艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──浮いている。
ただ、暗闇の中で感覚だけが感じ取れた。
…手を動かす、指先の感覚がない。
足を動かす、まるで下半分が失くなったよう。
瞼を開こう…重い、矢張りこじ開けるだけの力も無い。
…そうか、この感覚が──ココロすら消えてしまいそうな──これが「沈む」ということなのか。
──そうか。
自然と、後悔などはなかった。
私は「守り抜いた」。例えそれが道半ばでも…自身の全力を尽くし、今度こそ「最愛のヒト」を守れた。今の私は…それだけで充分満たされていた。
──あぁ、眠い。
五感を失い、終に意識までも…闇に融けようとしていた。
私…今度こそ……守れましたか? だ、ん……ぅ……。
──綾波。
・・・・・
「…?」
次に綾波が目覚めたのは、彼女にとって懐かしい城内の宿舎…その食堂だった。
煉瓦造りの空間、木製の長テーブルと丸椅子、奥には厨房が見える。…ここで同胞たちとよく食事を共にした。彼女の中に温かい思いが灯る。
しかしどこか背景全体に朧げな光があり、それが綾波に「ここが夢現の世界」であることを認識させた。
「…っ!」
そして、彼女がここを現実ではないと知覚させた一番の原因。
──団長。
綾波がそう呟くと、団長と呼ばれた人物は木製の椅子からゆっくりと立ち上がる。…体はやはり淡い光に包まれており、しかしてその柔らかな笑みは、確りと綾波を見つめていた。
「団長…!」
綾波が駆け寄ろうとする。小走りで近づく彼女に…が、そんな彼女を手のひらを前に突き出し静止を促す団長。
その意思を汲み取り動きを止めると、団長はその笑みを絶やすことなく無言で首を横に振る。
「…何故ですか?」
その問いに答える声はなかった。ただ腕を降ろし自然な笑みを浮かべる”彼女”がいるだけ…。
──こっちに来てはいけない。
まるでそう言われているように感じた。しかし…綾波はその真意を理解出来ずにいた。
「私にはもう…向こうでやり残したことはありません。貴女を見つけることこそ叶いませんでしたが…それでも、私自身の使命は果たしたつもりです」
その答えに、団長は悲しそうになりながら綾波を見つめた…今度は「本当にそう?」と言わんばかりだった。
「…っ、本当に…でも…私は……」
自分自身に疑念がある──本当に後悔がないのか──綾波の脳裏に浮かぶ、あどけない笑顔を浮かべる一人の男性…。
「………司令官」
彼は果たして、あの場を切り抜けただろうか。
確か金剛たちが拠点で控えていたはず…彼女か、もしくは鎮守府の舞風たちが、窮地に駆けつけて彼を守ってくれる…はず。
はず…だがもしそうではなかったら?
「…っ!」
その時、急速に湧き上がる感情に綾波は驚きを隠せない。
──焦燥──
彼のことを思い…憂い…すぐにでも馳せ参じたい気持ち…"親愛"。
…いや、もっと深いものだ。こんな気持ちは初めてかもしれない。もしも彼の身に何かあればと、胸が焼き切れそうになる。
「…そうか、私は…あの人を「守りたい」んだ。…他の誰でもない、あの御方を」
そう自分の気持ちを呟いてみる。すると…いつの間に近づいたのか、彼女の団長が綾波の目の前で…手を広げ、そのまま包み込むように手を背中に回す。
「…っ、団長…?」
在りし日のあの日を想起させる、団長は綾波を優しく抱き締めた。
大丈夫、自分はいつでもこの場所に居る。…そう言ってくれているかのように。
「………っ、団長…ありがとうございます、それから──」
──行って来ます…!
