艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 そして、の部分?

 お察しのとおりです()。

 スマヌ…話の構築下手ですまぬ…。


死神の奇襲、そして…。

 ──シズマリ海域、近島漁村。

 

 拓人たちが必死の戦いを繰り広げている頃、天龍たちの目の前に「まさかの存在」が立ち塞がっていた。それは…?

 

「っ! 姿が見えないと思ったら…やはり、この海域に来ていたのか…!」

 

 彼女たちの目の前に、突如として現れた「戦艦レ級」。その眼に爛々と輝く狂気を湛えながら、天龍、野分、望月の姿を捉えていた。

 

「我々が二手に分かれる頃合いを見計らって、一番狙いやすそうな組を狙ったところでしょうか?」

「大方その辺りだろうな?」

「全く、宿屋で霧対策してたっつうのに。まぁ来るだろうっつー可能性は見越してたがな?」

「言ってる場合か望月。…というか、お前は宿屋にいて良かったのだぞ? ブレーン役を潰されるのは忍びないからな」

「ケッ! あのギザ歯が中途半端な実力ならそうさせてもらったがなぁ?」

「マドモアゼルモッチーの言う通りです。彼女は我々三人がかりでもどうなるか分かりません。例えマドモアゼルテンリューが彼女と同等の実力を発揮出来たとしても、です」

 

 望月と野分の懸念も仕方ないもの。

 戦艦レ級は、元々から異常な腕力、脚力、攻撃性能を保持しており、その執拗な殺意は、拓人たちをしても幾度となく立ちはだかる壁となった。

 故に彼女は斃れることを知らず、最期の最後まで何を仕出かすか分からない。天龍や、選ばれし艦娘であろうと…警戒は必須だった。

 

『キッヒ! キヒヒヒヒ!!』

 

 レ級の手の平に、黒い靄が集約する。それはやがて形を成し…首を狩る大鎌となった。

 

「ッチ、こういう時の綾波だなんだがねぇ?」

「諦めろ、無い物ねだりしてもどうともならん」

「ご心配いりません、いざとなればこの野分が貴女がたの道を切り開いてみせましょう! そう…まるでフワリと舞う蝶のように飛び、一撃必殺の蜂のように華麗な剣技を叩き込み、そして華麗なダンスで見事に咲いてみせましょう!」

「待て。」

「長い、あとレ級相手だからもそっと真剣にやった方がいい、じゃなきゃ死ぬぜ?」

「ノンノン、ボクは死ぬつもりはありませんよ。ボクには世界の美しいモノたちを守る使命がありますから、それでもボクのようなモノが皆さまのお役に立てるなら吝かではありません、この野分喜んで麗しいモノたちの殿となりましょう!」

「あのさぁ…」

「言いたいことは分かるがな? 無駄にイノチを費やすことをアイツが納得するとは思えん。お前もタクトの下にいる以上「生き残る」ことを心掛けろ」

「おぉ! 流石コマンダン! やはり美しいですね、そんな彼を慕うマドモアゼルテンリューも、更に美しさに磨きがかかってます!」

「ダメだ、コイツの美しさ談議聞いてたら本題からどんどん遠のきやがる…」

「まぁ野分だからな……ッ! 来るぞ!!」

 

 天龍の警告を合図とし、死神はケタケタと大いに嗤いながらその大鎌を振りかぶる。

 

『キヒヒヒ! …シャァ!!』

 

 漆黒の断閃が空を切る。三人は散り散りになりつつも黒衣のキョウジンを囲う。

 

『キッヒヒヒ♪』

「っちぃ、不気味なぐらい楽しそうだなぁ? ついでに天龍よぉ、村人たちの避難は済んだか?」

「あぁ、予め拓人が村のヤツに声がけしたのが効いたな。村の奥に全員避難済みだ」

「ブラブァ! しかしながら…戦いの結果如何では、村人がレ級の餌食になりかねません」

「そうだな? だからこそ…踏ん張らねぇとなぁ!」

 

 三人の意思は一つとなる、それは幾多の戦場を戦い抜けた故の「無言の信頼」だった。

 まず仕掛けたのは天龍、改二により磨きのかかった速さで相手の懐へ。その得物である刀を叩きつける…しかし躱される。

 野分の追撃、レイピアから繰り出される鋭い突き、これも難なく躱す。

 

『キッヒヒ!』

「武器自体は大振りだが、本体が小柄で素早いから捉えづらいな…」

「マドモアゼルアヤナミがどれだけ的確な攻撃であったか、この野分感服致すばかりです」

「ったくちょこまかとウゼェな? …いよし、二人ともテキトーに攻撃してくれ」

「ふむ、何か考えがあるな。了解した!」

「喜んで!」

 

