艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
どんどん消化してくよ〜。
…この海域に来てから、碌な目にあっていない気がする。
金剛と綾波は精神をボロボロにされ、野分はレ級との戦いで大破…のはずだったんだけど、一日休んだら外傷は綺麗さっぱり無くなっていた。
なんだかおかしな話だけど、僕が見た時も軽傷だったみたいだし。それでも疲労は取れていないみたいだ、あまり無理はさせられなくなった。
敵の攻勢がここまで激しいなんて…とにかくまずは休まないと、こんな状況じゃ満足に戦えない。僕らはそう判断し宿屋で一日休息をとることに決めた。すると妖精さんは?
「拓人さん、艦娘たちの様子を見に行きましょう。特に綾波さんを」
「それはいいけど妖精さん、今はそっとしておいた方がいいんじゃない? 皆疲れているだろうし…」
「ダメです! 少しでも好感度を上げておきたいですし、女の子はこういうときこそ男性に一緒にいてほしいものです」
「えぇ、また好感度上げて皆を強くしたい、って下心見えみえなんだけど」
「いいから行く!」
「アッハイ」
…まぁ妖精さんの言う通りでもある。綾波からって言われたけど…まずは金剛の様子を見ておこう、研究員に何か良からぬことを吹き込まれていたみたいだし、心配だ。
「…そうですね、良いのではないでしょうか?」
何か不服そうな言い方だな。…でもごめんね妖精さん。今回ばかりは一目だけでも金剛を見ておきたい、遠目からみても何かあったことは理解出来たから。
僕は宿屋の、金剛の部屋の前に辿り着く。すると…?
「あれ、時雨何してるの?」
時雨が部屋の前で立ち尽くしていた。僕の気配を感じ取ると、彼女は儚げな笑顔を浮かべて応えた。
「やぁ。…金剛の様子を見に来たんだね?」
「うん、どう様子は?」
僕が金剛について問いかけると、時雨はどこか悲しそうになる。
「…今はやめておいた方が良いかもしれない」
「っ! …金剛は大丈夫なの?」
時雨は自身の能力で理解したことを語った。…もちろん金剛のことについて。
「彼女の中に、微かに感じた金剛の気配が「消えている」。代わりに彼女自身の記憶が蘇ったようだね。…前のような曖昧な気配じゃない、自分が何者かをしっかり思い出したみたいだね?」
「そ、それって…金剛は記憶喪失で、あの戦いで記憶が蘇ったってこと?」
「少し違うかな? とにかく、今の彼女には記憶の混濁が観られる。自分自身を整理している最中みたいだね、そっとしておいた方がいいと思う」
「…話せる状態じゃないの?」
「心配になる気持ちも分かるけど…うん、今の彼女の気持ちは、色々な感情が渦巻いていて、それこそ一日休んだだけでは…どうにもならないと思う」
時雨は深刻な状況を淡々と告げたが、僕は内心金剛の顔を見るまで安心出来なかった、ただでさえ立て続けに悪いことばかり起きているのに、このまま彼女の顔を見なかったら……また何か起こるんじゃないかって。
やっぱり心配だった。だからだろうか、妖精さんは僕の心情を見越して宥めた。
「…拓人さん、ここは引きましょう。時雨さんがいてくれるなら大丈夫ですよ?」
「…でも、話しかけるだけでも。金剛には少しでも元気でいてほしいんだ、だから」
「それが、黒幕の都合のいい展開を引き寄せるとしても?」
…またそれか。
僕らは定められた物語の上にいる、少しでも予定外(アドリブ)を起こせばそれこそ後で何が起こるか分からない…という妖精さんの忠告で、今までこっちから何かしたことはなかったけど…ちょっと気を張り過ぎじゃないか?
