよ」
「いいえ。お言葉ですが…我らの拠点が何者かに襲撃されたあの日、団長をむざむざ見殺しにしたヤツを、私はまだ許していません」
「…っ!」
「え…っ!?」
不知火の言葉に目を見開く僕ら。それって…もしかしなくても。
「……」
「お前があの時団長を制止しなかったから、団長はあの火の海に沈んだのだ! 許されない…この「団長殺し」が!!」
「不知火!」
不知火の頰に、平手の強い衝撃が打ちつけられた。
──パァン!
「…っ、姫様」
「今度彼女を侮辱したら、この程度では済まされませんよ。それを肝に銘じなさい!」
「…承知、しました……」
毅然とした態度で堂々と海上を滑るウォースパイト、そしてそれに続く不知火。彼女の憎しみの咆哮が、僕らの鼓膜に張り付いていた。
「…綾波」
「参りましょう、皆さん」
それでも彼女は何も語らず、ただ静かに前へと進んでいった…。
その眼は、深く黒く、淀んでいた…。