 三人はレ級に対し、望月"司令塔"の下に策を仕掛ける。

 

 天龍、野分の素早い剣撃の応酬、剣閃が乱れ飛び、砲撃も交えた猛攻がレ級に襲う。

 天龍が冴え渡る剣の絶技で圧倒すれば、野分はそれをより美しく際立たせるように砲撃を。野分が華麗に細剣を振れば、天龍は豪快に対空砲を放つ(あまり正確な射撃は期待するな by 天龍)。

 爆炎が舞い上がり、怒涛の連撃と一糸乱れぬ連携でレ級の動きを徐々に封じていく。彼女たちが長い旅路で培ったお互いへの「理解」が、以心伝心を生み出し、レ級を確実に追い込んでいった。

 

「っはぁ!」

「美しく! 舞い踊るように!!」

『…ッギ! シャア!!』

 

 苦い顔になったレ級は、空中に飛び上がり態勢を立て直そうとする。

 

「逃がさねー! おりゃ!!」

 

 望月が手に握りしめた"何か"を放り投げた、"何か"は大きな弧を描いていたが、目標に当たる直前に、振り下げた大鎌に無惨にも切り裂かれた。

 

『キッヒ♪』

「してやったりって風だなぁ? 悪いな…ソイツは「斬っても意味ねぇんだ」わ」

 

 その言葉が合図となったか、瞬間割れた物体が「無数の小さな四角形」となり、レ級の周りへ集まると…そのまま彼女を取り込んだ四角形に再構成した。

 

『グギァ!?』

 

 身動きを封じられたレ級は地面に叩きつけられる、直ぐさま身を捩り束縛から逃れようとするも、まるでビクともしない。

 

『ギィヤ! ギ、ギギギィ!!』

「ヒッヒ、作戦成功ってな?」

「おぉ、アレはもしやマドモアゼルモッチーの忠実なる僕の「ムッシュベベ」では!」

「あぁ。ベベは何にでも形状が変わる可変可動鉱石(メタモルフォーゼ)で出来てんだ。斬ったり殴ったりしてもその場で元どおりになる、んでついでにレ級のヤローを中に取り込んで捕まえたってワ・ケ♪」

 

 ベベの特徴を活かした捕縛作戦だが、天龍は望月に当たり前の疑問を尋ねた。

 

「…ベベの核部分が狙われる可能性は?」

「残念、ベベのチップはアタシの頭ん中に埋め込んである。アタシが死なねぇ限りは壊されることはない」

 

 用意周到の望月はこれでもかと勝ち誇った顔をしている。レ級は歯を食いしばりながら全身に力を込めて、尚もベベからの脱出を図る。

 

『グギギ…ッ!』

「ヘンッ、アタシをあんま舐めんじゃねぇよ? テメェを追い詰める策ぐらい用意してあんだよ、ヒヒッ!」

「…ふ、成る程な。だがそれは単にベベが凄い…ということでは?」

「…揚げ足取るねぇ天龍よぉ、ま! 何と言われようとアタシの発明品だからな〜別に…ん? どした野分?」

「あの…何かミシミシという音が聞こえる気が?」

 

 ──ミシッ、メキメキ、バギッ!

 

 野分の言う通り、耳を澄ませると何かが軋む音がする。

 

「…聞こえるな」

「まさか…レ級が拘束を破ろうとしているのでは…!?」

「だーいじょぶだって、可変可動鉱石(メタモルフォーゼ)は硬物質であるウルツァイトが組み込まれた複合物質だ、流石に出れねぇって」

「その自信は何処から…;」

「おい、あまり「ふらぐ」を立てるな。タクト曰く「ふらぐは回収されるもの」らしいからな」

「いやいや、流石にあれだけガッチリ押さえ込んどきゃ大丈b」

 

『──ギッシャアッ!!』

 

 長い談笑も束の間であった、レ級が身を震わせると「ガギィン」と鋼鉄が破壊される音が響く。

 

「…見事に回収されましたね」

「うえぇ…マジか!?」

「やはり「付け焼き刃の知性」ではダメか」

「うぉい?! 容赦ねぇな天龍、人が地味に気にしてることを!?」

「なんの話でしょう?」

「まぁ俺もタクトから聞いただけだからな、とりあえずコイツは「"頭が良い"能力」の持ち主…だそうだ」

「…???」

「おいおいやめてくれよ…アタシのイメージが…」

 

 望月が意見具申するも、レ級が目を見開き、凶悪な殺意を湛えた顔で一同を睨んでいるので、それどころではなかった。

 