金剛が今まさに悩んでいるのだとしたら、僕はただ彼女が立ち直るキッカケを与えたいだけ。たったそれだけで何か変わるなんて…正直どうなのか、とは思う。
「妖精さん、僕はその話を信じていないわけじゃないんだ。ただ…やっぱり人が人を思いやる心を否定してまでどうにかすることじゃないと思うんだ、僕は」
「…そういう話ではないのです、拓人さん。私は」
「大体さ、”それだけ”じゃないか。金剛に声をかける、たったそれだけで事態が急変するなんて…考えすぎじゃないかな? 僕らは…」
「拓人さんっ!!」
急に大声を出して、僕の反論を遮った妖精さん。深刻な表情だが、それ以上の感情は読み取れない。…複雑な、それでいて強く固い意志は見えた。
「な、なんだよ…?」
「…”バタフライ・エフェクト”」
「は…?」
「私に言えることはこれだけです。それでもやりたいなら…お好きにどうぞ」
私はもう知りませんけどね? と言いたげに妖精さんはその場で透けていき、やがて姿が見えなくなった。
「何怒ってるんだ…?」
頭を掻きながら僕は妖精さんの言葉の意味を考えた。
バタフライ・エフェクト…たしか「小さな出来事が、後々に大きな災厄を呼ぶ」ってカオス理論の一つだったっけ?
要するに、僕が特異点だから…運命を容易く変える可能性のある僕が、今の金剛と接触することで、黒幕にとって…だけじゃなくて、もっと悪い展開を引き寄せるかもしれないってこと…?
「…そういうことじゃないかな? 僕もここで無理に金剛に会う必要はないと思うよ」
「でも時雨…」
「大丈夫、彼女は強いよ、僕が保証する。僕が見張っているから…ね?」
…うーん、そこまで言われるとなぁ…腑に落ちない部分はあるけどね?
僕は時雨にその場を任せ、次は綾波の様子を見に行った。
「…バタフライ・エフェクト。僕にはあの小っちゃな妖精の心情は計り知れないけど…彼女は一体、何を見ているんだろうね?」
ぽつりと何かを呟く彼女の声を聞きながら…。
・・・・・
「…いた」
黄昏が水平線に沈む…逢魔が時が空間を覆いつくそうとしていた。
そんな夕刻と夜闇の間、海岸の波打ち際に佇む鎧騎士の少女。
砂利の音を響かせながら綾波に近づく。
ざっざっざっ…ゆっくりと歩み、踏み鳴らして音を伝えるように…僕の存在を知らせるように。
そういった意図に気づいたのか、彼女はゆっくりと…僕の方に振り向いた。
「……」
「……」
お互い顔を見つめる。
言葉を介すよりも、綾波の場合は「眼」を見た方が早い。僕と…綾波も、双方の瞳を一点に見つめ合った。
「…大丈夫そうだね?」
「……はい」
短めの言葉を交わすと、僕は彼女に問いかけた。
「綾波、教えてほしいんだ。あの団長のこと…君の抱えているものを、全部」
「…何故ですか?」
何故ですか、って改めて問われると…そうだな?
「そうじゃないと…君が「戦えない」ような気がするから」
「…っ、そんな…こと……」
「違わないさ。だって…君の声も、手も、震えてる」
僕に指摘されると、彼女は意地らしく拳を握りしめた。…それでも震えは強くなるばかりだが、やがて諦めたように、握った手を力なく開いた。
「…司令官、私…まだ状況が掴めていなくて…上手く話せるかどうかも…分かりません」
「それでもいいよ、どのみち…君にだけ重荷を背負わせることはしないから。僕が絶望した時…君が助けてくれたみたいにね?」
「…司令官」
僕は努めて、柔らかな微笑みと優し気に細めた眼差しで綾波を見据える、こうすることで彼女の緊張を少しでもほぐせないものか、と思った。
すると綾波もつられてか、儚げに小さな笑みを浮かべていた。
「…分かりました。約束しましたからね…いずれ話そうと思っていたこと、ですしね?」
「うん…あ、でも無理に喋らなくっていいからね? 少しでも君の負担を減らしたいからであって…」
「ふふっ、承知しました」
