艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 いやぁ、シュ◯ゲ面白いですね。()


特別な”孤独”は、ありきたりの”愛”に勝るだろうか?

 滑らかな海面が水飛沫を上げて荒巻く。

 怒号と砲弾が目紛しく飛び交う…広大な海原は硝煙漂う戦場と化した。

 

「うおおっ!!」

 

 拓人は白き姫に対し、望月特製の変形腕輪を剣に変え斬撃を繰り出す。飛び上がりざまの斬り下げ一閃を、研究員によって傀儡にされた不知火が割って入り剣身で受けきる。

 斬り払われそのまま飛び退く拓人、海面に着地し態勢を整える。

 その一瞬を見逃さず、ウォースパイトの艤装が素早く展開すると、拓人に向けて艦砲射撃。

 

「司令官!!」

 

 綾波は拓人の前に立つと、斧の一撃で眼前に迫った砲弾を真っ二つにした。

 

「綾波!」

 

 綾波の死角から白き姫の襲撃、拓人は綾波に背中を向けると変形腕輪を盾に変え、大剣の断撃を受け止める。

 

『うらあぁ!!』

「くっ!」

 

 重い一撃が全身を駆け巡る。…それでも歯を食いしばり何とか弾き返した。

 

「大丈夫、綾波?」

「問題ありません、司令官は?」

「僕も大丈夫。…しっかし、このままじゃジリ貧だなぁ。一気にいかないと不味いか?」

 

 背中越しの会話で、二人はこれからの対応を話し合っていた。

 白き姫の攻撃に合わせるように、不知火もウォースパイトも素早い連携で拓人たちを翻弄していた。まるで白き姫の「隙」を埋めるように。

 このままいけば体力の消耗は必須、いくら拓人が艦娘の力を行使しても「戦いで培われた直感力」は、様々な戦場を渡り歩いた艦娘騎士団が上。集中力が途切れれば容赦ない一撃を加えるだろう…そうなる前に、戦いの早期決着を望む拓人。

 

 ──先ずは戦況を整理する。

 

 前衛に不知火、その背後にウォースパイトが自慢の大砲を展開している。不知火が近接攻撃で陽動、ウォースパイトが相手の油断した隙に砲撃を撃つ…典型的な布陣だがお互いの長所を活かし短所を補う戦法…流石は艦娘騎士だ、と拓人は素直に賞賛した。

 その奥にかの白き姫が、万全の状態で戦闘態勢に入り、背中の大剣に手を掛けている。

 

 …不味い、まるで付け入る隙がない。

 

 拓人はあの廃坑で黒幕と対峙した時を思い出す。あの時は数も拮抗し実力も伯仲した戦いだったが、今回はそう上手くいくか怪しい。

 この猛攻が続けば確実に「体力切れ」になる、そう感じ取った拓人だったが?

 

「…綾波、何か考えはない?」

「不知火ちゃんなら何か思いつくのでしょうけど…すみません、私は攻撃を防ぐことで精一杯です」

 

 …綾波にもこの状況を覆すのは難しいようだ。であれば…考えはないわけではない。

 拓人は綾波の耳元で、自身の考えを呟いた。

 

「望月からもらったこの「艦鉱石」で、不知火たちを元に戻せると思うんだ」

「…あの廃坑で望月さんがやられた、青い光の鉱石ですね?」

「そう、だけどこうも隙がないと何も出来ないし、先ずは…」

「私が彼女たちの足止め、司令官が頃合いを見計らって艦鉱石の光を二人に浴びせる。…ですね?」

「うん、二人が元に戻れば形成はこっちに傾くと思うんだ」

「はい、承知しております」

 

 流石にもう言葉少なでも理解出来たものだ、拓人は満足そうに笑うと、早速綾波に不知火たちの足止めを改めてお願いした。

 

「了承、しかし長くは持たないかと。出来て一分ぐらいでしょうか?」

「構わないよ、僕は横槍がないように研究員を見張っておくから………っ?」

 

 不知火たちを元に戻す算段を話し合う拓人らだったが、その時「不可思議な現象」が起こる。

 

「……ぃつ!?」

 

 突如、拓人の頭の中に鈍い痛みと激しい耳鳴りが起こる。それと同時にある「映像」が流れて来た。

 

 

 

 

 

『──……綾波ぃーーーっ!!!』

 

 

 

 

 脳内に再生された電磁砂嵐(スノーノイズ)、その隙間から垣間見えたのは、ナニモノかの一撃に倒れ伏す綾波の姿、そして…後悔を叫ぶ愚者の声が。

 

 

 

 

 

「──な、んだ…?」

「司令官?」

 

