艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
綾波との話し合いを終え、一夜が明けた。
僕たちは改めてボウレイ海域の霧の対策を話し合った。
とりあえず拠点としている宿屋の一室に集まって今後を考える。そこには僕と綾波と、天龍に望月、翔鶴と時雨。…野分はまだ参加させるべきではない、と天龍たちから進言があったので休ませることにした。金剛は…。
「時雨、金剛は…?」
「…うん、まだ十分じゃないかな。彼女には時間が必要だ」
…一体彼女に何があったのか、支えてあげたいけど。……仕方ない、話を進めよう。
「先ずは「研究員の居処の特定」からだね?」
僕の意見に全員が頷く、そして望月が補足する。
「霧のせいで島とかの位置は正確に把握出来ねぇが。…大体の察しはついてる」
「それは…?」
僕が問うと、望月は眼鏡のフレームを持って位置を調節しつつ話す。
「時雨が言うには…不確かな反応が一つだけ確認された。っていうが、どうやらソイツは「海上」にはねぇようでな?」
その言葉に「まさか」とハッとする僕たち、自然と時雨に視線がいくが、彼女は予期したように間を置かず告げた。
「島の一つに妙な違和感を感じてね。そこは確か断崖絶壁の岩壁になっていて、そこの海底に大きな「穴」が感じ取れたんだ」
「穴?」
「うん、建物が一つ隠せるぐらいの巨大な穴だよ。その奥から物音も聞こえた気がした」
そんなことも分かるのか…それが本当なら、研究員の居処はそこしかない…!
「つーわけだからよ、海底まで潜るにゃあ潜水艦の力を借りた方が楽だ、先ずは不知火たちと合流して…」
「ま、待って!」
望月が話を進めているけど、まだ解決しないといけない問題がある。
「まだ「霧」の問題をどうにか出来ていないよ? 島に行くにも何かあってもいけないし、あの霧自体にも何かある…かもしれないし」
僕の当然と言える疑問に、望月も答える。
「だな。だが問題ないぜ? まぁ策は考えてるが後のお楽しみっつーことで、なぁ?」
「…ふふっ、えぇ。期待して頂戴?」
望月は何故か翔鶴に声を掛け、彼女も自信ありげな表情で返した。
…まあ今更彼女たちを疑いはしないので、霧は望月たちに任せよう。…でも。
「そう簡単に…不知火たちが協力するかなぁ?」
「…司令官」
綾波が短く言葉を紡ぎ、こちらを見つめてくる。その温かな眼の中には「大丈夫」の思いが込められている…気がする。
「…分かったよ、綾波」
僕の言葉に、綾波は静かに微笑んだ。僕もただ無言で嬉しさの笑みを綾波に返した。
僕らのやり取りに、天龍たちは少し驚いた様子だった。
「ほぉ? 綾波まで誑(たぶら)かしたか?」
少し悪戯っぽく笑いながら尋ねる天龍に、僕は全力で否定する。
「ち、違うよ!? 綾波とは…本当にそんな感じじゃ!」
「司令官、私とは遊びだった…というわけですね?」
「ちょ綾波ぃ! 誤解を招く言い方しないで!?」
「はっ、心配しなくていい。ここにいるヤツらはお前を「分かっている」からな、なぁ?」
天龍の発言に肯定的に頷く一同。
「そうさな〜大将だからなぁ?」
「今更スケコマシなんて言葉で済ませませんよ」
「うふふ、良かったじゃないかタクト。理解のある皆で?」
「絶対勘違いしてるって!? あぁもうしっかりしてよ皆、もうすぐ研究員の手掛かりが…」
僕らがいつものように茶化しあっていると、外側からドタバタと慌ただしい音が聞こえた。
「(バンッ!)たたたた大変たいへんタイヘン〜〜〜っ!!?」
その音の主は僕らのいる部屋に転がり込んで来た。
「ニム…?」
彼女は不知火とウォースパイトと一緒に居たはず。それに彼女の慌てようは…只事ではない、そう誰もが確信した。
「どうした、何があった?」
「不知火たちは一緒じゃないの?」
天龍と僕が問いかけると、息を切らしながらニムは答える。
「あ、あのね。私がね? 研究員って人見つけて」
「っ、研究員を見つけたの!?」
「んー正確に言うとあの亡霊騎士の方ね、そしたら二人が…捕まえてその人に尋問し始めて…それでそれで、なんか雲行きアヤシーって見てたら、急に紅い光がパーって!」
ニムの言う紅い光とは…もしかしなくても「海魔石」だろう、二人はその光を浴びたのか…?