返る言葉は無かった…それでも彼女には確りと聞こえた。
──行ってらっしゃい。
・・・・・
『…何が、起こった…?』
白き姫は、目の前で起こる事象を理性的認識が出来ずにいた。
それは、先ほど自身の不手際でそのイノチを終わらせたモノ…それが何事もなかったかのように、悠然と海面に立っていたのだ。
一瞬、眩い閃光が辺りを白く塗り潰す…かと思えば、いつの間にか彼女…綾波は──自分がつけた斬り傷も無くなり──ダメージが完治している様子だった。
まるで白昼夢だ、しかもどこか纏う雰囲気も引き締り、細かいデザイン等も変わった気がする。
「綾波…」
拓人はこの事象が何であるか理解している。…「改二」彼女は自身の強さの限界を超えたのだ。
鎧は重量感がなくなり、シャープで動きやすい格好となる、斧も新調し更に刃身が一回り大きくなっている。
より特徴的なものは、彼女の頭に結われたサイドテール。改装前は胸元に届くぐらいの長さだったが、足元にかかるぐらいの長さに成長している。
「これが…この世界の…綾波"改二"…っ!」
『ッ、これが…カイニ。…成る程、確かに厄介だな…っ!』
白き姫も改二を「協力者」から伝え聞いていた。あの選ばれし艦娘と同等のスペックに強化される…と、つまりは目の前の彼女は白き姫にとって「難敵」と化したのだ。
『ならば…やるしかないっ!』
決断は早く、多少の迷いを掻き消すように雄叫びを上げ直進する。…狙うは今度こそ綾波の首。
『これも世界のため…ぅうおおおっ!』
振り上げた大剣を、力任せに斬り下ろした…しかし。
『…っ、何だ…?』
──それは、まるで時が止まったよう。
大剣が綾波に迫る手前、何故か「そこから動かない」…瞬間、急激に「押し潰される感覚」に襲われた。
『ぐぁっ!?』
白き姫は綾波に斬りかかろうとしたが、その凶刃は彼女の身体を逸れて海面に下りた。
まるで身体が鉛のように動かず、大剣も持ち上げようとするもビクともしない。…白き姫にとって不可思議な現象だった。
『ックソ、身体が…っ!』
その時、白き姫は綾波の手の平に異常を見取った。
──ブゥン
綾波の手のひらに収束する球状のエネルギー体…黒い膜に圧縮された空気は、そこから見える景色を歪んで見せた。
「…っふ!」
そして綾波は…徐にそのエネルギー体を白き姫の腹部に「押し当てた」。
『ッガァ!?』
押す力そのものは大したことはない、しかし…エネルギー体が腹部に触れた瞬間、体の内部が「押し潰される」感覚に陥る。
『(まさか…これは…「重力」…!?)』
白き姫は瞬時に理解する。
それは、綾波の生成したエネルギーは「重力により固められた空気」だと。
空間ごと押し固められたそれは、白き姫の腹部に当たる刹那──弾ける──
──パァン!!
『っぐああぁぁぁ……っ!?』
まるで強風に吹き飛ばされた…いや「鉄塊を全身に打たれた」ような衝撃、そのまま遙か後方へ跳ね飛んだ。
海面に打ちつけられ、余剰威力による荒い回転が白き姫の身体を巻き込む…そのまま漸く着水。
『…プハァ!? なんだこれは…こんなもの…手がつけられない…っ!』
海面に上がり、そのまま足をつける。
…その顔は「絶望」に色濃く染まっていた。何故なら…既に"理解"したから。
「…!」
操られた不知火が、綾波に向かって剣を向けた。バックアタックからの斬り下げ一閃、不知火の十八番だ。
…しかし綾波はその場を素早く跳躍し、瞬く間に空中へ飛ぶ…その後も空中に浮遊し続けた。重力に逆らう…でなく「彼女が重力を作った」のだ。
今度はウォースパイトが砲撃を仕掛けた。爆砲は真っ直ぐ綾波の下に…。
「…っ!」
すると綾波、先程の圧縮空気玉よろしく自身の周りに「透明なバリアー」を張る…そのバリアーに砲弾が触れた時、弾道は綾波から真逆のあらぬ方向に向いて…そのまま何もいない水面に着弾した。
『馬鹿な…強すぎる…っ。彼女は…"引力と遠心力"を操っているのか…っ!?』
重力とは、惑星の物体を引き寄せる「引力」と、惑星の自転により発生する「遠心力」からなる物理法則の総称である。