 脳内キャパシティの限界で、拓人はふらふらと倒れそうになる。後ろの綾波は心配そうに振り返った。

 …今の光景は何だったのか、ともかく気にしている暇はない…拓人は内心思い悩みながらも直ぐに攻めに転じた。

 

「……っ、時間がない。綾波、先ずは二人の注意を逸らして、タイミングを見て僕が例の光を浴びせるから!」

「司令官…あまり私から離れぬように、良いですね?」

「分かってるよ! でも早く行動しないと」

「…了承」

 

 そう短く言葉を交わし、一抹の不安を残した綾波は波を掻き分け前に出る。

 不知火の剣戟やウォースパイトの砲撃を、綾波は類稀なる斧捌きで防いでいく。一進一退、ギリギリの攻防、肌を掠める剣閃とそこかしこに撃ち立てられる水柱がそれを示すようだった。

 騎士二人が綾波に目が向いている。…そろそろか? と拓人は頃合いを計って艦鉱石に手を掛けた…が、ここで不測の事態。

 

「…っ! 研究員が居ない…どこに……っ!?」

 

 少し目が離れていた隙にか、研究員…白き姫の姿が何処へと姿を消していた。

 急いで辺りに目を凝らす。脳内であの砂嵐混じりの映像が反芻される、焦りが拓人の目を曇らせた…。

 

『…ハアァ!!』

 

 叫び声、耳を劈く音が響いた瞬間…彼の身体は自然に「防御態勢」に入っていた。

 身を捻り背後の斬撃に対し盾を構える拓人。重い鉄がぶつかり合う音が身体に直に響いた。

 

『…矢張り君は楽観視し過ぎているな?』

 

 大剣と盾を鍔迫り合うように押し合いながら、白き姫は拓人に対し苦言を呈した。

 

「…っ、うる、っさい…!」

『フン、まぁ良い。これで…"チェックメイト"だ』

「なに…っ!?」

 

 まさか、と拓人が改めて辺りを見回すと…白き姫の艤装、蛇型の怪物は遠くから標的に狙いを定め、今まさに砲撃を加えようとしていた。目標は…"綾波"。

 

「しまったっ!?」

 

 綾波はまだ気づいていない、死角からの遠距離射撃…爆音が鳴り響く、無情にも賽は投げられた。

 

「避けて、綾波…綾波ーっ!」

 

 拓人が呼びかけるも、綾波は艦娘騎士二人の猛攻に手一杯でありその声が届くことはなかった…。

 

『無駄だ、この距離では避けられない。もう彼女は助からないだろう…さて、君にも変えられない運命は、果たしてあるのかな…? ククク』

 

 薄笑いを浮かべる白き姫、綾波の背後に迫る凶弾、その全てが…拓人を絶望に駆り立てた。

 

「綾波ぃーーーっ!!!」

 

 脳裏に浮かぶ光景は、無情な運命となり…今まさに"着弾"した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──カチッ

 

「…え?」

 

 だがその瞬間、世界は「凍結」した。

 

 拓人が辺りを見回すと、どういうわけか風景が「停止した」ように動かず、敵の砲撃は綾波の手前で止まり、拓人以外のモノたちもまるで微動だにしていない。

 

「どういうことだ…世界が…急に……?」

 

 まさかの展開に困惑する拓人であったが、そんな中で響く「音」がする。…頭の中に直接響くような…そんな「言葉(おと)」が。

 

 

─ ここは、運命の分かれ道。 その狭間…。 ─

 

 

「…っ、何だ…?」

 

 キィン、と響いた音を、拓人は言葉として知覚していた。

 …妖精さんか? と拓人はこの場に居ない、こんな芸当が出来る唯一の存在を思い浮かべたが、彼の直感がその可能性を「否定していた」。正確には「そうであってそうでない」(自分でも何を言っているのか分からないが)のだが、これは妖精さんと初めて出会ったあの白い空間に居る時に感じた”疑似的な浮遊感”を感じているから。

 …しかしてこの空間に呼び寄せたナニモノかは、妖精さんとは違う…とほぼ勘でしかない確信めいた第六感が拓人にはあった。

 不思議な感覚に包まれながら、拓人はその音に耳を傾ける。

 

 

─ この後、彼女は沈む。 ─

 

 

「…っ! そんな…っ」

 

 

― 君が気負う必要はない。これは…運命だから。―

 

 

「…運命?」

 

 

― 終わるはずだった戦争を長引かせたのも。―

 

 

― 秩序を守るためと、多くの命を犠牲にしたことも。―

 

 

― "艦娘"という兵器カテゴリー、それだけで彼女たちは、最初からこうなる運命だった。―

 