「そう! 私はとっさに海中に逃げたからなんとかなったけど、二人が一緒に研究員に捕まったみたいで!」
「そんなっ!?」
綾波が心底驚いたように叫んだ。
僕も驚いた。…不知火たちの実力は、あの霧の中で見ていたから。…こんな簡単に捕まるなんて。
「…どう思う天龍よ?」
「ヤツがニムをそのまま逃したのは、俺たちに火急の時だと伝える為。ヤツめ…俺たちと決着をつけるつもりか」
望月と天龍の分析は、間違っていないだろう。
向こうもやる気みたいだな…でも、不知火たちを人質に取られたらどうしよう。
「…機関の研究員が、艦娘をただ人質にするとは考えにくいな? おそらく…もっと恐ろしい事態になるかも」
「っ!」
時雨の見解を聞いた綾波は、咄嗟に部屋を出て行こうとする。
「綾波!」
僕が呼び止めると彼女は時間が止まってように、文字通りに身を硬くした。
「…命令だ、勝手な行動はするな」
「……了、承…っ」
不知火たちの下へ行きたい衝動を抑え、綾波は大人しく僕の言うことを聞いてくれた…勿論、彼女のココロと身体は未だ震えている。…心配なんだろう。
「…ごめん、でも僕らも彼女たちを助けたい。今は皆と一緒に行こう、僕を…僕たちを信じて!」
「っ!」
僕の言葉に、綾波以外の皆は頷きながら何も言わず彼女に視線を向けた。…「自分たちは君の味方だ」と。
綾波もその力強い眼差しに、安堵した笑みを浮かべて頷いた。
「絶対に助ける。このまま…君の仲間を見捨てたりなんてしない」
僕は僕自身の本音をぶつける。綾波と…彼女の仲間を助けたい気持ちが全身に流れてくる。
団長を失ったことにより、決裂したかつての仲間。
ウォースパイトも、不知火も、綾波も。このままじゃ…誰も救えない、誰も望まない結末になってしまう…!
「…拓人さん」
僕の肩に現れた妖精さんが、僕を見つめる。
また、これが運命なんだと。彼女たちをこのまま放っておくことが、黒幕に都合のいい展開を引き寄せさせない、正しいことなのだと…そう言うつもりなのか?
「良いんですね…?」
改めて問われる。僕の言うべきことは…一つしかない。
「良いよ。綾波を救う未来が、アイツに都合の良いものだとしても。…そんなものくれてやるよ、それが出来なきゃ…ここまで来た意味がないんだ!」
「司令官…!」
僕の決意の表れに、妖精さんは俯いて言葉を出せないでいた。
「…それじゃダメなんですよ、貴方は…っ!」
「………ごめん」
「…もう、仕方がないですね? 貴方は…本当に昔から……」
それだけ言うと、妖精さんはすぅと透けていき、やがて見えなくなる。…その間際に、彼女が心からの「微笑み」を浮かべているように見えた。
「…皆、行こう。不知火たちを助けに、研究員や黒幕を止めに!」
「大将、違うだろ? ここはアレだよ…ア・レ?」
僕が気を引き締めていると、望月は「あの言葉」を求めた。
僕は意図を理解して、どこかはにかむ笑顔になると、改めて彼女たちに告げた。
「行くよ皆…"抜錨、暁の水平線に勝利を刻め!"」
「応!」
「おうさ!」
「えぇ!」
「うん、やろう!」
「ニムもやるよー、やるやるやる〜!」
「…了承!」
ココロが一体となる感覚を感じる。…僕らは進む、どんな困難が待ち受けていようとも…っ!
進む覚悟を胸に秘め、僕らは海を駆けた。…目指すは、あの「霧の海域」…そこで待ち受けるのは、果たして…?
