艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──あの日のことは、未だに忘れない。
「皆、よく来てくれたわね」
「いえ、隊長と姫様の呼びかけなら、我々はいつでも応えます」
海魔大戦終結直後、私は他の隊のメンバーと共に「隊長」の招集に応えていた。
「ありがと不知火。…んー、もう戦いも一区切りなんだから、貴方もっと笑った方がいいわよ?」
「我々は人型の兵器である故、不必要な感情表現は控えるべきかと」
「人型だからこそ、よ? せっかく可愛いのに、そんなんじゃお嫁さんにいけないわよ〜?」
「っな!?」
隊長はいつものように冗談で場を和ませる、そんな彼女に誘導されるように、私たちは自然と頬が緩む。
「………うふ」
私が笑うと、隣で不知火ちゃんが睨んでくる。…今に比べたらそこまで仲が悪いわけではなかった。
「…(ギロッ)」
「っ! ご、ごめんなさい」
「もう睨まないの不知火。ホントに石頭なんだから、ねー綾波?」
「…は、はい……?」
「…むぅ」
「…皆いいかしら? Listen to me. これから海魔大戦後の我々の「身の振る舞い方」を教えます」
隊長の横で、ドレス姿の麗人がその場の雰囲気を引き締まらせる。…姫様だ。
彼女は本当に姫とか貴族であるわけではないが、なんでも「イソロク」という人物の勧めで今の格好をするようになり、それ以来好んでドレスを着るようになった…とか、まぁ今の我々には関係ない…か。
ともかく、姫様の一声に、我々は固唾を飲んで耳を傾けた。
「…っ!」
そんな私たちを見越してか、隊長が補足を入れる。
「まぁそんな複雑なことじゃないわ。ねぇウォス?」
「Yes. 大戦が終了した今、艦娘たちはお役御免となりました。しかし提督連盟(後の鎮守府連合)は我々を「所有物」として処理し、安寧秩序の世のため。という名目により、これからも彼らの命令の下に動くことになるでしょう」
彼女たち二人のやり取りは、どこか安心する…が、矢張り聞き捨てならない言葉が。
「…っ」
「…私たちの指揮官は、優しい人です。でも他所の隊の指揮官は…イジワルな人が多いようです」
私の発言に、周りは誰と言わず肯定の意を返す。
提督連盟は、海魔が滅ぼした大国の主…王族や貴族、元老院など。出自は様々だが一貫して「権力者」が多かった。
彼らは艦娘を人型の兵器と断じ、長期にわたる戦いや過酷な任務を課し、ボロボロになるまで酷使する…人権など、型にはまっただけの我々には存在しなかった。
しかして…如何に人型兵器であれ、擦り切れるまで使われてはたまったものではない。
「そうね、悔しいけどそれが現状ね。海魔に滅ぼされた国の王族や貴族も指揮官に抜擢されているし、見渡す限り権力でブクブクに太った野心家ばっかり、言い方は悪いけど?」
「…早い話、このままいけば我々は、そういった野心家なり業突く張りに使いまわされるだけでは?」
「おぉ言うわね不知火。…そう、前世だとかは正直分からないけど、例え道具から転生したとはいえ、人の身である以上私たちは人として、自分の正義のために弱い人たちを守っていきたい、或いは秩序を正していきたいと願っている娘も少なくないはず。…そこで」
「テイトクの立案により、我々の隊は特別な地位を授かることになりました。…如何なるニンゲンにも束縛されない、我々の意志によって隊を動かす…そんな艦娘たちの集団」
「っ!? そんなことが可能なのですか、姫様!」
不知火ちゃんが驚くのも無理はない、そんなことをすれば周りの反発も少なくないはず…。
しかし姫様は堂々とした態度で高らかに宣言するように言った。
「えぇ不知火。私たちとテイトクの隊は海魔大戦において、海魔討伐に最も貢献したとして、イソロク殿や提督連盟に変わる組織の次期元帥の一存により決められました」
「それだけじゃない、戦うか戦わないかも私たち次第。もう誰の命令も聞くことはないの」
「っな、それは…今後は提督の命令ではなく、我々の判断が優先される…ということですか?」
「そ、これからは作戦立案、指揮、もちろん実行も私たちが行う。あくまで艦娘という立場は変わらないけどね?」
「わぁ…!」
もう道具として扱われることもない、一人間としての権利も保証される。…それだけで、私はどこか夢見心地だった。
「…今まで道具扱いされてきた仲間もいた、我々の隊がその立場から脱却するならば…ゆくゆくは艦娘たちが虐げられることもなくなるかもしれない…ぉお」
「っふふ、立場は変わるかもしれませんが、少しオーバーですね? それは今後次第…でしょうか?」