彼女はそう言って、少しだけ影を落としながら自らの過去を語ろうとする。
…それと同時に、いつものように僕の目の前に「IP」が現れた…。
遂に明かされる綾波の過去の全貌、僕は…覚悟を決めて、その文面を読んでいった。
・・・・・
──好感度上昇値、規定値以上検知…。
綾波の「アンダーカルマ」が解放されました。
…綾波のプロフィールに、新たな情報が追記されます。
裏の使命(アンダーカルマ):??? → 『親愛』
──その運命が示す道…「追求」
彼女の故郷は、国境を越えて争いを止めるため結成された、艦娘の騎士団…そんな彼女たちが治める「人と艦娘たちの国」だった。
信頼する団長と共に、騎士団の一員として様々な戦いに駆り出される中、ある日の遠征帰りに彼女は目撃する。
…燃え盛る炎に包まれた「亡国」を。
国のほとんどのモノが死に絶え、やがて焼き尽くされた廃墟だけが残された。
生き残った彼女は、炎の海へと入っていった団長を探す、しかし…自身の信頼する「彼女」の姿は無かった。
自身の罪、それは彼女を一人にした、かつ多くのイノチを見過ごしたこと…何も出来なかった非力な己を、怒りに震え、後悔に溺れ、吼え猛る獣と化した感情を封じるため…その一切の心を「殺した」。
そして尚、彼女は求め続ける…亡国の真相、彼女の行方、己の在り方…全ての答えが出揃うまで、彼女が瞳に灯を宿すことは、未来永劫無いだろう。
己は「罪人」。
己は「殺人者」。
己は「裁かれるべき兇徒」。
そうやって十字架を背負わなければ、もはや精神は立てなくなっていた。
鎖を身に着け、自らを雁字搦めにし、なお進み続けるのは…親愛なる団長を見つけ出し、今度こそ共に歩むため……。
吊るし人は願う、彼女の生存を…その願いが果たされるかどうかも知らずに…。
・・・・・
「…これは」
絶句。
彼女のバックグラウンドにある苛烈な過去。それを垣間見た僕、彼女の悲しみや激しい怒り、団長を救えなかったことに対する自己否定の思いが広がっていく。
妖精さんが言うには、アンダーカルマを開示した艦娘の抱える感情が、僕の心に直接流れて文字通りの「以心伝心」の状態になる、と。
天龍や望月のアンダーカルマで経験したけど、天龍は寂寥感、望月は姉妹を助けたいって想いが伝わって来た。綾波は…。
──罪の意識。
自らの力不足を呪う怒り。それだけが膨れ上がって、他の何も見えない状態。今までの綾波がどこか機械染みていたのは「余計なことを考えない」ためだったんだ。
重く暗い気持ちが僕の胸に伸し掛かる。ここまで自分を責め立てていたなんて…不安じゃないと言えば嘘だった。僕は…彼女の力になれるだろうか?
…そうやって人知れず綾波を思いやると、彼女はやはり重い口を開いて、自身の過去を話し始めた。
「…海魔大戦の終結後、私は同じ部隊だった団長や姫様、そして不知火ちゃんたちと共に艦娘騎士団を創設しました」
「……」
「艦娘騎士団、と名乗っておりますが、もちろんニンゲンの方も居ました。かつての亡国の騎士団、そしてその元騎士団長。彼らはただの兵器であった我々に「騎士道精神」を教え、授けてくれました」
「…もしかしてさ、その元騎士団長が…?」
「はい、我々艦娘騎士団はかのお方を「提督」と呼んでいました。亡国を鎮守府として再建し、彼や元騎士団員の方々はその鎮守府の人員として、居場所のない国民たちを統治する政治を担っておりました」
軍事国家みたいなものだろうか? 国を興すことはそれだけで大変なんだろうけど…艦娘騎士団は、そういった負担を軽減する狙いもあったのかもな。
「私たちが彼らの遺志を継ぎ、次世代の騎士として戦火に身を投じました…未だ世に燻る悪の因子を断ち切るため、世界に…真の意味で「秩序」をもたらすために」
綾波は僕から目を逸らさず真っすぐに見つめ、己の信念を語る。…いや、これは騎士団全体の矜持というのだろうか?
