艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
「…ってことだから、私たちはブースターつけない方針で、よろ〜」
…団長の最近の張り詰めた空気とは真逆の緩い言動、団長なりにこの現状をなんとかしたかった…と思う。
「…団長、我々だけブースターを使用しないのでは、根本的な解決にはならないのでは?」
不知火ちゃんの言い分は真っ当だった。
この場にいるのは私、団長、姫様、不知火ちゃんの四人。後のメンバーはブースターの使用を止めようとしなかった、国王の命令だからと意見するモノもいたし、単純に強化による全能感を手放したくないと…どんなに言葉で濁しても、あからさまに取り憑かれたように吠えるそれは、ニンゲンと大差などなかった。
その通りだ、と団長は不知火ちゃんの意見を肯定し、そこから自身の胸中を明かす。
「陛下のお考えだから、私たちがそれを否定することは出来ない。確かに我々兵器には、力が無ければ何の意味もありません。しかし…それが「一人で」解決出来るとは、私には思えない」
「団長の言う通りです。我々には信頼というPowerがあります、言葉では甘い表現かもしれませんが、ヒトはそういった「繋がり」をPowerに変えて、爆発的に強くなるのです」
「ヒト型兵器である以上、それを見倣うべき…ですか?」
「不服そうな言い方ね、不知火?」
「いえ、ですが…力が全てであるという考え、そしてそれらを効率的に作用出来るのなら、そういった無駄な思考を省こうとするのは致し方ないのでは、と」
「そうね、それも一つの考え方。でも…それが争いの火種になるとしたら?」
「どういう意味ですか?」
私は要領を得ず聞き返した。団長は私の顔に、虚しさを湛えた瞳を向ける。
「海魔はどうやって生まれたか…そういうことじゃない?」
「っ! まさか…また海魔のような怪物が!?」
この時点では、深海棲艦はまだ影も形もなかった。
彼女たちはこれから数年先に、突如として現れる。…歴史は繰り返される、とは誰の言葉でしょうか?
「海魔は選ばれし艦娘たちが、大元を絶ったことで存在しなくなったのでは?」
「そう、ね。でも何となく嫌な雰囲気よね、ほら…海魔たちと戦っていた時だって、ニンゲンたちはギラギラした眼してたじゃない? アレと似てるのよ、今の国王陛下の眼」
「…Hm,海魔は人の欲望を食べて強くなる、とどこかで聞いたことがあります。もし陛下の暴走が「次なる脅威」の引き金になる…としたら?」
姫様の言うことは、あくまで根拠のないものだったが…海魔という驚異と対峙していた我々は、内心その説に確信を抱いていた。
「…色々弁解していきたいところですが、団長のそういう野生のカンは馬鹿に出来ませんからね」
「そうそう鼻が敏感なのよハナが…ってダレが犬みたいじゃあい!?」
「誰もそんなこと言ってません…っふふ」
不知火ちゃんは思わず顔が綻んでいた。私や姫様も同じように笑う。
「考えすぎかもしれないけど、私たちが騎士団を結成した理由は「争いのない世界にする」ためよ。力で押さえつけるためじゃない、それにあんなどこのウマノホネかも分かんないヤツのブレスレットなんて、それこそ裏があるとしか思えないし?」
「…確かに話は出来過ぎてますね。そして城内外の不穏な空気…今はまだ静まってますが、この先は何が起こるか分からないか…」
「そう、だから我々がStopperになれば良いと思うのです。陛下には私たちから時間をかけて説得してみますから」
「…でも、大丈夫でしょうか。ブレスレット着用拒否は陛下の御命に逆らうのでは?」
「そこは大丈夫。陛下には私から無理言って聞かせたから」
「っな、無茶をしないで下さい団長。今の陛下は…その……」
「不知火、団長は陛下の信頼を勝ち得ています。彼女の意見具申は陛下も無下にはなさらないでしょう」
姫様はそう言いながら、自分も誇らしげに笑う。
「うんうん、で。私たちはこれから四人一組で行動するから、そのつもりで」