「まぁ私とウォスは提督についていくつもりだから、皆はどうするのって話」
「…どうする、とは?」
「ここからは自分の意志で決めて良いってことよ。戦いが嫌なら一ニンゲンとして生きていけばいい、大丈夫、提督たちの後ろ盾もあるし、艤装さえなければ普通の女性と変わらないし?」
「そ、それでは…隊の途中除隊も認められるのですか!?」
不知火ちゃんの言葉に、隊長は両手を広げて肯定した。
「そう! これからは艦娘もヒトとして認められる時代が来る、道具として強制されることはない…命令じゃない、何もかも自分で決めて良い。自由なのよ!」
「で…では、私たちは一体何をすれば?」
「それすらも貴女次第です綾波。貴女は…貴女の「信じる道へ行きなさい」?」
「姫さま………ぐすっ」
「…泣くな綾波、騎士として生きるなら人前で涙を見せるな」
「し、不知火ちゃんは司令官みたいな騎士になるの?」
「当たり前だ。私たちは戦うために生きてきた、今更…他の生き方なんて分からない」
周りの娘たちも軒並み同じ意見のようだ、それもそうだろう、そのために我々は生まれてきた。
それでも…自分の意志で戦える、ということはそれだけで素晴らしいことだと感じた。
「因みにだけど私たちの隊、提督が他の娘も呼び込んでるみたいだから、ゆくゆくは提督連盟に並ぶ「大きな組織」になるらしいわよ!」
「ふぇっ!?」
まさかそこまで話が進んでいたなんて…と、当時の私は目を見開いていた。
「…ふふふ、成る程。もう無能なニンゲンに大きな顔をさせない、か…良いですね、滾りますね」
「不知火ちゃん、お顔が怖いよ…」
「さぁて、不知火は私たちと一緒に来ることは半ば決定として」
「望むところです(暗黒微笑)」
「よしよし、じゃあ他の娘は? 特に綾波、貴女の才能は私たちもよく知ってるから、来てくれたらすごく嬉しいんだけど…?」
「え、えぇと……し、不知火ちゃん?」
「知らん、何故私に振る? 自分で決めろ。…決められるんだぞ?」
「……私は」
──皆と一緒に居られるなら…!
・・・・・
こうして、私は彼女たちと共に「艦娘騎士団」を結成した。
一鎮守府でありながら、連合に負けない人員と統率力、更には権利も…艦娘が一人のニンゲンとして認められるための礎を築くため、何より…提督が掲げた「騎士道」を貫くため、我々は揃って戦う道を選んでいました。
…結局、不知火ちゃんの言う通り。私たちは戦うこと以外を知らない、それでも…そんな私たちが誰かの幸せを守れるのなら、と…例え道具と揶揄されようと、信念を共にする仲間がいれば怖くない…そう思ったんです。…それは「甘え」だったかもしれませんけどね。
っえ? そんな事はない…?
…うふ、司令官は矢張りお優しい。あの人のように…包み込むような慈愛がある。
「どうしたの綾波?」
「だ、団長。…ごめんなさい! 任務…綾波のせいで失敗して」
「え、どういう意味?」
ある日のこと、任務を終えた私を出迎えてくれた「団長」は、私の沈んだ顔を見て声を掛けて下さった、私は…事のあらましを団長に話した。
「…私、遠征途中に盗賊に襲われた行商の一団を見つけて…私だけだったから…勝手に行動して…賊は数人だったから…助けられると思って」
「…うん」
「でも、その人たち…行商の人たちは、武器密輸をしていて…賊だと思っていたのは、私たちが向かおうとしていた国の軍人さんで…」
「あらあら、でも軍人さんなら恰好で分からなかった?」
「…秘密裏に動いてたらしくて、服はボロボロで…見分けがつかないで…でも…私…っ!」
「泣かないの、報告を続けて」
「は、はいっ。…遠征先の国に行ったら、国中が火の海で……交戦中の隣国に、強力な兵器が出回ったらしくて……その出所は、一般の行商の集団だったって…!」
「………」
「私、気づかなくて…不知火ちゃんたちは気づいていたらしくて、不知火ちゃん怒って…なんで連絡しなかったんだ、お前の早とちりで出るはずのない死人が出たんだぞ……って」
「…不知火、そういう結果とかには厳しいから」
「違うんです! 私が…私がいけないんです。わたしが…失敗したから、皆死んじゃって…みんな…みんな私が!」
「こら、綾波」
団長は柔らかな声で私を諌めながら、ゆっくりと私に近づく。
一瞬身体を硬直させたが、彼女の温かな瞳と微笑みが「そうじゃない」と雄弁に物語ってました、そして…。
優しく…我が子を抱くように優しく抱きしめると、宥めるように仰いました。
「貴女は悪くない、貴女は頑張った、貴女を…誇りに思う」
「っ。だ、ん…ちょ……ぅ」
「見ず知らずのヒトを助けてこその騎士です。確かに仲間との連携も大切です、しかし…一番大事なことは「己の正義を貫く覚悟があるか」…よ。綾波、貴女の正義って何?」