『ギィグルルル……!』

「かなり怒りが滾っていますね…」

「やっば」

「どうする? 一応携帯麻酔銃は持ち合わせているが、アレに通じるとは思えん」

「くっそー、ベベも再生中だが二の舞になるだけだ…」

「…ふぅむ、マドモアゼルモッチーは「作戦を立てるのが上手く、予測外の事柄に対応しづらい」といったところでしょうか?」

「うむ、それだ。それがしっくりくる」

「こんな時に何言ってんダァ!? あぁそうだよ! どうせ金メッキのエセ科学者だよアタシは!!」

「怒るなおこるな、そこまで言っとらん。…さて、向こうの行動次第か……っ!?」

 

 天龍が言いながらレ級に向き直ると、レ級は既に三人との間合いを詰めていた、激怒の頂点のレ級は天龍たちの予想以上の身体能力を爆発させていた。

 そのイノチを刈り取るため、死神は漆黒の得物を振りかざした。

 

「いつの間に…!」

『ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ…ギャッ!!』

「うぉお!!」

 

 天龍は前に出るとレ級の大鎌を捌き、そのまま弾き返す…が。

 

『…ニィイ』

 

 天龍の弾くモーションの「一瞬の隙」を突く。瞬きも許されない一瞬「油断した」。

 弾いた衝撃により天高く宙に上がるレ級、その最中すでにレ級の尾っぽはおっ立ち、尾端の彼女の深海艤装が「口を開けて」いた…!

 

「しまった!? 避けろ望月!」

「っな?!」

 

 その双眸は獲物を見据え、今正にトリガーに手をかけ、目標を仕留めんと凶弾が解き放たれた。

 

「──マドモアゼル!」

 

 咄嗟の判断であった。望月を突き飛ばした野分は…。

 

「…っ!」

 

 そのまま…致命的な一撃をその身に受けようとしていた。

 

「野分ぃーーーっ!!」

 

 仲間たちの叫びが、虚しく空へと響いていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ズゥン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!?

 

 

 

 

 

「…っ!?」

 

 刹那、目に映る光景は信じ難いものだった。

 

「──…ヒヒ、ヒヒヒ! ヒヒヒヒヒ……!」

 

 …レ級の砲撃が直撃した瞬間、野分の雰囲気は一転した。

 ボロボロの衣服のまま野分は、レ級に急接近し、そのまま顔面を「片手で」掴んだ。

 ダメージを受け、瀕死状態だとは想像も出来ない怪力、ミシミシと徐々に力を押し込める音がする。堪らずレ級は痛みを叫び、拘束を無理やり振りほどくと逃走した。

 

『…ギッ!』

「あハっ、逃げルのォ? 逃ゲられルワケ…ないカラ!!」

 

 追撃の火砲がレ級を襲う、轟音と共に砂煙が舞う…それを隠れ蓑とし、レ級は逃げ果せた。

 

「な、何だアレ。何が起こった?! どうなっちまったんだ、なぁ野分!?」

「っち、望月隠れるぞ」

「でも…!」

「いいから!」

 

 天龍に手を引かれる望月、二人は狂気に飲まれた野分を、物陰に隠れてやり過ごすことに。

 

「助けラれなかった…救エない……救ウ? 救えルワケ……ナいだロ!! アハッ、あはハハはははハは…!!」

 

 訳の分からない妄言をぶつぶつと呟く野分、望月は予想外の出来事に目を剥いていた。

 

「…んだよコレ、一体何が……野分は…」

「落ち着け望月、こんなときこそお前の能力の出番だ。餓鬼のように慌てふためくのは…後でも出来る」

「…っ、わーってるよ! ちょっち混乱しただけさ」

「その意気だ。…さて」

 

 天龍はすかさず野分の顔の表情を観察する。

 どうやら野分はこちらに気づいていないようだ、誰もいない空間でまたもぶつぶつと独り言を言っていた。

 瞳孔が見開かれ、視点は定まっておらず、口角は歪に釣り上がっていた。…完全に気が触れたか? そうも思ったが注意深く観察を続ける。…すると。

 

「…何」

 

 天龍は我が目を疑う。

 そこに映し出されたのは…野分の頰の一部が「白く」変色していた事実…。

 

「莫迦な…何故野分が…!?」

 

「…ッヒヒ」

 

「…っ、見つかったか!?」

 

 暴走する野分は、天龍たちにその牙を向けようとする。二人が隠れた木陰へと目を向けると…狂気に満ちた顔で、にじり寄る。

 

「何処にいるの…舞風…筑摩さん……み、ち……ッヒ!」

 