 

「…自業自得、って言いたいのか?」

 

 その言葉の意図を理解し、拓人は己の腹の底から怒りが徐々に湧いてくることに気がついた。音は尚も鳴り響く。

 

 

― 因果応報…どんなに変えようと頑張ったところで、"終わり"は変えられない。―

 

 

― 彼女の死も、彼女たちの末路も。全ては「戦争の大罪人」として収束する。―

 

 

 これは変えられない運命、如何に特異点の力であろうとも変えられないものがある。…この音の主はそう言っているように感じた。

 

 

「…そんなの……っ」

 

 

― 納得いかない? ―

 

 

 その問いかけに、拓人は力強く頷いて肯定した。

 

 …暫しの沈黙の後、音は再び語りかけた。

 

 

― もし、その彼女たちの運命を変えられる「たった一つの方法」があるとしたら? ―

 

 

「…っ!」

 

 

― もし…何を犠牲にすることになろうとも、彼女たちの運命を変えることが出来るなら…その代償が例え「自分」であろうとも。 ―

 

 

 音の主が提案した、悪魔の囁きにも似た誘惑。しかし…拓人にとっては、そんなことは最早些細なことである。

 

「…教えて。僕はもう…失うことは嫌なんだ…っ」

 

 拓人の言葉が終わると同時に、艦娘たちのアンダーカルマが表示されたIPが出現する。…ただ、書いてある内容はいつもと違う。

 

「…これは?」

 

 IPには「A・B・E(アンチ・バタフライ・エフェクト)」と書いてある。名前の下には「承認しますか?」の文字、その更に下に「Yes/No」のコマンド選択が表示されている。

 

 

― それは、時間の流れの影響で歪んでしまった運命を、君の思うとおりに修正出来る力 ―

 

 

「っ! 僕の…思うとおりに?」

 

 

― そう…特異点である君にしか扱えない力… ―

 

 

 その言葉に、拓人の口角は自然と上がっていく。

 今まで特異点の能力には、艦娘たちとの絆を紡ぐことや改二改装の権限などが示唆されていたが…なるほどこれは、正に「神にも等しい力」。

 この力があれば、綾波たちを救ってやれる。そう確信した拓人であったが…?

 

 

― 気をつけて。それは諸刃の剣…。 ―

 

 

 意味深なことを呟いた(鳴らした)空間の主人。ハッとする拓人を他所に、警告音は鳴り響く。

 

 

― 運命を変えるその効果には制限がある…三回、君が今の運命を修正したら「二回」になるかな? とにかく、それらを全て使い果たしてしまえば…。 ―

 

 

「…どうなるの?」

 

 

 拓人の不安の色が出た言葉だが、音は淡々と事実を告げる。

 

 

― 君の特異点としての"権能"が消失する。 ―

 

 

「…え?」

 

 

― 今までは、何でも君の思う通りに動いていただろう? …それがなくなる。君は艦娘たちを改装出来なくなるし、世界も変えられない。君の"命"も危うくなる。 ―

 

 

― 絶対の安静がない…君はただの「ニンゲン」として、戦場を生き残らなければならない。 ―

 

 

 この戦いで拓人は、何度も命の危機に晒されていた。

 

 

 

 スキュラに襲われたあの時も。

 

 

 廃鉱で黒幕と対峙したあの時も。

 

 

 セイレーンと戦ったあの時も。

 

 

 

 どれもが「都合よく」助けが入る、ないし直前で助かるなどの幸運に恵まれ大事には至っていない。…まるで誰かが拓人を「死なせまい」とするように。

 

 もし…それが特異点の能力ゆえ、だとしたら…?

 

「…でも、それで綾波は助かるんだね?」

 

 拓人は静かに目を瞑り、しばらくして意を決した様子で空間の主人に語りかけた。

 

 

― …良いんだね? ―

 

 

「…うん」

 

 多くの弁論はいらない。ただ…自分が為すべきことを成すまで…。

 

 拓人は短い言葉に、自分なりの決意を込めて…IPの「Yes」ボタンを押す。

 

 …承認完了。

 

 IPにそう表示され、その下に「残り2回」と記されている。

 

 

― 忘れないで…それが無くなれば……"奇跡は二度と起こらない"。 ―

 

 

 その言葉を最後に音は鳴ることはなく、辺りの風景も歪み始めた…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「…っ!?」

 

 気づいた時には、拓人は白き姫と剣と盾による鍔迫り合いをしていた。

 

『…矢張り君は楽観視し過ぎているな?』

「え…(まさか…!)」

 