「っな!? 良いのですか?」
「まぁコストの無駄だとか、散々言われたけど、激戦地にでも送ってくれていいからって言ったら、渋々了承してくれたわ」
「団長たちと一緒、か…っうふ」
「綾波は乗り気みたいね? どうする〜不知火? 仲間はずれは嫌でしょ♪」
「っ…はぁっ、分かりました」
もう何も言いません。と不知火ちゃんも満更でもなさそうな顔で呆れるのだった。
その後私たち四人は「遊撃隊」として各地の艦娘騎士の増援として、遠征の日々を送る。…このひと時は、今でも脳裏に浮かぶほど印象的です。
団長は旅の途中で適当に決めた団名を披露し、旅を盛り上げようとよくおどけてました。
不知火ちゃんは周囲を警戒しつつも、団長の言葉の応酬にしっかり対応していました。…え? ぼけとつっこみ? …そうかもしれません。
姫様は、そんな二人を見守って、心から笑っていらっしゃって。
…私? よく団長や不知火ちゃんにからかわれてました。綾波ってなんかいじめたくなるのよねぇ、と団長が。…いじられキャラ? 良く分かりません。
とにかく騎士団発足以来、長い間背中を預けてきた間柄でしたので。気心の知れた仲と言いますか…本当に、幸せな時間でした。
…その裏で、王国の崩壊が始まっていることを、私たちはまだ知り得ませんでした。
・・・・・
──遊撃隊に新たな依頼が入った。
それは、作戦行動中の艦娘騎士の援護に向かう、と至極簡単な任務でした。
いつものように、私たちは戦地へと旅立つため国を離れました。…思えば、あの時は不吉な雰囲気が立ち込めておりました。
「…雨?」
団長が言いながら空を見上げると、ぽつ、ぽつ、と雨音が聞こえてきました。雨の前触れか湿気特有の匂いも鼻をかすめました。
「湿気があると砲撃の調子が悪いのよねぇ」
「問題ありません。ゲリラ戦法は心得ておりますので」
「ぶ、物騒だね…;」
「…風も強いですね。この様子だと目的地も雨によって一時休戦状態でしょう、一日経てば雨も上がるはずです。それまで距離を稼ぎましょう」
姫様の提案により、私たちは雨を利用した強硬進行する。
…雨の陰鬱な雰囲気が、私たちから話す気力を奪ったか、はたまた皆長年の勘によってこの先に何かあることを、どこかで勘づいていたのか。
いつものように和気藹藹と話しながらではなく、張り詰めた空気の中黙々と目的地へと向かう…団長の顔を一瞥してみる、矢張りどこか表情は強張っていた。
…私は、それが少し怖かった。
「…っ! 止まって!!」
先行していた団長が制止を呼びかける。
「どうかしましたか、団長?」
「…アレ、うちの娘じゃない?」
団長が指差す方向に、確かに居た。
それは、打ちつける雨風の中、幻霊のような幽かな輪郭だが、ふらり、ふらりと…確実に近づいて来ていた。
「確かにそうみたいです」
不知火ちゃんがそう事実を告げると、団長は「彼女」に呼びかけた。
「ちょっとー! 貴女ーっ! なんでこんなとこにいるのー? 作戦はどうなったのー!」
……返事はない。
だが輪郭は次第にはっきりしていく。鎧を着た小さな少女、それは紛れもなく…艦娘騎士だった。
「何かおかしい…お二人とも、警戒を厳として下さい。綾波も」
「うん…」
私は緊迫した空気の中、目の前に現れた彼女の顔を見やる。
顔は雨に濡れた髪が枝垂れているため見えない。立ち止まっても重心が定まらず、ふらりふらりとしている。そして…そんな彼女がつけている強化ブレスレットは、赤く爛爛として、まるで炎が燃え上がっているよう…不気味だ。
「…ろ…す」
「っえ、何? 聞こえなかったからもう一回…」
コ
ロ
ス
「団長っ!?」
まるで、その場から音もなく現れたように。
団長の目前に、突然に姿を見せる艦娘騎士。その手に…大きな”得物”を。
その眼に…紛うことなき「殺意」を迸らせ。
「…沈めっ!!」
同じく、団長の背後を飛び越え、必殺の剣閃で艦娘騎士の得物を弾く。