 非常に遅い速さで距離を詰めようとする野分は、さながら獲物を逃がさんと目を光らせる狩人のような恐ろしさがあった。

 これまでか…二人がそう覚悟した瞬間。

 

「……ぅ、あ」

 

 何かの糸が切れたか、野分は足を躓くとそのまま砂のクッションの上に倒れこんだ。

 

「…死んだか?」

「いや、ありゃエネルギー切れってことだろ。しばらくすりゃ眼を覚ます」

「…そうか、まだ近づくなよ。しばらく遠目から様子を見よう」

「…あぁ」

 

 そう言って二人は暫しの沈黙を保つ。…言い知れない焦燥感を胸に宿しながら。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──僕らは天龍たちの待つ漁村へと戻ってきた。

 

 そこで目にしたモノは…?

 

「…っ!? 煙…まさか!」

「深海棲艦が…天龍たちは無事なの?!」

「…っ、駄目だ。人々が不安になっている、雑念が煩すぎて状況が見えない…!」

「時雨のレーダーが…っく! なんてこと」

 

 どうやら時雨の探知能力も、今この時だけ使用が出来ないみたいだ。…だったら。

 

「…翔鶴、綾波をお願い。僕が先に様子を見に行ってくる」

「何を言っているの!? 貴方は指揮官なのよ、それを…」

「僕は特異点だから、彼女たちに何かあるのなら…変えられるのは僕しかいない。それに…天龍たちが心配だから、さ?」

 

 緊迫したこの状況、真剣な僕の表情に…翔鶴も押し黙った。

 

「…はぁ。言っても聞かないんでしょうね?」

「あはは、ゴメン…」

「そう言うんだった、無理はしないで様子を見るだけにしてね?」

「もちろん。…行ってくる!」

 

 僕は力なく項垂れる綾波を翔鶴に預け、そのまま駆け出した。

 

「はぁ…はぁ……っ!」

 

 こんなところで敵襲なんて…完全に予想していなかった「わけでもない」けど。

 つまるところ犯人は、まぁレ級しかいないよね? ドラウニーアが自分たちがこの海域に来ることを予期して寄越したか、はたまた偶然か。

 どっちにしろ三人が心配だ、おそらく敵襲に対応しているだろう。もし何かあったら…。

 

「…っ!」

 

 焦りから自然と走る速度を速める、天龍がいるからと自然と頼ってしまった、頭の中で嫌な考えが巡ってはそれを諌める。

 

 皆は無事か…天龍、望月、野分…っ!

 

「…! 野分!?」

 

 やがて…その場に辿り着き僕の目に映った光景は…激しい戦いがあったであろう地面の抉れた大地、焼け焦げた土。そしてその真ん中で…野分がボロボロの姿で倒れている姿。

 

「野分、しっかりして! 野分!!」

 

 野分に駆け寄り、揺り起こす。服がほとんど焼けてしまっている…大破か、レ級にやられたのか…そんな。

 

「野分…野分っ!!」

 

 僕の懸念は現実になってしまった。思わず喚いて野分の名前を呼ぶ、しかし僕は覚悟していた…彼女は…もう……。

 

「──ん…?」

 

 その時、野分からか細い呼吸が聞こえる。

 

 ……っ! 息をしてる…生きている……野分が…!

 

「野分! 良かったっ!!」

 

 彼女の生の証を感じ取り、思わず抱きしめる僕。

 

「…コマンダン? ボクは…レ級の砲撃に…?」

 

 やはりレ級にやられたようだった。だとしても…。

 

「ごめん野分。僕のミスだ…天龍が居てくれるから何も心配ないと思ってた、配慮が全然足りなかった。…こんなことになるなんて…っ!」

「良いのです…コマンダンは正しい選択をしました。マドモアゼルを助けるための…悪いのは、不甲斐ない自分です。まんまとレ級に翻弄されてしまいました…」

 

 野分は力なく笑ってみせ、僕を励まそうとしてくれていた。

 

「…ありがとう。君が無事で…本当に良かった」

「……」

 

 笑みを零しながら彼女を見つめる僕。野分は、何故か目を見開いていた。そのエメラルドグリーン色の瞳で、僕を見つめていた…なんだろう?