 聞き覚えのある台詞、拓人が振り返ると…綾波はボロボロになりながらも健在であった。…その向こうに白蛇の怪物が、その砲塔を綾波に向けていた。

 

「時間が…巻き戻った……?」

『何…今何と言った? …まさか君は!?』

 

 言うや否や、鍔迫り合いを押し退け拓人は綾波に向かって走り出し、大声で彼女の名前を叫んだ。

 

「綾波ぃーーーっ!!!」

 

 鼓膜が張り裂けんばかりの大声、彼女を"シ"の運命から救うため必死で叫ぶ。その一分一秒の行動が…綾波の命運を分けた。

 

「っ、司令官…?」

 

 "先程"と違い拓人の声に気づいた綾波。拓人の形相を見て、何が起こったのか一瞬で理解する。

 

「…っ、はあぁ!!」

 

 振り向きざまに背後に向かって戦斧の横薙ぎ一閃、綾波のイノチを奪おうとした凶弾は…直前で爆発四散した。

 

「やった…!」

 

 綾波が健在であることを確認した拓人は、湧き上がる喜びを言葉にした。…しかし。

 

『くっ、特異点…"アレ"を使ったのか…そうまでして…世界を破滅に導くのかぁ!!』

 

 白き姫は憤慨した形相で、瞬時に拓人との間合いを詰めると…その大剣を振り下ろした。拓人も振り向き反応するが対応が間に合わない…!

 

『あ"あああぁっ!!』

「…っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ザシュ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 綾波が救われた…そう思い込んでいた拓人の目の前に広がる…無慈悲な光景。

 

「……か、はっ…」

 

 拓人に大剣が、断頭台の刃の如く迫り来る瞬間…間を割って入っていた「綾波」…。

 大の字となり自ら拓人を守らんとする"肉盾"になる。鎧を貫通し左肩から腹部にかけ、赤々と染まった大きな傷跡。…致命傷は免れない。

 

 

― 因果応報…どんなに変えようと頑張ったところで、"終わり"は変えられない。 ―

 

 

 拓人の頭の中で、そんな言葉が反芻していた…。

 

「そ、そんな…っ!」

『……っ』

 

 拓人も、白き姫もまた「望んだことではない」と語る苦い表情。

 白き姫がそのまま剣を引き抜くと、一人の騎士はその場に崩れ落ちた。

 

「綾波っ!!」

 

 海面に倒れた綾波をすぐさま抱き起す。半身が沈みかけており、呼吸もか細くなっている。…風前の灯火である。

 

「………し、れい…かん。ご…無事、ですか…?」

 

 自らのイノチが尽きようとしていようとも、彼女は主君の安否を気にかけていた。…騎士の鑑であると同時に、優しきココロの持ち主の綾波。

 

「…っ、ごめん…僕は……君を助けたかったのに…こんなことに…っ!!」

 

 運命を変えてまで、彼女を救ったと思っていた自分の詰めの甘さを後悔する。…何が特異点だ、何も出来なければ意味がない。そう悔しさが込み上げる。

 

「良いのです。…私は…貴方が無事で何よりだと…心からそう思えます。私は…今度こそ守ることが出来た、それが何より嬉しいのです」

「綾波…」

 

 虚ろな眼を向け、今にも消えそうな小さく掠れた声で拓人の無事を喜んだ綾波。

 そんなむしろ"報われた"ような笑みを浮かべる彼女に…拓人は己の不甲斐なさを恥じた。

 

「ごめん…綾波、本当に……ごめん」

 

 溢れ出る涙を流しながら、彼女を力強く抱きしめる。イノチの鼓動が…徐々にじょじょに小さくなっていくのを感じる。

 

「司令官…こんな私のために、泣いて下さるのですね。…本当に、お優しい…そんな貴方を、守れて…よかった」

「…っ」

「司令官…"愛しております"。どうか…武運長久を……」

 

 それだけ言い終えると、綾波は静かに目を閉じて、その生涯に幕を下ろそうとした。

 

「…嫌だ、もう……こんな、こんな……っ」

 

 絶望が、拓人の心を支配しようとした…その時。

 

 

 

 

 

 

 

──『好感度上昇値、最大値到達確認』

 

 

 

 

 

『…()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 

 

 

 

 

 

― おめでとう、君の力により彼女は愛を告げた(すくわれた)。 ―

 

 

「…っ!」

 

 

― さあ、進むんだ。限られた奇跡の力で…君の思い描く未来まで…! ―

 

 

「…うん!」

 

 天より垂らされた希望の糸は、果たして彼らを地獄より救うのか…?

 又も不思議な感覚に包まれながら、拓人は目の前のIPの「改二改装」を承諾した…。


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