・・・・・
拓人たちは不知火たちを救うため、ボウレイ海域へと向かう。
そんな拓人たちをよそに、宿屋の一室にて物思いに耽るモノが一人。
「………」
金剛…いや、金剛と呼ばれた「ナニモノか」は、自らが戦う意義を見出せないでいた。
いつものように髪を結わず、ボサボサの長髪は彼女の輝きの象徴の両眼を隠し、陰鬱な雰囲気を醸し出している。
彼女はもう「金剛」ではない。
「…私は」
思い出した、自分が何者かを。
滅ぼされた故郷、湧き上がる憎しみ…幼いながらに犯した「過ち」。…自分は。
「……っはは」
最早、乾いた笑いしか出てこない。
彼女を構成している全てを否定され、露わになった本当の自分すら否定している自分がいる。…彼女は。
「私…もう自分が誰だったのか……忘れちゃった」
彼女は金剛だった。
それは、偽りの思い、記憶だったのだろう。…それでも、それを信じたいと願う自分がいる。
だが…。
『思い出しマシタか? 自分がどういう存在なのかを』
頭の中で、話しかけてくるナニモノかが居た。そのしっかりとした口調で耳元から聞こえてくる声に、自然と耳を傾けていた。
『貴女は金剛ではありまセン。貴女は…ただの少女デス、その事実は変わりまセン』
…ならば何故私は「金剛」だったのだ? そう問いかける。
『それをワタシに聞くのはお門違いデース? ただ…ヤツらにとって貴女は利用価値があり、貴女もまた「そう感じた」…それだけの話デース』
「…そうだ、私は…艦娘や戦争をする人間が憎くて…っ」
『ソウ! それだけならまだしも、ワタシの力を使って世界を滅ぼそうだなんて! 気に入りまセーン、本来ならミナゴロしマスけど? 今のワタシにはそれは出来まセーン』
「…どうして?」
なんとなしに聞いてみる。すると謎の声はゲラゲラと大笑い。
『何故なら! 今のワタシはただの「力」に過ぎないから。それを使うのも放棄するのも、使い手次第だから。…まぁワタシは我の強い"力"なので、使い手ぐらいは選びますがネェ?』
「…私がアナタを使うに相応しいのか。…って?」
『イエス、そのトーリ! 貴女は自分を忘れていたとはイエ、彼らを守るために戦いまシタ。それは素晴らしいデス! しかし…記憶の戻った貴女は、果たして今までドーリ戦えマスか?』
「…それは」
『今一度考えてみてくだサイ。貴女が「ナニモノ」か…貴女は最強の力で、何を為すのデス?』
それだけ言うと、謎の声はそれ以上の言葉を投げず、辺りは静寂に包まれた。
「…何をしろっていうの? 私はもう……」
絶望に打ち拉がれる少女、彼女が如何なる「答え」を導くのか。
──コン、コンッ。
『…マドモアゼル、少しよろしいですか?』
「っ、野分…?」
それはきっと、塞がれた扉の向こう側に…。
・・・・・
深い霧が立ち込める、先の見えない仄暗い白さは、怪しげな雰囲気を作り出す。
僕らは「ボウレイ海域」に戻って来た。目指すは…研究員の拠点。
「先ずはこの霧をどうにかするよ、望月!」
「おぅ。んじゃあー翔鶴、いっちょやってやんな」
「ええ、行くわよ…濃霧除去特務「灼熱部隊」発艦始め!」
「えっ」
なかなかのネーミングですね、と思った矢先翔鶴の航空隊は弓に番えた矢から、宙に放たれ炎を纏いながら艦載機に変化、そのまま霧の中に消えていく。
「この辺りかしら?」
「ちょい待ち。…ほい大将、皆の分用意しとるから、付けときな?」
そう言って望月に手渡されたのは、トモシビ海域でも活躍した「サングラス」。
「え、ちょっと何するつもり!?」
「まぁ黙って見てな? 火力の調整に不備はないが、それ(サングラス)してなかったら"目が潰れる"ぜ?」
「っ!!?」
何となく察した僕は手早く全員分のサングラスを皆に手渡す。
…全員装着完了。翔鶴と望月も既にサングラスを着用している。…この後、どうなるのかというと。
「…うし、やっちまいな!」
「良し。"灼光弾"投下!」
翔鶴の号令と共に、霧の中で「ヒュー」と何かが落ちる音が響く。…刹那。
──ピカッ
閃光が走り、辺りを真っ白に塗りつぶす。その瞬く間に淡い光が身体を包み込んだ気がした。
「うぉ!?」
サングラス越しから見る急激な風景の変化に、思わず目を塞ぐ。
…それから穏やかな波の音が聞こえたので、とりあえず目を開けて辺りを見回すと。
「…あれっ!?」
あら不思議、あれだけ周りの視界を遮断していた濃霧が、綺麗さっぱり消えているではありませんか。
「…ってちょっと!? 流石に急展開すぎない?!!」
「えっ、うそうそうそ! すごぉ〜い!」
ニムも驚きを隠せない様子で感嘆の声を上げる、それは天龍たちも同様だった。
「ほう…急に熱くなったと思ったが?」
「どうやら、太陽のような光の熱さで霧そのものを「蒸発させた」ようだね。…大味だね?」
天龍と時雨が比較的平静に状況分析してるけど。…いやいやそんなのアリ!? そもそもそんなすごい熱量で無事な僕たちって一体…?!