「…っ、皆を…守りたい、助けたいっ! 目に映る全ての人を、この手の届く範囲まで、守りたい…ですっ」
「…そうね。それは貴女の強さとなり、逆に弱点にもなる。厳しいかもだけど、その目に映る全てが「善」とは限らない。今回のように…貴女を利用しようと、騙そうとする輩もいる」
「…っ」
「でも、だからこその「仲間」でしょ? 足りない部分は仲間に補ってもらえばいいの! 不知火にウォスに…私も。綾波を助けたいって思ってるから、頼ってくれていいのよ?」
「団長…」
「今度からいっぱい甘えなさい? そして…一緒に勝利を掴み取りましょう!」
「…っはい!!」
団長は、失敗を繰り返した私を一切咎めることはしなかった。
だから私は頑張った、団長の期待に応えるため、失敗は帳消し出来ないけど、それ以上の成功で埋め尽くせばいい。そう思い続けた。
不知火ちゃんも、次第に私を許してくれるようになった、姫様も励ましてくれた、何より…団長が私の悩み、願い、思い…全てを聞き入れてくれた。それが何よりの幸せだった。
此処が…私の「居場所」なんだって、心からそう思った。
…そんなある日。
海魔大戦からすでに「50年以上」が経過していた…。
・・・・・
城内ではある噂が流れていた。
なんでも、とある高名な技術者が「艦娘強化の装飾品」を造り出したらしく、それらを我が騎士団に献上したい…と申し出たのだ。
「このブレスレットには、艦娘の出力を最大限に引き上げる効果があります。原理としては鉱石に吸収したマナの増幅の後、その体内供給を効率よく促し、それらを一定時間保つこと。"ブースター"…と言いましょうか?」
「殿下、貴方の騎士団も最近は人手が足りないと聞きます。騎士団発足以来50年、戦役を退いたモノもおりましょう、華々しく殉じたモノもおりましょう。しかして…艦娘は代えの利かないモノ、何故なら代わりは「造れない」から」
「艦娘騎士団は世界の安寧秩序のため必要な楔です。私も世界が平穏であってほしい、この力で…微力ながらお手伝いさせて頂きたいのです」
仰々しく頭(こうべ)を垂れるローブの男、言葉こそ怪しいものの、その身振り手振りには見るものを惹きつける何かがあった。
フードは影に塗り尽くされて見えない、しかし…彼は本当に誠実に見えた。
私たちの国(鎮守府)は、騎士団発起人の一人であった初代提督から代替わりし、彼の息子が統治していた。十年前ぐらいからだ、利発的な指導者だった初代に比べ、二代目は…何処か優柔不断だった。
きっと不安だったのだろう、統治、政治、外交、騎士団の運用など、常に時勢を見極め適切な対応をして来た、そんな父君のように振る舞える自信がなかったのだ。
事実、艦娘騎士団は発足以来50年間戦い続け、その度に人員は消耗していた。連合から救援の形で増員はされているが、彼らもかつてのようには気を許さず、契約という提携により代償が必要だった。
それは時に食糧だったり、資材だったり、増援だったり…その度に傷つき、擦り減り、国の貧しさは増す一方だった。
だから…それは仕方のないことだった。
二代目はそれを了承し、艦娘騎士たちにブレスレットの着用を義務づけた。
艦娘騎士は陛下に忠誠を誓った、今回に限っては…拒否権は無かった。
…戦力は目に見えて上がった。ただでさえ一騎当千の強さの艦娘が更に強くなると…最早何も恐れるものはない。
艦娘騎士の運用…数人一組の軍隊から単騎運用、短期決戦が主流になるのには、時間は掛からなかった…。我々は正に「最強」の座につき、秩序を保つための導となった。
──だが。
「素晴らしいっ、お前が開発したこの強化ブレスレット、もっと作れないか? ぁあ金の心配はない、幾らでも搾り取る。国のためだ民も理解ってくれるさ! そうだ、お前を国務大臣に任命しよう。宿無しだと言っていたろう? 我が国の平和のため、力を貸してほしい!」
「…有難き栄誉に御座います、陛下。…国務大臣の件、謹んでお受け致します」
陛下は何を思ったか、客人であるはずの技術者を国務大臣という重職に就かせた。
…そこから先は坂を転がり落ちるように、状況は目まぐるしく変わっていく。
強化ブレスレットの費用のため、重税を課せられた国民の暮らしは、前よりも貧困や飢えが深刻になった。
一騎だけでも敵国を相手取るまでになった艦娘騎士は、畏怖を込めて周囲から化け物呼ばわりされるようになる。
陛下の暴政も止まらず、逆らうものは牢獄行き、最悪処刑にまでなった。
何もかもが悪手に変わる…もう、取り返しのつかない所まで来ていた。
──To be continued …