…得物を喪えどその滾る敵意は止まらない。団長を守るため立ち塞がる不知火。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスシズメシズメシズメシズメシズメシズメシズメシズメシズメシズメコワレロコワレロコワレロコワレロコワレロコワレロコワレロコワレロコワレロコワレロ」
「…これは」
壊れた機械のように意味不明の言葉の羅列を紡ぐ同胞。団長は、変わり果てたナカマの姿を垣間見て、ひどく狼狽えていた。…そして。
「っ、綾波。戻るわよ」
「えっ。何を…?」
「いいから! 皆のところに戻るのよ、嫌な予感がするの…こんな悪寒初めてなの、早く!!」
団長の焦りように、姫様も不知火ちゃんも、もちろん私も驚きを隠せなかった。
「…綾波、行きなさい。私たちは彼女の相手をして、後で落ち合います」
「姫様!?」
「団長の命令だ。行け…団長を守ってやってくれ」
「不知火ちゃん…」
二人の覚悟に染まった顔を見て、私も…。
「…了解、命に代えても守ります」
騎士の誓いを立てる。それは何モノも破ることを許されない「約束」。
それを聞き届けた二人は、静かに微笑むと目前の敵と相対し、二度とこちらを向くことはなかった。
「行きましょう!」
「ええ!」
団長と私は短く言葉を交わすと、一心不乱に走り出す。…向かうべき祖国の危機へと、馳せ参じるため。
…などと、今の私にはそんなことを言う資格などありませんが。
──だって、私は………っ!
「…っ!!」
走り続ける、はしる、ハシル、走る…!
「はぁ……っ!」
この先に…何が待っていようとも。
「もう少しよ!」
「了解!」
私は…この人を…絶対に。
「…っ、見えた!」
「はい! ……っ!? あれは…」
見慣れた故郷の原風景…森の中に広がる石造りの城…そこから上がるは「灰色の煙」…そして赤く燃立つ炎。
「…っ!」
「団長!?」
城を侵す火の手を垣間見た瞬間、団長はまた走り出す。私も続く。
「…っ!」
辿り着いた城下町、そこで見たモノとは。
「ぎゃあああああ!?」
「いやあああああ?!!」
「な、なんで…どうして…っがあああ!?」
国民を蹂躙し、殺戮を繰り返す悪徒。…いや。
「どうして…何をやっているの! 貴女たち!?」
それは、国に忠誠を誓ったはずの艦娘騎士たちだった。
彼女たちの腕には、例のブレスレットが…紅い光を放っていた。
「コロス…コロス」
「シズメ…シズメ……ッ」
「ひぃ…どうして…俺たちは…何も…」
「やめなさいって言っているでしょうっ!!」
団長の制止も虚しく、彼女たちの暴走は止まらない。
国中の艦娘騎士たちが暴走している…住民の避難は、間に合わない。
「…っ、綾波止めるわよ。気絶でも拘束でも何でもして! 殺しちゃダメ!」
「心得ています!!」
この惨状を目の当たりにした私たち、気持ちは同じだった。
彼女たちは正気じゃない。どうすれば良いのか分からないけど…それでも、何かしなくては気が治まらなかった。
──それが、どれだけ足掻いても変えられない現実だとしても。
「はぁああああっ!!」
「…ふっ!」
得物を構えるキョウジンたち、それを防ぎ人命を守る私たち。
それは、傍からみたら仲間を助けようと見えただろうか。…それとも、仲間に手をかけようとするオロカモノだろうか。
どちらにしても、ニンゲンたちは私たちを見る目ははっきりしていた。…「畏怖」。
…分かっている、話し合えたら、他に方法を思いつけていたら、そんなことやらなくても…仲間と戦う必要なんてなかった。
でも…私たちは所詮「兵器」。戦うことでしか…前に進めない、方法が分からない、解(し)らない。
きっと、長く戦い続けてココロがおかしくなったんだ。終わらない戦いが…私たちをオカシクしたんだ。
だから…元に戻さなきゃ、私も…団長も、そう思っていたんだ。
「コロス…コロス!」
「シ…ネ…シネ……!!」
「…っ、キリがない!?」
「団長!!」
団長を突き飛ばす私。刹那…肩に鈍い痛み。
「…っ!」
「綾波!?」
遂に外傷を負った、片腕が動かない…致命傷か…斧を持つ手も…力が上手く入らない…!