不知火の攻撃を避けたのは、彼女が自身にかかる惑星の「引力」を弱めたから、ウォースパイトの砲弾を防いだのは、砲弾にかかる「遠心力」を引き上げたから。
重力は惑星の有機、無機物関係なく物質ならどんなものにも掛かる。その重力の重軽、力の向きすら変えてしまう…綾波は文字通り「無敵の力」を手に入れた。
「…っ!」
綾波は空中で回転しながら背中の戦斧に手をかける…そして思い切り叩きつけた。
綾波の能力により、海面に過剰な引力が加わった。それにより「擬似的な激流」が形成、海原に巨大な"渦潮"が完成した。重力緩和により空中で渦潮を静かに見つめる綾波。
「こんなもの…どうすれば良いんだ…っぅあ!?」
渦潮の引力に脚を取られる白き姫、完全に「心は敗北していた」。
「…っ、まだだ…まだ終われない!」
白き姫はそのまま海中に呑まれる…同時に「彼」の意識は反転した。
・・・・・
海底深くの拠点にて、頭に取り付けられた装置を投げ捨てた研究員。
「くそっ!」
焦りが外に表れた彼は、頭を抱えて次の策を講じる。
「近づいている艦娘の一団は「ヤツ」に任せてある、先ず足止めは出来る。どうする…逃げる、か…?」
とはいえ、彼がどんなに考えを巡らせても出てくる結論は同じ。…もう逃げるしかない。
「…いや、そんなことをしても…もう逃げられない」
脳裏に浮かぶ綾波改二の縦横無尽の強さ、更に向こうには天龍改二、金剛、もしかするとまだ戦力を隠しもっているかも。…拓人に改二改装の権限がある限り、この状況は変わらない。
「………」
研究員は何かを思案し…そして「決意」する。
「ならば…私はこの場に残らなければならない…」
果たして、彼の胸中には何が思い浮かんでいるのか…?
・・・・・
拓人が目にした光景は、もはや「別次元の強さ」が成した荒野だった。
綾波の力によって発した渦潮は、白き姫を確かに呑み込み…彼女はそのまま姿を消した。…後には細波(さざなみ)立つ海原があるだけ。
「す、凄い…!」
月並みな言い方だと自負する拓人だが、こうでも言わないと状況の整理がつかないでいた。綾波は…次元の違う強さを与えられた。
ただでさえ戦闘力の高い綾波がそんな力を持ったのだ、何も恐れるものは無くなった。…そう思う拓人だったが?
「っ、司令官!」
不知火たちが拓人に砲撃を放ったようだ、いつの間にか拓人に襲いくる砲弾が見える。
叫びながら遠距離を軽々と跳躍する、拓人から離れた位置にいた綾波は、重力緩和により直ぐさま主君の危機に馳せ参じる。
「はっ!」
海面に波飛沫を立てながら着水する綾波、そのまま「遠心力バリアー」を拓人の周囲に張る。…拓人に被弾するはずだった凶弾は、弾道を曲げそのまま辺りに着弾する。
「ご、ごめん綾波…ありがとう!」
「いえ、主人(あるじ)を護ることが、騎士の務めですので」
「あはは、すっかり元どおりだね?」
「はい、ありがとう存じます司令官。貴方のおかげで…私は」
二人で短い談笑を交わすと、前方から不知火とウォースパイトが向かって来ていることが分かった。砲撃が駄目ならと近距離戦で仕掛ける様子。
「っ、綾波…二人が来てる、態勢を整えないと!」
拓人が綾波に現状を伝えるも、二人を見据えて微動だにしない綾波。
「…綾波、どうしたの?」
「もう少し…ここか?」
二人との距離が間近に迫ったその時、綾波は不意に手を翳す。
「…っ!?」
ブゥン、と鈍い音を立てて重力で固められたエネルギー体が出来上がる。二人はそのエネルギー体に押し包まれ、身動きが取れないでいるようだった。
「司令官、お早く」
「…っえ、わ、分かった!」
拓人がそう言うや否や、懐から「艦鉱石」を取り出す。
蒼い海の光はその場を優しく包み込むと…不知火たちのコアから邪気が消えて、そのまま粉々に砕け散った。
ここで拓人は思い至る。どうやら綾波は「近距離」でないとその力を他者に行使出来ないようだ。自分の下にわざわざ跳んで来たのも、不知火たちとの距離を詰めたのも、そういう理由だろう。…一応の「デメリット」だろうが、綾波は元々近接型なのでさしたる問題はないだろう。