それを話しているときの彼女は、暗い瞳の奥の微かな光が力強い輝きを放っている。…充実していたんだろう、この道が自分の生きる証だと、信じているのだろう。
「…騎士団って名前だけど、要は一鎮守府と変わらないってことだね?」
「はい。鎮守府は本来海域ごとに一つ建てられ、その海域で起こる問題を解決するもの。…尤も、深海棲艦の台頭によって、現在はほとんどの鎮守府が機能しておりませんが」
「えっ!?」
綾波から飛び出した情報に、僕は目を丸くする。
驚いた、それは知らなかったな。…でも、考えてみたら僕やカイトさん以外の提督や鎮守府もあんまり見かけないし、だからこそ僕らは様々な海域の事件を解決してきた…と。とりあえずそれは頭の隅に置いておこう、再び綾波の話に耳を傾ける。
「その昔、海域ごとの鎮守府が機能していた時代。我々は闘争の早期終結を願い、各鎮守府への戦力の援助を惜しみませんでした。内陸のどんなに遠い場所、国だろうと、馬を走らせ、山を登り、海を渡り、嵐さえ乗り越え…そうして辿り着いた戦地で、己の正義の下に戦いました」
「…辛かった?」
「いいえ。兵器であった私が、誰かを守るために奔走する。…世界に秩序を、未来に安息を。その思いを分かち合える仲間たちがいた…あの時の私には、確かに「希望」がありました」
確りとした口調で彼女は断言した、あそこが自分の居場所であった、と。…なんだか妬けるなぁ、僕らのとこより居心地良かったのかな?
「…司令官、怒っております?」
「え、分かる? いやぁ…大したことじゃないんだよ? ただ君はその…騎士団時代の方が良かった…の?」
うーむ、やっぱり聞き辛いなぁ?
僕が歯切れ悪く話していると、綾波は静かに微笑む。
「…ふふっ、子供みたいですね?」
「ひ、ヒドい! その言い方!? …綾波ってサドっ気ある?」
「…? さ、ど?? すみません、どう返せばよろしいのか分かりかねます?」
「あ〜…ごめん。真面目な話だよね、うん。…僕、そういうの苦手だから、すぐお笑いというか茶化しちゃうんだよね、気を悪くしたらごめん」
「…っふ、うふふ…!」
僕のなんだかわざとらしい身振り手振りと弁解に、綾波は思わず笑ったみたいだった。
「ど、どうしたの?」
「いえ…本当に似ているなぁと思いまして」
「…ん、誰が?」
「司令官です」
「誰に?」
「私たち(艦娘騎士団)の団長に」
・ ・ ・ ・ ・。
「えーーっ!?」
「ち、違います! その…雰囲気というか、団長もよく皆を笑わせようとする方だったので」
あ、なーんだ。僕が女の子っぽいのか、向こうがそういう……いやいや、そんなこと考えちゃダメだ、相手は綾波の大切な人だぞ!?
「…その団長って艦娘なんだよね、どんな人だったの?」
綾波に問いかけると、彼女は明らかに饒舌になりながら、彼女たちの団長について説明する。
「団長はとても思いやりがあり、仲間たちを常に気にかけていました、どんな過酷な状況でも諦めず、そうして掴んだ勝利を皆と分け合うことを良しとしました。細かい失敗を気にせず、周りが自然と笑顔になれる…そんな彼女だったからこそ、提督も彼女に次期団長の座を譲り、私たちもまた団長を慕っていました」
…聞けば聞くほど僕とは正反対じゃないか? などと思ったり。
「そんな立派なヒトと僕が似ているだなんて…おこがましいというか、ちょっと買い被りすぎじゃない?」
「そんなことありません。貴方は我が身を挺して我々を守ろうとしてくれました、兵器…いいえ、化け物と罵られた我々を、一人のニンゲンとしても仲間としても大切に扱ってくれた。…私が知っている限り、そんな優しさを感じたのは団長以来でした」
「いやいや当たり前のことだよ、君たちはただ守るために戦っているんだし、誰がなんて言っても君たちは兵器依然に女の子なんだから」
僕の熱論に、今度は綾波の目が丸くなる。
「…ふふふ! やはり貴方は団長に似ています」
そう言いながら微笑む綾波、僕を一瞥した後彼女は遠くの地平線を見やった。
夕日は沈み、空が暗く染まる。星々がその光を放ち始める。
「…司令官、貴方にお聞かせします。あの日…我々の鎮守府(くに)で何があったのかを」
静かに紡ぐ言葉は、どこか決意を感じさせるものだった。
僕は彼女の文言を聞き逃さぬよう、確りと耳を傾けた。
…辺りはすっかり、夜になっていた。