「しっかりしなさい! 貴女は下がって、ウォスたちを呼んできて!!」
「嫌です!! 約束したんです…貴女を守るって、私はまだ戦えます、貴女を守れます!!」
「っ、綾波…」
守るんだ…私を認めてくれた…愛してくれたこの人を…イノチに代えても…!!
…そんな私の思いを嘲笑うように、散り散りに逃げる住人たちは殺され、街は炎の海に沈んでいく…。
「…っ」
気づけば、私たちの周りには既に炎の壁に取り囲まれていた…。
仮にここから出れたとしても、外には暴走艦娘騎士がいる。…この国で何が起こったのか、問いただすことさえ出来ない。
…絶望が、私の頭の中を支配していく。
「…団長、私を置いて行ってください」
「っ! 何を言っているの、そんなこと!!」
「このままじゃ二人ともやられてしまいます!!」
「…っ」
「行ってください…姫様たちと合流して、一緒に逃げて下さい。私は…もう十分です」
ここが、私の死に場所なのだと悟った。
戦いが私の心を蝕んでいた…もう嫌だ、仲間にさえ手をかけて、団長に何があれば…私には…存在する意味なんて。
「…そうね」
団長は私に背を向けると…”城の方角”に向き直る。
「団長…!?」
「大丈夫よ。この暴走を止められなかったのは私の責任、騎士団長として…けじめをつけないとね?」
私の方へ振り向くと、団長はいつものようにニッコリと微笑んだ。
「っ! 駄目です、そんなことは! 貴女が居なくなったら…騎士団はどうなるんですか!!」
「違うわよ」
今度は顔を引き締めて、低いトーンの声色で話す。
「私は話をつけに行くの。…父君とは似ても似つかないバカ息子と、それをたぶらかしたクソヤローをとっちめに行くの。…貴女たちが心配することは何もないわ」
「なら、私もお供します。させて下さい! このまま貴女一人だけ行ったって!!」
「アハハ、ボロボロの綾波がついてたって結果変わんないわよ?」
「やっぱり戦うつもりで…っ、いけません、私も…ゔっ!?」
「ほら、無理しないの。…犠牲は少ない方が良い。貴女はここで…ウォスたちを待ってて」
「でも…貴女は騎士団にまだ必要なんです、貴女が居なかったら…私たちはどうすれば…っ!!」
「…そうね、もし。私がどっかに行っちゃったら、綾波…貴女が探しに来て。貴女なら…きっと私を迎えに来てくれるって、信じてる」
「やめて…そんなことしないで。お願い…団長……っ!!」
「そんな顔しないで、貴女たちには笑顔でいてほしい。…今生の別れじゃない、きっともう一度会いましょう。…だから、それまでは」
──またね、綾波。
「………っ!」
団長ぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!
炎の海に飛び込んだ団長を、私は見守ることしか出来なかった…。
・・・・・
──そこから先は、よく覚えていない。
「…そんな」
絶望の報せに顔が青白くなる姫様。
「何故誓いを破ったっ! 何故彼女を一人にしたんだ…この団長殺し!!」
信頼に対する裏切りに、騎士の名誉の侮辱に、何より団長を守れなかったことに憤る不知火。
「…っ、お願い…返して…私たちの団長を…返してよぉ!!」
彼女はそこから泣き崩れ、せがむように私に…いや、団長をコロした運命に対して抗議した。
…もちろん、叶わない。
団長は……もう。
…………………………団長…………。
──ココロが、コワレル音がした。