「だーから言ったろ、火力調整に不備はねぇってよ? 翔鶴の魔導爆弾にちょいと細工して、爆発の瞬間アタシらに"魔術防膜"って障壁出来るようにしたからよ」
あっ、もしかしてさっきの淡い光のこと? そうか、もっちーが僕らに熱波が押し寄せる前に、魔術的防御策を講じてくれたんだ(ここの望月は魔術も使えるから)。
「よく分からないけど、流石だよもっちー。どこのダ○ィンチちゃんだよと。」
「ヒヒッ、ゆくゆくはあの黒い霧にも対抗出来るようにしようって考えてるぜ?」
「私は魔力を編んでそれを弾に込める、ぐらいしか出来ないけど。貴女みたいに応用の効く娘がいると助かるわ」
「アタシは詠唱ナシに魔力込めるアンタのがすごいと思うけどねぇ?」
翔鶴の賞賛の言葉に、望月もまた彼女なりに褒め称えた。…すると、翔鶴は少し表情に陰を落とす。
「……まぁ、色々あったのよ。色々…」
「っ! …すまねぇ、薮蛇だったか?」
「良いのよ。何でもないからそんなに心配しないで…ね?」
そうか…アレが翔鶴のアンダーカルマと関係があるのかも知れない。アイツとの戦いのため…って不謹慎か? とにかくいずれは彼女ともよく話し合わないと。
でも…先ずは目の前のことに集中しよう。
「霧が晴れて見晴らしは良くなったけど…?」
「ま、一時的なものだ。それでも半日ぐらいなら大丈夫さね」
「よし、まずは例の島へ急ぐぞ。そこに研究員の隠れ家があるはずだ、拓人」
天龍は目的を復唱し、僕に指示を仰ぐ。
「うん、それじゃ…ん?」
「ねぇねぇねぇ、アレってもしかしなくても…?」
僕らがその場から移動しようとすると、水平線の向こう側から「ある人物たち」が近づいてきた…あれは。
「…っ、姫様、不知火ちゃん!」
そう、綾波が叫んだ内容の通り。研究員に捕まったはずのウォースパイトと不知火が、僕らの目の前にいる。
…いや。
「望月、アレ…」
僕は不知火たちの首元を指す、そこには鉱石のようなものが赤く光っていた。
「…間違いねえ「コア」だ。時雨の考えは半分当たりだな?」
「そうだね、半分外れた。言い方が悪くなるけど「この程度で済んで良かった」…と言ったところか」
『果たしてそうかな?』
「…っ!?」
コアに操られた二人が真ん中を空けると、そこから姿を現した「白き姫」…いや、研究員…っ!
「お前…っ」
『まさか霧を蒸発させるとは思わなかったが。…矢張り金剛は来ていないようだな、当然か? 彼女は己の真実を受け止めることで精一杯だろうからな』
まるで敵意を露わにしたように、眉をひそめ鋭い目つきで僕らを見据える白き姫。どうやら傷は癒えたようで、火傷跡は見当たらなかった。
…"彼"の態度は、僕には何処か「無理をしている」ように感じ取れた。
僕が訝しんでいると、研究員は僕らを指して問いかける。
『特異点、君はこのまま進めば何が起こるのか…理解していないわけではないだろう?』
「…っ、それは」
確かに、この先のシナリオは(うろ覚えだが)知らないと言えば嘘になる。
『我々との戦いが終わり、世界に…君たちなりの平和を齎したとしよう。だが君は…その「先」を考えたことはあるか?』
「…先?」
『そうだ。君が自身の目的を達成したとしても、この世界の争いは終わらない。…人間同士の起こす戦争に限りはない。それだけではない、こうして艦娘同士でコロし合う状況も少なくはないだろう』
「っ!?」
『だから必要なんだ。争いの元を絶つには、艦娘の無力化と欲にまみれた人間の排除が。ヤツの言っていることは極論かもしれないが、このままいけば我々人類の滅亡が、遅かれ早かれ訪れるんだ』
「…だから艦娘たちを消して、お前たちはこの世界を救う…それが目的だったね?」
『そう、そして改めて問わせてもらう。…君はこれからどうするつもりだ?』
「…どうする、とは?」
『君はこの世界を救うのか、壊すのか? 特異点…この世界の
研究員が突きつけたのは…残酷なニ択だった。