「…やった?」
「恐らくは…」
あっけない幕切れだが先ほどの激戦を考えれば、漸く峠を越えた。そう安堵する二人だが…呪縛から解放された不知火が力なく倒れ伏せようとしていた。
「…っ」
綾波はそれを見るとさっと前に出て…不知火を抱き抱える。
「……ん?」
どうやら不知火の目が覚めたようだ、綾波の肩にぐったりと寄りかかる顔を綾波に向ける。
「お前は……そうか…助けてくれたんだな?」
不知火の問いに、綾波は何も言わずにただ頷いた。
「……本当は分かっていた。あの日の出来事は…お前のせいではないと。だが…団長の最期を看取ったお前が、私は羨ましかっただけなのかもしれない」
「……うん」
綾波は柔らかな笑みを浮かべる。「そんなこと、もう気にしていない」そう雄弁に語るその温かな顔に、不知火は心底安心した表情を作る。
「許してくれるのか? …すまなかったな。私の…誤ちを…許して…くれ…て…あ、り……ぅ」
安心しきった顔で不知火は綾波に身を任せ、そのまま意識を手放した。
「……良かった。…あやな……み…」
「おっと…!」
ウォースパイトも海面に倒れ込む直前、拓人がその肩を貸す。そのままウォースパイトは拓人の肩にもたれ掛かる形になる。
「…良かったね、綾波」
「司令官…何もかも、司令官のおかげです。本当に…ありがとうございました」
「良いんだよ。仲間のためだもん、このくらい大したことじゃないよ?」
そう(自分でも歯が浮くような)照れくさい台詞を言う拓人に対し…綾波は「今まで見せたことがないような」艶っぽい表情と悪戯っぽい笑みを浮かべて言葉を返す。
「私は…”それ以上”の関係でも…問題ありませんよ?」
その「分かってて言っているであろう」問題発言に、拓人は仰天した。
「ちょ!? 綾波…天龍みたいなこと言わないでよ。君が言うと…冗談に聞こえないっていうか」
「勿論、「半分」冗談ですよ。…ふふっ、困った顔の司令官って可愛いですね♪」
「…君ってそんな性格だったっけ?」
「さぁ、どうでしょうか?」
微笑みながら拓人の問いかけをはぐらかし答えた綾波。
機械的で素はどこか切羽詰まっていた改装前と比べ、性格が大人びていて態度にも余裕が表れている。
おそらく改二改装の影響だろうと拓人は予測する、実際原作でも性格や容姿が(成長という意味を込めてか)がらりと変わるという娘も少なくない。
「(原作でもここまで変わりはしなかったんだけど…でも、まぁ…)」
見ていて胸が締め付けられるような、悲壮感漂う「前」と比べると…今の綾波の方が好ましく思う。見事過去を断ち切った彼女を…微笑ましく思う拓人であった。
「…さぁて、先ずは不知火たちを近くの島のほとりで休ませよう。それから…天龍たちに追いつければいいんだけど」
「了承、私もそれが良いと思います。…参りましょう、姫を倒したとはいえ…研究員を捕まえたワケではありません」
不知火とウォースパイトを人気のない島に休ませた後、拓人たちは研究員を追う天龍たちに合流する算段を取る。果たして彼女たちは無事研究員を追い詰めたのか…そう思案しながらその場を去ろうとする。
──ザパァ!
「…っ!?」
突如、綾波の足首を掴む白い手が…!
「綾波!?」
綾波を心配する拓人、その時…海中から謎の人影が姿を現す。
『──…ヤ、ァミ……ッ!』
そこに居たのは…”白き姫”。
あれだけの激流に呑まれてもまだ戦う余力があったのか…綾波の足首から手を離し、遂に海上に姿を現した白き姫。手には得物の大剣を確りと構えて、臨戦態勢だった。
『…ア、ヤナミ……シラヌイ……ウォス……!』
「…?」
しかし綾波は訝しむ表情で白き姫を見つめる。先ほどと比べて「違和感がある」…そう思わせる雰囲気があった。
──そして…綾波はそれの「確証」に至る。
「団、長…?」
綾波の能力描写、自分でも書いてて訳が分からなくなった(重力って何だっけ…?)感じですが、深く考えないようにお願いしましゅ!(精一杯の可愛いアピール)