 

「…美しい」

「ん…? 何か言った?」

 

 野分が何か呟いたみたいだけど、聞こえなかったので雑に聞き返してしまった。

 

「…い、いえ。なんでもありません。(…コマンダン、その笑顔は反則です…)」

 

 …なんか恥ずかしそうにしてる感じだけど(野分でもそんな顔するんだ、なんて思ってしまった)、とにかく無事みたいで良かった。

 

「…ん? 野分、天龍と望月は?」

「ふぇ? …あれ、おかしいですね? 先ほどまでは一緒に」

「…俺たちはここだ、タクト」

 

 物陰からそのまま近づいてくる天龍と望月。…皆無事だったみたいだ、良かった。

 

「二人とも、無事だったんだね?」

「あぁ、レ級が野分を大破させ、そのまま逃げ出してな。村中を追い回し撃退はしたが、何処に潜んでいるか分からないからな、用心して物陰に隠れつつ、今まで辺りの様子を見ていた」

「……」

 

 そうか、レ級はどこかに逃げ去ったみたいだけど…どうやら二人はレ級の行方を追いかけてくれていたようだ。何を仕出かすか分からないからな、あのギザ歯幼女は。

 

「そっか、お疲れさま二人とも。野分はこのとおり無事だよ?」

「お二人とも…ご迷惑をおかけしました」

「いや良い。ゆっくり休め、ゆっくりとな…」

「そうだね…野分、肩貸すよ。一旦宿屋で休もう…翔鶴たちに声かけてさ?」

「コマンダン…マドモアゼルは?」

「…うん、無事だよ。なんとかなったって感じだけど? とにかくお互いによく休まないと」

「…そうですね? すみませんが…お願いします」

「分かったよ。天龍たちは?」

「すまんが、まだヤツが潜んでいるかもしれん。念入りに辺りを警戒しておきたい」

「うん、分かった。気をつけてね?」

「ああ…」

 

 僕は天龍たちと別れて、そのまま宿屋へと向かう…翔鶴たちには野分を休ませてから声をかけよう。…野分のこと、なんて説明しよう?

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 拓人と野分はそのまま天龍たちから遠ざかっていった。

 

「…なぁ、天龍」

「解っている。…しかし、まさかの展開だったな」

「あぁ…あの野分が…ありゃ、姿形こそ野分だったが…あの豹変ぶりは…まるで…!」

「…あぁ、アレはまるで深海の姫、まさか…タクトの言っていた艦娘と姫の密接な関係、あながち間違いではないかもな?」

「言ってる場合か! …どーすんだよ、野分のヤローは自分の変化に気づいてねぇみたいだし」

「…ふむ、俺は野分の異変を観察していたが、野分の頰が一部白くなっていた。…尤も、さっきタクトに抱き起こされたときには、それらしいものがなくなっていたが?」

「はぁっ!? 野分が…しかし…艦娘と姫の関わりは、吹いたら散る噂程度だし、じゃねえにしたって姫になるにゃ…っ」

「落ち着け、先ずは様子見だ。野分やタクトにはこのことはまだ伝えるな、今は俺たち共有の秘密に止めろ」

「…ソイツは下手したらヤベー事態になるんじゃ?」

「危険であることに変わりはないが、野分に異常があるとはいえ、疑うなり、ましてやいきなり捕まえるなりすることは、タクトは望まない」

「…様子見、ね? あのボロ衣装から覗いてた傷、完全に「治ってやがった」。怪力に異常な治癒力なんざ…どう考えても…」

 

 深海の姫は、この世界の艦娘たちにとっても脅威である。野分の異常が深海化の前兆なら…世界中から危険因子と見做されてもおかしくはない。

 

「それだけならまだいい。仮に野分の異常が「連合」に漏れたら…ヤツらがどう動くか、想像は容易い」

「殲滅対象になるか、はたまた拘束して実験か。どちらにしろ連合にバレたら無事じゃあすまねぇだろうな」

「うむ、それこそタクトは望まない。野分に何があったのか、俺たちで調べると必要があるな…それも秘密裏に、だ」

「…あの様子だと、やっこさんにイノチの危険が迫ったら自動発動するようだな? 無理に前線に出さなけりゃ、なんとでもなりそうだ」

「そうか…そういえば、野分はあの百門要塞で「急に倒れた」とか?」

「本人はそう言ってるが、どーもそこんとこ怪しいよな? アタシらはあの時あの場には居なかったし…」

 

 二人は話し合いの末、要塞都市の攻防戦時に彼女に何かあった、と推察した。

 先ずは様子見、何かあれば自分たちで野分を止める。そして彼女の異常が何を表すのか…それを突き止めるために陰ながら行動する。

 

「…まぁ、その前にこの海域の任務を終わらせなければな」

「あぁ…はぁ、しっかしこの海域に来てから、良くねぇことばかりたぁな。本気で呪いを疑いたくなるぜ」

「何を馬鹿なことを。…行くぞ、先ずは体力回復を優先だ」

「おう!」

 

 こうして、拓人にとって最も信頼の大きい二人は、拓人のため、何より野分のために動き出した…。


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